著者
斎藤 一久
出版者
東京学芸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ドイツ連邦憲法裁判所の判例において、基本権の介入段階で、スティグマの効果を考慮する判例がいくつか出された。これはアメリカ憲法理論における法の表現的側面との類似性が見出しうる。しかしどのような種類の人権がその射程にあるのかについては未だ明確ではない。日本においても、政府の情報提供、国旗・国歌問題、生活保護の問題では、スティグマ効果を取り入れた基本権の理論構築も可能であると考えられる。
著者
稲本 隆平
出版者
香川大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

前庭と蝸牛の内外リンパ静水圧は同程度で、イソプロテレノールは前庭及び蝸牛の電位をそれぞれ変化させることなく、有意に前庭と蝸牛の内外いリンパ静水圧を上昇させた。イソプロテレノールによる前庭の内リンパ静水圧の最大変化量は蝸牛と比較して有意に小さかった。内リンパ嚢を閉塞した動物では、前庭内リンパ静水圧におけるイソプロテレノールの効果は蝸牛と同様に消失した。前庭と蝸牛では、イソプロテレノールは異なった方法で内リンパ静水圧を上昇させていると考えられる。
著者
北山 夕華
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、イングランドとスコットランドのシティズンシップ教育についての政策分析と現地調査により、両国におけるシティズンシップ教育政策の社会的・政治的背景について検討を進めた。両国に共通しているのは、グローバル化とそれにともなう共同体内部の文化的多様性の深化を受け、その対応をシティズンシップ教育が担っている点である。一方、連合王国(UK)、EUといったより上位の共同体との関係性や、文化的多様性をめぐる課題の違いが、両国の国民/市民概念の形成への姿勢に影響を与えていることが分かった。特にスコットランドにみられる国民国家をシティズンシップの第一義的な帰属先としないアプローチは、シティズンシップ教育におけるポスト・ナショナルな次元と多文化社会における統合が両立しうる可能性を示唆するものである。
著者
水川 克
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

グリオーマはグリア細胞由来の原発性脳腫瘍で、原発性脳腫瘍の約1/4を占める悪性脳腫瘍である。Olig2はグリア前駆細胞に発現し、オリゴデンドロサイトの分化に関与する転写因子である。しかし、Olig2はオリゴデンドログリオーマだけでなく、astrocytomaにも発現している。オリゴデンドログリオーマはアストロサイトーマよりも予後良好であることが知られており、オリゴデンドログリオーマではアストロサイトーマと遺伝子の発現パターンが異なっている。Olig2はグリア細胞の細胞周期を調節しているとも報告されている。そこで、悪性アストロサイトーマのうち、グリオブラストーマ(GBM)および退形成アストロサイトーマ(AA)でのOlig2の発現率と予後について詳細に検討し、Olig2遺伝子導入が治療ターゲットになりうるかについて検討した。(結果)対象はGBM : 43例、AA : 75例。118例のパラフィン包埋されたGBMあるいはAAの腫瘍サンプルを解析。症例は、1987~2007年に手術・治療を行い、追跡可能であった症例。平均Olig2陽性細胞率はGBM : 16. 0%(0~ 64. 7%)、AA : 45. 11%(0. 1~ 89%)であり、AAでは平均陽性細胞率が高かった。GBMではOlig2陽性細胞率の差による予後の差を認めなかったが、AAではOlig2陽性細胞率が40%以上と40%未満で分けると、生存期間中央値は40%以上の群で98. 6ヶ月、40%以下の群で30. 6ヶ月であり、2年生存率は40%以上の群で61%、40%以下の群で31%であり、有意に生存期間の延長を認めた。以上より、AAではOlig2発現細胞が多い方が予後良好である傾向があり、グリオーマにおいてOlig2を発現させることで、腫瘍の悪性度が低下する可能性があることが示唆された。(結論) Olig2の発現は、GBMよりもAAの方で有意に高く、Olig2の発現が高いAAは、発現量の低いAAに比べると、統計学的に生存期間が長かった。一方、GBMでは、Olig2の発現は予後と相関しなかった。以上より、AAではOlig2の発現を誘導することで、予後が改善する可能性があると思われた。
著者
新藤 浩伸
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、市民文化活動の支援方策の国際比較として、(1)文化政策、生涯学習政策における市民活動支援プログラム、(2)民間の文化活動支援ネットワーク、(3)劇場を含めた文化施設・機関の教育プログラムという三つの観点から、イギリス(平成23年度)、アメリカ(平成24年度)、EU(平成25年度)における文化施設および団体の訪問調査を実施した。調査からは、ハイカルチャーだけでなく、文化多様性を重視し、福祉等の関連領域も視野に入れた多様な文化活動支援がなされていること。そして、民間の文化活動支援ネットワークが緊密に市民文化活動への情報提供およびエンパワメントを実施していることが明らかになった。
著者
高瀬 将道
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

6次元球面に埋め込まれた3次元球面がすべて、1989年にデニス・ローズマンによって導入された部分多様体に沿うスピニングという操作で構成できることを示した。また、このような6次元球面に埋め込まれた3次元球面に対して定義されるある種のHopf不変量の取りうる値の考察を行った。さらに、3次元球面から4次元空間へのはめ込みに対して、そのボルディズム類をジェネリック写像による拡張に現れる特異点の幾何的情報から読み取る公式を与えた。
著者
天野 知幸
出版者
京都教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

プランゲ文庫に所蔵されている検閲資料やGHQ 占領下に地方で発行されていた新聞・雑誌メディアの記事内容やそれらの表現に対するGHQ/SCAP 検閲の実態を調査・分析することによって、占領下における地方の言論環境、表現・思想の特性、文化・思想の生成のありかた、さらにはGHQ/SCAP 検閲実態の多様性や言論統制の地方への浸透の様子について明らかにした。
著者
船曳 康子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

発達障害は個人差の大きい不均一な症候群の集合体である。このため、臨床・行動特性の分布を明らかにすることを目的とし、特性の解析、診断名(自閉性障害の知的障害有と無、アスペルガー障害、特定不能型広汎性発達障害(PDDNOS)、混合型ADHD、不注意優勢型ADHDとの関連の検証を行った。いずれの群でも群間差を認めない特性は睡眠リズムのみ、自閉症2群間では有意差のある特性はみられず、知的障害のない自閉症とAspergerの差は言語発達のみであった。AspergerとPDDNOSの差はPDD診断基準の中核のみで、PDDNOSと不注意優勢型ADHDの差はPDD要素が診断閾値を超えるかどうかであった。
著者
岩崎 基 片岡 洋行
出版者
国立がんセンター(研究所及び東病院臨床開発センター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ブラジル在住日系人のヘテロサイクリックアミン摂取量を把握するための質問票を開発し、加熱食品中のヘテロサイクリックアミン含有量データベースを作成するために、ブラジルでよく用いられる調理法を用いて肉・魚類を調理しヘテロサイクリックアミンの分析を行った。その結果、食材、調理法、焼き具合(3-4 段階)、マリネの有無、皮の有無などの条件別のデータベースが整備され、質問票により摂取量推定が可能となった。
著者
矢野 武志
出版者
宮崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

敗血症性ショックは、過度の血管拡張がもたらす持続的な低血圧状態であり、血圧の維持に難渋する場合が多い。血管拡張の原因物質は過剰な一酸化窒素であり、これは高度な炎症の結果発現した誘導型一酸化窒素合成酵素によって作り出される。過剰な一酸化窒素存在下ではカテコラミン類の感受性が低下し、有効な昇圧作用を得るためには多量に投与する必要がある。血管平滑筋の収縮と弛緩は、平滑筋構成タンパク質であるミオシン軽鎖のリン酸化および脱リン酸化によって引き起こされる。本研究では、ラットから摘出した大動脈を用いて、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素阻害薬の血管収縮作用について調べた。ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素阻害薬は濃度依存性に血管収縮作用を示し、一酸化窒素供与体であり血管拡張物質であるニトロプルシドナトリウム存在下でも血管収縮作用は変化しなかった。また、血行動態への影響を調べるため、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素阻害薬をラット生体モデルに経静脈的に投与したが、血圧と心拍数に変化は生じなかった。
著者
栗原 健夫
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

[目的]近年,貿易活動などにともなう侵入種の分布域拡大や,地球温暖化による生物分布域の高緯度地方への移動が懸念されている.しかし,その根拠となる大きな時空間規模の定量的データば,海洋底生生物では皆無に近い.そこで,沖縄〜北海道の太平洋岸の磯の貝類相について,以下の仮説を検証した:(1)1930年頃に1ヨ本に侵入してきたとされるムラサキイガイは,近年,分布域を拡大しているか? (2)ピザラガイ,イボニシなど19の優占種の分布域重心は近年北上しているか?[方法]沖縄〜北海道の21ヶ所の磯を定点とした.ここで環境庁は計4回,コドラート調査し(1978年と1984-6年との春・夏),本報告者ば計3回,同様の方法で再調査した(2005年夏と2006年春・夏).[結果]合計で約30万個体,344種の貝類を記録し,以下の解析結果を得た:(1)ムラサキイガイは70年代には九州〜東北地方の8定点に出現したが(3.6〜1048.4m^<-2>),80年代にはこのうち3定点だけに出現し(0.4〜870.2m^<-2>),2000年代にはほとんど出現しなかった(2006年春・夏の福島県において,1.3m^<-2>;他は0m^<-2>).(2)分布域重心の年変動傾向は,優占種間で有意に異なった.調査期間中に重心の北上した優占種は14種,そうでないものは5種だった.[考察]根絶策によらない侵入種分布域の極端な縮小という,報告例の乏しい現象を,本研究は明らかにした.この結果は,あいまいなデータにもとつく「侵入種の分布域拡大」という喧伝に見直しをせまる.また,本研究は,近年,多くの貝類優占種が北進していることを明らかにした.これは地球温暖化の影響を受けたものかもしれない.ただし,種それぞれが違う傾向を示したことに注意する必要がある.
著者
布原 佳奈
出版者
岐阜県立看護大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

目的:助産診断能力を高める分娩シュミレーションプログラムを開発する方法:助産師学生、助産実習の臨床指導者および教員を対象に、助産実習で困難だったこと、学内演習で強化すべき点について、質問紙調査あるいは半構成的面接を行った。調査結果をふまえて初散布の映像教材を作成した。助産師学生を対象に映像教材を用いた分娩シュミレーションプラグラムを実施後、評価のための質問紙調査を行った。結果:"産婦の健康状態の診断"、"分娩進行状態の診断"、"分娩経過の予測"、"分娩進行に応じた産婦と家族のケア"について、9名全員が本プログラムは役に立つと回答した。結論:本プログラムは産婦をイメージ化しながら、リアルタイムでアセスメントし、助産ケアを考えることができ、助産診断能力が高められることが示唆された。
著者
星野 友
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、分子量・分子量分布・分子構造が限りなく均一なペプチド結合性の多官能性高分子(モノクローナルプラスチック抗体)を調製する方法を確立する事を目的とした。始めにリビングラジカル重合法により多官能性の高分子ライブラリーを調製し、標的ペプチドであるメリチンと相互作用する為に最低限必要な官能基の数および種類を特定した。次にアフィニテイー精製法によりメリチンと強く結合する構造を有する高分子のみを分離できる事を明らかにした。最後に、ブロック共重合体ライブラリーを調製し、メリチンと強く結合する配列を有する高分子を同定した。
著者
加藤 京里
出版者
東京女子医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

後頸部温罨法のランダム化比較試験では、入院患者60名を対象に実施し「手掌温を上昇させ、夜間睡眠の促進、自覚症状の軽減、気持ちの安定につながり、入院患者がより生活しやすいように心身を整え、回復を促すきっかけとなる」後頸部温罨法の快を説明するモデルを開発した。臨床経験5年以上の病棟看護師に行ったアンケート調査では、温熱を用いた看護技術実施中に「温かくて気持ちいい」患者は「安楽」な状態となり、「休息」と「活力の向上」の両者がもたらされた後に「生活改善」がはかられ、「症状緩和」「気持ちの安定」が生じることがモデルで説明された。
著者
小林 健太
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

非凸領域において有限要素法を用いて数値計算を行う場合,領域の非凸性によって厳密解の滑らかさが失われ,精度の良い数値計算が困難になるケースが多い.このような場合については,解の特異性を表現するような特異関数を有限要素基底に用いたり,非凸な角でメッシュを細かく切るメッシュリファインメントを用いたりすることによって精度を改善できることが知られている.これらの手法について,今までは数値実験結果からの経験則や収束のオーダーしか知られていなかったが,我々はいくつかの手法について厳密な誤差評価を与えることに成功した.これらの結果は精度保証付き数値計算への応用上も重要である.
著者
松本 有
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

核酸内包薬物送達システム(Drug Delivery System; DDS)開発では、細胞外環境における高い安定性と標的細胞内における効率的な核酸分子の放出という二律背反的な性能が要求される。本研究では生体内における蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer; FRET)計測を行った。DDSの血中安定性、組織移行性、細胞内安定性、核酸放出といった評価法を確立した。
著者
今田 由紀子
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

近年実用化が進められている季節予報では、アンサンブルメンバー数および解像度の不足から、地形性の大雨などの局所的な極端現象の発生確率を予測することは困難である。本研究では、季節予測のメンバー数を補填し、さらに高解像度の地域気候モデルを用いてダウンスケーリングする疑似季節予測実験を実施し、九州地方の地形性の大雨の発生確率予測に挑戦した。高解像度化により、大雨発生プロセスの地域差をモデルが妥当に再現し、発生確率の予測可能性が向上することが確認できた。また、メンバー数を増やしたことで予測スキルにも改善が見られたが、実用レベルには達しておらず、さらなるモデルの高解像度化が必要であることが示唆された。
著者
南條 浩輝
出版者
龍谷大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

同じ内容の発話が複数の言語(本課題では日・英で実験)でなされている多言語コンテンツ(ニュースの主・副音声など)に着目し,それらの音声を,情報を互いに補って音声認識する方法を研究した.音声認識時に他言語の発話(のテキスト)との対応度(翻訳モデルスコア)を利用することが必要であるため, (1)翻訳モデル, (2)スコア計算の近似(高速化), (3)英日同時通訳音声における英・日発話中の同一内容部分の自動対応付けについて研究を行った.適した翻訳モデルおよび自動対応付けの有効性と課題を明らかにした.スコア計算の高速化を達成した.
著者
渡會 睦子
出版者
東京医療保健大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、『生きるための心の教育(性教育)』を用いた若年層の性問題予防地域システムを開発し、山形県の人工妊娠中絶率を2000年18.3全国6位から2008年5.0全国44位と約1/3に、性器クラミジア感染症を2000年8.8から2007年1.5と約1/6に減少させ、福島県では2006年より導入し、人工妊娠中絶率を2005年13.3全国4位から2008年8.6全国15位に低下させ、効果を示した。
著者
松村 香織
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

口蓋裂の疾患感受性遺伝子を同定するために、本研究では癒合課程の口蓋組織を用いてマウスの口蓋組織形成時における遺伝子発現の変化に着目した。口蓋形成時期前後の硬口蓋および軟口蓋組織を取り出し、遺伝子発現をDNAマイクロアレイを用いて解析した。口蓋形成には多くの遺伝子が関与し ており、さらに硬口蓋と軟口蓋では遺伝子発現パターンが異なっていた。このことから、裂型によりそれぞれ異なるメカニズムで発症していることが改めて考えられた。