著者
鈴木 元
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

遺伝的揺らぎ研究:これまで、肺癌検体を用いたmRNAマイクロアレー解析、細胞レベルにおける各種実験結果より、POLD4遺伝子の重要性を多角的に解明してきた。POLD4発現低下は細胞レベルで、肺癌発生と密接な関連を有するタバコなどによるDNA損傷修復活性の低下をもたらす。外的損傷がない状態でもG1/S期およびS期における細胞周期チェックポイント活性化を誘発し、染色体断裂頻度の上昇を伴う。平成25年度はこのチェックポイント活性化につながる機序の解明を行った。すなわち、POLD4発現低下はDNA複製・修復能低下により2本鎖切断を誘発し、ATMの活性化を引き起こす。その結果p27遺伝子産物の分解抑制によりチェックポイントの活性化が導かれることが明らかとなった。細胞膜揺らぎ研究:ハイブリッドリポソーム処理により、種々のがん細胞においてアポトーシスが誘発される。我々は、その過程で本来細胞内に極めて微量にしか存在しないリン脂質が増加すること、また、そのリン脂質の下流代謝物のひとつである、スフィンゴ脂質組成が変化することを明らかにしてきた。さらに、これらスフィンゴ脂質組成変化の責任遺伝子を同定したところ、その責任遺伝子が癌で高発現していることが明らかとなった。この責任遺伝子の癌における機能を明らかにするため、ノックダウン、過剰発現を主体とした実験系を構築し、解析を行った結果、この遺伝子は癌細胞の転移に必要であることが明らかとなった。以上の結果はハイブリッドリポソームは、癌転移能亢進のため細胞が高発現している遺伝子産物の活性を利用して、抗癌剤としての作用を発揮するという機序を示している。
著者
長谷部 光泰 倉谷 滋 嶋田 透 藤原 晴彦 川口 正代司 深津 武馬 西山 智明 岡田 典弘 阿形 清和 河田 雅圭 郷 通子 豊田 敦 藤山 秋佐夫 望月 敦史 矢原 徹一
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本領域の目的である、多様な研究から「複合適応形質進化の共通メカニズム」を推定するという総合的研究を展開する、進化生物学とゲノム生物学を融合させる、を実現するため総括班を有機的に組織し、下記の活動を行い、効率的に連携できた。(1)領域会議を年2回、インフォマティクス情報交換会を5年で18回、ニュースレターを5年で63号発行し、領域内での情報共有、共通意識形成を行った。(2)ゲノム支援活動として実験方法のアドバイス、ゲノム配列決定支援、外部委託についてのアドバイス、各班のインフォマティクス担当者などに指導を行った。(3)形質転換実験技術支援を行った。(4)国内、国際シンポジウムをほぼ毎年開催した。
著者
大原 繁男
出版者
名古屋工業大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

Yb化合物研究では、純良単結晶を得にくい問題がある。我々は新物質YbNi_3Al_9及びYbNi_3Ga_9の純良単結晶育成に成功し、強相関Yb化合物の研究において極めて有用であることを明らかとした。X線回折、比熱、抵抗率、帯磁率、de Haas-van Alphen(dHvA)効果、光電子分光、X線吸収、圧力効果の測定から以下のことがわかった。①三方晶ErNi_3Al_9型構造(空間群R32)を持ち、カイラル体である。②YbNi_3Al_9はYb価数がほぼ+3価の重い電子系ヘリカル磁性体(T_N=3.4K)であり、YbNi_3Ga_9はYb価数が+2.5価の価数揺動体である。③YbNi_3Ga_9は低温で近藤ピークを示し、伝導電子(c)とf電子が強く混成している。④YbNi_3Al_9、LuNi_3Al_9、LuNi_3Ga_9は類似したフェルミ面を持つが、YbNi_3Ga_9はcf混成のためフェルミ面が異なる。YbNi_3Al_9及びYbNi_3Ga_9ではサイクロトロン有効質量が増大している。反転対称を持たないため、いずれもフェルミ面が分裂している。⑥YbNi_3Ga_9では価数揺動から磁気秩序状態まで圧力により連続的に電子状態を調節でき、磁気臨界圧力で超伝導を示すかどうか興味がもたれる。YbNi_3Al_9は4GPa、YbNi_3Ga_9は9GPaで強磁性に転じる。⑦Yb(Ni_1-xCu_x)_3Al_9及びYb(Ni_1-xCo_x)_3Ga_9(x0.33)が合成でき、置換により基底状態が調節できる。発展として、R(希土類)Ni_3Al_9の合成を行い、4f電子系カイラル磁性の研究を進めている。そのほか、Gaを組成比に多く含むCe_2TGa_12(T=Ni, Pd, Pt)及びCe_2Pt_6Ga_15についても単結晶を育成し、電子物性測定を行った。
著者
向井 苑生
出版者
近畿大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

大気エアロゾルの広域分布導出を目指すエアロゾルリモートセンシングが主たる研究課題である。 具体的には、地球大気モデルにおける放射シミュレーション手法の効率化と精度向上を目指し,実利用解析における実効性に留意した。 本年度に新たに得られた地球大気モデルにおける放射シミュレーションコードと地上集中観測DRAGONに焦点を当てて報告する。A)半無限大気モデル用の放射計算手法(順次散乱法: MSOS)のコード化並びに一般化を行った。これにより,MSOSの一般利用普及が期待出来る。MSOSをMODISデータに適用し、黄砂嵐粒子や森林火災由来の煤煙粒子の光学特性導出(エアロゾル リトリーバル)を実施し,良好な結果が得られた。B) 2012年春季(2月15日から5月31日)に実施されたNASA/AERONETのDRAGON-東アジアに参加しDRAGON-日本/大阪を統括運営した.NASA/AERONETの標準放射計の高密度設置の他,NIES/LIDAR, PM-サンプラー,全天カメラ,可搬型放射計(Microtops-II) 等多様な大気エアロゾル計測機器を導入して大気エアロゾルのローカルな空間変動を捉える事が出来た。特に3月11日に中国大陸から飛来した高密度汚染大気塊を,上記の多種多様な機器によるデータから実証できた意義は大きい。SEM-EDXを用いて,サンプリング採集したPM粒子の形態及び化学組成分析を行い,短い時間内における粒子組成の成分比の変化や非球形形状を検出した。
著者
花嶋 かりな
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

大脳新皮質のニューロンは脳室帯とよばれる部位の神経幹細胞から生み出され、初期ニューロン-深層投射ニューロン-上層投射ニューロンと順次異なる細胞種を産生することで、最終的に6層の構造を形成する。本研究では発生段階に応じて産生される細胞種が切り替わるメカニズムを明らかにするために、大脳皮質ニューロンの産生スイッチにおける転写因子Foxg1の機能を探った。まず条件付きノックアウト(cKO)マウスを作製し、Foxg1を通常より5日間遅らせた胎生14.5日目から発現させて産生される細胞を解析したところ、14.5日目までの脳では初期ニューロンが過剰に産生されたが、Foxg1を発現させるとすぐに深層投射ニューロンの産生開始が認められた。さらに発生段階が進むと上層投射ニューロンも産生され、最終的にはFoxg1の発現開始を遅らせたcKOマウスでも正常マウスとほぼ同等のニューロンをもつ大脳新皮質が形成された。さらにこのcKOマウスを用いてFoxg1の下流遺伝子プログラムを解析したところ、Ebf2/3, Eya2等多数の転写因子がFoxg1により転写抑制され、これら遺伝子の発現制御領域へのFoxg1の結合配列が、進化的に哺乳類以降で高度に保存されていることが示された。これらの結果より、大脳新皮質の形成は初期ニューロン産生というデフォルトのプログラムを初めに抑制することで投射ニューロンへの分化が進み、この産生の順番をFoxg1が正しいタイミングで切り替えることで、大脳新皮質の最大の特徴である6層構造が獲得された可能性が示された。
著者
山岡 哲二 馬原 淳
出版者
独立行政法人国立循環器病研究センター
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

フローサイトメーター(FACS)や磁気ビーズ法(MACS)より簡便で、かつ、特異細胞表面マーカーの「密度」に依存した連続的な分離が可能で、さらに、従来法のように幹細胞を抗体などで標識する必要のない新たな幹細胞分離用細胞ローリングカラムを開発した。白血球はその表面糖鎖と血管内腔のセレクチン分子との連続的な相互作用により、血管内壁をローリングすることで炎症部位へと集積する。本研究では、この細胞ローリング現象を応用して、幹細胞表面マーカーに対する特異抗体を内腔面に固定化したチューブ状カラムを作製し、単離間葉系幹細胞(MSC)を表面マーカー密度で分離し、各分画に存在する幹細胞の分化能特性を詳細に検討することで、従来よりさらに純度の増した幹細胞画分の分離を可能にした。また、非特異的相互作用を強く抑制するベタイン構造を表面抗体固定化部位に導入する事で、非特異的な強い細胞の相互作用が抑制され安定な細胞ローリングを再現することが可能となった。
著者
千野 拓政
出版者
早稲田大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

2012年度は、前年度に引き続き、北京、上海、香港、台北、シンガポールで高校生を対象にアンケート調査、インタビューを進めるとともに、サブカルチャーに関する資料を収集し、あわせてこれまでの研究成果を逐次公表した。調査に関しては、各地の協力者に、高校生対象のアンケート、インタビューをお願いしたほか、千野自身が4月16~18日、7月3~6日、9月17~20日、11月27~29日に上海へ、7月1~3日、11月25~27日に北京へ出張し、アンケート調査、インタビューを行った。香港、台湾、シンガポールでの調査は、現地協力者の都合で年度内に終了することができず、その後も引き続き継続している。資料の袖手に関しては、北京、上海で千野が漫画、アニメーション、ライトノベル、BLに関する同人雑誌および商業誌、単行本を収集した。現在も継続して収集を進めている。成果の公表に関しては、これまでの調査と2012年度の調査をもとに以下の口頭発表を行った。6月30日に天津の南開大学で開催された国際学術討論会「亜州経験与文化研究的多元範式」における基調報告「東亜諸都市的亜文化与青少年的心理―動漫、軽小説、cosplay以及村上春樹―」。7月2日に南開大学日語系で行った講演「從北斎到宮崎駿」。11月26日に北京大学で行った講演「総体戦体制与中国現当代文化」。12月9日に早稲田大学で開かれた東アジア人文学フォーラムにおける学術報告「東アジア諸都市のサブカルチャーと若者のこころ」。2013年3月12日、に上海大学で行った講演「角色与交往:東亜諸城市的青年文化与青少年的心理―動漫、軽小説、cosplay以及村上春樹―」。上記研究の最終的な報告として、早稲田大学総合人科学センターの電子ジャーナルRILASに論文を執筆予定であるほか、勉誠出版から単行本にまとめて出版する予定である。
著者
米田 穣 阿部 彩子 小口 高 森 洋久 丸川 雄三 川幡 穂高 横山 祐典 近藤 康久
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、全球大気・海洋モデルによって古気候分布を復元し、旧人と新人の分布変動と比較検討することで、気候変動が交替劇に及ぼした影響を検証した。そのため、既報の理化学年代を集成して、前処理や測定法による信頼性評価を行い、系統的なずれを補正して年代を再評価した。この補正年代から、欧州における旧人絶滅年代が4.2万年であり、新人の到達(4.7万年前)とは直接対応しないと分かった。学習仮説が予測する新人の高い個体学習能力が、気候回復にともなう好適地への再拡散で有利に働き、旧人のニッチが奪われたものと考えられる。
著者
池水 信二
出版者
熊本大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

インターロイキン(IL)-23は、Th17細胞の活性化を介して炎症性自己免疫疾患に関わる。IL-23の受容体は、IL-23RとIL-12Rβ1からなる。IL-23と受容体の結合を阻害すると、疾患の病状が緩和される。IL-23については、米国の2グループにより修飾糖を切除した試料、我々により糖修飾形状の蛋白質の構造が明らかにされた。本研究の目的は、IL-23と2つの受容体IL-23RおよびIL-12Rβ1との認識機構を構造生物学的に明らかにすることである。IL-23RおよびIL-12Rβ1の構造解析を目指して、GSTを融合させたIL-12Rβ1の細胞外ドメインを大腸菌を用いて発現させ、精製を行った。酵素を用いてタグの切除を行ったが、効率良くGSTを切り離すことに成功出来ていない。現在、GSTを切除する条件を検討中である。IL-23Rについては、細胞外に3つのドメイン(D)があるが、どの領域を介してIL-23と結合するのか、明らかにされていない。D1, D2-D3, D1-D3の発現を、大腸菌・動物細胞を用いて試みた。D2-D3について大腸菌を用いて発現させることに成功した。D1を含む試料については、大腸菌と動物細胞の両方で発現させることが出来ていない。調製したD2-D3を用いて結合実験を行ったところ、リガンドとの結合が確認出来なかった。現在、D1およびD1-D3の発現系の構築を進めているところである。IL-23/IL-12Rβ1複合体の調製・結晶化。精製したIL-12Rβ1とIL-23混ぜて複合体として精製を行った。その後、微量結晶化装置モスキートを用いて結晶化を行ったところ、微結晶を得た。現在、構造解析に適した質およびサイズの結晶を得るため、結晶化条件の精密化を進めているところである。
著者
西岡 孝
出版者
高知大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本年度は,CeRu2Al10の相転移の異常性を明らかにするため,正常な反強磁性転移を引き起こすRFe2Al10(R=Ce以外の希土類元素)の磁性を調べて比較した。それを実行するために,7T横磁場無冷媒マグネットを用いた全自動角度回転磁化・ホール効果システムの開発を行い,RFe2Al10の単結晶を9種類フラックス法で作成し,それらの電気抵抗,磁化の測定を行った。RFe2Al10はCeRu2Al10と同じYbFe2Al10型結晶構造を持っている。CeRu2Al10の相転移の主要な特徴を列挙すると次のようになる。(1) 高い相転移温度 (2) 半導体的挙動 (3) 巨大な結晶場分裂 (4) 転移温度以下でギャップの解放 (5) 転移温度以下で電気抵抗のとび (6) 磁性は2次元的 (7) 磁気秩序の伝搬ベクトルはb軸 (8) 磁性は一軸異方性を示すがa,c両軸でメタ磁性。RFe2Al10の電気抵抗はすべて転移温度以下でとびを示した。また,それらの磁化測定はすべてac面内の2次元性を示した。特に,DyFe2Al10のac面内の磁化の角度依存性は,らせん磁性を反映して,結晶構造の4回対称性とは異なる2回対称性が現れていることが明らかになった。これらの測定結果はCeRu2Al10の上で述べた(4)~(8)の特徴はCe以外の希土類にも現れていることがわかった。一方でCeRu2Al10および関連物質のCeOs2Al10のNQR測定により(1)~(3) の特徴は大きな伝導電子とf電子の交換相互作用Jcfに起因するものであることがわかった。したがって,CeRu2Al10の相転移は全く新しいものではなくて,結晶構造に密接に関係した相転移が大きな伝導電子とf電子の交換相互作用Jcfによってエンハンスされたものと理解することができることが明らかになった。
著者
長柄 一誠
出版者
鳥取大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

構造予測においては成功例が多い第一原理シミュレーションであるが、通常行われる交換相関相互作用に対する局所密度近似(LDA,GGA)のもつ欠点故に、バンドギャップが正しく評価出来ず、金属-非金属転移の評価には使えない。そこで、最近有用性が明らかになって来た準粒子モデルに基づく第一原理計算(GW近似計算)を用いて、バンドギャップの圧力変化のより信頼性の高い評価を行い、圧力誘起金属転移が報告あるいは予想されている水素化合物と水を調べ、より信頼出来る金属転移圧評価を目指した。結果はこれらの物質の圧力誘起金属化実験に対して、指針となるデータとして役立つ。 2011年に、希土類水素化物 YHx、特に YH3について、圧力誘起金属転移の新しい実験が大阪大等で行われ、また内外で理論的な予測構造も報告された。この物質のGW近似に基づく計算結果は、予測されている20数万気圧での金属化という結果よりずっと高い転移圧になるという、大阪大の結果を支持するものであった。(50th EHPRG会議 Thessaloniki, GREECEで発表)。これに続いてより複雑な構造に対するGW計算を実行するため、連携研究者である鳥取大学の小谷岳生氏にGWコード(Ecaljコード)の並列化を進めて頂き、高速計算が可能になった。それを用いて、ヨウ素の圧力誘起金属転移を調べると、通常のLDA,GGAの12万気圧程度でバンドギャップが閉じ金属化するという結果を修正し、実験値に近い約20万気圧でバンドギャップが閉じるという結果を得た。他のコードとの比較を行い、信頼性のチェックが終われば結果を公表する。コード改良の結果かなりの高速計算が可能になり、今まで以上に複雑な構造が扱えるようになって来たため、水をはじめ多くの構造が提唱されながら、金属転移圧が依然としてはっきりしない金属水素の金属転移圧予測を今後めざす。
著者
本田 靖 中井 里史 小野 雅司 田村 憲治 新田 裕史 上田 佳代
出版者
筑波大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,東アジアにおけるエアロゾルの健康影響,特に死亡への影響を,疫学的手法を用いて明らかにしようとした.日本,韓国,台湾の主要都市における粒子状物質濃度,日別死亡数などのデータを収集した.福岡市など九州地域では粒子状物質濃度に越境汚染の影響が示唆されたが,東京などでは大きな影響は見られなかった.死亡への影響ははっきりしなかったが,福岡で大きいという可能性が示唆された.
著者
王 青躍 鈴木 美穂 中島 大介 三輪 誠
出版者
埼玉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

近年、黄砂の飛来とスギ花粉飛散ピークと重なって度々出現し、同時にスギ花粉アレルゲン含有粒子の高濃度現象が観測されているため、都市部において、黄砂がスギ花粉と接触し、スギ花粉アレルゲンの放出や修飾影響、アレルギーの増悪など、花粉症罹患への黄砂や汚染物質の複合影響を評価した。特に、スギ花粉アレルゲンの微小粒径への移行は降雨が影響しており、降雨のイオン成分やpHによるスギ花粉アレルゲンの溶出挙動とその活性変化を検討した。
著者
中村 みほ
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本年度は当該研究の最終的まとめの段階であり、追加データの収集、研究成果のまとめ、成果発表を行った。1.ウィリアムズ症候群(以下WS)における顔認知:WS患者は定型発達成人に見られるような倒立顔処理が正立顔処理に比べて苦手である(すなわち顔倒立効果を認めない)とする報告と、定型発達者と変わらずに顔倒立効果を認めるとする報告が混在している。我々はその認知機能を詳細に調べたWS患者において、脳磁図および脳波により倒立効果の発現の有無を検討した。それにより、自験例においても顔倒立効果を認める例と認めない例の存在を明らかにし、その違いはWSに特徴的な視空間認知障害のレベルに依存する可能性があることを示唆した。(Nakamura et al. 2013)2.WS患者における社会性の認知発達:視点取得課題(ある物体を別の視点からみるとどのように見えるかを問う課題。社会性の発達と関連があるとされている。)を心的回転課題(物体を回転させるとどのように見えるかを問う課題。)との比較において検討した。WS患者においては精神年齢を一致させたコントロール群に比して両課題ともに低い成績を示した。また、WS患者において、精神年齢の増加に伴い心的回転課題の成績の改善がみられるのに対し、視点取得課題ではそれを認めなかった。心的回転課題は視空間認知機能と関連すると考えられるが、視点取得課題とは異なる発達過程を示すことが示唆された。Hirai et al. 2013)3.WSの社会性の認知発達:顔への注意の強さを視線追跡装置を用いて検討した。課題に無関係に画面上に現れる顔画像に対して、他の物体の画像と比べて注視する時間が長いことが客観的に確認された。(in preparation)
著者
田中 実 小林 悟
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

身体が作られる過程において、雌雄の決定(性決定)はまず体細胞で行われる。この影響を受けて生殖細胞は卵になるか精子になる(生殖細胞の性決定)が、生殖細胞内でどのようなメカニズムによって性が決まるかは不明であった。本研究の結果、遺伝的制御の基盤が明らかとなり、身体の性決定前から生殖細胞にはY染色体依存的な性差があることが明らかとなった。さらに最終的に卵か精子になるスイッチ遺伝子の同定に成功し、スイッチを切り替えると、卵巣内で機能的な精子が作られる。また適切な性分化のためには、内分泌制御によってゲノムワイドにエピゲノム状態が影響されることが必要で、その制御が乱れると性転換が生じるとの知見が得られた。
著者
藤森 厚裕
出版者
埼玉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

疎水性高分子を希薄溶液から,気/水界面に展開するだけで,1桁ナノメーターサイズで極めて高さの揃ったナノ微粒子が形成される.このナノ微粒子を同一面内に二次元集積させた単粒子膜を固体基板上に一層づつ移し取って積層させた,ナノコロイド結晶ライクな,「ポリマーナノスフィア積層粒子層状組織体」を新規に創製した.本課題においては,領域趣旨に従い,このソフトマテリアルが界面にて形成する構造体の形成過程と最終構造の精密分子配列解析を実行した.まず形成物質としては,系統的に側鎖長を変えて新規に合成(直接重合法)した,含長鎖アルキル芳香族ポリアミドを用い,加えて「疎水性」「機能性(発光特性)」という観点から,N-ビニルカルバゾールを含む三元櫛形共重合体をも新規合成し,使用した.これらの固体構造を広角X線回折,小角X線散乱,示差走査熱量測定により評価した.更に水面上におけるin situ測定として,化合物群の表面圧-面積曲線による評価を行い,ナノ粒子形成機構を検討した.更に固体基板上に,Langmuiur-Blodgett(LB)法を用いて一層一層積み重ね,out-of-plane X線回折,in-plane X線回折の測定を行い,特に一層膜については,原子間力顕微鏡(AFM)測定を行った.特に,可視光領域の厚みまで階段状に積み重ねた累積膜に関しては,構造色による発色を確認した.回折方向の異なる2種のX線回折法による解析から,高さ方向に分子鎖が折り畳まれて積み重なった構造を形成していることが判明した.更に紫外-可視分光法,蛍光分光法によって,粒子内でπ共役系部位がスタックした蛍光発光能の増強が確認された.また,気-水界面における"繰り返し圧縮緩和法"により,粒子配列と粒子充填構造が発達した高密度集積化構造が達成されている様子をAFMによって確認し,新規のナノコロイド結晶としての可能性が示された.
著者
高井 まどか
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008-04-01

本研究では、材料表面へのタンパク質の吸着とそれを介した細胞接着を、様々な材料表面を用い、水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)法を用いて評価することで、初期接着挙動を解析するデバイス創製を目的とした。QCM-Dを用いることで、タンパク質が材料の吸着し細胞が接着する一連のプロセスを同一パラメータで解析することができた。また細胞接着密度の異なる接着細胞数では、接着している細胞数が多いと、吸着と伸展の挙動は検出されるが、リモデリングは観察されないという差異をQCM-Dで解析することができた。細胞と材料表面の接着挙動を動的に解析するデバイスとしてQCM-Dが適応できることを明らかにした。
著者
前田 瑞夫 高原 淳 高井 まどか 栗原 和枝 長崎 幸夫 三浦 佳子 菊池 明彦 松岡 秀樹 北野 博巳 佐藤 縁 熊木 治郎 山岡 哲二 宮原 裕二
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008-11-13

本領域では、ソフト界面に関わる先導的研究や若手研究者による挑戦的研究を糾合・組織化することにより、ソフト界面が示す新奇現象を解明し、その特性を活かした新機能材料を創出することを目指して研究を進めてきた。その成果は年度ごとの成果報告書・公開シンポジウム等により積極的に発信してきたが、それだけでは領域の全体像が見えにくいのも事実である。この点を補うために領域横断的な共通課題について公開ワークショップを開催することで俯瞰的な見方からの成果発信に努めてきた。この度、5年間の研究を取りまとめることで、新しい学術領域の確立という観点から、研究成果の全体像の公開・普及と内外の関連研究者のより一層の交流ならびに若手研究者の育成に努めた。具体的には、最終報告会として7月に東京大学駒場キャンパスにて公開シンポジウムを開催し、また同時にニュースレター12号を発行し配布ならびにウェッブ公開することで、成果の普及、領域内外の研究者との交流に努めた。また年度末の3月には、領域内の研究発表会を開催し、本領域研究に参画した研究者の互いの交流や成果取り纏め、ならびに今後の活動に関する意見交換を行った。10月には領域代表者の前田が日本化学会にて、また11月には事務担当者の長崎が日本バイオマテリアル学会大会にて、本領域の成果をアピールする招待講演を行ったほか、各研究グループにおいては、各自アウトリーチ活動の継続による国民の理解深化に努めた。一方で、領域ホームページの継続運用により持続的に広報活動を行った。また日本MRSに「ソフトインターフェース研究会」の設置を申請し、今後の継続的発展のためのプラットフォームを構築した。さらには、ソフト界面に関する英文教科書の執筆・編集を引き続き進めている。
著者
高橋 龍一
出版者
弘前大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

以下の2つの成果が得られた。それぞれについて以下で記述する。1.重力レンズを受けた宇宙背景輻射の疑似マップ(温度&偏光ゆらぎ)の作成まず、重力レンズを受けていない宇宙背景輻射の2次元マップを用意する。面積は4πの正方形(全天と同じ)、温度と偏光揺らぎの2次元マップである。宇宙背景輻射の揺らぎのパワースペクトルからガウス揺らぎを仮定し作成した。次に、N体シミュレーションを用いて、宇宙の大規模構造を作成した。最終散乱面から我々に届くまでの光の経路を、非一様宇宙を伝播する光の重力レンズシミュレーションを使って計算した。そこから10度×10度の領域を取ってきて、重力レンズを受けた宇宙背景輻射のマップ(温度&偏光ゆらぎ)を作成した。揺らぎのパワースペクトルを計算し、理論モデルと比較し、完全に一致していることを確かめた。現在、2次元マップから手前の構造形成の情報を引き出す計算も始めている。2.宇宙背景輻射の温度揺らぎに対する重力レンズの影響の再計算ダークマター(暗黒物質)による宇宙の大規模構造の揺らぎのパワースペクトルを最新のN体シミュレーションを用いて計算した。その結果、計算の分解能が上がった影響で、これまで考えられていたよりも小スケールで揺らぎが大きくなることを見出した。この結果を用いて温度揺らぎのパワースペクトルを計算すると、小スケール(約1分角以下)で10%程度これまでの計算よりパワーが上がることが示された。
著者
山根 聡 長縄 宣博 王 柯 岡 奈津子 古谷 大輔 山口 昭彦 大石 高志 シンジルト 吉村 貴之 小松 久恵
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では、地域大国の比較研究を中心軸に捉えつつ、異なるディシプリンながらも、地域大国の周縁的存在を研究する点で一致する研究者によって、地域大国のマイノリティとしてのムスリム、移住者、特定の一族など、周縁に置かれるがゆえに中心(大国)を意識する事例を取り上げた。この中で国際シンポジウム主催を1回、共催を2回行った。また国際会議を3回、研究会を25回以上開催し、この期間内に発表した論文も60点を超えた。2013年度には成果を公刊する予定であり、異なる地域を研究対象とする研究者の交流が、研究分野での未開拓分野を明らかにし、今後の研究の深化に大きく貢献することができた。