著者
中西 正
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、債務者の財産状態が適切に開示されていなければ(企業の情報開示が十分でないなら)、倒産処理手続は、十分にその目的を達成することはできないことを、明らかにすることである。研究の発端は、ドイツ倒産法の機能不全である。すなわち、1877年のドイツ破産法は、制定当初は効果的に機能していた。しかし、その後、破産手続により確保される債務者財産が減少を続け、まず無担保債権に対する配当率の低下が問題となり、次に財団不足に基づく破産申立の棄却や破産手続の廃止の頻発が問題とされるに至った。この点では和議手続も同様であった。その原因は、公示されない別除権が創設され、債務者の財産状態が外部に対してきわめて不明確となったため、支払不能発生時の債務者財産を拘束し破産債権者に分配するという無担保債権者を保護するための制度が機能しなくなったことである。そこで、公示されない担保権につき、五四四条(a)と五四七条(e)をもつアメリカ合衆国連邦倒産法を研究したが、その結果は以下のとおりである。公示されない(後れて公示された)担保権を無効にする制度は、担保権を公示する登記・登録が無担保信用を供与する者に対して有用な情報を提供することを前提としている。ところが、アメリカ合衆国では、無担保信用は財務諸表制度に依拠して供与されている。登記・登録制度の無担保債権者保護機能は、無担保信用が債務者が占有する個々の財産に着目して供与された時代にはそれらはきわめて重要な役割を果たしたが、現代ではそうではない。そこで、以下の如き結論を得ることができた。我が国の財務諸表が債務者の財産状態を正確に反映させること、そのような情報に基づいて無担保信用が供与される実務を確立することが、倒産処理手続が効果的に機能するための、絶対的に必要な条件である。ただし、限定的ではあるが、担保権の公示が決定的な重要性をもつこともあり、そのような場合対抗要件否認が重要な役割を果たす。
著者
丸山 宏
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

会社更生法を適用された経営破綻企業の手続終結後の業績を実証的に検討した。とくに、会社更生手続適用前に株式を上場しており、会社更生手続終結後、再び株式上場を行った企業(株式再上場更生会社)に焦点を当て、株価データを利用した分析を行った。研究開始後、世界的な経済不況の影響から株式市場が低迷し、株式公開市場不振もあり、更生会社の再上場の事例は、実質的には5件にとどまった。そのため、特定の時期におけるクロスセクションの分析は断念し、個々の更生事例について、会社更生手続き期間を間に挟んだ前後の期間を対象とする時系列分析を中心とした分析を行った。1990年から2008年までの期間に会社更生手続きが開始された全企業289社について官報からデータを収集し、データベースを作成したが、最終的には、それらのうち、手続き開始前に株式を上場していた企業46社を基本的な分析対象とした。その中に、再上場会社5社も含まれている。分析から得られた主要な結果は、以下のとおりである。(1)再上場更生会社のベータ値(株式市場全体の変動に対する反応係数)は、更生前に比べ、更生後は低下傾向にある。(2)再上場更生会社の再上場後の経営成績は、属する業界の平均を上回る。再上場するか、売却するか、そのまま保持するかは、株式市場の状況や更生のスポンサーがファンドであるか否か、等の要因が影響する。上場後更生会社サンプル数、株価データ数を増加し、統計的検討の精度を向上させるため、研究期間を計画よりも1年以上延長した。
著者
森野 真理 堀内 史朗
出版者
九州保健福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

岡山県英田郡西粟倉村において、現在の小規模林家の森林管理の状況と管理にかかわる問題について調べた。中には篤林家もいるが、近い将来管理放棄は一層進むことが示唆された。その背景には、これまで指摘されてきた経済的な問題だけでなく、立地特性や自然災害への脆弱性など複合的な要因があった。将来の担い手としては、血縁者の可能性は極めて低かった。受け容れには問題もあるが、Iターン者やボランティアなどのよそ者が管理の担い手として期待される。
著者
松井 利充 伊藤 光宏 中本 賢 BERGEMANN An AARONSON Stu
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

増殖因子受容体の生物学的機能の発現には、リガンド結合にはじまる内因性チロシンキナーゼの活性化が必須であるが、キナーゼ活性を持たない増殖因子型受容体が正常組織にも発現していることが見いだされた。本研究においては私共が見いだしたキナーゼ欠損型のEphファミリー受容体、EphB6の生理機能を解明するために、キナーゼ欠損型受容体ErbB3とEphファミリー受容体研究のそれぞれにおいて世界をリードしている米国の研究者達と共同研究をすすめた。研究代表者松井は3度ニューヨークに赴き、研究分担者であるAaronson、Bergemann、伊藤博士らと本研究領域に関する最新の情報交換を行うともに、in situ hybridization法の技術指導をうけた。また、中本およびBergemann博士を招へいし、本学の院生に直接技術指導を行ってもらった。EphB6受容体発現は、健常人末梢血白血球では主にCD4陽性のTリンパ球の一部に認められるが、CD4+/CD8+胸腺細胞にはより強い発現がみられ、T細胞の分化/成熟に伴う生理的な遺伝子発現調節機構の存在が示唆されることや、既知のEph受容体リガンドの中ではephrinB2がEphB6受容体に高親和性に特異的結合する事を明らかにした。また、世界に先駆けEphB6遺伝子ノックアウトマウスの作製にも成功しが、当該マウスの中枢神経機能の解析をさらに進めるため、クリーブランド・クリニックに移籍した中本賢博士にマウスを送付するとともに、マウス作成にたずさわった松岡博士を派遣し、人的・物的交流をさらにすすめ国際的学術共同研究を推進しており、キナーゼ欠損型の本受容体の生理機能の解明はチロシンキナーゼ型増殖因子受容体を介する細胞間相互作用の活性発現の分子機構にも新しい概念をもたらす可能性があると考えている。
著者
川田 浩一 押切 源一
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

加法的問題に付随する例外集合の密度評価を与えるWooleyの方法を応用する際,DavenportのDiminishing range methodが効力を発揮する場面があることを発見した.この方法は,様々な加法的問題に適用することができ,とくに3乗数及び4乗数のWaring問題に付随する例外集合に対する新しい密度評価等の成果を得た.また,素数か,または2つの素数の積であるような8個の自然数の3乗の和として,充分大きい全ての自然数を表せることを示した.
著者
桑村 雅隆 小川 知之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

散逸系のパターン形成に関する研究として、捕食者の休眠を伴う被食者-捕食者系とよばれる3変数の常微分方程式の解の性質を調べた。また、ショウジョウバエの中腸幹細胞系の増殖と分化の制御機構を数理モデルを通して考察した。これらの結果は、SIAM Journal on Applied Mathematics, vol.71, pp.169-179 (2011), Journal of Biological Dynamics, vol.6, pp.267-276 (2012) 等の論文で公表された。
著者
孫 勇 宮里 達郎
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は酸素が不純物として存在している場合、3C-SiC薄膜のエピ成長に与える影響を明かにすることを目的とする。酸素は空気中でも多く存在し、薄膜原料や成長雰囲気への混入、薄膜の支持基板のシリコン結晶中の吸蔵酸素などから、酸素が不純物としてSiC薄膜の性質に与える影響を解明することが薄膜のエピ成長にとても重要な課題である。本研究では、水素プラズマスパッタリング法を用いてシリコン基板上に3C-SiC薄膜を作製し、二つの方法によって不純物酸素の影響を調べた。第一に、プラズマ成長雰囲気に微量な酸素ガスを導入し薄膜の性質に与える影響を調べる。第二に、シリコン基板中の酸素含有量を変え、基板中酸素が薄膜性質に与える影響を調べる。研究の結果、次の事実を明らかにした。まず、プラズマ成長雰囲気に微量な酸素を導入した場合、酸素は薄膜に導入され安定な構造を形成する。これにより薄膜の結晶性が悪化し抵抗率やドーパントの活性化率などに影響を与えると考えられる。同じ酸素量を導入した場合、約650℃で微小なSiO2結晶相が形成され、これが核となって異常な速度でウエスカーが成長する。結果としてSiC薄膜に多数のウエスカーが観察される。約850℃前後で薄膜がSiCの微粒子になり荷電粒子の移動度に相当な影響を与えると思われる。約950℃前後に薄膜は層状構造になり組成もずれ、Si/C比は約1:1からC-richになる。次に、通常シリコンウエハの強度を保つためにある程度の酸素が導入されている。基板中酸素の影響を調べるために、我々はシリコン基板に電流を流し電子と酸素欠陥との相互作用によって酸素の影響が拡大され、その影響が実際に観察できるようになった。650℃以上の成長温度では、この酸素の影響が無視できなくなる。つまり、酸素を多く含むシリコン基板は、SiC薄膜の支持基板として適切ではないことを判明した。成長温度が650℃を超えると、酸素欠陥からシリコン基板が蒸発しはじめ、基板空洞化が進む。基板の空洞化によりSiC薄膜の結晶性を著しく劣化させることが判った。
著者
日暮 吉延
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本報告書は、占領期における日本人既決戦犯の釈放問題を検討するものである。一般的な理解からすれば、戦犯裁判が終結したことで戦犯問題は解決したと見られるかもしれない。しかし実は戦犯問題は、裁判の終結後、拘禁・減刑といった管理面へと焦点を移したのである。そこで本報告書の目的は、講和条約の発効以前、すなわち日本占領期に時期を限定し、日本人戦犯の釈放がなぜ、どのように実施されたのか、同時期におけるドイツ人戦犯の釈放状況はいかなるものであったのか、講和条約の戦犯条項はいかなる意図と背景のもとに策定されたのか、を明らかにすることに置かれる。まず第一節では、連合国最高司令官総司令部(GHQ)の減刑計画が始動する政治過程を取り上げている。検討の結果、合衆国政府において戦犯の赦免構想は一九四六年頃から存在していたこと、GHQの減刑政策はドイツ占領と連動していたことが明らかとなった。第二節では、GHQがドイツ占領政策の進捗状況を追い越し、1950年3月7日に「回章第五号SCAP Circular No.5」を発することで、減刑のみならず仮釈放も実施していく過程を検討している。さらに、同時期におけるドイツとイタリアをめぐる政策状況を参照し、また内地送還や死刑停止に関する日本側の態様についても分析を加えた。第三節の対象は、対日講和条約第11条(戦犯条項)の形成過程である。初期の構想、草案の微妙な変化の意味等を詳細に分析した結果、日本側が戦犯裁判の判決を受諾する規定の意味、日本側に与えられた「勧告」権限の意味を明らかにした。以上は、先行研究がほとんどない未開拓の分野を一次資料で実証的に解明した研究成果である。
著者
長田 浩彰
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、祖父母の代に3人以上ユダヤ教徒がいたために、第三帝国下でユダヤ人とされた「ユダヤ人キリスト教徒」の動向に関する研究である。ベルリン工科大学反ユダヤ主義研究センターのアルヒーフや、ルートヴィヒスブルク州立文書館の非ナチ化裁判史料などを主に利用して、整理・分析することで、以下の結果を得た。(1)1943年2月末、ベルリンで発生した「ローゼン通り抗議」の実像を分析し、それが神話化されているドイツの現状を確認した。ユダヤ人一斉検挙で連れ去られた混合婚のユダヤ人配偶者の釈放を求めて、ドイツ人配偶者がベルリン・ローゼン通りに集まって抗議することで、前者の釈放を勝ち取ったという経緯は、後に行動が美化されることで生まれた神話であり、実際には、混合婚のユダヤ人配偶者は当初から東部移送の対象ではなかった、という研究者グルーナーの説を、史料から確認した。(2)混合婚夫婦から生まれた子供たちは、混血者として、部分的な迫害の対象となった。ベルリンにおけるヘルムート・クリューガーの事例に関して、彼の手による回顧録を実際の迫害措置と対比して検証した。(3)「ユダヤ人キリスト教徒」の相互扶助団体「パウロ同盟」のシュトゥットガルト支部を率いたエルヴィン・ゴルトマンの行動に関して、特に彼が子どもたちに残した遺稿を分析した。そこから、国外移住を拒絶してドイツに留まり、一方で対ナチ協力を強いられつつも、自身と家族に降りかかる迫害にゴルトマンが耐えた背景には、ナチ・ドイツとは別のドイツに対する彼の祖国愛と、篤いキリスト教信仰があったことを明らかにした。また、この点に関しては、ゴルトマンの対ナチ協力に関する、戦後の非ナチ化裁判史料を分析する中でも確認できた。さらに、裁判史料から次の点も確認できた。初審では、刑事裁判での検事に相当する公訴人側が求めたとおりの「重罪者」評決が出た。控訴審では、当事者ゴルトマン側に有利な供述書が提出されたにもかかわらず、また、公訴人側も第2グループである「有罪者」へと罪状認定を引き下げたにもかかわらず、評決は「重罪者」で動かなかった。「潔白証明書」を発行して非ナチ化を終了させる、という従来の非ナチ化についてのイメージとは逆の、厳しい評決であった。女性の非ナチ化にも見られたように、必要以上に高い倫理・道徳性が、当事者に求められていた。その理由は、裁くドイツ人の側に、第三帝国下でユダヤ人を見殺しにしたという負い目と、「女性的」とも言える「無辜の被害者」という「ユダヤ人イメージ」が存在したことで説明できる。このイメージから外れる「対ナチ協力者」という嫌疑だけで、事実如何の吟味の前に、ゴルトマンは断罪されたのである。ここに、非ナチ化裁判・控訴審の問題性がうかがえた。
著者
長田 浩彰
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

従来我が国におけるドイツ史研究では、ナチ第二帝国下の対ユダヤ人政策については研究が行われてきたが、それに対するドイツ・ユダヤ人の対応については、あまり関心が向けられてこなかった。本研究は、その点を補うため、今までの同化が否定され、権利が徐々に剥奪されていく当時のドイツにおいて、ドイツ・ユダヤ人がどう対応したのかを分析することで、自身をどう認識していたのかを考察する。例えば、彼らには亡命や移住による出国といった選択も41年まで可能だったが、経済活動からの排除という厳しい措置が実施される直前の38年当初でも、まだ彼らの7割強(33年と比較)がドイツに留まっていた。ここには、第三帝国下でもドイツ国民として、ドイツで生活しようとした彼らの姿勢が想定された。そんな彼らの自己認識を、以下の諸組織の分析から明らかにした。・従来、言動が親ナチ的で否定的な評価を受けてきたユダヤ人青年組織「ドイツ先遣隊」(1933-35)やその指導者シェープスの思想を分析することで、彼らが決してナチズム自体を信奉したのではなく、ナチ政権と保守思想を持つユダヤ人との共存の可能性を模索していたことを明らかにした。・「ドイツ先遣隊」のような小組織だけでなく、ユダヤ系組織のなかで第2位の規模を持つ「ユダヤ人前線兵士全国同盟」(1919-38)もまた、35年の国防法や、ニュルンベルク法まで、ユダヤ人のドイツ社会での生活の存続に尽力した。35年以降は、この組織は、パレスチナ以外後へのユダヤ人移住に尽力することで、自身のドイツ人としての意識の保持に努めようとしたことが明らかとなった。・研究発展のため、ユダヤ人扱いされた「非アーリア人キリスト教徒」の動向の研究史整理をした。
著者
福田 雅章
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、「事実上の死刑廃止国(州)」(DE FACTO ABOLITI0NIST COUNTORY/STATE)、すなわち刑法典上は死刑を存置している(いた)が現実には死刑を執行していない(いなかった)国(州)のそこに至るプロセスを探り、わが国の死刑執行停止(モラトリアム)へ向けての理論的・政策的提言を行うことにあった。上記目的を達成するため、調査研究を行い、次のような成果を得た。1.海外共同研究者であるRoger Hoodオックスフォード大学教授およびPeter Hodgkinsonウェストミンスター大学教授と調査票を作成し、関係諸国に送信し、回答を得た(成果報告書付録1、2)。事実上の死刑廃止は、実際には凶悪犯罪が発生しないために裁判所で死刑判決が下されないか、または立法府の決議によってもたらされており、わが国の状況に直接参考になるようなものではないことが判明した。2.ヨーロッパおよび東欧諸国の死刑廃止へ向けての動向は、国連のモラトリアム運動を踏まえて、上記Peter Hodgkinson教授と共同研究を行い、その成果を研究報告書に収録した。3.アメリカにおいては、1990年代半ば以降存続派と廃止派が共にモラトリアムへ向けて動いていたが、2000年1月31日にはイリノイ州知事が「今後すべての死刑執行命令書に署名しない」という行政権によるモラトリアムをはじめて実践し、「死刑存続or死刑廃止」というかつての対立構造に代えてモラトリアム運動が隆盛を極めている。このプロセスはわが国の状況に直接参考になるため、モラトリアム運動関係者への訪問インタビューおよび文献によって、論文「アメリカにおけるモラトリアム運動」を執筆し、成果報告書に収めた。4.上記成果を踏まえて、わが国との関連で、「死刑執行停止へ向けての提言」および「わが国の社会文化構造と死刑」の2論文を作成し、成果報告書に収めた。5.上記2、3および4の4論文は、1の具体的なデータ分析および「イギリスにおける死刑廃止のプロセス」を補充して、順次4月以降山梨学院大学法学論集に掲載し、一冊の書物にまとめる予定である。
著者
水田 英實
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

西欧中世思想におけるキリスト教および哲学のインカルチュレーション(文化内開花)のあり方をトマス・アクィナスの哲学思想の立脚点から解明し、さらに非ヨーロッパ世界におけるキリスト教および哲学のインカルチュレーションの可能性を問うた。これにより、今日の多文化社会において異文化受容という課題を果たすために、哲学の果たしうる役割を模索する手掛かりを得て研究成果を取りまとめ、図書・雑誌に論文として発表した。
著者
生田 美智子
出版者
大阪外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

平成14年度は、国外ではモスクワの外交史料館、ペテルブルグの海軍文書館、ナショナル図書館、国内では、神戸市立博物館、長崎県立図書館、長崎市立博物館で関連史料を調査・閲覧した。平成15年度は、国外ではロシア海軍文書館、ナショナル図書館、国立歴史文書館、東洋学研究所、国内では、戸田郷土資料館、下田開国資料館、根室郷土資料保存センターで関連史料の調査・分析を行った。ペテルブルグ国際会議では「強いられた旅行者:日本人の見たペテルブルグ」、ヨーロッパ日本研究協会(於ワルシャワ)では「江戸時代の日露相互イメージ」、モスクワの第7回日露フォーラムでは「17-19世紀にロシアに渡った日本人漂流民」と、題して報告し、各国の学者と意見・情報を交換した平成16年度は、モスクワの国立図書館、エストニアの国立文書館で史料の調査・分析を行い、タルトゥ学派の文化記号論者と知見を交換した。国内では長崎県立図書館、シーボルト記念館で関連史料の調査・分析をおこなった。ウラジオストクの日露国際シンポジウムで「江戸時代における日露相互観-ステレオタイプとその変遷」と題して報告した。平成17年度は、国外ではペテルブルグの海軍文書館、ナショナル図書館、東洋学研究所、クラスノヤルスク国立文書館で、国内では、赤間本陣伊藤家で史料を調査・分析した。上海で開催された第四回アジア研究者国際大会で「江戸期の日露関係の鏡としての外交儀礼」、ウラジオストクで開催された第21回日露極東シンポジウムでは「外交儀礼から見た江戸時代の日露交渉(第一回と第二回遣日使節の比較)」と題して報告した。国内では、京都大学で開催されたロシア・東欧学会で「外交儀礼から見た幕末の日露交渉(第三回遣日使節を中心に)」と題し報告した。外交関係をみるだけでは分らない変化が儀礼をみることにより分かるとの結論に達し、成果報告集『身体から読み直す幕末日露交渉史-外交儀礼を中心に』にまとめた。
著者
若曽根 健治
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

(1)ドイツの13世紀から18世紀におよぶ長い歴史をもつウァフェーデ(Urfehde[報復放棄の誓約])とその制度は、大きく三つの形態と段階を経てきた。(a)「騎士的ウァフェーデ」は貴族領主層相互のフェーデ(権利の要求を掲げた敵対関係とこれに伴う実力の行使)の過程で捕らえられた騎士が報復放棄の誓約を捕らえた側におこなった。(b)「騎士的市民的ウァフェーデ」は、市民勢力の興隆の中で騎士と市民とのフェーデ終結において交わされた。(c)「市民的ウァフェーデ(市民的都市司直的ウァフェーデ)」は、都市司直(都市参事会)にとって望ましくない行為のゆえに司直に捕らえられた市民が司直に交わした、復讐断念の誓約である。また市民的ウァフェーデにおいては、包括的抽象的に言い表わされた理由(例えば「逸脱」・「違反」等)によって捕捉され、ウァフェーデが誓約された。とりわけ市民的ウァフェーデは14、15世紀に広く展開し、都市・市民の社会的規律化に著しく寄与した。(2)この市民的都市司直的ウァフェーデの盛行は、市民の正当な告訴行為を妨げることが少なからずあった。このことが、カール五世刑事裁判令(カロリーナ・1532年)20条からわかる。都市司直もしくは裁判官から被った拷問によって受けた損害(「恥辱、苦痛、経費および損失」)の賠償を市民が裁判所に訴え出ようとするときに、司直もしく裁判官は、市民に、「ウァフェーデに助力」することによって妨害してはならない、と。帝国の裁判所は皇帝法(ローマ法)に基づく裁判制度の改革によって、裁量と恣意による都市刑事司法の弊害に対応しようしとしていた。
著者
岡本 秀毅
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

トリフルオロアセチルアミノ基を持つフタルイミドおよび, ナフタルイミド誘導体はアミドプロトンの解離により単一クロモフォアでマルチカラー発光を示すことを見いだした. このプロトン解離は, I-と紫外光照射でも誘起される意外な現象を発見し, I-検出および生成したアミドアニオンの陽イオンへの応答により, マルチセンシングの可能性が示された. また, 6-アミノフタリドにピコリルアミノレセプターを導入し, アミノフタリド色素を持つ初めてのセンサーを合成することができた.
著者
神田 陽一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

装置の小型化や光学デバイスのために、薄膜電極が用いられる。特に光学用途には、インジウム等のレアアースを用いて真空プロセスで作成されるのが主流である。しかしプロセスコストや資源枯渇の問題から、薄膜電極の新しい構造および製造法の開発が望まれている。本研究のねらいは、均一薄膜に代わり、微細気泡を利用することにより、気泡間に存在する液膜を利用して、透明な細線網目構造電極を開発することである。すなわち気泡が形成する六角構造の薄い液膜部を金属ナノ粒子ゾルとし、バルク伝導が可能な細線を形成するとともに、気泡部分の光透過性により、透明な導電膜を形成することである。気液二相をマイクロキャピラリー中で混合し、バルク流路に放出すると、一般には球状や六角状の気泡が形成し、流速の低下と相まって規則的に配列する。このバルク流路をガラス基板で作成しておけば、気泡が規則的にガラス基板上に配列する。本年度は、マイクロ流路法で気泡の生成条件を明らかにし、気泡径が流速にのみ依存すること、ガス流の剪断力が液滴形成のタイミングを決定すること等が明らかになった。気液比が理論限界値1:9を超えても、セル圧入時にガスが圧縮されるため気泡生成が可能で、その場合は最初から六方構造の気泡が生成する可能性があることがわかった。しかし、安定な気泡形成には、低めのガス量で操作することが望ましい。この場合、気泡形成後に減圧することにより徐々に気液比を上昇させ、安定な六方構造を形成することが可能である。金ナノ粒子を混合して、上記と同様の操作を行った。生成したネットワーク構造を凍結乾燥し、焼成したところ、導電性を確認した(光透過率60%)。なお、減圧により六方構造の形成を試みたものは、光透過率は80%以上を確保したが、導電性は認められなかった。これは絶対的な金量の不足に起因する。
著者
雙田 珠己 鳴海 多恵子
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、1.肢体不自由児と保護者を対象とした衣生活教育プログラムの実践2.子どもたちの衣生活を改善する修正衣服の検討である。衣生活支援活動は、肢体不自由特別支援学校の高校生と保護者を対象に、前者には着装に関する授業を行い、後者には既製服を障害に合わせて修正する技術指導を行った。また、被験者5人の着脱動作に合わせて既製ジーンズを修正し、着脱時の生理的負担が軽減されることを確認した。
著者
管原 正志 上平 憲 田井村 明博 大渡 伸
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は、脊髄損傷で車椅子マラソン競技者の温熱環境下(寒冷は平成10年度、暑熱は平成11年度)での運動時における体温調節反応特性と生理学的反応を明らかにすることである.被験者は、脊髄損傷の男子車椅子マラソン競技者(車椅子競技者)と一般男子大学生(大学生)であり、持久的運動能力の指標である最大酸素摂取量は車椅子競技者が大学生より大きかった.測定は、12℃(寒冷)と35℃(暑熱)の環境温度で、平均相対湿度60%そして平均気流0.5m/secの測定室で実施した.測定負荷は、30分間安静の後、arm cranking運動を20watts(50rpm)で60分間負荷した.測定項目は、鼓膜温、平均皮膚温、産熱量、カテコールアミンそして寒冷血管反応である.A.寒冷暴露下での運動中の鼓膜温、産熱量、カテコールアミンは、車椅子競技者が大学生より増加が大きかった.平均皮膚温は、車椅子競技者の低下が少なかった.寒冷暴露下での寒冷血管反応の抗凍傷指数は,車椅子競技者が高かった.寒冷下での運動に対する体温調節の感受性や熱産生反応は、車椅子競技者が一般大学生より亢進していた.B.暑熱暴露下での運動中の鼓膜温、平均皮膚温、産熱量、カテコールアミンの増加は、車椅子競技者が大学生より大きかった.寒冷血管反応には、差異はなかった.暑熱下での運動に対して体温調節の感受性や熱産生反応は、車椅子競技者が一般大学生より低い傾向であったのは、脊髄損傷が暑熱下運動時の体温調節に少なからず影響を及ぼしていることが示唆された.今後は、脊椎損傷者の暑熱環境における生体応答を運動系・自律機能・免疫能よりの検討を行う予定である.
著者
北村 正 徳田 恵一 後藤 富朗 宮島 千代美
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

今年度は、手話の手座標・形状情報の統合に基づく認識法の検討、アクティブ画像探索法に基づく手の高速追跡法、基本動作モデルの検討を行った。以下にそれぞれについて述べる。1.国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所開発の日本手話データーベース(DB)を利用した。当該DBの中から動作数の多い手話動作者、出現頻度の高い18単語を選び学習・認識の対象とした。手話の特徴パラメータとして、手の動作と形状情報を利用しているが,それらを統合する方法(初期統合法、結果統合法)を検討した。動作:形状に7:3の重み付けをした統合により、形状情報単独に比べて誤り改善率が12.5%と向上し、82.8%の単語認識率が得られ、その有効性が示された。手話単語モデル作成には隠れマルコフモデルを用いている。2.手の座標抽出の実時間処理を目指して、アクティブ画像探索法に基づく方法を検討した。提案法は、過去の手座標から現在の探索範囲を予測し、探索範囲内の動作領域と肌色領域の情報から手座標を高速抽出する方法である。RWCPの手話単語DBに対して、肌色情報のベクトル量子化に基づき手の座標を抽出する従来法と比較を行い、4倍高速に抽出可能であることを確認した。3.前後の基本動作情報に基づくコンテキストクラスタリングを用いる基本動作モデル学習法を提案した。RWCPの手話単語DBを用いたが、まず手話単語を基本動作のラベル付けを行い、コンテキストクラスタリングに基づいて基本動作モデルを作成し、更に連結学習により各モデルを再学習する。得られた基本動作モデルの接続により任意の単語モデルを作成する。研究では、33単語モデルの認識実験を学習データに対して行ったが、約93%の認識率が得られ、提案法の有効性が確認できた。今後は,テストデータに対して有効性を検討していく予定である。
著者
宮下 和久 吉益 光一 森岡 郁晴 福元 仁 竹村 重輝 宮井 信行 坂口 俊二 寺田 和史
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、(1)高濃度人工炭酸浴による下肢の末梢循環促進効果をもたらす条件(温度,CO_2濃度)を淡水温水をコントロールとして検証し、(2)その上で、高濃度人工炭酸浴による下肢痛の改善効果を検証した。最終的に介護施設および家庭における高濃度炭酸浴による下肢痛改善のためのQOL評価を行ない、介護予防のエビデンスに基づく健康事業としての位置づけを試みた。有症者を含めた介護施設入所者で検討した結果、皮膚温は浸漬前後で両群とも上昇していたが、群間の差は見出せなかった。ただ1.5ヶ月の長期間でSF-8の「全体的健康感」が、刺激群で高い傾向があったことは評価できると考える。疼痛に対する効果としては、同意・協力が得られた下肢疼痛の有症者が少なく、統計学的な評価が出来なかったが、個人内では炭酸水浸漬群、淡水浸漬群ともに浸漬の前後で低下していた。レーザー血流画像化装置で末梢循環促進効果を検討すると、足背皮膚血流変化量は浸漬後に対照と比較して有意に高値であった。高齢者でも高濃度人工炭酸温水浴による血管拡張による症状改善効果が期待できた。