著者
川端 浩平
出版者
関西学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、いわゆるエスニックコミュニティではなく、郊外地域などの非集住的環境で生活している在日コリアンの若い世代に対する参与観察と聞き取り調査をもとに、彼・彼女らが経験する差別・排除の現代的諸相を明らかにした。在日コリアンの個人化は、在日コリアンの自然消滅や彼・彼女らのエスニック・アイデンティティの喪失を意味するものではなく、むしろエスニックなものへの希求が高まっていることが明らかとなった。
著者
新井 清美
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、プレアルコホリックを早期発見し、早期介入するためのアセスメントツールを作成することであった。この目的に沿って、平成24年度にはアルコール依存症者とその家族に行ったインタビュー調査から、プレアルコホリックに該当すると考えられる質問項目を抽出し、質問紙を作成した。この質問紙を用いて平成25年度には医療機関に所属する者、平成26年度にはアルコール依存症者とその家族の自助グループである断酒会に所属する者に対して質問紙調査を行った。これらの調査によりプレアルコホリックの段階を明らかとし、飲酒のリスクに応じた支援の在り方について検討を行った。
著者
谷田部 かなか 武者 春樹 河野 照茂 田口 芳雄 大山 正 糟谷 里美 藤谷 博人 油井 直子 立石 圭祐 寺脇 史子
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

特性不安の高い競技特性では、あがり条件によって生化学指標変動に相違(p<0.05)がみられ、練習内容や測定時期による精神負荷や身体的疲労に特異的傾向が示された。また、情緒不安定特性別による弁別・判断・選択時間の遅延(p<0.05)については、発育期世代では更にパフォーマンスに対して影響を与えることが示唆された。一方で個々の就寝時間を含めた生活時間、対人関係の改善を行うだけでも、行動や感情を適切に調節する効果的な指導となり、外傷・障害の第一予防に繋がると考えられた。
著者
小澤 京子
出版者
和洋女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、1780-1830年代のフランスの近代的都市空間に体現された時代特有の認識枠組を、「流れ」という鍵概念の下に明らかにした。具体的には、革命期からサン・シモン主義までの時代の都市構想において、「運搬・移動のための動線」や「建築物内の換気・循環」がいかに論じられたか、結果としていかなる空間が計画されたかを明らかにした。さらに、都市構想・建築理論への同時代の生命科学・化学的言説の影響が、その背景にあったことを見出した。そして、以上のような都市構想と科学的知の連関が、「労働する身体の管理」や「時間の認識と効率的な活用」という「近代的」な生権力や時間感覚に、いかに作用していたのかを解明した。
著者
松本 佐保姫
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

肥満における脂肪組織の炎症が脂肪組織機能異常を引き起こし、ひいてはメタボリックシンドロームの発症基盤になっていると考えられるが、それらのメカニズムにはまだ多く不明な点が残されている。一方で、肥満、すなわち脂肪組織の増大は、脂肪細胞の肥大化(hypertrophy)と、脂肪細胞数の増加(hyperplasia)の2つがリンクして起きる現象である。脂肪細胞数の増加は脂肪幹細胞が増殖分化することによって新たな脂肪細胞が作られる現象と考えられる。肥大化した脂肪組織から様々な炎症性サイトカインが分泌され、全身性の炎症が惹起される可能性が示唆されているが、肥満症において、脂肪細胞肥大と脂肪細胞の増殖分化がどのように関わり合い、脂肪組織炎症、ひいては機能異常を来しているのかに関しては、まったく知見が得られていない。今までの検討により、DNA修復タンパクRad51は脂肪細胞分化と協調する細胞分裂(mitotic clonal expansion)を正に制御して脂肪細胞の増殖・分化を促進する。脂肪組織において、Rad51は脂肪幹細胞で強く発現し、Rad51^<+/->マウスの脂肪組織をフローサイトメトリーで解析すると、野生型に比べて脂肪幹細胞の数が少なく、増殖・分化能も低下していた。さらに、Rad51^<+/->マウスに高脂肪食を負荷すると、野生型と同様に脂肪細胞の肥大は惹起されるが、脂肪細胞新生が著明に抑制されていた。加えて、Rad51^<+/->マウスでは肥満した脂肪組織へのマクロファージ浸潤が著しく抑制され、炎症性サイトカインの発現も低下していた。これらの結果から、脂肪幹細胞の増殖と分化が、脂肪組織炎症の惹起に必須である可能性が示された。さらなる詳細な検討により、脂肪幹細胞は高脂肪食負荷などの肥満刺激が加わって急速に増殖分化すると、炎症性サイトカインを強く発現する細胞へと変異していく可能性が示唆された。即ち、我々の今までの研究により、脂肪幹細胞増殖分化が、脂肪組織の炎症を惹起しているというまったく新しいメカニズムの存在が明らかとなった。
著者
林 知里
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

単胎児と多胎児の父親における子育て観、母性神話に対する価値観、育児参加を促進する要因を明らかにすることを目的とし、アンケート調査を実施。「父親の子育て参加度」を従属変数に回帰モデルを作成した結果、子どもが 0 歳時点では、「多胎」「妻の妊婦健診に付き添ったことがある」「子育ての悩みを友人・同僚に相談したことがある」「妻は、子育てに関する自分の頑張りを誉めてくれた」「子育ては、男女ともに協力して行うものである」「子どもを育てることに余り関心が持てない」で回帰係数が有意であることが確認された。
著者
仙石 泰雄
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,過去の100kmマラソンのレース結果を元にレースペースの類型化を行い,高いパフォーマンス発揮につながるレースペースパターンを明らかにすることを目的とした.さらに,100kmマラソン走行中の血糖変動を連続的に測定し,レースペース変動との関係を明らかにすることを目的とした.その結果,100kmマラソンレースを7時間以内でゴールする一流ウルトラマラソンランナーは100kmマラソンレース中の走速度変動を小さく抑えて走行していることが明らかとなった.また,9時間以降にゴールするランナーは50km以降に急激に速度が低下する特徴が示された.さらに,7時間以内でゴールしたランナーは,9時間でゴールしたランナーと比較して,レース中のエネルギー摂取量が少ないものの,血糖低下率は小さいことが明らかとなった.このことより,100kmマラソンにおいてトップパフォーマンスを達成するためには,レースペース変動を小さくすることが重要であり,レースペース変動の抑制には,エネルギー摂取量の多少に関わらず血糖値の低下を防ぐ能力および効果的なエネルギー補給のタイミングが関与している可能性が示された.
著者
真野 祥子
出版者
愛媛県立医療技術大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

学童期のADHD児を持つ母親を対象とし,マターナルアタッチメント形成プロセスの特徴について検討した。12人の母親に半構成的面接を実施し,児の行動と養育について母親自身の情動体験を含めて聞き取りを行った。ADHDの症状は母親のネガティブな感情を引出し,問題行動に直面するとネガティブな感情が生起し養育態度も厳格になりがちであったが,その一方で可愛いと思える様子の時にはポジティブな気持ちとなっていたように,アンビバレントな状態が特徴的であった。マターナルアタッチメントの状態は,ルールに沿った行動が求められる学校生活が開始されると悪化していた。この時期のマターナルアタッチメントは母子の生活史の中で最も悪い状態となるのであろう。ADHD児の母親は診断を肯定的に受け止めていた。診断後,母親は自責の念から解放され,本を読んだり親の会に参加し,疾患に関する知識を得ていた。その結果,問題行動が起こった時はその原因を冷静に考えることができ,行動の見方と養育態度も変化したと実感していた。また,診断後,ポジティブなエピソードは顕著に増加し,小学校入学後に大幅に増加したネガティブなエピソードは診断後に減少しており,小学校入学と診断は母親にとって転機であると言える。しかし,将来への不安は依然として大きなままであり,最終的には学校教育終了後,就職や結婚等の社会的自立について将来の見通しが持てず不安を抱いていた。
著者
東 幸代
出版者
滋賀県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、近畿三角地帯を対象とし、近世期に発生した地震の被害と人々の対応を解明するものである。対象地域を(A)福井県・滋賀県・京都府エリア、(B)三重県・岐阜県・愛知県エリア、(C)大阪府・奈良県・兵庫県エリアの3エリアに分割し、3ヶ年にわたって検討した。その結果、(A)~(C)のいずれのエリアでも有感地震の頻度は高く、地震の際の人々の対応には共通した行動パターンが確認されるが、災害教訓の伝承に関しては、被害地の立地などに基づく地域的差違が顕著であることが明らかになった。
著者
玉利 麻紀
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

リビングライブラリーは、様々な社会的マイノリティが「生きている本」となり、「読者」である一般の人々と直接対話することを通して、誤解や偏見への気づく機会をつくり、多様性への理解を図る活動である。本研究では、リビングライブラリーを実施し、以下の二つのことを明らかにすることを目的とする。第一に、「生きている本」の語りを質的分析することで、より実感のある社会的マイノリティの自己概念モデルを構築することである(交付申請書における研究1)。第二に、「読者」として参加した一般の人々を対象に、障害等、社会的マイノリティの背景や特性への理解を促進する要因を明らかにすることである(交付申請書における研究3)。本研究では、平成23年度に、一年目の試みとして、リビングライブラリーを3回開催し、予備調査を行った。各回において、(1)開催日、(2)場所、(3)「生きている本」参加者数(延べ数)、(4)「読者」参加者数(延べ数)は下記の通りであった。第1回:(1)6月3-4日、(2)東京都、(3)29名、(4)234名。第2回:(1)7月12日、(2)東京都、(3)2名、(4)39名。第3回:(1)12月17-18日、(2)京都府、(3)27名、(4)240名。上記の内、研究1では全ての回を、研究3では規模の等しい第1回と第3回を予備調査の対象とした。研究1では、調査への協力に同意の得られた社会的マイノリティに対し、それぞれの背景に関する「受容」に焦点を当て、インタビューを行なった。研究3では、「読者」として参加した人々に対し、社会的マイノリティへの心理的距離感に焦点を当て、アンケート調査(無記名式)を行った。研究1、3の予備調査結果から、それぞれ、「他者」との対話のタイミングや状況、質がポジティブな態度変容へつながる可能性が見いだされた。本結果を精緻化するために、調査項目を修正し、疑似場面を用いての実験を追加することで、社会的マイノリティの社会的排除の解消策を提案できると考えられる。
著者
岩間 一弘
出版者
千葉商科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、(1)日本人の上海観光と上海の観光都市化、(2)上海におけるクリスマス消費のユニークな大衆化過程、(3)上海における日本式食文化の現地化に関して、それぞれ具体的な研究成果を得た。 日本での中国趣味は 1920~30 年代に盛んとなり、当時の日本人旅行者が抱いた西洋的な上海の幻想は 1980 年代に継承された。1920 年代から上海でクリスマスディナーやクリスマスプレゼントが普及したが、それに対する消費者の認識や位置づけは欧米や日本と異なった。また、現在の上海の和食チェーンレストランでは日本と異なるメニューが提供され、日本と異なる食べ方によって受け入れられている場合が多い。
著者
中川 書子
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

新しく開発された「硝酸の高感度窒素・三酸素同位体定量法」を使って、日本国内の陸水(降水、地下水、湖水)および周辺海洋域における水環境中の硝酸について、その窒素・三酸素同位体組成を実測し、硝酸の起源および挙動の解析を行った。
著者
田窪 千子
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

N-acetyltransferase human (NATH)は、タンパク質の翻訳後修飾に関与し、アポトーシスへの関与が報告されている。ヒト扁平上皮癌細胞において5フルオロウラシルの(5-FU)の細胞毒性へのNATHの関与を調べた。5-FUは量依存的および時間依存的にNATH 遺伝子発現量を減少させた。他の抗癌剤ではNATH 遺伝子発現量は減少しなかった。NATHが5-FUの細胞毒性で重要な役割を果たすのを示す事が示唆された。
著者
長野 和雄
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

強風沿海集落である祝島でのアンケート結果から、集落中央部では風が弱く昔からネリヘイ(石塀)やサシイタ(窓部に装備する防風板)が元々少ないこと、室面積の確保や瓦が飛ばないRC造の優位性からネリヘイを備える伝統住宅が減っていること等が示された。居住面では、ネリヘイ・葺土がある場合に夏でも涼しく、先の気候観測結果を裏付けていた。簾や葦簀の使用(機器によらない環境調節)、朝涼み・夕涼み(環境選択行為)などの暑熱耐暑行動がよく行われていたが、ヒヤリングでは最近は少なくなったと回答され、ネリヘイだけでなくこれらの調節行為も減る傾向にあることが示された。同じ強風沿海集落でも有明海北西岸には、寄棟屋根が鍵状に折れ曲がり、棟がコの字型に配されたクド造りが数多く残る。ほとんどの遺構で屋根谷部が北北東を向くが、気象観測データより夏季の卓越風向は概ね南、冬季は北西であり、むしろ北東から東に屋根谷を向けた方が防風性能は高いことが明らかとなった。一方、現存する22件の軒出・庇高を実測し、オモテへの日照到達距離を算出した結果、採光の観点からは北、次いで北北東に屋根谷を向けた場合が都合よく、北東まで東に振れると冬季の日照導入・夏季の日射遮蔽ともに悪化することが明らかとなった。すなわち、採光と耐風の両面から最もバランスの良い方位となっており、民家の巧みな気候適応性能が明らかになった。これらの室内での総合的快適性を評価するため、複数物理要素の複合影響実験により新たな等快適線図を作成した。すなわち、22名の被験者を寒冷および騒音に曝露した実験から、気温と騒音レベルから快適度を数量的に表す等値線図を寒冷側に拡張した。男女16名の被験者を光源照度・色温度、気温、周囲色彩の組合せ条件に曝露した実験から、色温度と照度の組合せによる快適範囲を新たに示した。
著者
中野 朋子
出版者
(財)大阪市文化財協会
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度は、結髪師の南登美子氏とともに、大阪歴史博物館所蔵『御ぐしあげ』のうちの7種、つまり「水からやっこ」「まるわ」「三徳わげ」「たてひょうご」「ばひわげ」「よこひょうご」「やよい」の再現を実施、この再現で平成16年度からの再現数が22種となった。結髪再現に臨んでは、それぞれの髪型の特徴および結髪手順や技術的側面等に関する充分な協議を行い、途中、手直しの必要な箇所等についても随時確認・修正を行いつつ制作をすすめた。それらの再現過程はできる限り、デジタルビデオおよび写真による撮影をおこない、今後予定している風俗史研究の検証資料として蓄積した。また平成17年度までの再現作業によって確認できた技術的事項の整理と再検討はじめるとともに、ポーラ文化研究所所蔵「容顔美艶考」等の調査を行ない、結髪と連関性の高い「化粧」の問題について考察を深めた。3月には、結髪再現の検証と基礎研究の成果報告を兼ねて「日本髪の源流を探る-江戸時代の大坂の結髪再現-」を開催し、自髪を使用した場合の結髪の手順等を確認するとともに、江戸時代の大坂の結髪文化の豊かさを広く知ってもらう機会とし、70人を超える観覧者の参加を得るとともに、自髪の結髪工程を確認しながらの撮影を行うことができた。なお、本研究の遂行過程において調査・検討を加えた大坂関連の錦絵から得た新知見を論文としてまとめ発表した(「錦絵に描かれたアットゥシ-大坂へもたらされたアイヌ風俗-」(『大阪歴史博物館研究紀要』第5号、2006年)。今後は、本研究で再現された結髪雛形および結髪工程の記録を博物館において積極的に公開することを予定している(平成19年秋頃)。また、蓄積された調査結果をもとに、江戸時代後期の大坂風俗に関して再検討を加え、成果を論文として報告していく。
著者
八木 陽一郎
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、中小同族企業の後継経営者がどのようにリーダーへと自己成長するかを定量的および定性的な調査を通じて明らかにすることである。定量的なデータを用いた研究を通じて、内省がリーダーの自己成長に重要な影響を及ぼす要因であることが明らかにされた。そして、定性的なデータを用いた研究を通じて、内省が深まるプロセスとして、1)判断の保留、2)他者の想いや背景を受け止める、3)問題の構造を深く探求する、4)自分がどうありたいのか問い直す、5)新たな対話を開始するという5段階のステップが見いだされた。
著者
井上 征矢
出版者
筑波技術大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

以下の3種の実験を聴覚障害者と健聴者の各10名に行い、光源色を用いた適切な情報提示について検討した。色と文字の探索実験では、色を色、色と文字、色文字、黒文字の4種の方法で提示し、ターゲット色を6色の中から瞬時に探すタスクを与えた。その結果、両被験者群ともに色や色文字の場合に回答が速いが、聴覚障害者は黒文字の場合にも健聴者ほど遅くなく、両者で視覚認識特性が異なる可能性が示された。また両被験者群ともに赤より青に対する反応が速く、LCDモニタで白背景の場合には青の誘目性が物体色の場合ほど低くない可能性も示された。駅空間画像における探索実験では、内照式サインを含む駅空間画像を提示し、ターゲットの方向を瞬時に回答するタスクを与えた。駅空間画像には、サイン周辺の商業表示物の色や量、サイン情報の質や量が変数となる物を選んだ。その結果、両被験者群ともにサイン内に類似色がある(使用色修正が必要)、周辺にサインと類似色で高彩度の広告がある(商業表示物との棲み分けが必要)、同じ誘導色でも内照式サインと物体色で違う色に見える(色の微修正が必要)等の場合に回答が遅かった。聴覚障害者は誘導色に付記された文字が読みにくい場合に回答が遅く、色のみでなく文字までを確認する傾向が健聴者より強いことが示された。誘導色やピクトを使用する場合にも文字の可読性に配慮する必要がある。文字スクロールスピード調整実験では、電光文字提示装置を想定し、表示文字数、文字色、文型(一般的文章と名詞の羅列文章)を変数として文章を提示し、最も読みやすいスピードに調整するタスクを与えた。その結果、両被験者群ともに表示文宇数が少ないほど遅いスピードを好んだ。文字色や文型による顕著な差は得られなかった。聴覚障害者は大半の試行で健聴者より遅いスピードを好んだため、健聴者の感覚でスピード設定したスクロールは聴覚障害者には速すぎることも示された。
著者
大泉 匡史
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

神経ネットワークにおける情報の統合を測る指標である、「統合情報量」を情報理論、情報幾何学の枠組みから新たに導出した。これまで提案されてきた統合情報量の指標は、いくつかの数学的な問題点を抱えていたが、本研究において導出した新しい指標はそれらの問題点を解決したことになる。また、神経ネットワークの解析などで良く使われる、移動エントロピーやGranger因果性などの因果性を測る指標と統合情報量との関係性が明らかになり、統合情報量の直観的な理解が進んだ。提案した新しい指標をヒトのfMRIデータに適用し、意味のない刺激を見ている時は、意味のない刺激を見ている時に比べて統合情報量が低くなることを示した。
著者
川平 友規
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

複素力学系理論とは,複素数全体の集合(もしくはそれを拡張した空間)にある種の運動法則を与えた系を考え,その時間発展を解析する理論である.系の運動法則をわずかに変化させた場合,系全体が安定に変化する場合とカオス的に変化する場合があるが,じつは「ほとんどの場合」,安定していることが知られている.本研究では,その「ほとんど」を占めるものが何か特定することを目標とし,おもに幾何学的アプローチによる研究を行った.
著者
池田 龍二
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

チミジンホスホリラーゼ(TP)は、血管新生因子である血小板由来血管内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)と同一で、血管内皮細胞の遊走刺激活性を有し、低酸素で誘導されるアポトーシスに対し抵抗性を賦与する。これまでに我々は、TPおよびその基質であるチミジンの分解産物の2-デオキシ-D-リボースが、低酸素下でhypoxia-inducible factor 1 alpha(HIF-1α)のユビキチン化を促進することにより発現レベルを低下させることを見出している。本研究では、低酸素下での2-デオキシ-D-リボースによるHIF-1αの分解促進反応の分子機構を明らかにすることを目的として実験を行った。HIF-1αとvon-Hippel Lindau癌抑制遺伝子(pVHL)の結合に2-デオキシ-D-リボースが与える影響を調べるために細胞にHIF-1αとpVHLを強制発現させた後、細胞抽出液を採取し、pVHLの抗体で免疫沈降後、HIF-1αの抗体でイムノブロット解析を行ったところ、2-デオキシ-D-リボースは、低酸素下でのHIF-1αとpVHLの結合を強めていることが判明した。さらに、プロリン水酸化酵素(PHD)は、主に3種類(PHD1/2/3)存在しており、2-デオキシ-D-リボースがPHD1/2/3の発現に与える影響をRT-PCR法で検討したところ、PHD1/2/3の発現には影響を与えていなかった。次に、HIF-1αとPHD2の結合に2-デオキシ-D-リボースが与える影響を調べるために、HL-60細胞を2-デオキシ-D-リボースで処理し、正常酸素下および低酸素下で培養し、HIF-1αの抗体で免疫沈降後、PHD2の抗体でイムノブロット解析を行ったところ、2-デオキシ-D-リボースは、低酸素下でのHIF-1αとPHD2のタンパク質の結合を強めていることが判明した。HIF-1αとpVHL、HIF-1αとPHD2との結合を2-デオキシ-D-リボースがどのような分子機序で亢進するのか、さらなる探求が必要である。