著者
石田 寛
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

ザリガニは口元にある3対の顎脚を動かし、自ら水流を起こす。小触角にある嗅覚受容細胞に向けて周囲から匂いを集めることにより、水の流れが淀んだ環境でも高感度に餌の存在を検知する。昨年度は、顎脚を模倣したアームを2対備えた水中ロボットを作製し、水流で引き寄せた化学物質を辿って発生源の位置を突き止める実験に成功した。しかし、実際のザリガニの歩行速度に比べ、ロボットの移動速度を遅くしなければ、化学物質源の探知に成功しなかった。そこで今年度は、餌を探して歩き回っているザリガニが実際にどのような流れを作っているか、海外共同研究者であるハル大学(イギリス)のThomas Breithaupt講師と共に再調査した。餌を探すザリガニの行動をビデオカメラで撮影して観察した結果、ロボットに搭載したセンサに比べてザリガニの嗅覚の方が高感度であるだけでなく、ザリガニは状況に応じて顎脚の振り方を変えている可能性があり、その効果を検討する必要があるとの結論に至った。しかし、ザリガニの顎脚と同程度の大きさで、高い自由度を有するアームを作製するのは困難である。そこで、ポンプで生成した水流を様々な方向へ噴出し、ザリガニが作る水流を模倣することを目指した。数値流体力学シミュレーションを行って噴流の噴出方向を検討し、水平方向および斜め45度後方に噴流を生成できる装置を実際に作製した。噴流の向きを変えると、噴流に引き込まれて形成される流れ場が変化する。これにより、化学物質を引き寄せてくる方向や速さを制御できることが示された。さらに、流れがある環境でも化学物質源の探知が可能となるようにロボットを改良することを試みた。ザリガニは、流れがある環境で餌の匂いを検知すると、流れを遡る方向に向かい餌の所在を突き止める。この行動を模倣するため、化学物質を含む流れの方向を判定可能な電気化学センサを開発した。
著者
豊田 則成
出版者
びわこ成蹊スポーツ大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、3ヶ年計画の下、運動・スポーツ指導者の体罰問題における心理的メカニズムを解明することを目的とした。そこで、1)体罰問題に関する先行研究を概観し、2)質的研究方法の熟達に努め、3)体罰経験を有する運動・スポーツ指導者を対象とした直接的で集中的なインタビュー調査を実施し、4)本研究から得られた成果を積極的に公開する、といった課題に取り組んだ。その結果、研究1では、体罰・暴力的な指導を経験した運動・スポーツ指導者に対するインタビューから「体罰・暴力を生み出していくメカニズム」を導き出した。一方、研究2では、体罰・暴力的な指導を受けた者から「体罰・暴力を受け容れていくプロセス」を導き出した。
著者
佐野 方郁
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

イギリス人のウィリアム・ペッペが1898年にインドで釈迦の遺骨を発見し、イギリス政府・インド政庁が1899年にタイ王室に寄贈すると、日本の仏教界は1900年にその一部を譲り受けた。覚王山日暹寺はそれを安置するために、1904 年に愛知県愛知郡田代村(現在の名古屋市千種区法王町)に建てられた寺院である(1942年に日泰寺に名称変更)。仏骨を納めるための奉安塔は1918年に完成した。しかし、日暹寺/日泰寺は日タイ文化交流の中心地の1つであるにも拘わらず、これまで研究者はほとんど注目して来なかった。本研究は、地方・宗教新聞や各宗派機関誌を分析することで、明治・大正期の日暹寺の歴史の再検討を行った。
著者
高橋 徹 松下 正明 鷲塚 伸介 萩原 徹也
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

以下の2編の論文を発表した。①作家・北杜夫と躁うつ病 ― 双極性障害の診断 ―.病跡学雑誌95:58-74,2018.②作家・北杜夫と躁うつ病 ― 顕在発症前エピソードと『どくとるマンボウ航海記』―.信州大学附属図書館研究8:57-87,2019.第一報において、北杜夫における「躁うつ病」の病名が、現代の診断基準における双極Ⅰ型障害に該当すること、また「混合状態」「急速交代型」の特徴を有していたことを考察した。第二報において、顕在発症とされている39歳前にも気分変動が存在し、『どくとるマンボウ航海記』(1960年:33歳時)の執筆にも躁状態とうつ状態が創作に影響を及ぼしていた可能性を指摘した。
著者
時安 邦治 平川 秀幸 西山 哲郎 宮本 真也 関 嘉寛 谷本 奈穂
出版者
学習院女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本共同研究のテーマは、人々(特に子どもたち)が日常的に親しむ文化において科学がどのようなものとして描かれ、人々がそれをどう受容して、どのように「科学的なもの」を理解しているかである。子どもたちが接するコンテンツに描かれているのは、科学的な根拠を欠く「非科学」というよりは、科学的には実現されていない、いわば「未科学」である。これらのコンテンツには科学を批判的に見る視点が確かに含まれているが、最終的には科学技術のリスク認知よりもそれへの期待が上回るという分析結果となった。
著者
菱田 慶文 柴山 信二朗
出版者
四日市看護医療大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

アブダビ首長国において、最も振興されていたのがブラジリアン柔術である。学校体育で導入され、男子はグレード6から12まで(小学6年生から高校3年生まで)が必修であり、女子には選択授業として開講され、約8割の女子生徒が学んでいた。アブダビ首長国は、柔術の導入において、青少年の心の成長や健康問題の改善、さらに世界に通用する柔術選手を育成し、首長国の愛国心の高揚を期待していると考えられる。学校体育に導入されたことで、女子の格闘技に対する教育観や娯楽観に変容があったとみられる。それまでアブダビの女性は、格闘技を行う人が少なかったが、現在では、多くの女子が柔術の試合に参加することから分かる。
著者
佐藤 秀一 芳賀 穣 近藤 秀裕
出版者
東京海洋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

淡水魚と海水魚は、栄養要求は大きく異なっている。特に脂肪酸要求やアミノ酸関連物質であるタウリンの要求が異なっている。そこで、タウリン合成に関与するシステイン硫酸脱炭酸酵素の遺伝子の構造解析等をマダイ、ブリ、スズキ、マツカワについて行った。さらに、各器官・組織での発現を調べた結果、肝臓、幽門垂で強い発現がみられた。またひらめにおけるDHAおよびタウリン含量の異なる餌料および環境水中の塩分量がDHAおよびタウリンの合成酵素遺伝子の発現に及ぼす影響を調べた。餌料中のDHAおよびタウリン含量ならびに塩分の変化によって、DHAおよびタウリン合成酵素様遺伝子の発現量が変動することが明らかとなった。
著者
土畑 さやか
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

一回繁殖型とされてきたヤマジノギク種群(含ツツザキヤマジノギク)・近縁種カワラノギクにおいて、開花株の花茎基部に形成されたロゼット葉(開花株ロゼット)を見出した。これを介した多回繁殖および撹乱環境への適応の可能性を明らかにするために、開花株ロゼットの頻度調査・集団間比較、多回繁殖の有無の検証を行った。結果、撹乱環境に生育する集団で開花株ロゼットを介した多回繁殖が実際に生じていることが判明した。また、ヤマジノギク種群・近縁種の遺伝的関係を明らかにするために、ddRAD-seq法によって得られたSNPsを用いて集団遺伝学的解析を行った。結果、従来の形態分類と遺伝的近縁さは一致しないことが示された。
著者
石黒 直隆 柳井 徳磨
出版者
岐阜大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

産卵系の鶏でのアミロイド症の発生は、細菌の不活化ワクチン接種により誘発される炎症刺激が原因であることが知られている。今回、多種類のワクチンが接種さえた発育鶏の大規模養鶏場で鶏アミロイド症を確認した。発症した鶏を病理解剖した処、アミロイドの沈着が観察された。特に、サルモネラの不活化ワクチンを接種した鶏でアミロイド症の潜在的病変が存在することを確認した。鶏群間でのアミロイド症の伝播を知る目的で、皮下および経口的に鶏由来のAAアミロイドを投与したところ、効率にアミロイド症が鶏群間で伝播することを確認した。鶏アミロイド症はワクチン接種により誘発され、鶏群間で伝播することが明らかとなった。
著者
杉本 渉 宮丸 文章
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

4種類の導電性ナノシート(K-RuO2,Na-RuO2,K-IrO2,還元型酸化グラフェン)のTHz領域における電磁応答特性を調べ,新規THz光学デバイスへの応用性を検討した。THz領域における透過率を測定し,シートインピーダンスを算出した結果,K-RuO2はTHz領域において比較的高い導電性を示すことが示された。K-RuO2ナノシート膜は波長に対して非常に薄い領域にTHz波を吸収させることができるため,THz領域の薄膜吸収体として応用が期待できる。一方,メタマテリアルへの応用について検討した結果,導電率が最も高いK-RuO2ナノシートでもメタマテリアル構造には適していないことが示唆された。
著者
大谷 光春 赤木 剛朗 石渡 通徳
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

N-次元ユークリッド空間の有界領域Ωにおいて,斉次ディリクレ型境界条件下で,次の方程式: du/dt - △u + β(u) + G(x,t,u) = f(x,t) に対する初期値問題,時間周期問の解の存在について研究した.ここで,β(u) は(多価)単調作用素,摂動項 G(x,t,u) は連続性の集合値関数への拡張概念である,上半連続性(usc)及び下半連続性(lsc)を有する集合値関数.G が集合値関数の時には,超一次増大度条件の下でも,対応する結果は存在しなかった.本研究では,一気に G が一価の場合の最良な結果を,集合値関数の場合に拡張することに成功した.
著者
高橋 征仁
出版者
山口大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、災害時の緊急避難行動にみられるヒューマン・エラーを進化心理学の観点から捉え直すことで、その基本特性および制御方法を解明することを目的とした。東日本大震災にかんする国交省の避難行動調査の2次分析を行ったところ、情報収集や家族保護、職務遂行などの社会的行動が避難行動の遅延要因であることがわかった。また、「田んぼを見に行く」ようなスカウティング行動は、30歳代と60歳代の男性に典型的にみられ、性選択と血縁選択が2重に影響していることが示唆された。
著者
園山 大祐
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

すでに先行研究によってフランスの80年代からの中等教育の大衆化がすべての階層に等しく作用して来なかったことは明らかにされている。こうした一連の研究は、階層格差や性別は進路決定過程において生み出されていること、特に進路研究では、庶民階層において生徒や保護者が希望する進路と学校側の提供する選択には「ズレ」があること、そして複数回の留年による学業失敗が特徴としてあげられている。ゆえに、留年制度に十分な教育効果がみられないことが明らかとなっている。
著者
内村 有邦
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

私たちがこれまでに樹立した「ヒト可聴音域で小鳥のように鳴くマウス変異体(Sng変異体)」を利用して、新しい「音声コミュニケーションの実験動物モデル」の構築に取り組んだ。本研究では、行動学や遺伝学に基づいて解析を行うことで、Sng変異体が発する音声の特徴やその機能について明らかにした。これにより、Sng変異体が示す発声行動が、音声コミュニケーションの進化を理解する上で有用なモデルになることが示された。
著者
石岡 恒憲 長塚 豪己 荒井 清佳
出版者
独立行政法人大学入試センター
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

研究開始当初は、入力解答を模範解答と比較し、正確性を測るために再現率と精度という2つの指標を用いることを考えていた。しかしながら、その後、含意関係認識という文法に基づく正統的な自然言語処理技術の利用が有望であることがわかり、国立情報学研究所のメンバーから知見を得ながら研究を進めた。成果は以下の通り:1.小論文の採点・評価について、我々の実証実験をもとに、日本テスト学会第10回大会で発表した。2.エッセイ/作文テストにおけるコンピュータ利用と自動採点について、公開シンポジウムで講演し、広く活動を紹介した。3.自動採点に向けた統計処理技術の方法について研究を行い、有名雑誌等に多くの論文を掲載した。
著者
佐藤 克文
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

動物搭載型カメラと加速度行動記録計を組み合わせることにより、直接観察が出来ない水生動物の生態を解明する手法を開発できた。1)マンボウ:行動的体温調節を行いつつ、深海に生息するクダクラゲ類を捕食している証拠を得た。2)マッコウクジラ:突進遊泳した際に撮影された映像には、イカの墨とおぼしき懸濁物が撮影されていた。これは、マッコウクジラが活発な追跡遊泳によって餌生物を捕らえている事を意味している。3)深海ザメ:日周鉛直移動を繰り返す深海性のサメ2種は、いずれも潜降時の方が浮上時に比べて激しく尾鰭を動かしていた。これは、従来言われていたこととは逆に深海ザメが正の浮力を有することを示している。
著者
堀尾 文彦 村井 篤嗣 小林 美里
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ビタミンCであるアスコルビン酸(AsA)の欠乏時には肝臓のヘムタンパク質であるシトクロムP-450(CYP)が減少し、薬物代謝能が低下する。しかし、このAsAの作用機構は明らかではなかった。本研究の結果、AsA生合成不能のODSラットのAsA欠乏時には肝臓のヘム分解の律速酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の発現上昇が起こることを見出し、それに続いてCYP量の減少することを証明された。そして、AsA摂取下でもHO-1誘導剤投与が肝CYP量の減少させることを見出した。本研究により、AsA欠乏によりヘム分解が亢進して肝CYP量の減少をもたらすというAsAの新規な生理機能を提唱できた。
著者
津崎 実 川上 央
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

次元コンピュータ・グラフィックスでの人体モデルに人間らしい動作をつける際に,モーションキャプチャーシステムを使う場合には測定上の誤差に対する後処理的な修正が必要となることが多い。本報告ではダンス動作をキャプチャーした際の誤差修正の手段として,足先の接地状態を補助的な視覚映像に基づいて施すことの効果について,バイオロジカル・モーション刺激を用いた対比較による強制選択法による知覚評価実験と,fMRIによる脳活動計測を実施した。その結果として,修正による変化は確実に存在し,修正版を良いと判断した評価者がいる一方で,修正版は躍動感という点においては無修正版よりも低下することを示唆する結果を得た。
著者
島谷 康司 島 圭介
出版者
県立広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

姿勢制御戦略では,身体状況に応じて視覚・体性感覚・前庭系の情報をどのように重みづけをするかが重要となります。 著者らはヘリウムガス入り風船を把持させると歩行中の乳児の身体動揺が減少することを報告しました。本研究では,「浮遊する風船を把持することによって被験者の立位姿勢制御戦略がどのような影響を受けるのか」を目的に,指先感覚情報の“揺らぎ”解析をし,風船把持歩行の効果の謎に迫りました。結果,風船との物理的な接続によって指先への体性感覚情報が変化(感覚情報の再重みづけ)し,風船を把持することによって姿勢制御システムの複雑性が増し,身体動揺を低減させることに有用であることが明らかとなった。
著者
板井 章浩 及川 彰
出版者
鳥取大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

果肉や果皮に花粉親の影響が出ることをメタキセニア現象と呼び、ナツメヤシなどで現象が確認されているが、その分子機構はまったく解明されていない。そこで、ニホンナシにおいて花粉親をかえ、メタキセニアの存在を明らかにすると同時に、その分子機構解明のためマイクロアレイおよびRNA-seq解析を用いて花粉親の違いにより変動する遺伝子の探索を試みた。収穫果実において、花粉親の違いによって種子数に差はないにも関わらず、果実重に差が認められたことから、メタキセニアが確認された。メタボローム解析ではアミノ酸、有機酸などで差がみられた。網羅的遺伝子発現解析により、各花粉親間で数百遺伝子の発現に差が認められた。