著者
吉井 和佳
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

採用第3年度ではまず、開発した音楽推薦システムを実用化する上での重大な問題点を克服することに取り組んだ。また、音楽の内容として音色だけでなくリズムを考慮できるようにシステムを拡張した。さらに、ドラム音認識技術を音楽ロボット開発に応用することを試みた。これはホンダ・リサーチ・インスティテュート・ジャパンとの共同研究である。(1)ハイブリッド型楽曲推薦システム我々はこれまで、確率モデルを用いて楽曲評価と音響的特徴とを統合し、ユーザの嗜好にあった楽曲を精度良く選択できるシステムを開発した。しかし、データ変化に対する適応性やデータサイズに対するスケーラビリティが欠如していた。そこで、確率モデルをデータ変化に合わせて逐次的に更新可能にするインクリメンタル学習法を提案し、適応性の問題を解決した。さらに、インクリメンタル学習法をクラスタリング手法と統合することで、巨大なデータに対しても確率モデルを効率的に学習できる手法を提案した。この成果は音楽情報処理分野で最難関の会議であるISMIR2007にて発表し、好評を得た。(2)音楽ロボット開発本研究では、音楽を自らの耳で聴きながらリズムに合わせて自律的に足踏みできる二足歩行ロボット(ASIMO)の開発を行った。近年、テレビや博覧会で目にする音楽ロボットは一見音楽に合わせて動作しているように見えるが、実際はロボット自身が音楽を聞いているわけではなく、人間が事前にすべての動作および動作タイミングをプログラミングしている。我々は、頭部ヘッドフォンにより録音された音響信号中のビート時刻を検出・予測し、フィードバック制御に基づいて足踏みをコントロールするロボットを開発した。ビート検出・予測部は我々のドラム音検出術を応用して実装した。この成果はロボティクス分野で最難関の会議であるIROS2007にて発表した。ロボティクス分野ではこれまでハードウェア面での改良が主な興味であったが、ロボットの知的能力開発の重要性を指摘した我々の研究発表は多くの聴衆を集めた。
著者
矢澤 進 細川 宗孝
出版者
京都大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

セーシェル諸島で見いだしたトウガラシ(Capsicum chinense)‘Sy-2'は、トウガラシの生育適温である25℃付近に劇的な生育反応の変曲点があることを認めた。すなわち、24℃以下では縮葉を展開し、著しい生育遅延が認められるが、26℃以上では縮葉は全く認められなかった。また、縮葉のみならず花粉稔性、種子発達にも温度反応が認められることを明らかにした。本年度は縮葉反応に焦点を絞り、温度反応の形態学的・分子生物学的な研究を行った。縮葉は葉の表皮細胞や柵状細胞の形態異常が主な原因であることを明らかにし、また、縮葉ではクロロプラストが小さくトルイジンブルーによる染色性が低いことを認めた。また、24℃以下で育成した‘Sy-2'植物体の茎頂分裂組織には形態的な異常は認められなかったことから、分化した葉原基が温度反応をするものと推定された。そこで、‘Sy-2'植物体の茎頂部より抽出した全タンパク質を二次元電気泳動で分離したところ、28℃で育成した植物体にのみ強く発現するスポットを見いだした。このスポットを解析したところ、クロロフィルの形成と強く関係があるタバコのPsaHタンパク質と一致した。さらに、植物体の茎頂部より抽出・精製したRNAを鋳型としたディファレンシャルディスプレイ法を行ったところ、それぞれの温度で栽培した植物体に特異的な数本のバンドを認め、現在解析を進めている。本研究から、PsaHタンパクの発現量の低下が縮葉反応に関与していることが示唆された。今回の研究から、‘Sy-2'の生育適温でのわずかな温度差による劇的な生育変化のメカニズムが分子レベルで明らかになりつつあり、今後、園芸作物の温度管理に向けた新しい知見が得られるものと考える。
著者
根立 研介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、康慶、運慶、快慶等によって新しい彫刻様式が打ち立てられた鎌倉時代前期の彫刻史を再評価するための試みである。従来の彫刻史研究では、摂関期に和様彫刻が大成され、その大成者の名を取った定朝様の彫刻様式が平安末期を通じて支配的であったが、平安末期頃に奈良地方から萌芽した新たな新時代の様式が慶派仏師の台頭と共に新しい時代様式となったとし、鎌倉時代の彫刻史、あるいはより正確に言えば鎌倉前期の彫刻史は慶派の彫刻史として語られてきた観がある。そして、彼等の代表的な遺品が奈良に偏在していることともあって、その語りを素直に受け取れば、造仏の中心がまるで奈良にあったかのようにさえ思えてくるのである。今回の研究では、こうした従来の見解を検証するために、この時代の彫刻遺品の調査と、鎌倉時代に入る直前の時期である後白河院政期と、鎌倉時代前期に当たる後鳥羽院院政期の美術史に関わる史料収集を行った。遺品調査に関する成果は、鳥取長楽寺諸尊像のように、従来平安末期頃の京都仏師の作とみられていたものの中には、鎌倉前期に制作されたものがかなり混じり込んでいることが分かってきた。また、文献史料の分析からは、京都仏師、特に院派仏師の活動が盛んであった事も明らかに出来た。したがって、鎌倉時代前期においては、京都を中心に伝統的な仏所に属する仏師達の活動も盛んであり、従来の彫刻史研究はあまりに慶派仏師を中心に論じられており、これを見直す必要性があることを明らかにできたと自負している。
著者
赤井 龍男 上田 晋之助 真鍋 逸平 古野 東洲 吉村 健次郎
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1987

本研究は種々の公益的機能の発揮に有効な林型であるとされる複層林を、耐陰性と生長速度の異なる樹種の段階混交した林分として造成し、しかも山村労務の減少、林業経営の不振に対応するため、一般の単純林施業のような集約技術ではなく、低コストの育林技術体系として確立させようとするものである。しかし現在日本には明確な技術によって育成された混交型複層林はないので、手入れ不足等の比較的粗放な方法で成林した各種の針広混交林の実態を調査し、解析する研究を主体とした。本年度にえられた主な研究成果は次のようである。昨年度は多雪地帯における不成績造林地について調査、解析したので、今年度は少雪地帯における事例として、和歌山県新宮営林署管内大又国有林の56年生スギ、ヒノキおよび大越国有林の33年生スギ不成績造林地の構造と成長経過を調査、解析した。その結果大又国有林の不成績林分には高木性の常緑、落葉広葉樹が多く混交し、スギ、ヒノキの樹高10m以上の優勢木は集中的に、広葉樹はランダムに分布し、全立木材積は約350m^3/haであるのに反し、大越国有林の場合には高木性の広葉樹は落葉樹のみで、しかもスギ造林木の本数が多く、両樹種ともランダムに分布し、その材積は約230m^3/haで少なく、両林分の現在の構造にはそれぞれ特徴があることがわかった。しかし樹高分布からみて両林分とも造林木は10mの高さで分離し、また直径成長から判断すると、劣勢木は下刈り終了後間もなく成長を減退させているほか、両林分の土壌は深く、物理性は良好であるなど類似点もあることから、両林分の不成績の原因は手入れ不足にあると結論された。また両林分はこのまま推移させても、前者は造林木を約40%、後者は約70%混交した複層林に育つ可能性が高い。それ故多雪地帯と同様、自生種の再生力の旺盛な地域では、むしろ粗放的に混交複層林に仕立てる方が有利と考えられた。
著者
山崎 岳
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

明朝と莫朝大越との外交に関わる中越両国の文献を収集し、これを両国国境をまたぐ人々の活動に焦点をあてて読み解くことで、これまでの政府間の外交関係史では注目されていなかった国境地帯の基層社会の実態を明らかにした。特に、現代中国で壮族、ヴェトナムでヌン族やタイー族等に分類されるタイ系の言語を母語とする人々が、歴史的にも両国間関係において重要な役割を果たしてきたことが立証された。
著者
籔内 智浩
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本研究は計算機上に構築された仮想世界でリアルな仮想物体操作の実現を目指すものである.このために操作を行うと変形する布など面状の柔軟物体を対象物体として、これらの物体を現実世界で操作した際の形状変化を仮想世界でリアルに再現することを目標とした.この目標を達成するためには、柔軟物体の形状変化をシミュレートできるモデルを現実物体の観測結果に基づいて獲得するアプローチが必要となる.このアプローチでは柔軟物体の三次元形状復元の問題とそれに基づいたシミュレーションに必要である対象物体の変形特性を記述するモデルパラメータ値推定の二つの問題が生じる.本研究では操作にともなう柔軟物体の三次元形状をカメラで観測し、観測結果にあわせてモデルを変形させることで三次元形状を獲得する一方、それらの三次元形状すべてを再現できるモデルパラメータ値を推定するという処理を繰り返すことで上述の二つの問題を同時に解決できる手法を提案し研究を進めてきた.この手法に関して今年度は次の二つを実行した.1.昨年度までのシミュレーション実験やハイスピードカメラによる実実験環境構築を土台として実環境で評価実験を行った.操作に伴うハンカチの形状変化を観測し、それを仮想世界で再現することで有効性を確認した.2.提案手法によるモデル獲得のアプローチを短時間で実行できるアルゴリズムを提案した.昨年度行ったシミュレーション実験の結果を整理し、研究会への原稿投稿と発表を行った.
著者
玉川 安騎男 CADORET Anna Gwenaelle-Lu CADORET Anna Gwenaelle-Lucile
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

与えられた有限群と素数の組に対し、その普遍フラティニ被覆の標準的な商群の系に付随してフルヴィッツ空間(=射影直線の分岐ガロア被覆のモジュライ空間)の射影系が定まるが、その有理点に関するM. Friedのモジュラータワー予想は基本的である。この予想へのアプローチの一環として掲げた研究目的の内、本年度は、「1、モジュラータワー予想とアーベル多様体のねじれ点の普遍的限界の関係の精密化」に関して、特別研究員と研究代表者の共同研究が大きく進展した。特に、元のモジュラータワー予想で分岐点の数が4以下の場合を肯定的に解決することができた。この証明の鍵となったのは、次の幾何的命題である。Sを標数0の体上の代数曲線、AをS上のアーベルスキームとし、Aの生成ファイバーは0でないアイソトリビアルな部分アーベル多様体を含まないものと仮定する。このとき、与えられた自然数gと素数pに対し、次の条件を満たす自然数N=N(A,g,p)が存在する:Aの位数p^nの点vに対し、n>Nならばvに付随するSの被覆の種数はgより大きい。以上の結果については、特別研究員と研究代表者の共著論文"Uniform boundedness of p-torsion of abelian schemes"の第一稿が既に完成している。なお、研究目的の内「2、フルヴィッツ空間の点の"base invariant"のモジュラータワー予想への応用」については、特別研究員と研究代表者の共著論文"Stratification of Hurwitz spaces by closed modular subvarieties"を平成18年8月に完成し投稿中である。
著者
高木 博志
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近代日本・朝鮮の文化遺産をめぐる諸相を明らかにした。とりわけ、史蹟・名所をめぐる社会とのつながりや、語られ方の近世・近代の変遷といった文化遺産保護の社会史、あるいは「帝国」における文化遺産をめぐる政治力学に力点をおいた。具体的には、古都奈良・京都における古代顕彰のありようを、明治維新期から20世紀まであとづけた『近代天皇制と古都』(岩波書店、2006年、全320頁)をまとめたほか、近世から近代への名所の変遷を、桜や古典文学を題材に論じた。朝鮮半島の桜の植樹については、アルバイトにより『京城日報』などからデータを集め、帝国における桜の位相を論じる研究を準備している。また豊臣秀吉にかかわる歴史観や史蹟の顕彰を、日韓の近現代史にあとづけた。また研究報告書では、奈良女子高等師範学校「昭和十五年度大陸修学旅行記文科第四学年」(奈良女子大学所蔵)の全文(生徒のくずし字)を翻刻した。「大陸修学旅行」の記録は、日本だけではなく韓国・中国・アメリカなどの研究者にも関心が高く、翻刻の成果を広めたい。とりわけ朝鮮・満州の史蹟名勝・戦跡をたずね、古都奈良・京都における文化遺産をめぐる学知を、大陸においても「実地踏査」することによって修学することに注目した。本研究の研究成果報告書は、6章立てのオリジナルな論文で構成されているが、近年中に単著として(近代文化財史論(仮題))として出版したい。課題としては、文化遺産の日本・朝鮮における行政史的研究が残った。
著者
細川 三郎
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

六方晶構造を有する希土類―鉄複合酸化物(h-REFeO3)は準安定相構造であるが故に,常法では合成が困難である.本研究では,共沈法および錯体重合法で得られた前駆体の結晶化過程を詳細に検討することで,h-REFeO3の効率的・選択的な合成を試みた.その結果,焼成時間を調整することで単相のh-REFeO3が得られることを見出した.飛躍的に高いC3H8燃焼活性を有する触媒開発を目指し,異種遷移金属で修飾したh-YbFeO3のソルボサーマル合成を検討した.Mn修飾h-YbFeO3は他の遷移金属を修飾したものより極めて高い活性を示し,貴金属触媒であるPd/Al2O3よりも高い活性を示すことを見出した.
著者
籠谷 直人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

戦後の日本の経済復興は繊維製品の輸出主導で進められた。1951年に日本の綿製品は世界第一位の実績を記録する。そして57年からは日本は対合衆国輸出自主規制にふみきる。自由貿易原則を謳いあげた合衆国であったが、国内の繊維産業を保護する政策を日本の輸出自主規制に求めたからであった。世界的な自由貿易原則の行使と、国内の産業保護を希求する、両義的な通商政策を、合衆国は取り続けた。これは、日米繊維摩擦が問題となるときに、共和党と民主党の双方で追求された政策であった。1950年代のアイゼンハワード政権においてリチャード・ニクソンは副大統領であった。ニクソンは1960年にジョン・F・ケネディ候補に、大統領選で負けた。しかし、ニクソンは、ヴェトナム戦争中の68年に、大統領に就任した。ニクソンは、繊維産業が集積する南部の票田を確保するために、外国からの繊維輸入を制限することを公約にあげた。1950年代後半から60年代初頭にみられた日米繊維摩擦が、ここで再熱した。ニクソン政権は、日本をはじめ、韓国、台湾、香港に、繊維製品の「自主規制」を求めたが、華僑ネットワークを有するアジア四国は強く反発して、通商摩擦の沈静には約3年を要した。しかし、こうしたアメリカとアジアの摩擦が、1971年のニクソン・ショックの背景となる。突然の訪中とドルの金交換停止は、合衆国とアジアの繊維通商摩擦問題を背景にしていた。
著者
今中 哲二 川野 徳幸 木村 真三 七澤 潔 鈴木 真奈美 MALKO Mikhail TYKHYY Volodymyr SHINKAREV Sergey STRELTSOV Dmitri
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

旧ソ連での原子力開発にともなって生じたさまざまな放射能災害について、現地フィールド調査、関係者面談調査、文献調査、関連コンファレンス参加といった方法で実態解明に取り組んだ。具体的には、セミパラチンスク核実験場の放射能汚染、チェルノブイリ原発事故による放射能汚染、マヤック原爆コンビナートからの放射能汚染、原子力潜水艦事故にともなう乗組員被曝といった放射能災害について調査し、その結果を論文にまとめ学術誌に投稿するとともにホームページに掲載した。
著者
山根 久代
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

温帯果樹は芽を分化させたのち、翌春の生長開始期まで休眠状態で越冬する。越冬芽は一定期間の低温に遭遇することにより自発休眠から覚醒し、好適条件下で発芽可能な状態となる。果樹の休眠現象の調査研究の多くは休眠覚醒期の生理と人為的制御法の検討に向けられており、休眠現象の分子レベルでの実態は明らかとなっていない。果樹の越冬芽は花器官が分化していく花芽と栄養生長点が存在する葉芽にわけられる。休眠の実態は両者で異なることから、本研究では花芽と葉芽を明確に区別可能な純正花芽をもつウメを材料とした。ウメ品種‘南高'とタイや台湾で育成されたST, SC,‘二青梅'を供試し、その休眠深度を秋から早春にかけて調査した。その結果、2006年11月26日時点で加温したST, SC,‘二青梅'はいずれも20日前後で萌芽したのに対し、‘南高'では萌芽に至らなかったことから、後者3系統は休眠覚醒に必要な低温要求量が著しく低い系統と位置づけることができた。これらの系統を供試して、細胞周期関連遺伝子であるサイクリンB遺伝子の発現レベルを調査した結果、‘南高'と比較して他の3系統では発現レベルの上昇が早い時期からみられた。しかしながら、その発現量は気温の変化に敏感に反応することが示唆され、サンプリング時期によっては発現レベルの季節的変動がみられないこともあった。したがって、これら遺伝子の発現レベルのみでは越冬芽の休眠深度をはかる指標として不適切な可能性も考えられた。そこで本研究では自発休眠と他発休眠を明確に区別するための分子マーカーの獲得を目的として、自発休眠芽で特異的に発現している遺伝子の探索を試みた。その結果、転写因子や植物ホルモン関連遺伝子などの単離に成功した。
著者
金坂 清則 山田 誠 新谷 英治 勝田 茂 坂本 勉 天野 太郎 小方 登 秋山 元秀
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、19世紀の世界をリードした西欧の中でもとりわけ重要だった大英帝国の人々が行った旅や探険とその記録としての旅行記について、アジアに関するものに絞り、歴史地理学的観点を主軸に据えつつ、歴史学者や言語学者の参画も得て多面的に研究し、そのことを通して、未開拓のこの分野の研究の新たな地平を切り開く一歩にした。また、その成果を地理学のみならず歴史学や文学の世界にも提示して学問分野の枠組みを越えることの有効性を具体的に提示し、かつそれを一般社会にも還元することを試みた。このため、I英国人旅行家の旅と旅行記に関する研究、II英国人の旅と旅行記に関するフィールドワーク的研究、III旅のルートの地図・衛星画像上での復原、IV19世紀のアジアを描く英国人の旅行記文献目録編纂という枠組みで研究を進めた。Iでは、このような研究の出発点となるテキストの翻訳に力点を置く研究と、それ以外の理論的研究に分け、前者については最も重要かつ代表的な作品と目されるJourneys in Persia and Kurdistanについてそれを行い、後者については、最重要人物であるイザベラ・バードやその他の人々の日本・ペルシャ・チベット・シベリアへの旅と旅行記を対象に研究した。IIについては、イザベラ・バードの第IV期の作品であるJourneys in Persia and Kurdistanと、第V期の作品であるKorea & Her NeighboursおよびThe Yangtze Valley and Beyondを対象とし、このような研究が不可欠であり、旅行記の新しい読み方になることを明示した。またツイン・タイム・トラベル(Twin Time Travel)という新しい旅の形の重要性を提示し、社会的関心を惹起した。IIIでは縮尺10万分の1という従来例のない精度でバードの揚子江流域の旅のルートを復原すると共に、この種の研究に衛星画像の分析を生かすことができる可能性を西アジアについて示した。また今後の研究に必須の財産となる目録を編纂した(IV)。
著者
土井 悦四郎 小林 猛 久保田 清 河村 幸雄 上野川 修一 松野 隆一
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

本研究班は2グループよりなる。1のグループは、化学工学的手法を用いて研究を行い、2のグループは、分子論的手法を用いて、研究し、両者の討論により研究を進めてきた。1のグループは、食品のマイクロ波加熱を、速度論的に解析する手法を開発し、エクストルージョンクッキング、高周波処理による水分収着挙動を熱力学関数による解析を行った(久保田)。高度不飽和脂肪酸の包括、粉末化による酸化抑制効果を包括剤としてマルトデキストリン、プルラン、カゼインナトリウウム、及びゼラチンを使用し、酸素透過速度により評価した。そして拡散速度が、膜の含水率に依存する事を見いだした(松野)水/油/乳化剤の三成分よりなるW/O/W型エマルシヨンについて分散小胞粒子の水透過性、ゼーター電位に及ぼす小糖類の影響を詳細に調べた(松本)。2のグループは、モノクローナル抗体を用いて、β-ラクトグロブリンの変性構造の中間状態における立体配置を検出することに成功した(上野川)。α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンの混合系あるいは他のタンパク質の加熱ゲルの構造と、ゲル形成機構を明らかにした。大豆タンパク質の加工特性並びに生理機能(抗高血圧症)の分子機構を検討した(河村)。卵白アルブミン、血清アルブミン、リゾチームなどの各種食品タンパク質の加熱ゲル形成過程を詳細に検討し、普遍性のあるゲル網目構造の形成機構に関するモデルを構築し、その妥当性を証明した(土井、中村)。1と2のグループの結果を総合して食品物性の分子論的知見と化学工学的手法による結果の矛盾点を討論し、食品物性研究の新しい方向を見いだした。以上の結果は今後のわが国の食品科学研究にたいして新しい方向を与え、食品製造、加工の実用面にも大いに貢献するものである。
著者
熊谷 英彦 玉置 尚徳 鈴木 秀之 山本 憲二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

1.(1)大腸菌γ-グルタミルトランスペプチターゼ(GGT)の転移活性を利用して、γ-グルタミル-DOPA、γ-グルタミル-リジン、γ-グルタミルグルタミンを酵素合成した。この結果、γ-グルタミル-γ-グルタミル-DOPA、α位またはε位がγ-グルタミル化されたリジン、γ-グルタミル基が3重につながったグルタミンの合成が明らかになった。(2)大腸菌GGTの低温(20℃)での高発現について、その機構の解明を試みた。その結果、低温でのmRNAの発現量が高くまた低温でmRNAの安定性が高いことが明らかになった。(3)大腸菌GGTのX線結晶構造解析を行いその主鎖構造を明らかにした。(4)大腸菌でのグルタチオン代謝においてGGT反応によってペリプラスムで生成するシステイニルグリシンは、細胞内に取り込まれそれぞれの構成アミノ酸へ分解されること、その際ペプチダーゼA、B、D、Nのいずれもが作用することを明らかにした。ペプチダーゼBについては精製しその性質を解明するとともに、遺伝子のクローニングを行った。2.(1)ビフィズス菌β-グルコシダーゼの遺伝子を大腸菌にクローニングし、大腸菌のβ-グルコシダーゼ高発現株を得た。本高発現株からβ-グルコシダーゼを結晶状に精製し、本酵素が加水分解反応の逆反応(合成反応)を触媒することを発見した。(2)本酵素の固定化カラムと活性炭カラムをタンデムにつなぎ、連続的に合成反応を行い、ゲンチオビオースとフコシル(β1-6)グルコースを合成した。このフコシルグルコースを用いて、ビフィズス菌、乳酸菌、その他種々の腸内細菌による資化性テストを行い、ビフィズス菌9種のうち8種が資化することまた他の細菌類は資化しないことを確認した。(3)ビフィズス菌のα-ガラクトシダーゼが誘導的に生合成されることを明らかにし、単離精製した。本酵素の性質を明らかにするとともに、大腸菌α-ガラクトシド資化能を利用して本酵素遺伝子のクローニング株を取得し、その高発現に成功した。
著者
平丸 大介
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

生体内では、現在の技術では作製することが不可能である複雑な機能を有した微小構造体である生体組織が多数存在しており、それらの工学的応用が期待されている。本研究ではそのような生体組織の代表的なものの一つである毛細血管に着目し、人工的に作製した微小流路構造と自己組織化により作製された血管構造を機能的に結合するμ-TASデバイスを提案した。このデバイス上の微小構造は、平面上に配置されたオリフィスを複数有する埋込流路であり、厚膜ネガレジストであるSU-8内部に形成されている。このような微小構造は通常の露光方法では作製することが困難であり、我々が提案した傾斜露光法を用いることで簡便に作製することが可能となった。そして、埋込流路に接続したオリフィスが配置されたデバイス平面上でヒト由来の内皮細胞の一種であるHUVECを特定条件下で培養することで自己組織化により毛細血管構造を形成し、平面上のオリフィスへと誘導することで毛細血管と埋込流路を、オリフィスを介して機能的に結合する。ランダムに配置される脈管構造の誘導において、昨年度は内皮細胞の誘引因子であるVEGFを含有したゲルビーズをオリフィスに配置することで脈管構造をオリフィスへ誘導を行ったが、ゲルビーズの除去が問題となっており、オリフィスからVEGFを拡散させる手法を検討している。また、毛細血管の形成期間を短縮するために特異な環境下での培養を行っていたため、本年度では一般的な医学分野で用いられる条件下での実験を行うための培養システムの構築を行い、一週間以上の長期培養下での毛細血管構造の誘導と埋込流路との結合を試みた。
著者
渡部 幹
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

社会的交換ネットワークの変容とその規定要因となる心理的特性--公正感と信頼感--に焦点を当てた実験研究を行った。社会的交換状況において不公正分配をされた者が、その状況から脱出しようとする傾向を持つこと、そしてそれによりネットワーク構造全体が変容しうることを確かめるための実験を行った。20名程度の実験参加者がコンピュータを介して、資源の取引を行うという状況を作る。この実験では、すべての参加者が相手に対して不利になるようにあらかじめ設定されており、参加は必然的に、取引相手から搾取され、不公正な分配を受け入れなくてはならない状況におかれる。実験では、このような状況にいる参加者が、公平な分配を受けている場合に比べ、コストをかけてでも取引相手からの離脱を望むかどうかを検討した。予測通り、不公正な分配を受けた参加者は、公正な分配を受けた参加者よりも、交換状況から脱出する傾向の強いことが示された。この結果は、2002年12月に米国で行われた研究会にて発表され、その際の議論をもとに、現在、結果のより詳しい分析を進めている。また、不公正・公正な分配そのものを左右する心理的要因を探るために、最後通牒ゲームと独裁ゲームを用いた研究を行った。これらのゲームは、見知らぬ他者と自分との報酬分配に関するもので、公正な報酬分配を行う者に特徴的な感情や行動傾向との関連性を調べるために、日本人被験者を用いた実験が行われた。この結果、「他者一般への共感能力」の高い者が自発的な公正分配を行う傾向の高いことが見出された。この結果は、2001年8月のアメリカ社会学会、2001年10月の日本社会心理学会にて報告された。この他にネットワーク変容に影響を及ぼすもうひとつの規定要因である信頼感について、その醸成に関する実験研究も行われた。この理論的概要と結果は、土木学会誌および2002年の日本社会心理学会にて報告されている。
著者
大谷 雅夫 川合 康三 宇佐美 文理 大槻 信 伊藤 伸江 森 真理子 齋藤 茂 金光 桂子 緑川 英樹 森 真理子 齋藤 茂 大谷 俊太 深沢 眞二 楊 昆鵬 愛甲 弘志 乾 源俊 浅見 洋二 中本 大 神作 研一 長谷川 千尋 中島 貴奈 日下 幸男 原田 直枝 小山 順子 福井 辰彦 稲垣 裕史 伊崎 孝幸 竹島 一希 中村 健史 好川 聡 橋本 正俊 二宮 美那子 檜垣 泰代 川崎 佐知子 有松 遼一 畑中 さやか 山田 理恵 本多 潤子 大山 和哉
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

室町時代の和漢聯句作品を広く収集し、それらを研究分担者ほか研究会参加者が分担して翻字し、『室町前期和漢聯句資料集』(2008年3月)、『室町後期和漢聯句資料集』(2010年3月)の二冊の資料集を臨川書店より刊行した。また、その中の二つの和漢聯句百韻を研究会において会読した上で、詳細な注釈を作成してそれを『良基・絶海・義満等一座和漢聯句譯注』(臨川書店、2009年3月)および『看聞日記紙背和漢聯句譯注』(臨川書店、2011年2月)として出版した。
著者
大薗 博記
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は、顔情報が信頼関係の構築にどのように寄与するかについて検討することを目的としている。21年度は、主に下記の研究を行った。これまでの研究から、笑顔が真顔に比べて信頼を得ることが指摘されてきた(Scarleman et al., 2001)。本研究では、この笑顔の効果の文化差に着目した。実際に、Yuki et al.(2007)は、幸福の情動判断において、日本人は目が笑っているかどうかに注目しやすい一方、アメリカ人は、口が笑っているか否かに注目が行きやすいことを示している。同様の効果は、信頼性判断においても見られるかもしれないと、考えた。そこで、本実験では、顔の上半分(目周り)の笑顔強度、下半分(口周り)の笑顔強度、及び笑顔の左右対称性という、笑顔の3つの要素が信頼性判断に及ぼす影響の目米差を検討した。実験では、アメリカ人と日本人の参加者が、複数の日米の顔写真(これらの顔写真については、事前に上下の笑顔強度及び左右対称性が評定されていた)について、信頼性の判断を行った。重回帰分析の結果、顕著な文化差が認められた。日本人参加者は、左右対称的であるほどより信頼する一方、上下の笑顔強度は信頼性判断に影響しなかった。対照的に、アメリカ人参加者は、上下の笑顔強度が強いほどより信頼するが、左右対称性は影響しないという結果が得られた。この違いについては、日米の表示規則の違いや認知様式の文化差の観点から考察された。なお、この研究については、Letters on Evolutionary Behavioral Scienceにて、査読後受理され、現在印刷中である。
出版者
京都大学
雑誌
生存圏研究 (ISSN:1880649X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.54-55, 2006

京都大学生存圏研究所森林バイオマス評価分析システムは、細胞レベルから分子レベルにいたるまできわめて複雑な木質の性状を、専門的技術をもちいて正確な評価するシステムである。平成17年度末に専門委員会を立ち上げ、18年度より共同利用の運用を開始する。当初は、木質バイオマスの形成、特にリグニン分析とリグニン生成経路の網羅解析から受け付けるが、将来的には細胞形態評価をも含め、森林バイオマス(木質)のあらゆる評価分析へと発展させる計画である。