著者
黒住 耐二
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

弥生から古代の真珠採集遺跡の発見のために、文献・資料・現地調査を行 った。その結果、福岡県糸島市の弥生~古墳の天神山貝塚でのみ、真珠貝の一種、アコヤガイの複 数出土を確認し、この遺跡が真珠採集遺跡である可能性を認めた。また、同時期の沖縄諸島では複 数の遺跡が真珠採集遺跡であると考えた。中国広西チワン族自治区の珍珠城とスリランカのマナール で、これまで明らかになっていなかった真珠採集遺跡の状況を確認した。
著者
中村 和裕 川崎 平康
出版者
群馬大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

私は近年、中赤外領域の特定の波長の光が凝集Abeta1-42ペプチドを解離させることを見出した。今回アルツハイマー型認知症4例の前頭葉の凍結ブロックを試料として、6ミクロンの波長の光を照射したところ、アミロイドベータ抗体のウェスタンブロットで、一部の症例で高分子量型のシグナルの移動度が照射によって変化した。このことは、モノマーではなく複雑な構造を持つアミロイドベータの構造が照射により変化した可能性を示唆する。しかしながら、全症例ではなく一部の症例のみに変化が見られたこと、毒性をもつ構造体が照射によって減弱したかわかっていないことから、今後、照射後の神経機能について解析を続ける予定である。
著者
吉村 孝司
出版者
明治大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

企業による経営行動にはイノベーションのような社会に寄与する行動と、企業不祥事のような反社会的行動が存在し、その展開状況は特定企業に集中または連続・反復する場合が多い。本研究はこうした現象の要因としての個別企業が保有する企業遺伝子を企業対象アンケート調査により解明し、二種の企業遺伝子の存在を検証するとともに、創業期間の長期化に伴い、企業遺伝子の独自性が強化されていく傾向の存在を確認した。
著者
吉川 茂 志村 哲
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

「舞蛟」、「露堂々」など江戸、明治期の虚無僧尺八の名器は「地無し尺八」と呼ばれ、竹管の自然形体をそのままに、節をわずかに残して製管されている。本研究では、第2節(第4孔の少し上に位置する)より上と下では管内形状が有意に異なり、かつ第2節の残し方に独特な特徴のあることが低音域と高音域での響きと音色の差異(多彩さ)をもたらすと推論した。さらに、名器を用いた実演や CD 録音での演奏者や聴衆の印象から、メリカリ奏法での上下への音高変化と運指が現代尺八よりも虚無僧尺八において容易であり、響きと音色の差異を導くと推論された。このような特徴は第2, 3 孔が高めに開けられていることの利点と考えられる。
著者
神垣 太郎
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

アンケートでは352標本を回収することができ、のべ39992回の接触が記録された。年齢別に見ると13-15歳が最も高く、ついで16-24歳および6-12歳であった。身体的接触は家庭では70%を超えていたが、通勤・通学では約30%であった。接触マトリックスモデルでは20歳以下の未成年層を中心に同年齢に対する接触が最も高く表され、至近距離での接触では、さらに子供と親年齢での接触密度および成人と高齢者の接触密度が増加する傾向が認められた。先行研究と変わらない接触密度が観察された一方で、成人と高齢者との高い接触密度が観察されたことは我が国に特徴的な接触パターンの可能性が示唆された。
著者
鈴木 啓司
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故後の小児甲状腺超音波検査で、極めて高い頻度で甲状腺がんが報告されている。これらの甲状腺がんの放射線起因を判断する一助として、細胞に残る放射線痕跡の同定が極めて重要である。本研究では、甲状腺がんのdriver変異であるキナーゼ遺伝子融合変異が、放射線分子痕跡であるかどうかを検証するための、定量的遺伝子変異検出系の樹立を試みた。その結果、differential RT-PCRの実験条件を決定し、甲状腺乳頭がん細胞株に存在するRET/PTC1を高感度に検出し、本遺伝子変異検出系が、放射線照射による融合型遺伝子変異生成評価に有用である事を示した。
著者
矢野 環
出版者
同志社大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

連歌を中心として資料収集並びに研究を行った。進化学会においては、日本における写本文献学における成果という位置づけで、宗祇連歌句集「老葉」の写本間の関係を発表した。特に有注本(宗祇、または宗長などによる注記が記される写本)について、その注文の類似性を、単なる一致不一致による分類ではなく、文章としての類似度を考察することにより、精密な関係を見出すことができ、多変量解析による処理、また系統学的処理もより明確になることを発表した。系統樹作成手法として通常は単語や文字の異文比較による最節約的変化を問題とするが、このような注釈が付されているものは、宗祇の注と宗長の注を合併する場合もあり、それも全体を転写するのではなく、一部分のみ利用する複雑な合成が行われる。そのため、個々の差異をとりまとめたより大きな特徴を、基準を定めて数値評価すれば、大局的な考察に適していることがわかる。特に、通常宗長注本の一つとされている系統が、実は宗祇の注を大きく取り入れており、別の一群として取り扱うべきことが明かとなった。この方法は連歌注釈書と限らず、他の文献の系統学的考察にももちろん適用できるものであり、今後様々な発展が見込まれて重要である。
著者
前之園 信也 田口 友彦 向井 康治朗 高倉 正博 和栗 聡 松村 和明
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子(Ag/FeCo/Agコア/シェル/シェル型ナノ粒子)を創製し、このナノ粒子を用いてオートファゴソームの磁気分離に挑戦した。ハイブリッドナノ粒子を哺乳細胞にリポフェクションし培養したところ、30分後にはナノ粒子がVps26と共局在し、その後LC3と共局在する様子が観察された。最適なタイミングで細胞膜を温和に破砕し磁気分離に供した。磁気分離分画にはLC3-II、トランスフェリン受容体、及びLAMP2が濃縮されていたが、LC3-Iは含有されていなかった。これらの結果はオートファゴソームが単離できたことを示している。
著者
遠藤 秀紀 村田 浩一 鯉江 洋 中山 裕之
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

高齢動物の骨格を標本化、マクロ形態学的変化を検討し、三次元画像情報の構築に成功した。アジアゾウ、カバ、シロサイ、キリンなどにおいて、脊椎や四肢、頭蓋におけるマクロ形態学的異常を検出し、骨老化の基礎理論を構築した。アジアゾウでは、高齢での顎と臼歯の問題点を画像情報を用いて議論した。中型獣では顎や顔面の機能異常を観察、鳥類と爬虫類でも加齢と形態変化について、生理学的背景とともに把握することができた。成果は、高齢動物の直接的な研究にとどまらず、飼育動物に関する基礎生物学的また病理学的データ収集の機会を大幅に拡大することに成功した。また、動物園水族館に向けた動物福祉的提言を発展させることができた。
著者
酒井 保蔵
出版者
宇都宮大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

磁気分離による放射性セシウム汚染汚泥の除染技術を検討した。原発事故による放射性セシウムは最終的に土壌中の常磁性バーミュキュライトに保持され、雨水により下水中に流入し、汚泥に捕捉される。最大磁束密度1Tのマグネットバーを用いた磁気カラムに汚染汚泥を通すことで、カラムに保持される少量の放射性セシウム濃縮汚泥と大部分の除染汚泥に分離できた。実汚泥では0.37Bq/Lから5.4Bq/Lまで濃縮され1/15まで減容することができた。
著者
中林 誠一郎
出版者
埼玉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

細胞性粘菌の飢餓集合をモデルにして、単細胞生物から多細胞生物への生物学的変化の熱力学的原因を解明した。二匹の粘菌細胞が接近するに伴ってNADH量が減少し、接触したときに最小値を示し、その後細胞の分離とともに上昇する事が判った。細胞性粘菌集団の総NADH 量を,飢餓による集合体形成前後で測定しても、集合体形成により総NADH量は減少した。これら2つの実験結果は、互いに調和的であり、多細胞化の初期過程は、多細胞化によるエネルギー代謝効率改善に支えられたと考える事ができる。
著者
東野 伸一郎 長崎 秀司
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本課題では,フラットスピンを利用した小型固定翼UAVの自動垂直着陸を実現する方法を研究した.通常の機体であってもフラットスピンにエントリーさせるために,バラストを利用して必要な時のみ機体の重心位置を後退させ,フラットスピンにエントリーさせる方法を考案し,飛行実験によってその有効性とスピン中の姿勢がほぼ水平になることを確認した.また,スピン中の姿勢がフラットになることにより,降下中の速度がかなり小さくなることが確認された.さらに,フラットスピン中の機種が所望の方向を向いた瞬間に推力を与え,飛行経路を変更する方法を考案し,飛行実験によって所望の方向に経路移動が可能であることを示した.
著者
大和田 秀二 所 千晴
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

CO2を飽和させた硫酸溶液に、硫酸第一鉄と過酸化水素、pH調整剤を少しずつ断続的に添加させることによって高効率にラジカルを発生させる高効率フェントン法を用いて、CO2をメタノールやエタノールへ変換させることに成功した。中間生成物として、ギ酸、酢酸、シュウ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドが生成することがわかった。また、各種触媒の使用や、プロセス条件の最適化によって収率が向上した。さらに、フェントン反応の結果生じる汚泥は水酸化第二鉄とシュベルトマナイトの混合物であるが、水酸化第二鉄の割合が大きくなるようにプロセス条件を制御することによって、アルコール生成の収率が向上することがわかった。
著者
若狭 雅信
出版者
埼玉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

磁気共鳴(磁場+マイクロ波)を用いた同位体濃縮を実現するためには,選択的スピン緩和と反応ダイナミクスの制御が必要不可欠である。本研究では,ミセル中での励起三重項ベンゾフェノンの反応などを取りあげ,生成物収量に対する磁場効果を調べた。生成物の収量に大きな(21%増加)磁場効果を観測した。そこで,共鳴パルスマイクロ波を照射して,選択的同位体濃縮に挑戦した。エレクトロスプレーイオン化飛行時間質量分析計(ESI-TOF-MS)を用いて,生成物中の同位体比測定を行なったところ,炭素-13の同位体濃縮が確認できた。しかし,観測された同位体濃縮は小さく,その原因として緩和機構が考えられた。
著者
西田 圭吾
出版者
鈴鹿医療科学大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

マスト細胞の顆粒中には亜鉛が豊富に含まれていることが報告されており、脱顆粒に伴って細胞外に放出されることが知られている。しかし、その役割とメカニズムについては明らかにされていなかった。そこで、マスト細胞顆粒中へ亜鉛を取り込む機構、そして細胞外に放出された亜鉛の役割解明を目的とした。本研究においてマスト細胞における顆粒内への亜鉛取り込みに関与している分子として亜鉛トランスポーターZnT2の同定に成功した。ZnT2欠損マスト細胞では刺激依存的な放出亜鉛が観察されず、またZnT2KOマウスでは皮膚創傷治癒の遅延が生じた。以上、本研究によりマスト細胞から放出される亜鉛の生理的意義を初めて示した。
著者
岡野 ジェイムス洋尚
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

細胞1個もしくは少数の細胞からなる神経回路を狙い撃ちして照射し観察できる放射線医学総合研究所のマイクロビーム細胞照射装置 (SPICE)を活用し、陽子線によって引き起こされる神経活動を経時的に観察した。細胞内カルシウムを可視化する蛍光色素を細胞内に導入し、顕微鏡による経時的蛍光イメージングを行い、マイクロビーム照射時と非照射時のニューロンの活動を比較検討した。細胞はマウス大脳皮質由来一次培養ニューロンを使用した。その結果、照射したニューロンは照射直後に活性化し、逆に照射細胞周辺のニューロンでは活動の低下が観察された。これらの観察から陽子線が神経活動・脳活動に影響を及ぼす可能性が強く示唆された。
著者
河田 雅圭 杉本 亜砂子 牧野 能士 丸山 真一朗 横山 潤
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

近年発見されたC. elegans の姉妹種であるC. inopinataを用いて、体長の進化に寄与した遺伝子を特定することを目的とした。二種間で大きな体長の差が生じるL4幼虫期と成虫期で、発現パターンが、種間で異なる遺伝子として2699遺伝子が検出された。6種の線虫のうち、C. inopinataの系統でのみ正の選択圧が42の遺伝子で検出され、その中に、daf-2があった。daf-2は細胞膜で発現するインスリン受容体で、C. elegansの変異体は体サイズが大きくなることが知られ、daf-2遺伝子の進化が体サイズの進化に対して大きな影響をもつ可能性が示唆された。
著者
阪本 尚文
出版者
福島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

天皇主権を基本原理とする明治憲法を国民主権を定める日本国憲法に改正することは、憲法の根本的支柱を取り除く一種の自殺行為であり法的に許されないのではないか?この現行憲法の正当性をめぐる難問を説明する通説が、憲法学者、宮澤俊義が提唱したとされている「八月革命説」(日本がポツダム宣言を1945年8月に受け入れた時点で主権は天皇から国民に移動し、法学的意味の「革命」が生じた)である。本研究では、政治思想史家、丸山眞男が八月革命説のアイディアを宮澤に敗戦直後に提供したと丸山本人が回想する新資料を東京女子大学丸山眞男文庫において発見し、現行憲法の正統性を担保する通説的学説の誕生過程を実証的に解明した。
著者
中村 英二郎 杉山 愛子
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

前立腺癌は、近年、本邦で罹患者数、死亡数がともに増加した癌腫の一つであり新規治療法開発が課題となっている。そこで、前立腺癌の病態解明、及び、治療標的分子の同定を目的として実験を行なった。アンドロゲン依存性増殖を示す前立腺癌細胞株であるLNCaP 細胞を同ホルモンを除去した培地 (csFBS: charcoal stripped FBS) で長期間培養を行うことにより新規細胞株 (AILNCaP細胞) の樹立に成功した。上記の新規樹立細胞株を用いて増殖抑制効果を示す分子の同定を目的としたスクリーニングを行い有望な治療標的分子を得ることができた。
著者
青井 伸也 土屋 和雄
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究課題では,ムカデなど多足歩行生物の蛇行生成メカニズムの解明と工学的応用に向けて,次の 4 つのテーマを実施した.1.ムカデの数理モデルに基づく力学特性の把握2.シンプルモデルに基づく力学構造の明確化3.ロボット実験に基づく工学的実証4.ムカデ計測データに基づく生物学的妥当性の検証.これらの結果から,数理モデルやロボットでは,ある速度を超えると超臨界ホップ分岐を介して蛇行が出現し,速度に依存する蛇行の出現や蛇行の振幅や波数の変化などムカデと同様の傾向を持つことが明らかにされた.これらの研究成果をまとめたものは Physical Review E に採録され,更には,Nature Physics の News & Views で紹介された.