著者
木村 昌美 関 昭夫 前田 英児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.F0610, 2004

【はじめに】 前腕骨折において,ギプス除去後の上肢全域にわたる腫脹は,理学療法を行う上での阻害因子であり大きな問題点である.今回,前腕骨折(尺骨・橈骨の両骨骨折)の症例に対して高周波治療を行ったところ,上肢,特に前腕部の腫脹が軽減する現象が見られたので,ここに報告する.<BR>【症例】 76歳の女性.平成15年8月16日に転倒し,左前腕両骨末端骨折と診断.約3週間のギプス固定を行った後,同年9月5日より理学療法開始となる.<BR> 開始時より前腕の腫脹が著明で,渦流浴などの温熱療法を行ったが腫脹の変化は見られなかった.3週間後に再評価を行った結果,肩甲帯周囲筋の緊張が高く,特に僧帽筋,菱形筋群に著明であった.<BR>【方法】 高周波治療器はテクノリンク社製スーパーテクトロンHP400を用いた.この機器にはマイナス導子(青導子)とプラス導子(黄導子)がある.導子の装着部位は,左僧帽筋中部線維上に青導子,三角筋中部線維に黄導子と,左菱形筋群に青導子,右菱形筋群に黄導子の計4箇所とした.波形は同機にプリセットされているDモードで,筋のリラクセーションが得られる波形にて施療した.また同機独自のシステムであるハンマーモードを併せて用い,モードは LIGHTにて行った.治療時間は10分間とした.<BR> 腫脹の測定は,前腕の遠位端の最小周径測定部位を,治療の前後にメジャーにて測定した.<BR>【結果】 施療開始初日に測定した前腕部の腫脹は18cmであったが,施療後には17cmに低下.その後は来院時には腫脹の憎悪を認めるも,施療後は16.5cmを示した.健側である右前腕も周径が16.5cmであり,施療開始4日目から施療後は16.5cmを維持.8日後には施療前後とも16.5cmとなった.<BR>【考察】 高周波は深部筋刺激に優れており,低周波や干渉波などに比べて電気刺激が深部に到達しやすく,通電においても皮膚への電気刺激が小さい.筋のリラクセーションを得て,末梢循環を改善するには適していると考え,施療にあたった.<BR> 今回の症例は肩甲帯周囲の筋緊張が亢進しており,長期化する腫脹はこれによる循環不全と推測した.肩甲帯周囲の筋である僧帽筋・回旋腱板・三角筋・菱形筋群は共に筋連結がある事は知られている.今回これらの筋に対して高周波刺激を行った結果,導子をあてた筋群,そして筋連結のある肩甲帯及び上肢全域の筋にリラクセーションが得られたと考えられる.体幹近位の筋にリラクセーションが得られたことにより,末梢循環つまり静脈還流やリンパ還流が改善され,腫脹の軽減が得られたと考えられる.<BR> 今後の課題として,他の症例でも同様の施療を行い,効果の信頼性を探る必要がある.一方でサーモグラフィー等のパラメータを用いて体表面の温度変化を追い,この現象を科学的に捉えてエビデンスを追求していきたいと考える.
著者
廣重 陽介 浦辺 幸夫 榎並 彩子 三戸 憲一郎 井出 善広 岡本 健
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.FeOS3067, 2011

【目的】スポーツ現場で頻繁に遭遇する足関節外側靭帯損傷において、競技復帰が遅れる要因のひとつとして長期にわたる腫脹の残存があげられる。腫脹など受傷直後の炎症反応のコントロールにはRICE処置が用いられ、応急処置として浸透している。近年、組織修復促進効果があるとされている(Owoeyeら,1987、藤谷ら,2008)マイクロカレント刺激(Microcurrent electrical neuromuscular stimulation,MENS)もRICEと併用することがあり、筆者らも腫脹の軽減に有効であると考えている。しかし、MENSが腫脹軽減に効果があるというエビデンスは十分でなく、MENS単独での有効性を報告した文献は見当たらない。<BR> 本研究では、MENSが急性期に発生する腫脹を軽減するか否かを検討することを目的とした。<BR><BR>【方法】対象は足関節外側靭帯損傷と診断され、視覚的に腫脹を認め、受傷後72時間以内、初回損傷、RICE処置を施していない患者22名とした。対象をMENS施行群(MENS群)11名(男性6名、女性5名)と非施行群(安静群)11名(男性5名、女性6名)に無作為に分けた。MENS群の年齢(平均±SD)は35.3±18.9歳、身長は162.9±11.2cm、体重は58.5±7.1kg、安静群の年齢は30.2±19.7歳、身長は163.3±7.5cm、体重は60.8±14.7kgであった。<BR> 説明と同意の後、水槽排水法にて足部・足関節の体積を測定した。その後、安静背臥位にて2個のパッド(5cm×5cm)を前距腓靱帯の距骨、腓骨付着部付近に貼付し、MENS群はMENSを20分間施行し、安静群は通電せず20分間安静を保った。再び体積を測定し、最後に医師から処方された理学療法を実施した。MENSにはDynatron950plus(Dynatronic Corporation,USA)のmicrocurrent modeを使用し、周波数0.5Hz、パルス幅1sec、刺激強度50μAとした。<BR> 測定値より、各群の体積、腫脹の程度およびその変化率を求めた。腫脹の程度は、水槽排水法による健常者の足部・足関節の体積は左が1.4%大きい(廣重ら,2010)ことを考慮し、非受傷側の体積から受傷側における受傷前の体積を算出し、これを基準とした。<BR> 統計学的検定として、各群におけるMENS前後、安静前後の腫脹の程度の差には対応のあるt検定を、MENS群と安静群との腫脹の程度の差、腫脹変化率の差には対応のないt検定を用い、危険率5%未満を有意とした。<BR><BR>【説明と同意】対象には事前に研究の目的と方法に関する説明を十分に行い、紙面にて同意を得て測定を行った。本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号1001)。<BR><BR>【結果】MENS群で、MENS施行前の足部・足関節の体積(腫脹の程度)は977.0±111.1ml(106.2±3.9%)、施行後の体積は967.2±107.0ml(105.2±4.1%)となり9.8±6.9ml(1.0±0.7%)減少した。(p<0.05)。安静群で、安静前の体積は911.4±167.1ml(106.5±3.4%)、安静後の体積は909.2±166.6ml(106.2±3.2%)となり2.2±4.7ml(0.3±0.6%)減少したが、有意差は認められなかった(p=0.16)。<BR> 各群の腫脹の程度に有意差は認められなかった(p=0.86)。<BR> 各群の体積減少率を比較すると、MENS群の体積減少率が有意に大きかった(p<0.05)。<BR><BR>【考察】MENSについて、Gaultら(1976)が阻血性皮膚潰瘍患者に施行したところ治癒が早まったと報告して以来、様々な臨床効果が報告されている。森永(1998)は、MENSは微弱電流を通電することで組織損傷時に生じる損傷電流の働きを補い、ATPやたんぱく質の合成を速め、組織修復促進の効果が期待される物理療法であるとしている。従来の電気刺激がはっきりした通電感覚を与えるのに対し、MENSは感覚刺激のない微弱な電流を使用するため、不快感を与えることなく治療を行うことができる。<BR> MENSの腫脹に対する効果を認める者もいるが、その客観的評価や基礎的なデータはほとんどみられず、効果に対して懐疑的意見もあった。しかし今回、足関節外側靱帯損傷患者の急性期においてMENS使用前後で足部・足関節の体積が有意に減少したことから、MENS単独でも腫脹の軽減に効果が認められた。<BR> 本研究における腫脹の軽減はそれほど大きくはなかったが、水槽排水法を用いた信頼性が高い方法(廣重ら,2010)で測定したため、少ない体積変化も正確に読み取ることができたと考えられる。<BR> 板倉(2008)は、足関節外側靭帯損傷後の理学療法(MENS+冷却)で10~26mlの体積減少を認めたと報告している。今回の減少量9.8±6.9mlを考慮すると、他治療との併用においてもMENSの腫脹軽減に対する効果は大きいと考えられる。<BR> 作用機序など分からないことが多いが、今後、臨床研究により様々な使用方法を検討していきたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】MENSは足関節外側靱帯損傷患者の急性期において腫脹の減少に有効であり、早期復帰の一助と成り得ることが示唆された。
著者
池岡 舞 徳永 奈穂子 手塚 康貴 松尾 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BeOS3013, 2011

【目的】運動観察治療(action observation therapy:AOT)とは,他者の行為の観察と身体運動の反復練習を組み合わせた治療方法のことであり,脳卒中やパーキンソン病などの神経疾患の運動障害治療に応用されてきた.このAOTの方法論は,他者行為の観察と自身の行動をリンクさせるミラーニューロンシステムの神経学的基盤を背景にして紹介されてきた(Buccino,2006).我々もこれまでに脳卒中患者に対するAOTの効果を検証してきており,その実施可能性と有効性を少数の症例報告で明らかにしてきた.しかしながら,AOTの臨床研究は散見される程度であり,ランダム化研究はほとんどなく,AOTの臨床的根拠は未だ乏しいのが現状である.そこで,本研究では脳卒中患者の麻痺側上肢の運動障害に対するAOTの効果をランダム化比較研究で検討したので報告する.<BR>【方法】対象は亜急性期脳卒中患者16名(男性11名,女性5名,平均年齢65.4±11.5歳,平均発症経過日数81.5±29.1日)とし,研究デザインは4週間のランダム化クロスオーバーデザインとした.対象者は,通常のリハビリテーションに加えて最初の2週間にAOTを実施する群(AOT-PT群,8名)と後半の2週間にAOTを実施する群(PT-AOT群,8名)の2群にランダムに割り付けた.両群ともにAOTを実施しない2週間は,通常のリハビリテーションのみを実施した.AOTは我々が独自に作成したDVDを使用し,対象者はそれぞれの機能レベルに一致した運動課題映像をDVDプレーヤーにて観察し,その直後に観察した運動課題の身体練習を実施した.AOT用DVDは,デジタルビデオカメラで2方向から同時撮影を行い,日常生活場面に関連した健常者の上肢運動のうち,粗大動作,巧緻動作,両手動作の3つのカテゴリーに分けられた58種類の課題指向型の運動課題で構成された.AOT介入時間は1セッション3課題で,1課題につき3分間の運動観察後,3分間の身体練習で計画され,合計18分間実施した.AOT介入期間は週5回,2週間の合計10回とした.評価項目はFugl-Meyer assessment scaleの上肢,手指項目(FM-U/E,FM-F),Action Research Arm Test(ARAT),Motor Activity Logのamount of use scale(MAL-AOU)とquality of movement scale(MAL-QOM)とした.評価時期は,介入前,2週間後,4週間後の合計3回とした.統計学的分析は繰り返しのある2元配置分散分析を使用し,多重比較にはBonferroni法を使用した.<BR>【説明と同意】対象者全員に対し,研究内容や方法を説明し,紙面上にて同意を得た.<BR>【結果】2元配置分散分析の結果,MAL-QOMに時間による主効果を認め,両群ともにAOT実施期に有意な改善を示した(AOT-PT群:P < 0.01,PT-AOT群:P < 0.05).また,その他の評価項目でも時間による主効果を認め,特にAOT-PT群のAOT実施期に有意な改善を示した(ARAT:P < 0.01,MAL-AOU:P < 0.05,FM-U/E:P < 0.01,FM-F:P < 0.05).PT-AOT群においては,AOT実施期における有意な効果を認めなかったが,介入前と比較すると有意な改善を示した.<BR>【考察】AOTによって脳卒中後の麻痺側上肢の運動機能の改善が促進することが示唆された.特にMAL-QOMでは,AOT実施期にのみ有意な改善が明らかとなった.これはAOTによる上肢の運動機能の改善が,日常生活における上肢使用の質的変化を促進することを示しており,治療場面以外での麻痺側上肢の使用状況にAOTが好影響を与えることを示唆する.また,ARAT,FM-U/E,FM-F,MAL-AOUにおいてもAOT-PT群のAOT実施期に有意な改善を示したことから,上肢運動機能が相対的に向上することが示唆された.しかしながら,PT-AOT群においてはAOT実施期の明らかな特異的効果を示さなかったことから,AOT介入の実施時期も影響する可能性が考えられる.AOTの神経メカニズムとしては,意図的運動観察によるミラーニューロンシステムの活性化が関与し,運動実行の準備状態を運動観察と運動実行のマッチングメカニズムから運動シミュレーションを行い,その後の身体練習における学習反応性を向上させると推測される.AOTは標準化した実施プロトコールの準備により,より多くの臨床場面での適応が可能な新しい神経リハビリテ&#8722;ションの方法であり,今後さらに大規模にAOTの効果を検証していくことが必要と考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】AOTは,他者の行為の意図的な観察と身体練習を組み合わせることで運動学習効率を向上させ,運動治療効果を高める可能性がある.ミラーニューロンシステムの活性化を臨床応用したAOTは,神経リハビリテ&#8722;ションの新しい方法であり,より効果的で効率的な運動障害の治療に発展する可能性があり,本研究はその臨床効果を明らかにしており理学療法学研究として意義深いと考える.
著者
増田 崇 鴨川 久美子 北村 亨 東村 美枝 田平 一行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O3073, 2010

【目的】腹部外科手術により、肺活量、咳嗽力などの呼吸機能が低下することが知られている。手術後低下した呼吸機能は徐々に回復し、術後一週間で約80%まで回復することが報告されている。これらのことを踏まえ、当院では術前術後の肺活量、咳嗽力を継続的に評価している。今回、術後肺合併症を起こした症例2例を経験し、肺活量の回復過程で合併症を起こさなかった群と特徴的な違いがみられた。術後肺活量の変化をとらえることで肺合併症の早期発見につながる可能性があるのではないかと考えたので、報告する。<BR>【方法】対象:全身麻酔下で待機的に開腹手術を行い合併症を起こさなかった30症例(男性22例、女性8例、平均年齢73.5±7.4歳)と肺合併症を起こした2症例を対象とした。合併症を起こさなかった群をコントロール群とし、合併症を起こした2症例をコントロール群と比較した。コントロール群の診断名は胃癌13例、S状結腸癌3例、直腸癌3例、上行結腸癌2例、下行結腸癌2例、胆管癌2例、腸閉塞2例、総胆管結石、膵頭部癌、胃癌とS状結腸癌の併発がそれぞれ1例ずつであった。合併症を起こした2症例(86歳女性、76歳男性)はいずれも胃癌で、合併症は肺炎であった。<BR>方法:対象者の手術前後に肺活量(vital capacity:VC )及び咳嗽力の指標として咳嗽時最大呼気流速(cough peak flow:CPF)、安静時痛、咳嗽時痛のvisual analog scale(VAS)を測定した。測定は手術前と手術後1日目から9日目までと13日目に実施し、測定に同意した日のみ行い、疼痛や発熱、倦怠感などの理由で対象者の同意を得られない日は測定を行わなかった。<BR>解析方法:術前・術後のVC、CPF、安静時痛、運動時痛を比較した。<BR>【説明と同意】全症例に対しこの検査の意義・目的を説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR>1)術前値の比較<BR> コントロール群の術前値はVC:2652±738ml、CPF:297±110L /minであった。症例1は術前VC:2200ml、CPF:300 L/min、症例2はVC:3750ml、CPF:350L /minと大きな違いは見られなかった。年齢は平均よりも高齢であった。<BR>2)VC、CPF、疼痛の経過の比較<BR> コントロール群のVC・CPF・疼痛の経時的変化(理学療法学35巻7号,p308~312)は術前値に対するVCの回復率で術後1日目には47.8%まで低下し、9日目で85.5%まで順調に回復した。一方CPF回復率は術後1日目に46.4%まで低下し、9日目で90.5%、13日目では90.7%まで順調に回復した。疼痛は術後1日目に大きく上昇しその後徐々に低下する傾向があった。<BR>症例1:86歳女性、胃部分摘出術施行術後12日目に肺炎と診断。(前日)11日目の理学療法施行時、それまで順調に回復していたVCが低値となっていた(術後8日目1970ml→11日目1260ml)。CPFも術後8日目310L/min→11日目280L/minと若干低下した。翌12日目胸部X-P撮影後肺炎と診断された。<BR>症例2:76歳男性、胃全摘出術施行、術後7日目に肺炎と診断。(前日)6日目理学療法施行時、それまで順調に回復していたVCが低値となっていた(術後5日目2600ml→6日目2200ml)。CPFは術後5日目225L/min→6日目230L/minと大きな変化は見られなかった。翌7日目胸部X-P撮影後肺炎と診断された。疼痛は2症例ともコントロール群と大きな違いは認められなかった。<BR>なお肺炎は医師によりレントゲン所見、発熱、自覚症状などによって診断された。<BR>【考察】今回の2症例は術前の呼吸機能検査では異常値は示しておらず、術前の段階で呼吸器合併症を予測することは困難であった。一方、VC、CPFは、コントロール群の術後のトレンドと比較すると症例1、症例2共に肺炎の診断がつく前にVC回復率が低下する傾向が見られた。特に症例2では発熱の症状が発現する前にVC回復率の低下が確認できた。VCの変化が肺炎の症状の発現とほぼ同時期あるいはそれより前に見られたことから術前から継続して評価を行うことで発症を感知できる可能性が推察される。このVCの低下は、肺炎により一部無気肺を起こししたことなどが原因として考えられた。一方で咳嗽力の指標となるCPFは特徴的な変化を示さず、肺炎を感知するには適さないと考えられた。しかし、症例1、2共に肺炎の発症時には感染時に去痰不全になる可能性があるとされる270 L/minを下回っており、去痰不全を引き起こしていることが伺えることから、CPFの測定は去痰不全のリスクを管理する上では有用な検査であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】本症例報告では、ベッドサイドで比較的簡便な方法で術後の肺合併症を早期に感知できる可能性が示唆された。非侵襲的な検査であり、比較的容易に測定できることから、今後症例を重ね、一定の傾向が確認できれば術後肺合併症を疑う上での指標の一つになるのではないかと考える。
著者
池田 俊輔 蛯名 麻衣 平野 祥代 大野 駿人 山崎 弘嗣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.H4P2359, 2010

【目的】応用歩行の獲得は理学療法の重要な目標の一つであるが、応用歩行が運動学的にどのような歩行であるのか基礎的な理解に乏しい。本研究の目的は健常成人の歩行者交通流(集団での歩行中)での個人の運動学的変数とりわけ空間的変数の特徴が、自由歩行における特徴とどのように異なるかを明らかにすることである。<BR>【方法】運動器系及び神経系に障害のないのべ60名(実質47名、男性20名、女性27名、年齢21.6±2.6歳)の大学生を対象とし、6種類の条件でのすれ違い歩行(3つの人数条件×2つの床面設定条件)を行った。3つの人数条件(10人、20人、30人)共に同人数に分かれた2集団が幅1.28mの平坦な廊下を相対する向きに歩行し(counterflow)、他人に衝突しないようにすれ違い所定の距離を歩くことが課題である。集団は16m離れた向かい合う開始線から歩き出す床面設定(プランA)と、2集団が直接対面した状態で歩行を開始する床面設定(プランB)との2通りで1cm四方の目盛りが刻まれた歩行路上を歩いた。各条件10名(のべ30名、実質25名、男性10名、女性15名、年齢21.5±1.2歳)の立脚足踵部の座標をデジタルビデオカメラで撮影し歩幅と歩隔、歩行速度を計測した。<BR>【説明と同意】全ての対象者に本研究の目的と実験方法について説明を行い、書面で同意を得た。<BR>【結果】プランAでは集団人数の増加と共に歩行速度は1.08±0.31(m/s)、1.03±0.11(m/s)、0.78±0.12(m/s)と低下し、プランBでも1.06±0.11(m/s)、0.86±0.10(m/s)、0.67±0.13(m/s)と低下した(p<0.01)。プランAでの歩幅は集団人数の増加と共に55.6±17.8(cm)、54.0±20.2(cm)、44.8±22.5(cm)と狭小化し、プランBでも58.8±16.4(cm)、49.2±20.0(cm)、38.8±24.0(cm)と狭小化した(p<0.01)。歩幅の標準偏差は人数増加に伴い増加する傾向にあった。プランAの歩隔は平均で9.80±7.87~10.9±8.35(cm)にあり、プランBでは10.3±7.67~12.3±10.2(cm)にあった。<BR>【考察】歩行者交通流の集団人数の増加に伴う歩行速度の低下は複数の先行研究の結果と一致した。歩行速度は集団の人数の関数であることが示唆された。本研究は、その歩行速度の低下が、個人の歩幅の減少と対応していることを示した。しかし歩幅は自由歩行に比べて狭く、そのばらつきも大きく、もはや歩行運動を代表する周期変数としての特徴を失っていた。つまり単に前進運動として歩行するのではなく衝突回避を行うための進行方向変更あるいは移動停止や加速を含めた運動調節を行うために下肢の運動を調整していることを反映していると考えられる。殊にcounterflowにおいては、自由歩行で仮定している周期的な歩行運動から逸脱する運動であるために、歩行速度の低下と歩幅の減少の関係は、歩行率を介する関係式(歩行速度=歩幅×歩行率)から予測できるものではない。今後は歩行周期(時間的変数)の変動との関連を明らかにすることが必要であろう。<BR>【理学療法学研究としての意義】歩行者交通流における個人の歩行の運動学的特徴は、平均的には自由歩行にくらべて遅い歩行速度と狭い歩幅である。しかしそれらは、例えば10m歩行テストによって明らかになるような周期変数としての特徴は区別されるべきであり、応用歩行の運動学的特徴は自由歩行あるいは自然歩行の延長線上に位置づけられない。応用歩行の特徴は、非周期的な強制歩行の特徴として記述される可能性がある。<BR><BR>
著者
菅原 憲一 田辺 茂雄 東 登志夫 鶴見 隆正 笠井 達哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2129, 2009

【目的】運動学習過程で大脳皮質運動野は極めて柔軟な可塑性を示すことはよく知られている.しかし、運動学習効率と各筋の特異性に関わる運動野の詳細な知見は得られていない.今回、トラッキング課題による運動学習過程が皮質運動野の興奮性に及ぼす影響を学習経過と筋機能特異性を中心に経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を指標に検討した.<BR>【方法】対象は健常成人13名(年齢21-30歳)とした.被験者に実験の目的を十分に説明し,書面による同意を得て行った.なお、所属大学の倫理委員会の承認を得て行った.<BR>被検者は安楽な椅子座位で正面のコンピュータモニター上に提示指標が示される.提示波形は3秒間のrest、4秒間に渡る1つの正弦波形、3秒間の一つの三角波形から構成される(全10秒).運動課題はこの提示指標に対して机上のフォーストランスデューサーを母指と示指でピンチし、モニター上に同期して表れるフォースと連動したドット(ドット)を提示指標にできるだけ正確にあわせることとした.提示指標の最大出力は最大ピンチ力の30%程度とし、ドットはモニターの左から右へ10秒間でsweepするものとした.練習課題は全部で7セッションを行った.1セッションは10回の試行から成る.練習課題の前にcontrol課題としてテスト試行(test)を5回行い、各練習セッション後5回のテスト試行を行うものとした.練習課題は提示指標とドットをリアルタイムに見ることができる.しかし、testではsweep開始から3秒後に提示指標とドットが消失し遂行状況は視覚では捕えられなくなる.TMSはこの指標が消失する時点に同期して行われた.MEPは、第1背側骨間筋(FDI)、母指球筋(thenar)、橈側手根屈筋(FCR),そして橈側手根伸筋(ECR)の4筋からTMS(Magstim社製;Magstim-200)によるMEPを同時に導出した.MEP記録は刺激強度をMEP閾値の1.1~1.3倍,各testでMEPを5回記録した.また、各4筋の5%最大ピンチ時の筋活動量(RMS)、提示指標と実施軌道の誤差面積を測定した.データ処理はいずれもcontrolに対する比を算出し分析検討(ANOVA, post hoc test: 5%水準)を行った.<BR>【結果と考察】誤差面積と各筋RMSは、controlと比較すると、各訓練セッションで有意に減少した(P<0.05).FCRとECRは練習後、MEPの変化は認められないものの、7セッション後ではFDIの有意な増加が示された(P<0.05).しかし、thenarでは7セッション後に有意な減少を示した(P<0.05).以上の結果、パフォーマンスの向上に併せて大脳皮質運動野の運動学習による変化は全般の一様な変化ではなく、その学習課題に用いられる各筋の特異性に依存していることが示唆された.
著者
阿部 洋太 武井 健児 高橋 和宏 山本 敦史 長谷川 信 田澤 昌之 白倉 賢二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】胸郭出口症候群(TOS)は,胸郭出口において腕神経叢または鎖骨下/腋窩動静脈が圧迫あるいは牽引されて生じる病態の総称である。TOSのリハビリテーションに際しては圧迫型・牽引型・混合型といった病態の把握とともに,斜角筋間三角・肋鎖間隙・小胸筋深部といった症状誘発部位の鑑別が必要とされる。鑑別方法としてAdson test,Eden test,Wright testといった脈管圧迫テスト(テスト)があり,これらは本邦におけるTOS診断に際して用いられている。現在のTOS病態の理解では,神経原性の牽引型が9割を占めるとされており,圧迫型においても血管原性は希であるとされているため,上記のテストは血管と同時に圧迫を被る腕神経叢の圧迫症状を推測するものとして使用される。しかし,テスト時の症状としては痺れなどの神経性の症状に伴い,脈拍減弱や色調変化といったいわゆる血管性の症状も出現しており,どの部位で何が圧迫を受けているのかという点とそのときの症状の関連性には不明な点が多い。我々はテスト実施時の血管の状況をリアルタイムで確認出来る超音波診断装置に着目し,その有用性を検討してきた。そこで本研究では,超音波診断装置より得られる各テスト時の血管面積の変化と,その際の症状との関連性を検討し,TOSにおける脈管圧迫テストの在り方を再考することを目的とした。【方法】被験者は日常生活においてTOS症状を有さない健常成人9名とした。測定には超音波診断装置(MyLab 25,日立メディコ社製)を用いた。測定部位は斜角筋間三角,肋鎖間隙,小胸筋深部の3箇所とし,1)上肢下垂時,2)Adson test時(頸部最大後屈+検査側回旋位,最大吸気位),3)Eden test時(両肩関節軽度伸展,両肩甲骨最大下制+内転+後傾位),4)Wright test時(肩関節90°及び130°外転位)のそれぞれにおいて,各箇所の血管面積を計測した。また,各測定時に出現したTOS症状の部位及び性質を聴取するとともに,脈拍及び指尖の色調を確認した。統計学的解析にはWilcoxonの符号付順位検定を用い,上肢下垂位と各テスト時の血管面積を部位ごとに比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,群馬大学臨床研究倫理委員会の承認を得て実施した。また,対象者全員に本研究について文書と口頭にて十分な説明を行い,同意を得た後に測定を行った。【結果】上肢下垂位と比較し,Adson test時では全ての部位において有意に血管面積が減少していた。Eden test時では,肋鎖間隙において有意に血管面積が減少していた。Wright test時では,全ての部位において有意に血管面積が減少していた。各測定時のTOS症状出現状況は,Adson test時が1名,Eden test時が3名,Wright test時が6名であり,その部位は上腕内側及び外側が1名ずつ,手掌全体が1名,残り7名が第2指尖から第5指尖のいずれか複数部位であり,症状の性質は全員が痺れやだるさであった。なお,症状出現者全てにおいて,脈拍減弱が確認された。【考察】Adson testでは全ての部位において有意な血管狭窄が生じていたものの,症状出現者は1名であった。このテストは,深呼吸に起因する全身の循環動態と神経反射により生ずる一過性の血流低下が大きく関与するため,血管圧迫の意味合いは少なく,診断に際する特異度も高いことが明らかとされている。本研究においても同様のメカニズムが血管面積に関与し,同様の症状出現状況であったと考えられる。Wright testでは全ての部位において有意な血管狭窄が生じ,症状出現者も6名と最も多く,多彩な部位に痺れが誘発されていた。先行研究ではWright testによる肋鎖間隙での有意な血管狭窄がすでに報告されており,本研究結果とは異なる傾向となった。そのため圧迫部位は定かでないが,症状としては,第4及び第5指尖を筆頭に,上腕内側及び外側や手掌全体など様々な部位に出現しており,対象者によって異なる高位の腕神経叢神経幹部が血管と同時に圧迫を被ったと考えられる。Eden testに関して,本研究では肋鎖間隙においてのみ有意な血管狭窄が生じていた。肋鎖間隙では鎖骨下動静脈が腕神経叢よりも後下方を走行しているという解剖学的特徴があるため,血管よりも神経の圧迫が先行すると報告されているが,本研究では痺れやだるさといった症状に加え,指尖の色調が暗赤色に変化するといった静脈圧迫性の症状が出現しており,神経性及び血管性の所見が複合する結果であった。【理学療法学研究としての意義】本研究のようなデータの蓄積は各テストの特徴を明らかにし,TOSの病態解明の一助となるとともに,超音波診断装置のTOS評価としての有用性など,様々な点でリハビリテーションへの応用が可能である。
著者
高橋 彰子 福原 一郎 高木 伸輔 井手 麻衣子 新田 收 根津 敦夫 松田 雅弘 花井 丈夫 山田 里美 入岡 直美 杉山 亮子 長谷川 大和 新井 麻衣子 加藤 貴子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100455, 2013

【はじめに、目的】重症心身障害児者(以下;重身者)は,異常筋緊張など多様で重層した原因で症候性側弯が発症進行する.側弯の進行予防に対して理学療法が施行されるが,それ以外にも日常生活で使用する側弯装具が処方される場合も多い.今までは,ボストン型装具や硬性コルセットなどが広く使用されているが,大きく,通気性も悪く,服が着にくい,また痛みを訴えるなどのデメリットもあった.近年,3点固定を軸に側弯進行を予防し,装着感がよく,通気性なども改善された動的脊柱装具(DSB 通称プレイリーくん)が開発された.開発者の梶浦らは,多様な利点で,重身者の症候性側弯に有効であると述べている.しかし,親の子に対する装具装着の満足度や,理学療法士による効果判定などの関連性や,装具装着による変化に関しての報告は少ない.そこで,動的脊柱装具を処方された重身者の主たる介護者の親と担当理学療法士にアンケート形式で満足度と装具の効果について検討することを目的とした.【方法】対象は当院の外来患者で動的脊柱装具を作成した側弯のある児童または成人17名と,担当理学療法士6名とした.対象患者の平均年齢15.9歳(3~22歳),GMFCS平均4.7(3~5),Cobb角平均82.46(SD31.62)°の側弯を有していた.装具に対する満足度や効果の実感に関するアンケートを主たる介護者の親と担当理学療法士と分けて,アンケートを2通り作成した.親へのアンケートは,装具装着の見た目,着けやすさ,姿勢保持のしやすさ,皮膚トラブル,装着時間,総合的な満足度などの装具使用に関する項目に関して,20項目の質問を紙面上で答えさせた.理学療法士には姿勢変化,治療的効果などの評価の4項目に関して紙面上で記載させた.その他,装具装着前後でのCobb角を算出した.統計処理はSPSS ver20.0を用いて,質問紙に関しては満足度合を従属変数とし,その他の項目を独立変数として重回帰分析を実施し,関連性についてはpearsonの相関を用いた.理学療法士の効果判定に関係する因子の検討では理学療法士の評価を従属変数として,効果に対する要因,Cobb角を独立変数として多重ロジスティック解析を実施した.各質問紙項目内による検討に関してはカイ二乗検定を用いた.また,Cobb角の変化に関しては対応のあるt検定を用いた.危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】全対象者と全対象者の親に対して,事前に本研究の目的と方法を説明し,研究協力の同意を得た.【結果】Cobb角は動的脊柱装具作成装着前後で有意に改善した.動的脊柱装具に関する親の満足度と関連する項目はCobb角の変化ではなく,体に装具があっていると感じている,装具の着けやすさ,装具を装着したときの見た目と関連していた.満足度と装着時間とは正の相関をしており,満足度が高い人ほど装着時間も長かった.理学療法士の評価は満足感と関連していなく,姿勢保持のしやすさ,Cobb角と関連していた.【考察】今回GMFCSレベル4~5のADLで全介助を要し,側弯の進行の危険性が高い方を対象としており,親の関心や理学療法士の治療選択も側弯予防は重要な目標の1つである.重身者の親の満足度は主に子どもの装着に関係する項目と最も関連していた.理学療法士の効果検討としてはCobb角,姿勢保持と関連していた.動的脊柱装具装着の前後で側弯に改善がみられることは,梶浦らの報告とも同様で,この体幹装具が側弯に対して長期的な効果の可能性も示唆された.その装具に関する理学療法士の効果判定はCobb角と関連が強く姿勢の変化を捉えている傾向にあった.親の満足度は最も快適に使用できる項目であり,満足しているほど装着時間が延長することが考えられる.今回のアンケートより,装具に対する親への感想を聴取することで生活状況の確認となり,満足度を高めるように作成することが可能となると示唆された.【理学療法学研究としての意義】重身者にとって側弯は内臓・呼吸器疾患と直接的に結びつきやすく側弯の進行予防は生命予後に関しても重要である.側弯進行予防の理学療法を効果的にするためにも,使いやすい側弯装具は重要な日常生活器機である.新たに開発された動的脊柱装具の満足度と効果についてアンケート調査を行った.親が実際の装具使用を肯定的に感じているほど,装着時間も長く,親の満足度に関連する因子として,装着しての見た目や,子の過ごしやすさも重要な因子であることが今回示唆された.
著者
高澤 麻理絵 町田 治郎 上杉 昌章 古谷 一水 押木 利英子 田中 宏和 野原 友紀子 平井 孝明 松波 智郁 鈴木 奈恵子 岩島 千鶴子 廣田 とも子 脇口 恭生 本吉 美和 岸本 久美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.BbPI1161, 2011

【目的】Dynamic spine brace(以下DSB)は、梶浦らにより開発された脳性麻痺の側彎変形に対する体幹装具で、従来の硬性コルセットと比較し可撓性に富み、利用者の受け入れが良く、長時間の装着が可能という特徴を持つ。また介助者側からみた特徴としては、装具の着脱が行い易い、患児の体幹が安定するなどがあり介助量の軽減も報告がされている。今回、当院においてDSBを作製した患者に対し、介助者の主観的評価として満足度・介助負担感、機能的評価として側彎進行度・1回換気量について調査を行ったので報告する。<BR>【方法】対象は当院でDSBを作製した患者で、使用前と使用1M後、3M後に比較可能であった男児1名女児5名であった。GMFCSはレベル4が2名、レベル5が4名であり、装具使用開始の平均年齢は9歳5か月であった。評価項目は、介助者の主観的評価として、1) DSBへの満足度、2)介助負担感(装着・移乗・更衣動作・排泄)、3)動作や姿勢の変化点、その他の気づいたことを自由意見として聴取した。満足度と介助負担感は10点満点で、負担感は大変なほど点数が高くなり、満足度は、満足しているほど高くなる。介助者への聴取は同一検者が行った。機能的評価として、1) コブ角測定 ( 整形外科医師によるレントゲン画像読影 ) 、2) 1分間の平均1回換気量測定(IMI社製Haloscaleを使用)を行った。平均1回換気量は、分時換気量を呼吸数で割って求め、これを3試行し平均値をとった。主観的評価は、6人分を平均して、使用後1M後と使用3M後の2群に分けて比較した。機能的評価(コブ角、平均1回換気量)は使用前と使用1M後、使用1M後と使用後3Mにおいて対応のある2群の中央値の差の有無をウイルコクソン符号付順位和検定を用いて調べた。<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者および保護者には事前に書面および口頭にて説明を行い、アンケートの提出をもって同意を得るものとした。<BR>【結果】主観的評価:1)DSBに対する満足度は使用1M後7.2点、使用3M後7.3点であった。満足度の主な減点理由として、全員から熱がこもる、汗をかくという意見があった。2)装着に関する負担感は、使用1M後3.5点、3M後3.3点で、装着する位置が難しい、装着動作が大変という意見があった。移乗介助の負担感は使用1M後5 点、3M後4.5点で、身体にフィットせず抱きにくいという反面、低緊張なので装具がある方が抱きやすいという意見もあった。更衣介助の負担感は使用1M後3M後ともに平均3.0点、排泄介助の負担感は使用1M後4.5点、3M後6.5点であった。排泄介助に関しては、1日に何度も着脱し汚れの配慮が必要との声があった。3)家族から聴取した動作や姿勢の改善は全例で認められ、臥位・座位姿勢の改善、座位時間の延長、座位で上肢が使いやすい、座位が自立した等があった。機能的評価:コブ角は使用前平均49.5度と使用後1Mで44度、3Mで45.9度であった。使用前と使用1M後、使用1M後と3M後で統計学的有意差は認められなかった。平均1回換気量は、使用前平均108.4 ml、使用1M後94.3 ml、 3M後133.3mであり、使用前と使用1M後間で有意な低下(p<0.05)、使用1M後と3M後間に有意な改善がみられた(p<0.01)<BR>【考察】DSB使用後の動作や姿勢に関する家族の評価は概ね良好であり、満足度も高い評価を得られたが、介助負担感(装着・排泄・移乗・更衣)については、先行研究のような長所のみでは必ずしもないことが明らかになった。装具適応については介助者に対しての事前の十分な説明や教育が必要であると思われた。今回の対象者は、全員が初めての装着であり負担感が少なからずあったと考える。さらに調査期間が3Mと短かったことから、もっと長期の使用があれば装具を常用することへの習熟や慣れが生まれて負担感は軽減する可能性があると考えた。機能的評価でも、コブ角は有意な改善が見られず、平均1回換気量に関しては使用前と使用1M後間で有意に低下し、その後の使用1M後と3M後間で有意な改善がみられた。このことから機能的改善も使用直後には見られず、改善がみられるには3M以上を要することが推察された。今後、機能改善の評価に適切な評価項目を吟味するとともに、追跡調査を続け長期間にわたるDSB使用に関する機能評価をする必要があると考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳性麻痺などの中枢神経系障害に起因する二次的な側彎変形に対して、新たに開発された装具の効果について検討を行った。重度重複障害児の側彎変形は児の生命やQOLに関わる重要な問題であるにもかかわらず科学的根拠を求める研究は少ない。本研究は重度重複障害児の側彎変形に対する試みであり、得られた知見は小児分野の理学療法学研究に寄与するものである。
著者
藤本 智久 岡田 祥弥 行山 頌人 森本 洋史 中島 正博 西野 陽子 皮居 達彦 田中 正道 久呉 真章
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100114, 2013

【はじめに】 当院では,極・超低出生体重児に対して発達フォローアップとして新版K式発達検査を実施しており,その経過で,発達の遅れを認める児を経験することがある.その中には発達がキャッチアップする児とキャッチアップせずに発達遅滞や発達障害と診断される児がいる.今回,修正18ヶ月までにキャッチアップした児としなかった児について検討したので報告する.【方法】 当院 周産期母子医療センターに入院し,発達フォローアップの依頼のあった極・超低出生体重児(入院中に明らかな脳障害や染色体異常を認めた児を除く)で,修正12ヶ月前後および修正18ヶ月前後の新版K式発達検査において各領域の発達指数が85未満の値を示した児のうち,継続調査が可能であった53名(男児23例,女児30例)を対象とした.さらに,修正18ヶ月までにキャッチアップを認めた児(キャッチアップ群)21例(男児8例,女児13例)と修正18ヶ月でキャッチアップを認めなかった児(非キャッチアップ群)32例(男児15例,女児17例)について,在胎週数,出生体重,Apgar Score,修正3ヶ月前後のGeneral Movements(GMs)評価,新版K式発達検査の経過および予後について検討した.なお,統計学意的検討は,t-検定およびMann-WhitneyのU-検定,カイ2乗検定を用いて行い,危険率0.05以下を統計学的有意とした.【説明と同意】 対象児の保護者には,フォローアップについての説明および情報の取り扱いについて紙面および口頭にて説明し,同意を得て実施した.【結果】 周産期情報の比較では,在胎週数は,キャッチアップ群が,平均31.0±3.2週,非キャッチアップ群が,平均29.1±3.3週,とキャッチアップ群の方が統計学的有意に長かった(P<0.05).しかし,出生体重およびApgar Score 1分値,5分値では有意差を認めなかった.また,修正3ヶ月前後のGMsの結果では,キャッチアップ群でFidgety Msを認めたものが17例,Abnormal Fidgety Ms(AF)を認めたものが,4例であった.非キャッチアップ群では,Fidgetyを認めたものが19例,AFを認めたものが13例であった(有意差なし).新版K式発達検査の経過をみると,12ヶ月において,姿勢運動領域(PM領域)のDQは,キャッチアップ群が80.5(以下中央値),非キャッチアップ群が87.4と統計学的有意にキャッチアップ群が低かった(p<0.05).しかし認知適応領域(CA領域),言語社会領域(LS領域),全領域では,有意差を認めなかった.さらに18ヶ月において,PM領域のDQは有意差を認めなかったが,CA領域,LS領域,全領域のDQではキャッチアップ群が有意に高値を示した(p<0.05).予後について比較すると,最終的に2歳半以降で自閉症などの発達障害を認めた児は,キャッチアップ群が1例,非キャッチアップ群は8例であった(有意差なし).【考察】 今回の結果より,キャッチアップ群と非キャッチアップ群を比較すると周産期の情報では,統計学的に有意差を認めた項目は,出生時の在胎週数のみであった.横塚らは,早産児では在胎期間が短くなるほど修正月齢よりもさらにゆっくりとした発達を示し,3歳頃にキャッチアップすることが多いと述べており,在胎期間は,キャッチアップの有無を考える上でも重要であることを示していると考える.また,修正3ヶ月前後のGMs評価では,統計学的有意差は認めなったが,非キャッチアップ群の方がAFを多く認めた.GMsは,予後予測としては信頼性の高い評価であるが,観察者の習熟度によるところが大きく有意差が出なかったのかもしれない.また,新版K式発達検査の経過をみると,12ヶ月での運動発達の遅れは,18ヶ月までにキャッチアップされることが多いが,認知面,言語面での発達の遅れは18ヶ月になるにつれて目立ってくることを示している.また,予後についても,キャッチアップ群は1例,非キャッチアップ群が8例に発達障害を認めたことより,修正18ヶ月での言語社会性の発達の遅れは,7割以上は正常発達にキャッチアップしていくが,自閉症など発達障害に注意して経過を追っていく必要があると考える.【理学療法研究としての意義】 本研究は,極低出生体重児の発達経過を見ていくなかで,発達の遅れを認める児であっても大半が,キャッチアップを認めるようになることを示しているが,在胎週数や修正18ヶ月での言語発達の状況等によっては,注意して経過を追っていく必要があることなど両親への発達のアドバイスを行う基礎資料としても有用であると考える.
著者
豊田 輝 高田 治実 菅沼 一男 芹田 透
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Gc1040, 2012

【はじめに】 理学療法評価において歩行分析は,重要な手段として位置づけられ,特に義足歩行分析は切断者の残存機能を最大限に活かすためになくてはならない評価項目である.しかしながら,この義足歩行分析を的確に実施するために必要な情報の多くは,その現象の説明に留まっているのが現状である. そこで,義足歩行分析を熟練者はどのような方法で観察評価しているかを明らかにし,経験の浅い者の義足歩行評価技能向上の一助となる情報を提供することを目的とした.【方法】 切断者のリハビリテーションに5年以上従事している理学療法士10名(男性9名,女性1名,平均経験年数9.5±3.3年,以下熟練群)と同リハビリテーション従事年数が1年未満の理学療法士10名(男性7名,女性3名,平均経験年数0.1±0.2年,以下初心群)を対象とした. まず,筆者が作製した片側大腿切断者の10m直線歩行における正常歩行映像(ソケット不適合やアライメント異常がない状態の歩行映像)をスクリーンに投影させ観察させた.次に,2つの異常歩行映像(あるアライメント異常を筆者が意図的に設定した状態での異常歩行映像,課題1外側ホイップ,課題2側傾歩行)を分析し,3設問のアンケート(設問1.異常歩行の名称,設問2.その原因となる義足アライメント異常,設問3.その修正方法について)に回答することを事前に説明した.また,その義足歩行映像は対象者自身が課題ごとに「アンケート内容に回答できる」と判断するまで繰り返し流すことも説明した.その後の手順は,課題ごとに異常歩行映像をスクリーンに投影し,歩行分析させた.この際対象者は,眼球運動計測装置(モバイル型アイマークレコーダEMR-9,NAC社製,以下EMR-9)を装着した状態で,この映像をスクリーンから3m離れた位置で静止立位にて歩行分析を行った.また,歩行分析終了までの時間を評価所要時間として計測した.尚,アンケートには,歩行分析終了後に対象者自身で記入させた. 得られたデータの解析方法は,EMR-9によって歩行観察時の視野映像に注視点を表示させるとともに,解析ソフト(EMR-dFactory)によって視線軌跡及び停留点(0.1秒以上)の定量解析を行った.統計的手法としては,アンケート設問1の異常歩行名称正答率にはχ2検定を用い,評価所要時間にはMann-WhitneyのU検定を用いて検討した.また,いずれも危険率5%未満を有意水準とし,全ての分析にはPASW Statistics18を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,本研究の趣旨を説明し同意を得た.また,本研究結果を個人が特定できる形で公表しないことも説明した.その他,映像作製に協力頂いた切断者にも本研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】 評価所要時間では,課題1で初心群が平均63,1±38.8秒,熟練群が6,2±1,3秒,課題2で初心群が平均65,0±34.9秒,熟練群が6,8±0,6秒であり,いずれも優位に熟練群が短時間で分析を終了していた.また,アンケート設問1の正答率は,初心群で10%,熟練群で100%であり,優位に熟練群が高い正答率であった.その他,EMR-dFactoryによる注視項目分析と停留点分析より,アンケート設問1を正答した者には,特定の異常歩行ごとに遊脚期,立脚期において共通した注視点,停留点及び注視順があることが明らかとなった.具体的には課題1では,遊脚初期において義足側足部と膝継手を注視及び停留しながら観察し,課題2では,遊脚期には義足側股関節周囲,膝継手及び足部を,立脚期には義足側肩関節周囲に注視及び停留しながら観察していた.一方,この設問に誤答した者は,異常歩行の種類,遊脚期,立脚期を問わず身体のあらゆる部位を無作為に観察しており,注視点,停留点及び注視順の全てにおいて分散した状態であった.【考察】 熟練群は初心群に比較し歩行分析に要する所要時間が優位に短く,正答率も優位に高かった.また,アンケート設問1に正答した者の注視点,停留点及び注視順は,共通したものであった.これらのことから,経験年数を重ねることで適切な分析が可能になる反面,初心者は,切断者に大きな負担をかけながら歩行分析を実施する可能性が高いことが示唆された.これでは,理学療法士全体の質が低下することに成りかねない. この問題解決のために,本研究の成果を教育方法のひとつとして活用できると考える.設問1で正答した者全てに共通する注視点,停留点及び注視順を抽出し,外側ホイップもしくは側傾歩行に対する歩行観察手順として示すことにより,理学療法士の卒前・後教育の資料として活用できると考える.【理学療法学研究としての意義】 義足歩行分析の教育的なひとつの方法論として,今回の研究成果は活用できると考える.これにより,初心者が外側ホイップもしくは側傾歩行の義足歩行分析を実施する際の有益な情報になることが示唆された.
著者
赤羽 勝司 木村 貞治 宮坂 雅昭 黒沢 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0077, 2004

【はじめに】スピードスケート競技の競技特性としては,距離に応じた体力要素と技術要素の調和が重要視される.そして体力要素の指標としては,下肢筋力や全身持久力,技術要素としては,スタート,直線,コーナーにおける上半身の姿勢や下肢のスケーティング動作技術が挙げられる.そこで,今回我々は,スピードスケート選手における競技力向上を目的とした陸上トレーニングの指標を検討することを目的として,体力要素としての下肢筋力と技術要素としての片脚保持時の重心動揺特性を解析し,興味ある知見を得たので,ここに報告する.<BR>【対象】日本スケート連盟発表の種目別年間ランキング50位以上の選手7名(男5名,女2名,以下:上位群),51位以下の選手13名(男8名,女5名,以下:下位群)を対象とした.年齢は,上位群が,16歳から18歳(平均16.9歳)で,下位群は,16歳から18歳(平均16.6歳)であった.競技経験年数の平均は,上位群が9.1年,下位群が9.8年であった.研究を行うにあたり,全ての対象者に研究の主旨を説明し,研究協力に対する承諾を得た.<BR>【方法】1)重心動揺の測定:膝伸展位での片脚立位(EP)及び膝屈曲位(スケーティング姿勢)での片脚立位(FP)を各々10秒間保持させた時の重心動揺を重心動揺計(アニマ社製,SG-1)を用いて左右2回ずつランダムに測定した.解析項目は,重心動揺の距離,実効値(RMS),面積(REC-A),集中面積(SD-A)とした.2)下肢筋力の測定:等尺性筋力測定装置(OG技研製,GT-30)を用いて,股・膝関節屈曲90度での最大等尺性膝伸展・屈曲筋力を左右2回ずつ測定した.次に,得られた値を体重で除した体重支持指数(WBI)を算出し,左右比,伸展/屈曲比を求めた.3)統計解析:SPSS(SPSS 11.0J for Windows)を用いて,上位群と下位群における重心動揺と下肢筋力の平均値の差をMann-WhitneyのU検定を用いて解析した.検定の有意水準は5%とした.<BR>【結果】1)重心動揺特性について:左側FPにおけるRMS,REC-A,SD-Aの値は,上位群が下位群よりも有意に低値を示した(p<0.01).2)下肢筋力について:膝伸展筋力及び屈曲筋力ともに,両群間で有意な差は認められなかった.<BR>【考察】スピードスケートの競技特性は,直線滑走とコーナー滑走の反復である.特にコーナー滑走では,左脚の支持性と右脚の駆動力が重要な要素となる.今回の結果において,スケーティングの模擬姿勢である左脚での片脚立位保持時の重心動揺が,下位群よりも上位群において有意に安定していたことは,コーナー滑走技術の高さが競技力に反映されている可能性があると考えられる.以上より,スピードスケート選手の競技力向上を目的とした陸上トレーニングの1つとして,スケーティングの模擬姿勢での左脚を中心とした静的片脚保持能力を高めるようなアプローチを工夫していくことが重要であると示唆された.
著者
光村 実香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,医療技術の発展やQOLの観点から小児領域において医療ケアを受けながら在宅生活を送る患児・者が増加している。そのため訪問リハビリテーション(以下,訪問リハビリ)でもその必要性が重視されているが,多くの訪問リハビリに携わる療法士は小児未経験ゆえ,受け入れが困難な現状が問題視されている。そこで本研究は,訪問リハビリで療法士が患児とどのようにコミュニケーションをとりながらリハビリテーション(以下,リハビリ)を展開しているかを明らかにすることを目的として行った。【方法】対象者はスノーボールサンプリング法により抽出された小児訪問リハビリ経験年数半年~15年のPT3名(女性1名,男性2名),OT3名(女性1名,男性2名)である。調査期間は2013年10月~11月であった。小児の訪問リハビリを行うことになった経緯や小児訪問リハビリで大切にしていること,それまでの経験と異なり困ったことや工夫していることなどを質問項目としたインタビューガイドを作成し,半構造化面接を行った。面接時間は約60分,インタビュー内容はICレコーダーに録音し,インタビュー終了後,逐語録におこした。分析は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて,概念やカテゴリーを生成し結果図を作成した。【倫理的配慮,説明と同意】研究説明書を用いて研究目的・方法,研究協力棄権での不利益を受けないこと,個人情報の保護,費用負担の有無等について説明を行い,同意書の署名をもって研究参加の承諾とした。本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承諾を得て実施した。【結果】【カテゴリー】7,「概念」13を抽出した。小児訪問リハビリに携わる前に病院・施設等で小児経験者か否かで小児訪問リハビリ介入初期時の気持ちが異なり,小児経験者はそれまでの病院・施設等での経験から「外来・施設でのリハビリの先」として児の生活に直結する関わりを意識して訪問リハビリに携わるが,小児未経験者は「小児未経験からの不安」な気持ちを持ちつつ訪問リハビリに携わる。しかし,在宅での生活を主体としたリハビリを展開するうちに,リハビリの中で獲得する機能が「家族にとって役立つこと」が重要で【訪問リハビリも生活の一部】と認識する。また学校を卒業した後の人生も視野に入れ「生活から将来像を想い」,他者とつながるためのコミュニケーションがちゃんととれるように意思・気持ちを伝える表出方法を確立することが必要であると強く感じる。そのためにまずは【つながる力を信じる】ことで,抱っこや姿勢の評価から児の「動ける身体部位に目星をつける」と同時に身近な話題をもとに「絶妙な間」と「問いかけを繰り返す」中から目星を付けた部位の反応が正確であるか,表出手段として的確かなどを見極める。この関わりを通し【つながる瞬間】を感じたら【つながる力を育む】ために「つながるチャンスの創設」として,生活の中で家族とテレビを見ながら,兄弟と一緒に遊びながら表出できる場面をリハビリの中で作り出す。また表出をより明確な反応として捉えるために道具やモノを利用して「つながる力を具現化」する。さらに「つながる方法を母になげかける」ことで児の一番身近な存在に表出方法やその特徴を伝え,効率的に他者へ伝達されるように仕向ける。この時に「母の体調やメンタル面を気にかける」ことで,母親から伝わる児への影響に配慮する。しかし,療法士を中心とした関わりでは訪問頻度や時間的制約により【訪問リハビリでできることの限界】を感じ,「誰でもできるやり方」を確立し,社会の一歩である「学校の先生との関わり」を通し【関わりの輪を広げる】。これにより,児自身が自発的に動く機会が増え【身体レベル,自己表現力アップ】が達成されていく。つまり,小児訪問リハビリで療法士が患児の表出を意味づけるプロセスとは,療法士が患児とその家族に寄り添いながら,社会とのつながりを紡ぎだすことであった。【考察】小児経験の有無により療法士の訪問リハビリ介入初期時に気持ちの差異があるも,訪問リハビリそのものが生活の一部であると認識すると同じプロセスを辿ることが分かった。また児の表出能力を療法士の経験や感覚だけではなく,身体機能から評価し,機能として獲得・向上させていくことが示された。小児訪問リハビリでは,生活はもとより将来像を見据えながら児の人生や社会とのつながりを意識しながら関わることが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今後の在宅小児分野の発展と啓蒙,新人教育に役立て,生活支援系理学療法学の一助になる。
著者
堤 偉史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3133, 2009

【目的】バスケットボールは、激しいコンタクトスポーツであるがゆえ、レクレーションレベルの活動であっても長く競技生活を続けることは容易ではない.故障の為にその余暇活動を制限されるプレイヤーも少なくない.今回は、レクレーションレベルの社会人プレイヤーの障害発生の予防を目的としてスポーツ障害調査を実施したので報告する.<BR>【対象と方法】社会人バスケットボール4チームのプレイヤー88名(18歳~61歳の平均年齢28.6歳、男性62名、女性26名)を対象にアンケート調査(有効回答率95.5%)を行った.内容は、1)ポジション2)練習頻度3)練習時間4)競技開始時の年齢と競技年数5)現病歴・既往歴・再発の有無6)競技復帰までのリハビリテーションの有無7)完治後に復帰したか8)コンディショニングについて9)故障が競技パフォーマンスに影響しているか10)ICE処置の知識とした.また、「足首を捻挫した際の応急手当」を自由記述にて質問した.なお、障害は競技時の受傷に限局した.統計学的処理には素集計及びクロス集計を行い,検定はカイ二乗検定を用い有意水準は5%とした.<BR>【結果】競技開始年齢は平均13.7歳、競技年数は平均10.25年であった.ポジション別故障発生率に有意差は認められなかった.練習頻度週2回以下と週3回以上、練習時間2時間以下と3時間以上のプレイヤーにおいて故障発生率に有意差は認められなかった.55%のプレイヤーが現在何らかの故障をかかえていた.既往歴のある者は89%、現病歴、既往歴ともにない者は6%のみであった.また、故障が競技に影響していると考えている者は49%であった.リハビリテーション実施の有無と再発率には有意差は認められなかったが、完治せずに競技に復帰した場合、完治後に復帰した場合に比べ、優位に故障を再発するとの結果が得られた.コンディショニングの有無と現病歴に有意差は認められなかった.ICE処置という言葉を知っている者は17%であった.また、言葉は知らなくても足首捻挫時の適切な応急手当の知識を持っている者は35%であり、応急処置の知識がない者に比べ故障再発率が低かった.<BR>【考察】社会人プレイヤーの多くが、何らかの故障を経験し、約半数が受傷により競技パフォーマンスが低下していることがわかった.多くのプレイヤーが小・中学校を主とした部活動により競技を始め、競技歴が10年を超えているにも関わらず、受傷時に適切な応急処置を行えず、十分回復しないまま競技に復帰し、再発を繰り返している状況があった.再発を未然に防ぎ、競技生活を長く続けるためには受傷時の応急処置の知識や障害が十分に回復していない状態での競技復帰はしないという初期からの指導が必要と考える.理学療法士の職域が拡大している現在スポーツプレイヤーに対する障害発生予防指導も今後益々重要な役割となると考える.
著者
手島 喜也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P3216, 2009

【目的】平成16年4月「健康寿命」の延伸を目標に、特に「一次予防(健康づくり)」と「介護予防」を大きな柱として、利用者が生涯にわたって自分らしく自立した暮らしができるよう、また健康や体力維持への意欲を高め、仲間づくり、生きがいづくりを目指す目的で「いきいきセンター」(以下当センター)がオープンした.健康づくり、ダイエット、退院後のリハビリ継続、介護予防など利用目的は様々である.平成20年9月末までの4年半の延べ利用者は47000人余りに達し、特に50代以上の利用者が約8割を占め、うち70代以上の利用者が2割を占めている.そこで今回、当センターでの利用継続し、直接調査した結果、若干の知見が得られたので報告する.<BR>【対象と方法】平成20年9月現在の時点で、介護予防目的の利用者は43名で、週2回以上の利用でかつ1年以上継続されている11名のうち定期的に評価でき、同意が得られた3名(70歳・71歳・89歳女性)を対象とした.方法は理学療法士の指導の下、当センターの運動機器にて運動を実施し、3ヶ月ごとにTimed Up&Go Test(以下TUG)を測定し、同時に生活状況を聞き取り調査した.<BR>【結果】1TUGに関しては3名とも開始から1年までは時間が短縮したが、その後はあまり変化がみられなかった.2生活状況は3名とも半年あたりから徐々に変化し始めた.(70歳女性 変形性股関節症)痛みが強く家での農作業までが精一杯だったが少しずつ外出への自信が高まり、今では地区の行事の参加はもちろん、1泊の旅行から、ウォーキング大会にも参加できるようになった.農作業、山仕事も積極的に行っている.(71歳女性 パーキンソン病 YahrのstageII)家での動きが少しずつ難しくなってきて、人前に出るのもおっくうになっていた.現在は周囲の協力もあり、友達との食事やカラオケに出かけたり、積極的に買い物、日帰り旅行にも行くようになった.(89歳女性 右大腿骨骨折 一人暮らし)当初からバスに乗っての来所は可能だったが、範囲は限定されていた.現在は1時間以上かかる娘宅まで一人でバスに乗って行ったり、演歌歌手のコンサートも行くようになった.<BR>【考察】今回の対象者が継続し、成果をあげることができた要因にある程度の能力は存在していたことに加え、正しい姿勢・リズム・低負荷での運動を継続することでの動作性の向上が図られ、それを日常生活に反映できたこと.それにより生活における体力の向上ができたことが推測される.しかしそれだけではなく他の利用者の存在が非常に大きかったと思われる.介助すべき場面とそうでない場面を私達の行動をみて自然と習得し、それにより特別な存在と見ることもなく自分たちと同じ利用者・住民という意識が浸透したように思われた.知り合いとなり楽しくお互いが運動、交流ができ、行動変化への自信がうまれた結果介護予防が図られたものと考える.
著者
佐藤 努 佐藤 絢 紺野 聖 木幡 修 江井 邦夫 佐藤 幸一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100342, 2013

【はじめに、目的】障害者の自動車運転は,生活関連動作や職業関連動作として位置づけらており,多様化するニーズに即した社会参加を念頭とした支援を進めていく必要がある.障害者の自動車運転再開には,自動車への乗降動作や運転操作などの基本的動作に加えて,事故回避能力や状況判断能力の観点から理学療法士の役割は重要である.しかし,機器操作などの運転技術における専門的な実車検査等を医療サイドのみで実施することは不可能に近く,他職種が関与することが重要であり自動車学校との連携は必須となる.今回,スムーズな運転再開へ向けたシステムの構築および支援体制の確立の一環として福島県内の自動車教習所における障害者の受け入れ状況やその対応等をアンケートにて調査した.【方法】福島県内の指定自動車学校41箇所に対し,アンケート調査を実施した.アンケートは障害者の受け入れの状況および障害者用車両の有無,運転補助装置の詳細など26項目について質問を実施した.回収期間は,平成22年10月から11月末までの2ヶ月間で回収した.【倫理的配慮、説明と同意】自動車学校側に対し調査目的,調査対象などを書面により十分に説明し,同意が得られた場合に限り返送してもらうこととした.【結果】回答数は全41箇所中21箇所で,回答率51.21%であった.障害者の受け入れが可能は9箇所であり,条件付きであれば可能が12箇所であった.可能な障害分類においては右上肢障害,左上肢障害が12箇所,両上肢はわずか3箇所であった.また,右下肢障害は7箇所,左下肢障害11箇所,両下肢障害6箇所であった.障害者用車両の保有は4箇所であり,手動運転補助装置は6箇所であった.手動運転補助装置の具体的詳細に関しては,ハンドル回旋装置6箇所,パワステ付きハンドル5箇所,手動アクセル,ブレーキ4箇所,左ウィンカー4箇所であった.足動運転補助装置は4箇所であった.足動運転補助装置の具体的詳細に関しては,足踏みウィンカー1箇所,シフトチェンジ1箇所,サイドブレーキ2箇所,ホーン,ライトスイッチ1箇所,左足用アクセルペダル4箇所,ドアの開閉装置0箇所,パワステ3箇所であった.障害者に対する対応においては,施設内の段差等のバリアの解消されている教習所は5箇所,車椅子対応のトイレ設置は2箇所,トイレ介助が可能である自動車学校は5箇所であった.通常型送迎車における送迎が可能である自動車学校は11箇所,車椅子対応型送迎車は0箇所であった.また,施設内の移動介助が可能である教習所は7箇所,階段昇降介助が可能である自動車学校は6箇所という回答であった.【考察】障害者の運転再開では,道路交通法において身体的特性や障害の程度により安全に自動車運転が行える範囲での運転免許種別(臨時適性検査)が整備されている.また,管轄の警察署における適性検査も実施される.これらは,運転再開における設定条件の変更が主な目的となっている.運転技術の習得は,実車講習による運転操作判断能力などの運転適正を,より身近な環境で,より多くの障害者が習得できるシステムの構築が必要となる.そのため,各地域における自動車学校の協力が不可欠であり,協力体制を把握することが必要である.今回の結果より,福島県内自動車学校の多くは,条件付きであれば障害者への教習が可能であり,福島県各地域(県北地域,県中地域,県南地域,会津地域,いわき地域,相双地域)に存在していることが分かった.しかし,障害者への移動介助支援や車椅子対応のトイレの設置,段差のバリア解消など障害者への対応が未整備の自動車学校が多いことや障害者用車両,運転補助装置(手動運転補助装置,足動運転補助装置)を保有している自動車学校が少ないことから,個々の障害やニーズに即した自動車教習が困難な状況であると思われる.今後は,各医療機関に対し現段階における情報開示を進めていくことにより,スムーズな運転再開を図ることができると思われる.また、その地域に沿った整備や情報交換の方法などを含め地域支援体制(ネットワークづくり)を確立していく必要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】障害者の積極的な社会参加(自動車運転など)を念頭とした支援を進めていくにあたり,他職種(自動車学校など)が関与することが重要であり,各地域における状況把握が求められる.今回の自動車学校側へのアンケート調査は,その一端を担っていると言える.
著者
光村 実香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea0369, 2012

【はじめに、目的】 通所リハビリテーション(以下,デイケア)は,リハビリテーション(以下,リハビリ)を専門とする理学療法士ら(以下,療法士)が多職種協働で利用者の日常生活の自立や介護度の重度化を予防する目的の施設である。リハビリで獲得した動作を生活に密着させるには,介護職と利用者の援助場面でもその動作を実践することが重要である。そこで本研究は,デイケアで働く療法士が介護職と連携しながら自立支援を行うプロセスを明らかにすることを目的に行った。【方法】 対象者はデイケアで勤務するPT 2名,OT 4名,ST 1名の療法士7名(女性1名,男性6名),デイケアでの経験年数は1.5~9年であった。期間2008年5月22日~8月7日である。まず施設で利用者,介護職,療法士の関わりに注目しながら参加観察を行った。その後,参加観察で得た自立支援の関わりをもとにインタビューガイドを作成し,療法士に半構造化面接を行った。面接時間は45~60分で,対象者に許可を得てインタビュー内容を録音し,逐語録におこし修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析,結果図を作成した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は金沢大学医学倫理委員会の承認を受け実施した(受付番号183)。研究説明書を用いて研究手順や個人情報の保護等について説明を行い,同意書の署名をもって研究参加の承諾とした。【結果】 【カテゴリー】4個,<サブカテゴリー>6個,[概念] 20個が抽出され,コアカテゴリーは【している動作の状況化】で,療法士がリハ室だけの関わりではなくできる動作をしている動作としてデイケア内の場面に定着させることであった。ストーリーラインを示す。デイケアで療法士がリハビリをプロデュースするプロセスは療法士が利用者の【できる動作の明確化】から始まる。療法士の視点で利用者が持つ[潜在ニーズ・能力の掘り起こし]を行い,予後を見据えた[その先の目標設定]をし,動作獲得に必要なアプローチを考える。これらを<リハビリ構想>として〔できる動作能力アップ〕を図り,動作改善を行う。また練習の中で成功体験を積み重ね精神面からも〔動作遂行への自信作り〕へ働きかけ<できる動作獲得への実践>を行う。この関わりは,在宅生活を視野に入れた【更なる能力アップの可能性】へつながる。ある程度の動作能力向上が図れると,その動作をデイケア内に同化させる為【している動作の状況化】を行なう。方法は介護職や家族の前で療法士が介助し,その方法を[やってみせる]ことで利用者の能力を知ってもらう,[専門性を活かした助言・指導]を行い利用者の状態を理論的に説明する等である。これらの働きかけにより介護職に利用者の<できる動作の顕在化>を示す。さらにできる動作を発展させる為に<している動作の環境作り>を行なう。これは実際の援助場面に合わせた[そのタイミング,その場面]での動作練習や,介護職個々と利用者の援助方法を話すことで[ケアの意識の並列化]を試みる。またできる動作に基づく援助に不安を抱く介護職には[リハビリ的関わりの後押し]をし,できる動作を介護場面に活かすよう促す。<できる動作の顕在化>と<している動作の環境作り>は様々な場面と状況で繰り返し行われる。しかし【している動作の状況化】を図る上で介護職との間に〔利用者ニーズ優先〕と〔タイムスケジュール優先〕,〔愛護的援助〕と〔手助け的援助〕等<価値観のズレ>が生じることがある。療法士は〔リハビリのプライド〕としてデイケアにリハビリがある意義や,〔デイサービスとの差別化〕等<療法士の信念>の強い気持ちから,このズレを修正しようとする。そこで【している動作実現への足場作り】として介護職の責任者を説得し〔協力者を増やす〕,〔カンファレンスの活用〕で話し合いを通じ意見を統一する,家族と介護職の問題に共に取り組み〔利用者問題の共有化〕等を行う。これらの取り組みが介護職との連携の足場となり【している動作の状況化】がより円滑に進むようにする。【している動作の状況化】が進むと〔新たな能力獲得を見込んだ関わり〕や〔在宅生活を吟味した援助〕等【更なる能力アップの可能性】を見出し,在宅生活を見据えた関わりに発展していく。【考察】 療法士はデイケア内の動作だけではなく,それらを在宅生活につなげていくことまでを想定し,利用者や介護職と関わりを持っていると考えられる。援助場面にリハビリ的関わりを導入するには,介護職との価値観のズレや時間的制約を改善する工夫が必要である。【理学療法学研究としての意義】 デイケアでの理学療法士の役割を明確化する一助となる。それにより多職種との連携が図りやすくなり,利用者に質の高い理学療法を提供することができる。
著者
田中 正則 竹下 明伸 清水 和彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1564, 2009

【目的】カリキュラムの大綱化に伴い最終学年で実施される長期臨床実習の到達目標は、臨床家としての即戦力養成から基本的な理学療法が行える能力を備えていることに変化した.一方、一部養成校・教員は国家試験を現実的到達目標と認識しているのか、臨床実習を軽視して養成校の合格率を高めるための国家試験対策が、養成校の行事として最終学年の重要な時期で展開されている.我々は、臨床実習とその後の学内教育ではリテラシー教育を重視することが卒業後の臨床には必要と考え、国家試験対策は副次的問題と考える立場にいる.そこで、臨床実習で経験した知識や学習方略が国家試験の得点にどのような影響を及ぼしているかの検討を始めるにあたり、臨床実習成績と国家試験成績との関係とを調査し、検討した.<BR>【方法】対象学生は旧国立病院機構立の3年制専門学校に在籍し、3年次10週間2施設における長期臨床実習の単位取得後に国家試験を受験した39名(第42回国家試験19名、第43回国家試験20名).長期臨床実習の評定は100点満点で、実習指導者が優・良・可・不可と判定した結果をそれぞれ80点・70点・60点・50点と点数化したものを8割とし、残りの2割を実習後に学内で行われる2週間のセミナーの参加態度や症例報告会での発表内容を6名の教員が採点した平均を加えて算出した.臨床実習終了後にカリキュラム上の卒業論文作成や卒業試験等はなく、5名ずつの小グループに分けた自己学習により国家試験受験対策を行った.また学生全員参加の業者模試を1回実施した.国家試験の自己採点は試験終了翌日に模擬試験実施業者の解答速報を参考とし、学生が自己採点を実施した.その際、結果をいずれ公表することを説明し、同意を求めた.臨床実習各期の評点と国家試験自己採点との関係をスピアマンの順位相関係数で求めた.<BR>【結果】国家試験合格率は2年間100%であった.また臨床実習成績と国家試験自己採点の間には相関係数0.4以上の有意な正の相関関係が認められた.<BR>【考察】永尾らによれば臨床実習指導者は、学生の合否基準を判定する際に認知領域よりは、問題意識を持って実習課題を解決しようとする学習態度などの情意領域を重要視していることを挙げている.このため実習成績との相関は思ったほど高くない.国家試験の出題傾向は断片的な知識の確認問題から次第に文章問題、画像やイラストを用いて豊富な医学的情報を提示してそれを使いこなせるリテラシー能力を求める問題へとシフトしてきていると思われる.そのため、学生が多くの医学的情報をどのように処理して治療プログラムを実践したのか、臨床実習でのリテラシー能力に関する合否判定基準を明確にして行動目標と到達レベルを明らかにすることが必要であろう.また、臨床実習での経験を軽視した国家試験対策は、大きな問題があると考えた.
著者
齋藤 涼平 廣江 圭史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】日常生活の中で脊柱回旋動作は多く,課題によって全脊柱が同方向へ回旋する必要もあれば,頸椎,胸椎,腰椎で,他方向の逆回旋が必要な時もある。座位での片手で対側側方へのリーチでは同方向への回旋となるが,片手の前方へのリーチでは脊柱の中で逆回旋を行うことで頭部を前方へ保持することができると考えられる。脊柱の回旋がどこの部位で逆回旋を起こしているかなど報告は見当たらない。本研究の目的は,座位での脊柱回旋動作の際に頭部固定位と非固定が脊柱回旋角度に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は整形外科的,神経学的問題を有さない健常成人男性8名(年齢25.7±4.3歳,身長172.6±3.5cm,体重64.5±3.3kg)とした。測定課題は座位での脊柱回旋動作とした。開始肢位の姿勢は骨盤前後傾中間位での座位とし課題動作中も保持するように実施した。頭部を同側へ回旋する動作(以下Open)と,正面の目印を注視して頭部を可能な限り固定した状態での脊柱回旋動作(以下Close)とした。数回の練習後,それぞれ5回ずつ実施し,非利き手側への回旋動作を解析に用いた。回旋角度の測定には,三次元動作解析装置VICON370(OXFORD METRICS社製)を使用し赤外線反射マーカーをDIFF15マーカーセットに加え,第1,7,12胸椎,第4腰椎のそれぞれ棘突起から左右3cm,頭部に着用したヘッドキャップの計26箇所に貼付した。解析区間は脊柱回旋開始から終了までとして脊柱マーカーから規定した。脊柱の区間別の回旋角度として第1胸椎と第4腰椎との回旋角度差から胸腰椎部,第1胸椎と第12胸椎との回旋角度差を胸椎部,第1胸椎と第7胸椎との回旋角度差を上位胸椎部,第7胸椎から第12胸椎との回旋角度差を下位胸椎部,第12胸椎から第4腰椎との回旋角度差を腰椎部とした。OpenとCloseの2条件について各区間の回旋角度を比較検討した。統計手法には対応のあるT検定を用い,有意水準は危険率5%未満として解析を行った。【結果】最大回旋時の区間別での回旋角度は上位胸椎部でのOpenで有意に増加した(p<0.05)。下位胸椎部でのCloseで有意に増加した(p<0.05)。胸腰椎部,胸椎部,腰椎部では有意差を認めなかった。【考察】Openでは腰椎,胸椎,頸椎と同方向への回旋が上位性に積み重なっていくが,Closeでは脊柱内での回旋を腰椎からの上行性への回旋と,頸椎からの下行性への回旋が相殺することが考えられた。今回の結果からはOpenとCloseでの胸腰椎部,胸椎部,腰椎部での回旋角度は有意差が見られなかった為,頸椎部での逆回旋で相殺していることが示唆された。また上位胸椎部ではOpenに比較してCloseでは減少しており,逆に下位胸椎部ではOpenに比較してCloseでは増加している。今回は自動運動での脊柱回旋動作を行っており,Openに比較してCloseでは脊柱内での回旋に対するStabilityの要素がより必要になり,そのStabilityが確保されることで逆回旋のMobilityが獲得される(Mobility on Stability)。Closeでは頸椎部で逆回旋に対して,胸腰椎でのStabilityが必要になり,下位胸椎部の肋骨に付着している同側内腹斜筋や逆側外腹斜筋や腹横筋などの収縮がより必要であり,結果として下位胸椎部での回旋量が増加したと考えられる。胸椎は肋骨と共に胸郭を形成している。上位胸椎の肋骨に付着している筋肉は頸椎と連結し,下位胸椎の肋骨に付着している筋肉は腰椎や骨盤と連結している。これらの筋が求心性・遠心性・等尺性とコントロールされることで安定した脊柱回旋動作が行わられていると考えられる。脊柱回旋動作の分析において胸椎または胸郭を一方向の動きでは捉えず,逆回旋などねじれの力を発生することでStability高め,他の部位にMobilityを出していることなどにも着目することが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果より頭部固定位と非固定での脊柱回旋動作時に,胸椎での上位と下位の動きに変化があることが示唆された。臨床場面における評価・治療の一助となると思われる。
著者
堀内 秀人 小林 巧 神成 透 松井 直人 角瀬 邦晃 伊藤 崇倫 野陳 佳織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)は,重度の変形性膝関節症(膝OA)患者に対し疼痛除去と機能改善を目的として施行される。Josephらは,内側膝OA患者が健常者に比べ歩行中における外側広筋(VL)と大腿二頭筋(BF)の高い同時収縮を報告している。また,Thomasらは,TKA後1ヶ月の患者の歩行において,健常者と比較し膝関節周囲筋の高い同時収縮を報告している。昇段動作は歩行よりも膝関節に大きなストレスのかかる動作であり,昇段動作の筋活動動態の知見を得ることは重要と考えられるが,TKA患者における昇段動作の同時収縮については不明である。本研究の目的は,昇段動作時におけるTKA後患者の膝関節周囲筋の同時収縮について検討することである。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は全例女性で,TKA後4週が経過した8名(TKA群:年齢69.5±6.7歳)と健常高齢者8名(高齢群:年齢66.5±4.7歳),健常若年者10名(若年群:22.9±1.6歳)とし,上肢の支持なしで一足一段での階段昇降が可能な者とした。試行動作は,開始肢位を段差20cmの階段の一段目にTKA群は術側,高齢群および若年群は非利き足を上げた肢位とし,音刺激開始後,手すりを使わず出来るだけ早く一段目に両足を揃える動作とした。音刺激は筋電計と同期されているメトロノーム機能を利用した。筋活動の測定には筋電計(Noraxon社製)を使用し,導出筋は,支持側のVL,BFとした。筋活動量の測定は,生波形を全波整流後,50msでスムージング処理を行い,移動平均幅100msでのVLおよびBFの平均筋活動量を測定し,各筋の最大随意収縮(MVC)で除し,%MVCを算出した。同時収縮は,Kellisらの方法に準じ,co-contraction index[CI:CI=VL peak時におけるBFの筋活動量/(VLの筋活動量+BFの筋活動量)]にて算出した。統計学的分析は,TKA群,高齢群,若年群の%MVCおよびCIの比較に一元配置分散分析および多重比較としてBonferroni法を用いた。有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】TKA群,高齢群,若年群の%MVCの比較について,VL,BFともに3群間に有意差は認められなかった。CIの比較について,TKA群(0.31±0.15)は,高齢群(0.18±0.04)および若年群(0.18±0.07)と比較し,有意に高値を示した(p<0.05)。高齢群と若年群には有意差は認められなかった。</p><p></p><p></p><p>【結論】本研究結果から,昇段動作において,TKA患者の術側は健常高齢者および健常若年者と比較しCIが有意に高値を示した。Hallらは,昇段動作においてACL再建患者が健常者に比べVLとBFの同時収縮が高く膝関節の安定性を高めていることを示唆した。TKA患者においても,昇段動作における膝関節の不安定性の代償として,膝周囲筋の同時収縮を高めることで関節の安定性を図っている可能性が示唆された。今後は,昇段動作の動作解析と合わせた筋活動の検討が必要と考える。</p>