著者
伊能 良紀 崎山 加奈 本間 昌大 西原 美樹 比嘉 育子 長尾 浩志 清水 かつみ 矢崎 真一 波照間 光茂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E1650, 2008

【はじめに】当院は、平成18年10月に八重山諸島唯一の回復期リハビリテーション(以下、リハ)病棟28床を開設した。八重山諸島は、周囲を海に囲まれ、石垣島を中心に大小8の有人島からなり、沖縄本島から約400km離れている。この地域は、医療・介護保険下のリハサービスの量が不足しており、また退院後の生活をサポートする環境が十分ではない。今回、このような地域での回復期リハ病棟の現状及び課題について報告する。<BR>【対象】平成18年10月1日から平成19年9月30日までの1年間に当院回復期リハ病棟を退院した患者104名(男性31名、女性73名)を対象とした。平均年齢は、79.4±12.4歳(男性72.4±14.9歳、女性82.7±9.8歳)であった。<BR>【現状】当院回復期リハ病棟は、専従医師1名、専従PT3名、専従OT1名、ST1名で行っている。発症から入院するまでに要した日数は37.0±13.4日、平均在院日数は87.5±42.2日であった。紹介元は石垣島内の急性期病院が87.5%と多く、沖縄本島の急性期病院からの紹介もあった。対象疾患別では骨折等49.0%、脳血管疾患等39.4%、廃用症候群10.6%、靭帯損傷等1.0%であった。退院先は、自宅51.0%、施設21.2%、療養病床13.5%であり、その他は急変等であった。ADL評価はBarthel Index(以下、BI)を用いた。退院時BIは、自宅退院群70.9±25.5、施設退院群39.3±34.3であった。<BR>【問題点・課題】最大の問題点は、自宅復帰率が低いことである。自宅復帰には患者の能力や認知症の有無等様々な要因に影響されるが、家族環境にも影響される。親族(二親等内の介護が可能な者)の石垣島在住者数をみると、自宅復帰群の退院時BI40以下(7名)は5.3±2.0人、一方施設退院群のBI85以上(4名)は3.7±1.2人であった。統計的な優位差はなかったが、親族が患者の身近にいる事で自宅復帰しやすい傾向にあるといえる。特に八重山諸島は他の地域と陸続きではないため、沖縄本島や本土にいる親族が介護のために八重山諸島へ帰るという事は経済的負担が大きいので難しい。よって地域内に親族が多い事が、自宅復帰の大きな要素の1つと考える。また、退院後の自宅生活を支援するサービスの量が圧倒的に不足している。昨年報告したようにPT/OT/STの人員不足と、通所リハでは一事業所あたりの利用者が、八重山諸島では26名(全国:9.6名)と多いことなど、サービス面の不足があげられる。これに加えてさらに、低い平均所得、高い物価、高い共働き率、地域の施設依存心もこの地域の在宅復帰率を下げる要因となっている。<BR>【終わりに】この地域では、家族環境や高い共働き率による介護力の低さ、高い施設依存心という問題点を抱えている。今後の課題として、自宅復帰率を増加していくために、早期から家族及びケアマネージャーと連携し自宅復帰を意識させたり、少ないサービスや介護力を有効に使い自宅復帰可能な環境設定を提供していく必要がある。
著者
濱中 康治 丸山 仁司 室生 祥
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B3O2101, 2010

【目的】<BR> 脳血管障害(以下、脳卒中)患者に対して急性期から効果的・効率的なリハを実施するためには、その症例の予後を正確に予測したうえで介入することが求められる。また、転帰先・転帰時期を決定するためにも発症後早期から予後を予測する必要がある。<BR> 脳卒中の予後予測に関して、Koyamaらによる対数モデルを用いた予後予測方法が報告されている。この方法は脳卒中の機能回復が自然対数曲線に類似していることに着目し、機能的自立尺度(Functional Independence Measure:以下、FIM)を複数回測定してその変化分を対数変換することで予測式を算出し、将来のFIM得点を予測するというもので、FIMの得点変化のみを用いるため臨床的に簡便で優れた方法である。ただし、この研究は発症後30日以上経過して回復期リハ病院に入院した症例を対象としており、急性期患者への適応の可能性は検証されていない。<BR> そこで今回の研究では、この対数モデルを用いた予後予測式の急性期への適応の可否を検討する。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は、2008年4月から2009年4月までに当院脳神経外科および内科に入院した脳卒中片麻痺患者で、その後回復期リハビリテーション病棟に転科、リハを継続して3ヶ月以上実施した29名(脳卒中再発・くも膜下出血を除く)。年齢は64.6±10.9歳、男性21名、女性8名、脳出血例20名、脳梗塞例9名であった。<BR> Koyamaらの対数モデルを用いた予測式とは、発症A日目のFIM総得点はFIM(days A)=βln(days A)+定数 に近似することを利用するもので、FIM得点変化ΔFIM=βln(Day B)-βln(Day A)=βln(Day B/Day A) β=ΔFIM[ln(Day B/Day A)]<SUP>-1</SUP> 発症X日におけるFIM予測値=FIM(Day A)+βln(Day X/Day A) (lnは自然対数)の計算式で算出する。<BR> FIMの採点はリハ介入開始時(発症から5.2±1.3日)、介入から2週時、1ヶ月時、2ヶ月時、3ヶ月時に実施した。リハ介入開始時と2週時のFIM実測値から2ヶ月時、3ヶ月時のFIM予測値を、2週時と1ヶ月経過時のFIM実測値から2ヶ月時、3ヶ月時のFIM予測値を算出し、病型別に各時期の予測値と実測値を比較した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 対象者には、本研究の主旨と方法について説明し、非侵襲性の評価であり治療上の効果判定の一環として実施する旨を伝え、同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 脳出血例において、リハ介入開始時と2週時のFIM得点から得られた予測値と実測値は、2ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.666、3ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.660、2週時と1ヶ月時のFIM得点から得られた予測値と実測値は、2ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.886、3ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.734となった。脳梗塞例においては、リハ介入開始時と2週時のFIM得点から得られた予測値と実測値は、2ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.910、3ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.837、2週時と1ヶ月時のFIM得点から得られた予測値と実測値は、2ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.921、3ヶ月時でR<SUP>2</SUP>=0.872と高い相関を示した。<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果から、対数モデルを用いた脳卒中患者の予後予測方法は、脳出血・脳梗塞、どちらの病型においても、急性期からの予後予測が一定水準以上の精度で可能であると言える。しかし、脳出血例ではリハ介入開始時のFIM得点を用いた場合は予測精度がやや低下した。これはリハ介入開始時に意識障害を伴う症例も多く、2回のFIM採点の間に認知FIM項目が大きく改善したために予測精度が低下したものと考えられる。また、急性期は医学的管理のために症例の活動が制約されていることも予測精度の低下につながっていると思われる。ただし、おおよそ医学的管理上の活動制限が解かれたと思われる2週時と1ヶ月時のFIM得点を用いた場合は予測値と実測値が高い一致率を示しており、予後予測の精度は概ね保障されたと言える。今後は医学的管理上の制限が無くなった時点で初回のFIMを採点し予測に用いることで、更なる予測精度の向上が望めるのではないか。また、この予測方法を脳卒中急性期に導入した場合、多くの症例で実測値が予測値を上回る傾向があったため、臨床的には有益で導入しやすい方法であると考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 急性期脳卒中患者に対しての適応が証明されることで、簡便な方法で正確な予測が可能となり、早期から予後を見据えた介入が可能となるため、臨床的に有意義な研究であると考えられる。
著者
及川 真人 加藤 勝利 松原 徹 山中 誠一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0598, 2012

【はじめに/目的】 回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ)は急性期から早期の転院を受け入れ、高頻度のリハビリテーション(以下、リハ)を提供し、廃用症候群の予防、日常生活活動(以下、ADL)向上、早期在宅復帰を目指している。また、在宅復帰後の継続的なリハを提供する場として訪問リハや外来リハ、通所リハ等が存在する。当院回復期リハ病棟は、365日リハ・1日9単位のリハを提供しており、結果として早期退院が実現する事が多く、発症から180日未満で外来リハを開始する方が殆どである。従って、発症から間もないこともあり、能力改善の余地を残して外来リハを開始するケースが多い。また、診療報酬における算定日数上限180日以降も、カンファレンスにおいて医学的判断に基づいた改善見込みについて検討し、外来リハを継続している。病院退院後の片麻痺者の身体機能については古くから研究が行われている。20年前においては機能維持、予後予測の観点から研究が行われている。現在では在宅におけるリハ効果について報告が多く、それらの研究は、FIM等を用い、ADLの経過を追ったものが多く、歩行パフォーマンスの経過を追っているものは少ない。上記のように、今日の医療保険制度を考えると、定量評価によるパフォーマンンスの改善を示す事と、経時的なデータを追う事は、外来リハを継続する上で重要であると考える。そこで今回我々は、10m歩行所要時間(以下、10mtime)を指標とし、当院回復期リハ病棟を退院した脳卒中片麻痺者の歩行能力の変化を追う事とした。【方法】 対象は、脳血管障害(脳梗塞もしくは脳出血)により片麻痺を呈し、かつ2008年1月から2011年1月までに当院回復期病棟に入院し、退院後に当院外来にてリハビリテーションを開始した109名(男性84名,女性25名 年齢61.2±12.9歳)とした。なおデータを採用するにあたり、カルテ上に10mtimeが記載されていなかった者、介助にて10m歩行評価を実施した者、研究期間中に他院へ入院した者は除外した。10mtimeは3カ月毎の定期カンファレンスで報告されている値で、外来開始、3ヶ月後(以下、3M)、6ヶ月後(以下6M)、9カ月後(以下、9M)の値とした。測定方法は当院PT部門で定められており、10m区間前後に約3mの予備区間を設け、ストップウォッチにて最大歩行速度における所要時間を計測した。計測した外来開始、3M、6M、9Mの10mtimeについて反復測定分散分析を行った。また、反復測定分散分析で主効果が有意であった場合、TukeyのHSD検定を用いた。なお、有意水準は5%未満とした。統計解析はSPSS12.0J(SPSS Japan)を用いた。【説明と同意】 本研究は、所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 外来開始の10mtimeは14.5±11.2秒、3Mは12.7±9.2秒、6Mは12.3±9.4秒、9Mは11.9±9.4秒であり、反復測定分散分析の結果、有意な差が認められた(p<0.05)。また、多重比較検定の結果、外来開始と3M、6M、9M各期の10mtimeに有意差を認め(p<0.05)、3Mと9Mの10mtimeに有意差を認めた(p<0.05)。【考察】 片麻痺者に対する外来リハの目的の一つとして、病棟退院後の在宅生活の安定が挙げられる。一方で利用者からは更なる機能・能力向上の希望が挙げられ、とりわけ歩行能力向上に対するニーズが聞かれる事が多い。今回の外来開始から3Mの10mtime改善を考えると、外来リハ初期においては積極的に機能・能力回復に対してアプローチする価値があると考える。また、その後の10mtime改善の経過に関しては、はじめの3Mと比較すると緩やかになっているものの、継続した改善がみられた。回復期リハ病棟からの早期退院を考えると、外来開始初期は算定日数上限内に収まるものの、数カ月すると算定日数を超える利用者が殆どである。算定日数上限以降も、医師が改善の見込みがあると判断した場合、リハを継続することが可能である。よって今回の継続的な10mtimeの改善は、維持期リハを継続する為の医学的判断の一助になると考える。今後、さらに調査期間を延長し、歩行パフォーマンスの改善に対する調査を継続して行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 今回、外来通院している片麻痺者の10mtimeの継続的な改善がみられた。外来初期は能力改善の余地が大きく、積極的なリハが望まれる。また、算定日数上限以降の継続的なパフォーマンス改善は、外来リハを継続する為に必要な医学的判断の一助になると考える。
著者
丸山 大弥 中村 祐輔 小川 真司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】脳血管患者のリハビリテーション(以下リハビリ)において,予後予測を行う事は重要となる。年齢や認知機能は脳血管患者の予後に影響を及ぼすという報告は多く見られるが,対象を運動FIMの重症度で分類した報告は少ない。予後予測を行うにあたって,入院時の運動機能は影響すると考えられる。そこで,当院回復期リハビリテーション病棟(以下回リハ)の脳血管患者を重症度で3群に分け,年齢・認知症の有無が運動FIMの利得に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】H26年7月からH27年3月末までに当院回リハを退院した193名の内,死亡退院や急変による転院を除外した脳血管患者57名を対象とした。対象を3群に分け,13~39点を重度介助群(n=13,age=72.3),40~77点を中等度介助群(n=31,age=73.0),78~91点(n=13,age=68.9)を自立群とした。その3群間で運動FIM利得,MMSE,年齢,在宅復帰率,在院日数について比較した。統計は,一元配置分散分析,Spearman順位相関分析を行った。【結果】3群間で年齢,MMSE,在宅復帰率に有意差はみられなかったが,運動FIM利得,在院日数に有意差がみられた(p<0.05)。post.hoc検定により,FIM利得は重度介助群と中等度介助群,自立群と中等度介助群において有意差がみられた(p<0.05)。また,在院日数は,すべての群間で有意差を認めた(p<0.05)。脳血管患者3群それぞれにおいて,運動FIM利得とMMSEや年齢の間に相間関係はみられなかった。【結論】先行研究では年齢と認知機能はFIM利得に影響を及ぼすと報告があるが,本研究では必ずしも影響を及ぼすとは断定できなかった。要因として,先行研究との比較で基本属性データに差がないことから,さらなる詳細な基本属性データの高次脳機能や麻痺の重症度等の影響が考えられる。また,サンプルサイズが少ないことも要因の1つとして考えられる。層別化した3群では,中等度介助群のみFIM利得に有意差がみられた。自立群では天井効果で改善点数が小さくなり,重度介助群では座位の安定などFIMの評価項目に含まれない内容での僅かな能力の改善が生じたためと考える。入院時運動FIMの層別化した3群で在宅復帰率に有意差はなかったが,入院時の運動FIMと在院日数は正の相関関係にあった。重介助群は入院時の介助が多く必要な事に加えて,中等度介助群に比べFIM利得が小さい為,ADL獲得に長い期間が必要となる。さらに,身体機能の改善のみでADLの向上が困難な患者においては,多職種や家族と連携し住宅改修等に期間が必要となる。そのため,入院日数が長期化すると考えられる。脳血管患者の年齢と認知機能は必ずしもFIMの改善に影響を及ぼす要因でない事が示唆された。高齢で認知機能の低下した患者であっても,積極的なリハビリの介入によりFIMの改善が可能となると考えられる。重介助群の予後予測では,今回の結果も考慮し適切な判断が必要とされる。
著者
中橋 史衡 田中 周 武藤 友和 吉田 真一 佐藤 貴子 鈴木 敬二 森豊 浩代子 鈴川 活水
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.E-171_1-E-171_1, 2019

<p>【はじめに・目的】</p><p>乾,山口,實はChungらによる被殼出血症例の出血部位を血管支配領域別に分けた6分類を用いて,それぞれ回復期病棟,急性期病棟の独歩獲得率を調査している.しかし,同分類と被殻出血症例に対する装具処方の関連を調査した報告はみられない.今回被殼出血症例における当院退院時の独歩獲得率及び装具処方との関連を各部位間で調査し先行研究との比較検討を行った.</p><p>【方法】</p><p>2011年~2018年の間に入院した被殻出血患者87名を対象とした.男性56名,女性31名,年齢平均58.52(±12.59)歳,損傷側は左側36名,右側51名であった.既往歴に脳血管疾患や整形外科疾患を有する症例は除外した.急性期頭部CT画像と回復期入院 時頭部CT画像(撮影日:発症後平均25±11日)を用いて出血位置を確認しChungらが報告している6タイプ(前方タイプ,中間タイプ,後内側タイプ,後外側タイプ,外側タイプ,大出血タイプ)に分類した.退院時Functional Independent Measure(以下;FIM)移動項目1-5点を独歩不可能群,6-7点を独歩可能群とし,独歩獲得率を求めた.各タイプの割合,年齢平均,独歩獲得率,退院時FIM移動項目およびFIM認知項目の点数,BRS,内包後脚への進展の有無を比較した.統計学的解析はJ-STATを用い,独立した多群の差の検定としてKruskal Wallis検定を行い,多群比較としてscheffe法を行った.有意水準はいずれも p<0.05とした.</p><p>【結果】</p><p>分類別の症例数は前方タイプ3名(3.4%),中間タイプ7名(8.0%),後内側タイプ2名(2.0%),後外側タイプ30名(34.4%),外側タイプ21名(26.4%),大出血タイプ22名(25.2%).各タイプでの年齢・性別の有意差なし.独歩獲得率(装具処方)は前方タイプ100%(処方なし),中間タイプ100%(処方なし),後内側タイプ100%(処方なし),後外側タイプ93.3%(AFO43.3%,KAFO23.3%),外側タイプ90.4%(KAFO9.5%),大出血タイプ54.5%(AFO13.6%,KAFO86.3%,その他9.0%).大出血タイプにて有意に独歩獲得率およびBRSの低下が認められた.内包後脚への進展は後外側タイプ,大出血タイプにおいて有意にみられ,この両タイプ間の比較では大出血タイプに有意な進展を認めた.</p><p>【考察】</p><p>山口によると独歩獲得率は後外側タイプにて50%,大出血タイプにて13.4%と有意に低下しているとされるが当院では大出血タイプのみに有意な低下が認められた.また,当院での独歩獲得率は後外側タイプ93.3%・大出血タイプ54.5%と先行研究に比べ良好であった.当院では発症から回リハ病棟入棟までの入棟期間が短く(平均25±11日),また当院入院後比較的早期の装具処方(平均11.3±18.5日)と起立訓練の実施により積極的な立位・歩行訓練を実施している.実際に大出血タイプ症例の86.3%に早期にKAFOが処方されておりこれらが良好な独歩獲得率に寄与した可能性が示唆される.タイプ別の装具処方数については内包後脚および放線冠への進展がみられやすい後外側タイプ,大出血タイプにおいて多くの装具が処方されたことが考えられる.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言の基準に従い、データは研究以外の目的には使用せず、個人が特定されないよう匿名化した。また当院の規定に基づき個人情報の取り扱いには十分配慮して行った。</p>
著者
中井 雄貴 川田 将之 宮崎 宣丞 木山 良二 井尻 幸成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-69_1-I-69_1, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p> 体幹筋は歩行やADLで重要な役割を果たすことが知られている。腰痛や脊椎の術後等において、体幹筋のトレーニングは必須であるが、体幹の運動を伴わずにトレーニングすることが必要な場合がある。また、日常生活では体幹筋単独で活動することは少なく、下肢と機能的に連動して活動することが多い。背臥位における片側の股関節の内外旋運動は、骨盤を固定するために体幹筋の活動が必要であり、トレーニングとして活用できると考えられる。本研究の目的は、健常者を対象に背臥位における股関節内外旋運動が体幹筋に及ぼす影響を明らかにすることである。</p><p>【方法】</p><p> 対象は健常成人20名とした。膝関節90°屈曲位の背臥位における片側の股関節内外旋の等尺性収縮、及びクランチと片側下肢自動伸展挙上(ASLR)における体幹筋の活動を比較した。なお、股関節内外旋の等尺性収縮は左右股関節それぞれで行い、抵抗は大腿骨内外側上顆に加え80Nに統一した。</p><p> 体幹筋の活動の分析には、表面筋電計(EMG)および超音波画像診断装置(エコー)を用い、活動電位と筋厚を測定した。分析対象は右側の外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋(EMGのみ)、腹横筋(エコーのみ)、多裂筋(EMGのみ)とした。活動電位は最大随意収縮時の活動電位で正規化し、筋厚は安静時の筋厚で除し正規化した。</p><p> 事前に、筋活動と筋厚の最小可検変化量を算出した。統計学的検定には反復測定の一元配置分散分析もしくはFriedman検定、および多重比較検定を用い比較した。有意水準は5%未満とした。</p><p>【結果】</p><p> 右内腹斜筋の活動電位は、右股関節内旋20.8±11.6%と左股関節外旋13.7±9.0%(p < 0.001)、右外腹斜筋は右股関節外旋11.6±9.2%、左股関節内旋11.2±9.2%( p < 0.001)で最も高い値を示した。また、右腹直筋はクランチ17.2±7.3% (p < 0.001)、右多裂筋は右股関節内旋25.7±13.4%と左股関節外旋22.8±12.5%( p < 0.001)で高い値を示した。</p><p> 右内腹斜筋の筋厚は活動電位とほぼ類似した傾向を示したが、外腹斜筋の筋厚は一部に筋活動と異なる傾向を示した。右腹横筋の筋厚は、右股関節内旋144.5±27.4%と左股関節外旋129.2±25.7%で高値を示した(p < 0.001)。活動電位および筋厚で観察された差は、最小可検変化量よりも大きかった。</p><p>【考察、結論】</p><p> 本研究の結果より、片側股関節の内外旋運動はクランチやASLRよりも有意に同側の内腹斜筋と多裂筋、対側の外腹斜筋を活動させることが示された。これは、片側の股関節の回旋運動に抗して骨盤・体幹を安定させるためにカウンターとして、体幹筋群の活動が必要とされるためである。片側の股関節内外旋の負荷を利用した運動は、下肢と体幹を連動させる通常の運動に近似した筋活動を促すトレーニングとして利用可能と考えられる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は鹿児島大学医学部疫学研究等倫理委員会の承認(No 170116)を得たものである。ヘルシンキ宣言に則って研究計画の説明を行い、書面にて同意を得た後に研究を実施した。</p>
著者
高倉 保幸 山本 満 陶山 哲夫 高橋 佳恵 大住 崇之 大隈 統 小牧 隼人 河原 育美 加藤 悠子 若林 稜子 草野 修輔
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.B0014, 2006

【目的】脳出血で最も高い割合を占める被殻出血では、血腫の進展を示すCT分類や出血量、意識障害と予後との相関が高い事が知られているが、急性期病院の平均在院日数である発症後3週での予後との関係は明らかにされていない。また、臨床的には急性期の機能的予後にはCTにおける脳浮腫の程度と相関が高いという印象を持っているが、その評価基準は確立されていない。本研究の目的は、急性期被殻出血の機能的予後を予測する指標について検討することである。<BR>【方法】対象は当院にて初回発症で理学療法を行った被殻出血47例とした。年齢は60.1±10.7歳(平均±標準偏差)、性別は被殻出血が男性32例、女性15例であった。予後予測の因子として検討した項目は、脳卒中の外科学会によるCT分類(以下CT分類)、総出血量(長径×短径×高さ÷2)、出血径(長径)、脳浮腫、発症時意識(JCS)、発症翌日意識(JCS)とした。脳浮腫の判定は独自に3段階の評価基準を作製、いずれのレベルでも脳溝の狭小化がみられないものを1、脳溝の狭小化がみられるものを2、モンロー孔のレベルから3cm上部での病巣側の脳溝が消失しているものを3とした。基本動作能力の判定には11項目からなる改訂された機能的動作尺度(以下FMS)を用いた。FMSの検査時期は21.9±2.0日であった。各因子とFMSおよび因子間におけるスピアマンの相関係数を算出し、基本動作能力の予測に有用な因子を考察した。<BR>【結果】各因子およびFMSの結果をみると、CT分類の中央値はIII、総出血量の平均は36.8ml、出血径の平均は4.7cm、浮腫の中央値は2、発症時意識の中央値はII-10、発症翌日の意識の中央値はI-3、FMSの平均は14.8点であった。FMSとの相関は、CT分類では0.64(p < 0.01)、総出血量では0.61(p < 0.01)、出血径では0.57(p < 0.01)、脳浮腫では0.55(p < 0.01)、発症時意識では0.14(p = 0.34)、発症翌日意識では0.29(p = 0.45)となった。また、浮腫との相関は、CT分類では0.40、総出血量では0.50(p < 0.01)、出血径では0.54(p < 0.01)となった。<BR>【考察とまとめ】機能的予後を予測する指標としてはCT分類、出血量、脳浮腫が有用であることが示された。出血量では総出血量を算出する方が指標としての精度は高くなるが、長径により代用する方法も簡便で有用であると考えられた。新たに作製した脳浮腫の評価は予後と有意な相関を示し、CT分類や出血量と強い相関を示さないことから評価指標としての有用性が示された。意識はリハ開始前の死亡例が除かれていることおよび発症3週間という短期間で調査であることから相関が低くなったと考えられたが、発症日の意識よりも発症翌日の意識を指標とする方が有用であることが示唆された。<BR>
著者
木暮 洸一 川越 誠 桜井 進一 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb1388, 2012

【はじめに、目的】 投球動作の中で肩・肘関節に疼痛を訴えることの多い相はLate cocking期以降とされており,その動作はそれ以前の動作の影響を受ける.先行研究ではLate cocking期以降に加わる肩・肘関節へのストレスの大きさに影響を及ぼす要因として,肩・肘関節角度などが挙げられている.さらに,投球動作は下肢からの連動動作であるため,上肢だけではなく下肢にも注目する必要がある.下肢の中でも指導者や野球の指導書の多くがよく指摘するリードレッグ(前方に踏み出す足)の接地位置は投球におけるコントロールに強く影響を及ぼすため,接地位置のズレに気がつかないままの投球の継続は,コントロールを意識しすぎるが故に手投げとなることが多いとされている.そこで,本研究は野球の投球動作においてリードレッグの接地位置の違いが,肩の負荷および上肢への運動伝達に重要な体幹回旋角度にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は,本研究に同意の得られた野球経験のある男性10名(平均20.4±0.5歳)とした.課題動作はリードレッグの接地位置をスタンスレッグの踵からホームベースへ引いた直線上に接地するストレートステップ(以下SS位),その線より3塁側に接地するクロスステップ(以下CS位),1塁側に接地するオープンステップ(以下OS位)とする3つの肢位での全力投球とし,各課題それぞれ3球ずつ行い,その動作を三次元動作解析装置(VICON Mx,Oxford Metrics社製)およびスピードガン(Bushnell社)で計測し解析した.サンプリング周期は250Hzで,身体の各部位に38個の反射マーカーを貼付した.解析対象としては,各課題間で球速の差を最小限にするため,球速が近い値のデータを選択し,リードレッグ接地時(以下FP)・肩関節最大外旋時(以下MER)・ボールリリース時(以下BR)の関節モーメントおよび関節角度(オイラー角を用いて表現)を算出した.統計処理には, 3条件間での比較に一元配置分散分析を用い,その後の2条件間の比較に多重比較検定のTukey-Kramer法を用いた(有意水準5 %).なお,肩関節の負荷については,肩関節モーメントと肩関節角度・体幹回旋角度を求め,それらから推定するものとした.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者に対しては,研究内容と研究で起こりうる危険因子について口頭及び書面を用いて十分に説明を行い,同意を得た.【結果】 肩関節モーメントでは,MER時のSS位の内旋モーメントがCS位に比べ有意に高い値を示した(p<0.05).その他の肩関節モーメントでは有意な差は見られなかった.MER時の肩関節外旋角度は,SS位に比べCS位が,OS位に比べCS位が有意に高い値を示した(p<0.01).MER時の肩関節外転角度は,CS位がSS位・OS位に比べ有意に低い値を示し(p<0.05,p<0.01),SS位はOS位に比べ有意に低い値を示した(p<0.01).BR時の肩関節外転角度は,CS位がSS位・OS位に比べ有意に低い値を示した(p<0.05,p<0.01).肩関節水平内転角度は,MER時においてCS位がSS位と比較し有意に低く(p<0.01),BR時においてCS位がOS位と比較し有意に高い値を示した(p<0.01).FP時の体幹回旋角度では,SS位に比べCS位が,OS位に比べCS位が有意に低い値を示した(p<0.01).BR時では,SS位に比べCS位が,OS位に比べCS位が有意に高い値を示した(p<0.01).【考察】 算出した肩関節モーメントは,関節角度に比べデータの標準偏差が大きく,MER時のSS位・CS位間の内旋モーメントのみに有意な差が認められた.関節角度では,CS位が他の2条件に比べ有意に肩関節最大外旋角度が大きく,肩関節外転角度が小さくなった.また,リードレッグ接地時の体幹回旋角度でもCS位は他の条件に比べ小さい値となった.肩関節最大外旋角度が大きく,肩関節外転角度が小さい肘下がりでの投球動作はいずれも肩関節への負荷が増大するとされている.さらに,リードレッグ接地時の体幹回旋角度の不足は体幹と上肢の運動伝達を低下させ,代償的に肩にかかる負荷を増大させることから,CS位では肩の負荷が増大していると考えられる.以上のことから,3条件の中で一番肩関節への負荷が大きいのはCS位での投球動作ということが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 リードレッグ接地位置を修正することは,高速運動となるLate cocking期以降の動作を修正するよりも比較的容易であり,投球動作の指導上,有用なものになると考えられる.
著者
岩井 宏治 西島 聡 棈松 範光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0840, 2005

【はじめに】障害者ゴルフは関東圏では普及しつつあるが関西圏ではまだまだ認知度が低いスポーツである。また片麻痺クラスにおいては片手打ちが主流となっている。今回四肢麻痺という障害でありながらオリジナルリストバンドの作成により両手打ちが可能となった障害者ゴルファーへの関わりを経験したので報告します。<BR>【患者紹介】氏名:H・N 診断名:左椎骨動脈解離 ワレンベルグ症候群 障害名:四肢麻痺<BR>【理学療法評価】BRS:右上肢、手指、下肢V 左上肢II、手指III、下肢IV 表在感覚:右上下肢中等度鈍磨 左上肢脱失 下肢重度鈍磨 深部感覚:右上肢中等度鈍磨 下肢軽度鈍磨 左上下肢脱失 自律神経障害:左顔瞼下垂、発汗異常、耳鳴り、眩暈 握力:右19kg 左4.5kg 歩行:左Knee Brace装着にて1本杖歩行自立 <BR>【ゴルフ実施における問題点】(1)左手でグリップできるか(2)上肢に過度な負担をかけないよう腰の回転でスイングできるか(3)スイングに際し動揺しないだけの下肢支持性が獲得できるか(4)感覚障害が重度であるため微細な力加減が調節できるか<BR>【問題点に対する関わりと対応】(1)左手でのグリップ、片手スイング不可。一人でも付け外しが可能で固定性が良好という点に着目しオリジナルリストバンド作成。右手の握力も低下しており、付け外し部分の輪は大きく設定し、リスト部分、手背部と固定することで安定性強化を図る(2)スイングにおける筋活動として脊柱起立筋、腹斜筋、腹筋、大殿筋が重要であり、これら筋群の強化を目的とした(3)弛緩性四肢麻痺を呈しており、CKCトレーニングにおいても筋緊張亢進の所見なく、CKCトレーニングを積極的に導入。さらに左下肢の支持性低下に対しては支柱付き軟性装具作成し、ニーパッドにて安定性向上を図る。(4)認知運動療法、反復練習による残存感覚の再教育を実施。<BR>【今後の課題】(1)腰痛の評価。腰痛はプロで約50%、アマチュアで約35%に認められると言われる。(2)肩関節痛の評価。左肩はクラブヘッドがボールにあたる瞬間や、地面と衝突する瞬間に衝撃が大きく、またスイングでは肩を大きく回すため肩関節周囲筋への負担が大きい。そのため痛みが生じやすいとされる。本症例においてはさらに上肢は弛緩性麻痺を呈しており、負荷がより大きいと予測される。(3)自律神経症状の状態の把握。プレーを継続する上で自律神経症状の影響は大きい。耳鳴りが強くなれば集中力の持続は難しく、発汗異常は体調管理において重要である。気温の変化や疲労による影響を捉え、適切な指導を行う必要がある。
著者
西村 純 市橋 則明 南角 学 中村 孝志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2037, 2010

【目的】スポーツ選手の能力を評価する時には、筋力や持久力、バランス能力やパフォーマンス能力のみならず、Stretch-Shortening Cycle(SSC)能力を評価することがある。SSC能力は短時間で大きな力を出す能力の指標であり、スポーツ選手の能力を左右する。しかし、客観的にSSC能力を評価するためには特殊な測定機器が必要であり、スポーツ現場で容易に評価することはできない。本研究の目的は、幅跳びと三段跳びの跳躍距離を用いて算出した指標がSSC能力の評価法として有用であるかを検討することである。<BR>【方法】対象は健常男子大学ラグビー部員54名(年齢:20.3±1.3歳、身長:172.8±5.2cm、体重:72.5±6.9kg)とした。下肢運動機能の評価として、片脚パフォーマンステスト、下肢筋力測定を実施した。測定肢は全例右側とした。片脚パフォーマンステストは、6m Hop、Side Hop、垂直跳び、幅跳び、三段跳びとした。6m Hopは同側の脚でHopしながら前方に進み、6m進む時間を測定した。Side Hopは30cm幅を同側の脚にて10回(5往復)飛び越える時間を測定した。垂直跳びは助走せずに片脚にて上方に跳び、幅跳びは助走せずに片脚にて前方に跳び、三段跳びは助走せずに同側の脚にて前方へ3回連続で跳び、その距離をそれぞれ測定した。垂直跳び、幅跳び、三段跳びは最終時点での着地は両側とした。テストはそれぞれ2回実施し、最大値を採用した。下肢筋力の測定には、等速性筋力評価訓練装置MYORET(川崎重工業株式会社製RZ450)を用い、膝伸展・屈曲筋力をそれぞれ角速度60・180・300deg/secにて測定し、トルク体重比(Nm/kg)を算出した。SSC能力の指標として、三段跳びから幅跳びを3倍した値を引いた値を算出した。この値が全対象者の平均値以上であったものをSSC能力の高いA群、平均値以下であったものをSSC能力の低いB群とした。各測定項目の2群間の差の比較には、対応のないt検定を用い、危険率5%未満を統計学的有意基準とした。<BR>【説明と同意】各対象者に対し、本研究の目的・方法を詳細に説明し、同意を得て実施した。<BR>【結果】A群(25名)とB群(29名)の年齢(A群:20.4±1.3歳、B群:20.2±1.2歳)、身長(A群:171.8±5.1cm、B群:173.6±5.2cm)、体重(A群:71.9±6.6kg、B群:73.1±7.2kg)に有意差は認められなかった。片脚パフォーマンステストでは、Side HopはA群3.55±0.41秒、B群3.66±0.52秒で、A群はB群と比較して有意に速い値を示した(p<0.05)。6m HopはA群1.92±0.22秒、B群2.04±0.20秒であり、A群はB群と比較して有意に速い値を示した(p<0.05)。垂直跳び(A群:39.9±4.7cm、B群:40.3±8.3cm、p=0.82)、幅跳び(A群:181.6±18.3cm、B群:188.6±16.6cm、p=0.15)では両群間に有意差は認められなかった。三段跳びはA群607.3±61.6cm、B群572.8±52.9cmであり、A群はB群と比較して有意に高い値を示した(p<0.05)。下肢筋力では、膝伸展筋力は全ての角速度において2群間で有意な差は認められなかった。膝屈曲筋力は60deg/secでは有意な差は認められなかったものの、180deg/sec(A群:1.58±0.21Nm/kg、B群:1.44±0.27Nm/kg、p<0.05)および300deg/sec(A群:1.37±0.21Nm/kg、B群:1.18±0.22Nm/kg、p<0.01)ではA群はB群と比較して有意に高い値を示した。<BR>【考察】幅跳びと三段跳びの跳躍距離から算出した指標よりSSC能力が高いと判断した群においては、6m HopやSide Hopといった敏捷性を要する能力が高く、中・高速度での膝関節屈曲筋力が大きい値を示した。客観的にSSC能力を評価できる機器を用いた先行研究では、SSC能力が高いと敏捷性能力が高く、また高速度での膝関節屈曲筋力が大きくなると報告されており、本研究の結果と一致する。以上から、幅跳びと三段跳びの跳躍距離から算出した指標は、SSC能力を反映していると考えられ、スポーツ現場で簡便に利用できる評価法として有用であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から、スポーツ現場で簡便に行える幅跳びおよび三段跳びの跳躍距離からSSC能力を評価できることが示唆され、理学療法研究として意義があるものと考えられた。
著者
野中 理絵 野中 一誠 西 亮介 吉田 亮太 松島 知生 西 恒亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】頸椎症は40歳以上の男性の下位頸椎に好発すると言われており,若年における症例報告は散見しない。今回,頸椎症と診断された20代女性の理学療法を担当する機会を得た。アライメントに着眼して介入し,良好な結果が得られたので,以下に報告する。【症例提示】症例は20代女性,診断名は頸椎症。現病歴は起床時に頸部痛出現,鎮痛剤にて症状消失。約2か月後に同様の症状出現,鎮痛剤でも症状変わらず,それから1か月後に理学療法開始。主訴は頸を曲げると左頸部後方が痛くなる。X-p所見では,C3/4・4/5・5/6椎間腔狭小化を認めた。座位アライメントでは頭部・上位頸椎伸展位,下位頸椎前彎が消失し,頭部・C2-3右回旋位,C4-7左回旋位を認めた。頭頸部前屈時に左頸部後方に疼痛を認めた。前屈動作として下位頸椎の動きはほとんど見られず,上位頸椎の左回旋・側屈を伴い,前屈最終域で頭部左回旋位となった。頭部を正中位へ修正することで自動運動時の疼痛消失。頭頸部筋群に過緊張・圧痛,左頭半棘筋・板状筋に硬結が認められた。神経学的所見は認められなかった。【経過と考察】本症例では頭部・頸椎マルアライメントの状態で,上位頸椎の左回旋・側屈を伴う前屈運動を行っていた。そのため頸椎症に伴う二次的な筋スパズムが左頸部筋に生じ,これが疼痛の原因であったと考える。そこで頭頸部筋群のストレッチングやマッサージに加えて,頭部正中位での頭頸部自動運動を中心に行った。その結果,介入後2ヶ月で疼痛消失,座位では頭部マルアライメントが改善し,上位頸椎の左回旋・側屈を伴わずに前屈が可能となった。頸椎症に対する理学療法の概要として,後部頸部筋群・肩甲帯周囲筋群のリラクセーションを目的としたストレッチング・温熱療法,良姿勢指導・禁忌肢位指導が報告されている。本症例により,若年で発症した頸椎症に対しても,姿勢指導や運動療法が有効であるということが示唆された。
著者
対馬 栄輝 石田 水里
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3160, 2009

<B>【目的】</B>股関節副運動の障害を把握するために,股関節屈曲(股屈曲)・伸展(股伸展)時の大転子の動きを触知・観察する方法が考案されている(Sahrmann,2005).異常のない者では股屈曲時に大転子は比較的一定の位置に保たれ,股屈曲で後方へのすべりが起こらないと大転子は前方(腹側)に移動するといわれる.この検査法は簡便であり,臨床的にも有用だと考える.しかし実際,健常者では股屈曲・伸展によって大転子は動かないのか,動くとすればどの程度動くのかを明確にしたい.そこで健常成人を対象に,他動的な股屈曲・伸展における大転子の動きを測定した.また下肢伸展挙上(SLR)の角度や,大腿骨前捻角評価としてのクレイグテストとの関連も検討した.<BR><B>【対象と方法】</B>対象は健常成人6名(男性3名,女性3名)とした.平均年齢は20.8±0.4歳,平均BMIは20.8±3.4であった.検者は股屈曲・伸展を行う者,非測定下肢と骨盤を固定する者,大転子の位置を触知する者の3名とした.検者と被検者には事前に研究目的,内容に関する説明を十分に行い,同意を得た上で参加してもらった.測定肢は左下肢とした.被検者を平坦なベッドに背臥位とさせ,股関節中間位での大転子位置を触知し,円形のシールを貼ってマークした.次に背臥位で(1)股屈曲45°のSLR,(2)膝関節屈曲位(下腿が床と平行な状態)とした股屈曲45°と(3)腹臥位において股伸展10°としたときの,それぞれ大転子の位置を円形シールでマークした.各運動は他動運動とし,股関節回旋が起こらないように注意した.被検者の左側矢状面に対して垂直に設置したデジタルカメラ(Panasonic社製DMC-LZ5)で,マークした股関節周囲部を撮影した.撮影像をもとに画像計測ソフト(PLocate V1.0k)にて,股関節中間位に対するSLR・股屈曲・股伸展時の大転子移動距離を計測した.その他,被検者の他動的最大SLR角度の測定,クレイグテストも行った.<BR><B>【結果】</B>SLRの大転子移動距離は後方(背側)に平均1.6cm(範囲-1.3~3.8cm),股屈曲では後方に1.1cm(-1.5~1.6cm),伸展時は前方(腹側)に0.4cm(0.0~0.8cm)移動した.各大転子移動距離とSLR角度との相関はr=-0.512~0.206で有意ではなかった.クレイグテストとは股屈曲時の大転子移動距離のみがr=-0.967で有意(p<0.01)となった.<BR><B>【考察】</B>SLRと股屈曲では,ほとんどの者で大転子が後方に移動したが,このことは前捻角の影響から予想していた.股伸展は小さい可動範囲のために,移動量も少なかったのだろう.しかしクレイグテストで得た前捻角の大きい者ほど,股屈曲において大転子が大きく前方に移動する矛盾が生じた.前捻角の大きい者は大腿骨アライメントが最初から内旋位となっている可能性がある.また,後方すべりが生じ難いのかもしれない.この点については今後さらに追究する必要がある.
著者
米元 佑太 信迫 悟志 兒玉 隆之 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0428, 2012

【目的】 身体に対して加わる外乱の予測が行われている際に,外乱後の姿勢を安定させるためにそれに先行する筋活動が生じる.これを予測的姿勢制御(Anticipatory postural adjustments:APAs)と呼び,APAs時における筋活動や重心動揺の変化についてはこれまで明らかにされている.誘発電位を用いたJacobsらの研究(2008)によると,外乱前の皮質活動がAPAsには必要であることが示されている.一方,機能的近赤外分光法を用いた研究(Mihara et al 2008)では,前頭前野,補足運動野(SMA),右後頭頂葉がAPAsに関与していると示された.しかし,これらの機器では外乱に対する脳活動の時間関係と活動部位を同時に同定することは難しい.そこで本研究は,この問題を解決できる多チャンネル脳波計を用い,身体外から加わる外乱の予測の有無が脳活動に与える影響について検討することを目的とした.【方法】 対象者は同意を得た右利き健常大学生男女10名(21.1±1.8歳).身体への外乱は,先端に1.34kgの重りを付加した振り子によって肩の高さまで挙上した手掌面に加えた(Santos et al 2010).開眼で外乱を加えた場合を視覚的予測あり条件,閉眼で外乱を加えた場合を視覚的予測なし条件とし,両条件で外乱を100回加えた.またコントロール条件として開眼,閉眼それぞれの立位も2分間設定した.高機能デジタル脳波計ActiveTwoシステム(BioSemi社製)を用い課題中の脳活動を計測した.データ処理にはEMSE Suite プログラム(Source Signal Imaging)を使用し,0.1Hz-100Hzの帯域パスフィルターをかけ,瞬目によるアーチファクトを除去した.身体に外乱が加わった時点をトリガーとし,視覚的予測あり条件,視覚的予測なし条件それぞれに対し外乱前800msの範囲で加算平均を行った.その後sLORETA解析を用い,視覚的予測あり条件と開眼立位、視覚的予測なし条件と閉眼立位の脳活動の差を統計処理した.有意水準は5%未満とした.また,今回用いた外乱方法を採用している先行研究(Santos et al 2010)において,APAsによる最初の筋活動が外乱の220ms前であったことから,視覚的予測あり条件ではこの区間より以前にAPAsに関連する皮質活動があると考え解析を行った.これに加えてmicrostate segmentationとGlobal Field Powerを用いて解析区間を決定した.【説明と同意】 課題施行前に研究内容について対象者が十分に理解するまで口頭で説明し,同意を得た.【結果】 視覚的予測あり条件では,外乱前700msec~300msecの区間に持続的な背外側前頭前野(DLPFC),右後頭頂葉,眼窩前頭皮質,前帯状回の有意な活動を認めた(p<0.01)。また,これらの区間では持続的ではないものの運動前野(PMC),一次体性感覚野,前頭眼野にも有意な活動を認めた(p<0.01).一方,視覚的予測なし条件では解析を行った全ての区間でSMA,前帯状回,一次運動野(M1)に有意な活動が認められた(p<0.01)。【考察】 視覚的予測あり条件において持続的なDLPFCの活動が認められたことは、DLPFCが注意の分配に働くこと,そしてその能力が姿勢制御に関わることが関係していると考えられる。一方,右後頭頂葉は感覚野と視覚野からの情報を統合し,自己の身体図式の生成に関与することや,視空間的注意の配分や持続に関わることが知られており,今回の活動もこれらが反映している可能性が示唆された.また,PMCは外発的な運動プログラミングに関わっており,視覚座標系での認知後,自己の身体図式を用い,運動プログラムの修正に関与したと考えられる.さらに前帯状回は課題の遂行機能制御とその注意の制御に関与し,眼窩前頭皮質は多様な入力情報と出力情報を統合する高次機能を担うことから,これら両者の関わりによって,予測的姿勢制御における注意や行動の制御に働いたと考える.一方,視覚的予測なし条件で活動したSMAは先行研究においてAPAsに重要であると述べられているが,SMAは内発的な運動プログラミングを行う領域でもある.先のPMCとの働きの違いは外乱の提示方法の変化によって生じたと考えられる.視覚的予測なし条件においても研究の性質上外乱が加わることは予測されていたため,記憶を用いて内発的に運動をプログラミングし,運動準備していたことが想定される.M1の活動増加はこの運動準備のための活動であると推察される。これらの結果からAPAsは予期的な反応だけでなく,状況に応じた注意の持続や配分,感覚情報の統合,運動プログラムの修正といった皮質機能が必要であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 セラピストはAPAsの異常に対し,治療的介入によって正常な活動を引き出そうとしている.本結果はAPAsには皮質機能が関与していることを明らかにしたものであり,これら領域を効果的に活性化させることが姿勢制御を向上させる手続きになることを示唆した.
著者
松尾 篤 冷水 誠 前岡 浩 奥田 彩佳 小寺 那樹 堀 めぐみ 山田 悠莉子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに】</p><p></p><p>我々は,患者の表情から体調やリスク,また気分を察知し,医学的・心理的対応を臨機応変に修正しながら理学療法を実践する。このように,他者の表情からその心の状態を想像することは医療専門家として重要である。しかしながら,このような表情識別は意識的に実行されるわけではなく,無意識的かつ自動的に行われており,他者のことをわかろうと積極的に努力しているわけではない。よって,この無意識的な表情識別の過程を検証することで,医療コミュニケーション教育の基礎的知見になると考える。そこで,本研究では本物と偽物の表情を観察している際の視線行動を分析し,他者理解の潜在的な能力を検討する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>研究参加者は,健常大学生99名(男性49名,女性50名),平均年齢20.5±2.1歳とした。実験1として,視線行動分析課題を実施した。笑顔と痛みの表情を本物と偽物をそれぞれペアで提示し,提示時間5秒,インターバル3秒で合計16画像を観察した。その際の視線停留時間をアイトラッカー(Tobii社)で記録した。次に実験2として,表情識別課題を実施した。実験1で使用した笑顔と痛みの画像を1枚ずつPC画面上に提示し,参加者には本物か偽物かを可能な限り早くボタンで回答するよう求めた。実験3では,共感性のテストとして,目から感情を読み取る課題(アジア版RMET)を実施した。PC画面上に目の画像を1枚ずつ合計36枚提示し,各画像の四隅に表示した感情用語から目が表す感情を選択する課題を実施した。実験2と3の正答率および反応時間をSuperLab5.0(Cedrus社)で記録した。実験1と2の統計分析はWilcoxon matched-pairs signed rank testを実施し,実験2と3の関連性検証にはSpearmanの相関分析を使用した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>(実験1)笑顔の場合には本物の方を有意に長く注視することが示された(本物1.92±0.7秒vs偽物1.79±0.6秒,P=0.002)。しかし,痛みの画像では注視時間に有意差を認めなかった。(実験2)笑顔の本物正解率は平均74.1%であり,正解率が平均以上の参加者では,実験1の本物の笑顔に対する注視時間が有意に長かった(本物2.00±0.4秒vs偽物1.78±0.4秒,P=0.01)。(実験3)RMETの正答率が高いほど,本物の笑顔識別が有意に高かった(r=0.2,P=0.03)。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>我々は,無意識的に高い精度で本物の笑顔を識別しており,本物の笑顔をより長い時間観察することによって,その識別能力を可能にしていることが示唆された。また,共感性が高い人ほど笑顔識別能力が高いことから,他者理解と表情認知は密接な関連があることが示唆された。しかしながら,痛み表情ではこれらを認めず,笑顔と痛み表情の社会的意義の相違が表情認知に関係することが推察された。</p>
著者
大塚 直輝 建内 宏重 永井 宏達 松村 葵 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ce0109, 2012

【はじめに、目的】 ミリタリープレス(Military press:以下MP) は臨床現場で一般的に行われているリハビリテーションプログラムの1 つであり,肘関節屈曲位で肩関節前方に重錘を保持した肢位を開始肢位として,肘関節伸展しながら肩関節を挙上する動作である。MPは多くの先行研究でリハビリテーションプログラムとしての有用性が示されており,臨床現場では通常の挙上に比べてMPでより容易に拳上可能となることが経験される。しかしながら,通常の拳上に対してMP時の肩甲帯の運動学的,筋電図学的変化について詳細に分析した研究はない。肩関節疾患患者のリハビリテーションでは肩甲骨・鎖骨運動の誘導や,肩関節周囲筋の賦活に焦点を当てることが多く,MP時の運動学的、筋電図学的特徴を知ることは、運動療法の中でのMPの適応を明らかにするために重要な情報となりうる。本研究では,MP時の肩甲帯の動態と肩関節周囲筋の筋活動の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男性 16名(21.8 ± 1.1歳)とし、測定側は利き手側とした。測定には 6 自由度電磁センサー(POLHEMUS 社製, LIBERTY)と表面筋電図(Noraxon社製, TeleMyo2400)を用い,これらを同期して上肢拳上時の肩甲帯の運動学的データと肩関節周囲筋の筋電図学的データを収集した。筋電図は三角筋、僧帽筋上部・中部・下部、前鋸筋に貼付した。拳上方法は上肢矢状面拳上(以下:SE)とMPとし、それぞれに無負荷条件と2 kg重錘負荷条件を設定した。測定は椅坐位にて4秒間で下垂位から最大拳上する動作をそれぞれ5回ずつ行い,間3回の平均値を解析に用いた。運動学的データは胸郭に対しての上肢拳上角度,肩甲骨外旋・上方回旋・後傾角度,鎖骨拳上・後方並進角度を算出し,筋電図学的データは最大等尺性随意収縮時の筋活動を100%として正規化した。また負荷による影響を除外するため,上肢拳上の主動作筋である三角筋の筋活動に対する僧帽筋上部・中部・下部、前鋸筋筋活動の比を算出した。解析区間は上肢拳上30 - 120°とし、30°より10°毎の肩甲骨・鎖骨角度、筋活動比を算出した。なお筋活動比は,各解析時点の前後100 msec間の平均値とした。統計学的処理には肩甲骨・鎖骨角度および,各筋の筋活動比を従属変数とし,拳上方法(SE, MP)、負荷(無負荷, 2 kg)、上肢拳上角度(30 - 120°)を三要因とする反復測定三元配置分散分析を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,実験の目的および内容を口頭,書面にて説明し,研究参加への同意を得た。【結果】 肩甲骨外旋角度は,負荷に関わらず拳上初期~中期でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01,拳上方法・角度間交互作用:p < 0.01)。上方回旋角度は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた (挙上方法主効果: p < 0.01)。後傾角度は,負荷に関わらず拳上中期でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01,拳上方法・角度間交互作用:p < 0.01)。鎖骨後方並進角度は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01)。鎖骨拳上角度では,挙上方法による有意な違いがみられなかった。三角筋に対する僧帽筋上部,前鋸筋の筋活動は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた (挙上方法主効果: p < 0.05)。三角筋に対する僧帽筋中部・下部の筋活動では,それぞれ挙上方法による有意な違いがみられなかった。【考察】 本研究の結果,MPではSEと比較して、肩甲骨外旋・上方回旋・後傾と鎖骨後方並進が増加することが明らかとなった。またMPではSEと比較して,三角筋に対する僧帽筋上部と前鋸筋の筋活動が増加することが明らかとなった。肩甲骨・鎖骨運動と肩甲骨周囲筋の筋活動に関して負荷の有無による差は見られなかったため,上記の運動学的・筋電図学的変化はMP時に特異的な運動・筋活動様式であることが考えられる。前鋸筋は特に肩甲骨上方回旋に関わる筋であり,さらに前鋸筋の活動が肩甲骨外旋や後傾にもつながるとされている。また僧帽筋上部の活動は鎖骨後方並進を生み出すとされている。MPでは負荷に対して僧帽筋上部と前鋸筋の筋活動が増加したため、肩甲骨外旋・上方回旋・後傾運動と鎖骨後方並進が増加したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 上肢拳上時の肩甲骨外旋・上方回旋・後傾角度、鎖骨後方並進角度の減少は、様々な肩関節疾患患者で見られる現象である。本研究結果より、MPは前述の特徴を示す肩関節疾患患者の肩甲骨・鎖骨運動を誘導するトレーニングとして有用であると考えられる。
著者
手塚 純一 大塚 洋子 長田 正章 岩井 良成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI2176, 2011

【目的】<BR> 長い間、小脳は純粋に姿勢の制御や随意運動の調節を行なうための神経基盤であると考えられてきた。1980年代半ばから、神経心理学・解剖学・電気生理学などの発展により、運動・前庭機能以外にも様々な認知過程に関与することが明らかになってきた。1998年にはSchmahmannとShermanが小脳病変によって生じる障害の4要素(遂行機能障害・空間認知障害・言語障害・人格障害)を小脳性認知・情動症候群(CCAS)として提唱した。しかしながらリハビリテーションの領域では小脳と高次脳機能についての報告は散見されるが症例報告に留まっており、特に理学療法における報告は少ない。本研究の目的は、小脳の損傷部位と臨床症状の関係について量的研究を行ない、理学療法における小脳損傷に伴う高次脳機能障害に対する対処の必要性を明らかにすることである。<BR>【方法】<BR>1.対象:<BR> 対象は2008年1月から2010年10月の間に脳卒中を急性発症し当院に入院した患者連続895例のうち、小脳に限局した病変を有する39例である。除外基準は1)脳室穿破、2)水頭症、3)発症前より明らかな認知機能低下を有する例とした。<BR>2.方法<BR> 調査項目は年齢、性別、梗塞・出血の種別、画像所見、臨床症状とした。画像所見は入院時に撮影した頭部CTもしくはMRI画像を利用し、小脳の損傷部位を虫部、中間部、半球部に分け列挙した。臨床症状は意識清明となった時点での運動失調、見当識障害、注意障害、記憶障害、言語障害、空間認知障害、人格障害について次の基準で有無を判定し列挙した。運動失調は鼻指鼻試験もしくは踵膝試験での陽性反応を、人格障害はFIM(Functional Independence Measure)社会的交流項目での減点を認めた場合に有とした。それ以外はMMSE(Mini-Mental State Examination )、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)の、見当識障害:見当識項目、注意障害:計算項目及び逆唱項目、記憶障害:遅延再生項目、言語障害:物品呼称項目もしくは語想起項目、空間認知障害:図形模写項目、において減点を認めた場合に有とした。<BR>3.解析<BR> 損傷部位と臨床症状に関連があるかを、フィッシャーの正確確率検定を用いて検討した。なお統計学的判定の有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は個人情報を匿名化した上で、その取り扱いについて当院の規定に則り申請し許可を得た。<BR>【結果】<BR>1.最終対象者<BR> 39例中5例は脳室穿破、水頭症もしくは発症前からの認知機能低下を有し対象から除外した。従って最終対象者は34例(男性18例、女性16例、平均年齢70.2±11.0歳)であった。<BR>2.脳損傷様式<BR> 小脳梗塞11例、小脳出血23例、損傷部位は虫部~半球部に渡るものが15例、虫部~中間部が8例、中間部~半球部が9例、半球部のみが2例であった。<BR>3.臨床症状<BR> 項目毎に発生数を計上すると、運動失調31例(91.2%)、記憶障害23例(67.6%)、見当識障害17例(50.0%)、注意障害14例(41.2%)、言語障害9例(26.5%)、人格障害5例(14.7%)、空間認知障害5例(14.7%)であった。上記の症状の多くは合併し、総合すると24例(70.6%)に何らかの高次脳機能障害を認めた。半球部に損傷がある26例のうち22例(84.6%)に何らかの高次脳機能障害を認めた。半球部に損傷がない8例のうち6例(75.0%)には高次脳機能障害を認めなかった。<BR>4.解析<BR> 検定の結果、有意な独立性を認めた項目は1)虫部~中間部の損傷と運動失調の発生率(p<0.01)、2)半球部の損傷と何らかの高次脳機能障害の発生率(p<0.01)、3)半球部の損傷と記憶障害の発生率(p<0.001)であった。<BR>【考察】<BR> 半球部は歯状核から視床外側腹側核を経由して運動前野や前頭前野・側頭葉に投射し、小脳-大脳ループとして認知機能に関与している。本研究で半球部損傷の多くに高次脳機能障害を認めたことは、SchmahmannとShermanの報告と一致した結果となった。多くの例に記憶障害を認めたことにより、CCASの概念で取り上げられている作動記憶の障害や視空間記憶の障害だけでなく、エピソード記憶の障害にも小脳が関与している可能性が示唆された。<BR> 記憶障害・注意障害等による生活指導の定着率低下や、人格障害による練習の拒否等の問題は、理学療法の進行に大きな影響を与える。半球部に損傷を認めた場合には、高次脳機能障害の有無を精査し対処していく必要があると考える。今後は半球部損傷のみの症例数を増やすと同時に、各臨床症状の半球部における責任領域について検討を重ねていきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 小脳損傷に伴う高次脳機能障害は患者の学習や社会復帰において多大な影響を与える要素であり、理学療法においてもその研究と対策は重要である。本研究はその一助となると考える。