著者
金久保 正明
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.8, pp.2495-2506, 2011-08-15

近年,いわゆる「ことば工学」の一環として,駄洒落,なぞなぞ等の言葉遊びをコンピュータで自動生成する研究が始まっている.駄洒落を謎解きとするタイプのなぞなぞ生成システムもすでに研究開発事例はあるが,なぞなぞ質問文のテンプレートが決められ,それに特化した単語データベースが用いられている.そこで本論文では,概念の上位下位の体系や格フレーム等の一般的な概念データベースからなぞなぞ生成を試みる.具体的には,格フレームの連結に相当する文型を定義し,一般的な概念体系を用意する.駄洒落を形成する2語のそれぞれから上位概念をたどり,共通する文型があれば,答えとすべき単語は上位概念で伏せ,質問文を提示する.難度を高めるため,提示する方の単語を異音同義語で隠したり,謎解きに英語読みを用いたりする等した.被験者に解答してもらう実験では,人間が作成するなぞなぞと同等以上の難度を有し,面白さと意外性を持つなぞなぞが生成されることが確認された.
著者
東海彰吾 安田 孝美 横井 茂樹 鳥脇 純一郎
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.801-809, 1994-05-15
被引用文献数
7

本論文はコンピュータ・グラフィクス(CG)における爬虫類皮革の表現手法について述べたものである。CGの分野では自然物の表現方法に対する関心が深まっており、さまざまな対象について研究が行われている。しかし、生物、特に爬虫類などの動物に関する研究は、これまでにほとんど行われていない。ヘビやトカゲ、あるいはワニなどの爬虫類の皮革はハンドバックなどの製品として利用される比較的身近な対象であり、その表現手法は皮革製晶のデザインや各種の映像制作などへの利用が考えられる、本論文では爬虫類皮革の最も顕著な特徴であるウロコの並びによる模様に注目し、特にワニの皮革の表現方法を中心に、ボロノイ分割などの幾何学的な手法を用いた爬虫類皮革の表現方法について述ぺる。具体的には、(1)シードの配置と移動とを工夫した2段階のボロノイ分割を用いてウロコの模様を多角形で表現し、(2)この多角形にベジェ曲線で設定した断面形状を用いて立体的な皮革データを生成し、(3)生成した皮革データを曲面にマッピングして表示を行うものである。本手法による皮革データを製品形状にマッビングして表示することにより、製品デザインヘの応用の可能性を確認した。
著者
浜田 穂積
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.149-156, 1983-03-15

実数値の2進表現として 先に次の特徴を有する表現法を提案した.(i)形式はデータの長さに依存せず精度変換操作が単純 (ii)オーバフロー アンダフローが発生せず 十分大きい数も十分小さい数も表現可能 (iii)固定小数点表現と比べて 分解能の点で1ビットの不利にすぎない.しかしながら 2進数としての指数の値の2進表現と本表現の指数部とが完全には対応せず1だけずれていて論理を少し複雑にしていたのを修正した.これによっても 上記の特徴は保たれることがわかった.丸めについてはIEEE標準案での提案のすべてを容易に満たすことができる非数については IEEE標準案と松井・伊理の提案したもののうち 0 +0 -0 ∞ +∞ -∞は2進による表現パタンの極限的なものを 表現しようとする数値との自然な連続として定義することができる.これら非数をも含めた数の四則演算を 対称性をよく保って定義することができる.ただし 松井・伊理の定義した? +? -?については特別な数値ではなく 表現の詳しさに関する情報であって 本表現の意味となじまないため定義しないほうが望ましいと考え 該当の場合は有意性なしの例外処理を期待する.データの特性パラメータが本表現によれば長さだけであるので プログラミング言語での指定も容易となる.この場合の具体的拠案も行った.
著者
牧野 寛 木澤 誠
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.337-345, 1979-07-15
被引用文献数
21

べた書き文からの漢字変換を行ううえで必要となる自動分かち書きの方法を提案し それらを用いた仮名漢字変換システムについて述べる.本システムの実用上の目的は漢字入力を容易に行えるようにすることにあり 打鍵者に課する負担を小さくするために 入力仮名文として 分かち書き用の制御信号などを入れない いわゆるべた書き文を採用した.べた書き文から漢字仮名混り文への変換過程で必要となる分かち書き方法として 二文節最長一致法を用いている.二文節最長一致法とは連続する二文節と見なし得る文字列の長さを尺度として 文節分かち書きを行っていく方法である.また 付属語による分かち書きを用いて 未登録語(辞書中に存在しない語)の出現に対しても 分かち書きを可能としている.これらの分かち書き法を基本とするべた書き文の仮名漢字変換システムを構成し 実験を行った.雑誌などからの214文(総文節数2592でその4%程度の文節に未登録語を含む)を対象とした実験では 97.2%の文節が正しく分かち書きされており 本論の提案する分かち書き方法が有効であることを示した.
著者
羽田 大樹 後藤 厚宏
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.1596-1609, 2018-09-15

組織におけるWebアクセスの利用には多くの脅威が存在するため,悪性Webサイト情報のブラックリストが利用される.悪性Webサイト情報には登録理由やレピュテーションなどが付与されることがあるが,CSIRTのインシデントレスポンスにおいて合理的な判断を行うために適した情報を提供しているとはいえない.本稿では,インシデントレスポンスの「トリアージ」「対応実施」業務において,既存のブラックリストを活用した業務における課題を示し,合理的な判断を可能とするための「所有者」「コンテンツ」「現在の状態」「最終確認」という4項目による悪性Webサイト情報の分類を提案する.さらに,公開されている38種類のブラックリストの仕様について調査し,この分類に相当する情報がほとんど含まれていないことを示す.また,実際にブラックリストに一致してインシデント判定が求められた400件の悪性Webサイト情報について手動で調査を行い,一定数のWebサイト情報が外部からの調査によって定義に従った分類ができることを示す.この分類を活用することで速やかな対応ができることをケーススタディとして紹介し,提案分類が有効に働くことを示す.
著者
泉 信人 伊藤貴康
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.3510-3523, 1999-09-15
参考文献数
8
被引用文献数
2

ISLISPはLisp言語のISO標準言語である. ISLISPのインタプリ夕とコンパイラを試作し TISLと名付けた. TISLシステムとそのベンチマークプログラムによる評価結果について報告する. ISLISPはScheme並みにコンパクトなCommon Lisp系の言語でオブジェクト指向機能を備えている. TISLインタプリ夕は入力されたプログラムを評価形式ごとに一度中間コードに変換しながら解釈実行を行う. TISLコンパイラは中間コードをC言語のプログラムに変換し インタプリ夕よりも高速に動作する1つの実行ファイルを作成するために使用される. また TISL処理系全体がC言語で記述されており パソコンやワークステーションへの移植性にも優れている. ISLISPインタプリ夕としてはOpenLispが存在するが TISLインタプリ夕はOpenLispよりも1.3?3.3倍高速であり TISLコンパイラはTISLインタプリ夕よりも1.0?5.5倍高速である.ISLISP is the ISO standard Lisp language. We implemented its interpreter and compiler, called the TISL system. In this paper, after explaining an outline of the TISL system, we report its experimental results, using Gabriel benchmark programs. The TISL system is implemented in the C language so as to allow TISL portable for various PCs and workstations. The TISL interpreter first transforms a form into intermediate codes, and the resultant intermediate codes will be actually interpreted and executed. The TISL compiler is realized as a compiling function that can be invoked under the interpreter and it compiles intermediate codes into C programs. For efficient implementations of object-oriented features of ISLisp we introduce "type inference" in implementing generic functions. Compared to OpenLisp (an ISLISP interpreter), the TISL interpreter is 1.3縲鰀3.3 times faster than OpenLisp and the TISL compiler is 1.O縲鰀5.5 times faster than the TISL interpreter.
著者
龐 遠豊 伊藤 毅志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.1286-1294, 2018-04-15

囲碁の認識や学習において,囲碁用語が果たしている役割は大きい.しかし初学者が囲碁用語を覚えるのには大きな負担がかかる.本研究では,局面に対応する囲碁用語を自動表示するシステムを提案する.囲碁用語には,石の「形」だけでなく,石の「勢い」を含む局面解析との組合せが必要なものもある.我々は,囲碁プログラム“Ray”の協力を得て,これらも実装した.先行研究を参考に比較的利用頻度の高い囲碁用語を自動的に視覚的表示するシステムを実現した.その性能をプロ棋士に評価してもらったところ,プロ棋士の判断と90%を超える高い一致率を示した.
著者
吉賀 夏子 只木 進一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.257-266, 2018-02-15

Web上には,江戸時代以前の書籍である古典籍の書誌および画像データが多数公開されている.これらのデータの活用には,古典籍を構成する序や跋などの情報を含めて,Linked Data形式などへ構造化することが有効である.古典籍の書誌データは専門用語が多く,構造化のためには,一般には専門家の手作業が必要であった.本稿では,形態素解析と注記の記述様式に特化したスクリプトを活用することで,半自動でこうした作業を実施する方法を提案する.また,具体的なコレクションへの適用を通じて,手法の有効性を検証する.提案手法は,コレクションごとに軽微な調整で適用できる手法であり,古典籍の書誌データを構造化するために有効である.
著者
西浦 生成 崔 銀惠 水野 修
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.1215-1224, 2018-04-15

不具合組合せ特定とは,組合せテストの各テストケースの実行結果の成否から,バグを含むと思われるパラメータ値の組合せを特定する問題である.本研究では,機械学習を用いて不具合組合せを自動分類するための手法を提案し,その評価を行う.提案手法では,まず,組合せテストケースに含まれるパラメータ値の組合せとテスト結果の成否を学習モデルとしたロジスティック回帰分析を行い,それによって得られる回帰係数値から,各パラメータ値の組合せが不具合組合せである疑わしさを決定する.次に,各パラメータ値の組合せの疑わしさから,その組合せが不具合組合せであるか否かを自動分類するために,閾値決定法および最大距離分割法の2つのクラスタリング手法を適用する.最後に,実際にバグを含むオープンソースプロジェクトのプログラムflex,grep,makeのテストスイートに対して提案手法を適用した比較評価実験を行うことで,提案手法の有効性を示す.
著者
稲村 勝樹 新林 直樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.179-188, 2018-01-15

近年,スマートフォンやタブレット端末など,タッチパネルを有する携帯端末が普及し,時や場所を選ばずに様々な情報を利活用できるようになった.このような端末では,端末を利用する際にタッチパネルの入力を利用したユーザ認証を行うことで情報漏洩を防いでおり,なかでもAndroid端末ではパターンロックと呼ばれる方式が採用されている.しかし,この方式では覗き見攻撃により簡単にパスパターンを記憶されてしまうといった問題がある.この問題に対し,東川らによってランダムに表示された数字列を一時的に記憶した後に入力することによって,パターンロックの覗き見耐性の向上を図る方式が提案されている.この方式において,記憶の増加や入力の複雑化によるユーザの利便性の低下といった課題がある.本稿では,入力パスパターンの方法を変更することで利便性の改善を図り,かつ覗き見耐性をさらに向上させる改良方式を提案し,その実装評価について述べる.これにより既存の携帯端末でパターンロックより安全なユーザ認証が実現できることを示す.
著者
柏 祐太郎 大平 雅雄 阿萬 裕久 亀井 靖高
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.669-681, 2015-02-15

本論文では,大規模OSS開発における不具合修正時間の短縮化を目的としたバグトリアージ手法を提案する.提案手法は,開発者の適性に加えて,開発者が一定期間に取り組めるタスク量の上限を考慮している点に特徴がある.Mozilla FirefoxおよびEclipse Platformプロジェクトを対象としたケーススタディを行った結果,提案手法について以下の3つの効果を確認した.(1)一部の開発者へタスクが集中するという問題を緩和できること.(2)現状のタスク割当て方法に比べFirefoxでは50%(Platformでは誤差が大きすぎるため計測不能),既存手法に比べFirefoxでは34%,Platformでは38%の不具合修正時間を削減できること.(3)提案手法で用いた2つの設定,プリファレンス(開発者の適性)と上限(開発者が取り組むことのできる時間の上限)が,タスクの分散効果にそれぞれ同程度寄与すること.
著者
白鳥 嘉勇
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.35, no.10, pp.2180-2188, 1994-10-15
被引用文献数
4

左右対称形キーボードの打鍵特性を明らかにするため、形状が異なる3種の左右勉称形キーボードと現用形キーボードをキーピッチ、キーサイズおよびキー種を同一にして試作した。キーボード形状の効果を明らかにするため、上記4種のキーボードについて打鍵位置指示後の単打鍵実験を行った(被験者10名)。各キーの平均入カ時間およびエラー率を多変量解析により分析した結果、現用形キーボードに比ぺ、いずれも平均キー入力時間は約10%、平均エラー率は約40%低く、形状効果があることが分かった。次に連続打鍵特性について、現用形キーボード操作者(英文タイビスト9名)が3種の左右対称形キーボードを用いて同一英文の繰返し入カ実験を行った。この結果、4蒔間後に現用形キーボードの操作レベルと同等以上に達し、短期間に左右対称形キーボードに習熟できることが分かった。また、高遠打鍵特性について、英文タイビスト4名(現用形キーボードの入力速度:410ストローク/分)が同一種の左右魅称形キーボードを用いて毎回異なる英文入力実験を行った。この緒果、32時間後には、平均キー入力時間は最高117msec(515ストローク/分)の高いレベルに達した。また、各キーの入力時間は左右手および指間でバランスしており形状効果が認められた。以上の結果、左右対称形キーボードは、打鍵特性を向上する形状効果を有し、習熟しやすく、高速打鍵が可能であることが分かった。
著者
飯尾 淳 吉田 圭吾 小池 亜弥 清水 浩行 白井 康之 桑山 晃一 栗山 桂一 小浪 宏信 高山 隼佑
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.2256-2267, 2011-07-15

GPS機能を内蔵したモバイル機器の普及により,属性情報付きの位置データを大規模に収集することが容易になった.オンラインアンケートで消費者の消費傾向や属性を取得し,個人情報保護に配慮したうえでアンケート結果と位置情報ログを結びつけることによって,実際の行動と消費意欲の関係を分析することができる.なお,そのような位置情報ログを「属性付き位置情報ログ」と定義した.今回,首都圏において約1,800名の参加者を募って1カ月弱にわたり実験を実施した.その結果,いくつかの消費傾向分野において参加者の意識は実際の行動に反映されていることが明らかとなった.The widespread of mobile devices makes it easy to collect location-based personal information on a broad scale. After acquiring consumption tendency and personal individual attribute via on-line questionnaire, associating the result of the questionnaire and the location-based personal information log, which named "the location-based personal information log with individual attribute," enables an analysis on the relation between personal behaviors and their intention. This time, with the help of approximately 1,800 participants, an experiment has been conducted in the Tokyo metropolitan area. The result revealed that the intention of participants to spend their money on several types of services and products were reflected to the log of their behavior. In this papar, details of the experiment and the result are reported.
著者
坂本 竜基 角 康之 中尾 恵子 間瀬 健二 國藤 進
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.3582-3595, 2002-12-15
被引用文献数
10

本稿では,コミックダイアリシステムと呼ばれる,個人の日記を漫画形式で自動生成するシステムを提案する.このシステムは,博物館見学や学術会議参加において個人化されたガイドを行う展示ガイドシステムの一環として開発した.このシステムにより自動生成された漫画は,個人の記憶補助のみならず記憶の伝達のためのカジュアルな媒体として利用されることを期待されている.システムは,会場閲覧の個人的なエピソードを展示ガイドシステム(C-MAP)から収集したデータと社会的イベントなどの周辺情報を元にストーリ化し,漫画というスタイルで表現する.また,漫画の生成機能以外にも,複数の漫画間をブラウジングする機能や個人の漫画の伝達を支援する機能も有している.本稿では,プロトタイプシステムに関する説明と,これまで行った学術会議における運用実験の結果について述べる.This paper describes a system, called ComicDiary, which automatically creates a personal diary in comic style. ComicDiary is built as a sub-system of our ongoing project of a personal guidance system for exhibition touring at museums, trade shows, academic conferences, cities, and so on. We intend for ComicDiary to be used as a casual tool for augmenting each individual user's memory as well as encouraging users to exchange their personal memories. ComicDiary is to allegorize individual episodes during touring exhibitions by creating a comic from a user's touring records, accumulated by his/her personal guidance system, and environmental facts, e.g., social events. Addtion to its basic representation in comics style, ComicDiary has two novel functions as computational media. One is to support browsing over many ComicDiary and the other is to support sending user own ComicDiary to him or her friends. In this paper, we present the implementations and user evaluation of ComicDiary deployed at academic conferences.
著者
福島 邦彦 三宅 誠 伊藤 崇之 河野 隆志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.627-635, 1987-06-15

従来のパターン認識は入力パターンの変形や位置ずれの影響を避けるために まず入力パターンの位置や大きさの正規化を行った後に特徴抽出や識別を行う方式が多かった.これに対して 筆者らは先に 生物の視覚神経系を参考にして 高度のパターン認識能力と学習能力を持つ神経回路モデル"ネオコグニトロン"を提案した.ネオコグニトロンは 入力パターンの変形が位置ずれ ノイズなどに強いパターン認識能力を示す.生物の神経系をヒントにしているため その反応特性は人間に似ており 人間が似ていると感じるものはネオコグニトロンも似ていると判断する.しかも学習能力を持っているので あらかじめ学習させておけば どのようなパターンでも認識させることができる.すでにわれわれは ネオコグニトロンによる手書き数字認識システムをミニコンピュータで実現しているが 今回は ネオコグニトロンの演算量がどの程度かを一般の技術者に直感的にわかってもらうため 広く普及しているマイクロコンピュータを用いてシステムを構成した.プログラムは できるだけ高速に動作させるために種々の工夫をこらして作成した.このシステムがマイクロコンピュータでも実現可能であるということは その演算量がそれほど膨大なものではなく 専用のハードウェアを用いれば 実用になる速度で働くシステムを製作できることを示している.
著者
河合 利幸 山下 伸一 大野 廣司 吉村 浩 西村 仁志 下條 真司 宮原 秀夫 大村皓一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.29, no.8, pp.729-740, 1988-08-15
被引用文献数
3

コンピュータグラフィックスの普及に伴い 高品位な画像をより高速に生成することが要請されている.我我は 視線探索法を用い 並列処理により画像を生成するシステムLKNKS-1を試作し 数多くの実験を重ねてきた.この結果を基に 飛躍的な処理速度の向上を目指し 新たなシステムを設計した.本システムのユニットコンピュータ(UC)は LINKS-1のUC と比較して 演算能力と通信機能が大幅に強化されている.本UCは 32ビット浮動小数点演算を並列処理するデータプロセッサ アドレス計算を行うインデックスユニット 通信を制御するチャネルプロセッサ等主要ユニットが非同期に並列パイプライン動作する・メモリアクセス競合を削減し データ転送を並列化するため 各ユニットはクロスバースイッチにより 4ウェイにインタリーブされたデータメモリと結合されている.これら主要部分は カスタムVLSIを用いて実現した.その結果 本UC1台の画像生成速度はLINKS-1の約50倍に達する.また 並列処理効率についても改善が認められた.本論文では その高速化の手法について述べ シミュレーションによりその効果を明らかにする.
著者
田中 久美子 犬塚 祐介 武市 正人
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.3087-3096, 2002-10-15
参考文献数
12
被引用文献数
10

本稿では,携帯電話のための子音漢字変換による日本語入力方式を議論する.子音漢字変換では,ユーザが子音列を入力し,これを子音漢字変換ソフトウエアが漢字混じりの日本語に直接変換する.従来のかなを入力する方式では1かなあたり複数回キー入力を行う必要があるのに対し,子音入力を用いると,1かなあたり1回だけの入力で済む.一方で,子音漢字変換を行うと,かな漢字変換の7倍にものぼる候補を扱わざるをえない.そこで,本研究においては,隠れマルコフモデルを用いた言語モデルにPPM(Prediction by Partial Match)を融合させた動的な言語モデルを用いてユーザの語彙選択の傾向を学習させることにより,入力効率を追求した.その結果,現行のかな入力方式に対して打鍵数を半減させることができた.ユーザ実験を行った結果でも,現行の方式よりも短時間で入力を行うことができることが分かった.We discuss a Japanese text entry method for mobile phones. Differentfrom the current methods based on kana kanji conversion, our systemasks user only to enter the sequence of consonants that requiressingle stroke per kana character. Our consonant-kanji conversionsystem then converts the sequence directly into the final kanji form.Although such consonant-kanji system should handle seven times morecandidates than kana-kanji conversion system, we found that user mayenter the same text with half number of keystrokes within shortertime. The key to realize such consonant kanji conversion system liesin our dynamic language model based on Hidden Markov Model and Predictionby Partial Match (PPM) method.
著者
重定 如彦 越塚 登 坂村 健
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.1662-1675, 2001-06-15
被引用文献数
1

本論文では,分散ハイパーメディアOS``Net-BTRON''におけるハイパーメディア資源管理の機構について述べる.近年,World Wide Web(WWW)を基盤とした全世界規模のハイパーメディア環境がインターネット上に構築され,情報発信システムとして大きな成功を収めている.一方,ネットワーク上の他のハイパーメディアコンテンツを参照・引用をしながら,頻繁なデータ編集による試行錯誤を繰り返して,人間の思考を支援することも,ハイパーメディアシステムの当初の用途の1つである.ところが,現在のWWWシステムをこうした用途に用いると,リンクの接続性が脆弱であるために,リンク切れやEditingProblemといった問題が頻繁に発生する.そこで我々は,頑強なリンク接続性を提供する分散型ハイパーメディア資源管理機構を持った新しいオペレーティングシステム,Net-BTRONを構築している.Net-BTRONのハイパーメディア資源管理機構は次の特徴を持つ.まず,ハイパーメディアノードやリンクをファイルシステムで実現する.Net-BTRON以外の他のハイパーメディアとの相互接続性を実現する柔軟なファイルシステム拡張機能を持つ.ハイパーメディアアプリケーションの操作性を標準化するためのツールキットを提供する.我々はNet-BTRONのパイロットシステムをBTRON3仕様OSを拡張して実装し,その上に多くの分散ハイパーメディアアプリケーションを構築することによって,これらの技術的特徴の有効性を確認した.This paper proposes, the hyper-media resource management mechanism ofdistributed hyper-media operating system ``Net-BTRON''. Recently,worldwide hyper-media environments based on the World Wide Web (WWW)have been constructed on the Internet. These systems achieved a greatsuccess as systems for information distribution. However, they areinconvenient for frequent editing purpose and can not serve as tools forthinking, which is one of the original purposes of the hyper-mediasystem, because of the weakness of the link. If we use the current WWWsystems for the purpose of tools for thinking, problems such as brokenlink or editing problem will occur frequently.In this paper, we constructed a new operating system called``Net-BTRON'' which can be used as a tool for thinking by its robustdistributed hyper-media resource management mechanism. The features ofthe Net-BTRON are as follows. First, the Net-BTRON realizes thehyper-media nodes and links by the file system. Second, the Net-BTRONprovides a flexible file system extension mechanism to integrate withthe other hyper-media systems. Third, the Net-BTRON provides a toolkitfor standardization of the user interface of hyper-media applications.We implemented the Net-BTRON pilot system by extending the BTRON3 OS,and proved the technical advantage of the Net-BTRON by implementing alot of distributed hyper-media application on it.
著者
鳥海 不二夫 山本 仁志
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.2507-2515, 2012-11-15
被引用文献数
1

近年,ソーシャルメディアの発達が目覚しく,FacebookやTwitterなど数多くのソーシャルメディアがWeb上で運営され,多くのユーザによって利用されている.ソーシャルメディアへの記事投稿にはコストが必要であるにもかかわらず,自発的に記事が投稿されるメカニズムは明らかとなっていない.ここで,ソーシャルメディアの基本的な仕組みは,多数の情報がコストをかけて投稿され誰もがアクセスし利用することができることから,公共財としての性質を持っているといえる.公共財への貢献を促進する仕組みとしては,協調しない者に対し罰則を与える規範ゲーム・メタ規範ゲームが提案されている.しかし,ソーシャルメディア上では非参加者を罰するということは不可能である.そこで,懲罰ではなく協調者にたいして報酬を与えるという方法を取ることが考えられる.一方で,報酬よりも懲罰のほうが効果的であるという報告があり,通常の条件下ではソーシャルメディアでは協調は進化しないと考えられる.そこで本研究では,報酬しか与えられない公共財ゲームであるソーシャルメディア上で,どのような条件が整った時に協調が促進されるのかを,エージェントシミュレーションによって明らかにする.In this paper, we propose the General public goods game to represents human behaviors on the social media. The structures of social media are modeled to clarify the mechanism to participate to social media. We developed a simulation model to clarify the mechanism to participate to social media. In general, there are no systems to punish other users in social media. Instead, there are some systems to rewards other users by comments or replies for communication behaviors. We modeled such reward model by General public goods game to clarify the conditions to realize cooperation dominants situation. From agent-based simulation, it becomes clear that the rewards for the cooperation and the rewards for the rewards can be the factor to encourage the cooperation. Furthermore, we analyzed the relationships between costs and the benefits to encourage the cooperation. From the analysis, the cooperation behaviors become dominant in the case that the benefits for the cooperation and rewards are larger than the cost to reward other users.
著者
中野 倫靖 後藤 真孝 平賀 譲
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.227-236, 2007-01-15
被引用文献数
14

本論文では,歌唱力を自動的に評価するシステム開発の第1 段階として,ポピュラー音楽における歌唱力の「うまい」「へた」を,楽譜情報を用いずに自動的に識別する手法を提案する.従来,訓練された歌唱者の歌唱音声に関する音響学的な考察は行われてきたが,それらの研究は歌唱力の自動評価に直接適用されたり,人間による評価と結び付けて検討されたりすることはなかった.本論文では,聴取者の歌唱力評価の安定性を聴取実験によって確認し,そこで得られた結果から歌唱音声に「うまい」「へた」をラベル付けして自動識別実験を行った.そのための特徴量として,歌唱者や曲に依存しない特徴であることを条件に,相対音高とビブラートの2 つを提案する.聴取実験では,22 人の聴取者を被験者とし,聴取者間の評価に相関があった組の割合は88.9%(p < .05)であった.また,600 フレーズのラベル付けされた歌唱音声に対して識別実験を行った結果,83.5%の識別率を得た.As a first step towards developing an automatic singing skill evaluation system, this paper presents a method of classifying singing skills (good/poor) that does not require score information of the sung melody. Previous research on singing evaluation has focused on analyzing the characteristics of singing voice, but were not directly applied to automatic evaluation or studied in comparison with the evaluation by human subjects. In order to achieve our goal, two preliminary experiments, verifying whether the subjective judgments of human subjects are stable, and automatic evaluation of performance by a 2-class classification (good/poor ), were conducted. The approach presented in the classification experiment uses pitch interval accuracy and vibrato as acoustic features which are independent from specific characteristics of the singer or melody. In the subjective experiment with 22 subjects, 88.9% of the correlation between the subjects' evaluations were significant at the 5% level. In the classification experiment with 600 song sequences, our method achieved a classification rate of 83.5%.