著者
青木 隆朗
出版者
早稲田大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

量子光学的手法による連続量量子情報への応用を目指し、光ファイバーベースでの新しい直交位相成分スクイーズド光発生法の検討を行った。具体的には、超短パルスを用いた従来の直交位相成分スクイーズド光発生法に対して、現在の連続量量子情報技術の主流である連続光を用いた多モード量子エンタングルメントの生成・制御技術との整合性を重視し、光ファイバーに直接結合したシリコンチップ上モノリシック微小共振器を用いた連続光励起での直交位相成分スクイーズド光の発生に関する理論的検討と、共振器設計の最適化、さらに高Q値微小共振器の作製技術の開発を行った。特に、本手法による直交位相成分スクイーズド光の発生には高いQ値と同時に小さなモード体積を持ち、さらに共振スペクトルの測定結果からモード次数を同定できる共振器の開発が必要である。そのような条件を満たす共振器として微小球共振器に着目し、シリコン基板上にモノリシックに作製することで直径20μm以下の極微小球共振器に対して10^8オーダーのQ値を達成した。WGM型共振器のQ値は放射損失、物質の散乱・吸収による損失、表面の凹凸による散乱や不純物による外因性損失等で決まり、究極的には放射損失によって上限が定められる。本研究で達成したQ値は、直径20μm以下の極微小球共振器としては従来の値を1桁以上改善するものであり、放射損失によって決まる理論限界に肉薄するものである。また、共振器を使わずに光ファイバーで直接、光と物質の強い相互作用を実現できるナノファイバーデバイスを開発した。
著者
村中 隆弘
出版者
電気通信大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、空間反転対称性の欠如した物質をキーワードとして、p電子系、f電子系化合物を対象とした新規超伝導物質開発を行った。今年度はこれらの中でp電子系化合物を中心として研究を行ってきた。・結晶構造中にCダイマー、Cトリマーという特徴的な共有結合性ネットワークを有するS3C4に対し、CサイトへのGe置換を行うことによって、Tc=7-8Kの超伝導が発現することを見出した。・擬AlB2型構造を有する新規三元素系化合物Ba(TM,Si)2 (TM=Cu, Ag, Au, Ni, Pd, Pt)の合成に成功し、これらがTc~3Kの新規超伝導体であることを発見した。また、TMの濃度の上昇に伴ってTcが減少する振る舞いを見出した。・Siによる八面体構造を有するZrFe4Si2型構造に着目したところ、YRe4Si2 (Tc=3.2K), LuRe4Si2 (Tc=3K)の発見に至った。この系では、希土類元素のイオン半径の大きさにTcが比例する振る舞いが示唆され、YサイトをLaに置換した系においてTcが上昇する振る舞いを観測した。・Sbによる四面体配位構造を有するCaBe2Ge2型構造に着目したところ、SrPt2Sb2(Tc=2.1K)の発見に至った。SrPt2Sb2は、正イオンのPtが中心に位置する(正構造の)PtSb層と、負イオンのSbが中心に位置する(逆構造の)PtSb層が交互に積層している。逆構造のPtSb層がドナー層、正構造のPtSb層がアクセプタ層となり、ドナー層からアクセプタ層への電荷移動が生じる可能背を示唆する結果を得た。また、電気抵抗の温度変化や構造解析の結果から、構造相転移の存在を明らかにした。
著者
蔡 兆申 都倉 康弘 北川 雅浩 高橋 義郎 占部 伸二 竹内 繁樹 小芦 雅斗 樽茶 清悟 工位 武治
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

1.事後評価報告書作成の為、総括班メンバーによる会合を2回開催(4月24日、理研東京連絡事務所-6月12日、WTCコンファレンスセンター)し、以下の通り成果を確認した。:量子サイバネティクス領域は、高度で複雑な量子状態制御を目指している。応募時には、①新規な量子制御・検出の実現と、②多様な物理系においての包括的な量子制御の理解、を領域の目標として挙げた。また応募時の研究期間内の成果の一例として、混合量子系での単量子の操作や検出の目覚ましい進展を挙げた。数多くの混合量子系の可能性の中で、特に人工原子量子光学での飛躍的発展や、人工原子と機械振動の結合、微視量子系と固体素子量子系の結合の実現などに言及した。5年の研究の結果、領域内の全ての物理系で、量子状態制御の科学技術大きく進展し、設定目標はほぼ達成された。「①新規な量子制御・検出」に関しては、超伝導人工原子での高忠実度状態制御や量子非破壊・単事象観測などをはじめ、すべての物理系で目覚ましく進展を遂げた。「②多様な物理系においての包括的な量子制御の理解」に関しては、例えば超伝導人工原子量子光学と、従来の自然原子の量子光学との比較より、特に「単原子」量子光学に関する新規な知見を得、より包括的な理解を確立した。また他の多くの新規な混合量子系を実現した成果から、より包括的な理学が生まれた。また目標には当初なかった、新規な量子効果である超伝導細線でのコヒーレント量子位相滑りの実現などの成果も達成した。全論文数372件、内トップ1%引用論文は20件あることから、遥かに標準を超えた成果が生み出されたことが分かる。また既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成という目標に対し、数々の学際的な研究成果を達成した。2.研究成果報告書(冊子体)の作成に向け、会合を開催(9月30日、筑波大学東京キャンパス)し、全113頁の報告書を作成した。
著者
小畑 秀文 増谷 佳孝 佐藤 嘉伸 藤田 廣志 仁木 登 森 健策 清水 昭伸 木戸 尚治 橋爪 誠 目加田 慶人 井宮 淳 鈴木 直樹 縄野 繁 上野 淳二
出版者
東京農工大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

本申請課題においては、5年間にわたる研究成果のとりまとめと、研究成果を社会・国民に発信することの2つが目的であった。第一の目的である研究成果のとりまとめにおいては、計算解剖学の目的、研究組織、計画班および公募班それぞれの研究成果(著書・論文のリスト、特許を含む)と共に、計算解剖学という新たな領域としての状況、計算解剖学主催による学術研究集会およびアウトリーチ活動、諮問委員による研究評価、などを含め、研究成果報告書として取りまとめて印刷・製本した。また、同報告書の内容に研究成果をより理解しやすいように一部の動画をも含めてCDも作成した。これらは関係研究機関に配布した。第二の目的である研究成果の社会・国民への発信に関しては、2つの取り組みを行った。一つは、「3Dプリンタで臓器モデルを作ろう!」と題した中学・高校生向け講座である。これは日本学術振興会主催の「ひらめき☆ときめきサイエンスプログラム」の一つとして2014年8月21、22日の2日間にわたって名古屋大学にて開催したもので、CT画像から臓器を抽出し、それを3Dプリンタで打ち出すまでを体験させた。次代を担う世代に計算解剖学の成果の一端を分かりやすく紹介したものである。二つ目は東京農工大学にて開催した「計算解剖学」最終成果報告シンポジウムである。計算解剖学プロジェクトで新たに開発された基礎から応用(診断・手術支援)までの研究成果を関連分野で活躍する研究者・技術者に対して広く紹介した。また、専門的・学術的な立場から計算解剖学の現状評価と今後の方向性や課題を議論し、次のステップへの礎とした。
著者
夏目 敦至 千賀 威 宇理須 恒雄
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ストレス顆粒はRNAと多くのタンパク質からなる凝集体であり、熱や活性酸素などのストレスにより形成される。その形成メカニズムは不明であり、RNAの翻訳停止やタンパク質の修飾が関与していると考えられている。また、ストレス顆粒の構成タンパク質の異常は神経疾患の発症と関連している。我々は分子生物学的手法とイメージングの手法を用いてストレス顆粒形成のメカニズムを解析した。ストレス顆粒の新たな構成因子を同定し、そのダイナミックな細胞内局在と複合体形成を解析し、関連する病態の解明をした。
著者
広常 真治
出版者
大阪市立大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

我々は細胞質ダイニンの制御機構の解明に取り組んできた。細胞質ダイニンは微小管上を双方向に走るがプラス端に向って走るメカニズムは不明であった。我々は滑脳症の原因遺伝子・LIS1が細胞質ダイニンを微小管上に固定し、微小管-LIS-細胞質ダイニンの複合体を形成し、キネシン依存的に運搬することを明らかにした。さらにアスペルギルスにおけるNud遺伝子群のNudCがキネシンのアダプタータンパク質として機能していることを明らかにした。このことからLIS1が変異を起こすと細胞質ダイニンの順行性の運搬が障害され、細胞内における細胞質ダイニンの局在が中心体に偏った分布を示し、細胞の末梢部分で枯渇することが分かった。このことがLIS1の変異に伴う神経細胞の遊走異常、また細胞分裂における紡錘体形成や染色体分配の異常につながることが分かってきた。また、NudCの変異は細胞質ダイニンの順行性の運搬のみならず、他のオルガネラの運搬も障害されることから、NudCはキネシンの一般的なアダプタータンパク質として機能していることが示唆された。さらに、細胞質ダイニンはLIS1により微小管上にアイドリング状態になるが、低分子量G蛋白質のRabファミリーのタンパク質によって活性化されることが示唆された。さらに電子顕微鏡を用いた構造解析から、LIS1は細胞質ダイニンの頭部に結合し、ダイニン分子のスライドを制限することで細胞質ダイニンの微小管上の移動を制限することを証明した。
著者
松田 知己
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

申請者はこれまでにFRET(蛍光エネルギー移動)を利用したカルシウムイオン濃度センサータンパク質Cameleon YC3.6 を元に光活性化カルシウムイオン濃度センサータンパク質 PA-Cameleon を作製していた。このセンサータンパク質はFRETのエネルギーのドナーであるPA-GFP(光活性化GFP)、エネルギーのアクセプターである色素タンパク質、そしてセンサードメインとしてのカルシウム結合タンパク質Calmodulin-M13 ペプチドから構成されていた。PA-Cameleon は HeLa 細胞内でのカルシウム応答の可視化に成功していたが、神経細胞内で自発的なカルシウム濃度変化等を検知することが出来なかった。そこで、センサー部分をニワトリ骨格筋由来トロポニンCに入れ替えて新たにPA-TNXL を開発し、ラット海馬神経の初代培養細胞内で1細胞レベルの光活性化、細胞内の自発的なカルシウム振動を可視化することに成功した (Matsuda T. et. al. Sci. Rep. 2013)。さらに、FRETとは異なる原理で光活性化カルシウムイオン濃度センサーを開発した。光刺激によって蛍光波長を変化させることができる蛍光タンパク質 mMaple に円順列変異を導入し、蛍光発色団付近に新たに出来たN末端、C末端にそれぞれM13とカルモジュリンを繋げたコンストラクトを基に、遺伝子改変により新規カルシウムイオンセンサータンパク質 GR-GECO を開発した。GR-GECOは光刺激により緑色から赤色に蛍光色を変化させ、カルシウム濃度上昇に伴い蛍光強度の増大させることができる。本センサーについてもHeLa細胞内とラット海馬神経細胞での光活性化とカルシウムイメージングに成功した (Hoi H., Matusda T. et. al. J. Am. Chem. Soc. 2013)。
著者
南沢 享
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

心臓機能は、心筋細胞を含む10種類の心臓構成細胞が高度の協調性を保つことによって維持されている。心臓機能異常を 理解するためには複合的な階層構造体として心臓構成細胞の協調性の破綻を捉えることが重要である。本研究では、複合 的機能と階層構造を有する心臓組織の三次元再構築系を創成し、機械的刺激が心臓構成細胞の機能に及ぼす影響を明らか にすることを目指す。その最初の段階として、単純化された三次元構造でありながら、階層性と腔構造を有する心チュー ブを構築する。こうした三次元再構築系モデルは、心臓発生・再生の機序解明や心機能回復を目指す革新的方法(治療) の開発を行う上で、定量的測定とシミュレーション研究をつなぐ研究基盤を築くために極めて重要である。 【ラット培養細胞系での心チューブの確立】 既に公表されている遺伝子情報を活用すること、細胞自体への遺伝子操作を加えること、などを考慮し、ラット新生仔心 臓及び大動脈から単離した心筋細胞と血管平滑筋細胞を用いた。そこで最初に既に作成に成功している血管において、ラット胎仔大動脈血管平滑筋細胞が使用できるかどうかの検討を行った。まず、ラット胎仔から採取した大動脈血管平滑筋細胞を順次積層化し、7層まで細胞生存性を保ったまま、重層化することが出来た。この再構築系を用いて、血管弾性線維形成に影響を与える要素の検討を行い、重層化した平滑筋細胞では細胞分化がより亢進しており、血管弾性線維の形成が有意に促進していることが判明した。そこで次にポリグリコール酸生体吸収高分子シートにラット胎仔大動脈血管平滑筋細胞を播種し、約4週間培養し、シート外側部分への平滑筋細胞の生着が認められた。その部位はエラスチン染色で染まる部分が存在し、弾性線維形成が行われていることが示唆された。以上の結果から、再構築系にラット胎仔細胞を利用することが可能であることが示された。
著者
天谷 健一
出版者
信州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

スピン三重項超伝導体Sr2RuO4において,磁場を[001]軸に垂直に印加した場合に1K以下の温度領域で上部臨界磁場直下の磁場で生じる新たな「低温高磁場超伝導相」の起源を調べるために,[001]軸に垂直に磁場を印加して精密比熱測定や一軸応力下での比熱測定を行い,比熱のとびの大きさ,潜熱の有無などを詳細に調べ,この転移の次数を確定させる予定であったが,精密な磁気トルク測定から,転移の詳細を調べることができることがわかったので,現在実験方針を変更し,磁気トルク測定を中心に調べた.得られた磁気トルク曲線を磁場で割ることにより,超伝導磁化の磁場に垂直な成分が得られる.この垂直磁化の磁場依存性を解析することにより,低温高磁場相への転移の詳細を調べた.0.5K以下の温度領域での,1.1 Tから1.3 Tにわたる超伝導混合状態から「低温高磁場超伝導相」への転移が起こる磁場近傍に,垂直磁化が磁場の上げ下げによって異なる値をとる「ヒステリシス」が見られ,さらに,増磁過程での転移磁場と減磁過程での転移磁場が異なることが明らかとなったことから,超伝導混合状態から「低温高磁場超伝導相」への転移は1次相転移の可能性が強いことがわかった.一方,上部臨界磁場での「低温高磁場超伝導相」から常伝導状態への転移については,増磁過程での転移磁場と減磁過程での転移磁場には測定の精度内で差は見られず,次数を明確にすることはできなかった.
著者
相原 威 酒井 裕 藤井 聡 塚田 稔
出版者
玉川大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009-07-23

脳内の外界モデル形成には, 外界からのボトムアップ(感覚)情報だけでなく, 注意や情動などによる広範囲調節系と呼ばれる内因性の情報も融合する必要がある。 海馬や皮質などの神経回路への調節系の信号は, 集中時などに内在性アセチルコリン(Ach)として放出され, 記憶に関与するとの報告がある。 そこで、本研究はボトムアップ入力の統合に対するAChによる修飾を細胞およびネットワークレベルの実験により検証を行った
著者
加納 純子 田代 三喜 藤田 生水 西原 祐輝 井上 春奈 坂 琢人 宮里 和実 田中 麻紀子 竹下 由美子 竹内 美穂 杉本 静香
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

真核生物の染色体末端領域であるテロメアやサブテロメアに着目し、その新規機能や新規制御のメカニズムを探った。その結果、テロメアタンパク質Rap1が細胞分裂期にCdc2によってリン酸化され、それによってテロメアが核膜から一時的に解離し、染色体が正常に分配されることを明らかにした。また、Rap1を中心としたテロメア結合タンパク質複合体の形成メカニズムや、その生理学的意義についても解析を行った。一方、テロメアに隣接するサブテロメアに関する解析も行った。シュゴシンタンパク質Sgo2が細胞周期の間期特異的にサブテロメアに局在し、複製タイミング制御など様々な機能を果たしていることを発見した。
著者
梅原 三貴久
出版者
東洋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ストリゴラクトン(SL)は、植物の根から土壌中に放出され、アーバスキュラー菌根菌の菌糸分岐や根寄生植物の種子発芽を刺激する根圏におけるシグナル物質である。また、SLは植物の枝分かれを抑制するホルモンとして働く。SL関連突然変異体は、野生型に比べ過剰な枝分かれを示すだけでなく、葉の老化が遅延する。このことは、SLが枝分かれだけでなく、葉の老化制御にも関わっていることを示唆している。そこで、イネのSL関連突然変異体の葉にSL合成アナログGR24を処理したところ、SL生合成欠損変異体では葉の老化遅延が回復したが、SL情報伝達欠損変異体では変化が認められなかった。また、リン酸欠乏条件下で栽培したイネの葉は、SLに対する応答性が増加した。これらの応答性は、枝分かれにおける応答性と同様であることから、SLが葉の老化も制御していることが明らかになった。さらに、イネの収量に対するSLの影響を調査したところ、野生型とd10では水耕液中のリン酸濃度を減らすと収量が減少したが、d3ではリン酸濃度を減らすとむしろ収量が増加した。CE-MS解析の結果から、d3ではアスパラギンやグルタミンなどのアミノ酸含量が著しく低下していた。これらの結果は、D3遺伝子の下流にアミノ酸の生産制御機構が存在することを示唆している。今後は、d3依存的な窒素代謝機構の存在を探索するとともに、d3変異体での特異的な応答の原因を明らかしたいと考えている。
著者
渡邊 陽子
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

平成22年度は、前年度に選定した北海道内のエアロゾル濃度の異なると思われる地域(都市中心部、都市郊外および冷温帯林)における樹木に対するエアロゾルの影響を明らかにするために、エアロゾル濃度の測定および測定地域に生育する樹木の葉に対する影響について分析を行なった。エアロゾル濃度測定はフィルターパック法を用いて分析を行なった。その結果、都市中心部よりも冷温帯林ではエアロゾル濃度が低いことが明らかとなった。さらに、越境大気汚染物質の1つであるブラックカーボンについても葉面沈着量の分析を行ない、その結果、都市部で最も高く、冷温帯林で最も低かった。都市域におけるエアロゾルやブラックカーボンは都市内部に発生源が存在するが、冷温帯林については近くに発生源がないため、越境大気汚染物質由来であると考えられる。エアロゾルによる樹木への影響を明らかにするために、エアロゾル測定地域に生育するカバノキ属(シラカンバおよびダケカンバ)を選定し、着葉期間中に葉を定期的に採取し、SEM-EDXにより葉の表面に付着している粒子の顕微鏡観察および元素分析を行なった。その結果、都市中心部では葉に影響を及ぼすことが報告されているエアロゾル粒子が付着していることが明らかとなった。また、都市郊外では燃焼起源と考えられる粒子も観察された。これらの粒子は都市内部から発生したエアロゾルが付着したと考えられる。一方、冷温帯林の試料では土壌粒子が多く付着していたが、植物に影響を及ぼすと考えられる粒子は観察されなかった。また、各地域の供試木の葉のクロロフィル濃度を測定したが、地域による違いはみられなかった。本研究の結果から、北海道内では越境大気汚染物質由来のエアロゾル粒子が樹木の葉に付着していることが確認されたが、現時点では樹木への影響はみられないことが明らかとなった。
著者
北島 正弘
出版者
防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

1. 試料作製: グラフェン試料はGOS型に加えて、欠陥の少ない剥離グラフェン及びCVDグラフェンを、超高速測定及びバイアス効果の観察に供した。2. デバイス作成およびバイアス効果測定解析手法の確立: 始めに90 nm酸化膜/Si基板上に剥離グラフェンを付着させた。光学顕微鏡により単層グラフェンの付着確認後、その上に電子線リソグラフィー法により金電極を作成した。周波数48THz付近にGモード(グラフェンの炭素間伸縮振動モードに起因するピーク)の存在を顕微ラマンにより確認した後、超高速分光測定に供した。50Vの電圧印加したとが、このピークの周波数変化は~0.05 THzと小さかった。デバイス構造に問題があると考え、イオン液体を用いた手法へと方針を転換した。イオン液体に浸したCNT電極に電圧を印加した状態でポンプープローブ測定した結果、40 THz及び48 THzにそれぞれ、Dモード、Gモード(欠陥に誘起される振動)のコヒーレントC=C伸縮振動を明瞭に観測することができた。これらのピークの振幅、周波数及び寿命は電圧印加によって大きく変化した。特に高電圧印加ではGモードの強度が極端に減少した。これはフェルミ面が光励起のエネルギーを超えると、フォノン励起が起こりにくくなったことによる。これは、電子格子相互作用に係わるコーン異常効果の消滅により、周囲に自由電子のない“裸の”フォノンの運動に対応する興味深いダイナミクスを示す。3.グラフェンの波束ダイナミックス: 検出光を波長分解することにより、欠陥における電子の弾性散乱によっておこるDモードのフォノンが、非常に高い波数を持ったフォノン波束としてふるまうことを示すことができた。これは光学フォノンの波束励起例としては初めてのものであり、ナノスケールの検出や、操作などの分野に応用できる可能性があり、当初予測しなかった重要な成果である。
著者
中井 淳一
出版者
埼玉大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2009

多くの動物は眠るが、睡眠の分子メカニズムはまだ良くわかっていない。この状況は、Hypocretin/Orexin(Hcrt)とその受容体が発見され大きく進展した。本研究は、ゼブラフィッシュを用いて動物の睡眠と覚醒の分子機構を明らかにすることを目的としている。そこで蛍光カルシウムプローブG-CaMPを神経細胞に発現させ神経細胞の機能とゼブラフィッシュの行動との関係を探ることを計画した。本研究において蛍光カルシウムプローブG-CaMP2を改良したG-CaMP-HSを新たに開発した。G-CaMP-HSはG-CaMP2と比較して高感度であるとともに、細胞内でのタンパク質の安定性が増しており、安静時の蛍光強度が高いという特徴を持つ。これに関連して、蛍光カルシウムプローブの性能向上に関する特許を申請した。次にG-CaMP-HSをGal4-UASの下流につないだコンストラクトを作成し、ゼブラフィッシュに導入することにより遺伝子改変ゼブラフィッシュを作成した。このゼブラフィッシュと運動ニューロン(Caudal primary neuron : CaPニューロン)にGal4を発現するゼブラフィッシュ(SAIGFF213A)とを掛け合わせることによりCaPニューロンにG-CaMP-HSを発現するゼブラフィッシュを作成した。CaPニューロンの活動をイメージングにより解析したところ、CaPニューロンのバースト発火に伴い、G-CaMP-HSの蛍光強度が変化することが観察された。この成果はProc Natl Acad Sci USAに報告した。ゼブラフィッシュの神経細胞からG-CaMP-HSを用いて神経活動をイメージングにて解析することが可能となったことにより、今後HcrtニューロンにG-CaMP-HSを発現させ解析することにより睡眠覚醒のメカニズムの解明が進むと考えられる。
著者
野崎 京子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

二酸化炭素は炭素化合物の燃焼最終生成物であり,熱力学的に安定な,不活性な化合物である.一方で,二酸化炭素は安価で豊富な炭素資源であり,その有効利用は科学的興味に留まらず,社会的にも大きなインパクトをもつ.二酸化炭素を活性化し有機合成にもちいるには,より安定な結合を生成する系を選び,かつ反応の活性化エネルギーを下げる触媒を開発しなければならない.本研究では,二酸化炭素の活性化を鍵とする以下の二つの反応について,新規9族金属錯体の開発に重点をおき触媒開発に取り組み、以下の成果を挙げた。1)二酸化炭素還元反応の高活性化と可逆性の検討われわれが開発したピンサー配位子をもつイリジウム錯体は,水酸化カリウム存在下での二酸化炭素と水素の反応で,これまでで最高の活性を示した.この塩基をトリエタノールアミンに変更することで逆反応であるギ酸の分解も行えることを示した。水素の安定的な貯蔵方法としてギ酸を用いる可能性を拓いた。2)エポキシドと二酸化炭素の交互共重合反応の触媒開発これまでの研究で最も高い活性を示していたクロムやコバルトのサレン錯体に代えて、チタンやゲルマニウムなどの錯体が触媒作用を示すことを明らかにした。クロムやコバルトが3価の金属であり、サレンがジアニオン配位子だったのを、チタンやゲルマニウムなどの4価金属に変更した際、配位子もトリアニオン性にしてトータルの電荷を保ったことが成功の鍵である。より低毒性の金属を用いられるようになったことで、生成物の利用範囲が格段に広がった。
著者
石崎 公庸
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、植物における栄養生殖の分子メカニズムを解明することを目標とし、タイ類ゼニゴケをモデルとして解析を行った。前年度までの研究成果から、ゼニゴケにおける栄養生殖器官である杯状体の基底部で、オーキシン生合成系の発現上昇とそれに伴うオーキシンの蓄積が観察されており、栄養生殖器官の発生プロセスにおいてオーキシンが何らかの役割を持つことが示唆されている。本年度、オーキシン低感受性株の解析から単離されたオーキシンシグナル伝達系の主要転写因子MpARF1の機能欠損変異体について、栄養生殖プロセスにおける表現形を詳細に解析した。その結果MpARF1の機能欠損変異体では、無性芽発生における分裂組織の発生と機能に異常が確認された。さらに別のオーキシン低感受性株mt37について、カルボキシペプチダーゼをコードするALTERED MERISTEM PROGRAM1(AMP1)の相同遺伝子MpAMP1の機能欠損変異体であることを明らかにした。mt37についても無性芽発生における分裂組織の発生と機能に異常が確認された。現在、これらの変異体の表現型や原因遺伝子の機能について詳細な解析を進めている。単離された複数のオーキシン低感受性変異体において、無性芽の分裂組織形成に異常が確認されたことから、杯状体底部におけるオーキシン応答が無性芽の分裂組織形成において重要な役割を持つと考えられる。
著者
川島 洋人
出版者
秋田県立大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は,粒子状物質に含まれるアンモニウムイオン,硝酸イオン中の窒素安定同位体比と元素状炭素中の炭素安定同位体比を高精度に測定し,浮遊粒子状物質の起源推定を行うことを目的としている。特に2次生成粒子であるアンモニウムイオンや硝酸イオンにおいては,それらの前駆ガスから粒子への同位体分別係数を実験室もしくは野外でのサンプリングより算出し,発生源解析に応用することを目指している。平成24年度は,ガスから粒子化のメカニズム解明のために,グローブボックス内にてアンモニアガスから粒子化(アンモニウムイオン)の窒素安定同位体比の分別係数を測定した。その結果,冬季と夏季の温度の違いによる分別係数の変化量は5‰以内と非常に小さく,アンモニアの発生源による違いが大きいことが推察された(これらの結果は25年度に国際学術雑誌に報告予定)。また,実験室だけでなく,いくつかの発生源の前駆物質であるガス状成分も野外にて同時測定を行った。これらの結果は,実験室における結果をほぼ再現していることがわかった。さらに,窒素酸化物と硝酸イオンの同位体分別係数も推定することが出来た。また,昨年行ってきた石炭中の炭素安定同位体比の結果は,浮遊粒子状物質の起源推定のために測定を行ったが,炭素安定同位体比の結果から,数億年前の石炭生成時期を予測することが可能であるということが推察された。
著者
魚住 泰広
出版者
分子科学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010

平成23年度には、マイクロ流路内での膜状高分子錯体の調製(step1)、ナノパラジウム触媒膜の形成(step2)と、同膜触媒導入マイクロ流路デバイスを利用する反応実施(step3)の3段階について検討した。具体的にはstep1では高分子配位子として直鎖ポリビニルピリジンおよびテトラクロロパラデートをY字型マイクロ流路に導入しマイクロ流路層流界面上で良好な膜形成が進行した。流路内で調製した触媒膜を還元的あるいは熱的に分解することで高分子膜内でのパラジウムナノ粒子の発生を試みた(step2)。その結果、PVP-Pd膜を50℃、30分間、ギ酸ナトリウム水溶液で扱うことで比較的狭いサイズ分布を持ったナノPd粒子が発生することを見いだした。さらに流路内に調製したナノPd膜を備えたマイクロ流路反応装置を利用し、幾つかのPd触媒工程をフロー型反応として試みた(step3)。その結果、ハロアレーン類の還元的脱ハロ反応がギ酸を還元剤として有効に働くことを見いだした。すなわちハロアレーン水溶液とギ酸水溶液をマイクロデバイスY字同入口から各々加えたところ室温で反応は速やかに進行流路内の保持時間僅か2-5秒で定量的に脱ハロ生成物を与えた。芳香族ハライドの置換基として電子供与性、電子求引性、オルト位、メタ位、パラ位に関わらず反応は良好であり、また芳香環上に複数のクロロ基を有する基質も良い反応性を示した。さらに本反応はハロアレーン濃度が10ppm程度でも問題なく進行した。