著者
山口 直也
出版者
山梨学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、普遍的に採択されて国際人権基準として重要な意味を持っている「国連子どもの権利条約」(=子どもの人権論)の観点から少年司法手続におけるデュー・プロセスの保障を明らかにした。まず、デュー・プロセスの保障を検討する前提作業として、子どもの人権が、憲法上および国際人権法上、どのような意味を有しているのかを分析した。その結果、子どもは大人とは違って精神的にも肉体的にも成長発達の途上にあるということは誰もが認める疑いのない事実であり、その子どもが、人間として、個人として尊重されるということを当然の前提として、子どもが未成熟な子どもとして尊重され、成長発達していく権利(=子どもの成長発達権)を固有に保障されていることを明らかにした。そのうえで、そのような子どもの成長発達権を根拠にした少年司法におけるデュー・プロセスの保障の目的は、権利条約が成立した今日的状況に鑑みると、人間としてかつ子どもとしての尊厳を認める形で扱われることで、自己の人間としての成長を成し遂げて、将来、社会の中で建設的な役割を担うことができるようにすることにある。そしてその方式は、あらゆる段階での子どもの主体的な手続参加を確保して、自由に意見を述べることができる環境を提供すると同時に、流山最高裁決定で団藤補足意見が指摘したように、子ども自身が手続に参加したことで納得できるものでなければならないということを明らかにした。最終的に本研究では、子どもの成長発達権の観点から見た少年司法手続における適正手続の保障が重要であると結論づけている。特に、少年が、自分のために援助をしてくれる弁護人(=付添人)および親・保護者との健全な人間関係(=成長発達権を否定しない人間関係)の中においてこそ、少年自らの司法手続参加および意見表明が可能になると主張した。そしてその手続参加(=意見表明)は、権利保障および権利放棄における自己決定を認める「小さな大人」論を認めるものではなく、関係論的子どもの成長発達権に支えられたものであることを明らかにした。
著者
森際 康友
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

この研究の目的は、法科大学院における授業科目としての「法曹倫理」を支える理論的な基盤を打ち固めることにあった。法曹養成機関における法曹倫理教育についてのイギリス・フランス・ドイツ・アメリカ・中国などの取り組みを調査し、それぞれの特徴をその背景にある歴史と法理論との関係で明確にした。すなわち、立法府中心の法体制と思想によって運営されているフランスと司法府を重視したアメリカとを両極におき、ドイツ、イギリスなどをその中間に属するものと位置づけ、司法府を担う法曹に要請されるエートスとその実現を促進・担保する諸制度を取り上げ、それらを運用するためのいわばソフトウェアとして、そこでの倫理規定や原理を解釈した。研究期間の3年で上記5カ国とわが国の法曹倫理教育の現状把握を行った。とくに、司法府の役割が国際的にますます注目されつつ現在、公的イデオロギーとは別に、法曹倫理教育現場では実質的にどのようなエートスが法曹に要請されているかを、日本に焦点を当てつつ見極めるよう努めた。ここ得られた成果を、実践面そして理論の面で活用した。まず実践面では、法科大学院におけるカリキュラム策定作業の中で成果を活かした。配当年次の決定について、各国の比較を行うことなどにより長短を検討し、名古屋大学法科大学院では第三年次後期とした。第2に、私が主催する、地域の法科大学院での法曹倫理担当者および法曹倫理に関心を持つ実務家・研究者からなる愛知法曹倫理研究会での研究活動を軸にして、わが国法科大学院における標準的法曹倫理教育のモデル教育内容を提示すべく、教科書編纂に励んだ。その成果は、名古屋大学出版会より『法曹の倫理』として近刊の予定である。また、法科大学院における法曹倫理の教育方法の開発にも力を注ぎ、その成果は、16年12月、「法曹倫理教育の理念と課題」シンポジウムにおいて発表した。その理念として、実務の場で尊敬を呼ぶ法曹像の確立とその教育的実現、その課題として、理論的基礎の充実、国際的視野の確立、そして現場の葛藤が伝わる教育手法の開発、が提起された。また、実務家と研究者の協働がなければ、法曹倫理学の樹立とそれに基づく教育方法の確立は困難であることが強調され、地域およびインターネットを利用した全国的ネットワークの確立の必要性が浮彫となった。理論面では、弁護士倫理について、多面的な考察ができ、その成果は教科書に盛り込まれた。また、裁判官倫理研究の面で大きな進展があった。同じ16年12月、ドイツの裁判官アカデミーでの講演が好意的に受け入れられた。法曹倫理の要は、よい法解釈が提供できる法曹が持続的に社会に供給されること、という観点からドイツの法曹史と日本のそれとの比較などを行い、「法の欠缺は存在しない、あるのは法律の欠缺だけである」とのテーゼを展開したものである。こういった研究成果のわが国への還元に取り組みたい。
著者
西田 育弘
出版者
香川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

プロジェクト1.神経一体液中枢性統合機構による長期調節 脳室周囲機関の一つであるArea Postrema(最後野)が持つ神経一体液統合機構により、長期に血圧調節を行う機能があるかどうかを調べるために、Area Postrema除去ウサギ群(APX群、n=8)およびシャム手術ウサギ群(INT群、n=7)にバゾプレッシン(0.25ng/kg/min)を5日間投与した。投与前5日間から投与後3日間までの13日間、代謝ケージにて水分およびナトリュウム(Na)バランスや、体重、血漿Na濃度、血漿浸透圧、ヘマトクリット、血圧、心拍敷を測定した。結果1.代謝ケージによるバランス実験では、INT群に水分貯留が観られ、APX群ではそれが観られなかった。血漿Na濃度、血漿浸透圧、ヘマトクリットは、INT群で水血症を、APX群で正常を示した。結果2.平均血圧は、両群間に差はみられなかった。心拍数は、INT群では低下し、APX群では変化しなかった。結果3血中バゾプレッシン濃度は、AVP投与前、投与中、投与後のいずれも両群間に差がなかった。結果4.脳幹部の形態学的検討により、APX群では最後野のみが破壊されており、周囲の破壊は最小限度であった。<結論> Area Postremaを介する、バゾプレッシンによる神経ホルモン統合機能は、長期的にも、水分代謝、Na嗜好性に影響を及ぼしており、さらに循環系でも心拍数に影響を与えている。しかし、血圧にはその影響力は少なく、他の血圧調節機構により代償されてしまう程度である。プロジェクト2.動脈圧受容器反射系による中枢性統長期調節 動脈圧受容器反射系は長期血圧調節に関与しないという概念に挑戦するために、24時間血圧測定システムを確立し、動脈庄受容器除神経群(SAD群)と動脈圧受容器正常群(lNT群)の24時間血圧を比較した。結果1.24時間血圧測定システムが確立した。結果2.安静時血圧の最頻値は両群間に差はみられなかったが、体動時血圧の最頻値はlNT群の方がSAD群より高値を示した。<結論>体動時は、中枢性神経が動脈圧受容器反射系を介して、血圧調節を行っている可能性が示された。
著者
飯高 茂 水谷 明 藤原 大輔 中島 匠一 岡部 恒治 川崎 徹郎
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究においては主に高校数学の数学教育のあり方を様々な面から研究した。平成13年度から15年度まで9月と1月に数学教育の研究会「数学教育の会-夏の集会、冬の集会」を開催し、大学、高校、教育行政、学会など幅広い数学教育関係者が70名前後集まり、論文の発表と討論を行った。具体的事項を挙げる。1 新しい学習指導要領での新科目「数学基礎」について、その構成、具体的な素材の展開などが研究会でくり返し発表され議論された。その結果は「数学教育研究数学教育の会編集」に詳しく発表され実際の教育現場で活用された。2 研究代表者は、高等学校数学の科目「数学C」で学習される「いろいろな曲線」の内容をさらに研究し、専門的な数学の立場に立った研究書「平面曲線の幾何」他を出版し研究成果を公表した。3 高校から大学の数学教育の中心は微積分であるが、その社会での有用性の研究を行った。4 学力向上のためには数学的活動の活発化が大切で、そのための様々な素材や方法が研究された。また、簡単な内容でも数学的に深い研究ができる例が発表された。5 数学の勉強を日常化するのに有効な方法として、携帯型ゲーム機にグラフ電卓の機能を付加して生徒がゲーム感覚の延長で数学を視覚的に捉えるここを可能にするソフトを開発した。これを用いて関数のグラフを身近なものとし、数学力を確かにつけることが期待できる。6 これらの研究成果を「数学教育研究数学教育の会編集」にまとめ2002年1月、2003年1月、2004年1月に出版し、各方面に配布した。また、数学的活動の例示集「数学教育研究番外編コンピュータを用いた数学的活動数学教育の会編集」を2002年2月に出版した。
著者
しゃ 錦華 橋本 洋志
出版者
東京工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は, 高齢者が楽しく行動すると共に自然に運動能力が維持・増進できることを目指し, トレーニング機能を備えた電動車の制御システムを設計することを目的に進めてきた.主に, 人間操作感覚のモデル化, 日本人高齢者の特徴を加味した最大ペダリング負荷の決定法, およびこれらに基づく負荷オートチューリング手法の開発, 路面摩擦などの影響に対する安全確保のための等価入力外乱手法の提案, 高性能電動車制御システムを目指すためのロバスト制御理論の開発などの面において, 様々な研究成果が得られた.
著者
井村 徹也
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

成体脳における神経新生はGFAP陽性神経幹細胞によって行われている。海馬歯状回においてGFAP陽性神経幹細胞により生成される顆粒細胞の性質・動態を、老化・ストレス感受性に着目して解析を行った。マウスGFAP陽性神経幹細胞により生成されるニューロンの全顆粒細胞層に占める割合は、若年期に大きく増えその後老齢期にかけて微増していたが、空間的部位・性別によって違いがみられた。また、新生ニューロンはストレスに脆弱であったが、このストレス感受性には分化段階で臨界期がみられた。さらに歯状回顆粒細胞層の分子発現網羅解析を行い、成体生成ニューロンの特性に関わる幾つかの新規候補分子を見出した。
著者
前原 かおる 増田 真理子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,非漢字圏漢字学習者が,「漢字」と「学習者」それぞれの要因の特性にかかわらず効果的に漢字学習ができるための内容・方法の開発を行った。具体的には(1)音声付のタスクを含むオンライン型漢字学習教材「Step Up Kanji-500」の開発,(2)漢字の体系(字源,字形パターン,漢語の語構成,など)に関する学習教材の開発,(3)(1)(2)を活用した教室活動を行うための補助教材の整備と実践を行った。これらにより,学習段階,認知スタイル,学習スタイル等の異なる非漢字圏学習者からなるコース運営がより効率的に実現できるようになったほか,漢字圏学習者に対する教育内容の改善にも及んだ。
著者
白木 公康
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

単純ヘルペスウイルスの母子感染例から、母子のウイルスの温度感受性と細胞トロピズムに差異を見出したので、その解析を行い、遺伝子変異を見出した。母子のそれぞれの株のクローンについても、同一の変異を認め、トロピズムと遺伝子変異の一致を認めた。このように、母子間で変異を生じていることから、母のウイルスが変異することで、感染が可能となる、すなわち、母子感染の障壁があると考えられた。
著者
松嶋 敏泰 平澤 茂一 平澤 茂一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では, センサネットワークを含むネットワーク分散処理の問題に対して, 多端子情報理論と統計的決定理論に基づいた基礎モデルを構築し, 構築したモデル上での最適解の導出及び最適解またはその近似解を実現するアルゴリズムを設計した.
著者
佐々木 仁 曽我 祥子 磯 博之 井上 徹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

色覚刺激が生体に及ぼす影響について、以下の、4つの実験を実施した。1)色の単純反応時間:色相、彩度、輝度を変化させた刺激を用いてヒトの単純反応時間を計測した。有彩色では赤と緑に対する反応時間が速い傾向が認められ、無彩色と有彩色の比較では、青を除いて有彩色の方が反応時間が有意に速かった。他方、彩度による反応時間の相違は認められなかった。また、SD法を用いて調べた色彩刺激の嗜好度は青が最も高く、黄が最も低く、反応時間との相関は認められなかった。以上より、色相は覚度、情動に影響することが示された。2)色の記憶:異なる色相の刺激を用い、ヒトで遅延見本を合わせ課題を行った。明所視下に標本刺激を中心窩に提示し、3秒の遅延後、同一色相で、明るさ、または彩度が異なる比較刺激を同時提示して標本選択の正答率を求めたところ、緑の正答率が高く、青では低かった。一方、比較刺激だけを提示した弁別は緑で低く、青で高かったことから、色相により記憶の困難さに相違があることが示された。3)閃光刺激が脳波に及ぼす影響:ポケモンTV放映によって入院した患者について3-20Hzの閃光刺激を提示し、脳波を解析したところ、特徴的な、α波成分の引き込み現象が観察された。色刺激に対する反応については、今後の課題である。4)色が驚愕性眼瞼反射に及ぼす影響:角膜への空気の吹き付けによって生ずる驚愕反射を記録した。空気の吹き付けに100ms先行させて、色相の異なる刺激を提示したところ、1)いずれの先行刺激も、驚愕反射の振幅を有意に減少させ、2)黄色に対する振幅は他に比べて小さかったことから、黄色は情動反応の抑制効果が高いことが示唆される。
著者
平山 直紀 大嶋 俊一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

負電荷を持つ窒素原子をLewis電子対ドナーとして用いるスルホンアミド型キレート試薬の抽出試薬としての機能解析を目的として、以下のような基礎的研究を行った。1 β-ケトエノール型キレート抽出試薬のエノール型-OH基をスルホンアミド基(-NHSO_2R)に置換した場合の効果を評価するため、2-ヒドロキシベンゾフェノンの-OH基を-NHSO_2R基に置換したところ、2価銅イオン(Cu^<2+>)の抽出能が顕著に低下した。これに対し、ケト基(=O)を=NR'基に置換した類縁体の場合には、スルホンアミド化による抽出能の増大が見られた。さらに、R'の末端に-OH基を導入すると抽出能はさらに向上した。この結果より、スルホンアミド型キレート試薬の特性は、当該部位以外のLewis電子対ドナーの選択によって大きく変化しうることが示された。2 イオン液体(IL)を抽出相として用いるILキレート抽出系における抽出試薬としてのスルホンアミド型キレート試薬の利用可能性を探索するため、8-スルホンアミドキノリン誘導体を用いた場合の2価金属イオンの抽出挙動を検討した。既存の有機溶媒を用いた場合と比較して、IL系では抽出能が増大し、この型の試薬がILキレート抽出系に有用であることが示された。また、-NHSO_2R基においてR=CF_3とした場合、サイズの小さい金属イオンでは錯形成時の立体障害に起因する抽出能の低下が見られたのに対し、かさ高い金属イオンの場合はCF_3-基とILとの親和性の効果により1:3陰イオン性錯体がイオン交換により優先的に抽出され、結果として抽出選択性に変化が現れた。すなわち、スルホンアミド型キレート試薬を用いるILキレート抽出系では、隣接置換基による選択性制御が可能であると示唆された。
著者
長谷川 憲 山元 一 大津 浩 小澤 隆一 小泉 洋一 村田 尚紀
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、冷戦終了後の国際関係が、急速な国際化現象と地域化現象の中で進展している状況の中で、国家および国際機関の役割が変化する開題について検討してきた。具体的には、国際化現象の下での憲法および公法理論の変容(政府権限の国際機関または地方機関への委譲、国際機関の民主主義的コントロールなどの問題)、国家機関と国際機関との関係の変容(国際機関、とりわけ押収人権裁判所・国際司法裁判所・国際刑事裁判所など超国家的裁判機関による政府権限のコントロールの問題、欧州委員会・欧州議会などの権限の正当性の問題)、市民生活の変容(欧州市民権・亡命権・庇護権・経済的諸権利・発展の権利・人格権など基本的人権諸領域の担手・保障手段の変化の問題)、などに関して研究を進めた。本年度の成果としては、2004年8月30日より9月4日の日程で、「公共空間における裁判権(Le pouvoir juridictionnel dans l' espace public)」をテーマとする国際シンポジウムを、工学院大学・関東学院大学・東北大学・東北学院大学で開催した。本研究グループからは、長谷川憲が「Contentieux educatifs en milieu scolaire et droits des etudiants」、大藤紀子が「Professionali-sation et《non professionnalisation》des organes juridictionnels au Japon」などの報告を行った。また、上記のシンポジウムに関して、「公共空間における裁判権」との表題で、2006年度刊行を有信堂からめざしている。また、関東学院大学でのシンポジウムは、ジュリスコンサルタス15号に掲載された。
著者
高木 達也 安永 照雄
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

非線形要因解析を行うため、従来の誤差逆伝播型ニューラルネットワークとは異なり、Ojaらが提案したHebbian学習型ニューラルネットワークを改良して、効果的な独立成分解析法のアルゴリズムを開発、プログラム化した。アルゴリズムはおおよそ以下のようである.まず、学習は、基本的にはOjaらの方法に従ったが、ただ1個の動作関数を用いたOjaらの方法とは異なり、複数(p個)の動作関数を用いたため、下式、 W_p(t+1)=W_p(t)+εxf_p(x(t)^tW_p(t))diag(sign(c_<pi>(t))) に従って、行った。ここで、εは学習率、tは学習回数であり、分散が最大となるとき(t=t^*)のωを採用することにより、分散が最大になる方向への学習が効率的に行われる。アルゴリズムをまとめると以下のようになる。(1)元のデータに対してPCAを行って得られた主成分得点行列、あるいは、成分行列を入力データとする。(2)データの標準化を行う。(3)更新式に従い、wの値を計算し、ノルムを1にするために、w(t)=W(t)/||w(t)||とおきかえる。(4)式に従って、cの値を計算する。(5)動作関数pを用いてt回学習を行ったときのc_iとc_jの符号が異なっていた割合の、全ての動作関数の割合に対する比率をr_pとし、主成分得点を計算する。(6)z_iの分散を計算し、分散最大となるt^*を求める。(7)収束するまで(3)〜(6)を繰り返す。作成されたプログラムにより、押収覚せい剤の不純物のGC-MSデータによるProfiling Analysisを行った。PCA, CATPCA, MDS, SOM、5層砂時計型ニューラルネットワークの結果と比較したところ、今回のHEPネットの結果が、国内で4つの手法で合成された既知データとの比較の結果、最も適切な結果を与えることが見出された。他の方法では、既知データが4つに分類されなかったのに対し、HEPでは座標上に適切な位置を与えることが示された。これらのことより、HEPネットが、要因解析法として適切な結果を与えることが示された。
著者
岩田 祐子
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

安定同位体組成を用いた大麻の異同識別(押収試料同士の関連性を明らかにすることを目的として、試料同士が異なるか同一かを判断する)について検討を行った。乾燥大麻中の大麻主成分について、ガスクロマトグラフ-安定同位体比質量分析装置を用いた分析方法を確立した。異なった被疑者から得られた資料同士の異同識別を行い、成分ごとの安定同位体組成を用いることにより識別することが可能となることを確認した。
著者
田甫 桂三
出版者
帝京平成大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

米国議会図書館に、国民学校期に使用された教科書が所蔵されている。それらの教科書には書き込みのある付箋等が貼られ、またMilitary Affairs、〇×等の書き込みがある。これらの書き込みから太平洋戦争後、学校で使用された墨塗り教科書原本であった可能性がある。太平洋戦争後、敗戦国日本は国民学校期の教科書を軍国主義的、国粋主義的等の理由で使用できなくなった。学校では新しい教科書が出来るまで、これまで使用した教科書に墨を塗り使用したが、それらの教科書は回収されたため日本には殆ど現存しない。墨を塗る個所を決め、指示したのはだれか、それはどのような理由によるかを解明するために、議会図書館所蔵の教科書の修正部分とその理由を複写し、議会図書館所蔵の教科書リストを作成し分析した。
著者
横手 一彦
出版者
長崎総合科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

この5年間、在米資料や国内資料の確認作業から、新資料の発掘に努めた。また、GHQ/SCAP検閲制度の枠組みを解明する作業などによって、戦後文学成立期の全体性の再構築を試みた。そのため、本課題を10領域に細分化し、これらの研究作業や論究によって、全体的な成果を獲得する研究計画とした。また日本は、一九四五年八月から五二年四月まで、他国に軍事占領されていた。敗戦期文学や被占領下の文学との視座から、実証的な手法による論考を積み重ねることに努めた。その過程で、研究計画を策定する段階において、想定していなかった意想外の進展を得た。これを、研究成果項目に列記した。
著者
長畑 明利
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、T・S・エリオットの詩と詩論を、同時代の詩人や芸術家たちが展開した「抽象」についての言説に照らし合わせて再検討し、また、彼の詩に現れる死者の声の再現の意味をその「抽象」観との関連から明らかにしようとすることであった。このため、エリオットの詩作品、評論および書簡等における「抽象」および「死」への言及を分析し、また、ニューヨーク市立図書館にて、エリオットの詩草稿に加えられたパウンド、エリオット両者の欄外書き込みを調査した。調査・分析の結果、エリオットと抽象の関係について、概略次のことが明らかになった。(1)パウンド同様、エリオットも「抽象」を批判的に見る傾向がその博士論文などに見られること。しかし、(2)エリオットの初期の詩・詩論においては、パウンドの「漢字的抽象」と通底する構成主義的な抽象観も見られること。しかし、(3)エリオットには宗教意識に根ざすと考えられる形而上世界及び死後世界への強い関心があり、これが彼の普遍主義的、もしくは有機体的・全体論的(holistic)な「統合」への関心に連結されていること。(4)その形而上世界への関心は、構成主義的抽象に対するエリオットの関心が低減した後にも維持され、彼の後期の詩と詩論の一つの核をなすこと。以上の研究結果をもとに、研究成果報告書を作成した。またエリオットとパウンドの関係について、共編著書『記憶の宿る場所--エズラ・パウンドと20世紀の詩』(思潮社)所収の論考にその一部を記述した。なお、研究成果はさらに研究論文として別途公表の予定である。今後は本研究、そして、すでに一部考察を終えているスティーヴンズ、スタイン、パウンド、クレインと抽象に関する研究に加え、他のモダニズム詩人の抽象理解についての研究にも取り組み、アメリカのモダニズム詩と抽象をテーマにした包括的研究を進展させる計画である。
著者
三品 昌美 高橋 幸利 三品 昌美
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.グルタミン酸受容体ε2に対する自己抗体陽性症例の臨床特徴グルタミン酸受容体(GluR)の内のε2に対する自己抗体の高感度検出システムを確立し、小児慢性進行性持続性部分てんかん症例でスクリーニングを進めたところ8例中7例で陽性所見を得た。ウエスト症候群15例、レノックス症候群9例、局在関連性てんかん9例と対照6例においてはGluR ε2自己抗体は認めなかった。自己抗体はIgG/IgM型の自己抗体で、IgA型は見られなかった。一部の症例ではIgM型自己抗体からIgG型自己抗体へのスイッチが見られた。2.グルタミン酸受容体ε2に対する自己抗体陽性症例のエピトープ解析グルタミン酸受容体ε2に対する自己抗体陽性となった小児慢性進行性持続性部分てんかん症例で、ε2分子のどの部位が抗原となっているのかを明らかにするため、大腸菌蛋白発現系(PEXシステムなど)を用いて、自己抗体の抗原認識部位を検討した。その結果、全例で、C末側の細胞内ドメインに対する自己抗体の形成が見られ、1例では病期が進むとN末に対する自己抗体も一過性に出現した。C末は、細胞内情報伝達に重要な部位であり、その部位に対する自己抗体がEPC発現に関与している可能性がある。3.ε2以外のグルタミン酸受容体自己抗体検出システムの確立δ2グルタミン酸受容体を発現するテトラサイクリンシステムレポーター遺伝子を、トランスアクチベーター遺伝子を導入した細胞株にステイブルトランスフェクションし、発現したGluR δ2を抗原として患者血清中の自己抗体の有無を検索中である。4.自己抗体陽性例での免疫学的早期治療の検討グルタミン酸受容体ε2自己抗体陽性の小児慢性進行性持続性部分てんかん症例のうち、四肢麻痺となっている進行例にてγ-グロブリン大量療法・ステロイド療法を試みた。現在のところ著しい効果は認めていない。
著者
石垣 和子 杉下 知子
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

朝日新聞記事を中心に、第2回の社会福祉制度審議会勧告の出された1960年前後から現在に至る掲載記事が、高齢者介護に関して発してきた情報の質量を検討した。検討素材として2種類のデータベースを作った。一つは「としよりの日」あるいは「敬老の日」である9月15日の紙面で何がどう語られていたかに関するデータベース、もう一つは9月15日に限定せずに社説のみについて関連する記事を集めたデータベースである。社説データベースでは、法律や制度の新設・変化や関連委員会の提言・勧告、大きな調査などの結果発表を受け、社としての公式の見解が表明されていると受け止められるものが多かった。社説における高齢者介護問題の扱いは、1962年までは全く扱っておらず、その後は1982年を除いて毎年扱っていた。高齢者の在宅ケアを推奨する方向性の認められる社説は1970年に初めて出現し、1975年以降は頻繁に出現していた。敬老の日の記事では、社説、天声人語、読者の声、家庭面、社会面、1面、総合面など、あらゆる紙面にて関連記事が扱われていた。紙面に占める関連記事の量(記事面積で算定)は、1960年に入ると急激に増加し、そのうちでも敬老の日制定(1966年)、老人医療費無料化(1973年)、在宅支援サービスの始まり(1979年)、老人保健法の制定(1983年)に対応してピークが見られ、国策に敏感に対応していることが判明した。1987年には在宅サービスの拡充と老人保健施設の導入に対応して大きなピークを示した後、記事量は減少し現在に至っている。人々の関心と意識を反映すると思われる声欄では、1964年以降高齢者に関する話題の投書が取り上げられるようになっており、1974年、1980年から1983年においてはすべての声が高齢者の話題であった。1960年代に多く見られた、施設拡充や入所促進への肯定的な声が、1980年代になると住宅ケア推進へと傾く傾向が見られた。
著者
伊藤 信之
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,走幅跳の助走動作をバイオメカニクス的に分析し,大学生走幅跳選手の助走トレーニングへの適用の可能性を探ることであった.助走後半の走動作は,助走動作局面,移行局面,踏切準備局面に分けられ,それぞれの局面ごとに動作評価のための評価要素を抽出することができた.これによって,実際の競技会などで撮影された動画を対象にして,詳細な動作分析を省いても,的確な評価を行っていくことが可能となると考えられた.