著者
冨田 美香
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、芸術・メディア・産業としての性格を持つ映画文化が20世紀の日本社会の形成にいかに作用したかという問題を明らかにすることを目的とし、その具体的な様相を日本のハリウッドと称される京都洛西地域社会の形成と日本映画史との関係に絞り、検証したものである。平成14年度は、京都洛西地域社会形成の過程と、そこから産み出された独自の映画文化との関係性を、京都を舞台に京都で作られた映画作品の中で現存する最古の作品『祇園小唄 絵日傘第一話 舞ひの袖』の分析から考察し、映画産業と京都社会との相互関係とともに、「京都」都市イメージが映画内的/外的作用によっていかに形成されていったかを実証的に研究した。そこで明らかになった点は、パノラマなどシネマトグラフ前史に遡る映画の始原的な視覚性が利用され、擬似観光体験から真の観光体験へと観客の経験の変容を促す都市への集客効果とともに、近代化された東京が失った鑑賞都市としての江戸の姿を、古都・京都の表象するメディアとして、映画が積極的に用いられていた、という点である。なお、これらの調査結果を資料画像も含めてデジタル化し,インターネット上で研究成果として公開する点についても、以下のURLで試行中である。URL:http://www.arc.ritsumei.ac.jp/cinema/index.html
著者
菊池 結花
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

モダフィニルに効果の性差とCOMTの遺伝子多型による差異に関する報告(Dauvillriers2001,2002)の追試を日本人に行っている。加えて治療のアルゴリズム上では第二選択薬であるリタインについても、同様の検討を行っている。約50例の症例について、遺伝子多型に関しては、COMT(158 Va1/Met)に加えて、orexin2 receptor(1246G>A), clock gene(3111 T>C),BDNF (66 val/met)を検討した。またナルコレプシーは特異的なHLA型を持つことが報告されているために、HLA遺伝子型のDRB1*1501、DQB1*0602の有無についても検討した。orexin2 receptor 1246G>Aについては、32例のうちでG/G,28/32,G/A,4/32であった。Clock 3111 T>Cについては、T/C,10/32,T/T,22/32であった。COMT 158については、Val/Met, 22/32, Va1/Va1, 9/32, Met/Met, 1/32であった。BDNF va166metについては、Val/Met, 23/32, Va1/Va1, 5/32, Met/Met, 4/32であった。HLA typingに関しては、脱力発作のあるナルコレプシーでは、95%の症例でHLA-DRB1*1501、HLA-DQB1*0602が陽性であったが、少数ではそれ以外の症例もみられた。また治療薬の違いについて、HLA typingとモダフィニルvsメチルフェニデートで比較したところ、HLA-DRB1*0901:メチルフェニデート処方患者が有意に多い(p〈0.05)、HLA-DQB1*0301:モダフィニル処方患者が有意に多い(p〈0.05)、HLA-DQB1*0303:メチルフェニデート処方患者が有意に多い(p<0.05)の結果が得られたので、今後は症例数を増やして検討を継続したい。今までのところ、COMT多型に関しては、診断名や処方薬に対する有意な影響は認められてない。
著者
木島 孝之
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

益富城塞群の遺構調査は外郭部を完了し、「縄張り図」(1/1000)を作製した。具体的成果として、外郭部の長城型防塁遺構の全容をほぼ掌握した。そして、幾つかピーク地形ごとに独立性の強い曲輪群が林立し、その間の尾根・谷地形に畝状竪堀群・土塁ラインを設けて曲輪群相互を連結させた「城郭群」の形態を成すことを確認した。この形態は、自律性の強い各部隊(複数の領主)が相対的に緩やかに大同団結した姿を窺わせる。確認した事項、すなわち、ごく短期間内に一挙に構築されたと考えられること、畝状竪堀群を横堀・土塁とセットで使用する点で北部九州の在地系城郭の中で最高の技術水準にあることを考え合わせると、研究当初の予見どおり、当遺構が天正14年の九州平定軍の来襲を前に、秋月氏を盟主とする北部九州国人一揆によって構築された可能性が極めて濃厚となった。ここに、城塞群の規模と仕様から、従来、文献史料の面からのみ構築されてきた結果論としての九州平定戦のイメージを大きく見直す必要が指摘できた。すなわち、豊臣軍の来襲を目前に控えた北部九州では秋月氏の下に、結束力などの質の問題は兎も角も、動員力の面では極めて巨大な国衆一揆が結成されており、初戦の戦況次第では九州平定戦は結果論にみるほど円滑に推移する状況になかったことが明らかとなった。加えて、この視点に立って改めて『九州御動座記』などの幾つかの文献史料を見直したところ、豊臣側でも秋月氏の存在を九州屈指の巨大勢力として強く意識していた様子が窺える記述も確認できた。以上の成果の概略は『益富城跡II』調査報告書(嘉穂町教育委員会、今年度末発行予定)に掲載予定である。次に、黒田氏時代に大改修された主郭部に関しては、発掘調査で出土した瓦の整理・分類を行い、鷹取城(益富城と同時期に織豊系縄張り技術で大改修され、黒田領の「境目の城」に取立てられた)の瓦との比較研究を行った。結果、両城は類似した性格を持つにも拘らず、益富城には当時の最新の瓦工集団が、鷹取城には相対的に古式な集団が動員された可能性がみえてきた。しかも縄張りの洗練度の面では、むしろ鷹取城の方が"垢抜け"した最新鋭のプランである。これらの要因について、前者は、支城普請における城持ち大身家臣の自律性の強さが投影されたものであり、後者は、慶長期の築城における縄張り(設計)と普請(施工)がまだ一体の行為として整理・統合されていない状況を示唆するものではないかと考えた。この成果は『城館資料学』3号に掲載した。
著者
塩竃 秀夫
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

地球温暖化が進むことで、極端な気象現象(以下極端現象)が大きく変化することが、大気海洋結合モデルを用いて予測されている。しかし、これまではモデルが現実の極端現象を精度良く再現しているかどうかは、十分に検証されてこなかった。本研究では、モデルの計算結果と観測データを比較することでモデルの検証を行う。また精度を検証されたモデルを用いて将来予測を行う。H18年度は、モデルで計算された20世紀中の極端現象の頻度分布変化が、観測を再現できているかどうかを、最新の統計分析手法を用いて全球規模で検証し、さらに過去の変動の要因推定を行った。この際、英国ハドレーセンターの協力を得た。これらの成果をふまえ、H19年度は、今後30年間の近未来予測を行った。まず極端な気温現象(夏期または冬期における極端に暑い昼・夜または寒い昼・夜)の発生頻度の変化について調べた。2011〜2030年平均の極端現象の発生頻度分布を1951〜1970年平均のそれと比較すると、陸上のほとんどの地域で、温暖化シグナルは内部変動を凌駕することがわかった。つまり数十年規模内部変動の位相にかかわらず、暑い昼・夜が増加し、寒い昼・夜が減少することが示された。さらに「年平均降水量」と「年間で4番目に多い日降水量(極端な降水)」がどのように変化するかを調べた。高緯度と熱帯では、数十年規模の内部変動の位相によらず、降水量の増加が予測された。一方、亜熱帯では、内部変動の位相によって降水量変化の符号が変わり得ることが示された。温暖化シグナルと内部変動の大きさの比が地域によって異なる原因も調べた。
著者
片岡 優華
出版者
埼玉県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1、目的 経産婦に出産前教育を行った場合、受講者と未受講者の差を明らかにし、プログラムの評価を行う。2、経産婦を対象とした出産前教育プログラム内容(毎第1月曜、2時間、参加者10名程度)(1)自己紹介(2)グループで過去の出産の様子等を自由に語り合う(3)経産婦の出産経過について(4)呼吸法の練習(5)入院の準備について(6)上の子への対応について(7)母乳について、乳房マッサージの練習3、研究方法 1)調査期間:平成18年11月〜平成20年2月2)方法:S病院に通っている妊娠35週程度の経産婦に産前用質問紙(自由記述と選択記述式)、S病院で出産した入院中の経産婦に産後用質問紙(自由記述と選択記述式)を配布。3)倫理的配慮:埼玉県立大学・首都大学東京・S病院の倫理委員会にて承認された。4、結果 質問紙回収数は産前271部(84%)、産後115部(43%)であった。うち、有効回答は産前が221名(受講者88名、未受講者133名であった。産後が94名(受講者37名、未受講者57名)であった。1)出産前の結果:質問紙の64項目について受講者と未受講者でU検定を行い、有意差が見られたのは15項目。この結果より、出産前教育を行った場合、経産婦の経過の知識、呼吸法の大切さ、お産による体の変化、経産婦の平均時間、病院につく前にお産になった場合の対処法に関する知識は未受講者と比較して理解度が高かった。また、出産に向けての準備として、呼吸法やリラックス法の練習を行い、前回の嫌だった経験を繰り返さない方法を考えることができていた。2)出産後の結果:質問紙の75項目について受講者と未受講者でU検定を行い、有意差が見られたのは8項目。この結果より、出産を終えた受講者は"妊娠中からの努力をしたい"と思っており、"お産の進行による体の変化"、"平均的な分娩所要時間"、"病院につく前に出産になってしまった場合の対処法"などの知識を持っていた。さらに、実際のお産に関しては"イメ-ジどおりの出産ができた"、"いつも誰かがそばにいてくれた"、"安心してお産に望むことができた"という項目で有意に高かった。また、92.7%の受講者はクラスの受講が役立った、92.9%の受講者がクラスを受講して良かったと解答した。5、結論 経産婦であっても出産前教育を行うことで、安心感を得る等の点でよりよい妊娠・出産につながることが示唆された。
著者
正木 宏長
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度は、昨年度に続き、水道事業の民間化について研究を行った。日本では水道事業の民間化に際して、委託等の行政契約が用いられている。水道法に定めのない従来型業務委託のほかに、水道法による包括業務委託も存在する。こういった水道事業の委託手法について他の民間化の手法も取りあげつつ、その特徴と法律問題について研究した。研究の際には、委託契約を活用している自治体への実地取材を行い、自治体行政の現実を明らかにすることに努めた。研究の結果、水道事業において、広範な委託が行われていること、他に様々な手法で水道事業の民間化が行われていること、民間化に際して、自治体の規程や国の通達類が重要な機能を果たしているとの知見を得ることができた。現在水道の民営化の議論がなされているが、本研究は、このような議論に法学の面から貢献しうるものであると考える。また、委託契約の実態を明らかにすることで、行政契約の議論の充実にも寄与することができるだろう。成果は論文「水道事業の民間化の法律問題」として立命館法学に掲載が決定している。また、一昨年度の研究成果が、書籍『分権時代と自治体法学』のうちの「都市の成長管理と水道」として刊行された。これは、水道水給水拒否が都市の成長管理手法となっていることを比較法研究によりあきらかにするものである。
著者
齋藤 智寛
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

伝・顔師古撰『玄言新記明老部』について、その作者問題と『老子』注釈史上の位置づけについて一定の見通しを得た。特に、科段説と章指についての見解から、『明老部』が六朝より唐初の老学史について、貴重な情報を提供する資料であることを確かめた。『明老部』によれば、斉・梁以来、『老子』注釈書は儒仏二教同様に科段を採用したが、該書はそれに反対しつつ、章序の意義を説く章指は温存する、過渡的性格を持つ注釈書である。
著者
碓井 健寛 諏訪 竜夫
出版者
創価大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

家庭ごみ有料化は,導入後に減量効果が失われるというリバウンドが問題だと指摘されているが,実際には明らかでない.本稿は家庭ごみ有料化の減量効果,および資源ごみの代替促進効果の長期での持続性を明らかにするために,計量経済学のパネルデータ分析を用いて検証した.その際にデータ選択の恣意性を可能な限り排除し,推定結果の頑健性を保証するために複数のモデルによって確認した.その結果,ごみ排出量のリバウンドはわずかながら存在するものの,長期の減量効果はほとんど失われないことが明らかになった.また,資源ごみの長期の分別促進効果は,有料化導入後の経過年数が経つにしたがって逆に強まることがわかった.
著者
片岡 有
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

in vitroの実験からインプラントの表面性状が細胞の分化に影響することを明らかにした.ワイヤ放電加工を用いナノ修飾した表面が機械研磨面よりも早期に細胞接着が生じ,骨芽細胞や骨髄間葉系細胞の分化に影響することを明らかにした.また,分化誘導培地で骨芽細胞様細胞を培養し,EDSurfaceの細胞分化に与える影響について検討できた.さらに,生体内でインプラント表面から骨形成が生じるContact osteogenesisが期待されているが,in vivoにおいてその可能性を示唆できた.
著者
里中 東彦
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

損傷腱修復促進の戦略の1つとして腱細胞の増殖が考えられ,ラットアキレス腱細胞に対するキセノンストロボ光照射により有意な細胞増殖効果が得られ,増殖した細胞のI型コラーゲン産生能および腱特異的タンパク産生能が確認された。
著者
野中 茂紀
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

深部観察性能と低光毒性を特徴とする光シート型顕微鏡DSLM(Digital Scanned Light-sheet Microscope)に分光機能を追加した新しい顕微鏡システム(λ-DSLM)を作製した。蛍光ビーズや輝線光源を用いたシステム評価を行い、蛍光アンミキシング解析やラマンイメージングが十分可能な波長分解能であることを確認した。実際の蛍光蛋白質を発現する生体試料を用いた評価実験、およびシステム制御と画像構築・解析まで一括して行うためのプログラムの開発は進行中である。
著者
西口 利文
出版者
中部大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,小中学校の教員志望者が,問題場面でのコミュニケーションのレパートリーを学ぶための教育プログラムの開発を目的として実施した.この教育プログラムは,小中学生が教師に求める言葉かけに関する調査研究の成果を授業の中で報告しながら,受講者によるグループでの話し合いを中心にすすめるものであった.当該プログラムの効果を検討したところ,受講者のコミュニケーションのレパートリーを広げるのに資することを確認した.
著者
奥富 庸一
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究によって、就学前の幼児をもつ母親(子育て期の母親)は、家族や周囲からの支援をやや得ながらも、自分自身に満足しておらず、周りに合わせて、自分の気持ちを抑えながら、がんばって子育てをしていることを明らかにした。このような現状から、A.S.E.の要素を取り入れた親子ふれあい運動あそびプログラムを開発し、そのストレスマネジメント効果を検証したところ、母親の自分自身に対する自信感が向上することを確認した。
著者
平野 薫
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

嚥下運動(飲み込むこと)時の大脳皮質の脳血流変化について、嚥下障害の改善に有効とされる嚥下法施行時および嚥下誘発手技施行時の大脳皮質の脳血流変化について調査を行い、それぞれの脳活動部位の傾向が明らかとなった。また、側頭筋の受動的・能動的筋活動が近赤外線分光法データへ与える影響について検討し、いくつかの知見を得た。
著者
松崎 健太郎
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

暑熱暴露により、ラット視床下部におけるBrdU陽性細胞数が顕著に増加した。さらに、暑熱暴露によって誘導されたBrdU陽性細胞の一部は抗NeuN抗体によって染色され、その数は暑熱暴露開始後33日から43日の間に顕著に増加した。これらの結果より、ラット視床下部の神経前駆細胞は暑熱暴露により分裂が促進されることが明らかになった。また、暑熱暴露によって分裂した神経前駆細胞は暴露開始30日以降に機能的な成熟神経細胞に分化することが推察された。長期暑熱馴化の形成に視床下部神経新生が関与する可能性を考えた。
著者
植田 宏昭
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成17年度では、熱帯アジアモンスーン地域での気候変動について、日変化・季節変化・年々変動さらには地球温暖化を含む長期変動スケールの研究を行った。使用したデータは客観解析データ(GAME再解析,NCEP,ERA40)、衛星リモートセンシングデータ(TRMM,NOAA)などで、大気海洋結合モデル、海洋1.5層モデルなどの数値モデルと組み合わせて包括的な研究を実施した。個別の成果は下記の通りである:1)IPCC-AR4にむけた複数の地球温暖化数値実験(排出シナリオはSRESA1-B)の結果に基づき、モンスーン降水量の将来変化とその要因について、モンスーン強度、熱帯循環、水蒸気収支などの観点から調査した。解析には8つのモデルを用いた。地球温暖化時には日本を含むモンスーン域の降水量は広域で増える傾向にある。しかしながらモンスーン西風気流は弱くなっており、パラドックスが生じている。この理由として、モンスーン域への水蒸気輸送の増加の寄与が明らかとなった。2)ERA40、NCEP/NCAR再解析データを用いて、インドシナ半島における非断熱加熱の時空間構造とトレンドを調べた。インドシナ半島ではモンスーン期間の始まりと終わりの年2回、積雲対流が多雨をもたらす。雨は春よりも秋に強まる傾向があるが、いづれも風が比較的弱く東側からの水蒸気フラックスの流入がある時期であった。対照的に風が強い7〜8月には地面からの蒸発が顕著であった。どちらのデータを用いても気候学的な特徴は同様に見られたが、トレンドに関しては一貫性のある結果は得られていない。この原因のひとつにはモデルに含まれるバイアスが考えられる。3)インド洋の海面水温はENSOの影響を強く受け、全域で昇温することが知られている。一方、ダイポールモードと呼ばれる東西非対称の海面水温(SST)偏差の発生が指摘されるようになり、ENSOとは独立した存在だと考えられていた。我々は大気海洋結合モデル(CGCM)にEl Ninoの海洋温度を季節を変えて挿入するという実験を行い、夏にEl Ninoが現れた場合は東西非対称海面水温偏差を、一方秋に現れた場合は全域昇温することを証明した。このことからこれらの海面水温偏差の発生にはモンスーン循環とENSOの影響の季節的な結合過程が主因として考えられる。
著者
矢口 直道
出版者
岐阜市立女子短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度は、調査データの整理と考察に努めた。成果の一部は、『ホイサラ多神格寺院の平面構成』と題した論文にまとめ、鈴木博之・石山修・伊藤毅・山岸常人編、「シリーズ都市・建築・歴史 第2巻 古代社会の崩壊」(東京大学出版会、2005年)の第4章(pp.237-308)として、発表した。ここでは、従前の研究成果に本研究費によって行った2度に渡る現地調査の知見を加えて、ホイサラ朝を中心としてデカン高原の諸ヒンドゥー王朝の寺院を構成する室の形状と配置に着目し、政治的、宗教的背景をふまえて寺院の平面構成を論じた。まず、寺院本殿を構成する各室の平面形態との関連をみることにより,複雑な平面類型の寺院内部の様相を理解することができることを述べた。これに加えて、本研究の課題である宗教建築の左右対称性に関して、寺院にまつられた神格と寺院の入口の位置に着目することによって、主祠堂にいたる軸線に対して対称、非対称を論ずることができると指摘した上で、複数の神格をまつる多神格寺院の平面は、同宗派の神格をまつる寺院では複数の祠堂が対称に配置され、異種の神格をまつる重層信仰寺院では非対称に配置される傾向にあると述べた。具体的には最も吉兆な西方にシヴァ神をまつり、それに準ずる入口正面にヴィシュヌ神をまつることが多く、当時の宗教的背景を勘案すると、シヴァ派の優位を確立しながらヴィシュヌ信仰を取込んだヒエラルキカルな建築表現であると結論づけた。これは成果の一部であるが、このような見地からインド寺院建築を勘案した研究はほとんどなく、複雑な平面形が特徴の一つである中世ヒンドゥー教寺院を理解するため一つの考え方であろうと考える。
著者
右田 王介
出版者
国立成育医療センター(研究所)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

先天代謝異常症では、近年造血幹細胞移植や酵素補充療法といった根本的治療が可能となり、早期診断が急務となってきている。しかし、病因遺伝子が明らかであり遺伝子検査が未発症もしくは発症早期の診断の有力な根拠となりうるにもかかわらず、実際的な低コスト・迅速な遺伝子検査体制については、いまだ検討段階にある。本研究では遺伝子変異の新しい検査方法について検討し、将来の遺伝子検査体制の開発をめざした。・遺伝子変異スクリーニング法の確立10の遺伝子(ATP8B1, ABCB11, JAG1, OTCD, IDS, GUSB, IDUA, FGFR3,DMD,FCMD)についてPCR増幅法を確立した。簡便な検査を目指すため全エクソンに対し温度設定、使用ポリメラーゼなどについて、まったく同一条件としたPCR条件の確立をめざした。全てのアンプリコンを全く同一の条件に統一つることはできなかったが、1遺伝子あたり1〜3条件に集約できた。これにより、予めPCR反応に必要なプライマーのセットを準備し、患者DNA検体とPCR試薬の混合物を添加するだけで半自動的に遺伝子変異探索の検討ができるようになった。・スクリーニング法の評価これまでに遺伝子解析が行われた既知の遺伝子変異をもつDNA検体を用いて、DHPLC法およびリシークエンシング・アレイ法による変異検索の検出検討を行った。直接シーケンス法による遺伝子変異の検出率と比較した。研究申請段階では、未確立であったアレイ技術によるリシークエンシング・アレイ法による解析についても検討し、キャピラリー式の直接シークエンス法と同等の検出力をもつことが確認できた。・遺伝子検査システムの確立これら新規遺伝子解析法を併用した遺伝子検査システムを、遺伝子変異が未知の検体へ応用を開始した。全国の医療施設からのムコ多糖症、OTC欠損症など受け入れて検査を開始した。・遺伝子検査システムの応用本研究では、PCR条件を画一化することによって半自動化した検査体制の確立が期待できることを検証した。各疾患の病因遺伝子にある全エクソンのプライマーセットをあらかじめ準備したPCR用プレートを作製し、臨床的にある遺伝性疾患が疑われた際に、患者DNAサンプルとPCR試薬のミックスをこのプレートに投入することで、遺伝子の検討を迅速に行える。この方法は、アレイ技術による解析にも応用でき有用な方法と考えられた。今後もより迅速で確実な先天疾患の遺伝子診断システムの拡充にむけた検討が必要と思われる
著者
山本 勝
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

Venus-1ike AGCMを用いて,超回転や大気波動の自転傾斜角依存性を調べた(Yamamoto and Takahashi 2007, GRL).金星条件では,自転傾斜角が大きくなるにつれて超回転が弱くなる.自転傾斜角が小さい場合,Gieraschメカニズムにより,効率よく角運動量が上方輸送され,100 m/s程度の高速超回転が形成維持される.また,数万日周期の変動も見られる.自転傾斜角を10度から20度に大きくするにつれて,超回転は小さくなる.さらに,自転傾斜角を増大させると,超回転は小さくなり,20m/s程度の値に漸近する.このパラメーター領域では,加熱域の季節変化に対応して,東西流や子午面循環も大きく季節変化するが,数万日の長周期変動はほとんど見られなくなる.この場合,冬至や夏至で角運動量上方輸送効率が落ちるので,超回転が弱くなる.これまで,自転速度や南北加熱差が金星超回転の重要なパラメーターであると思われていたが,自転傾斜角も非常に重要であることがわかった.惑星スケール波が金星中層大気大循環に及ぼす役割や雲加熱に対する大循環や波動のsensitivityを調べるために,金星中層大気GCMも開発した(Yamamoto and Takahashi 2007, EPS).赤道域のスーパーローテーションは潮汐波によって維持されるが,中層大気全体の角運動量収支に関しては子午面循環による角運動量上方輸送と波による下降輸送によって維持される。つまり,雲層上端赤道域の局所的な角運動量バランスに関しては潮汐波による加速(潮汐説)が重要であるが,中層大気全体では子午面循環による角運動量鉛直輸送(ギーラッシ説)が重要であった.
著者
松井 太
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

西暦9〜14世紀に属する中央アジア・新疆地域出土の古代ウイグル語世俗文書のなかから,特に税役制度に関係する社会経済文書群を文献学的に解読し,歴史学的考察の基礎となる校訂テキストを準備した。特に,税役徴発を命じる行政文書群については,近日中に英文で資料集として出版する予定である。また,その他の個別の諸種文書(免税特権許可状,契約文書など)を解読校訂しつつ,その歴史的背景となる税役制度の分析を試みた。