著者
ゴチェフスキ ヘルマン
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究のもっとも重要な目的は、音楽学に日本と韓国の研究交流を妨げるさまざまな理由を発見し、将来の交流の可能性と方法を具体的に示すことであった。この研究のために4ヶ月半韓国に滞在し現地調査を行う機会が与えられたので、今年度はこの現地調査に集中した。そこではまず多くの学会や音楽フェスティヴァルに参加し、大学の研究施設を訪問し、学術団体の活躍について調査し、多くの学者とのインターヴューを行った。そして自分でも数多くの学会発表や公開講演を行い、韓国の学界のありかたを広く知ることができた。その中では9月11日の音楽関連諸学会共同主催 韓独音楽学会創立20周年記念学術大会『音楽研究をどうするか-韓国での音楽学の過去・現在・未来』における発表「西洋音楽研究における(東)アジアの観点」(それを韓国語で行った)と11月13日の〓園大学校アジア文化研究所第三階国際学術大会『アジア・ナショナリズムの境界・主体・文化』における発表「「地域」・「国家」・「地方」または「人種」・「国民」・「集団」-音楽の分類に含まれている政治的な意味と音楽におけるアイデンティティーの形成」がもっとも重要だった。また英語の発表で参加したショパンの誕生200年記念を祝う国際大会『ショパンの神話と実際』(ソウル、10月)では、韓国の音楽界における学術研究と音楽実技の関わりを深く観察する事ができた。「音楽学の将来の日韓交流」に関しての実績としては、2011年秋に東京大学で行われる大学院生の日韓交流セミナーの企画、研究代表者の発起によって2011年に創立される国際音楽学会(IMS)のRegional Association of East Asiaと2012年に国際音楽学会のローマ大会で開かれる日本と韓国の音楽学者を含むラウンドテーブルの企画等があげられる。
著者
朴 啓彰 熊谷 靖彦 永原 三博 片岡 源宗 北川 博巳
出版者
高知工科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

一般ドライバーと同質サンプリングと考えられる健常中高年の脳ドック検診者2193名(男性1196名,女性997名;平均年齢53.84±9.67 歳)を対象として、過去10年間における交通事故歴に関するアンケート調査を行い、頭部MRI所見の大脳白質病変と交通事故との関連性について多変量ロジスティック解析を行った。運転走行中の衝突事故など大きな事故に対して白質病変は、グレードに応じて有意の高い関連性を示した(年齢調整オッズ比は2.937:95%信頼区間1.260-6.847; P=0.013)。白質病変は、軽度でも大脳半球両側に存在すれば、視覚情報処理能力や注意機能の反応速度が有意に低下することを既に報告しているが、白質病変によるこれらの高次脳機能低下が、白質病変ドライバーと交通事故との因果関係を説明するものと推察された。因って、脳ドック受診者1150名(男性642 名、女性508 名、平均年齢52.1±8.9歳)に対して、警察庁方式CRT 運転適性検査におけるアクセル・ブレーキ反応検査結果と白質病変との関連性を調べた。アクセル・ブレーキ検査は、選択的反応動作の速さ、反応むら(変動率)、反応動作の正確さ(見落とし率)を測定する検査である。白質病変のグレードを説明変数に、見落とし率・変動率の高低を目的変数にして、多変量ロジスティック解析を行うと、見落とし率では、オッズ比1. 530(95%信頼区間;1.094-2.140、P=0.013)であり、変動率では、オッズ比1.348(95%信頼区;0.991-1.834、P=0.013)となった。安全運転に必要と考えられる認知判断機能の不正確さと反応むらに白質病変が有意に影響することが、交通事故の発生機序の一つとして想定された。頭部MRI で定量評価される白質病変グレードに応じた安全運転対策の可能性が示唆された。
著者
小田 利勝
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では、少子高齢・人口減少社会への対応策として学部教育の修業年限を1年短縮することによって期待される効果をシステムダイナミックスモデルで推計するとともに学部教育の修業年限短縮という着想に関わる諸側面に関する大学長への質問紙調査(医歯薬獣医系の単科大学、2年以内の新設大学、廃止予定の大学等を除く国立79,公立70、私立533の計682大学の学長/総長宛に調査票を郵送し、国立50(回収率63%)、公立37(同53%)、私立200(同38%)の計287大学(同42%)から回答があった)から得られたデータを分析した。18歳人口は減少し続けるが、進学率の上昇が見込まれるので、学部入学者数は2023年頃までは増加し続ける。修業年限を1年短縮することによって、2030年頃までは毎年40万~50万人の労働力人口が1年早く補充されることになる。その結果、所得税と年金保険料の増収が2025年には2,500億円から3,200億円になる。しかし、進学率が上昇しても2035年頃からは大学入学者数も卒業者数も確実に減少していき、補充労働力人口も減少し続けることになり、毎年の税収や年金保険料収入も減少していく。奨学金に関しては、修業年限を1年短縮することによって貸与学生を大幅に増やすことができると同時に奨学金貸与事業費をかなり軽減させることができる。学部の修業年限を1年短縮することによって1年前倒しして労働力人口の補充や税、年金保険料の増収を図ることができることは少子高齢・人口減少社会が抱える課題への確実な対応策になり得ると考えられる。大学長の多くは現行の4年制を支持しているが、工夫次第では教育の量と質を落とさずに3年制にすることも可能とする意見や3年制にすることに関して検討する余地があるとする回答も3割あった。そのほか多くの貴重な意見が寄せられ、本研究を進める上で、学部教育の目的や多様性をいかにして考察の枠組や分析モデルに組み入れていくかが課題であることが示唆された。
著者
平沢 信康
出版者
鹿屋体育大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

1921(大正10)年4月から、卓越した教養教育を少数の女子生徒に施し始めた文化学院の設立に至る経緯と趣旨、および自身の資財を投じて創立を敢行し初代校長に就任した西村伊作(1884-1963)の人間形成と経歴について詳細に調べた。あわせて大正自由教育を代表する文化学院の学監、教授、講師たちの経歴および同校との関わりを精査し、カリキュラムを含め、芸術教育に主眼を置いた同校のリベラルな教育の歴史と特質を、社会背景と共に明らかにした。
著者
家森 信善
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、近年、金融市場との融合が進んでいる商品先物市場の現状を分析し、投資家が安心して投資対象にできる商品先物市場を構築するための基礎的な研究を行った。具体的には、(1)商品先物市場の価格変動の特徴に関する研究、(2)商品先物を活用した個人投資の可能性に関する研究、(3)商品先物取扱業者の経営破綻に関する研究、の3つの研究を行った。制度的な整備は進んでいるものの、実際の利用は進んでいないし、また、金融化の行き過ぎが新たな問題を生み出している。
著者
東 達也 西井 龍一 加川 信也
出版者
滋賀県立成人病センター(研究所)
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

腫瘍診断の領域で広く用いられるFDG-PETの欠点である炎症性疾患への偽陽性を克服するため、システムA輸送体を介した人工アミノ酸製剤である[N-methyl-^<11> C] MeAIB ;α-methylamino-isobutyric acidを開発、安全性を確認、薬剤合成法を確立し、腫瘍診断法としての基礎を確立した。ヒト癌患者を対象とした臨床的な研究を推進し、合計200例以上の脳腫瘍、胸部腫瘍、前立腺腫瘍患者を検討し、良悪性鑑別診断として一定の評価を得た。
著者
前林 清和
出版者
神戸学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、地雷被害が続くカンボジアにおける地雷回避教育を推進するための研究である。まず、カンボジア北部地域、特にポイペト市において、地雷被害調査と地雷教育の実情を調査し、その不備も含めて明らかにした。そのうえで、実際の地雷回避教育プログラムおよび教材を開発した。開発した「地雷ノート」をポイペト市にある小学校3校の子どもたちに配布し、地雷回避教育を実施し、その効果を明らかにした。
著者
末次 祐介
出版者
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、超音波モータに利用されている金属体表面に励起される超音波(表面波)を応用して、マイクロマシン等にも適用可能なマイクロ(極小)気体・真空ポンプを開発研究することが目的であった。当初の計画に従い、市販の超音波モータを選定・購入し、ポンプ(モータ素子)を収めるケース内に設置してその基本特性を調べた。その結果、[1]液体については、モータの回転方向(つまり表面波の進行方向)に液体が輸送されること、[2]気体(空気)については、モータ駆動中ケースに開けた小孔から気体が流出すること、が確認され、液体・気体の輸送が可能である感触が得られた。しかし、[1]市販の超音波モータでは表面波発生部が平面ではない(モータ専用のため)、[2]ポンプケースに隙間が多い(空気が漏れる)、等の問題から"ポンプ"としての性能を確認するまでには至らなかった。そこで、超音波モータ製作会社とも相談し、表面波発生部が平面である特殊なモータ素子を製作し、そのモータ素子に密着するケースも新たに製作して、再度動作確認試験を行うことにした。しかし、モータが特殊であるためその製作に時間がかかり、また、ケース設計にも多くの課題があったことから、平成21年度内には実験結果を出すことはできなかった。しかし、現在、特注モータおよびその駆動電源、新ポンプケース、そして真空ポンプとしての試験用の真空チェンバー、真空ゲージ等を購入しており、引き続き基礎実験を続ける準備は整っている。これらを使用して、今後も本マイクロポンプの開発研究を継続していく予定である。
著者
稲田 有史 中村 達雄
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究はそれを末梢神経の痛みを伴う患者に適応したとき、偶然に発見した驚くべき事実、即ちこれまで不可逆と考えられていたCRPSが、局所の障害を受けた神経を切除して、健全な末梢神経を再生されることによって、治癒するという事実を解明した。本研究ではこの局所の再生治癒機転を病理的に解明することから開始した。こういうアプローチは臨床では従来されてこなかったものであり、これまで治のみならず世界的にもかつて例がない。平成22年度に行った研究とその成果は下記の如くである。1) 局所の末梢神経損傷が周囲に与える影響を病理組織学的に検討した。臨床的に我々が初めて確認したカウザルギーの範囲に一致して損傷部位の神経からsproutingが生じるという事実を動物実験で検証した。2) 再生する末梢神経が中枢に与えるメカニズムを解明した。脊髄神経管の活動電位を測定し、神経線維、特にC fiberの再生を評価した。併せて神経の活動電位の回復も調べた。3) ビーグル犬のperoneal nerveの浅枝に微小電極を刺入して、単位感覚神経の活動電位を記録できるシステムを構成した。再生神経が触覚、熱覚、機械刺戟に対してどのように反応するか検討した。またマンシェット圧迫やエタノール注入によりA線維を遮断してCNAPがどのように変化するか、交感神経ブロックにより再生神経の活動電位がどのような影響を受け、これは正常の神経の回復の各時期においてどう違うか調べた。これらの研究の結果より新しい理論として「総和仮説」を提唱した。この理論は運動器疼痛に対する外科治療の新たな地平を切り拓くものとして注目されている。
著者
松田 尚樹 工藤 崇 中山 守雄 井原 誠 岡市 協生 吉田 正博
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

放射性ヨウ素による内部被ばくの影響を検出する新しい評価系の開発をin vitro、in vivoの両面から試み、その結果を住民とのリスクコミュニケーションを通して不安緩和に随時応用した。In vitroではI-131を取り込んだラット甲状腺培養細胞の生存率、DNA損傷、シグナル系が急性照射とは異なる応答を示す結果を得た。In vivoでは、I-131を用いるSPECTの実現可能性は確認されたものの、内部被ばく検出とその健康リスク評価については、さらに複数の核種、プローブを駆使して開発を進める必要が残された。このような実験結果は、リスクコミュニケーションを進める上での重要な素材となった。
著者
横山 智
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究で扱う納豆様の無塩発酵大豆食品(ナットウと記す)の起源や伝播経路に関しては、これまで数多くの議論が交わされてきたが、未だに明らかになっていない。そこで本研究では、これまでの議論を踏まえつつ、東南アジアとヒマラヤのナットウに焦点をあて、ナットウを製造する民族の食文化、製法、利用方法を調査した。その結果、各地のナットウの共通点と差異から「ナットウの発展段階論」を提示した。さらに、ナットウの形状に着目して地域分類を行ない、それらを総合的に考察した上で東南アジア大陸部とヒマラヤの4 地域で独自にナットウが発祥したとする仮説を打ち出した。
著者
小谷 信司 鈴木 良弥 渡辺 寛望
出版者
山梨大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

発話が不可能で両手両足の自由がきかない重複肢体不自由者に対して、視線を利用したコミュニケーション実現を目指している。過去の研究において、短い語彙入力の場合、有効性が認められたが、長い文章入力の場合で、誤入力が生じると、極端に効率が悪くなることが判明した。そこで、静的属性(知識・経験)、基本属性(時間・空間的情報)、動的属性(周囲・人物情報)を組み合わせて、その状況に応じた予測変換を実現することを目指した。シミュレーション実験と健常者による実験において良好な結果が得られた。現在、支援学校に協力してもらい生徒と一緒に取組を行い、その有効性を検証中である。
著者
澤山 利広 久保田 賢一 久保田 真弓 金子 洋三 福永 敬 津川 智明
出版者
関西大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、新たな半世紀を見据えた我が国の政府系国際協力ボランティア(国際V)に関する政策提言である。まず、自己変革の途上にある米国と韓国のV事業に込められた国家戦略等を整理した。次に、ブータン、フィリピン、ガーナを対象に日米韓の国際Vの派遣実績をMDGs等の国際的なコンセンサスを踏まえ、派遣国側のODA大綱等と受入国側の開発計画等と照らし合わせて、傾向と特色を明らかにした。これらの省察を通じて、JOCV隊員の特性を礼節等とし、隊員自身自身にはコンピテンシーの向上が見られた。帰国隊員による国内還元については、専門技術支援とコーディネート業務に加え、社会開発活動に特筆すべき点を見出した。
著者
田口 明彦
出版者
公益財団法人先端医療振興財団
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

申請者は脳血管障害患者の末梢血中造血系幹細胞の減少・老化が、脳循環代謝の低下・脳梗塞の発症・認知機能の悪化と強く関連していることを明らかにしてきたが、本研究では老齢ラットに対する若齢造血系幹細胞移植を行い、老齢個体に若返り効果が得られるかの検討を行った。その結果、老齢個体の造血系幹細胞を若返らせることにより、老化とともに障害されている脳循環障害時の血管反応性が著明に向上することが明らかになった。
著者
関谷 洋之 岩田 圭弘
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

キセノン(Xe)は、暗黒物質探索、二重ベータ崩壊探索等の稀事象探索に広く用いられる重要な元素であり、バックグラウンドとなる不純物をを如何に抑えられるかがキーポイントになる。キセノン中に含まれる放射性希ガス不純物の中で、アルゴン(39Ar)及びクリプトン(85Kr)は蒸留により容易に除去できる。しかし、ラドン(222Rn)は検出器の構成物質からキセノン中へ定常的に放出されるため、長時間にわたり連続的にラドンを除去する手法を開発する必要があった。そこで、本研究ではレーザーを用いた共鳴イオン化技術に着目し、ラドンのみを選択的にイオン化して除去する斬新な手法を導入し、原理検証に成功した。
著者
廣瀬 弥生
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究は、専門的知識を一般市民に移転する際に、必要とされる社会システムとはどのようなものであるかに関する考察を目的としている。検討の過程では、一般市民がいかに専門的知識を誤解して受け取ってしまう可能性があるかに関して調査を実施した後、実際に社会システムを構築する際には、どのような点に考慮すべきかに関して検討し、各種学会誌にて、提言を実施した。
著者
黒田 龍二
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、社会・風俗史的な要素を多分に含む、人物彫刻を中心に調査、研究を行っている。本年度の主要な調査としては、日本で作られた中国神仙彫刻の淵源と推定される中国古建築の実地調査を行った。調査地は中国で最も古い木造建築物が残っている山西省で、8世紀の南禅寺大殿にはじり、12世紀頃までの比較的古い建築物を踏査した。これらの古い建築物においては、建築彫刻は植物、動物にとどまり、のちの状況からすると未発達で、人物彫刻は見られなかった。このことから、人物彫刻の発生は、中国においても13世紀以降になると推定される。もた、比較的新しい伝統的建築物も何棟か見たが、山西省では人物彫刻は少ないと推定される。文献資料では中国南東部の古建築に人物彫刻が多くみられ、地域的には南東部で発生しているものと推定される。しかし、日本で見るような単独形態のものはもだ発見していない。17世紀に日本で建てられた中国建築である長崎の崇福寺の建築でも、建築彫刻は精緻であるが、それほど多くはなく、人物彫刻も無い。明治に入って建てられた興福寺大雄宝殿では豊富な彫刻がみられ、人物彫刻もある。このようなことから、中国建築に関してはまったく不十分な調査であるが、先年度に調査した16世紀の土佐神社に見られるような神仙彫刻は日本で独自に考案された可能性があるのではないだろうか。以上のような見通しを得ることができたので、今後、日本の桃山建築にみられる爆発的な彫刻の発生の要因が、中国であるのか、日本であるのかをその主題や使用部位をみながら考究する視座を得ることができた。社会・風俗史的な背景を明らかにすることは困難であったが、人物彫刻の扱いは中国と日本では異なる部分があると推定され、その要因がどのようなものであるのを今後の課題とする。
著者
山田 利博
出版者
宮崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

(1) 350ほどもある宮崎の神楽のうち、データベース化されたのはただ一つと言っても過言ではなかったこれまでの状況に対し、主要3系統5つのデータベースが提供できる準備が整った。(2)そのデータベースに付された字幕解説により、初心者でも神楽の舞の意味を容易に掴めるようになった。
著者
佐藤 徹哉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

磁性原子がランダムに配列した磁性体であるスピングラスでは、低温でスピンが凍結し、エイジング現象やメモリー効果などの特徴的な記憶現象を示す。しかし、その詳細については不明な点が多い。本研究では、スピン配列の詳細な情報を得るためにスピン流の利用に注目した。これは、スピン流がスピンの方向とスピンが流れる方向の二つの量を持つベクトル量であり、スピングラス中のスピンと直接相互作用してスピン配列の有用な情報をもたらし得るためである。スピン流を用いてスピングラスの低温相での挙動を解明することを目的に研究を進めた。強磁性FeNi層/中間Cu層/スピングラスAgMn層の3層構造をスパッタ法により作成し、強磁性層の強磁性共鳴を利用したスピンポンピングによるスピングラス層への非局所スピン流注入を試みた。比較のため、スピングラス層を含まない強磁性FeNi層/中間Cu層の2層構造も作成した。中間層は強磁性相とスピングラス層の間に交換結合が生じさせないために挿入した。マイクロ波を薄膜に対して垂直方向に、掃引磁場を薄膜に対して平行方向に印加し、低温での強磁性共鳴のスペクトルの半値幅の温度依存性を調べた。その結果、3層構造試料の半値幅はすべての温度領域で2層構造試料の半値幅より大きく、これはスピングラス層に注入されたスピン流が吸収されることにより生じるものと考えられる。また、2つの試料での半値幅の差はスピングラス転移温度近傍で極小を示した。この特徴は、スピングラス転移温度以下で、スピン拡散長が急激に低下するか、またはミキシングコンダクタンスが増大することで解釈される。現在のところ、この両者のどちらが支配的であるのかについては明らかではないが、スピングラス相と常磁性相ではスピン流の挙動が異なることがわかった。
著者
平子 友長
出版者
一橋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究の成果は、カント最晩年における政治哲学を、非西洋諸大陸の先住民の先住権を否定する「無主の地」理論を装備した同時代の西洋国際法に対するラディカルな批判として解釈するものである。カントの世界市民法の概念は、非西洋世界に住む人々の先住権を基礎付け、西洋の植民地主義と対決するための論理を提供するものであった。