著者
池上 博司 川畑 由美子 能宗 伸輔 馬場谷 成
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1型糖尿病遺伝子の解析をヒトとマウスの染色体相同性を駆使して進めた結果、主効果遺伝子であるHLAとの関連にサブタイプ間で差を認めること(劇症と他のサブタイプ間で質的差異、緩徐進行と急性発症間で量的差異)、臓器特異性を決定する遺伝子としてインスリン特異的転写因子MafAが胸腺でのインスリン発現量の変化を介して1型糖尿病の疾患感受性に関与することが示された。
著者
池上 徹 武冨 紹信 杉町 圭史 副島 雄二
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

C型肝硬変に対する肝移植術後インターフェロン(IFN)治療を48週以上施行し得た症例を対象とした。Core領域アミノ酸変異、NS5Aの変異、IL28BSNPとVR率およびSVR率との比較を行った。IFN治療によるSVR率は47. 8%であった。IL28B major/major群(n=29)およびmajor含有群(n=20)のSVR率はそれぞれ68. 9%および15. 0%であった。また、major/major群の内、AA70/91(double wild=1)、ISDR(変異2個以上=1)、IRRDR(変異6個以上=1)で解析すると、合計ポイント0(n=5)、1(n=12)、2(n=10)、3(n=2)それぞれのSVR率は40. 0%、66. 7%、80. 0%、100%であった。またmajor群のSVR率は15/19=78. 9%、minor群のSVR率は33. 3%であった。
著者
池上 哲司 朴 一功 村山 保史 加来 雄之 藤田 正勝 門脇 健 西尾 浩二 竹花 洋佑
出版者
大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

清沢満之の東京大学時代未公開ノート解読を通して、西洋哲学が明治期の日本にどのような形で受容されたかを明らかにしようとした。フェノロサが行った哲学関係の授業についての英文聴講ノートの内容を調査・分析していく過程で、満之と同年入学の高嶺三吉によるフェノロサ講義のノートが発見された。そこで、フェノロサによる複数の哲学関係授業の時期と内容を確定するために、清沢および高嶺の聴講ノートを翻刻・翻訳し出版した。
著者
長崎 勤 菅野 敦
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ディスコースにおいて重要な自他の意図に関する意識や理解の発達を検討するために、複数の中から相手の意図(好み)を尋ねる選択質問を使って健常児のディスコースの発達と発達遅滞児の指導プログラムについての検討を行った。研究Iでは、健常児における他者の欲求意図理解の発達について検討を行った。その結果、2歳〜3歳児は、自他の欲求意図を同一化する傾向があり、4歳〜5歳児になると、自己と他者の欲求意図の自律性の理解ができていた。研究IIでは、研究Iのディスコースユニットモデルを基に工作場面とおやつ場面を設定し、言語発達遅滞児の会話技能の指導を実施した。7歳のダウン症女児に、工作場面で身体援助、言語指示、モデル提示などの段階的な援助を与え、聞き手の意図を想定した発話行為の遂行を促したとごろ、セッションの経過と共に相手の意図を尋ねる行為が可能になった。研究IIIでは、場面によるディスコースの特徴を検討するために、健常児2歳、3歳とダウン症児(MLUマッチング)の母子相互交渉を観察した結果、母子間で知識が共有され、認知的負荷が軽減されている日常生活ルーティン場面の方が、玩具遊び場面よりも時空間的に離れた事象への言及といった、高次な言語使用が多いことが示された。会話内容が「今、ここ」に限定されることが指摘されているダウン症児は、会話初期から既に未来事象への言及が少ないことが示され、指導の必要性が示唆された。研究IVでは、おやつスクリプトの獲得について、10〜20ケ月の健常児とダウン症児(MAマッチング)について縦断的検討を行った結果、スクリプトの中心的要素から細部要素へ(18ケ月頃)という獲得の順序性が示され、また同時期に言語による伝達が開始されたことから、スクリプトの獲得と言語獲得及びディスコースとの関連性が示された。ダウン症児は、スクリプト獲得に遅れがみられ、言語獲得やディスコース発達の遅れの1つの要因である可能性が示唆された。研究Vでは、6歳のダウン症女児にファーストフード店場面を設定し、誤提示を用いて伝達意図の調整を指導したところ、調整を求める選択質問への応答や、相手の要求に応じて意図を調整すると言った伝達の柔軟な調整が可能になり、実際のファーストフード店での般化も確認された。
著者
関 宏子 熊本 卓哉
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ビスグアニジン型化合物と各種酸性化合物との複合体を用い、単結晶X線解析や溶液・固体NMR を組み合わせた機能性化合物の分子間相互作用を含む構造解析を行った。ビスグアニジン-ヒ酸複合体の固体NMRは想定される本数よりも多いシグナルを示した。これは複合体中のグアニジン部位が非等価であるというX線解析の結果を反映したデータであり、固体NMRが分子間相互作用を持つ複合体の構造解析に有効な手段となる可能性を示した。
著者
伊達 章 倉田 耕治
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

画像,音声,自然言語,塩基配列などの大規模データに対し,確率モデルを構築し,認識,予測など確率推論を行なうことが,計算機性能の急速な向上に伴い可能になっている.ベイズ推論の本質の一つは,データを観測した後の事後確率分布の利用にあるが,その分布の構造については不明な点が多く,分布が奇妙な構造をもつことは十分考えられる.本研究では,事後確率分布から多数のサンプルを生成することで,事後確率分布の構造を反映した意味のある推定量を求める手法を開発した.単純な隠れマルコフモデル,格子型マルコフ確率場を用いて計算機実験をおこない,本手法の有効性を確認した.
著者
横畑 泰志 金子 正美 横田 昌嗣 星野 仏方
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

航空写真(1978年)および高解像度人工衛星イコノス(2000年)、Quickbird(2004、2006年)およびALOS(2007年)の衛星画像を分析した。1978、2000、2006年の画像を用いて3次元立体化画像の観察と裸地面積の推定を行い、裸地の増加や崖崩れの発生などの状況を具体的に把握した。ALOS画像による植生指数値(NDVI)の分布の分析により、裸地化に至っていない森林にもヤギの影響が及んでいることが示され、場所ごとの違いが把握された。これらの結果とヤギによる変化のなかった時期に作成されていた植生図(新納・新城、1980)との比較照合によって、ヤギの影響を特に強く受けている植生区分が特定された。以上の研究成果は第55、56回日本生態学会、第31回日本土壌動物学会、第14回日本野生生物保護学会で発表され、論文などで公表されたほか、今後さらに学術論文として順次公表してゆく予定である。本研究の成果は、新聞、テレビなどのマスメディアでも繰り返し取り上げられ、関心を呼んだ。本研究の成果発表にともない、2008年3月に石垣市議会が政府に野生化ヤギの対策を要請している。
著者
國光 洋二
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

バイオエタノールの生産、利用は,温室効果ガスの削減,エネルギー自給力の向上、農村地域振興,といった効果が期待できる反面、食料との競合のような問題も指摘されている。本研究では,東アジア諸国においてバイオバイオエタノールの生産、利用の経済面・環境面の波及効果を産業連関モデル及び動学応用一般均衡モデルを用いて分析した。分析結果から、生産プラント建設投資段階に加え、プラント建設後のバイオエタノール生産段階でも、投入費用の2倍前後の生産誘発効果が期待できること、ガソリン価格と同等レベルの生産費用を実現可能な第2世代のバイオエタノール生産は、食料との競合を回避して、国全体の所得の増加をもたらす経済効果が期待できることを明らかにした。
著者
植田 文明 松井 修 鈴木 正行
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

3テスラ、1. 5テスラ磁気共鳴装置による塞栓術後の脳動脈瘤の経過観察法の研究を行った。塞栓脳動脈瘤の評価に造影剤を使用したMRAの元画像による評価が再発・残存腔の遅い血流、瘤内血栓、さらに瘤壁の増強効果による瘤径の拡大傾向といった治療法の変更や再塞栓術につながる情報の提供をしていることを突き止めた。一方で明らかに不十分な塞栓に終わっているにもかかわらず瘤壁の増強効果を示さない症例も認められ、今後の課題となる。
著者
安井 眞奈美 飯島 吉晴 齊藤 純 柿本 雅美 高橋 大樹
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、近代における出産・育児の変容を明らかにするため、「奈良県風俗誌」と呼ばれる大正4年(1915)に編纂された史料の出産・育児に関する記述を翻刻し、分析を行なった。この史料は、奈良県教育会によって大正天皇即位大礼記念事業の一つとして実施された、民俗調査の膨大な報告書群である(未刊行)。本研究では、明治期から大正期にかけて、出産・育児習俗がいかに変容したのかを明らかにし、当時の出産観や子ども観についても考察した。
著者
志村 洋子 汐見 稔幸 藤井 弘義
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

乳幼児期の子どもの心身の健やかな発達にとって、音環境が重要な役割を果たしていることは、諸外国では保育室の音環境基準として内装建材に吸音材を使用することが義務付けられていることからも明らかである。しかし、我が国の保育所・幼稚園の保育室内の基準は、音に関しては室外から流入する交通騒音等の基準のみである。本研究は、子どもと保育者の活動を適切に支え、保育の質を保障しうる環境かどうかを、実際に保育室内の音響特性を反響環境から吸音環境に加工し、その加工前後の子どもの遊びやコミュニケーションの変化を観察し、また保育者の保育方法の変化のアンケート調査を行った。併せて保育者を対象としたオージオメータおよびOAEスクリーナによる聴力閾値測定を実施し、聴力が保育室音環境の評価に有効かについて検討を行った。その結果、保育室空間内の音環境測定を実施することは、子どもや保育者の騒音暴露量を知るための手がかりとなり、保育者の聴力計測が保育室内の音環境を評価するための手法となることが示唆された。
著者
後藤 寿夫
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

環形動物の細胞外ヘモグロビン(Hb)は分子質量が3.5MDaに及ぶ超分子であり、ヒトHbの約50倍、リポゾームの約2倍のサイズである。これまでに、構成要素として4種のグロビン鎖(a, A, b, B)と2種の非ヘム蛋白(リンカー、L1,L2)の存在し、12個のサブ構造体(S)がリンカーによって連結されていることが知られている。本研究では、サブユニット構成、リンカーの役割、リンカーとグロビン鎖の結合様式の3点に焦点を絞って調べた。主な結果は以下の通りである。1.アオゴカイHb等のサブ構造体の分子質量をESI-Tof-MSにより直接測定することに成功して、その構成が(3(a・A-b-B))であることを明らかにした(Green, B.N., Gotoh, T., et al., J.Mol.Biol.309,553,2001)。2.アオゴカイHbを蛋白質分解酵素で処理するとリンカー鎖が優先的に消化されることを見つけた。これを利用してサブ構造体を単離し、光散乱法により分子質量を計測した。サブ構造体がグロビン鎖の12量体(3(a・A-b-B))であるとの結論を得た(後藤寿夫ら、動物学会中国四国支部会・山口・2001.5.12,13)。3.アオゴカイHbのグロビン鎖のうち3種類((a, b, B)のアミノ酸配列を決定した。配列から求まる質量値はESI-Tof-MSで求めた値によく一致し、これらのグロビン鎖に糖鎖が含まれないことを示している。また、分子系統樹を描き、2系統あることを確認しするとともに、これら2系統(サブファミリー)は脊椎動物のヘモグロピンとミオグロビンが分岐した時期とほぼ同じ頃に分岐したことを明らかにした(本年度の動物学会中国四国支部会・高松で発表の予定)。4.リンカーは超分子構築の最終段階に効いていることを明らかにするとともに、リンカーの活性を検定することに初めて成功した(Gotoh et al.Arch.Biochem.Biophys.,360,75[1998])。なお、2と3については論文を準備中である。
著者
川津 雅江
出版者
名古屋経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の成果によれば、近代イギリスに生じたフェミニズムの言説は、ホラティウスのいう「男性的なサッポー」のような男性に匹敵する知性をもつ女性を理想像として提示したとき、そのセクシュアリティも「男性的な」(古来女性同性愛もしくは淫乱を含意)ことを否定し、むしろ異性愛関係において「無性的な」(情欲がない)ことを強調した。こうした男性的女性の無性化は、強制的な異性愛文化・社会の出現と関連があった。
著者
浜田 道代 上田 純子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

近年の日本においては、大規模な会社法改正が相次いでいる。現時点においても、明治期以来の会社法制を一新する「会社法制の現代化」の法案が、国会において審議されている。このような会社法を巡る激しい変革の動きは、日本に限られない。国境を超えた市場競争が激化する中で、会社法制のあり方自体がグローバル社会の中で競われている。そのような観点から諸外国を見た場合に、最も注目すべきはイギリスであろうと考えて、本研究に着手した。というのも、イギリスでは1998年にDTI(通商産業省)が会社法大改正作業に乗り出していたからである。2002年7月にDTIが公刊した白書は、その名も「Modernising Company Law」であり、日本語では「会社法制の現代化」とも訳しうるものであった。ちなみに、日本において「会社法制の現代化」に関する諮問が法制審議会になされたのは平成14年2月であったから、着手時期としてはイギリスに遅れること4年であるが、上記タイトルのDTI白書に5か月先だって、たまたまほぼ同じタイトルでもって、日本においても会社法の根本的改正作業が開始されたことになる。ところがその後においては、日本の会社法制の現代化のスピードが、イギリスの会社法制の現代化のそれを凌駕した。イギリスにおいては「現代化白書」以降も膨大な報告書や改正提言が積み上げられてきており、改正作業は精力的に進められてきている。またOFR(営業財務概況報告書)に関する指針が採択され、2005会計年度からすべての上場会社においてその作成が義務付けられるに至るなど、改革が実現した部分もないわけではない。しかし、従来の会社法を一新する「会社法制の現代化」は、未だ実現の目処が立っていない。この間、本研究においては、イギリスの改正作業の進展具合をフォローしてきた。そして研究会や講演会を開催し、あるいは白書の翻訳をウェブで公開することによって、広くイギリス会社法改正に関する情報を発信するとともに、本テーマに関連する論文や著書を刊行してきた。なお、本研究期間の最終段階である本年3月になって、DTIは「会社法改革」白書を公表した。そこで、この度の研究成果報告書(C-18)には、その概要も盛り込んだ次第である。
著者
稲庭 恒一
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

1 本第三セクター会社アンケート調査は有効回答数1356・回収率65.5%で、これは調査実施時期の第三セクター会社総数3707社の36.6%からの回答に相当するもので、画期的な回答結果であった。2 第三セクター会社の清算(経営破綻)は、98年以降増加の一途をたどり、負債総額の巨額化が目立つこと、所在地方的には東北・北海道・九州で多く見られること、等々を実証的に明らかにした。3 本アンケート調査は、これまで研究されたことのない第三セクター会社の経営状況と会社の内部関係、特に、事業分野・資本規模・経営体制・経営者の姿勢・地方公共団体との連携等、との実態的関係について、多くのことを明らかにしえた。例えば、資本金規模の大きな第三セクター会社ほど経営状況が厳しく、その小さな会社のほうが経営状況が良いとする割合が高い。業種的には、本アンケート結果によれば、「総務省調査」と異なり、経営が厳しいとする割合の高い業種は教育文化関係・運輸道路関係・農林水産関係などであり、経営状況の良い割合の高い業種は公害自然環境保全関係・生活衛生関係などである。地方的には中国・四国・北陸が経営が厳しい割合が高く、中部・関東・北海道・近畿が経営状況が良い割合が高い。地域的には離島・中山間部で厳しく、地方都市・沿岸部・大都市で良い割合が高い。8割近くの第三セクター会社で常勤取締役が居ないが、代表取締役社長が常勤であることが経営状況の良さの割合を高めるわけではない。等々である。4 本アンケートの分析を踏まえ、第三セクター会社経営上考慮すべき若干の提言を行った。
著者
丸山 宏
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1990年代末から、わが国でも外資系を始めとする投資ファンドの活動が活発になった。投資ファンドの経済活動がもたらした影響を検証することは、今後の投資ファンドに対する規制のあり方や企業再生・M&Aに関する政策をめぐる議論のために欠かせない。本研究では、投資ファンド主導の会社更生の事例が増加しているという事実に着目し、投資ファンドが会社更生事件の弁済率に与えた影響を計量的に分析した。不況産業に属している破綻企業の企業買収案件では、同じ(不況)産業内企業(インサイダー)の資金制約のため、その産業外の資金制約の緩い企業(アウトサイダー)が最終買収者になる確率が高くなることが考えられる。投資ファンドが主として不況産業に属する更生会社の再建のスポンサーになることによって、不況産業の弁済率が相対的に上昇し、好況産業と不況産業との弁済率の差が緩和される可能性がある。この仮説を「ディープポケット仮説」と名づけ、他の代替的な仮説と、現実説明力を比較した。1990年から2004年の期間に手続きが開始された会社更生事件を対象とし、投資ファンドの活動がない前半(1990年-1998年)と、投資ファンドがスポンサーとなった会社更生事件が見られるようになった後半(1999年-2004年)の債権弁済率(要弁済額/確定債権総額)の関数を推計した。前半では更生会社が不況産業に属していたことを表すダミー変数が統計的に有意な負の値であったが、後半では有意性は認められなかった。こうした分析結果は、ディープポケット仮説と整合的である。単に投資ファンド主導であるから弁済率が上昇するということではなく、スポンサーが見つかりにくく、弁済率も抑制的な傾向のあった不況産業で投資ファンドがスポンサーとなり、好況産業との弁済率の差を緩和している可能性を検出したことが重要である。このように不況産業での更生案件において、一定の役割を果たしつつあるのであれば、投資ファンド主導の企業倒産処理の増加は、企業倒産処理の効率化にとって望ましいことと考えられる。
著者
中田 裕康
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、近年の大改正を経た新しい倒産法制の下で倒産手続が契約に及ぼす影響を検討した。まず、倒産法改正により直接的影響を受ける各種の契約(賃貸借契約、請負契約等)の検討をした。改正により多くの問題が解決されたが、なお残る問題は少なくない。特に、賃料債権の処分等の効力をどこまで認めるべきかについて、実体法上の検討が必要である。次に、双方未履行双務契約について検討した。今回の改正では、基本的には従来の規律が維持されているが、今後、破産法53条の原則とその例外のあり方についてなお検討する必要がある。根底には、倒産法と平時実体法との関係、及び、倒産手続開始後の契約の帰趨(更に、債務不履行における契約と債権の関係)という大きな問題がある。また、重要な現実的課題である知的財産権ライセンス契約の適切な規律について検討した。ここには、契約上の地位の法的評価という理論的問題と、特許法における登録制度及び通常実施権制度のあり方という制度的問題がある。更に、当初の研究計画から発展する問題として、否認権と契約、及び、新信託法制の下での信託と倒産の関係についても検討した。前者では、新制度の下での否認権と詐害行為取消権との関係を検討し、平常時から倒産時に移る段階での契約のあり方を考察した。後者は、信託財産破産等の新しい法制度の検討をした。本研究により、新しい倒産法制の下での倒産法と契約法の主な問題点を分析することができた。その結果、実体法の検討がなお必要な問題が少なくなく、それらはいずれも基礎的な問題に関わるものであることが確認できた。根本的には、平時実体法における私的自治及び自由競争の尊重の理念と倒産手続における債権者平等及び衡平の理念との接合、並びに、平時実体法自体の規律の問題がある。倒産手続の効率性及び平時及び倒産時の実体法の社会的影響も考慮しなければならない。なお研究を進めていきたい。
著者
佐伯 仁志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、会社法の大改革期にあたって、会社財産の保護を中心とする会社法の犯罪(会社犯罪)がどのような影響を受け、今後どのようなものであるべきかについて、研究しようとするものである。具体的には、第1に、会社法は、近時、自社株式取得規制の抜本的改正や委員会等設置会社の導入など、多くの改正が行われているが、会社法の罰則規定については変更がない。したがって、これらの改正が現行の会社犯罪の解釈にどのような影響を与えるかが検討されなければならない。そのためには、従来の会社犯罪に関する判例・学説を整理することがまず前提作業として必要であるので、このような前提作業を行うとともに、近時の改正が従来の解釈に与える影響について検討を行った。第2に、新しい会社犯罪のあり方を考える上では、諸外国、特に、わが国の会社法に大きな影響を与えている、欧米の会社法および会社犯罪を参照することが有益であると考えられるので、アメリカ合衆国を中心に、比較法的研究を行った。第3に、会社財産の刑法的保護を考える上では、会社財産が危機に瀕した状態における保護も考慮に入れる必要がある。特に、近時の会社法の研究においては、通常時における会社の法律関係を規制する法を理解するためには、危機時における会社の法律関係を規制する倒産法をも視野に入れて考察する必要があるとの考えが有力になって来ているので、会社に関する倒産犯罪、特に会社更生犯罪の研究も行った。第4に、会社犯罪に対する制裁としては、犯罪収益の没収・追徴が、犯罪の抑止および犯罪被害者の救済の両面で重要であり、特に、後者については、法制審議会において答申がなされたので、この点に関する研究も行った。なお、研究成果の公表については、第3および第4については成果の一部を論文として公表したが、第1および第2の部分については、成果の公表するための論文を準備中である。
著者
大矢知 浩司
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

簿記・会計教育のマルチメディア化された教材として,わが国の代表的な財務データベースである日経NEEDSを利用するMicrosoft Visual BASICによる財務分析システムNDjを開発した。ノートパソコンを前提とした開発であるためコンパクトである。マウスクリックのみで実行可能である。青山学院大学の「コンピュータ会計論」では,サーバーを介して70台のパソコンと接続して一斉授業の教材として利用している。システムの利用には何らかの説明を必要としないが,財務分析式,データの意味するところを説明するマニュアルを『財務分析ツール・アンド・データ』と題して白桃書房より公刊している。本研究の成果である。しかし,教育目的からは完全自動化は問題があった。有価証券報告書から自らのニーズに応じたデータを選択して入力し,Excelなどの表計算ソフトを用いて分析する。さらにグラフ化してレポートにする。この手間暇がなければ学生の身につかないように思われる。余りにも簡単に指標を入手できるので指標を理解できないようである。先ずVisual BASICでの簡単なプログラム作成,有価証券報告書の理解が必要であろう。それにもまして企業に対する理解が基本であろう。本年度は,多少のデバッグと報告書作成の作業を追加的に行った。
著者
山本 弘
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

特殊法人及び金融機関の経営破綻における倒産処理法上の諸問題につき研究を行い、次のような知見を得た。1 デリバティブ取引は、現行破産法61条により当然清算され、その一括清算条項は、破産法上の相殺権の趣旨に照らし有効であること、会社更生等の再建型倒産処理手続においてもデリバティブ取引は当然清算されるべきこと、したがって、金融機関を当事者とするデリバティブ取引につき、「金融機関等が行う特定金融取引の一括清算に関する法律」のような特別の立法措置は本来不要であること。2 民事再生法が一般先取特権者を拘束しない手続であり、一般先取特権付の債券発行を行う特殊法人の再建手続として不適格であること、したがって、民事再生法の施行は、その根拠法令に破産能力を認める規定が存在しない限り、特殊法人を清算するかその事業をどのような形で存続させるかは立法者の裁量に委ねられてているとの結論に影響しないこと。3 改正会社更生法が導入した代理委員強制の制度と、金融機関の更生特例法が定める預金保険機構、投資家保護基金および契約者保護機構の預金者、投資家、契約者の代理権限とはその趣旨が異なること。