著者
駒村 智史 草野 拳 爲沢 透 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに・目的】</p><p></p><p>肩関節水平内転や内旋可動域の制限因子として挙げられる肩関節後方の軟部組織の伸張性低下は一般的に肩関節後方タイトネスと呼ばれている。肩関節後方タイトネスは,上腕骨頭の前方偏位が関わるインピンジメントや内旋可動域の制限と関連することが示唆されており,その一因として棘下筋の柔軟性低下が挙げられている。先行研究により,棘下筋のストレッチング方法として,肩甲骨を固定し肩関節を水平内転する方法(cross-body stretch)が推奨されている。筋硬度の低下や関節可動域の増加といったストレッチ効果は実証されているが,上肢挙上動作などの肩甲骨が関わる動作において棘下筋に対するストレッチングが肩甲骨運動に及ぼす影響は不明である。そこで本研究の目的は,棘下筋のスタティックストレッチング(SS)による棘下筋の柔軟性向上が上肢挙上時の肩甲骨運動に与える影響を明らかにすることとした。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は健常若年男性15名(22.3±1.2歳)の非利き手側上肢とした。SSは上記のcross-body stretchとし,SS時間は3分間とした。SS前後において,6自由度電磁気式動作解析装置(Liberty;Polhemus社製)を用いて肩関節屈曲運動時の肩甲骨運動(外旋,上方回旋,後傾)を計測した。</p><p></p><p>SSによる棘下筋柔軟性向上の指標には超音波診断装置(Aixplorer, Supersonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能より算出される弾性率を用いた。弾性率は低値を示すほど筋の柔軟性が高いことを意味する。棘下筋の弾性率がSS前(pre)に比べ,SS直後(post1)とSS後の肩甲骨運動計測後(post2)に低値を示すことを包含基準とし,計9名を解析対象とした。</p><p></p><p>統計解析は,10度毎の各肩関節屈曲角度における肩甲骨角度より,時期(SS前,SS後),角度(30~120度)の2要因による反復測定二元配置分散分析を行った。主効果を認めた場合は事後検定としてBonferroni法による多重比較およびt検定を行った。有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>各弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はpreが34.2±7.4,post1が28.6±7.3,post2が29.2±8.4であり,preに対し,post1,post2において有意に低値を示した。二元配置分散分析の結果,肩甲骨外旋において時期における主効果を認めた。事後検定の結果,SS前に対し,上肢挙上30-80°においてSS後に有意に外旋角度が増大した。また,肩甲骨上方回旋と後傾に関しては,交互作用および時期における主効果を認めなかった。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>Cross-body stretchにより棘下筋の弾性率が低下すると,上肢挙上動作時の肩甲骨外旋角度が増大することが明らかとなった。これより,cross-body stretchが,上肢挙上運動時の肩甲骨運動の改善に有効である可能性が示唆された。</p>
著者
水野 良亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】投球障害を有する選手には肩関節可動域制限や筋力低下がみられ,これらを発生要因と考えられている。しかし,これらは医療機関を受診した選手の病態に基づいた報告が多く,肩関節機能の低下は痛みに伴う結果である可能性もある。野球の現場では,選手の肩関節機能は練習継続など様々な要因によって日々変化しており,かつ一日の中でも変動していると実感することが多い。このような現場における高校野球選手の肩関節可動域についての日常的かつ経時的な変化に関する研究は少ない。そこで,本研究では7日連続で高校野球投手の肩関節外旋・内旋可動域を測定し,その経時的変化について分析した。</p><p></p><p>【方法】対象はT高校硬式野球部の投手8名(2年生2名,1年生6名)とし,測定は5日間の夏季合宿とその前後1日ずつの7日間連続で行った。測定時間は1日の中で①練習前(6~9時),②練習中(9~17時),③練習後(17~22時)の3回とした。また4日目は悪天候により屋外で活動できず,いわゆるノースローデーとなった。測定項目は肩関節外旋可動域と肩関節内旋可動域とし,投球側のみの測定とした。測定肢位は日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の方法に準じて肩90度外転位,肘90度屈曲位とし,背臥位で他動的に最大位を保持してデジタルカメラで撮影した。画像解析ソフト(ImageJ)を用いて,画像から肩関節外旋可動域・肩関節内旋可動域を算出した。7日間の測定期間から1日目と7日目の結果を除外し,測定時間の条件が統一可能であった2日目から6日目の練習前のデータについて分析した。統計分析には一元配置分散分析及びTukey-Kramer法を用いて,全ての測定日の組み合わせで多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】外旋可動域は2日目133±9度,3日目124±11度,4日目132±8度,5日目126±8度,6日目123±7度であり,内旋可動域は2日目46±8度,3日目44±9度,4日目41±7度,5日目51±10度,6日目47±7度であった。外旋可動域では2日目と3日目,2日目と6日目,3日目と4日目,4日目と6日目との間に有意差を認めた。内旋可動域では,4日目と5日目に有意差を認めた。</p><p></p><p>【結論】野球の現場において投手の肩関節外旋・内旋可動域は決して一定ではなく,日々変化していることが明らかとなった。特に内旋可動域制限は投球障害の主要因と考えられており,可動域の確保が投球障害予防には重要となる。今回の結果では2日目から経時的に内旋可動域が減少する傾向にあったが,4日目の休養により5日目には有意に回復していた。これは障害予防にとって重要な知見になると考える。一方,外旋可動域は日々変動を認め,4日目の休養の影響もみられなかった。肩外旋可動域は疲労以外の要因の影響も受けやすいと推察される。外旋可動域は障害のみならずパフォーマンスにも影響を与えるため,変動の要因をさらに検討する必要がある。</p>
著者
大江 達也 三田 裕教 藤本 敦久 對馬 龍太 高橋 伴弥 井上 悟史 中江 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>スポーツ選手の膝痛で高頻度に発生するAnterior Knee Painは,膝蓋下脂肪体(Infrapatella Fat Pad;以下IFPの)内圧上昇(Bohnsack M, et al., 2005)や,IFPの疼痛感度が高い点(Dye SF, et al., 1998)などが関与しているとされ,IFPの機能は重要であると考えられる。IFPは膝伸展時に遠位や内側,外側へ広がり,遠位では膝蓋靭帯と脛骨近位前面の間へも移動し,膝蓋骨の動きに安定性を与えると報告されている(林ら2015)。しかし,動態に関する研究は散見する程度であり,本研究の目的はpatella setting時におけるIFPの動態を,超音波エコー(以下エコー)を用いて評価する事である。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>膝関節に整形外科的疾患の既往の無い31例62膝を対象とした。男性23例,女性8例,年齢は平均28.5歳(21~42歳)であった。IFPの動態評価にはHITACHデジタル超音波診断装置Noblusを使用した。IFPはpatella settingにより周囲へ広がる際,広がった部位においてIFP前後幅が増大することをエコーにて観察できた為,本研究においては周囲への広がりを前後幅として評価することとした。測定肢位は仰臥位で膝窩部にクッションを敷き,膝関節軽度屈曲位を基本肢位とした。膝蓋骨遠位1/3から下端の間で,膝蓋骨内縁,外縁それぞれにおいて大腿骨内顆関節面,外顆関節面と伸筋支帯を鮮明に描出できる短軸像にて評価した。関節面と伸筋支帯の間にはIFPが存在しており,その距離を計測することによりIFP前後幅を評価できると考えた。検討項目は,内側,外側それぞれにおけるIFP前後幅とし,弛緩時とpatella setting時の差を算出した。また,patella settingによるIFPの遠位への広がりを評価する為に,膝蓋靭帯と脛骨近位前面のなす角をエコー長軸像にて計測した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>弛緩時とpatella setting時におけるIFP前後幅の差は,内側は平均1.58±0.87mm,外側は平均3.76±3.63mmであり,外側の方が統計学的に優位に大きかった(P<0.01)。また,内側と外側の間には弱い負の相関関係を認めた(相関係数-0.31,P<0.05)。弛緩時とpatella setting時における膝蓋靭帯と脛骨近位前面のなす角の差は,平均5.37±4.9°とpatella settingにより角度は増大していた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>林ら(2015)はIFPの移動量を膝の最終伸展運動で内側,外側に流れ込む距離として測定し,外側への移動距離が内側より大きいと報告している。我々も移動距離を直接評価しようと試みたがエコーでは困難であった為,間接的にIFPの前後幅で評価した。本研究の結果から,外側への移動距離の方が内側よりも大きい事が示唆され,林らの報告を支持する結果となった。しかし,内側と外側の間には負の相関関係があり,内側へ移動しやすい膝は外側へ移動しにくく,その逆も存在することが示唆された。また,遠位への移動も観察でき,IFPはpatella settingにより周囲へ広がる事が確認できた。</p>
著者
貝沼 雄太 宇良田 大悟 鈴木 大介 伊東 優多 宮本 梓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-35_1-H2-35_1, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p>野球選手の投球障害発生要因として投球数の増加が挙げられる。連続投球後での静的な肩甲上腕関節(以下、GHJ)可動域は外旋角度が増大し、内旋角度が減少するといわれている。しかし投球増加に伴って、投球中のGHJ角度や肩甲骨角度がどのように偏位していくかは報告されていない。今回、三次元動作解析装置(VICON MS社製)を用いて連続投球によるGHJ角度と肩甲骨角度を算出することを目的とする。</p><p>【方法】</p><p>対象は肩関節に愁訴の無い野球歴8年以上の健常男性5名(平均23.5歳)とした。測定方法は三次元動作解析装置を用いて、1球目、20球目、40球目、60球目、80球目、100球目の肩最大外旋角度時(以下、MER)でのGHJ外・内旋/水平外・内転角度と肩甲骨前・後傾/上・下方回旋/外・内旋角度とした。計測方法に際しては宮本らの方法に準じ、体表に36個のマーカーと肩甲棘パッド(マーカー4個)を貼付した。肩甲骨角度の定義は体幹に対する肩甲骨の値とした。GHJ角度の定義は体幹と上腕骨で計算される肩関節角度から肩甲骨角度を減算した値とした。統計処理は1球目と20球目以降でウィルコクソンの符号付順位和検定を用いて,比較を行った。有意水準は5%とした。</p><p>【結果】</p><p>MER時のGHJ外旋は1球目(112.1°)と60球目(125.7°)、80球目(126.5°)、100球目(138.7°)で有意に増加していた。GHJ水平外転角度も1球目(-4.6°)と60球目(5.2°)、80球目(8.5°)、100球目(8.4°)で有意に増加していた。また肩甲骨内旋角度は1球目(20.0°)と100球目(26.3°)で有意に増加していた。肩甲骨後傾角度は1球目(37.2°)と100球目(24.4°)で有意に減少していた。肩甲骨上方回旋角度は1球目(31.7°)と100球目(33.4°)で軽度上昇していたが有意差はなかった。</p><p>【結論】</p><p>今回の結果では投球数増加することにより、GHJ外旋角度と水平外転角度が増加し、肩甲骨前傾と内旋角度が増加する事が明らかとなった。MihataらはGHJ水平外転角度増大と肩甲骨内旋角度増大によりインターナルインピンジメントが生じる可能性があると報告している。投球数の増加が投球肩障害を発症させる可能性があると考えられる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>口頭や文章にて研究の概要、方法等を説明し、被験者になるか否かを自由意志によるものであることを確認した。その後、研究の主旨に同意を得られた者に対し測定を行った</p>
著者
前嶋 篤志 金子 秀雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】昨今,全身振動刺激(Whole body vibration:WBV)は身体に様々な運動効果をもたらすという報告があり,振動マシンを用いたWBVトレーニングが高齢者や様々な疾患に対して試みられている。WBVによる効果として,先行研究では下肢の筋力増強効果が得られたとしたものなどがあるが,これらの先行研究では,トレーニング中の肢位として膝関節を軽度屈曲した立位姿勢で行われているものが多い。しかし,膝関節伸展位でWBVを行うことにより,下肢関節での振動吸収が減少し振動刺激が体幹筋活動を高め,体幹筋に対するトレーニングに応用できる可能性が考えられる。また振動刺激の強度も筋活動に影響することが知られているが,WBV中の姿勢や振動強度が体幹筋活動へ与える影響を調査した研究は見当たらない。そこで本研究では健常成人男性を対象にWBV中の膝関節角度,振動周波数の違いが体幹筋活動に与える影響を調査することを目的とした。【方法】対象は運動に支障をきたす整形外科的疾患,神経疾患を有さない成人男性14名(平均年齢26±5歳,平均BMI19.9±1.4kg/m<sup>2</sup>)を対象とした。測定方法として対象者には,WBVトレーニング装置(Novotec Medical社製Galileo G-900)の振動板上で,2種類の振動周波数(20Hz,30Hz)および膝関節角度(屈曲0°,20°)の組み合わせによる4条件で立位を保持させた。足部の接地位置は,振動板の中心軸から左右に6.5cm離れた位置に足部の中心がくるように接地させ,振幅が1.2mmになるように統一した。足底全体に均等に荷重をかけ,安全のため前方のハンドルを軽く触れさせ,測定中は前方を注視するように説明した。各条件においてWBVを1分間行い,その時の右側の外腹斜筋(EO),内腹斜筋(IO)多裂筋(MF)の筋活動を表面筋電図(Delsys,Bagnoli-8)により測定した。各条件の測定順序はランダムに設定し,各条件間には1分間の休憩を入れた。WBV時の筋活動の計測前に,各3筋それぞれの最大等尺性随意収縮(MVC)を計測した。いずれも随意収縮を5秒間行ってもらい,中央3秒間の積分値(IEMG)を求めた。4条件における筋活動は振動前の5秒間とWBV中の安定した筋活動5秒間を抽出し,それぞれ中央3秒間を解析に用いた。分析に用いた筋電図は,バンドパスフィルター(10~400Hz)にてフィルター処理を行った後,WBV時の筋電図データはバンドストップフィルターにて振動による特定周波数をそれぞれ1.5Hzの範囲で選択的に除去した。その値を整流化し,IEMGを求め,WBV前のIEMGを差し引いた値をWBV中のIEMGとした。最終的にこの値をMVCで除して%IEMGを分析に用いた。統計方法として,WBV前の膝関節角度の違いによる%IEMGを比較するために対応のあるt検定を用いた。WBV中のデータは膝関節角度と振動周波数の2要因について反復測定の分散分析を行った。いずれも有意水準は5%とし,それ未満のものを有意とした。【結果】WBV前の膝関節角度の違いによる立位姿勢の各筋活動に有意差は得られなかった。膝関節角度と振動周波数における比較では,WBV中のEO,IOの筋活動にて膝関節角度要因に主効果を認めたがMFには認められなかった。膝関節角度の違いによる%IEMGの平均値は,EOが膝屈曲0°で19.1%,膝屈曲20°で14.7%,IOが膝屈曲0°で17.5%,膝屈曲20°で13.2%となり,膝屈曲0°の%IEMGが有意に増大した。振動周波数の主効果,交互作用は認められなかった。【考察】今回,WBV前の姿勢の違い,WBV中の振動強度の違いにおける%IEMGに有意差はみられなかった。WBV中の膝関節屈曲角度の違いにおいて屈曲20°と比較し屈曲0°のEOの%IEMGが約5%,IOの%IEMGが約4%大きく,それぞれ有意差がみられた。これは膝関節角度が小さくなるほど身体上部への振動強度は増加するとするAbercrombyらの報告を支持する結果となった。一方でMFの%IEMGには各条件間で有意差はなく立位姿勢条件による影響はないことがわかった。また周波数の違いは3筋の%IEMGに影響がないことがわかった。WBV上での立位姿勢の保持は,EO,IO,MFに対して低強度の筋活動を生じさせ,EO,IOに対しては膝屈曲0°位をとることで相対的に高い筋活動が得られることがわかった。【理学療法学研究としての意義】WBV上での立位姿勢,特に膝伸展位での保持が低強度の体幹筋活動を同時に生じさせること示した本研究は,WBV上での立位姿勢保持が体幹安定性を高めるトレーニングの一つとして活用できる可能性を示唆するものと考える。
著者
江玉 睦明 大西 秀明 久保 雅義 熊木 克治 影山 幾男 渡辺 博史 梨本 智史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】長母趾屈筋の停止部位に関しては多くの報告がなされており,長母趾屈筋が第II趾,第III趾に分岐するものが最も多く,今村ら(1948)は64%,川島ら(1960)は49%,Chelmer et al.(1930)は62%であったと報告している。また,今村ら(1948)は長母趾屈筋が母趾末節骨のみに停止する例は0%,Chelmer et al.(1930)は0.5%であったと報告している。このように停止部位に関しての報告は多数認められるが,長母趾屈筋が足趾の屈曲にどの程度関与しているかは検討されていない。Fukunaga et al.(2001)は,筋力や筋パワーは筋の解剖学的断面積より生理学的断面積と比例し,筋の体積は生理学的断面積と高い相関関係にあると報告している。また,佐々木ら(2012)は,下腿三頭筋の体積とアキレス腱横断面積には有意な相関関係があることを報告している。従って,足趾へ分岐する長母趾屈筋腱の横断面積を計測することで長母趾屈筋の足趾屈曲作用を定量的に検討することができると考えられる。そこで本研究では,長母趾屈筋腱を母趾と足趾に分岐する腱に分け,それぞれの横断面積の割合から長母趾屈筋がどの程度足趾の屈曲に関与しているかを検討することを目的とした。【方法】日本人遺体13体21側(平均年齢:75±11歳,男性:17側,女性4側)を用いた。足底部より皮膚,皮下組織を除去し,長母趾屈筋,長趾屈筋の停止腱を丁寧に剖出した。次に,長母趾屈筋が母趾へ向かう腱と足趾へ向かう腱に分岐した部分で各腱を横断した。また,足趾の屈筋腱(長趾屈筋,足底方形筋,長母趾屈筋が合わさった腱)をII趾~V趾の基節骨部で横断した。そうして各腱の断面をデジタルカメラ(Finepix F600EXR,Fujifilm)にて撮影し,画像解析ソフト(Image J, NIH, USA)を使用して横断面積を計測した。長母指屈筋腱において,母趾・第II~第V趾に分岐する腱の横断面積の総和を長母指屈筋腱の総横断面積として各腱の割合を算出し,更に第II~第V趾の屈筋腱に対する長母趾屈筋腱の割合を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】死体解剖保存法と献体法に基づき本学に教育と研究のために献体された遺体を使用した。また,本研究は所属大学倫理委員会にて承認を受けて行われた。【結果】長母指屈筋が母指末節骨のみに停止する例は存在せず,長母指屈筋からの分束(外側枝)が腱交叉部(足底交叉)から分かれて長趾屈筋の腱構成に加わった。その内,外側枝が第II指へ分岐するものが6例(29%),第II・III指へ分岐するものが11例(52%),第II・III・IV指へ分岐するものが4例(19%)であった。長母趾屈筋腱は,母趾へ向かう腱が65±14%,第II趾が23±6%,第III趾が9±9%,第IV趾が3±5%の割合で構成されていた。足趾の屈筋腱における長母趾屈筋腱の割合は,母趾・第II趾へ分岐するものでは,第II趾では36±3%であった。母趾・第II・III趾に分岐するものでは,第II趾では55±5%,第III趾では46±3%であった。母趾・第II・III・IV趾に分岐するものでは,第II趾では67±28%,第III趾では34±12%,第IV趾では30±2%であった。【考察】長母趾屈筋の停止部位に関しては,第II・III趾へ分岐するものが52%で最も多く,長母趾屈筋が母趾のみに停止するものは存在せず,先行研究とほぼ同様の結果であった。長母趾屈筋腱は,分岐状態にかかわらず約60%が母趾に停止する腱で構成され,第II・III・IV趾に分岐する割合は,それぞれ23%,16%,10%と減少していく傾向であった。しかし,第II・III趾の屈筋腱における長母指屈筋腱の割合は,概ね30%~60%を占めていた。従って,停止部位と横断面積の割合から考えると,長母趾屈筋の主作用は母趾の屈曲であり,第II・III趾の屈曲が補助作用であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,長母趾屈筋の足趾屈曲作用を考える上で貴重な情報となり,臨床的応用も期待できる。
著者
末廣 忠延 水谷 雅年 石田 弘 小原 謙一 大坂 裕 高橋 尚 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】腹臥位での股関節伸展運動(Prone hip extension:以下,PHE)は,腰椎骨盤の安定性の評価としても使用され,股関節伸展に関与する筋活動のタイミングや腰椎骨盤の過剰な動きの有無が検査される。PHE時の筋活動の開始時間を調査した先行研究は,健常者を対象とした腰部多裂筋,脊柱起立筋,大殿筋,ハムストリングスを被験筋としているが,一致した結果が得られていない(Vogtら1997,Lehmanら2004)。また腰痛者でのPHE時の筋活動を調査した研究においては,健常者と比較して大殿筋の活動開始の遅延や広背筋の過剰な活動が報告されている(Brunoら2007,Kimら2014)。このように腰痛者においてPHE時の後斜走スリングを担う大殿筋,広背筋は,健常者と異なる筋活動パターンを示す。しかしながら,PHE時の広背筋の活動開始時間について調査した研究はなく,PHE時の正常な広背筋の活動開始時間は不明となっている。そこで本研究は,PHE時の体幹・股関節伸筋群の活動開始時間を明らかにすることで腰椎骨盤の安定性のメカニズムを解明することを目的とした。【方法】対象は健常男性20名(平均年齢23.4±4.0歳,身長168.9±8.4cm,体重61.2±11.0kg)とした。筋活動の測定は表面筋電計Vital Recorder 2(キッセイコムテック社製)を用い,被験筋は,対側の広背筋,両側の脊柱起立筋,両側の多裂筋,股関節伸展側の大殿筋と大腿二頭筋とした。測定肢位は,リラックスした状態で両上肢は体側とし,足関節以遠をベッド端から出した腹臥位とした。また頸部は,被験者の前方に設置したLEDライトが見えるようにわずかに頸部を伸展した。被験者は,光信号に反応して可能な限り速く,膝を伸展したまま股関節の伸展を実施し,その際の筋活動を測定した。なお,股関節を伸展する足は,非利き足とし,測定は3回実施した。筋活動開始時間の決定は,安静時の筋活動の平均振幅の2標準偏差を超える点とし,データ分析には,各筋がフィードフォワード活動であったかを検出するために,各筋の開始時間と大腿二頭筋の相対的な差を分析した。各筋の相対的な活動開始時間を求める式は,各筋の筋活動開始時間-大腿二頭筋の活動開始時間で算出した。従って,負の値は,その筋が大腿二頭筋の前に活動したことを示す。統計学的解析では,統計解析ソフトSPSS 22.0(IBM社製)を用い,反復測定分散分析とTukeyの多重比較検定を実施し,各筋の相対的な筋活動開始時間の差を検出した。なお,危険率は5%未満とした。【結果】相対的な筋活動開始時間は,同側多裂筋(-3.8±9.2 ms),対側多裂筋(7.0±13.5 ms),対側の腰部脊柱起立筋(8.3±14.1 ms),同側の腰部脊柱起立筋(22.6±21.6 ms),対側の広背筋(24.5±26.1 ms),大殿筋(51.6±57.9 ms)の順であった。すべての体幹筋は,大殿筋よりも有意により速く活動した。また同側の腰部多裂筋は同側の腰部脊柱起立筋,対側の広背筋,大殿筋よりも有意に速く活動した。【考察】フィードフォワード活動は,主動作筋の筋活動開始の100ms前から50ms後と定義される(Hodgeら1997)。そのため本研究のすべての体幹筋は,フィードフォワードの活動であった。すべての体幹筋は,大殿筋よりも有意により速く活動した。これは,大殿筋が働く前に体幹を安定化させるためだと考えられる。また同側の多裂筋の活動は,同側の腰部脊柱起立筋,対側の広背筋,大殿筋よりも早期に活動した。これは,PHE時に多裂筋が最も早期に活動したとするTateuchiら(2012)の結果と類似している。彼らは,多裂筋の活動開始が遅延すると骨盤の前傾角度が増加すると報告している。また腰部多裂筋は,腰椎の分節的な安定性に関与すると報告されている(Richardsonら2002)。これらのことから本研究で多裂筋が早期に活動したことは,股関節が伸展する前に腰椎の分節的な安定性を増加させるために生じたと考えられる。対側の広背筋の活動は,大殿筋よりも早期に活動した。骨盤の安定性は,広背筋,胸腰筋膜,大殿筋の後斜走スリングの筋膜などによって担っている。そのため広背筋が早期に活動したことは,大殿筋が活動する前に胸腰筋膜の緊張が高まり,大殿筋の活動開始時に効率よく骨盤部の安定性が高められたと思われる。【理学療法学研究としての意義】健常者におけるPHE時の体幹・股関節伸筋群の活動開始時間が明らかとなった。本研究の結果をPHEの正常運動の基礎的資料とし,今後,腰痛を持つ者との差を検討することにより腰痛者の理学療法に寄与できる点で意義がある。
著者
西沢 喬 田高 智美 種田 智成 田中 優介 今井田 憲 川井 純子 植木 努 曽田 直樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101734, 2013

【はじめに、目的】一般的に腰部脊柱の安定性の改善が腰痛疾患の治療成績を向上させるするとされており、腰部の疾患にとって腰部脊柱の安定性の確保は重要である。腰部脊柱の安定性に関与する筋には、腹横筋や内腹斜筋、多裂筋などがあり、それらが同時収縮することで、胸腰筋膜の緊張増加と腹腔内圧の増加をもたらし腰部の安定性向上につながるとされている。また同時収縮が関節のスティフネスを増加させて、マルアライメントの改善に影響するとの報告もあり、体幹筋の同時収縮が腰部安定性に重要である。そのため体幹筋の同時収縮により腰部安定性向上を目的とした運動が一般的に行われている。しかし実際に行われている運動が同時収縮しているかどうかの検証やどの運動が効果的なのかなどの報告は少ない。そこで今回我々は、腰部安定性向上を目的とした運動における多裂筋と内腹斜筋の筋活動を計測し、同時収縮の指標であるco-contraction index(以下CI)を用い、その運動の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は腰部に疾患のない健常成人男性15 名(平均年齢29.4 ± 5.0 歳、平均身長173.8 ± 4.3cm、平均体重64.3 ± 8.3kg)とした。筋活動の測定には表面筋電図(Myosystem G2)を用い、測定筋は左側の多裂筋(正木らに従い第5腰椎レベルで第1・2 腰椎間と上後腸骨棘を結んだ線上)、内腹斜筋(赤羽らに従い腹直筋、鼠径靭帯、臍から上前腸骨棘を結ぶ線に囲まれた領域で鼠径靭帯に平行)の2 筋とした。測定課題は1)四つ這い位から右上肢と左下肢を水平まで挙上した肢位(以下四つ這い)、2)背臥位で後頭部に手を組ませ膝関節約90°屈曲位となるよう膝を立てた姿勢から体幹と下肢が一直線になるように殿部を拳上した肢位(以下お尻上げ)、3)長坐位で体幹約45°後方に傾斜させ上肢を床面に対して垂直に接地した姿勢から、体幹と下肢が一直線になるように殿部を拳上させた肢位(以下逆ブリッジ)、4)左側を下にしたサイドブリッジ(以下サイドブリッジ)、5)端坐位での腹式呼吸最大呼気位(以下腹式呼吸)の5 つの肢位とした。各条件において波形が安定した、3 秒間の筋活動をサンプリング周波数1000Hzにて記録した。得られたデータは最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化し、各条件での筋活動を%MVCとして算出した。同時収縮の評価はFalconerらの方法を用いて多裂筋と内腹斜筋のCIを算出した。統計学的分析にはSPSS12.0Jを用い、各肢位間における筋活動及びCI値の比較に関して、一元配置分散分析後、多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて承諾を得た。また本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。(承認番号120705-1)【結果】多裂筋活動は四つ這い27.3 ± 12.6%、お尻上げ30.3 ± 11.7%、逆ブリッジ33.3 ± 12.0%、サイドブリッジ24.3 ± 7.3%、腹式呼吸6.4 ± 8.0%であった。内腹斜筋活動は四つ這い14.1 ± 10.0%、お尻上げ3.8 ± 3.2%、逆ブリッジ10.0 ± 7.3%、サイドブリッジ32.0 ± 20.2%、腹式呼吸42.1 ± 38.4%であった。多裂筋活動では腹式呼吸が他の動作に比べ有意に低かった(P<0.05)。内腹斜筋活動では、 お尻上げが逆ブリッジ以外の動作に比べ有意に低かった(P<0.05)。また腹式呼吸がサイドブリッジ以外の動作に比べ有意に高かった(P<0.05)。CIでは、四つ這い57.8 ± 30.0%、お尻上げ24.6 ± 21.1%、逆ブリッジ44.8 ± 25.0%、サイドブリッジ76.6 ± 11.8%、腹式呼吸33.6 ± 24.7%であった。サイドブリッジが四つ這い以外の動作に比べて有意に高かった(P<0.05)。【考察】今回の結果においてCIはサイドブリッジが四つ這い以外の動作に比べ有意に高かった。サイドブリッジは、前腕と足部外側で支持するため、他の課題に比べ支持面が小さくまた関節自由度が少ない、加えて支持面からの重心位置が遠くにあることから課題の中で最も腰部の不安定な肢位であることが考えられる。先行研究より腰部の不安定性が筋活動を増加させることが報告されており、このためサイドブリッジで多裂筋と内腹斜筋の同時収縮が高まったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】サイドブリッジは、体幹筋の同時収縮に優れており、腰部安定性に対する有効な運動となりえる事が示唆された。また、体幹筋の同時収縮を知ることで、腰部安定性の評価や運動効果の指標に貢献できると考える。
著者
上島 隆秀 高杉 紳一郎 河野 一郎 禰占 哲郎 高橋 みゆき 河村 吉章 岩本 幸英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】総務省発表によれば,2013年9月15日時点の人口推計で,65歳以上の高齢者が総人口の25%に達した。今後,高齢者人口の増加とともに,介護予防対策は多様なニーズに応えるべく,その多様化が求められてくると予想される。介護予防対策として,リハビリテーションの重要性も認識されているが,継続のための仕組みやモチベーションを高める工夫が不十分である現状は否めない。一方,家庭用ゲーム機の本格的な普及から30年が経過し,ゲームは,シリアスゲームやゲーミフィケーションとして今後,医療・介護分野においてもますます身近になるものと考えられる。今回,デイサービスセンターに導入されたリハビリ用ゲーム機の活用効果について報告する。【方法】対象はY市のKデイサービスセンター利用者のうち,ゲーム機を継続的に利用した群(ゲーム群)15名(男性1名,女性14名,平均年齢85.3±5.8歳)およびゲーム機を全く利用しなかった群(非ゲーム群)96名(男性20名,女性76名,年齢85.0±6.4歳)である。この両群を対象に体力測定を行い,ゲーム機活用効果について検討した。使用したゲーム機は,主に高齢者の運動機能向上を目的として開発されたものであり,上肢の筋力・敏捷性向上を目的とした「ハンマーフロッグ」「ワニワニパニック」,下肢の筋力・敏捷性向上を目的とした「ドキドキへび退治2」,目と手の協調性向上を目的とした「ポンポンタッチ」である。両群とも通常のデイサービスプログラムを行っており,ゲーム群ではさらに,自らの意思で選択したゲームも行っていた。測定項目は,握力,Functional Reach(FR),開眼片脚立ち(片脚立ち),光刺激に対する反応時間(反応時間),3mTimed Up and Go Test(TUG),ステッピング(ステッピング)であった。そして,体力測定により得られた結果から,開始時と7カ月後のデータを対応のあるt検定にて比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者および家族には,当該デイサービスセンターにて文書による説明を行い,同意を得ている。【結果】両群の開眼片脚立ちにおいて,開始時と7カ月後の比較で改善傾向が認められた。ゲーム群4.9秒→8.2秒(P=0.084),非ゲーム群4.6秒→8.3秒(P=0.059)。ゲーム群における3mTUGにおいて,開始時と7カ月後の比較で改善傾向が認められた。12.3秒→10.4秒(P=0.073)。【考察】今回,ゲーム群,非ゲーム群ともに有意な改善を示した測定項目は認められなかった。我々は,第39回日本理学療法学術大会において,「デイサービス利用者のゲーム機による身体機能改善効果」について研究し,その結果,ゲーム群においてFR,長座体前屈の有意な改善を認めたことを報告しているが,この研究では,有意な改善が認められるまで1年を要している。一方,本研究は,まだ8カ月を経過した時点であり,今後,より明確な結果が出る可能性がある。現在,ゲームの総合得点および実施回数を積算した数値を基にした評価を開始しており,ゲーム回数の多寡による影響についても分析する予定である。ゲーム群の対象者に対する聞き取りでは,リハビリのため,楽しいから,負けたくないという声が挙がっている。ここに継続のための仕組みやモチベーションを高める工夫へのヒントが隠されていると考えられる。非ゲーム群の対象者では,少なくとも一度はゲーム機を体験していたが,ゲームに関心がないなどの理由で,ゲームを行っていなかった。ゲームに限らず,多様な選択肢を提示することで,ICF(国際生活機能分類)が提唱する社会参加を促す一助となることが期待される。【理学療法学研究としての意義】今後,医療・介護分野においてもロボットやその他の支援機器導入が進むことが予想されるが,その際に重要となるのは利用者に合った機器選択である。適切かつ様々な選択肢を提供できる環境づくりは,多様化するニーズに対応できる理学療法を行う上での参考となることが期待される。
著者
横山 真吾 大野 善隆 後藤 勝正
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】肉離れに代表される骨格筋損傷はしばしば線維化を惹起し,重度な場合は骨格筋機能不全を呈することで日常生活動作の阻害因子となることが知られている。スポーツ現場では骨格筋損傷の治癒を促すために物理療法の1つである微弱電流(microcurrent electrical neuromuscular stimulation:MENS)治療が実施されている。MENS治療により損傷した組織の修復が促進された事例は数多く報告されているが,そのメカニズムには不明な点が多い。ストレスタンパク質であるheat shock proteins(HSPs)の発現誘導は,損傷骨格筋の再生を促進することが報告されている。コラーゲン特異的なHSPであるHSP47は,損傷骨格筋細胞に発現が誘導されることが知られている。したがって,HSP47は損傷骨格筋の再生に重要な役割を担っていることが示唆される。そこで本研究は,MENS治療がもたらす損傷骨格筋の再生促進の機序についてHSP47発現から検討することを目的とした。【方法】実験動物は7週齢のC57BL/6J雄性マウス36匹を用い,骨格筋損傷後に自然回復させる群(CTX群;n=18)と回復過程においてMENS治療を行う群(MENS群;n=18)の2群に分類した。筋損傷は,麻酔下にて左側前脛骨筋(TA)に対しcardiotoxinを筋注することで惹起した。また,右TAを対照群とした。MENS治療は,Trio 300(伊藤超短波(株),東京)を使用し,左後肢に対して出力20 μA,周波数0.3 Hz,パルス幅250 msの条件で1日1回,60分間実施した。CTX筋注を基準として,1,2および3週間後に両後肢よりTAを摘出し,骨格筋含有タンパク量を測定した後Western blot法を用いてHSP47およびHSP72発現量を評価した。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は所属機関の動物実験に関する規定に従い,所属機関の動物実験委員会の審査・承認を経て実施した。【結果】TAの筋タンパク量はCTXを筋注することで低下し,その後の徐々に回復した。CTX筋注3週後において,筋タンパク量はMENS群がCTX群に比べて有意に高値を示した(p<0.05)。TAにおけるHSP47発現量は,CTXを筋注することにより増加し,CTX筋注1週間後に対照群に比べ約2.5倍の発現量を示した(p<0.05)。その後,HSP47発現量は徐々に低下したが,MENS治療によりHSP47発現量の低下が促進した。TAにおけるHSP72発現量も,CTX筋注により増加し,その後徐々に低下する傾向が認められたが,CTX筋注およびMENS治療による統計学的に有意な変化は認められなかった。【考察】本研究では,損傷骨格筋に対するMENS治療は損傷により低下した筋タンパク量の回復を促進した。したがって,MENS治療は損傷骨格筋の治癒促進効果を有することが確認された。MENS治療によって,CTX筋注により増加したHSP47発現量の低下を促進することが認められた。HSP47はコラーゲン特異的なHSPであり,損傷骨格筋細胞膜に発現が誘導されることから,MENS治療は損傷骨格筋の再生に必要なコラーゲン量を適切に制御することで,再生を促進しているものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】MENSには損傷組織の回復促進効果がある他,疼痛抑制効果なども有するとされており,リハビリテーション医療への応用が期待される物理刺激の一つである。MENS治療は痛みを伴わず受傷早期から実施できることから,その治療メカニズムが明らかにすることで運動器リハビリテーションに大きく貢献できるものと考えている。本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(挑戦的萌芽,24650411;基盤A,22240071)ならびに日本私立学校振興・共済事業団による学術振興資金の助成を受けて実施された。
著者
白石 涼 知花 俊吾 名護 零
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-73_2-H2-73_2, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p>膝前十字靭帯再建術後において、膝蓋腱部の侵襲により膝蓋下脂肪体(以下IFP:infrapatella fat pad)の炎症や変性をきっかけに膝前面部痛(以下AKP:Anterior Knee Pain)を臨床で経験することがある。今回の研究では超音波エコーを用いて、健常成人の膝関節角度の違いによるIFPの動態を明らかにすることを目的とした。</p><p>【方法】</p><p>膝関節に整形外科的疾患の既往の無い健常成人10例20膝(男性5例、女性5例:平均年齢24.5±3.3歳)を対象とした。IFPの動態評価にはHITACHIデジタル超音波診断装置Noblusを使用した。測定は短軸像にて大腿骨顆間溝から膝蓋靭帯間のIFPの厚さを測定した。測定肢位は仰臥位にて膝屈曲30°を開始肢位とし伸展0°へ自動運動を行い、プローブ入射角は床水平面から屈曲位時45°、伸展位時60°で統一した。各肢位で3回測定しその平均値を採用した。各肢位平均値の差をIFP変化量としてShapiro-Wilk検定、対応のあるT検定を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。統計学的解析にはR2.8.1を使用した。</p><p>【結果】</p><p>両膝関節のIFPは屈曲位が平均15.0±1.8mm、伸展位が平均13.4±1.7mmであった。IFPの変化量は1.64mm(p<0.01)となり、屈曲位と伸展位の間に有意差を認めた。また左右膝関節間の比較では屈曲位と伸展位の間に有意差を認めなかった(p>0.05)。</p><p>【結論(考察も含む)】</p><p>本研究結果から全ての健常成人で膝関節角度の違いにおけるIFPの厚さは、屈曲位と伸展位の間に有意差が認められ、先行研究と同様の結果となった。IFPは膝関節屈伸運動に伴い軟部組織の組織圧を緩衝する作用があると報告されている。健常成人のIFPは膝関節屈伸運動において大腿骨内外顆間のスペースを移動し、形態変化ができるだけの柔軟性があり、軟部組織の組織圧を緩衝する機能を有していると考えられる。今後は縦断的研究としてAKPを有する疾患群と健常群のIFPの動態評価を比較し、AKPを有する群の疼痛改善やスポーツ復帰の阻害因子を明らかにしていきたい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>この研究はヘルシンキ宣言に沿って行い、得られたデータは匿名化し、個人情報が特定できないように配慮した。</p>
著者
本田 祐一郎 梶原 康宏 田中 なつみ 石川 空美子 竹下 いづみ 片岡 英樹 坂本 淳哉 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.I-112_1-I-112_1, 2019

<p>【はじめに,目的】</p><p>これまでわれわれは,骨格筋の不動によって惹起される筋性拘縮の主要な病態はコラーゲンの増生に伴う線維化であり,その発生メカニズムには筋核のアポトーシスを契機としたマクロファージの集積ならびにこれを発端とした筋線維萎縮の発生が関与することを明らかにしてきた.つまり,このメカニズムを踏まえ筋性拘縮の予防戦略を考えると,筋線維萎縮の発生を抑止できる積極的な筋収縮負荷が不可欠といえ,骨格筋に対する電気刺激療法は有用な方法と思われる.そして,最近は下肢の多くの骨格筋を同時に刺激できるベルト電極式骨格筋電気刺激法(Belt electrode-skeletal muscle electrical stimulation;B-SES)が開発されており,従来の方法より廃用性筋萎縮の予防・改善効果が高いと報告されている.そこで,本研究では動物実験用B-SESを用い,不動後早期からの筋収縮負荷が線維化の発生を抑制し,筋性拘縮の予防戦略として有用かを検討した.</p><p>【方法】</p><p>実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット16匹を用い,1)無処置の対照群(n = 4),2)ギプスを用いて両側足関節を最大底屈位で2週間不動化する不動群(n = 6),3)不動の過程で動物実験用B-SESを用い,後肢骨格筋に筋収縮を負荷する刺激群(n = 6)に振り分けた.刺激群の各ラットに対しては大腿近位部と下腿遠位部にB-SES電極を巻き,後肢骨格筋に強縮を誘発する目的で刺激周波数50Hz,パルス幅250µsec,刺激強度4.71 ± 0.32mAの条件で,1日2回,1回あたり20分間(6回/週),延べ2週間,電気刺激を行った.なお,本実験に先立ち正常ラットを用いて予備実験を行い,上記の条件で刺激強度を漸増させ,足関節中間位での最大等尺性筋力を測定した.そして,最大筋力の60%の筋力を発揮する刺激強度を求め,これを本実験の刺激強度に採用した.実験期間中は1週毎に麻酔下で各ラットの足関節背屈可動域を測定し,実験期間終了後は両側ヒラメ筋を採取した.そして,右側試料はその凍結横断切片に対してH&E染色を施し,各筋につき100本以上の筋線維横断面積を計測した.一方,左側試料は生化学的検索に供し,コラーゲン特有の構成アミノ酸であるヒドロキシプロリン含有量を定量した.</p><p>【結果】</p><p> 足関節背屈可動域と筋線維横断面積は不動群,刺激群とも対照群より有意に低値であったが,この2群間では刺激群が不動群より有意に高値を示した.また,ヒドロキシプロリン含有量は不動群が対照群より有意に高値であったが,刺激群は対照群と有意差を認めなかった.</p><p>【考察】</p><p> 今回の結果から,刺激群には筋線維萎縮の進行抑制効果ならびに骨格筋の線維化の発生抑制効果が認められ,このことが足関節背屈可動域制限,すなわち筋性拘縮の進行抑制効果に影響していると推察される. </p><p>【結論】</p><p> 不動後早期からの筋収縮負荷は線維化の発生を抑制し,筋性拘縮の予防戦略として有用であることが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本実験は長崎大学動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に準じ,長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.</p>
著者
池田 登顕 柴田 昌和 古川 洋高 立壁 大地 神谷 真知子 塩野 浩章
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P3485, 2009

【目的】<BR>近年,腰部骨盤帯における機能解剖学的知見は増加してきている.特に多裂筋や腹横筋,骨盤底筋群,横隔膜は腰部骨盤帯への安定性に作用するといわれているが,これらの筋の明確な作用はまだ全て明らかにされていない.また,多様な臨床評価方法や運動療法なども紹介されてきてはいるが,明らかな誘発原因のない腰部骨盤帯疾患の発生機序は明確になっていない.今回,仙髄レベルに神経症状や梨状筋症候群,坐骨神経痛を患った症例に対する理学療法を経験した.その際,既存の機能解剖学的知見に基づいて理学療法を展開したが,治療後に症状は軽減したが消失しなかった.この課題を解決し,解剖学的な検証をするために腰部骨盤帯を観察する機会を設けさせていただいた.屍体は大殿筋が中央で切離され,梨状筋下孔が良好に観察できるものであり,仙骨のうなずきおよび腸骨の起き上がり操作介入による検討が可能であった.その結果,梨状筋の弛緩および梨状筋下孔の拡大を触診できた.そこで,前述の症例に対して屍体で得られた機能解剖学的所見と同様の操作を加えることで,各症例の症状に変化がみられるかどうかを検討することとした.<BR>【方法】<BR>仙髄レベルに神経症状や梨状筋症候群,坐骨神経痛を有し,明らかな誘発原因のない腰部骨盤帯疾患症例10名を対象とした.対象者は男性2名・女性8名であり,平均年齢は69.7歳であった.この10名のうち,症状と画像所見とが明瞭に一致したのは1名であり,症例は全て腰椎の後彎により症状が悪化した.この10名に対して以下の3通りの徒手操作をランダムに加え,操作後の症状の変化を,「消失」・「軽減」・「変化なし」の3通りから回答させた.徒手操作は,既存の臨床評価方法を参考にした,A仙骨のうなずき操作,B腸骨の起き上がり操作,C同時にAおよびBの操作である.なお,各操作は1日以上間隔を設け,操作における効果が消失してから次の操作を加えた.また,症例は本研究内容の説明をし,同意を得られた10名である.<BR>【結果】<BR>Aでは3名が「軽減」,7名が「変化なし」と回答し,Bでは2名が「消失」,2名が「軽減」, 6名が「変化なし」と回答した.Cでは全ての症例が「消失」と回答した.<BR>【考察】<BR>既存の知見では,多裂筋・腹横筋・骨盤底筋群および横隔膜は,腰部骨盤帯における安定性確保のための機能を1つのユニットを形成することで担っており,股関節周囲筋が補助的に担っているとされている.さらに,仙骨をうなずかせるように作用する筋は多裂筋であり,腸骨を起き上がらせる筋は大殿筋である.今回の症例では,仙骨のうなずきおよび腸骨の起き上がり操作により症状が消失した.これより大殿筋のロッキング作用によって,腸骨が固定されている環境下で多裂筋が効率的に働き,両者の相互作用によって,梨状筋下孔が拡大することで仙髄レベルでの神経通路が確保されている可能性を示唆された.
著者
金崎 雅史 古川 菜々美 太田垣 沙和 沖中 郁美 海老原 覚
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【背景】咳嗽は主要な呼吸器症状であり,継続的で過剰な咳嗽はQOLを著しく低下させる。また強いcough epochは運動療法の進行の阻害因子になる。しかし,咳嗽に対する十分な治療選択はなく,使用頻度の高いOTC医薬品はnon effctiveとされている。呼吸困難はそれ自体が不快な呼吸感覚であるが,咳は咳刺激に対するmotor actionを指している。この概念と一致して,古くから咳は延髄孤束核を中枢とする反射弓をもつと考えられてきたが,近年,咳が生じる前にUrge-to-cough(筆者らは咳衝動と呼んでいる)と呼ばれる不快な呼吸感覚が先行して,咳のmotor actionを修飾することが知られている。また,fMRIによる解析では,咳反射は脳幹より上位の脳機能による修飾を受けることが示されている。従って,過剰な咳・咳衝動の制御において,咳反射の神経経路上の上位脳機能への介入は効果的な咳嗽治療となるかもしれない。そこで,咳衝動における不快感の責任主座のひとつと考えられている島皮質にて処理が行われる聴覚刺激に着目し,そのクエン酸誘発性咳反射閾値及び咳衝動への有用性を検討することとした。</p><p></p><p>【方法】非喫煙若年者10名に対して咳反射閾値,咳衝動を測定した。咳反射閾値は咳が誘発された最小クエン酸濃度(C<sub>2</sub>およびC<sub>5</sub>)を,咳衝動は咳衝動log-log slope及びLog咳衝動閾値により評価を行った。聴覚刺激は,被験者が好む曲を自由に選択させ,イヤホンを介して行った。</p><p></p><p>【結果】クエン酸誘発性咳反射閾値(C<sub>2</sub>およびC<sub>5</sub>)は聴覚刺激条件にて統計学的有意に高値を示した。クエン酸誘発性の咳衝動log-log slpeは聴覚刺激条件にて統計学的有意に低値を示した。一方で,Log咳衝動閾値は両条件において統計学的有意差は見られなかった。</p><p></p><p>【結語】聴覚刺激は,咳反射感受性および咳衝動を低下させることが明らかになった。咳反射は脳幹と上位脳機能によって制御されている。本研究において,Log咳衝動閾値に変化が見られなかったことから,聴覚刺激が上位脳機能に影響を及ぼすことで,その効果を示したことが考えられた。</p>
著者
Kazunori Sato Eku Hirai Tomomi Sukigara Tsukasa Yoshida Noriaki Aita Eriko Kitahara Yoshihide Hokari Toshiyuki Fujiwara
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
pp.E-141_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【Background/Purpose】 The deep brain stimulation of subthalamic nucleus (STN-DBS) is a surgical treatment for Parkinson's disease (PD) to reduce off-state. There have been scarce reports that indicate the effectiveness of postoperative rehabilitation on the axial symptoms. The purpose of this study is to examine the effectiveness of postoperative rehabilitation in PD patients.【Methods or Cases】 The data of 31 postoperative PD patients who received 2 week physical therapy from May 2017 to May 2018 were extracted from a prospectively maintained database, and were analyzed retrospectively. Outcome measures were the Mini-Balance Evaluation Systems Test (Mini-BESTest), Trunk impairment scale (TIS), Leg extension torque, 10 times toe tapping (10TTT) and Treadmill gait analysis. The patients were evaluated at pre-operation, post-operation and discharge period. One-way repeated measures analysis of variance (ANOVA) and post-hoc Paired t-tests with Bonferroni adjustment for multiple comparison were used to analyze the data (P < 0.05).【Results】 The ANOVA showed that all clinical data had the significant differences among three periods. The post hoc test revealed that there were significant differences between pre-operation and discharge periods in the Mini-BESTest (P < 0.0001), TIS (P < 0.0001), Step length on the Treadmill (P=0.004) and 10TTT (P=0.009), but the lower limb extension torque (P=0.11). There was only significantly different between pre-operation and post-operation in the Step length on the Treadmill (P=0.032). 【Discussion/Conclusion】 The results showed that postoperative rehabilitation has a positive effect on the balance ability, trunk function, gait function and limb akinesia of the PD patients. These facts might indicate that STN-DBS and postoperative rehabilitation provide different effects on the PD patients.【Ethical consideration】This study was conducted with the declaration of Helsinki. This study was approved by the institutional ethics review board (JHS 18-007).
著者
重本 千尋 奥村 真帆 松田 直佳 小野 玲 海老名 葵 近藤 有希 斎藤 貴 村田 峻輔 伊佐 常紀 坪井 大和 鳥澤 幸太郎 福田 章真
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】妊娠中はホルモンの変化や体型変化により,多くの女性が腰痛骨盤痛(low back pain and pelvic pain;LBPP)に悩まされる。妊娠中に発症したLBPPは産後持続する事が多く,睡眠障害やうつ病,不安感などを引き起こし,本人の日常生活のみならず子供の発育に悪影響を与えることから解決すべき重要な課題である。妊娠中から産後にLBPPが持続する要因に関する調査は行われているが,一定した見解は得られていない。近年,腰痛の関連因子の一つとして女性ホルモンが着目されており,エストロゲンの低下は痛みの感受性を増加させることがわかってきており,閉経後女性における腰痛有病率の増加の一因になっていると考えられる。一方,産後女性は産後無月経の期間が存在し,この期間は閉経後女性と同様にエストロゲンなどの女性ホルモンの分泌が不十分と考えられる。しかし,産後女性において,女性ホルモンとLBPPの関連を明らかにした研究はない。本研究の目的は,妊娠中にLBPPを有していた女性において産後の無月経の期間と産後4ヶ月時のLBPPとの関連を調査することである。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象者は,4ヶ月児健診において,同意が得られた産後女性のうち,妊娠中にLBPPを有していた女性99名で,産後4ヶ月に自記式質問紙に回答してもらった。一般情報に加え,妊娠中と産後4ヶ月時のLBPPの有無・強度,月経再開の有無・再開時期を聴取した。痛みの強度はNumerical Rating Scale(以下,NRS)を用いた。統計解析は産後4ヶ月時のLBPPの有無と,月経が再開してからの期間との関連を検討するためロジスティック回帰分析を用いた。他因子を考慮するために従属変数を産後4ヶ月時のLBPPの有無,独立変数を月経が再開してからの期間,交絡変数を先行研究より年齢,BMI,出産歴,妊娠前のLBPPの既往,妊娠中のNRSとして,強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】妊娠中にLBPPのあった女性において産後にLBPPを有していたものは58名(58.6%)であった。月経再開時期が早いほど,産後4ヶ月時のLBPPの有病率が有意に低かった(オッズ比=0.57,95%信頼区間0.34-0.96)。多重ロジスティック回帰分析においても,産後4ヶ月時の月経が再開してからの期間は産後のLBPPと,他因子に独立して有意に関連していた(オッズ比=0.54,95%信頼区間0.30-0.97)。</p><p></p><p></p><p>【結論】本研究により,産後月経が再開してからの期間が短い,もしくは再開していない女性は月経が再開してからの期間が長い女性と比較して,LBPPの有病率が高いという結果が得られ,産後の無月経期間の長さは,産後のLBPPのリスクファクターとなる可能性が示唆された。</p>
著者
横井 悠加 伊藤 理恵 森 明子 森下 勝行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.46, pp.H2-19_2-H2-19_2, 2019

<p>【はじめに、目的】</p><p>腹直筋離開(diastasis rectus abdominis:以下DRA)は,左右の腹直筋間に位置する白線の離開とともに,白線の機能障害を呈するものと定義されている(Venes et al., 2005).白線が位置する腹壁の障害は,その協調的作用から,骨盤底機能障害や腰部骨盤帯痛を引き起こすと予測されるが,本研究者らが実施したシステマティックレビューではその関連性を否定する結果が示された(横井ら,2017).この結果の要因として,各先行研究におけるDRAの定義に相異があること,またDRA評価時に腹直筋間距離(inter-rectus distance:以下IRD)のみで判断しており,白線の重要な機能である白線の組織硬度を評価していないことが考えられた.そこで本研究では,DRAを呈する女性のIRDと白線の組織硬度を測定し,それらと骨盤底機能障害との関連性を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】</p><p>対象は,2017年1月から2017年12月までに出産した産後女性16名(年齢33.1±5.0歳,身長159.1±5.4cm,体重51.6±5.8kg,BMI 20.5±2.5kg/m<sup>2</sup>)である.研究デザインは横断研究を採用し,DRAの評価指標として,超音波診断装置によるIRD(臍部上1cmごとに10cmまで10箇所と,臍部下1cmごとに5cmまで5箇所の計15箇所)と,組織硬度計による白線の組織硬度(IRD測定箇所と同様)を計測した.いずれかの計測箇所にてIRDが25mm以上,または白線の組織硬度が150N/m以下であった場合をDRAと判断した.また,骨盤底筋の機能評価として,超音波診断装置での経腹法による膀胱底部挙上距離を計測し,骨盤底機能障害には,International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form(以下ICIQ-SF)を用いて尿失禁を評価した.統計解析は,2標本<i>t</i>検定を用い,有意水準は5%とした.</p><p>【結果】</p><p>IRDによる評価では,DRA+群が8名,DRA―群が8名となり,白線の組織硬度による評価では,DRA+群が6名,DRA―群が10名となった.IRD,または白線の組織硬度を基準にした場合,どちらにおいてもDRAの有無による膀胱底部挙上距離(IRD: DRA+群; 1.8±3.2mm, DRA―群; 3.2±5.1mm,<i>p</i>=0.52, 95%IC=-5.95, 3.15, 白線の組織硬度: DRA+群; 3.3±5.2mm, DRA―群; 2.0±3.7mm,<i>p</i>=0.548, 95%IC=-3.36, 6.07)とICIQ-SF(IRD: DRA+群; 3.1±4.9点, DRA―群; 0.4±1.1点,<i>p</i>=0.158, 95%IC=-1.33, 6.83, 白線の組織硬度: DRA+群; 1.8±3.2mm, DRA―群; 3.2±5.1mm,<i>p</i>=0.947, 95%IC=-4.35, 4.08)の結果に有意差を認めなかった.</p><p>【結論(考察も含む)】</p><p>本研究では,DRAの新たな評価指標として白線の組織硬度を計測し,また先行研究よりもIRDの計測箇所を増やすことで,包括的なDRAの評価を試みたが,本結果より,どちらの評価指標を用いても骨盤底機能との関係において否定的な結果が示された.このことから,DRAによるIRDの増加と白線の組織硬度低下は骨盤底機能に影響を及ぼさないことが示唆された.しかし,本研究におけるサンプルサイズは再考の余地があり,今後更なる研究の継続が重要と考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は,城西国際大学倫理委員会の承認を得た上で,対象者には口頭および書面にて説明を行い,同意を得た後に実施している.</p>
著者
畑出 卓哉 藤田 直人 荒川 高光 三木 明徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101489, 2013

【はじめに、目的】骨格筋が損傷されたとき,炎症や疼痛を軽減する目的で寒冷刺激が用いられることが多い(Michlovitz et al., 1988).逆に温熱刺激は炎症症状を助長する(Knight et al., 1995)ことから,筋損傷直後には禁忌とされてきた.しかし,近年我々は筋損傷直後に与えた寒冷刺激は筋の再生を遅延させることを明らかにした(Takagi et al., 2011).すなわち,骨格筋再生の観点から見れば,筋損傷後の寒冷刺激による炎症反応の抑制は逆効果をもたらす可能性が高い.筋損傷後の炎症反応は,その後の筋再生にとって重要な役割を果たすという報告もあり(Tidball, 2004),炎症反応を助長させる温熱刺激は,骨格筋再生の観点から見れば有用な刺激となる可能性がある.実際,武内ら(2012)は,筋損傷後の温熱刺激は,筋再生を促進させることを明らかにした.しかし,損傷後の炎症反応のどのような因子が,どのようなメカニズムで筋の再生に影響を及ぼすのかについては,未だ不明な点が多い.Interleukin-6 (IL-6)は炎症反応において中心的役割を果たす因子である.また,IL-6 は筋の成長にも深く関わっているという報告もある(Serrano et al., 2008).従って,今回は温熱刺激が損傷筋におけるIL-6 の発現パターンに及ぼす影響を免疫組織化学的に観察するとともに,炎症反応や筋再生の初期段階における形態学的変化との関係を経時的に検討した.【方法】本研究では8 週齢のWistar系雄性ラットを24 匹使用し,温熱群(n=12)と非温熱群(n=12)の2 群に分け,麻酔下で長指伸筋を露出し,筋腹を500gの錘を負荷した鉗子で30 秒間圧挫して挫滅損傷を全ラットに与えた.皮膚縫合後,温熱群では損傷5 分後から42℃のホットパックを20 分間損傷部に当てて温熱刺激を行った.ホットパック実施中の筋表面温度は安静時から約10℃上昇した.損傷後6 時間と12 時間,1 日と2 日の4 時点で損傷筋を麻酔下で摘出し,損傷部を含む筋組織は,Hematoxylin-Eosin染色による形態学的観察と,IL-6,ED1,Pax7 の免疫組織化学的観察に用いた.ED1 とPax7はそれぞれマクロファージと筋衛星細胞の指標として用いた.温熱群と非温熱群間の比較にはstudentのt検定を用いた.【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得た上で実施した.【結果】損傷筋では,二次変性が進むにつれて筋線維の染色性が低下する.非温熱群では損傷6 時間後に染色性が低下した筋線維が観察された.これに対して,同時期の温熱群では染色性が低下した筋線維に加えて,輪郭が不明瞭になった筋線維も観察された.この時期において両群ともにIL-6 の免疫反応が筋線維に観察されたが,IL-6 陽性の筋線維数は温熱群で有意に多かった.非温熱群では損傷12 時間後に輪郭が不明瞭になった筋線維が観察され,ED1 陽性のマクロファージが線維間に観察され始めたが,温熱群ではすでにマクロファージが筋線維内にも侵入していた.また,IL-6 の免疫反応は,非温熱群では主として線維間に観察されたが,温熱群では線維内に進入したマクロファージの周囲に観察された.1 日目以降,IL-6 の発現はマクロファージの周囲に認められた.また,Pax7 陽性の筋衛星細胞にもIL-6 の共発現が認められた.【考察】損傷筋線維の染色性低下や輪郭の不明瞭化は,損傷後の二次変性を示す形態学的特徴で(Takagi et al., 2011),温熱刺激は損傷筋線維の二次変性を促進することを示している.また,IL-6 はクレアチンキナーゼの活性と密接に関係して(Toth et al., 2011),炎症反応において中心的役割を果たすことが知られている.今回の観察において,温熱刺激が対応する時期の非温熱群と比較して,損傷後のIL-6 陽性の筋線維数を増加させていたことから,温熱刺激は損傷後の炎症反応を促進させたことが示唆される.さらに,マクロファージが変性筋線維内に侵入する時期やIL-6 の発現も,温熱刺激によって早期化されていた.これらの結果より,温熱刺激は損傷筋線維の二次変性を促進させ,その結果,炎症反応やマクロファージの遊走を早期化させる可能性が示唆された.また,IL-6 の免疫反応がPax7 陽性の筋衛星細胞やマクロファージの周囲にも観察されたことから,IL-6 がマクロファージの遊走や筋衛星細胞の増殖や分化とも関係し,筋再生において重要な役割を縁着ている可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究は,温熱刺激が骨格筋の再生を促進する生化学的メカニズムの一部を明らかにしたものである.この研究結果は筋の再生を促進する上で,筋損傷後に温熱刺激を用いることの是非を検討する第一歩である.
著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 山口 将希 長井 桃子 太治野 純一 張 項凱 喜屋武 弥 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)の病態に即した理学療法の実現のためには,その病態の理解や力学的負荷に対する生体組織の生物学的な応答を明らかにすることが不可欠である。2015年,我々はラット膝OAモデルに対する運動刺激が膝OAの予防に貢献することを報告した。そこで,本研究では,運動刺激の効果をさらに詳細に検討する目的で,異なる強度の運動刺激が関節軟骨と軟骨下骨に与える影響を,関節面の領域別に明らかにすることを目的とした。【方法】本研究はThe Animal Research Reporting In Vivo Experiments(ARRIVE)guidelinesに準じて計画,実施された。12週齢のWistar系雄性ラット30匹の右膝関節に外科的処置(前脛骨半月靭帯切離)を施し,内側半月板不安定性(DMM)モデルを作成した。その後,8週間の自然飼育を行うDMM群(n=10)と,早期膝OAの状態となる術後4週時点から1日30分,週5日間,4週間のトレッドミル走行を行うmoderate群(12m/分,n=10),intense群(21m/分,n=10)の3群に分類した。術後8週時に膝関節を摘出し,脛骨側内側関節面の関節軟骨,軟骨下骨を組織学的手法,力学的手法,およびmicro-CTを用いて領域別(前方および後方)に評価し,3群間で比較した。統計学的有意水準は5%とした。【結果】脛骨内側関節面後方領域を組織学的に観察すると,DMM群では関節軟骨および軟骨下骨中の死細胞を含む変性像が観察されたが,moderate群の変性像はDMM群よりも軽度であり,軟骨変性重症度の評価であるOARSI scoreはDMM群の約50%であった(DMM群,中央値:10.5,範囲:9-12;moderate群,中央値:5,範囲2-9;<i>P</i>=0.025)。同領域のmicro-CT所見では,DMM群では嚢胞状の骨吸収領域が多数観察されたが,moderate群の骨吸収領域の最大直径はDMM群の約70であった(DMM群,平均値:547.1μm,95%信頼区間[CI]:504.7-589.5;moderate群,平均値:375.9μm,95%CI:339.3-412.5;<i>P</i><0.001)。力学的手法を用いて圧縮応力に対する関節軟骨の歪みを評価すると,後方領域ではDMM群は正常軟骨の215%であったのに対して,moderate群では160%に抑性された(DMM群,平均値:65.7μm,95%CI:60.7-71.3;moderate群,平均値:49.1μm,95%CI:39.1-59.1;<i>P</i>=0.045)。しかしながら,前方領域における変性に関しては,DMM群とmoderate群の間で統計学的有意差はなかった。また,intense群では,OA進行予防効果が乏しいだけでなく,micro-CT所見上での軟骨下骨の骨吸収領域の最大直径は,むしろDMM群よりも28%増大した(平均値:700.7μm,95%CI:614.1-787.3;<i>P</i><0.001)。【結論】本研究は,運動刺激による膝OAの進行予防を期待する場合には,運動強度の調整が必要であることを示した。また,中等度レベルの運動によるOA進行予防効果が主荷重部に限局して確認されたことから,運動刺激による膝OA進行予防効果は力学的負荷が加わる領域に特異的に生じる可能性がある。
著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 山口 将希 長井 桃子 太治野 純一 張 項凱 喜屋武 弥 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)は膝関節痛やこわばりを主訴とする代表的な運動器疾患である。その病態の中心は関節軟骨の摩耗・変性であるが,近年では病態の認識が改まり,発症早期より生じる軟骨下骨の変化が,関節軟骨の退行性変化を助長している可能性が指摘されるようになった。我々も同様の認識から,半月板損傷モデルラットを作成し,その早期から軟骨変性と軟骨下骨嚢胞が共存していることを明らかにした(Iijima H. <i>Osteoarthritis Cartilage</i> 2014)。理学療法を含む非薬物治療は,膝OAの疼痛緩和を目的とした治療戦略の大きな柱であるが,このような早期膝OAの病態を考慮した,OA進行予防策に関する研究蓄積は乏しい。また,病態モデル動物を用いた研究において,歩行運動が関節軟骨の退行性変化を予防しうる,という報告は散見されるが,そのメカニズムは不明であった。そこで,我々はこれらの課題に対して,早期の病態に関与する軟骨下骨変化を歩行運動によって抑制することが,膝OA進行予防に寄与するのではないかと着想し,これまで不明であった,運動による膝OA進行予防メカニズムの解明へと研究を進めてきた。本研究では,我々が報告した半月板損傷モデルラットを使用し,疑似的に早期膝OAの状態を作り出し,歩行運動が軟骨下骨変化に与える影響を評価し,軟骨変性予防効果との関連性を検討した。【方法】12週齢のWistar系雄性ラット24匹に対して,内側半月板の脛骨半月靭帯(MMTL)を切離する内側半月板不安定性モデルを作成した。MMTLの切離は右膝関節のみに行い,左膝関節に対しては偽手術を施行し,対照群とした。その後,術後8週間に渡り自然飼育を行うことで,OAを発症・進行させるOA群(n=8)と,早期膝OAの状態となる術後4週時点からトレッドミル歩行(12m/分,30分/日,5日/週)を行う運動群(n=8)の2群に分類した。時系列変化を評価するため,術後4週まで飼育する介入前群(n=8)を設定した。主な解析対象および群間の比較は,MMTLを切離した全群の右膝関節とし,対照群とも比較した。解析内容は,μ-CT撮影および組織学的手法を用いて,4週間にわたる歩行運動介入の効果を検討した。μ-CT撮影所見より軟骨下骨嚢胞の最大径を評価し,組織学的解析では破骨細胞マーカーである酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)染色とともに,骨細胞死数,軟骨下骨損傷度(0-5点)を評価した。また,軟骨変性重症度(0-24点)を評価し,軟骨下骨損傷度との関連性の評価としてSpearmanの順位相関係数を算出した。【結果】μ-CT所見では介入前から脛骨内側関節面にて軟骨下骨嚢胞が確認されたが,運動群では最大嚢胞径が縮小し,介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(<i>P</i><0.01)。組織学的所見では,軟骨下骨嚢胞内にTRAP陽性破骨細胞が多数観察され,直上の関節軟骨が嚢胞内に落ち込む所見が介入前群では30%で確認された。OA群ではその後悪化し,80%で確認されたが,運動群では0%であった。併せて,介入前およびOA群では多数の骨細胞死が観察されたが,運動群ではいずれも軽度であり(<i>P</i><0.01),軟骨下骨損傷度は介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(<i>P</i><0.05)。軟骨変性重症度は,運動群で最も低値を示し(<i>P</i><0.05),軟骨下骨損傷との間に強い相関を認めた(<i>P</i><0.01,r=0.91)。【考察】半月板損傷後に発症した早期膝OAに対する緩徐な歩行運動は,骨細胞死の減少とともにTRAP陽性破骨細胞活性に起因する軟骨下骨嚢胞を縮小させることが明らかになった。つまり,半月板損傷後に生じた損傷軟骨下骨は可逆的な状態にあり,自然飼育のみでは進行する一方,歩行運動によって治癒することを示している。軟骨下骨の損傷により形成された陥没は,関節軟骨に加わるひずみを増大させる要因となるだけでなく,関節軟骨-軟骨下骨間の炎症性サイトカインの交通を介してOAを進行させることが知られている。したがって,軟骨下骨の治癒が歩行運動によってなされることで,その直上の軟骨に加わる力学的,化学的ストレスを緩和させ,膝OAの進行予防に一部寄与しうることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝OAに対する従来の理学療法は,摩耗・変性した関節面へ加わる応力を,分散あるいは減弱させることを主目的としてその進行予防に寄与してきたため,歩行運動のような運動負荷を治療手段とするという考え方は希薄であった。本研究結果は,半月板損傷後の早期膝OAに対する一定の運動負荷がOA進行予防に寄与する可能性を提示し,そのメカニズムの一部を病態モデル動物を使用して病理組織学的にはじめて明らかにしたものである。