著者
小守林 靖一 久保 慶高 幸治 孝裕 西川 泰正 小川 彰 小笠原 邦昭
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.291-294, 2013-07-25 (Released:2013-07-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1

要旨:44歳,男性.頭全体の痛みを自覚し独歩受診.精査上くも膜下出血や脳梗塞は認めなかったが,左椎骨動脈解離を認め,2カ月おきに画像追跡を行い,半年後に左椎骨動脈の閉塞を確認した.なお,反対側の右椎骨動脈には異常所見は認めなかった.その後も画像追跡を行ったが,両側椎骨動脈には変化がなかった.最終画像追跡から2カ月後,左椎骨動脈閉塞から25カ月後に突然くも膜下出血を来した.右椎骨動脈-後下小脳動脈分岐部より近位側に紡錘状動脈瘤を認め,出血源と診断した.血行再建を伴った根治手術を企図したが,肺炎を合併したため待機手術の方針となった.2週間後に再出血を来し,死亡した.これまでの報告では,一側の椎骨動脈解離の自然閉塞または治療による閉塞後に対側の椎骨動脈解離によるくも膜下出血を来す期間は,14日以内であったが,本症例のように2年以上の長期経過後でも反対側椎骨動脈に解離が出現し,出血することがありうる.
著者
今井 明 鈴木 ひろみ 渡辺 晃紀 梅山 典子 塚田 三夫 中村 勤 松崎 圭一 加藤 開一郎 冨保 和宏
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.572-578, 2010-11-26 (Released:2010-12-03)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

脳卒中の自然経過を検討する目的で,生命予後と死因について調査し,AHAによる報告と比較した.対象は1998年4月から1999年3月に脳卒中を発症し,栃木県内で登録された5,081人である.発症から5年9カ月までの死亡の有無と,死因簡単分類で死因を調査した.生存率はKaplan-Meier法で算出した.脳卒中全体の5年生存率は62.3%であり,病型別の5年生存率は,くも膜下出血54.9%,脳出血57.9%,脳梗塞62.8%であった.死因の観察では,すべての病型で1位を脳卒中,2位を循環器系の疾患が占め,3位はくも膜下出血と脳出血では悪性新生物,脳梗塞では呼吸器系の疾患が占めた.くも膜下出血と脳出血では原疾患による急性期死亡が多く,75歳以上の脳梗塞では肺炎による死亡が多かった.AHAの報告によると,脳卒中の5年以内の致死率は男性47%,女性51%であり,栃木県の致死率は男性38.5%,女性36.7%とアメリカの報告より低かった.脳卒中の生命予後の改善には,急性期治療の充実と慢性期脳梗塞の肺炎に対する対策が重要と考える.
著者
森永 一生 大川原 修二
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.291-295, 1991-08-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
10

高血圧性脳出血, 脳梗塞患者に対し血漿ANP, ADHを測定し, 低Na血症におよぼす影響について検討した.対象は過去1年間に当院に入院した高血圧性脳出血19例, 脳梗塞11例である.低Na血症発生例は, 脳出血例の4例だけで, 脳梗塞例は1例もなかった.脳出血例の血漿ADHは, 低Na血症の発生の有無にかかわらず急性期において高値であり, 以後漸減した.脳梗塞例の血漿ADHは, 各時期間で有意な変動を示さなかった.血漿ANPは, 脳出血の低Na血症発生例では, 急性期の値が低Na血症期まで持続する傾向にあったが必ずしも高値ではなかった.脳梗塞例では, 各時期とも有意に高かったが, 低Na血症の発症例はなく, 心疾患などの合併症によるANPの上昇と考えられた.以上の結果から高血圧性脳出血, 脳梗塞患者において, 急性期の血漿ADH, ANP値より低Na血症の発生を予測することは困難であるが, ANPの不適切分泌が低Na血症発生に関与する可能性は残された.
著者
渡辺 淳志 濱田 真輝 田鹿 安彦 宮崎 一秀 川畠 弘子
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.21-25, 2015 (Released:2015-01-23)
参考文献数
13

要旨:症例は31 歳女性.予定帝王切開術後にメチルエルゴメトリン内服開始.分娩後5 日目に雷鳴様頭痛の後,全身痙攣が出現した.MRI,MRA にて多発性脳梗塞と脳血管狭窄を認め,可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)による脳底動脈先端症候群を疑いシロスタゾール,エダラボン,ベラパミルにて加療を行った.第40 病日のMRI にて脳血管狭窄は改善し,RCVS と確定診断となった.後遺症として四肢不全麻痺,構音障害,嚥下障害などを認めmodified Rankin Scale 4 の状態にてリハビリテーション目的に転院となった.RCVS は転帰良好例が多いとされるが,脳底動脈高度狭窄症例は後遺症を残すリスクファクターである可能性があり早期の治療を検討するべきと思われる.また,片頭痛既往がある分娩後患者のメチルエルゴメトリン投与に関してはRCVS 発症のリスクを考慮し慎重に検討するべきであると思われる.
著者
服部 達明 新川 修司 大熊 晟夫 竹中 勝信 出口 一樹
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.436-442, 1990-10-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

症例は54歳女性.1987年6月突然の頭痛・嘔吐で発症した.CTにてくも膜下出血, 脳血管撮影では両側内頸動脈末端部における閉塞と脳底部のもやもや血管を認めた.保存的治療で症状は軽快したが, 次第に両手指のしびれ感・痛みを訴え, レイノー現象や爪の変色, 朝の手のこわばりが出現した.舌小帯の短縮肥厚や爪上皮の延長, 腰部の色素沈着もみられた.指尖容積脈波では冷水負荷により脈波の平低化の所見が観察され, 前腕伸側の皮膚生検では真皮や汗腺は萎縮し脂肪細胞には変性萎縮がみられ, 膠原線維は萎縮・狭小化しており, 全身性進行性硬化症 (PSS) の萎縮期の像であった.自己免疫抗体の検索では陰性であった.もやもや病の成因は未だ不明であるが, 免疫学的機序による血管炎の関与の可能性が推測されている.もやもや病にPSSが合併した症例は今まで報告されておらず, もやもや病の成因として免疫学的機序の関与の可能性を示唆する興味深い症例と思われる.
著者
山本 雄貴 垂髪 祐樹 山崎 博輝 武内 俊明 古川 貴大 宮崎 由道 山本 伸昭 和泉 唯信 梶 龍兒
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
pp.10397, (Released:2016-03-09)
参考文献数
15

症例は40 歳主婦.過多月経による重度の慢性貧血(ヘモグロビン1.1 g/dl)があり,合計20単位の赤血球輸血を受けた.2 週間後に突然の頭痛と全身痙攣を来し搬送された.MRI 所見からPRES(posterior reversible encephalopathy syndrome)を合併したRCVS(reversible cerebral vasoconstriction syndrome)と診断し,保存的治療を行った.経過中に一旦は軽快していた症状および画像所見の再増悪がみられたが,最終的には後遺症を残さずに退院した.慢性貧血患者に輸血を行う際には,合併症としてRCVS やPRES を発症しうることに留意し,頭痛や他の神経症状の出現時にはすみやかにMRI などの検査を行う必要がある.
著者
宇佐美 清英 徳元 一樹 猪野 正志 小澤 恭子 木村 透 中村 重信
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.516-520, 2008 (Released:2009-04-30)
参考文献数
14
被引用文献数
4 5

症例は80歳の男性.頸部回旋後に後頸部痛,右上下肢の麻痺,しびれ感,顔面の感覚鈍麻,喋りづらさがあり,当初,原因として椎骨動脈解離による脳梗塞が強く疑われた.しかし,発症14時間後の頭部MRIで責任病巣を認めず,「顔面の感覚鈍麻」と「喋りづらさ」を神経脱落徴候ではないと判断し,頸髄レベルの病変を疑い,頸部MRIで頸髄硬膜外血腫と診断した.顔面感覚鈍麻の訴えは変動し信頼性に乏しく,喋りづらさは口腔内乾燥によるものであった.脳卒中の疑われる患者が頭痛・頸部痛を訴える場合,稀だが治療が全く異なる頸髄・頸胸髄硬膜外血腫の可能性も念頭におきつつ,正確な神経学的部位診断・鑑別を心がけるべきである.
著者
東海林 幹夫 玉田 潤平 岡本 幸市 高玉 真光 平井 俊策
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.79-84, 1985

傍正中視床, 中脳梗塞の1例を報告した.症例は, 46歳男性で, 1) 動揺する過睡眠, 行動異常.2) 上下方向注視麻痺.3) 動揺する瞳孔散大・不同, 対光反射低下.4) 四肢麻痺 (左>右).両側病的反射.5) 知覚障害.6) 左顔面神経麻痺.7) 尿便失禁.8) 自律神経症状.9) 痴呆.10) 不随意運動を呈した.頭部CT像では両側視床・右中脳に蝶形の限局性低吸収域を認めた.椎骨動脈血管写では, 右脳底交通動脈の閉塞を認め, 傍正中視床・中脳梗塞と診断した.文献的考察を行ない, 傍正中視床・中脳梗塞の特殊性及び, akinetic mutismとの違いを指摘した.
著者
望月 俊明 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.217-221, 2009 (Released:2009-08-14)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

【背景と目的】本邦の若年性脳卒中は虚血を原因とするものが最も多い.本研究では若年性脳梗塞のデータを示し,診療上の問題点を検討する.【対象と方法】対象は3年間に当施設に入院した50歳以下の脳梗塞26例とした.これらを病型分類し,施行検査,入院期間,転帰を示す.【結果】50歳以下の脳梗塞は全体の9.8%で,病型分類では,1.lacunar 7例(27%),2.atherothrombotic 5例(19%),3.cardioembolic 3例(12%),4.other 6例(23%),5.undetermined 5例(19%)だった.otherの内訳は,脳動脈解離が3例,卵円孔開存,大動脈解離,腫瘍に伴う塞栓がそれぞれ1例ずつだった.入院期間は平均15日,転帰は,ADL自立退院例が14例(54%),死亡例は1例だった.【結語】45歳以下発症の脳梗塞は脳血管異常,特に脳動脈解離に起因する頻度が高い.若年性脳梗塞では,脳血管病変の精査が必要であり,早期血栓溶解療法を行う際は十分な注意が必要である,
著者
青山 雄一 大田 信介 榊 三郎 藤田 豊久
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.283-286, 2014 (Released:2014-07-25)
参考文献数
12

要旨:44 歳の女性,運動中に突然の激しい頭痛が出現し翌日に前医を受診,頭部CT(HCT)にて左後頭葉に限局するクモ膜下出血(SAH)を認め,発症5 日目に当科を紹介受診.頸部痛を伴う頭痛と項部硬直を認めたが,他の神経脱落所見はなかった.HCT と頭部MRI では左後頭葉に限局するSAH を認め,頭部MR angiography(MRA)ではSAH の局在と離れた左右の中大脳動脈(MCA)の末梢部に分節状攣縮を認めた.その他に出血源となる異常はなく,他の臨床検査所見でも原因となる異常は認めなかった.保存的加療にて頭痛は発症1 週間ほどで消失し,新たな神経症状も出現しなかった.発症8日目の血管造影では,頭部MRA 同様に左MCA 部に分節状の攣縮を認め,可逆性脳血管攣縮症候群と診断した.攣縮は発症約1 カ月後のMRA では消失していた.以後の再発を認めていない.
著者
桑原 聡 平山 惠造 小島 重幸
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.104-112, 1993-04-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
26
被引用文献数
1

小脳・小脳脚梗塞47例において臨床症状とMRI所見を分析し, 病変部位と運動失調の予後との関係および小脳内体性局在を検討した.四肢の運動失調は41例でみられ, 発症後1年以内に消失した予後良好群は32例 (78%) で, 1年以上持続した予後不良群は9例 (22%) であった.小脳皮質または下小脳脚病変側の予後は良好であるのに対し, 歯状核+上小脳脚あるいは中小脳脚全体の病変例の予後は不良であった.小脳求心系病変 (中, 下小脳脚) と遠心系病変 (歯状核, 上小脳脚) の運動失調に差異はみられなかったが, 後者では後に企図振戦, 律動性骨格筋ミオクローヌスが出現し日常生活動作を妨げた.四肢の運動失調と小脳病変局在との関係は認められなかったが, 失調性構音障害は小脳上部病変で, 眼球測定異常は小脳下部病変で多く発現し, 小脳における体性局在を示唆するものと思われた.
著者
山崎 貴史 中瀬 泰然 小倉 直子 亀田 知明 前田 哲也 佐藤 雄一 高野 大樹 鈴木 明文 長田 乾
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.502-507, 2007-07-25 (Released:2009-02-06)
参考文献数
20
被引用文献数
3 2

急性期延髄梗塞連続114例を対象に臨床症状と画像所見との関連性を解析した. MRI所見は, 内側梗塞 (MMI) と外側梗塞 (LMI) に分類し, 発症年齢はMMI (68.3歳) がLMI (63.1歳) より有意に高齢であった. MMIはさらに錐体限局型と広範囲型に, LMIは背側型, 前腹側型, 後腹側型, 汎腹側型, 前外側型に分類した. MMIでは広範囲型が77.4%, LMIでは後腹側型が45.8%, 背側型が28.8%であった. MMIでは病巣分布にかかわらず顔を除く健側半身の感覚障害が49.1%, LMIの後腹側型で病側顔面と健側半身の感覚障害が55.6%にみられた. MMIは上部病変が66%, LMIは中部病変が66%であった. 上部病変では顔面麻痺, 中部病変で吃逆が高頻度に認められ, 入院時のMRIで偽陰性が有意に多かったことから, 急性発症の顔面麻痺や吃逆を伴う半身の感覚障害を呈するときには延髄梗塞が強く疑われる.
著者
小張 昌宏 後藤 文男 冨田 稔
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.371-387, 1984-12-25 (Released:2010-05-07)
参考文献数
177

The effects of calcium antagonists in relation to cerebral vessels and circulation were widely reviewed throughout the literature. Their effectiveness in stroke and migraine patients were also discussed.Calcium antagonists usually inhibit cerebral vasoconstriction induced by various agents in vivo. They seem to dilate pial and basilar arteries in vitro, and increase cerebral blood flow in normal animals. Cerebral vasospasms, produced experimentally or in patients, are readily reversed by calcium antagonists. Clinical trials of these drugs on patients with subarachnoid hemorrhage are now under way, with some favorable preliminary outcomes. There are a number of investigations on the effects of calcium antagonists on cerebral circulation following experimental cerebral ischemia, but the results are not uniform, probably due to the various experimental conditions used. The therapeutic effects of calcium antagonists on ischemic stroke patients are mostly demonstrated in their chronic stage, and studies on patients with acute strokes are scarce. Calcium antagonists are also shown to be beneficial in the prophylaxis of migraine attacks.Although there are yet many problems to be investigated, the usefulness of calcium antagonists on medical practice may be promising.
著者
青木 淳哉 木村 和美 井口 保之 井上 剛 芝崎 謙作 渡邉 雅男
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.51-55, 2012-01-25 (Released:2012-01-27)
参考文献数
8

約25%の急性期脳梗塞例は発症時間が不明であるためt-PA静注療法の対象から除外される.頭部MRI DWIで高信号を呈していてFLAIRで信号変化がない場合(DWI/FLAIRミスマッチ),発症3時間以内と推定できる.我々は発症時間不明の脳梗塞例に対しDWI/FLAIRミスマッチに基づいたt-PA静注療法を行った.2009年6月から2011年10月までに13例[83 (67-90)歳,NIHSSスコア16 (11-20)点]が登録された.最終無事確認時間からt-PA静注療法まで5.6 (5.0-11.6)時間であった.24時間以内の再開通は10例(完全再開通:5例),症候性頭蓋内出血は0例であった.発症7日後の著明改善例は7例で,3カ月後の転帰良好例(mRS 0-2)は5例であった.発症時間が不明であってもDWI/FLAIRミスマッチがあればt-PA静注療法の対象になる可能性がある.
著者
安藤 喜仁 菱田 良平 橋本 律夫 中野 今治
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.76-81, 2014 (Released:2014-03-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

要旨:症例は67 歳右利き男性.右前脈絡叢動脈閉塞により外側膝状体近傍に限局した脳梗塞が生じ,左同名半盲,左半側空間無視と構成障害,漢字に強い失書を呈した.失語はみられなかった.過去に外側膝状体を中心とした病巣で半側空間無視が出現した報告は少なく,さらに構成障害と失書も合併したものは1 例のみであった.また,いずれの既報告例においても外側膝状体病変に加えて視床や後頭葉などを含む広範な部位に病変が認められており,本例の損傷領域はより限局していた.SPECT 画像で右後頭葉から頭頂葉の一部にかけて広範囲に血流低下が認められたことより,本例の半側空間無視と構成障害は主に右頭頂葉の機能障害に由来し,失書は主として構成障害に基づくものと考えられた.本例の症候は右前脈絡叢動脈領域の梗塞によるものとして非常に興味深いと思われた.
著者
渡辺 正樹 新畑 豊 茂木 禧昌 出口 晃
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.293-297, 1993-08-25 (Released:2009-09-03)
参考文献数
21

急性期および慢性期の脳幹部ラクナ梗塞 (LI) 群におけるアンチトロンビンIII (ATIII) 値およびトロンビン-ATIII複合体 (TAT) 値をテント上ラクナ (LS) 群, 皮質枝血栓 (TH) 群, 心原性塞栓 (EM) 群と比較して, その凝固状態を検討した.ATIII値はEM群が急性期, 慢性期ともに最も低く, LI群はLS, TH群と同程度の値を示した.一方, LI群の急性期におけるTAT値はTH, EM群と同程度で, LS群より高値を示した.このことよりLI群はLS群と同規模の梗塞ながら, より凝固亢進状態にあり, 大血管病変も存在する可能性があるといえた.TATはATIIIより鋭敏に過凝固状態を表し, 両者の併用は凝固状態把握のため必要と考えられた.
著者
津田 恭治 野口 昭三 石川 栄一 中居 康展 阿久津 博義 松村 明
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.268-274, 2010-05-25 (Released:2010-07-09)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

高齢人口割合の高い地域にある脳神経外科救急対応病院における,高齢者脳卒中診療の現状をまとめ,高齢者脳卒中患者の予後とその予測因子を検討する.脳神経外科に脳卒中の診断で入院した超高齢(80歳以上)脳卒中患者97名を対象とした.対象患者データのうち,年齢,性別,退院時modified Rankin Scale(mRS),退院時経鼻管または経胃ろう栄養,入院中肺炎などの評価項目と生命予後との関連をCox hazard modelあるいはlogrank testを用いて解析した.超高齢脳卒中患者97名の1年生存率は約75%であり,85歳未満および,mRS0–3群において有意に生存率が高いことが示された.また,生存退院例についての解析では,退院時のmRS3–5,入院中肺炎,胃ろう造設/退院時経管栄養が退院後の死亡に関する予測因子であり,入院中肺炎罹患が,統計学的に有意差をもった退院後の死亡に関する独立した予後予測因子であった.超高齢者脳卒中患者において,年齢や退院時mRSの他に,入院中の肺炎発症の有無が予測因子になる可能性が示唆された.我々は,超高齢者脳卒中患者の治療やケアを計画する際にこれらの因子を熟慮する必要がある.
著者
小川 誠二
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.489-496, 1995

Functional MRI of the brain is briefly reviewed. The two methods used in fMRI to capture hemodynamic changes induced by brain activation are described. One is to measure regional CBF change by the inflow signal for a single slice image and the other is to acquire BOLD images where the image contrast is generated by the magnetic susceptibility of red cells containing paramagnetic deoxyhemoglobin. With these types of measurements, many images are taken rapidly in time sequence at a constant image acquisition mode and thus one can follow the brain activation in real time. Various early applications of fMRI to sensory stimulations, motor responses and some of cognitive functions are described and the potentials of fMRI are discussed. The feasibility of fMRI to use in stroke field is high and the merit of the method is expected to be extremely useful in the field.