著者
千田 俊哉
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

多段階で複数の種類のクライオプロテクタント溶液にソーキングする「多段階ソーキング法」の手法を確立し、CagA結晶の質を10オングストローム分解能から3.1オングストローム分解能に改善した。CagA結晶の場合には、二段階で二種類のクライオプロテクタント溶液(トレハロースとPEG1000)にソーキングした場合に最も分解能が改善された。さらに、この手法を他のいくつかのタンパク質結晶にも適用し、当初3.5オングストローム分解能の回折しか生じなかった結晶の質を最終的には2.1オングストローム分解能まで改善することができた。
著者
塩見 大輔
出版者
大阪市立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

DNAの塩基配列を使えば,何らかの機能性を持った分子を望みの配列様式で並べて,分子集合機能系を構築することが可能になる.本研究では,一本鎖DNAと小分子の核酸塩基誘導体との組み合わせで,分子スピン集合系を構築することを提案した.いくつかのモデル系について,分子力場計算による配座探索と構造最適化の計算により,最安定構造を明らかにした.アデニンとシトシンの代わりにそれぞれ,ジアミノトリアジンとイソシトシンを導入(置換)したニトロニルニトロキシドラジカル誘導体を用いた系では,一本鎖DNAと小分子の組み合わせであっても,擬似的な二重鎖構造は保たれることがわかった.
著者
菊池 潔 廣井 準也 田角 聡志
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

海と河をめぐる回遊機構(遡河回遊)に関しては、これまでに多くの生理・生態学的な知見が集積しているが、回遊を可能ならしめたゲノム上の変異は同定されていない。トラフグ属魚類の多くは純海産魚であるが、その近縁2種は淡水適応に成功し、河に遡って産卵する。本研究では、これまでの回遊研究とは異なった切り口、すなわち順遺伝学的手法を採用した。その結果、遡河性2種に共通の淡水耐性遺伝子座を見出した。次に、トラフグ属魚類合計10種のゲノムDNA配列を用いて、淡水で生息可能な2種にのみ共通するDNA配列を探索したところ、回遊を可能ならしめた変異候補をさらに絞り込むことができた。
著者
片山 義雄
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成27年度には、マウス造血組織である骨髄、胸腺、脾臓だけでなく造血幹細胞株やT細胞株での匂い感受シグナル特異分子 AC3 と Golf の mRNA 発現を確認できた。これらの一部は蛋白レベルでも確認できた。In vivo の実験として、植物由来匂い物質であるα-ピネンをG-CSFによる造血幹細胞動員に併用したが、動員効率を変化させる効果はみられなかった。平成28年度には、in vitro で血球のみでなく間葉系も含めた各種細胞株における、ある匂い物質による細胞運命制御の検討に集中して研究を進め、この部分に関しては今後特許申請予定となったため公開を差し控える。
著者
杉本 雅則 橋爪 宏達
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

超音波とカメラを用いて、モーションキャプチャのための3次元トラッキングシステムを構築した。超音波により距離、カメラにより距離方向の鉛直面でのターゲット位置を取得する。提案システムは安価なカメラと超音波送受信機で構成され、非常にコンパクトに実装できる。測位性能向上のため、超音波送信機の位相特性補正を行い、位相補正面をBスプライン関数で補完するという方法を取った。実験の結果RMSEが1.20mm(静止時)、1.66mm(毎秒1m)での3次元トラッキングが可能であることが示せた。これは、最新の高価なモーションキャプチャシステムに匹敵する性能である。
著者
田島 陽一
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

がん増悪化における細胞融合の役割は、染色体およびDNAの不安定性によって腫瘍の表現型に多様性を生み出すことが考えられる。ただし、細胞融合が悪性腫瘍の引き金になるかは不明である。間葉系幹細胞(MSC)と膀胱癌細胞との細胞融合により融合遺伝子の形成、細胞の形質変化、および腫瘍形成に変化が見られた。また、細胞融合により多くの遺伝子が変動した。その中のX遺伝子は腫瘍の成長につれて発現が増加する傾向を示し、遺伝子破壊により腫瘍形成が抑制される知見を得た(論文作成中)。これらの結果からMSCとがん細胞との細胞融合は、がんの多様性に関与する可能性があると考えられる。
著者
加藤 美生 木内 貴弘 河村 洋子 石川 ひろの 岡田 昌史 奥原 剛
出版者
帝京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

保健医療課題を取り扱ったプライムタイムテレビドラマの研究状況を文献調査から把握した。視聴者の医師像の認知および医師への信頼度の影響を分析したところ、医療ドラマの外科医の描かれ方によって信頼度を左右する可能性があることが明らかになった。テレビドキュメンタリー番組に登場した患者の語りについてはその重要性が近年認識されつつあることがわかったが、公害や薬害の番組数は種類によって制作数の偏りが見られた。エンターテイメント・エデュケーション実施団体や医療ドラマ制作者へのヒアリング調査により、制作者の制作動機や課題を収集し、メディアと医療をつなぐ会を設立し医療ドラマ制作教育プログラムを実施した。
著者
黒坂 寛 中谷 明弘 菊地 正隆 真下 知士
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

胎生期における顎顔面の形成は複雑かつ精巧に行われ、その発生過程の不具合は口唇口蓋裂等の顎顔面形成不全の原因となる。同疾患は多因子性疾患であり、胎生期における遺伝的要因と環境的要因に大きな影響を受けて発病する事が知られている。本研究では家族性に頭蓋骨早期癒合症、多数歯アンキローシスを呈する患者や口蓋裂と先天性欠如歯を持つ患者のエキソーム解析を行い新規遺伝子変異を同定した。今後は同新規遺伝子変異の機能解析を細胞株や動物モデルを用いて行い、同疾患の病態をより詳細に解析する予定である。またレチノイン酸シグナルとエタノールの過剰投与の相互作用についても顎顔面形成不全を引き起こす新規メカニズムを解明した。
著者
山室 真澄 戸野倉 賢一 平塚 健一 横石 英樹
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

ジブチルアミンを誘導体化試薬としイソシアネート群を分析する方法を構築し、イソシアネートを使用する工場付近の屋外大気を測定したところ、ヘキサメチレンジイソシアネートが検出された。ダイヤモンドの微粒子を固定した直径5mmの研磨棒をモータで回転させ、ポリウレタンに押し付けて削り取る実験を行った結果、発生量はわずかだが73番のイオンを確認できた。SafeAir芳香族イソシアネートバッジ(検知限界はTDIで0.6ppb、MDIで0.4ppb)を協力者に合計50送付して日常生活で柔軟剤に遭遇して症状が悪化する状況にバッジを設置してもらったところ、全ての場合においてイソシアネートは検出されなかった。
著者
根来 誠司 武尾 正弘 加藤 太一郎 竹原 一起 藤井 翼
出版者
兵庫県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

国内外でポリマーの再資源化やモノマーのバイオ生産が重要視されている。Arthrobacter sp. KI72株はナイロンオリゴマー分解酵素NylA/NylB/NylCにより、6-アミノヘキサン酸(Ahx)オリゴマーをAhxまで分解する。Ahxはアミノトランスフェラーゼ(NylD)によりアジピン酸セミアルデヒドに変換され、その後、デヒドロゲナーゼ(NylE)によりアジピン酸へと代謝されること、ⅱ)NylDについては2種、NylEについては20種の類似遺伝子が認められること、ⅲ)NylD1,NylE1を共役させた反応系により、Ahxは約90%の変換率でアジピン酸へ変換されることを明らかにした。
著者
伊藤 芳久 須川 晃資 小菅 康弘
出版者
日本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

Prostaglandin E2 (PGE2)は、様々な生理学的プロセスにおいて重要な役割を果たす脂質メディエーターである。私達は、PGE2がPGE2受容体EP2サブタイプの活性化を介して、マウス運動ニューロン由来で未分化のNSC-34細胞の神経突起伸長を促進し、細胞増殖を抑制することを見出した。また、ALS発症直後のモデルマウスの運動ニューロンではEP2発現が増加すること、ニューロン様に分化したNSC-34細胞のEP2発現はPGE2処置により上昇することを明らかにし、運動ニューロンにおけるPGE2誘発性のEP2発現増加がALSにおけるニューロン変性に関与することを示した。
著者
亀岡 淳一
出版者
東北医科薬科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

学会等の議論の場で日本人の質問が少ないことはしばしば指摘されるが、質問力の体系的な教育はほとんど試みられていない。そこで我々は、質問力育成のために3段階による教育手法の開発を計画した。まず、学内授業で考えついた質問を全て書き出させ提出させ、質問を考えながら聞く習慣をつけた。次に、「重要性」「独自性」「レトリック」「ミクロかマクロか」「ベネフィットの及ぶ範囲(質問者、聴衆、発表者)の5項目による質問評価表を作成し、3学会で信頼性・妥当性を確認した。最後に、希望する学生を学会に参加させ、指導医と一緒に聞かせ質問を評価させ事後ワークショップを実施した。これらの教育は質問力向上に有用と考えられた。
著者
冨島 義幸
出版者
滋賀県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

古代・中世の浄土信仰にもとづく建築のなかでも、本年度は中尊寺金色堂を中心に空間構成理念の調査・研究をおこなった。また、阿弥陀堂など浄土信仰の建築の本尊となる阿弥陀如来像をはじめとする仏像の調査をおこない、そこにこめられた密教的意味を明らかにした。主たる成果は以下のとおりである。1. 中尊寺金色堂における密教の影響:金色堂の四天柱には密教の尊像が描かれ、これまでこられの尊像は浄土教の阿弥陀四十八願にもとづくとする説と、密教の胎蔵界曼荼羅にもとづくとする説の二説があったが、五十二身像という密教の阿弥陀曼荼羅にもとづくとする新たな説を提示した。また、従来、金色堂の須弥壇に安置された奥州藤原氏三代の遺体は、東北地方のミイラ信仰と結びつけてとらえられてきたが、棺におさめられた曳覆曼荼羅などの副葬品を調査・検討し、同時代の京都の貴族と同じ密教による葬送であったとする説を提示した。この成果は冨島義幸「中尊寺金色堂再考」(入間田宣夫編『兵たちの時代III兵たちの極楽浄土』高志書院)として発表した。2. 仏像と密教修法:仏教建築の本尊として安置された仏像は、その建築空間の宗教的な意味を決定づける、きわめて重要な要素である。阿弥陀如来像や観音菩薩像など、いわゆる浄土教にもとづく造像とされてきた仏像でも、その胎内にその像の種子を書いた月輪が納入されるなど、密教の要素が認められることが指摘されてきたが、その具体的な意味については明確にされていなかった。本年度は、仏像胎内の月輪や内部に直接書き付けられた本尊種子について、現存作品・記録・聖教を総合的に調査・検討し、こうした月輪種子が密教修法にもとづくものであること、すなわちこうした月輪種子を胎内におさめる仏像が、密教修法の本尊となっていたことを明らかにした。本研究の成果は冨島義幸「修法と仏像-胎内の月輪種子を手がかりとして-」として発表した。
著者
橋本 健志
出版者
立命館大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、運動効果の分子機序としての乳酸が、認知機能などの脳機能にどのような影響をもたらすかを探究し、認知症改善への応用を目指すものである。そして、認知症の予防または改善に効果的な運動・栄養処方の確立のための学術的基礎の構築を目的とした。神経細胞に対する乳酸添加や、実験動物に対する運動と乳酸サプリメント併用の結果から、乳酸が脳機能の亢進に寄与する可能性を示唆する結果を得た。また、ヒトを対象とした実験から、乳酸代謝と神経活動の亢進が認知機能亢進に重要である可能性が示唆された。
著者
宮本 忠吉 上田 真也 中原 英博
出版者
森ノ宮医療大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、高次脳機構を介した循環制御の生理学的意義を明らかにすることであった。実験の結果、運動準備期における呼吸循環応答の量的・時間的動態は、その後に実施される運動の負荷強度に依存して予測的・見込み的に変化すること、また、運動予測なく突然、運動を開始させると、予測がある場合と比較して、強度依存性に呼吸循環系応答のダイナミクスに変化が生じることが判明した。以上より、高位中枢による予測的・見込み的な呼吸循環制御は、生体へ加わる短時間高負荷運動に対する生理学的ストレスを軽減し作業効率の改善に役立っていることや、学習や記憶といった高次脳神経機構の生体恒常性に果たす役割の重要性が示された。
著者
江田 真毅 川上 和人 沖田 絵麻
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

土井ヶ浜遺跡の1号人骨・「鵜を抱く女」と共伴した鳥骨の同定は、弥生文化の宗教儀礼の理解に重要である。しかし、これらの骨は断片化しており、骨形態の観察による同定は困難であった。そこで本研究では、コラーゲンタンパクのアミノ酸配列の違いによる同定を鳥類に初めて適用した。現在日本に生息する鳥類を対象に、同定に役立つアミノ酸配列のピークを特定するとともに、「鵜を抱く女」と共伴した鳥骨を分析した。その結果、「鵜を抱く女」と共伴した鳥骨はフクロウ科のものであることが明らかになった。一方で、これらの鳥骨が人骨に副葬されたかどうかはさらなる検討が必要である。
著者
岡本 浩二
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ミトコンドリアは独自の遺伝情報(ゲノム)を有しているが、酸化ストレスによる変異を蓄積し、難治疾患であるミトコンドリア病や老化を引き起こすと考えられている。本研究では、ミトコンドリアゲノムにコードされた遺伝子を核へ移管し、発現することを目的とした。具体的には、①ミトコンドリア遺伝子を核遺伝子化するためのコドン改変、②細胞質リボソームによるタンパク質合成効率を上げるためのコドン最適化、③プレ配列付加によるミトコンドリア標的化、を目指した。
著者
小松崎 民樹 藤田 克昌 Li Chun Biu Taylor James Nicholas 寺本 央
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

有限の計測点数による数揺らぎを含めた誤差を考慮に入れたファジークラスタリングと機械学習手法に基づいて、1細胞ラマン分光イメージングデータによる高次元特徴量空間から細胞状態を識別する情報解析手法を開発した。通常の病理組織学では困難とされている甲状腺濾胞癌の識別、ラット肝モデルの非アルコール性脂肪肝疾患の線維症予測に応用し、その有用性を示すことに成功した。また、リーダー・フォロアー細胞仮説を模倣する数理モデリングを行い、情報理論における因果推論によるリーダー分類の可能性を示した。この他、植物器官の構造均一性と細胞単位のランダム性の補償現象に関する研究等を実施した。
著者
河野 達郎
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

アセトアミノフェンは解熱鎮痛薬として臨床で使用されている薬物でありながら、作用機序は明らかでない。近年、代謝物のAM404が脳のTRPV1受容体やCB1受容体に作用することで鎮痛作用を発揮していることが報告された。しかし、脊髄後角での作用は明らかではない。アセトアミノフェンの全身投与はin vivo脊髄標本での末梢からの痛み刺激に対する反応を抑制した。さらに、in vitro脊髄標本でのAM404はC線維終末のTRPV1受容体に作用し、興奮性伝達を抑制した。アセトアミノフェンはAM404へ代謝され、脊髄後角ニューロンのC線維終末のTRPV1受容体に作用し鎮痛効果を示すことが明らかになった。
著者
伊藤 加奈子 佐立 治人 氏岡 真士
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

『杜騙新書』は中国の明朝末期に出版された、様々な詐欺事件を題材とする短編小説集であり、中国近世の庶民生活、商人の経済活動、当時に生きた人々の善悪判断といった物の考え方を具体的に生き生きと伝える書物である。日本に現存する『杜騙新書』の明刊本や江戸時代の和刻本の所蔵先を調査・資料収集を行い、書誌学的事項を調査し、訳注を作成した。平成27年3月21日『『杜騙新書』訳注稿初編』を出版、全国の主だった図書館並びに東洋学関係出版社等に寄贈した。現代日本語訳注の作成によって、我々はこの書物がより広く人々の目に触れ、中国文化について更なる新しい理解を広めることを期待するものである。