著者
小林 達夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

Quark, Leptonの質量や混合角の起源を探ることは、素粒子論の中で重要な課題の1つです。また、超対称模型の枠組みでは、現実的な湯川行列を生み出す機構は、超対称性の破れの項への影響を考えながら議論すべきです。更に、超対称性の破れの項については、フレーバー間の縮退度に関して大きな実験的制限があります。上述のようなことを踏まえ、縮退したsfermionの質量を導きつつ湯川結合の階層構造を与えるような模型を研究しました。まず、超対称標準模型に加えて超共形固定点をもつようなSCセクターのある模型を研究しました。この超共形ダイナミックスがquark, leptonに大きなanomalous dimensionを生成するので、この模型では湯川結合の階層構造を出しつつ、縮退したsfermion質量を導くことが可能です。また、似たような結果を導く別の模型としては、余剰次元がwarp背景幾何上の模型を研究しました。この模型では、湯川結合の階層構造の生成に役立つのは、5次元bulk massによる、bulk場の局在化です。更に、ラディオンにより超対称性の破れが起る場合には、フレーバー問題も改善されることが分かりました。また世代間にS_3離散対称性を課すような模型を調べました。このような対称性はこれまで提案されてきましたが、我々の模型の新しい点はHiggsセクターにもこの対称性を課せるようにHiggsセクターを拡張した点で、そのため、超対称性の破れの項もこのような対称性をもつと仮定でき、FCNCへの効果を実験の制限程度に下げることに役立ちます。更に、弦理論の枠内で湯川結合の計算をしました。特に、興味があるのはorbifold模型で、なぜなら階層的な湯川結合が導けることが知られているからです。これまで代表的なmoduliへの依存性は分かっていましたが、今回我々は様々なmoduliへの依存性を計算しました。我々の結果の中で、現象論的に重要なことの1つは、湯川結合での物理的なCPの破れに関しては、ある特定のmoduliしか関与しないことを示した点です。
著者
日合 弘 賀本 敏行 豊國 伸哉 福本 学 石本 秋稔 鶴山 竜昭 阿不江 ぱ塔爾
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本助成金を受けて、計画の大部分を達成するとともに、著明な進展がみられた。(1)リンパ腫好発系 SL/Khマウスの骨髄Pre-B細胞の一過性増殖は第3染色体上のQTLであるBomb1(Lef1)によることが示された。(2)リンパ腫DNAへのウイルス組込みホットスポットの多くがクローニングされ、Bomb1によるリンパ球分化異常とリンパ腫発生機構の関連に大きな手がかりが得られた。(3)4NQO誘発ラット舌癌については感受性に関与する5つの宿主遺伝子座をマップし遺伝様式を解明した。(4)化学発癌剤抵抗性DRHラットの肝発癌モデルで前癌病変であるGST-P陽性フォーカスの遺伝支配を研究し第1、第4染色体に高度に有意な座位をマップした。(5)遺伝的カタラクトRLCについては責任遺伝子マップ位置からPYK2が候補遺伝子で、RLCレンズで正常マウスを免疫するとPYK2のN端異常ペプチドに対する抗体が作られた。cDNA、genomicDNAについて、遺伝子構造を解析中。(6)NCTカタラクトはNa/K pumpに対する内因性抑制ペプチドの形成により発生する。1000頭の戻し交配系を解析し、マップ位置からBAC contigを作製中である。カタラクトのタイプ(pin head or diffuse)を決めるmodifier geneを第10染色体にマップした。この位置にNa/K pumpの一部がマップされていた。(7)PNUによるラット白血病の病型決定機構を解析するためF344とLE/Stmの間で育成されたRI系について、白血病を誘発して遺伝解析を行い、数個のQTLが関与している可能性を示した。これら一連の研究から内在性レトロウイルス、化学発癌剤、遺伝的変異による疾患も多くは多因子の宿主修飾遺伝子の影響を受け、発病の有無、重篤度、病型などが決定されることを示した。一部のものについては分子生物学的な理解に肉迫している。
著者
林 孝洋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では,シュッコンアスター種の花序の構成・発達ならびに開花反応を客観的に表現できる形態モデルを開発するとともに,方向性を持った効率的な育種方法と合理的な草姿制御の方法を検討した.実績報告書の主な内容は以下のとおりである.1.生育の基本単位:シュッコンアスターにおいて,ファイトマー(葉,葉柄,節間,腋芽,節の一組)とモジュール(2/5互生葉序であることから,連続する5つのファイトマーを一組とする)を生長解析の単位構造とすれば,連続するモジュールはほぼ互いに相似形になっており,アスターの生長はモジュールが上に次々と連結することとみなせることがわかった.2.花序の構成:ある時点(n)の花序の構成(I)は,モジュールをmi(上から下に向かってi=1,2,3…)とし,頂芽をaとすると,a+m1+m2+…+mnであり,行列In=(a,m1,m2,…mn)で表すことができた.3.花序の発達:花序の発達は,上に新しいモジュールm1が形成され,各モジュールmiが一定の比率kで大きくなり,頂芽aが一定の比率kaで小さくなることとみなすことができた.花序発達の過程は,1次変換の繰り返しであり(In=Kn In-1),行列In=Kn-1…K1IO=Kn IOで表すことができた(IO:初期値).その結果,花序の構成と発達はパラメータk,kaによって記述できた.4.開花反応:着花量がモジュールの大きさに比例することから,開花反応は1次変換Kfが花序に生じたこととみなせた.行列を用いると,開花はIf=Kf Iであり,開花時の花序構成はIf=Kf Kn IOとして導かれた.5.モデルの普遍性:草姿の異なるいくつかの品種で検証を行った結果,本行列モデルは普遍性があり,数少ないパラメータで多種多様なシュッコンアスターの類別が可能であった.
著者
田中 浩基
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

高効率かつ精度よく二次荷電粒子を検出する手法として、飛程の違いを利用した粒子識別方法を考案し、その原理実証のためのマルチワイヤ二次元ガス検出器の開発を行った。原子力機構FNS 施設において、アルミニウム薄膜ターゲットに14MeV 中性子を入射することにより発生する荷電粒子の放出角(飛程)とエネルギー情報の同時測定を実施した。本研究の飛程識別手法を用いることで高効率かつ精度良く二次荷電粒子を検出できることを実証した。また高速中性子の二次元イメージングが取得可能であるという、新たな知見を得ることができた。
著者
伊藤 淳史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

戦時の植民地開拓と戦後の国内開拓の「断絶」面・「連続」面に関して福島県西郷村の白河報徳開拓農業協同組合を事例とした考察を行い、その成果は下記の論文に掲載された。伊藤淳史「加藤完治の戦後開拓-福島県白河開拓における共同経営理念をめぐって-」『農林業問題研究』第154号、2004年6月、76-80頁(地域農林経済学会大会個別報告論文)本論文では、開拓指導者加藤完治の指導理念における戦時と戦後の「連続」、一方でその理念を形骸化させる形での農業経営の安定化(=「断絶」)という、戦後状況における理念と現実との乖離を指摘した。また、植民地と農業教育の接点たる高等農業学校留学生について論じた著書に関して下記のブックガイドが掲載された。伊藤淳史「ブックガイド 河路由佳・淵野雄二郎・野本京子著『戦時体制下の農業教育と中国人留学生』」『農業と経済』第70巻第9号、2004年7月、111頁なお、8月には茨城県内原町・福島県西郷村において現地調査を行い、内原では戦時期より現在に至るまでの現存する機関紙誌の収集および関係者からの聞き取り、西郷では開拓第一世代および第二世代からの聞き取り調査を行った。
著者
池永 満生 滝本 晃一 石崎 寛治
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究の目的は、X線で誘発される突然変異が、どのようなDNAの塩基配列の変化によるかを明らかにすることである。このために、プラスミドpHA7上にクロ-ニングされている大腸菌のcAMPレセプタ-蛋白(crp)遺伝子について解析した。X線を照射したpHA7を大腸菌にトランスフェクションし、ラクト-ス発酵能を指標にしてcrp遺伝子に突然変異が生じているクロ-ンを多数分離した。これらの変異株からプラスミドを回収して、crp遺伝子の全塩基配列(627塩基)をサンガ-法で決定した。96個の突然変異クロ-ンについて解析し、92個の塩基配列の変化を検出した。その内訳は、塩基置換型突然変異が74個とフレ-ムシフト突然変異が18個であった。また、74個の塩基置換の中では、GCからATへのtransitionが56個、ATからGCへのtransitionが1個、残りの17個は、transversionであった。更に興味あることは、56個のtransitionの中で、実に41個が同一の場所(706番目のGC塩基対)に生じていたことである。つまり、この位置がX線による突然変異誘発のホットスポットになっていた。X線による損傷はランダムに生じると考えられており、このように明確なホットスポットの存在は過去に報告された例がない。恐らくは、この部分がcAMPレセプタ-蛋白の機能にとって、非常に重要なアミノ酸をコ-ドしているためだと考えられる。X線との比較のために、ニトロソグアニジン(MNNG)で誘発した突然変異についても解析した。検出した42個のDNA塩基配列の内訳は、GCからAT、ATからGCへのtransitionがそれぞれ39個と2個、フレ-ムシフトが1個であった。また、MNNGについてもX線と同じ場所がホットスポットになっていた。
著者
埴淵 知哉
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度は,世界都市システム研究に関する包括的なレビューをおこなった.これまでは,NPO/NGOといった非営利・非政府組織を取り上げ,その空間組織やネットワーク,また地域との関係性などについて,インタビュー調査を中心とした質的調査を用いた研究を進めてきた.本年度は,これらを都市システム研究の再構築に結びつけるという問題意識から,近年の世界都市システム研究の展開を包括的に整理し,さらにこれまでの事例研究の成果を踏まえ,今後の方向性を議論した.近年のグローバル化の進展に伴い,世界全体を視野に入れた都市システムが注目されるようになり,とりわけ1990年代後半以降は,理論的検討や仮説提示に加えて本格的な実証研究も進められるようになった.この研究領域を切り開いたのは,GaWCという研究グループである.そこでまず,GaWCが想定する基本的な都市システム概念を抽出した.第一に,世界都市が他の世界都市との関係性の中において成立するという世界都市概念の転換を指摘し,第二に,領域的な国民国家のモザイクに対して,世界都市のネットワークというオルタナティブなメタ・ジオグラフィーを提示するというGaWCの根本的な問題意識を示した.続いて,急速に研究が進みつつある実証研究を整理し,連結ネットワークモデルや社会ネットワーク分析などの手法,グローバル・サービス企業などの関係性データを中心としながら,さまざまな手法・指標によって,多元的な世界都市システムが実証的に描き出されてきた点を明らかにした.そして今後の方向性として,NPO/NGOが企業・政府に対するオルタナティブな組織として,グローバル化時代の都市システム再構築に寄与しうる可能性を提示し,このような組織の観点を明示的に都市システム研究に取り入れる道筋を示した.
著者
林 春男 山下 裕介 田中 重好 能島 暢呂 亀田 弘行 河田 恵昭
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

災害復旧に従事する防災機関のロジスティクス・マネージメントにおいて,災害対応を緊急対策,応急対策,復旧・復興対策という相互に独立し,異なる目標を持つ3種類の対策の組み合わせとして考えることが可能である.しかも,この3種類の対策はすべて災害発生直後から同時に,別々の担当グループによって実施される必要性が明らかになった.その間でのニーズと資源の相互調整過程にロジスティクス・マネージメントの本質があると考え,それを可能にする情報システムの構築を行った.1)防災CALSの構想 災害対策をおこなう関連部局間での状況認識の共有と資源調整を可能にするための情報処理標準の必要性を明らかにし,そのプロトタイプを検討した.2)被害状況の把握,対応状況の整理,資源動員計画の立案,周知広報による情報共有の確立を統一的に推進するシステムの構築を目的として,カリフォルニア州が開発した“OASIS" (OPERATIONAL AREA SATELLITE INFORMATION SYSTEM)と,わが国の災害情報処理報告形式とを比較検討し,わが国における合理的な災害情報処理様式の検討を行った.3)合理的な意思決定を支援するためには,災害対応の各局面における制約条件,過去の教訓棟を的確に参照しうるシステムが必要となるという認識のもとに,SGML (Standard General Markup Language)による災害情報管理システムのプロトタイプを構築した.各種防災計画の改訂や検索に強力な武器になることが明らかになった.4)阪神淡路大震災で初めて注目され,今後の利用法の検討が考えられるべきボランティア問題に関して,実態調査を重ねその問題点を明らかにした.
著者
安藤 雅孝 BART BAUTUST RAYMUND S. P 山田 功夫 伊藤 潔 渋谷 拓郎 尾池 和夫 BAUTISUTA Bart PUNOGBAYAN Raymund S. GARCIA Delfi PUNONGBAYAN
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

当研究の目的は,(1)西太平洋超高性能地震観測網計画の一環としてフィリピン国に観測システムを設置し,記録の収録と解析を行うこと,(2)フィリピンの地震危険度の推定と地震発生機構・テクトニクの研究を行うことである。以上(1),(2)の順で成果の概要を述べる。(1)超高性能地震計は,平成3年度にフィリピン火山地震研究所のタガイタイ観測点に設置し順調に記録の収録が開始された。記録の解析は現在進められており3カ月以内の報告できるものと思う。地震の収録は,連続収録とトリガー収録の二つの方式を取っている。連続収録は1点1秒,トリガー収録は42点1秒サンプリングを行っている。トリガー記録は,1年で約200点収録されている。現在の問題は,時刻較正と停電対策の2点である。現システムはオメガ電波を用いて時刻較正を行っているが,受信状況等多くの難点を持っている。このため,GPSを用いて時刻較正を行う予定であるが,市販品は高価なため,渋谷(分担者)が手づくりで作製する計画を持っている。停電はフィリピンでの大きな社会問題である。経済的な進展のみられないフィリピンでは,この1〜2年に電力事情が急激に悪化してきた。昼間に5時間程度の停電は普通である。自動車用バッテリーで停電対策を取っているが,長期間の停電を繰返すとバッテリーは回復不可能となる。このため,停電時はファイル書き込みを止め,復電時にも電圧回復まで収録を待つような対策を取る必要がでてきた。これらは,平成5年度5月頃に2名が訪問し実施する予定である。計画立案時や設置の際には予想されなかったことではあるが,発展途上国での研究計画は万全の対策を取る必要があることを示している。(2)地震危険度等 フィリピンは,1990年にフィリピン地震が発生し,1991年にピナツボ山が大噴火,1993年1月にはマヨン山が噴火をした。このようにフィリピンはルソン島を中心に地震火山活動が活発になっている。河高性能地震計を置いているタガイタイ観測所はタール火山の外輪山にあり,マグマ性の地震活動の監視も兼ねている。タール火山の近年の地震活動は高く,噴火の可能性が高いと言われている。火山の噴火や災害の防止軽減のためには,噴火規模の推定が必要である。この基礎資料として,マグマ溜りの位置,深さ,規模,および部分溶融面の位置や深さの情報が欠かせない。平成5年2月末から2週間にわたり,人工地震を用いた地殻構造調査が行われた。平成4年12月に研究協力者の西上がフィリピン火山地震研究所の研究者と共に,発破点の選定,地震計の設置点の調査,業者の折衝等を行い,2月末の本調査へ向けての準備を完了させた。深さ50mの発破孔を2本掘削し,200kgのダイナマイトを人工地震源として,地震探査を実施する予定を立てた。発破点はタール湖(カルデラ湖)西岸に置き,観測点を東岸沿いに南北に展開し,扇状放射観測を行った。発破を2度に分けた理由は,収録システムが日本側とフィリピン側と併せて16組しかなく,1回で東岸域に並べると間隔が荒くなり,マグマ溜り検出には適さないことがわかったためである。本調査では,1回目の発破では東岸の北側に,2回目の発破では南側に展開した。これにより32組の収録システムにより地震探査が行われたと同じくなり,かなり詳しい調査が可能となった。日本から8名,フィリピン側から10名の参加があり,かなりハードなスケジュールをこなし調査・観測を成功させることができた。観測点へは陸路から近づくのは難かしく,ボートを用いて観測システムや観測者の輸送を行ったが,観測期間中は風が強く波が荒かったようだが,これらの困難に果敢に立ち向かい実験を成功に導いた。今年度の研究実績をまとめると,(1)超高性能地震計が稼動し,順調に記録が取れ始めたこと,(2)フィリピン国では始めての研究を目的とした人工地震を用いた地震探査が行われたことがあげられる。後者の探査は,フィリピン側に大きな影響を与えると共に,日本側研究者にも種々の困難を乗り越え共同研究を行う重要さを教えてくれた点は貴重であった。平成5年度からも更に発展した形で国際学術研究が行われる予定である。
著者
釜井 俊孝 田村 昌仁
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

都心の宅地斜面の地震災害は, 自然の斜面とも人工斜面とも確かには判定しかねる斜面で発生することが多い。こうした斜面を"崖っぷち"と呼び, その実態の解明と災害リスクを表現した地図"崖っぷち"マップのプロトタイプを東京の目黒川下流域を対象地域として作成した。調査の過程で, 地域の開発史を反映した災害・環境汚染リスク(大谷石の不良擁壁, 重金属汚染盛土)の存在も明らかになり, "崖っぷち"が内包する問題の広がりと深さを具体的に明らかにする事ができた。
著者
土井 一生
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

地震発生メカニズムを調べるため、本研究では、震源域下における不均質構造がどのように地震発生に影響を与えるのか、についての考察を与えることを目的として、内陸地震の地震発生域下に見られる不均質構造の共通因子を抽出し、それらの不均質構造が地震発生に果たした役割について考察する。まず、中国地方において、山陰地方で発生したマグニチュード6以上の地震が、深さ15-25kmの反射波の強度が高い領域の境界で発生していることが共通する特徴として抽出された。用いる波の周波数を変えた解析でも同じように検出され、不均質構造の特徴的なサイズは一意ではないことが伺えた。解の分解能から断定はできないが、断層が異なる物質の境界に位置し下部地殻までほぼ鉛直な断層の下部延長が存在する可能性を示唆するものと考えられる。続いてこうした特徴が他の似たテクトニックセッティングを持つ1948年にM7.1の福井地震が発生した北陸地方で見られるか検証した。本地域において同様の地殻内近地地震の波形記録を使用し、中国地方と同様の反射法解析を行うことにより、深さ0-100kmの不均質構造の抽出を行った。その結果、フィリピン海プレート、Moho面からの反射を検出することができ、同地域での深さがそれぞれ50-60km、40km程度と推定された。深さ20-25km程度にも明瞭な反射波層が検出された。深さ15-25kmで断層(の深部延長を含む領域)を横切る方向に反射波の強度が断層のはさんで大きく変化していることがわかった。以上により、山陰地方と北陸地方の両方で横ずれ断層を持つ震源が反射波の強度の高低の境界に位置することがわかった。2000年鳥取県西部地震ではこの境界面が断層面とほぼ一致したため、断層の深部延長として機能し、地震発生に結びついたという可能性が示唆される。
著者
塚谷 恒雄 テイラー J.A. ニックス H.A. アルマベコビッチ U.R スルタンガジン U.S. 江崎 光男 今井 賢一 福嶌 義宏 石田 紀郎 溝端 佐登史 TAYLOR J.a. ALMABEKOVICH U.r. スルタンガジン U.M.
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1中緯度乾燥地域の地球規模汚染モデルの作成は,共同研究者であるカザフスタン共和国科学アカデミー宇宙研究所のスタッフによってまとめられた.これは旧ソ連で開発された組込原則による拮抗モデルを非平衡環境システムに応用したもので,アルマ-ティにおいてまずロシア語版で出版された.またバルハシ湖周辺を対照とした水文気象観測データを用いGISの構築にも基礎的結果を得た.バルハシ湖とアラル海の水質分析結果の公開はおそらく世界で初めてであろう.これは国際砂漠学会で発表され,以降各国学界から注目されている.またバルハシ湖については本分析結果を1960年代初頭のデータと比較し,乾燥地閉鎖湖の除塩機構に関し地球化学的変化の一端を示すことができた.2環境汚染による健康被害の疫学的調査は,カザフスタン側共同研究者の尽力によって,アラル海とシルダリア川沿岸の乾燥地域,アルマ-ティの工業地域およびセミパラチンスクの各実験地域について,おそらく世界最初に詳細な健康影響データが公表された.国際的な共感を呼んでいるアラルの悲劇はこの地方全体の文明,社会経済指標および住民の健康状態に重大な影響を与え,免疫ホメオスターシスの脱抑制,免疫病理反応を進行させている.B型ウイルス性肝炎の住民感染率は32.7%,HBs抗原の慢性キャリア率は19.1%にも達している.冷戦の遺産セミパラチンスク核実験場の周辺住民は,40年の長きにわたって合計50ラドから200ラドの放射線被爆を蒙った.放射線に起因する免疫変化は,腫瘍疾患,血液疾患,先天性異常,心・血管系疾患,感染症,その他の病理を含む一般罹患率の上昇を導いた.疾患分布と被爆線量との間には有意な相関関係が見いだされ,腫瘍疾患の増加には罹患率と死亡率上昇の位相性が認められた.この結果は日本文でKIERディスカッションペ-パ-にまとめられた.3セミパラチンスク核実験場の放射能評価は,カザフスタン側共同研究者の尽力によって国立核センターの協力のもとで進められた.まず昨年度採取したシャガン川人工ダム(1965年1月15日の半地下核実験による)周辺土壌の分析から^<237>Np/^<239,240>Pu比を割り出し,この実験が水素爆発ではなく通常のプルトニウム原爆によることを推測した.この結果を実験担当者等に確認したところ,当該核実験の詳細データの提供を受けた.加えて1949年8月29日から1962年12月1日の間にセミパラチンスク核実験場で行った地上実験(30回)空中実験(88回)の基礎情報の提供を受けた.これは前年度の実験影像の提供と同様,世界で初めて公表されたものであり,日本に対するカザフスタンの信頼が高いことを示している.この結果は英文でKIERディスカッションペ-パ-にまとめられ,国際原子力機関(IAEA)にも送られた.また再生計画に資するため,実験場内部と周辺居住地で土壌,植物,血液の資料採取を行った.ただし膨大な分析時間がかかるため,残念ながら本国際学術研究の期間内に完結することはできなかった.各担当者は早急に成果を取りまとめる努力をしている.4再生アセスメントの設計に関し,率直に言って,新独立国家群の経済再建は困難の極みにある.国民や組織,機関の願望や期待,あるいは欲求を達成できる社会経済システムが未熟であるためである.研究分担者らは学会発表や学術討論など機会あるごとに資源節約型の経済システム構築が中央アジア諸国の命運を決定し,それが環境保全につながることを強調してきた.これを一層推進するためには,科学的情報の受信発信の体制を整備することが急務であると共同研究者間で意見が一致し,本年度は科学アカデミーで蓄積された環境経済関連の成果の整備に取りかかり,合計3,000点の文献目録データベースを完成させた.この結果は英文でKIERディスカッションペ-パ-にまとめられた.この作業で,アラル海とバルハシ湖に関する旧ソ連科学アカデミー湖沼学研究所が地球化学,古生物学,鉱物学などの学際研究を蓄積していることが判明し,その結果は日本文でKIERディスカッションペ-パ-にまとめられた.
著者
武部 啓 巽 純子 宮越 順二 八木 孝司
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

目的:DNA修復系には紫外線損傷などに働く修復系に加えて、大腸菌のmut遺伝子と相同のミスマッチ修復遺伝子による修復系のヒトにおける存在が確認されている。ヒトで、それが大腸菌同様に自然突然変異に限って働くのか、誘発突然変異にも関与しているのかを調べる、これらの結果を腫瘍の発達(大きさ、悪性度、時間経過など)およびこれまでにわかっているp53遺伝子の突然変異と対比させて、発がんにおけるDNA修復の役割と、それが多段階発がんのどの段階に主に働くかを明らかにしたい。研究成果:1.p53遺伝子の突然変異が皮膚における多段階発がんにおいて、他のがん関連遺伝子に比べより高頻度に関与していることが示された。それらはDNA修復が正常であるか、低下しているか(色素性乾皮症患者)、太陽光にさらされている部位か、そうではないか、などによる違いはみられず、DNA修復の影響を受けない本質的な変異と考えられる。DNA修復のうち、ミスマッチ修復は一般に自然突然変異に関与していると考えられる。ヒトのがんの中で、もっとも自然発がんの可能性の高い非露光部の悪性黒色腫について、ミスマッチ修復の欠損を反映するとみられるDNAエラー(RER)を調べた。原発がん部位では18.2%のRERがみつかったのに対し、転移部位では検出できなかった。これまでの報告にくらべ特に高くはないので、非露光部の悪性黒色腫が自然突然変異によることを確認することはできなかった。
著者
新川 敏光 大嶽 秀夫 篠田 徹 阪野 智一 岡本 英男 池上 岳彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

研究成果は主に三つに分けられる。第一に、エスピング-アンダーセンの類型論を改善したモデルを構築し、そのなかで社会民主主義、保守主義、家族主義モデルがグローバル化、高齢化の圧力のもとで、一定程度「自由主義化」していることを確認した。第二に、自由主義レジームのなかで、アメリカとは異なるカナダ福祉国家の特徴と政治的ダイナミズムを明らかにした。第三に、日本型福祉レジームにおける自由主義化には脱家族化という側面がある点を明らかにした。
著者
坂東 尚周 奥田 喜一 北沢 宏一 鯉沼 秀臣 井口 家成 庄野 安彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、工業的に応用可能な優れた超伝導材料あるいは超伝導デバイスを創製するため、(1)異方性の化学的制御と新物質探索、(2)異方性とボルテックス状態の解明、(3)原子層制御と電子機能設計を目的として組織されたものである。成果は以下の通りである。(1)異方性の化学的制御と新物質探索高圧合成によりRe添加水銀超伝導体HR_<1-x>Re_xCa_<n-1>Cu_nO_yの単相化に成功し、ポストアニールによりピニング特性が改善された。中性子回折によりReとHgが規則配列し、異方性が低減することによると考えられる。高濃度Pb置換Bi2212単結晶で不可逆磁場の大幅な上昇が見出され、有効なピニングセンターの存在を示した。高分解能電子顕微鏡により、高濃度鉛相と低濃度鉛相が交互に帯状に析出し、この界面が磁束に対する有効なピンとして働いているとしている。この他低次元スピンギャップ系の梯子格子をもつ化合物やY247の構造に関し、新しい知見が得られた。(2)異方性とボルテックス状態の解明La系、Y系、Bi系の単結晶を用いて唯一の一次相転移とみられる磁束格子融解転移がSQUID、局所磁化測定、超音波測定、複素帯磁率、磁気トルク測定によって研究された。また、磁束融解転移が理論的に検討された。一方、27テスラまでの高磁場中での無双晶YBCOの磁束融解転移が明らかにされ、その他STMによる磁束に直線観察の試みがなされた。(3)原子層制御と電子機能設計STM、同軸イオン散乱分光法、RHEEDなど表面解析技術を駆使して表面原子層の制御や成長メカニズムの解明が行われ、薄膜作製における原子層制御技術は着実に進歩した。積層型SIS接合として、a軸配向した高T_cのY123酸化物薄膜の間にSrTiO_3を挟んだデバイスの作製に成功した。この他局在準位制御による接合の特性、Y123薄膜の準粒子注入効果、La系単結晶の固有ジョセフソン効果を用いたスイッチ素子の検討、Y123/強誘電体による電界効果などの研究が行われた。
著者
石川 裕彦 堀口 光章
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.データ取得:風雲2C号からのデータ受信を継続したが、2007年7月ころより日中のデータにノイズが見られるようになった。これは衛星の軌道が南北に振動する為であることがわかった。2008年3月日中のデータが取得できるようにアンテナの調整を行った。2.梅雨前線活動や熱帯降水域の広域解析等:ベンガル湾から日本にいたる梅雨前線の活動度の変動を、広域雲画像から得られる対流活動を指標に解析した。対流活発域が前線上を東進する様子を時空間解析で示すことができた。また、赤道収束対上を東進するMJOにともなう雲域お移動を、同じく時空間解析で示した。また、2005年以降蓄積されてきたデータを用いて、チベット高原の地表面温度の算出とその年々変動の解析を行った。合わせて雲活動の季節変化の解析も行った。3.東南アジアモンスーン期の集中豪雨の監視:モンスーン期の東南アジアを対象に、顕著な被害をもたらした被害事例に関して、衛星観測データに基づく現象の記述を行った。また、2007年11月にバングラディッシュを襲ったサイクロンSidrの雲画像解析を行った。4.防災プロダクツのweb公開:情報発信のために、webサーバーを立ち上げ、このサーバー上で赤外窓領域と水蒸気チャネルのフルディスク画像、インド領域、インドネシア領域、日本域の切り出し画像のweb公開を行った。また防災プロダクツとして、発達した積乱雲の指標となる水蒸気チャネルと窓領域との輝度温度差のデータを作成し、その出現頻度などの解析を試みた。5.成果の公表:自然災害学会、日本地球惑星科学連合大会、及び国際WSで本研究の成果の公表を行った。またミャンマを襲ったサイクロンNargisの画像は、NHK(クローズアップ現代)、TBS(報道特集)、京都新聞等のマスメディアを通じて、紹介された。
著者
小田 賢幸
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

植物プランクトンであるクラミドモナスから鞭毛を回収し、その運動を司るタンパク質である鞭毛ダイニンの構造解析を行っている。鞭毛ダイニンは微小管を構成するタンパク質であるチューブリンと共重合する性質があり、それにより生成されたダイニン-微小管複合体が私の研究の主要な試料である。ダイニンは2MDaある巨大なATPaseであり、我々の研究によりATP依存的な構造変化を起こすことが明らかになっている(Oda et al.2007)。この構造変化をさらに詳細に解析することが本年度の研究テーマである。1.ATPase活性部位のマッピング電子顕微鏡の実験において、ラベルされた部位が本当に想定されているドメインであることを生化学的に検証するため、アジド化されたATPおよびADPを用いてダイニンとヌクレオチドを紫外線により共有結合させた。そのダイニンをトリプシンで分解し、固相化されたストレプトアビジンを用いてビオチン化ペプチドを精製した。TOF-Mass解析により二つのシグナルを得た。このシグナルは再現性があり、ATPおよびADP両方から同様に検出されている。これにより電顕像でラベルされている部位はATPとADPでは同じであると確認できた。現在、ラベル部位の正確な同定をfinger printingによって試みている。2.電子トモグラフィーネガティブステイニング法を用いてストークドメインのATP依存的構造変化を観察している。モリブデンを染色剤に使用し、サンプルをトレハロースアモルファス膜に包埋することにより高いコントラストを得ること成功した。国立神経精神センターの諸根室長との共同研究により、高傾斜かつ多サンプルのトモグラムを撮影した。通常のback-projection法からある程度ストーク像を観察することができた。
著者
立木 康介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

啓蒙の時代を代表するカントとサドを西洋倫理思想の歴史的展開のなかに位置づけるジャック・ラカンの観点に依拠し、プラトン、アリストテレスから、エピクロス派、ストア派を経由し、18世紀のリベルタン思想にまで流れ込むヘドニズムの伝統と、カントとサドによってもたらされたその転覆の意義とが明るみに出された。
著者
平井 啓久 香田 啓貴 宮部 貴子 遠藤 秀紀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

調査地はインドネシア、タイ、マレーシア、バングラデシュの4カ国を対象におこなった。解析した種は8種である。西シロマユテナガザルの染色体ならびにDNAの解析を世界で初めておこない、第8染色体に逆位を発見した。テナガザル全4属のミトコンドリアゲノムの全塩基配列を用いて系統関係を解析し、新たな分岐系統樹をしめした。転移性DNA解析がヘテロクロマチンの研究に新たな洞察を与えた。音声や形態を新規の方法で解析し、新たな視点を示した。