著者
土橋 宜典
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は、ポイントモデルを用いた仮想物体の高精度輝度計算、空・雲の高速表示の研究を行った。さらに、画像だけでなく、音まで加えることで仮想空間のリアリティの向上を図った。それぞれについて、概要を述べる。・ポイントモデルによる仮想物体の表示本研究では、ポイントサンプルジオメトリのための相互反射計算法を開発した。サンプル点の集合で表現された3次元物体からメッシュを発生させることなく相互反射計算を行う。メッシュ構築の手間を軽減し、記憶容量の削減が実現できる。・空の高速表示空の色を忠実に表現するために,天空光の輝度計算を多重散乱まで考慮して行う必要があるが,この多重散乱の計算は非常に複雑であり,膨大な計算コストがかかってしまう.本研究では,光の多重散乱の計算を効率よく行う手法を開発した。大気を仮想的な層(サンプリングシェル)に分割し,それらの層上での微粒子による散乱光の輝度分布を散乱マップと呼ぶテクスチャとして扱うことで,グラフィクスハードウェアを効果的に使用した手法を開発した.・雲の高速表示流体シミュレーションなどで得られる雲密度のボリュームデータを可視化するためには、光源方向の光の減衰とおよび視点方向の光の減衰を考えなければならない.従来法では、ボリュームデータを光源方向と視点方向にそれぞれ垂直にスライスを取ることによって減衰の計算を行っていた.本稿ではシャドウ・ビュースライスという光源方向と視点方向間のスライスを取ることにより、二つの計算のプロセスを統合し、従来法よりも計算コストを削減した手法を提案する.・炎の音のシミュレーション本研究では、炎によって生じる音のシミュレーション手法を提案する。炎の音は流体中の渦の非定常運動が主原因であるため、流体解析結果から渦度分布の時間変化から計算する。
著者
藤本 明宏
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、車両熱および凍結防止剤散布の影響をそれぞれ組み込んだ熱・水分収支による路面雪氷状態モデル(車両熱モデルおよび凍結防止剤モデル)を構築し、実験結果との比較からモデルの妥当性を検証した。車両熱モデルによる計算結果は、乾燥路面温度の実測値、圧雪路面の融解過程における雪氷厚および雪氷密度の実測値とそれぞれ良好に一致した。凍結防止剤モデルの計算結果は、凍結防止剤散布路面の凍結および融解過程における舗装温度および塩分濃度の実験値と概ね一致した。本研究により、車両熱と凍結防止剤を考慮して路面温度および路面雪氷状態を計算することが可能になった。
著者
吉野 純
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

昨年度に引き続き,構築されたバランス台風モデルを用いて,台風強度と環境場との関係についての統計的解析を行った。その結果,台風の十分な強度発達のためには,高い海水面温度環境のみならず,定常に達するまでの十分な経過時間(台風発生から140時間以上)を要することが理解された。経過時間の不十分な台風は,陸地や強い風の鉛直シアーの影響を受けて定常に達する前に減衰してしまうことが明らかとなった。すなわち,台風の発生位置や進路までもが,間接的には台風強度に影響を及ぼしていると言い換えられる。また,これらの統計解析の結果に基づき,個々の台風のピーク時の強度を台風発生時に瞬時に推定できる回帰関係式を提案し,リアルタイム台風災害ハザードマップの構築が可能となる画期的な結果を得た。更に,これらの知見に基づき,非定常な台風強度変化を評価できる台風強度予測システムを構築した。気象モデルMM5から得られる台風の環境場(海水面温度,対流圏界面温度,水蒸気プロファイル,風の鉛直シアー,海洋混合層深等)に関する情報を入力値とすることで,低い計算機資源の下で台風の内部構造とその強度が予測可能となった。本システムを用いて実事例として1999年の全台風の強度予測実験を行い,精度検証することで,平均バイアス誤差±5hPa以内で台風強度予測が可能であることを実証した。以上より,今日まで台風予測において問題となっていた1)空間解像度の問題,2)モデル定式化の問題,3)初期値の問題,のうち1)と2)の問題が本研究により解決され,高精度かつ経済的に台風予測が可能となった。依然として3)の問題が残されるが,更なる高精度化のための今後の最重要検討課題であると言える。
著者
吉野 純
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,独自開発した大気-海洋-波浪結合モデルと台風渦位ボーガスを用いることで,伊勢湾における現在・将来気候における可能最大高潮の力学的評価を行った.現在気候においては,伊勢湾台風時の太平洋上の海水面温度29.0℃を設定することで,紀伊半島上陸時の可能最低気圧は930hPaとなり,名古屋港での可能最大高潮(潮位偏差)は4.5mとなることで,伊勢湾台風時に観測された潮位偏差3.55mを大きく上回ることが明らかとなった.また,将来気候においては,2099年9月(A1Bシナリオ)の太平洋上の月平均海水面温度30.2℃を設定することで,上陸時の可能最低気圧は905hPaとなり,名古屋港における可能最大高潮は伊勢湾台風の倍近い6.5mとなるとこと明らかとなり,現状の計画潮位を大きく上回る可能性が示唆された.
著者
中原 史生
出版者
常磐大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

ハクジラ類における鳴音の個体群変異を明らかにすること、個体群に特徴的な音響パラメーターの特性を把握することを目的として、北海道室蘭市沖、千葉県銚子沖、東京都小笠原諸島父島周辺海域、アクアワールド茨城県大洗水族館、沖縄美ら海水族館において鳴音調査を行った。野外では鯨類の遭遇頻度が低く、十分な調査を行うことはできなかったが、飼育個体から多くのデータを得ることができた。昨年度までに蓄積したデータにバンドウイルカ、ミナミハンドウイルカ、オキゴンドウ、コビレゴンドウ、マッコウクジラの鳴音データを加えて解析を行ったところ、バンドウイルカ、ミナミハンドウイルカ、コビレゴンドウのホイッスルにおいて個体群間で差異がみられた。判別分析の結果、各種とも70%以上の正答率で判別が可能であった。上記をふまえ、平成15年度に数値解析プログラムMATLABを用いて作成したプロトタイプ鳴音判別プログラムの再検討を行った。鳴音判別プログラムを用いた種判別はかなりの精度で行えるようになったが、個体群判別という点では、まだまだ十分な信頼性を得ることはできなかった。今後さらに判別精度を高めるために、継続して研究を行っていく必要がある。これまでの研究成果について、日本動物行動学会、海洋音響学会「声を利用した海洋生物の音響観測部会」において発表を行った。また、これらの成果はFisheries Science誌、Marine Mammal Science誌へ投稿準備中である。
著者
平尾 和洋
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

研究完成年である2003年度については、2002年度までに行った(1)チョデ・カンポン・ロモマゴンカンポンの80年代以降の改善経過、(2)中心的建築家グループの活動内容、(3)現在の住民属性・行動観察・近隣関係・住宅改善意識調査の結果を踏まえ、a)全体の研究の取りまとめ・論文の完結・そのための再調査、b)今後の改善運動への指針の明確化、c)未だ曖昧であるロモマゴンとその協力者(以下RMGと呼称)の活動が現在の居住環境改善に如何に影響を与えたかを明らかにするための再調査、以上3点の作業を行った。具体的には下記の内容が03年度研究実績である。1.論文:2000以降の調査結果をチョデカンポンの概要、カンポン改善経過と住民属性、教育・コミュニティー活動と近隣関係、居住空間と改善意向の4つの観点から取りまとめ、日本建築学会計画系論文集に査読・発表した。査読過程で指摘をうけた、ロモカンポン調査結果とチョデ川流域カンポン全体調査のデータ比較を新に行い、ロモカンポンの空間・経済・就労・学歴面での貧困さ、ならびに今なお残存するアーバンインボリュージョンの特性をもっていることを明らかにした。2.改善活動指針:住宅の改善プロセスを類型化し住民意織との対応から、調理室・寝室・リビングの順に今後改善すべきことが明らかとなった。また集落としてのゴミ収集・トイレ整備が必要であることがわかった。3.RMGの活動に対する住民評価の実態:学歴・職業・モラル・治安面での改善影響のあるなしに関する全50世帯に対する対面式アンケートを実施した。その結果、治安と学歴改普でRMGの影響を7割以上の世帯が指摘していることがわかった。またモラル・職業改善についても4割以上の世帯に影響のあることを明らかにした。
著者
田中 圭
出版者
大分大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

近年の少子化や過疎化の進行による小中学校の統廃合・廃校により、貴重な大型木造建築である木造校舎がまだ使用できる状態にもかかわらず、次々に取り壊されてきており、現在も多くの木造校舎がその危機に瀕している。その理由として、耐震性の不備と補強・補修の費用が高額であることなどを挙げる自治体が多い。そこで本研究では、昨年度に引き続き、大分市近郊の山間地域にあり、地域交流施設の一部としての利活用が検討されている木造校舎について、詳細な調査を実施し、その老朽度・耐震性などについて詳細な検討を行うとともに、補強方法についての提案を行った。また一方で、昨年度からの本研究で明らかとなった古い木造校舎特有の構造である「接合部が釘止めのみの大断面筋違を持つ耐力壁」と「大断面梁、束ね柱、方杖から構成される柱-梁接合部」について、実際に使用されている寸法、接合を再現した試験体を製作し、その耐震性能を確認する実験を行った。これにより「大断面筋違を持つ耐力壁」は、現在の建築基準法に定められている断面寸法による壁倍率に比べ極端に小さい壁倍率しか発揮できず、現状では危険である可能性が明らかとなった。しかし、その後行った同耐力壁の補強方法を検討する実験により、研究代表者らが開発した接合法を補強に応用することで、比較的簡単な施工で現在の基準と同等の耐震性能まで補強することができることが明らかとなった。また、「柱一梁接合部」の実験により、この接合部は最大耐力は比較的大きいものの、初期剛性が低く、これによりラーメン構造と考えた場合の水平耐力が低くなることが明らかとなった。このように本研究の調査により、現存する木造校舎の実態とその特徴が把握できたとともに、実験により、その性能も定量的に確認し、補強方法とその効果についても確認提案を行った。今後も研究を進め、補強の必要な木造校舎それぞれについて、現実的な補強方法などを提案していきたいと考えている。
著者
宮口 英夫
出版者
創価大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本年は、2008年に相模湾を直撃ならびに接近した台風13号(SINLAKU)について、台風接近時からの海洋環境と生物群集の動態を調査した。研究計画通りに試料採集を行うことができた台風13号(SINLAKU)について、台風接近時からの海洋環境と生物群集の動態を調査し、台風通過の生物生産に及ぼす影響を評価することを目的とした。台風最接近時には約100mm激しい豪雨が見られ、約10PSUの急激な塩分低下を引き起こした。栄養塩濃度は、台風通過直後に、本調査海域の同時期に見られる通常値に比べ、硝酸+亜硝酸は約3倍、燐酸は約3倍、珪酸は約7倍、増加した。台風に伴う豪雨-暴風によって、陸水の流入や海水の鉛直混合により栄養塩の供給が起こり、さらに、台風通過後5-7日後に、全栄養塩濃度の減少が見られ、植物プランクトン生産に栄養塩が使われたことが考えられた。クロロフィルα量は、台風通過直後は低い値を示していたが、3-5日後に、同時期の通常値に比べ約5倍の、最大値12mg m^<-3>を示した。クロロフィルα量の変動には10-180μmの大型植物プランクトンの分画が寄与していた。植物プランクトン群集構造に関しては、台風通過前は珪藻Skeletonema costatumが優占し、台風通過直後(8月19-20日)に珪藻S. costatum、Pseudo-nitzschia multistriata、Thalasionema nitzchioides、Leptocylindrus minimus、渦鞭毛藻Protoperidinium minutum、Prorocentrum gracileなど比較的多くの種で大部分を占めた。第1ピーク時にS. costatumが優占した後、S. costatumの減少に伴い、Chaetoceros tenuissimusが優占した。第2ピーク以降はLeptocylindrus danicusが優占した。以上のように、台風通過後の群集構造にはS. costatum、C. tenuissimus、L. danicusが大きく寄与しており、これら3種による優占種の変遷がみられた。MDSプロットによる解析の結果、A(8月16-18日;台風通過前、8月25-27日;最大細胞密度時)、B(8月19,20日;台風通過直後)、C(8月21日;低細胞密度1)、D(8月28日;低細胞密度2)、E(8月29-30日;細胞密度第2ピーク時)に分類された。台風通過に伴う植物プランクトン群集構造は、A→B→C→D→A→Eと変遷していったと考えられた。台風通過により、植物プランクトンの群集構造は、一時的に激変したが、約5日後には台風通過前の群集構造に戻った。過去観測した台風の結果と同様の傾向が見られた。
著者
栗田 英幸
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

特に1970年代以降、途上国において、天然資源の豊かさと社会的繁栄との間に負の相関関係が顕著に見られるようになってきている。この現象は、「資源の呪い」と呼ばれ、さまざまな社会科学の分野において、メカニズムと処方箋の積極的な解明努力が行われてきた。その結果、「資源の呪い」研究は、不安定な資源収入に大きく規定されたマクロ経済管理の失敗へと収斂してきている。「資源の呪い」現象が、マクロ経済管理の困難さ故に民主制度の軽視と汚職を生じさせ、結果として「呪い」現象を生じさせているというのである。しかし、資源諸国において民主制度を変質させ、汚職を一般化している要因は、マクロ管理の失敗のみではない。ミクロから見るならば、資源開発という膨大な被影響住民の意思の無視を伴わざるを得ない特徴が、民主制度の進展を妨げ、変質させる、もうひとつの大きな要因なのである。本研究は、フィリピンの鉱山、ダム、石炭火力発電所、灌漑に関する開発プロジェクトの事例を整理し、大規模資源開発が合意形成の困難さ故に民主制度を変質させていることを、論理的およびケーススタディーの積み上げから説明した上で、NGOの近年のグローカルに張り巡らされたネットワークを通した活動から得られるようになってきた民主制度変質修正に関する成果を通して、「資源の呪い」克服の処方箋として、地域住民を起点とし、NGOのネットワークを媒介として多国籍企業本国や消費国の市民とつながり、民主主義や環境、人権を正当化の根拠として機能するグローカルネットワークが必要であることを明らかにした。
著者
竹本 太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、森林官であった齋藤音策の足跡を追うことで、明治から昭和初期にかけての近代林政が現場との対話により変化し、現在の緑化運動にも結びつく、植民地朝鮮における緑化の技術と思想が生まれたことを明らかにした。
著者
西城戸 誠
出版者
法政大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

研究最終年度において、北海道浜頓別町、北海道石狩町、秋田県秋田市、潟上市、青森県鰺ケ沢町の市民風車立地点における市民活動、市民参加の調査と、2006年7月実施の石狩市民風車の出資者へのアンケート調査を踏まえて、現時点における市民風車事業・運動の成果と課題を考察した。その結果、市民風車事業・運動の社会的認知の上昇と、出資者が初期3風車の出資者に比べ、風車へのコミットメントを求める動機や経済的な点を重視する傾向が見いだせた。また市民風車事業・運動は、相対的に環境意識は高いが具体的な行動にまでは至らなかった人々に対して、具体的な貢献の窓口として機能している。また、それぞれの市民風車立地点の市民活動の実態は、風車の設立経緯や立地点での活動実績の違いによって異なったが、市民風車と出資者との関係性を構築する試みや、市民風車立地点における地域活動を活性化することの重要性とその困難さの一端が明らかになった。従来の研究のほとんどは市民風車事業・運動の出資者に対してのみ注目が当てられていたが、市民風車事業・運動が市民風車らしくなるためには、立地点を含んださまざまな市民活動、運動の存在が重要であることが明らかになった。一方、市民風車事業・運動のインキュベーター的な存在であった生活クラブ生協北海道に対する継続的な調査によって、生活クラブ生協の反・脱原発運動の展開と現状の課題について考察した。さらに、2006年に市民風車の出資を募集した大間・秋田・波崎・海上の4つの風車への出資者調査を実施し、現在、分析をしているところである。これらの調査研究を踏まえて、市民風車事業・運動の現段階と今後の可能性、課題を考察していく予定である。
著者
藤原 洋志
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では効用関数の考え方を応用したオンライン最適化問題を考察する。ミクロ経済学では、次元の異なる量を組み合わせて効用関数が定義されている。しかし、アルゴリズムの性能評価尺度としてはほとんど使われてこなかった。我々は、制約条件として扱われていたものを目的関数に取り入れたり、性能評価尺度の期待値を目的関数としたりして問題再設定を行う。結果、一方向通貨交換問題に対しては、どのような効用関数の設定をするかに依存して最適戦略が大きく変わってくることを実証できた。また、オンライン・オフライン混合ジョブスケジューリング問題に対しては実用的かつ頑強なアルゴリズムが得られた。
著者
松田 忠典
出版者
豊田工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の成果は、大きく分けて二つある。一つが、構造化特異値の計算法に関する成果、もう一つがロバスト安定な行列システム設計に関する成果である。2009年度は、これらの研究成果を大阪市で行われた国内学会「第38回制御理論シンポジウム」と米国で行われた国際会議「The Twelfth IASTED International Conference on Intelligent Systems and Control」で発表した。2010年度は、台湾・台北市で行われた国際会議「SICE2010 Annual Conference」、台湾・台中市の国立中興大学で行われたワークショップ「Workshop on Recent Advances in Control and Robotics」、そして大阪市で行われた国内学会「第39回制御理論シンポジウム」で成果発表を行った。さらに、構造化特異値の計算法に関する成果についての査読付き学術論文が2010年12月に「システム制御情報学会論文誌」に掲載された。
著者
松田 憲之
出版者
財団法人東京都医学研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで2番目に高い羅患率を示す老人性神経変性疾患である.病気が発症する仕組みの解明と,その知見を活かした根本的な治療法の確立が強く求められているが,その発症機構については諸説あって,定説が存在していなかった。われわれは本研究を通じて,「神経細胞内でミトコンドリアの品質管理が破綻し、膜電位に異常を持つミトコンドリアが細胞内に蓄積することによって,若年性のパーキンソン病が発症する」ということを明らかにした。また,MG53というユビキチンリガーゼが細胞膜の修復に関与することも明らかにした。
著者
朱 穎
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

自動車エレクトロニクス技術の開発における社会的技術的要因の確定、および技術開発の不確実性に対して、システムインテグレーターの自動車メーカーとしてどのように認識しているのか、という二つの問題について考察を行った。技術革新の社会的要因について、既存研究の中で技術の社会構成論が取り上げられているが、こうした議論が広範であるため、イノベーション発生の特定要因を分析するには限界がある。それに対しては、本研究ではテクノロジカール・フレームという分析視点を導入し、技術革新における関連社会集団の認識枠組みの構造とその相互作用に注目した。さらに、自動車技術の電動化が企業能力に与えるインパクトについて、非連続的イノベーションの文脈から考察した。既存企業が新規技術に対応できる原因について、組織ルーティンと経営資源の依存性という既存研究に加えて、マネジメント認識という認識フレームの重要性に注目した。イノベーションの非連続性という文脈から企業能力の重要性を考える際に、経営資源の蓄積という従来のリソースベースト・ビューがもつ静態的観点ではなく、経営資源の「探索」活動と「活用」活動を両立できるような動態的観点が重要である。
著者
吉田 彰宏
出版者
(財)野口研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

グリーンケミストリーを指向した環境調和型反応の開発が強く求められている昨今,グリーンな溶媒として知られるフルオラス溶媒とそれに固定化されリサイクル可能な触媒を用いる反応の開発は,重要な課題めひとつである。昨年度は,フルオラス二相系における三級アルコールのエステル化反応およびプリンス反応の開発,さらには新しいフルオラス溶媒の探索を行った。本年度は,フルオラスビスマス(III)触媒を用いたフランのDiels-Alder反応やフルオラスハフニウム(IV)触媒を用いたFriedel-Craftsアルキル化型反応の検討,さらにはフルオラスメソポーラスシリカゲルの開発を行った。また,新しいフルオラス溶媒の探索も引き続き行った。まず,フランのDiels-Alder反応であるが,原系の安定性が故に逆反応が起こりやすいため,3日〜1ヶ月ほどかけて反応させることが少なくないことが知られている反応である。そこで,反応時間の大幅な短縮を目的に種々のフルオラスルイス酸触媒を用いたフルオラス二相系反応を試みたところ,フラン溶媒中ビスマス(III)アミド触媒が高活性を示し,中程度の収率で付加環化体が得られた。副生物を減らすため,すなわち活性を制御するためにルイス塩基を共存させた系も検討したが,残念ながら収率の低下のみが観測された。メソポーラスシリカはゾル-ゲル法によりR_fCH_2CH_2Si(OEt)_3を用いて調製した。その結果,市販されているFluorous Technologies製のFluoroFlash^<【○!R】>よりおよそ1.5倍高いフルオラス親和性を示すことを見出した。フルオラス溶媒の探索では,DuPont製のKrytox Kシリーズ(K5〜K7)が高沸点且つ比較的低粘度であり,有機溶媒へのリーチングが検出限界以下という効果的な溶媒であることを見出した。
著者
吉田 英治
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

Positron Emission Tomography (PET)装置はガンの診断や神経伝達物質の画像化など高度な臨床や生体機能の解明に欠かせないツールになっている。また小動物を使った遺伝子発現などの分子イメージングの分野でも今後主導的な役割となることが期待されている。そのため、より高感度で信号対ノイズ比(S/N)が高いPET装置が求められている。本研究はPET装置におけるノイズ成分である偶発・散乱同時計数の割合を低減することでPET装置のS/Nを改善するために、結晶内多重散乱に対して消滅放射線の入射方向を大まかに特定することで偶発同時計数の低減する手法及び3次元検出器を用いて上層(被検者に近い方)のシンチレータを散乱線の吸収体とみなすことによって下層のエネルギーウィンドウを広げ、装置感度を高める手法(DEEW法)を検討した。256チャンネルの位置弁別方光電子増倍管の出力を独立して読み出せる検出器系によるモンテカルロによるシミュレーションの結果では約8割の結晶内多重散乱の識別能を達成した。全身用GSO-PET装置を模擬したシミュレーションの結果から、DEEW法を用いれば10から25%の感度向上を見込めることが期待される。
著者
野上 大作
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

ブラックホールに降着円盤から突然大質量の降着が起こって増光し、光速に近いジェットが吹き出すX線新星や、同じく降着円盤起源の爆発現象を起こす矮新星は、ジェット現象や降着円盤の性質を調べる格好の材料である。しかし、これらはいつどの天体で爆発現象が発生するか予期できないために、その最初期の部分の観測は難しい。だがここにこそ、その機構の解明の為の鍵が隠されている。そこであらかじめプログラムした数百の天体を晴れた日は毎晩自動でモニタし、特異な現象を発見後すぐに通報するシステムを開発することを計画した。これにより降着円盤系の増光現象の最初期の挙動を明らかにし、増光やジェット現象の機構の解明を行う。本研究課題では前年度まで30cm望遠鏡によりほぼ自動モニタシステムが稼動することは確認し、モニタする天体に関しても、低質量X線連星10個程度、矮新星200個程度でリストアップは大方終了していた。最終年度の今期は、まず最終的な動作のチェックを行い、一晩で100〜150個ほどの天体のデータが得られるシステムの構築は完成した。その後、自動モニタシステムを飛騨天文台新館屋上に設置し、梅雨明けに本観測に移行した。このシステムにおいて実際に150個ほどの天体の日々の光度曲線を取得し、データベースを作成した。この中で20個ほどの矮新星の爆発現象を捉え、そのうち4回の爆発はこのシステムにおいて世界で他に先駆けて増光を捕らえたものである。その中で1個の矮新星についてはすぐにフォローアップ観測を呼びかけ、世界的な分光観測キャンペーンを組織した。その結果、爆発初期の降着円盤において約1000km/秒の円盤風が吹き出す証拠を見つけ、降着円盤の厚みが爆発の極大に向けて厚くなり、その後徐々に元に戻っていくことで解釈される、可視光分光観測としては初の観測結果を得た。これは爆発初期を捉えるこのシステムでこそ得られた成果である。しかし申請した金額からの減額によってこのシステムを保護するドームを導入することはできず、天候の変化が激しく特に冬季に非常に厳しい気象状況となる飛騨で定常的に安定して運用することはできず、当初の予定よりもデータを収集できなかったのは残念であった。
著者
植田 宏昭
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

大気-海洋混合層結合モデルによる瞬間的CO_2倍増実験より、全球降水量変動におけるCO_2倍増の直接効果を地表面・大気熱収支の観点から評価した。温室効果ガスであるCO_2の増加により、大気よりも熱容量の大きい地表面が加熱される一方、水蒸気とCO_2のオーバーラップ効果は正味地表面放射の変化を抑制するため、それを補うように蒸発による潜熱フラックスが減少する。この結果、CO_2倍増の直接効果として、降水量の減少が引き起こされる。
著者
佐瀬 祥平
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

メタフェニレンデンドリマー骨格を活用したボウル型カルベン配位子を有する様々な遷移金属錯体を合成した。ニッケル・パラジウムを有する錯体は、それぞれアルキンの三量化や鈴木-宮浦クロスカップリングの触媒として機能した。銀錯体は、カルベン供与体として機能し、種々の遷移金属錯体の良好な前駆体となることが明らかとなった。