著者
桐山 伸也
出版者
静岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、子どもの発話行動の観察から、円滑な対人関係の形成に関する音声コミュニケーションスキルの発達分析を行った。1~4歳の2, 400発話からなる感情意図ラベル付きの発話行動データベースを構築し、感情意図ラベルの時間変化パターンを手掛かりに特徴的な行動事例を抽出できるマルチモーダル発話行動分析システムを構築した。子どもの行動発達理解に役立つ映像事例を保育者向けの子育て支援知識映像コンテンツに仕立て、子育て支援Webサイトで公開した。
著者
辰巳 直也
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

がん細胞で高発現し抗アポトーシス機能を果たしているWT1遺伝子が,抗癌剤ドキソルビシン処理によるアポトーシス誘導時に、その濃度依存的に発現抑制をうけることを見出した。次に、抗癌剤誘導性アポトーシス時に発現が亢進し、WT1の発現を抑制することによりアポトーシス経路を活性化しうるmicroRNA(miRNA)の同定を試みた。低分子RNAクローニング法により、抗癌剤処理により発現誘導をうける低分子RNAを22種同定し、それらのなかからmiR-A(仮称)がWT1を標的としアポトーシスを制御しうることを明らかにした。さらにmiR-Aは肺癌患者の予後マーカーになりうることを明らかにした。
著者
山田 哲也
出版者
東京農工大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,RNAi法による花弁老化関連遺伝子(InVPE,InPSR26,InPSR29,InPSR42)の不活性化がアサガオの花弁老化に及ぼす影響を評価し,2種類の遺伝子(InPSR26,InPSR29)が花弁老化を抑制する機能を果たしていることを明らかにした.他の2種類の遺伝子(InVPE,InPSR42)の機能は解明できなかったが,相同性検索により,これらの遺伝子が花弁のプログラム細胞死に深く関与することが示唆された.
著者
本勝 千歳
出版者
宮崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

自家不和合性であるヒュウガナツの枝変わり系統'西内小夏'の自家和合化および種子のしいな化の発生機構の知見を得るために、花粉発芽率、花粉径測定、フローサイトメトリー分析を行った。その結果、'西内小夏'の花粉に通常の花粉よりも大きな巨大花粉が見られ、また'西内小夏'×'西内小夏'で得られた正常種子由来の実生は全て四倍体であった。これらの結果は、'西内小夏'が非還元花粉を形成していることを示唆しており、これが'西内小夏'の自家和合化,種子のしいな化に関与していると考えられた。
著者
高本 教之
出版者
東京都立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1988年から刊行中のR.ロイスとPシュテングレ編のベルリン(現在はブランデンブルク)版クライスト全集では、2005年に『詩集』、2006年に『プリンツ・フリードリヒ・フォン・ボムブルク』が公刊された。本研究「19世紀ドイツ散文文学の『身振り』の研究」は、散文作品を主対象とするものであるが、同時にまた、新版全集により開かれるクライスト読解の新たな可能性を探ることをも目的とするため、公刊された両文献も考察の対象となった。かっまた、同様の観点から刊行済みの他の戯曲作品も考察の対象とすることとなった。そこでは、散文作品『聖ドミンゴ島の婚約』における主人公の名前の書き換え(Gustav-August)のような、研究者に対し新たな読解を要請する文字どおり劇的な変更は見られなかった。たとえば戯曲『ペンテジレーア』においては、OdysseusがUlyssesに変わるなど、ギリシア名からローマ名への変更が認められるものの、これは通常作者が両者を区別していなかったことの証左に過ぎないものと解される。しかし、セリフにおいてもbeim Zeusとbeim Jupiterがテクスト上に並置されている点については、韻律の問題としてばかりでなく、作者の「書き方」(Schreibvefahren)を探る上でも、看過しえないものと考える。本年は発表しうる研究成果はあげられなかったが、クライストの本領である戯曲を視野に入れた研究へと、考察の射程は広がりつつある。
著者
大江 猛
出版者
地方独立行政法人大阪市立工業研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ナイロン繊維を段ボール箱などのケースに長期間保存すると、木材や紙に含まれる芳香族アルデヒド類とポリマー末端のアミノ基が反応することによって、繊維が黄変することが知られている。そこで、本研究では、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドの代替として、より安全な糖類との反応を利用したナイロン繊維の黄変防止技術の開発に取り組んだ。その結果、有機溶媒あるいはハイドロサルファイトを含む水溶液中で、還元糖とナイロン繊維の末端アミノ基を反応させることによって、副反応で生成するメラノイジンによる着色を防ぎながら、ナイロン繊維へ黄変防止機能を付与することができた。
著者
柴田 伊津子
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

Rho-kinase阻害薬ファスジルが虚血再灌流障害の一つである心筋スタニングに対する心筋保護効果について検討した。ファスジルの虚血前投与、及び虚血再灌流直後の投与は心筋スタニングからの回復を改善したが虚血再灌流30分後からの投与では改善しなかった。ファスジルは心筋スタニングに対して保護作用があり、その保護作用は心筋への直接作用ではなく、薬理学的プレもしくはポストコンディショニング効果であることが証明された。
著者
古本 淳一
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

気温を高い時間分解能で観測できるレーダーリモートセンシング技術であるRASS(Radio Acoustic Sounding System)の性能を向上させ従来観測できなかったより微細な気温観測を可能とした。複数のレーダー周波数観測により鉛直分解能を向上させる周波数領域干渉計映像法をRASS観測に応用する新アルゴリズムを開発しMUレーダーを用いて従来150mに留まっていた鉛直分解能を60mまで向上させることに成功した。また、沖縄におけるRASSの自動連続観測の実現や、従来観測が難しかった接地境界層領域への展開を進めた。
著者
山口 幸代
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究課題は、企業の社会的責任、という近年その重要性が注目されている問題について、会社法制という視点からのアプローチを試みるというものであった。企業をとりまく利害関係者の中で、企業が社会的責任を果たすべき対象として今回焦点を当てたのは企業の労働力を担う従業員である。具体的なアプローチの手法としては、会社との関係で従業員にもたらされた損害に対しては会社だけでなく役員にも責任を負わせることで、健全な企業運営を担うことに対する経営者の責任意識を高めることにつながることが期待できると考えられる。
著者
鈴木 隆史
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

勾配を持つポテンシャル中に閉じ込めたボーズ粒子系で現れる有限温度下の秩序状態について調べた。まず調和ポテンシャル中の擬2次元希薄ボーズ気体の有限温度特性についてProjectedグロスピタエフスキー方程式を数値的に解いて調べた。その結果、位相相関関数の減衰冪がポテンシャル中心付近で現れるコヒーレント(凝縮)領域とその周囲に現れるインコヒーレント(非凝縮)領域の境界でコスタリッツ-サウレス型の臨界特性を示すことがわかった。続いて一軸方向にのみポテンシャル勾配を持つハードコア2次元拡張ボーズハバードモデルで現れる秩序状態の空間分布について量子モンテカルロ法を用いて調べた。この系は一様ポテンシャル下で化学ポテンシャルを変化させた場合に固体状態から超流動状態へ一次転移を示す。ポテンシャルの勾配を変えた場合に固体状態と超流動状態の境界付近で現れる秩序状態に注目した。その結果ポテンシャル勾配の形を変化させても両者は相分離し、局所密度近似の結果、すなわち一様系で観測される一次転移の振る舞いが相境界で見られることが分かった。
著者
清水 知子
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

現代英国における多文化主義の可能性と限界について以下の知見を得ることができた。1)新自由主義社会においていかに移民が分断され、「国民」が再編されたか、その構造の変化について明らかにした、2)多文化主義の根底にあるリベラリズム、世俗主義の暴力性がどのように主流の見解として社会のなかで機能しているのかをメディアの表象から明らかにした、3)上記1)、2)のなかから高まった他者への不信感と監視社 ・ュ策への傾倒を考察し、現代社会におけるコミュニティの実態がどのように変化しているのかを明らかにした。
著者
松井 永子
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

アレルギーの遺伝的要因として、アレルギー疾患で高値となることが多い血清IgE産生に関わるサイトカインシグナル伝達系の中で、特にIgE産生の抑制系に関与する蛋白質の遺伝子に着目し、アレルギー疾患発症の原因遺伝子について検討した。1、IgE産生抑制系に関与する遺伝子変異の同定アレルギー患者においてPHA刺激によるPBMCsから産生されるIFN-γ産生量を検討したところ、IFN-γ産生量は血清IgE値と負の相関関係を示すことが明らかになった。さらに、PHA刺激によるIFN-γ産生量とIL-12やIL-18などのサイトカインで刺激した場合のIFN-γ産生量を比較すると、IFN-γ産生量に解離がみられるアレルギー患者が存在した。そこで、Th1サイトカインのシグナル伝達系のなかでIL-12Rβ1鎖、β2鎖、IL-18Rα鎖、IFN-γR1鎖遺伝子の遺伝子配列を検討したところ、9つの変異が検出された。2、インベーダーアッセイ法による各変異遺伝子の検出検出されたIL-12Rβ1鎖、IL-12Rβ2鎖、IL-18Rα鎖、およびIFN-γR1鎖遺伝子における変異の出現頻度を検討した。IL-12Rβ1鎖遺伝子における3つのミスセンス変異において、M365T変異、およびG378R変異の出現頻度はアレルギー群に有意(p=0.023)に高く、R361W変異はアレルギー群にのみ変異が検出された。IL-12Rβ2鎖遺伝子の4つの変異において、A604V変異の出現頻度はコントロール群に比較して、アレルギー群において有意(p<0.002)に高く、R313G変異、1856 del 91変異、およびH720R変異はアレルギー群のみに検出された。Il-18Rα鎖遺伝子950 del 3変異においてはアレルギー群に有意(p=0.035)に高く変異が出現していた。IFN-γR1鎖遺伝子L467P変異はアレルギー群のみに変異が検出された(p=0.007)。今後、アレルギー素因となる遺伝子変異をパネル化し、組み合わせることにより、同定された遺伝子異常に対応した治療方法を選択することができる。このことにより、より効果的なアレルギー疾患の治療を行うことが可能であると思われる。さらには原因遺伝子異常がアレルギー疾患を惹起するメカニズムを明らかにすることにより、かかるメカニズムに対応した、アレルギーの治療薬の開発することも可能であると考える。
著者
宮村 浩子
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,1枚の画像を観察するだけで,3次元時系列医用画像データの情報を確認することができる情報提示法を提案した.大量のデータを診断する必要がある医療の場において,少ない枚数で精度良く診断できることは大変有意義である.本研究成果を用いることで,複数方向から観察したときに得られる情報や,時間変化を伴う情報を1枚の静止画から得られるので,少ない枚数で精度良い診断を実現する.また,この静止画像を「ボリュームナビゲーションシステム」として利用することで,適切な可視化結果を得て,診断できるフレームワークも提案した.
著者
鍋山 祥子
出版者
山口大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年は、「遠距離介護とコミュニティの関連」を明らかにする研究計画の最終年次にあたり、特に山口市内に居住し、別居子を持つ高齢者に対する聞き取り調査をおこなった。そのなかから、地域の人的資源(近隣住民とのつながり)に生きがいを見いだしながらも、別居家族(特に子ども)に精神的な拠り所を求めている老親の姿が明らかになった。これまで、遠距離介護に関するインタビュー調査の傾向として、遠距離介護をおこなっている別居子に対する調査が中心であった。そこで、本研究において、別居子を持ちながら、地域で生活を続ける高齢者へのインタビュー調査が実施できたことは、遠距離介護を多角的に考えるうえで、非常に意義のあるものとなった。そして、初年度の別居子に対する質問紙調査と、次年度の遠距離介護を実践している別居子へのインタビュー調査、さらに今年度の老親へのインタビュー調査の結果から、老親の住む地域が遠距離介護支援のためにできることと、望ましいサービス体制、並びに地域が遠距離介護支援に取り組むことのメリットなどを明らかにした。本研究によって達成した、老親の住む地域における遠距離介護支援の望ましいあり方とその必要性についての認識を基盤として、今後は、別居子のワーク・ライフ・バランスと遠距離介護との関係に焦点をあてる。そして、地域における遠距離介護支援が別居子のワーク・ライフ・バランスにどう影響するのかという分析をおこない、超高齢社会における労働政策と地域福祉政策を考察していきたい。
著者
和田 七夕子
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1) イネのエピジェネティック遺伝ジャポニカ種イネを5-アザデオキシシチジン処理することにより、人工的な脱メチル化を起こし、10年以上に亘り継代栽培した。このうち表現型の固定が著しいLine-2について、MSAPスクリーニングにより低メチル化領域を単離し、その遺伝について解析をおこなった。得られた遺伝子座のひとつ、Xa21に似たXa21Gは、野生型ではXa21G転写産物は見られず、Line-2でのみ蓄積が見られた。Xa21はXanthomonas orvzaeに対する抵抗性遺伝子である。シザーディップ法による検定の結果、野生型ではXanthomonas oryzaeに対し罹病性であったが、Line-2は抵抗性を示した。Xa21Gの低メチル化と抵抗性はLine-2の各世代において見られた。この結果より、Xa21Gにおいて、メチル化パターンが遺伝すること、それと遺伝子発現との相関が示された。以上の結果をAnnals of botanyに報告した。2) DNAメチル化酵素NtMET1の解析タバコのDNAメチル化酵素であるNtMET1についで解析を行った。過剰発現株を用いた解析より、細胞分裂の異常による形態形成の変化がみられた。細胞分裂の各期におけるNtMET1タンパク質の局在観察の結果、メチル化DNA結合タンパク質MBD5と、細胞内局在の変化において同様の挙動を示した。また、Pull-down法による解析より、NtMET1は、Ranタンパク質を介してMBD5と複合体を形成する可能性が示唆された。以上の結果をAnnals of botanyに報告した。
著者
福島 朋子
出版者
いわき明星大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、高齢者向け生涯講座の修了生のその後を追跡し、生涯学習講座修了後の社会活動と、修了者自身の生き甲斐やQOLなどとの関連を把握することを目的とするものである。調査は、M県内にある高齢者(60歳以上)向けの生涯学習講座をフィールドとした。この講座では、修了後、同窓会組織だけでなく、修了生の自発的なサークル活動に対して場所・人的資源の提供など支援を積極的に行っている。19年度の主な結果は以下の通りであった。(1)講座修了後の社会活動への参加は高く、(2)昨年度と同様、社会活動の積極的な者ほど、生を甲斐感や生活満足感が高い傾向にある、(3)高齢者が主催・参加できる社会活動が高齢者の意欲に反していまだ限られており、今後の活動のあり方が課題の一つとして浮かび上がってきている、(4)高齢者が主催する社会活動へ参加した子どもや若者たちは、概ねその活動内容を評価しており、また高齢者に対する良い印象を持つ傾向にあった。これまでの研究をまとめると、高齢者自身は、これまでの経験を生かして社会との接点を持ちたい、社会の資源でありたいという気持ちを持っている。社会活動の時間・場所の提供をすることで、高齢者は積極的に次世代への働きかけを行い、また自分のQOLを高める傾向にある。そして、この活動は下の世代の高齢者観も変化させるきっかけとなっているようである。今後、日本は高齢者が増加し、高齢化社会へと向かいつつある。多くの高齢者を資源としていかに活用できるかが、今後の課題といえよう。
著者
陳 キュウ
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

現状では、膨大なゲノムの配列データがGenBank、EMBL、DDBJなどのデータベースに蓄積されている。しかも、まだ遺伝子データベースのデータ量が指数関数的に増加している。ホモロジー検索は、進化・系統分類の解析、蛋白質の機能解析などを目的とした配列解析の最も基本的な手法の一つとなっている。現在最も頑健なアルゴリズムとして、Smith-Waterman(SW)アルゴリズムがあるが、その計算を行うことは時間的に現実的ではない。遺伝子データベースのデータ量が急速に増えている現状を考えると、さらに実行時間の大幅な増加を意味する。現状では、精度と検索速度が両立できる塩基配列の高速検索法はまだ実現されていない。本研究では、必要最小限のSWアルゴリズムによるアライメント処理と組み合わせたベクトル量子化による高精度かつ高速な塩基配列の検索手法を実現した。
著者
喜多 正幸
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は樹上で黄熟するタイプのウメ品種‘織姫'と収穫後(落果後)に黄熟するタイプの品種‘南高'を材料に、全カロテノイド含量の増加に対応して発現の増大が認められるフィトエン合成酵素遺伝子のゲノム配列を比較した。その結果、‘南高'では3末近傍の第5イントロンで約50塩基の欠損が認められた。また、フィトエン合成酵素遺伝子の上流域及びコード領域のPCR-RFLPにより、両品種間で多型が得られた。‘織姫'ב南高'の交配個体では両親に由来する断片を併せ持つヘテロ型を示す多型が得られ、これら交配個体のカロテノイド蓄積特性を調べることによって、多型のタイプからカロテノイド蓄積特性を推察できると考えられた。即ち、フィトエン合成酵素遺伝子の上流域及びコード領域のPCR-RFLPによる分子多型を用いて果実の成熟初期からカロテノイドを蓄積し、樹上で黄熟する系統を育成段階の早期から選抜できる可能性が開けた。また黄熟とエチレンの関わりについて、‘織姫'及び`‘南高'の果実を経時的にサンプリングして生成するエチレン量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、`南高は樹上ではエチレンを生成せず、収穫後に著しいエチレンの生成が認められたのに対し、‘織姫'は黄熟とともにエチレン生成が樹上の果実でも行われていた。また、‘南高'の収穫後果実に対してエチレンのシグナル伝達系の阻害剤である1-メチルシクロプロペン(1-MCP)処理やプロピレン処理を行った結果、エチレン存在下でフィトエン合成酵素遺伝子の発現は増大していた。一方、1-MCP処理により、エチレン生成を抑制してもフィトエン合成酵素遺伝子の発現は無処理に比して低いもののシグナルが検出された。これらのことから、ウメ果実のフィトエン合成酵素遺伝子の発現は、エチレンの影響を受けるものの、完全にはエチレンの制御下にはないことが推測された。
著者
鎌倉 良成
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

開放系の境界条件を設定した量子格子気体オートマトン(QLGA)法を微細電子デバイスの解析に応用した。QLGAは時間依存Schrodinger方程式をセルオートマトンにより解くシミュレーション方式で、量子コンピュータ上のアプリケーションとして期待されている。我々は本手法を古典計算機上でエミュレートしその有効性を探ってきた。特に本年度は、これまでに我々が考案した吸収境界条件アルゴリズムを利用して、ナノスケールMOSFET中の2次元または3次元電子波伝播の可視化ならびに透過係数計算を行った。まず、薄膜SOI内における電子波伝播解析を行った。ボディ部の厚みが5nm以下の薄膜MOSFETにおいては、Si/SiO_2界面の凹凸スケールがデバイスサイズに近づくため、その揺らぎによる影響が平均化されず、ドレイン電流特性のばらつきとなって顕在化する可能性があることがわかった。そのほか、極薄ゲート絶縁膜を透過する漏れ電流の界面凹凸依存性の解析も行った。ゲート面積の小さな10nm級の微細素子においては、凹凸が漏れ電流値の素子間ばらつきに大きな影響を及ぼすことが判明した。さらに、凹凸による散乱のため、透過係数が界面横方向の電子運動量成分にも依存することを示した。このようにQLGAの応用例を示すことで、本方式が今後重要となるナノデバイス中の電子伝播シミュレーションに対しても有効な手段となりうることを実証することができた。
著者
永山 貴宏
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

近赤外線観測により、銀緯<±5°のグレートアトラクター領域に37. 5平方度に対して、銀河サーベイを行った。その結果、4360個の銀河を検出した。この領域にはABELL3627、CIZA1324. 7-5736といった大銀河団が存在していることが知られていたが、本研究においては、これらに匹敵するような新たな銀河団を発見することはできなかった。光度関数の比較の結果、Ksバンド10等付近に銀河数の超過を見出した。この銀河数超過を質量に換算すると、~1015太陽質量に相当する。この値は、近年のHIやX線での観測に基づき示された値と矛盾しないが、当初、示されたグレートアトラクターの質量の約10分の1である。