著者
高木 繁治 篠原 幸人 小畠 敬太郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.434-441, 1984-12-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
34

非侵襲的脳血流測定法である133Xe吸入法と静注法を同一日に12例に施行し,その測定値を比較した.静注法の脳血流値は吸入法にくらべて,F1,ISI共に有意に高値を示し,W1は有意に低値を示した.12例の両側脳半球平均のF1は静注法71.5±10.8ml/100g brain/min(mean±S.D.),吸入法64.3±7.3であった.両法での差異の原因の一つは,動脈血中133Xe濃度を呼気から推定する点にあると考え,動脈血ガス分圧が正常である4例について吸入,静注後の呼気および血中濃度曲線を比較したところ,吸入法では全例に,静注法では3例に両曲線での差異が認められた.以上より,動脈血ガス分圧が正常で,臨床的に肺機能障害の認められない症例においても,動脈血中濃度曲線と呼気中濃度曲線の間には明らかな差が存在し,それが両方法の測定値の差に関与する可能性があると考えた.
著者
下畑 光輝 成瀬 聡 渡部 裕美子 田中 一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.123-128, 2011-01-25 (Released:2011-01-26)
参考文献数
14

中大脳動脈狭窄を伴い脳梗塞を生じた高ホモシステイン(Hcy)血症の1例を経験した.症例は48歳男性.有意な既往や健診異常なし.数分の右半身脱力,しびれが繰り返し生じ入院した.頭部MRI FLAIR画像,拡散強調画像で左被殻後方に高信号,MRAおよび脳血管造影で左中大脳動脈狭窄を認めた.脳血栓症と考えアルガトロバン,エダラボン,アスピリン,シロスタゾールを開始し,5日後より発作は消失した.血液検査で血清総Hcy高値,ビタミンB6低値,葉酸低値を認め,methylenetetrahydrofolate reductase 677多型はTT型であった.高ホモシステイン血症は独立した心血管リスクであり,近年のメタ解析では葉酸,ビタミンB6,B12によるHcy低下を介した脳卒中発症リスクの低減が報告された.原因不明の脳梗塞では高Hcy血症の有無を検索し,葉酸,ビタミンB群の投与を検討してもよいと思われる.
著者
渡部 真志 平野 聡子 越前 康明 榊原 健二 若林 由佳 髙谷 美和 原田 祐三子 村上 あゆ香 小林 麗 岡田 久 奥田 聡
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-6, 2018 (Released:2018-01-25)
参考文献数
13

【目的】Stanford A 型急性大動脈解離(type A acute aortic dissection: TAAAD)に伴う脳梗塞ではrt-PA 療法が致死的結果を招き得るため,鑑別に有用な臨床因子を検討した.【方法】TAAAD に伴う脳梗塞13 例(TAAAD 群)を後方視的に分析し,rt-PA を投与した脳梗塞57 例(rt-PA 群)と比較検討した.【結果】TAAAD 群は胸痛が多く(p<0.01),全例で何らかの意識変化が見られた.TAAAD 群は血圧が低値で(p<0.01), 収縮期血圧のcut-off 値はROC 解析で130 mmHg 以下であった. 特に110 mmHg 以下では陽性尤度比35.1 と特異性が高かった.また徐脈傾向が見られた.【結論】疼痛の問診がTAAAD 鑑別に重要で,収縮期血圧130 mmHg 以下でTAAAD が疑われ,110 mmHg 以下かつ心拍数60 回/分以下では積極的に疑うべきである.
著者
舟橋 怜佑 前島 伸一郎 岡本 さやか 布施 郁子 八木橋 恵 浅野 直樹 田中 慎一郎 堀 博和 平岡 繁典 岡崎 英人 園田 茂
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10516, (Released:2017-06-13)
参考文献数
35

【目的】リハビリテーション(リハ)目的で入院した右被殻出血患者を対象に,半側空間無視の有無やその検出法に関与する要因について検討した.【対象と方法】対象は回復期リハ病棟に入院した右被殻出血103 名で,発症から評価までの期間は40.5±27.4 日.発症時のCT より血腫型を評価し,血腫量を算出して,半側空間無視がみられたかどうかや,その検出法を診療録より後方視的に調査した.【結果】半側空間無視は103 名中58 名(56.1%)でみられた.血腫量が多く,血腫が内包前後脚または視床に及ぶ広範な場合に半側空間無視は高率にみられた.半側空間無視の検出率は消去現象と注意で最も高く,次いで模写試験,視空間認知の順であった.【結論】回復期リハの時期でも被殻出血の半数以上に半側空間無視を認め,その発現には血腫量や血腫型が関与した.半側空間無視の検出に複数の課題を用いることで,見落としを大きく減らすことができた.
著者
和泉 雄一 青山 典生
出版者
The Japan Stroke Society
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.374-377, 2014

要旨:歯周病は,歯肉,歯根膜,セメント質および歯槽骨で構成される歯周組織の破壊を伴う炎症性疾患である.日本人の約70%に何らかの歯周病の症状が認められている.従来,血液疾患,発育異常,代謝異常や感染症などの全身疾患が歯周組織の状態を悪化させると考えられていた.しかし近年,口腔と全身との関連性が科学的に追求されたことにより,歯周病が循環器疾患,糖尿病,呼吸器疾患,早産・低体重児出産などに深く関わっていることも報告されている.特に,歯周病患者は健康な人と比較して,冠動脈疾患による死亡,心筋梗塞,脳卒中のリスクが高いことが報告されている.歯周病により血中のCRP 増加やアテローム形成の亢進が認められていることから,これらが歯周病と脳卒中などの循環器疾患を結びつけている可能性がある.
著者
飯塚 高浩 神田 直 稲福 徹也 畑 隆志 坂井 文彦
出版者
The Japan Stroke Society
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.239-243, 1994

降圧薬の投与開始後短期間のうちに発症した脳梗塞について検討した.対象は降圧薬の服用開始後1ヵ月以内に発症した脳梗塞9例であり, 年齢は48歳から83歳, 平均66.7±10.5歳である.服用開始後発症までの期間は, 5例が7日未満であり, 平均10.1±8.6日.基礎疾患は高血圧に加え, 4例で糖尿病, 1例で心房細動を認めた.1例を除き全例初回発作であった.降圧薬の種類はCa拮抗薬が8例と最も多く, うち4例はβ遮断薬, ACE阻害薬など2種以上の降圧薬を初回より併用し, 1例は3剤同時開始例であった.また1例は単剤ではあるが高齢者に対して初回より常用最上限が投与され翌日の発症であった.責任病巣は, 放線冠など穿通枝領域が6例と最も多く, 皮質枝領域が2例, 境界領域が1例であった.機能予後は, 7例は独歩, 2例は車椅子であった.降圧薬の投与に際しては, 投与量に留意し, 原則として, 単剤, 少量から開始すべきであると考える.
著者
松本 勝美 山本 聡 鶴薗 浩一郎 竹綱 成典
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.152-156, 2009 (Released:2009-06-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

[背景,目的]椎骨脳底動脈閉塞は発症より6時間以上経過して診断されるケースが少なくなく,血栓溶解を施行するかどうか判断が困難な症例が多い.今回椎骨脳底動脈閉塞例に対し血行再建を行った例について,再開通の有無,重症度および治療開始時間が予後に及ぼす影響を検討した. [症例と方法]当院での椎骨脳底動脈閉塞に対する血行再建は発症時間にかかわらず,diffusion MRIで梗塞の面積が20 ml以下または脳幹全体が高信号になっていない例としているが,該当症例は19例あり,12例は発症6時間以内に血行再建が行われ,7例は発症6時間以降に血行再建が行われた.各群について初診時NIHSSと3カ月後のmRS(modified Rankin scale)の関連性を検討した.再開通の評価はTIMI分類で施行した.統計はmRSと年齢,再開通までの時間,NIHSSは分散分析を行い,開通の有無とmRSは分割表分析を行った. [結果]予後は再開通の有無が最も影響し,TIMI分類のGrade 3∼4の11例中9例でmRSが3以下であったが,Grade 0∼1では全例mRSが4以上であった(P<0.01).発症時間,受診時NIHSS,年齢と予後の関係は有意差は認められなかったが,mRS 0∼1の4症例はいずれも発症3時間以内の再開通例であった. [結論]椎骨脳底動脈閉塞は発症時間にかかわらず,diffusion MRIで広範囲に高信号を呈さなければ血栓溶解療法の適応はある.発症時間からの経過にかかわらず再開通後の予後は比較的良好である.神経症状を残さない結果を得るには発症3時間以内の早期再開通が望ましい.
著者
木村 和美 矢坂 正弘 宮下 孟士 山口 武典
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.363-368, 1990-08-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
8

症例は68歳の心房細動を有する女性.上部脳底動脈の塞栓性閉塞に基づく特異な眼症候と無動性無言を呈した.両側性に垂直眼球運動障害があり, これに加えて, 左眼は外転位で内転障害が認められたが, 瞳孔異常はなかった.右眼はcorectopiaを呈し, 瞳孔は散大, 対光反射消失, 責任病巣として右Edinger-Westpha1核, 左動眼神経核, およびrostral interstitial nucleus of MLFが推測された.MRIで両側視床から中脳被蓋に連続した病巣を認め, 眼症候と無動性無言は, 傍正中視床動脈の閉塞に基づくものと考えられた.
著者
神田 直 林 英人 小林 祥泰 古橋 紀久 田崎 義昭
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.299-306, 1980-09-25 (Released:2010-01-22)
参考文献数
34
被引用文献数
4 1

脳卒中急性期の交感神経活動を知る目的で発症48時間以内の患者64例を対象に血漿カテコールアミンの変動を観察した.血漿ノルエピネフリン (NE) 値は, 脳出血, くも膜下出血, 脳梗塞の順に高く, その平均値はそれぞれ753±116pg/ml, 630±291pg/ml, 397±65pg/mlであった.脳出血の平均値は脳梗塞と対照とした非神経疾患々老19例の平均値292±2gpg/mlよりも有意に高値を示したが, 脳梗塞と対照の間には有意差を認めなかった.血漿NEの上昇はとくに大血腫, 広範な梗塞を伴う重症例で著しかった.死亡した13例の血漿NEの平均値1,199±162pg/mlは生存43例の平均値362±39pg/mlより有意に高く, 入院時の血漿NEは患者の生命予後を良く反映した.血漿エピネフリンについても同様の傾向がみられた.脳卒中急性期には交感神経系の興奮と副腎髄質機能の尤進を伴い, とくに予後不良な重症例で著しい.脳卒中急性期には脈拍,血圧,呼吸,体温などのvital signにしぼしば著しい変化がみられ,また発汗過多,消化管出血などを伴うことが少くない.これら多彩な臨床症状の発現には自律神経系が密接に関与していると推定される.さらに脳卒中患者ではValsalva試験における反応異常, 起立性低血圧, 体位変換に伴う血中ノルエピネフリン (NE) 反応の低下など自律神経機能異常がみられることが報告されている.一方最近では脳循環の調節機序における自律神経系の役割が注目され, 脳卒中急性期にみられる脳循環代謝動態の異常にも自律神経異常を伴うことが推測されるが,現在のところこれを実証するような成績は得られていない.したがって脳卒中急性期の自律神経活動についての観察は, 脳卒中の病態を解明する上でのひとつのアプローチになると考える.血中NEは主として交感神経の末端に由来し, その変動は交感神経活動をかなり鋭敏に反映すると考えられている.脳卒中患者においては尿中カテコールアミン (CA) 排泄量の増加があり, さらに血中 CAレベルが上昇することが報告されている.また交感神経刺激によりNEと共にexocytosisによって放出されるといわれるドーパミン-β-水酸化酵素 (DEH) 活性も脳卒中急性期には血中で上昇する.血清DBH活性の変動からみても, 血中NEの変化は脳卒中発症数日以内の急性期に著しいことが予想されるが, これらの報告者の成績ではその検討が十分になされていない.また血中CAレベルと臨床症状との詳細な関係についても明らかでない.最近のCA測定法の進歩は目覚しく, 特異性と感度に優れた測定法が開発されつつある.一方CTスキャンの導入により脳血管障害の診断精度は著しく向上し, 出血と梗塞の鑑別はもとより, 病巣部位までかなり正確に診断が可能となった.そこで著者らはとくに脳卒中発症後極く早期の患者を対象に血中CAの変動を観察し, さらにその臨床的意義についても検討を行った.
著者
桂 研一郎 須田 智 戸田 諭補 金丸 拓也 太田 成男 片山 泰朗
出版者
The Japan Stroke Society
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.147-149, 2014

要旨:近年,急性期血栓溶解療法,機械的血栓除去術などにより急性期再灌流療法の進歩は著しい.しかしながらその恩恵を受けられるのは限られた患者であり,依然としてより効果のある脳保護療法の登場がまたれている.我々が今回紹介するのは新しい観点からの脳保護療法の試みである.第一は治療効果が高い脳保護的な蛋白質に,蛋白細胞導入ドメインを融合させることにより,静脈内への1 回投与で神経細胞にまで到達させ脳保護的に働かせる方法である.次に全く新しい方法として,低濃度の水素ガスを吸入させると,脳梗塞体積が減少する結果を報告してきた.水素ガスには軽微なフリーラジカルスカベンジ作用があり,最も毒性の強いhydroxyl radical を選択的に消去することがわかってきている.さらに,すでに臨床で使用されている薬物を脳梗塞急性期治療に応用する方法として,抗てんかん薬であるバルプロ酸の急性期脳保護効果についても紹介する.
著者
端 和夫 児玉 南海雄 福内 靖男 田中 隆一 齋藤 勇 吉峰 俊樹 小林 祥泰 永廣 信治 佐渡島 省三 峰松 一夫 山口 武典 篠原 幸人
出版者
The Japan Stroke Society
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-11, 2010-01-25
被引用文献数
4 7

我が国における脳梗塞rt-PA静注療法の保険適用承認には,承認への要望の段階から日本脳卒中学会の医療向上委員会が緊密に関与してきた.適正使用講習会を実施することを前提として承認された後も,欧米諸国にも前例のない全国的な都道府県レベルでの適正使用講習会を実施し,rt-PA静注療法の実施担当者等を指導してきた.承認後3年間で講習会は189回,受講者は1万人を超え,結果として,約1万5千例の使用例のうち,非適応例への使用頻度は6% 程度に抑えられている.承認と講習会開催の過程と,3年を経過した時点での普及の現状を記載した.
著者
荒木 厚 福島 豊 松本 光弘 佐古 伊康 北 徹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.111-115, 1990-04-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

先天性代謝異常症のホモシスチン尿症では, 若年性に動脈硬化, および脳梗塞をきたしやすい。また, 血中ホモシステインの蓄積は, 動脈硬化を惹起するという仮説が提唱されている.ホモシステインの成人における脳梗塞発症に対する関与の可能性を検討する目的で, 慢性期脳梗塞患者42例の血漿総ホモシステイン濃度を測定し, 年齢, 性, および高血圧をマッチさせた対照84例と比較した.両群間のBody mass index, 空腹時血糖値, 血清コレステロール, 中性脂肪, クレアチニン, 尿酸濃度, および喫煙者の割合には, 有意差がなかった.血漿総ホモシステイン濃度 (nmol/ml) は, 脳梗塞群13.2±5.8, 対照群8.5±3.7であり, 脳梗塞群が対照群に比して有意に高かった (p<0.000001).以上の成績は, ホモシステイン仮説を支持し, 血漿ホモシステインの高値が, 脳梗塞の独立な危険因子の一つとなりうることを示唆する。
著者
田島 康敬 須藤 和昌 松本 昭久
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.245-250, 2009 (Released:2009-08-14)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

脳梗塞を繰り返したHIV感染を伴う神経梅毒の32歳男性例を報告する.症例は右上肢の脱力で発症し,この治療中に発熱,頭痛が加わり各種検査所見からHIV感染をともなう髄膜血管型神経梅毒と診断した.MRAでは脳底動脈,内頸動脈系の描出が不良であり左中大脳動脈の狭窄が顕著であった.ペニシリン投与により臨床症状,髄液,画像を含む検査所見の改善が得られた.しかしながら1カ月後に,意識障害を伴う重度の左片麻痺で再発した.右中大脳動脈は内頚動脈からの分岐部で描出されず,新鮮な梗塞巣が両側性に多発していた.治療により臨床症状,髄液,画像を含む検査所見の改善が得られたが重度の左麻痺が残存した. 本例は脳梗塞で発症し,その後梅毒とHIV感染が明らかになった症例である.近年の世界的なHIV感染の蔓延に伴い,これに伴う梅毒患者数の増加が問題となっており,症例の臨床症状や治療法の検討は大きな課題である.
著者
星野 晴彦 高木 誠 土谷 治久 高木 康行
出版者
The Japan Stroke Society
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.480-488, 1998-10-25
被引用文献数
2 1

1年間に入院した急性期のアテローム血栓性脳梗塞28例,ラクナ梗塞57例,心原性脳塞栓25例,分類不能の脳梗塞11例,脳出血31例を対象に,初期治療までに要した時間を検討した.睡眠中発症例は25例(16.4%)あり,アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞で多かった.発症からCT撮影までの平均時間は,心原性脳塞栓症が2.06時間,脳出血が6.84時間,アテローム血栓性脳梗塞が20.78時間,ラクナ梗塞が38.69時間であった.CT撮影までに要した時間は,救急車で来院,救急外来を受診,他院受診せずに直接来院,臨床病型で心原性脳塞栓症と脳出血が有意に早かった.発症3時間以内にCT撮影が終了しているものは36例(23.7%)あり,心原性脳塞栓症が15例(60.0%),脳出血が15例(48.4%),ラクナ梗塞5例(9.1%)であった.しかし,抗血栓療法が開始されたのは発症3時間以内は1例もなく,6時間以内でもラクナ梗塞の2例と心原性脳塞栓症1例にすぎなかった.早期初期治療のためには,脳血管障害が疑われたならば救急車を呼ぶことの啓蒙と,来院後の早期治療開始の院内のシステム作りが必要と考えられた.
著者
羽柴 哲夫 山田 正信 本郷 卓 宮原 永治 藤本 康裕
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.301-306, 2010-05-25 (Released:2010-07-09)
参考文献数
5

症例は67歳男性.突然の意識障害と右上下肢麻痺で発症した.臨床症状より脳底動脈塞栓症を疑ったが,発症1時間後の頭部CTでは異常を認めず.撮影中に意識障害・右上下肢麻痺は改善を示したため,同時に3D-CT angiographyを施行した.結果,主幹動脈の閉塞を認めず,塞栓後直ちに再開通が得られたと判断した.発症当日には患者は完全に回復したと発言し,自覚的訴えも無かったが,発症翌日に盲を訴えた.MRIにて両側後頭葉梗塞を認めたため,皮質盲と診断した.本患者は発症急性期には,盲であることに無関心であったと考えられ,病態失認の一種であるAnton症候群を呈していたと考えた.T-PA時代においては脳梗塞急性期に正確な神経症状の評価が必要であり,病態失認の存在は急性期診断のpit fallになりえると考えた.閉塞血管の再開通により神経症状の回復が見られ,t-PA療法の適応がないと判断されてもNIHSSの評価は必須であると考えた.
著者
鄭 秀明 内山 真一郎 大原 久仁子 小林 道子 村上 博彦
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.456-461, 1998-10-25 (Released:2009-12-07)
参考文献数
26
被引用文献数
1

発症24時間以内の脳梗塞250例において,進行性増悪例の検討をOxfordshire CommunityStroke Project (OCSP)の4病型分類別に検討した.全体では28%に進行が観察され,partial anterior circulation infarcts(PACI)群の進行は9%と他の3群(total anterior circulation infarcts: TACI, lacunar infarcts: LACI, posterior circulation infarcts :POCI)に比し低率であった.進行群と非進行群の比較では,TACIの進行群で頭部CTでの早期異常が高率で,コレステロールが低下しており,LACIの進行群ではエントリー時に機能的に重症であったが,その他の因子に差はなく,POCIでは両群間に差は見出せなかった.進行例は生命予後.機能予後とも不良であった.進行例の頻度は病型別に異なり,若干の予知因子が抽出されたが,その予測は依然として困難と考えられた.
著者
幸崎 弥之助 稲富 雄一郎 米原 敏郎 橋本 洋一郎 平野 照之 内野 誠
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.79-85, 2009 (Released:2009-04-20)
参考文献数
16

目的:発作性心房細動に対する電気的除細動直後の脳梗塞発症について,その背景因子と臨床像を検討した. 対象と方法:1995年4月から2003年11月の期間に,当院で発作性心房細動に対し電気的除細動を実施した連続768例.除細動後の脳梗塞発症群,非発症群とで比較を行った. 結果:9例(1.2%)で除細動後10日以内に脳梗塞が発症した.同期間中に脳梗塞を来さなかった759例から無作為に抽出した45例と比較した結果,除細動までの心房細動持続時間(OR 1.26,95%CI 1.03∼1.53)が,有意かつ独立した脳梗塞発症因子であった. 結論:脳梗塞合併予防のために,発作性心房細動に対する発症後早期の電気的除細動の必要性が示唆された.
著者
藤島 正敏 佐渡島 省三 石束 隆男 井林 雪郎 藤井 健一郎
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-10, 1989-02-25 (Released:2009-07-23)
参考文献数
50

The effects of various antihypertensive agents in relation to cerebral circulation and cerebral vessels were widely reviewed throughout the literature. The changes of cerebral blood flow (CBF), cerebral metabolism and CBF autoregulaiton were also discussed under the acute or chronic administration of antihypertensive agents in human being and experimental animals as well.Antihypertensive agents include diuretics, methyldopa, clonidine, reserpine, alpha-blockers, beta-blockers, vasodilators, calcium antagonists and angiotensin converting enzyme inhibitors, which habe been widely used for hypertensives with or without stroke.Acute effects : A bolus or continuous injection, or a single oral administration of vasodilators, calcium antagonists and reserpine increases CBF regardless of the blood pressure alteration. In contrast, both clonidine and beta-blockers decrease CBF by direct vasoconstriction or by decreasing cerebral metabolism. CBF remains unchanged or slightly increases by administration of alpha-blockers and angiotensin converting enxyme (ACE) inhibitors. No documents have been reported about the acute effect of diuretics and methyldopa. The lower limit of CBF autoregulation is shifted to lower levels by the administration of alpha-blockers, vasodilators and ACE inhibitors. Beta-blockers have no effects on autoregulatory range, while calcium antagonists affect little or or slightly raise the lower limit to a upper level.Chronic effects : Long-term administration of antihypertensive agents has different influence on CBF compared with acute administration. In hypertensive patients without stroke, most of agents do not change CBF, but some agents rather increase. In hypertensive patients with stroke CBF is increased by methyldopa and ACE inhibitors, but unchanged by alpha-blockers.Each antihypertensive agent has different inherent effects on cerebral circulaiton. Therefore we must know the pharmacological action of the drugs on brain itself or cerebral circulation, when we treat the hypertensive patients, especially in the cases who have a history of stroke.
著者
前島 伸一郎 大沢 愛子 林 健 棚橋 紀夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.187-194, 2013-05-20 (Released:2013-05-24)
参考文献数
21

要旨:【目的】嚥下造影検査(VF)の実施に合わせて,5 mlと60 mlの段階的飲水試験を施行し,誤嚥の検出や経口摂取の可否,選択された食形態との関連について明らかにする.【対象と方法】経口摂取開始時の適切な食材を選ぶことを目的にVFを施行した183名(男性107,女性76)の脳卒中患者を対象とした.平均年齢は66.9±12.1歳で,原因疾患は脳梗塞98名,脳出血49名,くも膜下出血23名,その他の脳血管疾患13名,発症からVFまでの期間は18.0±12.0日であった.方法は,まず,VF実施の直前に段階的飲水試験にて臨床評価を行い,次にゼリーや粥などの模擬食品に加え,5 mlと60 mlの液体にてVFを行った.その後,段階的飲水試験の結果と実際のVF結果との関連について検討した.【結果】臨床所見の異常にて段階的飲水試験を途中で中止したのは46名(第1段階43名,第2段階3名)であった.段階的飲水試験での異常所見はVFの液体誤嚥と有意な関連を認め,VFにて観察される誤嚥に対する段階的飲水試験の感度は85.2%,特異度は41.8%であった.飲水速度(ml/秒)や1回嚥下量(ml)と誤嚥に明らかな関連はなかった.経口摂取の可否や選択された食形態は,VFの液体誤嚥との間に関連を認めたが,段階的飲水試験の臨床評価との間には関連はなかった.【まとめ】段階的飲水試験の臨床評価は液体誤嚥の検出には有用ではあるが,その結果と誤嚥予防のための適切な食形態との間には明らかな関係を見いだせず,経口摂取の開始前には嚥下造影検査などの詳細な評価を合わせて行うべきである.