著者
武田 浩
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-8, 1992-01-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
20

糖尿病患者では, 血管内皮細胞 (以下EC) が高血糖により直接影響を受けるばかりでなく, 細胞外マトリックス (以下ECM) の糖化により生育環境が損なわれ, 血管障害発症に関与することも考えられる. 本研究ではin vitroにおけるECの生育環境を, 短期間に高濃度D-グルコース (以下HG) との接触と長期間におけるType IVコラーゲン (以下C) の糖化による影響とに分け, それぞれの機能変化の面から検討した. その結果HG培養のECにおいて有意に細胞増殖障害とPGI2産生の抑制を認め, 糖化Cの添加によりさらに強い抑制を認めた. アミノグアニジン (以下AG) 添加による架橋C抑制に伴い, ECの細胞増殖障害抑制を認めた. 以上の成績から長期間持続するHG環境により, ECMのCに架橋がおこりEC形質変化をもたらすことが示唆された。長期間持続するHG環境によりECM, 特にCの糖化に伴いECの抗血栓性が失われ, 糖尿病特有の細小血管障害をもたらす引き金になると考えられ, 糖尿病合併症の発症, 治療を考える上で興味深い知見を得た.
著者
山口 日吉 清野 弘明 三崎 麻子 坂田 芳之 北川 昌之 山崎 俊朗 菊池 宏明 阿部 隆三
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.211-215, 2003

Imagawaらは, ケトアシドーシスにて発症し, 発症時のHbA1cが正常かもしくは軽度の上昇にとどまり, 膵β細胞の自己抗体が陰性で発症時にインスリン分泌能の著しく低下している例を非自己免疫性劇症1型糖尿病として疾患概念を提唱した. 当院において, この劇症1型糖尿病のスクリーニング基準を満たす7例の臨床像と6例のインスリン分泌能を経年的にグルカゴン負荷試験にて検討してきた. 発症時にグルカゴン負荷試験を検査しえた6例中5例で, グルカゴン負荷6分後の血清CPRは0.1ng/m<I>l</I>以下であり, 発症時に膵臓β細胞の完全破壊が示唆された. さらに, 発症後約6ヵ月ことにグルカゴン負荷試験を施行し, インスリン分泌能を経年的に最長7年間検討してきたが, 6例全例でグルカゴン負荷6分後の血清CPRは0.1ng/m<I>l</I>以下でありインスリン分泌能の回復を認めた例はいなかった.
著者
清野 弘明 大久保 健太郎 山口 日吉 木村 美奈子 宮口 修一 山崎 俊朗 三崎 麻子 菊池 宏明 阿部 隆三
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.333-335, 2003-04-30
参考文献数
8
被引用文献数
3

症例は31歳の男性, 2002年5月12日より口渇感, 全身倦怠感が出現し5月15日に初診した. 初診時血糖値778mgd<SUB>l</SUB>, 尿ケトン体強陽性, 動脈血分析ではpH7.249, HCO<SUB>3</SUB>13.6mmo<I>l</I>, 血中総ケトン体9800μmol<I>l</I>で糖尿病性ケトアシドーシスと診断した. 入院時のHbA<SUB>1c</SUB>は6.1%であった.入院中3回測定した尿中CPRは (3.4, <1.0, <1.0μg/day) でグルカゴン負荷試験でも負荷前・負荷6分後の血清CPRは検出限界の0.2ng/m<I>l</I>以下でβ 細胞の完全破壊が示唆された. 以上より本例は劇症1型糖尿病のスクリーニング基準を満たしたが, 2回測定した抗GAD抗体は, 11.6Um<I>l</I>, 10.2Um<I>l</I>と陽性であった. 本例は劇症1型糖尿病と考えられるが, 抗GAD抗体が陽性であったことより自己免疫の関与が示唆される劇症1型糖尿病であり, 興味ある症例である.
著者
脇 昌子 洪 秀樹 南部 征喜
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.91-96, 1989-02-28 (Released:2011-08-10)
参考文献数
11

インスリン非依存性糖尿病 (NIDDM) 79例の早朝空腹時血清3, 5, 3'-triiodothyronine値 (T3) を, 糖質200~300g/日の入院食摂取下に測定, 諸因子との関係を検討した. さらに65例では, T3と食事療法の効果との関係をretrospectiveに検討した. その結果T3は, 罹病歴 (年), 空腹時血糖, HbA1cとは有意な負の相関を, 肥満度 (BMI), NEFA, T4, 1日尿Cペプチド量とは有意な正の相関を認めた. 一方, 食事療法のみで良好な血糖コントロールを得た29例 (D群) のうち26例 (90%) にT3 110ng/dl以上であり, またコントロールに薬物の併用を要した36例 (D+M群) の内23例 (64%) はT3 110ng/dl未満で, 両群の食事療法開始前のT3分布に有意な差を認めた (χ2=17.0, p<0.001).すなわち, T3はNIDDMの病態を包括的に反映しており, その測定により食事療法の有効性と限界の予測が可能と考えられた.
著者
亀谷 富夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.683-686, 2001-08-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

耐糖能異常, 肥満, 高トリグリセリド血症は独立した高血圧の危険因子かどうかを検討した. 1990年より1999年まで当院検診センターを受診し初診時に高血圧を認めず経過観察できた6305名を対象とし高血圧発症頻度を検討した. 肥満, 耐糖能異常, 高TG血症の高血圧発症ハザード比はそれぞれ1.414 (9596信頼区間1. 248-1.600), 1.570 (1.131-2.179), 1.245 (1.085-1.430) であった. 年齢空腹時血糖値BMI値はそれぞれ補正を行っても高血圧発症ハザード比はそれぞれ1.044 (1.038-1.050), 1.005 (1.001-1.008), 1.059 (1.038-1.080) と有意であった. しかし血清TG値は有意ではなかった. 年齢, 耐糖能異常, 肥満は独立した高血圧の危険因子と考えられたが, 高トリグリセリド血症は独立した高血圧の危険因子ではなく肥満による二次的な因子と考えられた.
著者
神田 勤 岩崎 誠 和田 正彦 黒飛 万里子 志水 洋二 上松 一郎
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.429-435, 1992

Hypotonia, hypomentia, hypogonadism, obesityを主徴とするPrader-Willi症候群において, 高浸透圧非ケトン性糖尿病性昏睡 (HNKC) およびrhabdomyolysisを合併した本邦第1例を経験した.<BR>症例は21歳, 女性. 1986年5月II型糖尿病と診断され, 食事療法にて治療されていた. 1989年11月頃より鶴歯のためジュースを多飲.同12月6日糖尿病性昏睡を発症し, 某院入院. 治療を受けるも改善せず, 翌日当院へ転院となった. 転院時に筋脱力, 尿路感染症を認め, 血糖値736mg/d<I>l</I>, 血漿pH7.449, 血漿浸透圧485mOsm/<I>l</I>, LDH1682IU/<I>l</I>, CPK981IU/<I>l</I> (MM型98%), 血清ミオグロビン (MG) 1370ng/m<I>l</I>, 血清Na188mEq/<I>l</I>を示しHNKCと診断した. 治療開始半日後に意識清明となり, 4日後に筋脱力回復し, 10日後にはLDH, CPK, MGは正常値に復した. 以上より本症例ではII型糖尿病に過食と感染症を契機としてHNKCが発症し, 高Na血症, 脱水, インスリン不足が持続・進行したため, rhadbomyolysisが併発したものと思われる.
著者
神内 謙至 橋本 善隆 新美 美貴子 山下 亜希 山内 光子 四井 真由美 西田 なほみ 山崎 徹 早川 太朗 中山 英夫 槻本 康人 並河 孝 笹田 侑子 前林 佳朗 高橋 正洋 磯野 元秀
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.256-263, 2014

50歳女性.平成4年に糖尿病を指摘され平成16年より当院にて加療中.低血糖で救急搬送された既往あり.インスリン治療で血糖コントロール不良,また低血糖も起こすため,平成23年2月教育入院となった.入院中,血糖正常であるものの低血糖症状のためパニックになることがあった.翌日のスケジュールを説明しても当日になると忘れる,糖尿病教室でテキストを忘れる,と言う出来事があった.そのため,注意欠如/多動性障害(ADHD)を疑い本人の同意の上で滋賀医科大学精神神経科に紹介しADHDの診断となった.抽象的な情報を処理する能力は低く,簡潔で具体的な手本を示し,時間的余裕が必要な症例であると判断された.全成人の4.7 %の有病率とされるADHDであるが,今のところADHDと糖尿病の合併にかかわる報告は極めて少ない.血糖コントロールが極めて悪化することが考えられ,適切な治療方法が必要である.
著者
奥平 真紀 内潟 安子 岡田 泰助 岩本 安彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.781-785, 2003-10-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
9
被引用文献数
6

2型糖尿病患者の合併症予後に検診と治療中断が及ぼす影響を検討した.対象は1998年11月から1999年1月までに東京女子医科大学糖尿病センターを初診した2型糖尿病患者133名である.検診で糖尿病を発見された『検診発見群』76名は『検診以外発見群』57名と比べ, 治療中断の頻度及び合併症重症度に差異はみられなかった.1年以上の治療中断歴をもつ『中断あり群』48名は『中断なし群』85名と比べ, 有意に合併症は重症化しており (p<0.0005), 更に中断年数が長くなるほど合併症は重症化していた (p<0.0001).一方, 検診を受けていても治療中断をすると, 合併症は重症化していた (p<0.01).糖尿病合併症の発症には検診で発見されたかどうかは関係がなく, 治療中断が大きな影響を与えていることが明らかになった
著者
岡田 由紀子 押谷 創 杉山 豊 三村 哲史 浅野 靖之 辻田 誠 渡部 啓子 成瀬 友彦 佐々木 洋光 渡邊 有三
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.249-253, 2009-03-30 (Released:2010-03-01)
参考文献数
12
被引用文献数
4

症例は58歳,女性.47歳より糖尿病を指摘され,52歳からインスリン(ペンフィル30R®)を使用していた.53歳で血液透析を導入し,57歳で右下肢切断術を行った際,血糖コントロール不良でインスリン抗体68.8%, HbA1c 13.3%であった.インスリンリスプロに変更し,血糖コントロールは改善した.今回,急性腹症で来院し穿孔性腹膜炎の診断で緊急入院手術となったが,術後遷延性低血糖と高血糖を呈した.インスリン製剤の変更,ステロイドの併用,二重膜濾過(DFPP), pioglitazoneの併用などを試みたが血糖コントロールは改善せず.インスリンとは異なる機序の血糖降下作用をもつIGF-1製剤メカセルミン(ソマゾン®)を使用し,コントロールを得た症例を経験したので報告する.
著者
金本 郁男 井上 裕 守内 匡 山田 佳枝 居村 久子 佐藤 眞治
出版者
日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.96-101, 2010-02-28
被引用文献数
3

野菜サラダ(キャベツ,オリーブ油,酢)と米飯の摂取順序を変えた時に食後の血糖値とインスリン値のプロファイルがどのように変化するのかを確認するため,10名の健常成人において試験を行った.その結果,米飯摂取後に野菜サラダを摂取した場合と比較して,米飯摂取前に野菜サラダを摂取した場合には,食後20, 30, 45分での血糖上昇値(ΔC)は有意に低下し(<i>p</i><0.01),最高血糖値(ΔC<sub>max</sub>)に到達する時間は約40分遅延した(<i>p</i><0.01).ΔC<sub>max</sub>は平均21%低下し,食後0∼120分までの血糖値上昇曲線下面積は,平均39%低下した.血清インスリン値は血糖値とパラレルに推移し,食後のインスリン分泌が節約できる可能性が示唆された.以上より,野菜サラダは米飯よりも先に摂取するほうが食後の血糖上昇を抑制するために有効であることが示された.<br>
著者
植田 由香 若林 茂 松岡 瑛
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.9, pp.715-723, 1993-09-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
14
被引用文献数
2

難消化性デキストリン (PF-C) の耐糖能改善効果を健常人において評価した.(1) PF-C (3, 6, 30g) 添加・非添加条件下, ショ糖30gを含む炭酸水100mlを成人男性6名に投与し, 耐糖能および負荷後2時間尿のC-ペプチド (U-CPR) 値を測定した. 負荷後30分の血糖値の平均変化率は前値を100%とすると, ショ糖単独154%に対してPF-C3および6g摂取時はいずれも141%と有意に低値であった (30g摂取時146%). U-CPR値はPF-C 6g摂取時に最も低下し, ショ糖単独 (4.62±0.72μg/2hr) の86%であった. 以上から, PF-Cの最有効添加量はショ糖30gに対し6gと推定した (2) ショ糖30gを含む水羊羮 (100g) を成人35名に投与したところ, PF-C6g摂取時のU-CPR値は非摂取時 (5.71±0.78μg/2hr) の78%に低下した. さらに, 試験前臨床検査において上半身肥満男性6例のBG, T-Cho, TG, γ-GTPは正常体型男性 (25例) に比べ有意に高値であり, PF-C 6g摂取によるU-CPRの低下効果はより顕著に認められた (非摂取時の61%).
著者
若林 貞男 麻生 好正 中野 智紀 山本 留理子 竹林 晃三 犬飼 敏彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.19-26, 2006 (Released:2008-07-24)
参考文献数
26

【目的】起立性低血圧(orthostatic hypotension; OH)を有する2型糖尿病患者において,24時間心拍変動パワースペクトル解析(PSA)を施行し,心自律神経機能との関連について検討した.【対象と方法】対象は91名の2型糖尿病患者とし,起立性低血圧の診断基準は,起立時に収縮期血圧が30mmHg以上の低下,あるいは20mmHg以上の低下,かつふらつき・めまいなどを有した場合とした.24時間ホルター心電図より得られた連続したR-R間隔を対象にPSAが施行された.高速フーリエ変換法により,low frequency(LF: 交感・副交感神経両方の活性),high frequency(HF: 副交感神経活性)が算出され,さらにLF/HF比を交感神経・副交感神経バランスの指標とした.【結果】OH群が14名,正常群(No OH群)が77名であった.OH群では,No OH群に比し,クレアチニン・クリアランス,正中神経伝導速度が有意に低下していた.LF/HF比は,24時間のいずれの時間帯においても,OH群はNo OH群に比し,有意に低下していた.一方,HF値については,いずれの時間帯において,両群間に有意な差を認めなかった.起立時の収縮期血圧低下度を目的変数とした多変量解析により,24時間平均LF/HF比がその独立寄与因子として明らかとなった.【結論】起立性低血圧患者では,心自律神経機能の中でも特に交感神経機能の低下が示唆された.また,糖尿病性自律神経障害の評価法として,24時間にわたるLF/HFの解析が有用であると考えられた.
著者
岩倉 敏夫 佐々木 翔 藤原 雄太 松岡 直樹 石原 隆
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.857-865, 2012 (Released:2012-12-12)
参考文献数
14
被引用文献数
1

2008年から3年間に糖尿病治療薬による重症低血糖で当院に救急搬送された2型糖尿病患者135人の解析を行った.74.0±10.0歳と高齢者が多く,血糖値は33.7±10.3 mg/dlで来院時の意識障害の重症度に逆相関した.6人に意識障害の後遺症を認め,後遺症は昏睡時間が強く関与し約8~12時間が境界線であった.原因薬剤はスルホニル尿素薬(SU薬)89人・インスリン38人・SU薬とDPP4阻害薬併用4人・SU薬とインスリン併用3人・グリニド1人で,SU薬が低血糖の遷延する頻度が高かった.SU薬群の特徴は高齢で低血糖の知識がなくHbA1c 6.07±0.82 %と低値例が多く,SU薬の不適切な使用と教育指導に問題があることが示唆された.インクレチンとSU薬の適正使用の注意勧告後も依然多くの重症低血糖患者を認めており,高齢者に対する糖尿病治療薬の安全な使用法について明確にし,啓発する必要があると考える.
著者
池口 絵理 谷口 孝夫 荒牧 陽 荒木 美希 岡本 元純 濱崎 暁洋
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.235-241, 2014-04-30 (Released:2014-05-19)
参考文献数
12

平成20年1月から平成24年3月の4年3ヶ月間に,低血糖で緊急入院となった糖尿病薬物治療中の53名について検討した.SU薬群41名,インスリン群12名,それぞれ年齢は83.0±8.7歳,74.8±10.8歳(mean±SD),HbA1c(NGSP値)は6.56±1.19 %, 7.64±1.20 %,血糖回復までの時間は,17:[6, 27]時間,1.5:[1, 8.25]時間(中央値:[25 %値,75 %値])であった.高齢・腎機能低下症例にSU薬群が集中し,低血糖が遷延する傾向がみられた.高齢者のSU薬での厳格なコントロールには慎重を期し,薬剤変更,インスリンへの切り替えを考慮したい.SU薬・インスリン治療中には,年齢に応じて目標HbA1c値を見直すべきと思われ,シックデイの際の対応についても十分指導すべきである.
著者
阿部 麻記子 梅園 朋也 小林 貴子 大貫 恵子 加藤 麻祐子 宮内 雅晃 山本 直之 木村 守次 豊田 雅夫 鈴木 大輔
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.235-238, 2009-03-30 (Released:2010-03-01)
参考文献数
10

進行性筋強直性ジストロフィー(以下MyD)患者にはしばしば糖尿病を合併し,骨格筋におけるインスリン抵抗性の存在が想定されており,インスリン抵抗性改善薬の有用性が期待される.Pioglitazoneによりインスリン必要量を減少しえた糖尿病合併進行性筋強直性ジストロフィーの2症例を経験したので報告する.症例1: 63歳,女性.48歳時MyDと診断.62歳で血糖高値指摘,HbA1c 10.8%でインスリン導入,1日最大54単位必要であったインスリンがpioglitazoneを開始後14単位に減少した.症例2: 50歳,男性.30歳時MyDと診断.39歳で糖尿病指摘.42歳から強化インスリン療法導入.筋力低下により頻回注射困難となるが,pioglitazoneを開始したところ,1日あたりのインスリン量20単位が4単位まで減少した.糖尿病を合併したMyD患者へのpioglitazoneの投与は,インスリン抵抗性改善による血糖降下作用の可能性が示唆され,インスリン投与量の減少から患者の負担の軽減ができると考えられた.
著者
紅粉 睦男 工藤 ひとみ 豊島 哲子 松本 啓 関口 雅友 真尾 泰生
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.867-871, 2008

インスリン自己免疫症候群(IAS)は,インスリン自己抗体に関連した自発性低血糖を来す疾患である.今回,糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)にて発症した特異なIASの1例を経験した.症例は44歳,女性.減量目的でαリポ酸摂取を2006年6月より開始.同年7月下旬,感冒様症状に引き続きDKAを発症.入院時血糖431 mg/d<i>l</i>, 尿ケトン(4+)で膵酵素の上昇も認めた.インスリン治療開始前の血中IRI: 5,644 μU/m<i>l</i>, インスリン抗体結合率:99%と著明高値を示した.HLAはDRB 1*0406を有しており,αリポ酸が誘因のIASと診断した.DKA治癒後早期にインスリン注射は中止でき,αリポ酸中止によりインスリン抗体結合率も低下した.本例では抗体のインスリン結合能が高度で,血中遊離インスリンが枯渇した状態に,ウイルス感染・膵炎を併発したためにDKAを発症したと推察された.健康食品ブームの中,安易なサプリメント摂取への注意喚起が必要である.
著者
武田 則之 安田 圭吾 林 慎 後藤 忍 青山 かおり 伊藤 康文 堀谷 登美子 北田 雅久 野津 和巳 岡 暢之 加藤 譲 三浦 清
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.10, pp.767-771, 1989

症例は23歳女性.1983年9月一過性のthyrotoxicosisで受診.禰漫性の甲状腺腫を認め, 抗甲状腺マイクロゾーム抗体 (MCHA) 陽性.759経口糖負荷試験で血糖前値137mg/d<I>l</I>, 2時間値271mg/d<I>l</I>.1年後妊娠し, 1984年12月帝王切開で女児出産.妊娠中free thyroxine値は正常でMCHAの抗体価は低下した.妊娠中インスリンを使用したが, 産後にSU剤に変更出産3ヵ月後にpostpartum thyroiditisによると考えられるthyrotoxicosisと糖尿病性ケトアシドーシス (DKA) を同時に発症.DKA改善後も1日30単位以上のインスリンを必要とした.抗ラ氏島細胞抗体 (ICA) は妊娠中も出産後も持続性に陽性.血中C-peptide基礎値は妊娠18週0.4ng/m<I>l</I>, 26週0.7ng/m<I>l</I>であったが, DKA発症以後は測定感度以下で, グルカゴン試験時のC-peptide反応頂値も0.7ng/m<I>l</I>と低値HLADR4を有していた.本例はNIDDMの病像で発見され, 産後にIDDMの病像が顕性化した症例と考えられた.妊娠, 出産に伴う免疫機能の変動と, IDDMの進展との関連, が示唆された.
著者
横田 美紀 竹内 淳 永井 聡 安藤 康博 川嶋 望 宮本 憲行 甲谷 哲郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.105-113, 2016-02-29 (Released:2016-02-29)
参考文献数
28

糖尿病患者においては冠動脈疾患の合併頻度が高く,生命予後を左右するために,早期の的確な診断が期待される.糖尿病では無症候性心筋虚血のために自覚症状が乏しく,診断時に高度に進行した病変を示す患者も少なくない.今回,我々は,合併症の精査目的に入院をした159例の無症候性糖尿病患者に対して320列冠動脈CTによる冠動脈疾患のスクリーニングを実施した.その結果,67例(42 %)に有意狭窄を認め,循環器内科医による追加検査によって20例(13 %)が虚血を有する冠動脈疾患と診断された.虚血を有する冠動脈疾患と診断された患者では,腎症の合併,降圧薬の使用,抗血小板薬あるいは抗凝固薬の使用,脳梗塞の既往が多かった.またeGFRは有意に低く,ABI,IMTにも有意な差異を認め,石灰化スコアも高値であった.