著者
松永 光平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.442-459, 2011-09-01 (Released:2015-10-15)
参考文献数
97

中国黄土高原の環境史をめぐる研究動向を分野横断的に整理し,今後の研究の課題と方向性を示した.黄土高原の環境史研究は,「人為的植生破壊が土壌侵食を加速させ,黄河の洪水頻度を高めた」という歴史地理学の主張の一方,地質学は「森林は山地のみにあって黄土高原の大半の原植生は草原であり,植生減少を駆動したのは寒冷乾燥化である」と反論するなど,分野ごとに切り分けられてきた.しかし,両者の研究対象のスケールが異なったため,黄土高原の土壌侵食に及ぼす人間活動と気候変動それぞれの影響はいまだ不明瞭である.この課題に対して本稿では,時間・空間スケールの指標として「地形」に着目する.地形が変化しているにもかかわらず,これまで多くの研究者は,現在の地形区分を過去に適用していた.人間活動と気候変動とが土壌侵食に与えた影響を解明するためには,地形の発達を踏まえて黄土高原の環境変遷を明らかにすることが必要である.
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.210-229, 2022 (Released:2022-07-15)
参考文献数
33

本稿では,テレワーク人口実態調査から得られる年齢階級別・職業別の雇用型テレワーカー率を,国勢調査から得られる年齢階級別・職業別雇用者数に乗じることにより,市区町村別のテレワーカー率を推計した.雇用型テレワーカー率の推計値は,都市において高く農村において低いことに加え,雇用型テレワーカー率の低い現業に従事する雇用者の割合が東高西低であることと逆相関の関係にあり,東日本で低く西日本で高い傾向がある.サービスは雇用型テレワーカー率が低い職業であるが,地域全体の雇用型テレワーカー率の高低に関わらず,偏在する傾向がある.本稿は,相対的に高所得かつテレワーカー率の高い雇用機会が地理的に偏在することだけではなく,テレワークが可能な職に就く人の生活が,同じ地域に住み,テレワークへの代替が困難な相対的に低所得の人々の仕事に支えられているという,地域内格差の可能性にも目を向けるべきであることを示唆する.
著者
本多 広樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.590-606, 2017-11-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
20

本稿では,さいたま市における次世代自動車の活用に着目し,スマートシティ政策の下での技術イノベーションとしての次世代自動車の普及要因を解明することを目的とした.そして,行政や企業・団体,個人を対象に,実際のユーザーの視点から,次世代自動車の活用方法や主体間関係が普及に与える影響を考察した.さいたま市は,他の都市に先駆けて次世代自動車の活用に着目した.当初は行政や一部の企業のみが次世代自動車を活用していたが,時間の経過とともにその数は増加した.その際には,従来の経済的メリットに限らず,環境性能や自動車としての性能,生活の利便性向上といった新たな視点が契機となった.さらに,他の主体から影響を受けていた主体が,別の主体に影響を与えるように変化した場合もあった.結果として,さまざまな活用方法や主体間の相互作用を通した,次世代自動車を活用する主体の増加が,さいたま市における次世代自動車の普及に繋がった.
著者
沖津 進
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.444-455, 1999-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
50
被引用文献数
1 1

八ヶ岳西岳の南西斜面標高1,900m付近にはミズナラ,チョウセンゴヨウ,カラマツの3種が混交する,日本列島では特異な樹種構成の森林が分布している.ここでは,その林分構造を紹介し,日本列島の森林植生変遷史を理解する上でこの混交林が重要な位置にあることを指摘する。胸高断面積比ではミズナラが最も優占し,チョウセンゴヨウは小径木が多い.カラマツは大径木が主体だが,小径木もある程度存在する.この混交林では優占3樹種がほぼ順調に更新している.このタイプの森林は日本列島ではほかには分布しない.一方,北東アジア大陸部ではこれと類似の森林が分布する.最終氷期の寒冷,乾燥気候条件下では中部日本にもこの混交林と類似する森林が分布していたと考えられる.その後の温暖,湿潤化に伴い,現在の位置に限定分布するに至ったと推察される.八ヶ岳西岳の南西斜面は現在でも比較的寒冷,乾燥気候下にあり,大陸型森林のレフュジーアとなり得る地域である.
著者
阿部 亮吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.1-21, 2011-01-01 (Released:2015-01-16)
参考文献数
45

旧河道の陸化過程と植物群落の発達との対応関係を示すため,旧河道の陸化過程を自然区間と河川改修区間に分けて分析し,さらに自然区間では分断後約100年間の植物群落の変化と,内部の植物群落の分布構造を明らかにした.河川改修区間では人工堤防と流路の直線化によって陸化過程が変化した.自然区間では洪水撹乱の減少と細粒物質の堆積によって,分断後45~60年を境に木本種が先駆種から湿地林の構成種に変化した.分断後100年以上経過した旧河道では植物群落が地下水位に応じて分布した.上流側陸化部分では洪水時の土砂堆積によって陸化と樹林化が進展した.下流側陸化部分では旧河道内部からの流水により陸化部分の拡大が制限され,さらに,分断初期の地表面の乾燥化により植物群落の発達が遅れていた.旧河道内部の洪水撹乱が弱い場所では分断以前に形成された地形面に従って植物群落が分布し,谷壁斜面からの土砂流入によって陸化と樹林化が進展した.
著者
須山 聡
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.219-237, 1992-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

本稿は,輪島漆器業が従来からの製造工程と高級品生産を維持したまま発展した基盤を明らかにすることを課題とし,生産流通機構・労働力・原材料の3点から検討した.輪島漆器業は,18世紀以降高級漆器の生産技術を蓄積し,塗師屋を中核とした分業によって手作業を主体とした生産を行なっていた. 1960年代以降の需要の急増に,輪島漆器業は生産流通機構を再編成し,〓漆工程の効率化と販売先の多様化によって,製造工程を変えることなく対応した.漆器生産に必要な労働力は,輪島市と近隣市町村から確保され,徒弟制によって技能を習得する.塗師屋を中核とした分業と徒弟制は,原材料基盤が能登半島内に存在した1920年代までに確立された.現在でも輪島市内には原材料調達機能が存在し,原材料基盤の消失を補完している.高級漆器の生産に必要な,漆器関連事業所・労働力・原材料調達機能が,すべて輪島に存在していることが,生産流通機構の再編成を実現し,輪島漆器業の発展の基盤となっている.
著者
西井 稜子 松岡 憲知
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.155, 2011 (Released:2011-05-24)

1.はじめに 大起伏山地の中~上部斜面には,山体の重力性変形によって形成されたと考えられる多重化した稜線と凹地列からなる地形がしばしば認められ,二重山稜や多重山稜と呼ばれている.現在,稜線上で目にする二重山稜の多くは,測量精度を超えるほど動いていないため,その動態については依然不明な点が多い.最近,南アルプスアレ沢崩壊地周縁では,年間約0.6 mの速度で開きつつある特異な二重山稜の存在が明らかになった(Nishii and Matsuoka, 2010). 本発表では,4年間の観測データと空中写真判読に基づいて,この二重山稜の経年変動について報告する. 2.調査地域と方法 南アルプス北部の間ノ岳(標高3189 m)南東斜面に位置するアレ沢崩壊地は,比高400 m, 平均傾斜40°の急峻な斜面を示す.崩壊地内部では,2004年5月の融雪期に大規模な崩壊が発生した.一帯の年降水量は約2200 mmで,11~6月まで積雪に覆われる.この崩壊地周縁において,2006年10月~2010年10月の無積雪期を中心に,トータルステーションとRTK-GPS測量を組み合わせた斜面の動態観測を行った.さらに,二重山稜の動きを可視化するため,2008年5月から自動撮影カメラ(KADEC-EYE_II_)を設置し,一日間隔で撮影を行った.また,測量実施前の二重山稜の動きを推定するため,3時期(1976, 2003, 2008年)の空中写真判読,2004年崩壊前の現地写真との比較を行った. 3.結果と考察 測量結果から,2地点(A, B)の二重山稜(崖)が急速に広がっていることが明らかになった(図1A, B).崖より谷側斜面では,地表面が緩んでいることを示す新鮮なテンションクラックを数多く伴いつつも,形状を維持し全体的に低下している.A地点では,4年間の総移動量は290 cmに及ぶ.その動きは,冬期に遅く(約1 mm/日),夏期に速い(約3.5 mm/日)という季節変動を伴いながら,年平均の日移動速度では,1.5 mm/日(初年度)から2.7 mm/日(最終年度)へと加速した.広がりつつある二重山稜A, Bは,現在ほど明瞭な崖ではないが1976年には既に存在していた.また,B地点の崖高は,1984年と比較して約1 m増加した.A地点における総移動量の3~4割は,2004年の崩壊によって側方の支持を失った斜面の方向(北東)への動きであることから,2004年の岩盤崩壊以降,急速度で崖が広がり始めたと推定される.観測された二重山稜の動きは,2004年崩壊の応力開放によって新たに斜面の不安定化が生じたことを示しており,今後再び発生するであろう深層崩壊の前兆を示すと考えられる. 引用文献 Nishii, R., Matsuoka, N. 2010. Monitoring rapid head scarp movement in an alpine rockslide. Engineering Geology 115: 49–57.
著者
南雲 直子 大原 美保 藤兼 雅和 井上 卓也 平松 裕基 ジャラニラ サンチェズ パトリシア アン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.123-136, 2022 (Released:2022-06-04)
参考文献数
17

地理情報や被災記録に乏しい途上国において将来の洪水災害に備えるためには,ハザード情報を簡単に可視化・共有でき,住民らが地域の氾濫特性を理解するための手助けとなるような技術が重要な役割を果たす.そこで本研究では,フィリピン共和国の洪水常襲地を対象に,Google Earthを用いて降雨流出氾濫(RRI)モデルによる洪水氾濫計算結果を描画し,建物高さと浸水深の関係を可視化できる3D浸水ハザードマップを作成した.また,このハザードマップに関する講義およびチュートリアル教材を作成し,フィリピンでの技術普及を目的としたオンライン研修で取り上げた.その結果,3D浸水ハザードマップはフィリピンの人々も簡単に作成・利用できるものであり,地域の浸水リスクを理解するのに役立つことが明らかとなった.Google Earthは多言語に対応する無償ソフトウェアであることから,本研究によるハザードマップ作成手法は予算や人材が不足する途上国においても有用な技術であると考えられる.
著者
当麻 成志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.477-486, 1958
被引用文献数
1

Maruyama-kyo was one of the biggest new religious groups which sprang up in Japan around 1880.<br> The writer intends to explain how it grew strong in so short a time and what process it passed through in its growth and decline.<br> I. The rapid development of the religion can be attributed to the facts: (1) There occurred a sudden revolutionary change in social economy; (2) and then the cultures of the districts, where Mt. Fuji is in sight, were intermingled with each other, and with it Maruyama-kyo made a wide-spread though it was limited to those areas.<br> II. The community structures of those villages, where this religion took root, can be classified into three types in accordance with each social geographic situation of city-environs, plains and mountainous regions.<br> III. As soon as peace came to society and social economy recovered its normal state, Maruyama-kyo ceased developing and began to be naturalized as was the case with the old religion-Buddhism. It was found that there were two types in its naturalizing process according to the courses along which Maruyama-kyo developed.
著者
田上 善夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.214, 2009

_I_ 地球温暖化とその影響20世紀末以降における気候変動のもとで、たとえば欧州でのブドウ栽培の大きな変化における主な要因として、地球温暖化があげられるようになっている。日本でも南方産の果樹や野菜の北方での栽培事例が増加するにつれ、同様の指摘が行われている。一方でこの期間における農作物生産の一般的な低迷ないしは減少は大きなものがあり、こうした変化に対する気候等の変動のもつ要因としての意味や程度、また影響の過程は明らかではない。ここでは、欧州などにみられるように気候変動とのかかわりの深いブドウなどの果樹を例にして、栽培用地の成立の要因を明らかにし、さらに変動の影響に関する検討を試みる。<BR>_II_ 近年の果樹栽培の変化 果実酒用ブドウの栽培および醸造は、明治初めの甲府盆地に始まるが、ほぼ時を同じくして上越や信州でも行われてきた。さらに周辺の富山県などでも昭和初期には始められるようになる。現在では北日本に多く、また近年増加の傾向がみられる。 とくに、長野盆地や松本盆地、さらに甲府盆地に多数の生産地が集中する。1990年ころからは、農業構造改善事業を契機に、また耕作放棄地を転用して、さらに農商工等連携事業計画などの多目的なプロジェクトの一環として、各地に比較的小規模なブドウ栽培が増加し、直接あるいは委託による醸造も始められている。 生食用を含めたブドウ栽培用地も、醸造用のものと類似の傾向がみられる。長野、上田、松本、甲府の各盆地をはじめ、余市や南陽周辺などにも広く分布する。さらにブドウを含めた果樹園も、北信越周辺では長野、上田、松本、甲府の各盆地に多いように、ブドウ栽培地と同様の分布がみられる。全国的には、有明海周辺、瀬戸内海、和歌山、東海、東北南部の地域において、丘陵や山地斜面などの傾斜地を基本とした狭い帯状の分布が示される。栽培面積は、ブドウもミカンやリンゴと同様に、近年もなお減少傾向が継続している。ただし果実酒製造所は新たな開設も多く、傾向を異にしている。<BR>_III_ 果樹園の成立要因現在の果樹園用地について、土地の地形、気候などの自然条件から成立の要因を明らかにする。国交省の国土数値情報より、土地利用および標高・傾斜度、土地分類、気候値の各メッシュデータを用いる。土地利用は昭和51、昭和62、平成3、平成9年のデータの中で、昭和51年の「畑」、「果樹園」、「その他の樹木畑」の分類項目は、平成3年以降には、「その他の農用地」に一括されたため、昭和51年のものを中心に用いる。共通して扱える基準メッシュ(3次メッシュ、約1km2)を基本とする。果樹園用地の中でもその高度の違いは大きく、平均標高の高い内陸盆地でも、甲府、長野、上田、松本盆地の順により高くなる。また果樹園用地は斜面に位置することが多いが、最大傾斜の角度はとくに甲府および長野盆地の周辺部で高いものが多い。最大傾斜の方向は特定ではなく、とくに北方向にも多く現れている。土地分類の中の地形分類では、山梨は砂礫台地、長野は扇状地性低地に集中する。また土壌は、山梨では黒ボク、黄色、褐色低地の各土壌が多いのに対し、長野では淡色黒ボク、暗赤色、灰色低地の各土壌が多い。生育期間を4月から10月とすると、その間の平均気温は甲府、長野、松本の盆地の順により低くなる。盆地でもその周辺部山麓では低くなるが、甲府で18℃、長野で17℃、松本で16℃台である。降水量は甲府、長野盆地で少なく、800mm以下であり、とくに600mm以下の地域も現れる。果樹園用地の自然条件を、クラスター分析により分類して示す。5型に分けた場合、_I_少雨、_II_平坦高温、_III_高地低温、_IV_傾斜、_V_低地多雨、の特色をもつ型がある。甲府盆地の周辺部は_IV_の傾斜、松本盆地は_III_の高地低温、長野盆地は_III_、_IV_の型が現れる。一方他の型の_II_は盆地中央部、_I_は_II_に隣接した高地側、また_V_は北陸に多く現れる。<BR>_IV_ 気候変動への対応の検討果樹園用地には、地形や気候の土地の条件が明瞭に現れるが、およそ盆地間では差異が大きく、また盆地内でも中央部と周辺山麓ないしは山地斜面部とでも差異があることが明らかになった。基本的な自然条件が異なるので、温暖化などに対してもこうした局地ごとの対応の検討が必要となる。とくに果実酒用のブドウでみた場合、栽培品種による生育期間の適温は、リースリンクやピノ・ノワールで15℃、シャルドネで16℃とされ、またメルローやカベルネ・ソービニヨン、サンジョベーゼやネッビオーロで18℃とされる。これらにより欧州各地の主力栽培品種に差異が生じるが、とくに甲府盆地では上記品種の適温の上限に近いために、気候の変動の影響が大きいことが考えられる。
著者
貞広 幸雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.7, pp.405-417, 1997-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本稿は,点分布図における空間クラスターの知覚を記述する定量的モデルを提案するものである.地理学において,点のクラスターは最も基本的な空間概念の一つであり,その分析に際しては分布図を用いたクラスターの観察が必ずといってよいほど行われる.しかしながら,クラスターの知覚は点の表示方法に大きく依存するため,場合によってはクラスターが見出しにくいという問題をもたらす.したがって,効率的な分析を行うには,点分布図の表示とクラスター知覚の関係を正確に把握し,その都度適切な表示方法を選択する必要がある.そこで本稿では,表示された点分布図とクラスター知覚の関係を定量的に記述するため,確率モデルに基づいた点クラスター知覚モデルを提案する.ここでは点の局所密度という概念を導入し,点対がクラスターとして知覚される確率を定式化する.さらに,提案したモデルを実際の実験結果に適用し,その有効性と問題点を検証する.
著者
黒木 貴一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.177, 2004

_I_.はじめに 福岡教育大学では自然地理の内容に関し、1年生前期の人文地理学及び自然地理学(15/2コ)、1年生後期の地理学概論(15/2コ)、2年生前期の自然地理学講義(15コ)、3年生の自然地理学実習(30コ) と自然地理学演習(30コ)で講義等がなされる。これらの内容は学年が進むほど専門性が増すようになっている。しかしこれらは自然地理学全般の内容は網羅できず、リモセンやGISなど新しい自然地理学の内容までは十分紹介できない。それ以前に、高等学校の地理を履修していない学生数が急増してきた問題がある。これまで本学の抱える自然地理教育の諸問題を明らかにし、自然地理学実習や地理学概論などを通じて教育方法を検討し、その問題解決方法を模索してきた(黒木,2003, 2004;黒木ほか,2004)。本稿ではその検討と模索状況を紹介し、自然地理学の技能や資質を有する小・中学校教員養成の課題について述べる。_II_.本学の自然地理教育にある問題1.社会科教員を目指す学生の教科への意識 本学で社会科教員を目指す人文系学生の多くは、1)地理の内容が難しいと感じており履修を敬遠し歴史教科を選択しがちである、2)履修意識は第一に資格取得にあり踏み込んだ教科内容を敬遠する、3)泥にまみれ汗を流す自然地理の野外調査に抵抗を感じ自然地理よりも人文地理に進みやすいという特性がある。多くの学生が、1)地理は暗記科目であり、2)教科書の内容は最先端であり、3)自然地理は自然科学の一部とは思っておらず、また4)自然地理に野外調査が必須であるとはあまり考えていない。2.教育環境の問題講義等を進めるにあたり、_丸1_実習室や実験室がない、_丸2_年間履修上限42単位が設定されている、_丸3_多様なコースの学生が全学年履修する実態がある、_丸4_教育関連の実習の種類が多く、_丸5_受け入れ先の都合で五月雨式に学生が休む、などの問題もあり十分な教育環境を提供できていない。_III_.取り組みの現状(対策)_II_.の問題を背景に講義等では、1)新しい自然地理内容の学習、2)文献・資料調査や計算を伴う学習、3)野外調査を必須とする学習、4)実験・観察・解析を必要とする学習を実践させ学生の意識改革を図る。実践の中で地図及び地図帳に親しませ(技能)、時間・空間スケール、人文地理と自然地理との関係、他分野の知識が必要な自然地理的分析手法に関する理解(資質)を進めさせることを念頭におく。1) 新しい地理内容学習:自然地理学実習では、共通パソコン室にて、フリーソフト(ArcExplorer, MapWin, カシミール等)を用いた数値地図およびGIS教育を進めている。2) 文献・資料調査や計算:地理学概論では、九州の水循環をテーマにした講義を実施している。この中で気候学、水文学の内容を紹介し、地図帳などの統計資料を使って水量を計算させ、九州島(各県)の水循環を視覚化させる。ここでは統計の持つ様々な空間と時間スケールを、九州島の1年に統一させる計算過程で、地理的な時間・空間スケールの考え方の理解を進めることも企図している。3) 野外調査:社会研究基礎(初等・中等教員養成コースの社会科専攻学生の演習科目)では、キャンパス周辺の現地調査を行い、テーマ毎の地理情報を地図化し、その地図を用いた模擬授業を実践させている。レポートでは学習指導要領と模擬授業との関連を考えさせる。最終的に学生の作成した地図はGISデータ化し、地域環境マップにまとめた。4) 実験・観察・解析:自然地理学演習と卒論を通じて実験、観察、解析を経験させ、自然地理は野外調査が必要な自然科学であることを理解させる。簡易ボーリング、粒度分析や燃焼試験、活断層や火山灰の観察、岩盤節理計測などを実施させている。_IV_.まとめ自然地理が苦手・嫌いな生徒を再生産させないために、自然地理好きの学生を排出することが現在の重要な課題である。講義等を通じて、小・中学校の自然地理を教える上で不可欠な技能や資質を念頭に置く地理的スキル(学び方、調べ方、まとめ方)を理解させるための試みを表1にまとめた。
著者
山田 晴通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.67-84, 1986-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
136
被引用文献数
5 3

It is often argued how important and crucial roles communication media play in the social phenomena of the modern world. Nowadays, communication media seem to have become one of the most attractive research topics for researchers of any social science. However, it is not the case with human or social geographers. Quite a few geographers refer to keywords like communication, information flow, and télématique, but only few are positively trying to build up “Geography of Information.” “Geography of Information” is yet to come. In the present stage, no standard method nor common direction is established for it. One of the factors which prevent the development of “Geography of Information” is lack of sufficient amount communication media studies in geography, which would provide fundamental knowledge upon the spatial distribution of information. Up to now, geographers have produced not a few research papers upon communication media, but these works arescattered over varied sub-fields of geography. They have been done under different research interests, and have only limited relations with each other. This review article describes the present stage of communication media studies in geography, and tries to search a way to establish common property and common direction for them. In this review, some foci are set upon such subjects as nodal or functional region studies using telecommunication flow data, diffusion studies of broadcasting stations as innovations, and several approaches to newspaper industry. Almost 30 research papers are referred, and more than 50 of them are in English or French.
著者
近藤 裕幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.111, 2004

【石橋の経歴】石橋五郎(1876‐1946)は千葉県出身で、東京帝国大学文科大学史学科を1901年7月に卒業後、1904年神戸高等商業学校に赴任し、商業地理等を教えた。1907年京都帝国大学文科大学に史学科が創設されるに際し,史学地理学第二講座(後の地理学講座)が開設され、小川琢治(1870_-_1941)のもとで、人文地理学を講じた。1921年に小川が他学部へ転出した後は,石橋が講座を担当し、時代変遷史的に地理を見る立場を鮮明にし,当初はラッツエル、後には「地人相関論」の立場にたって講義を行った。1927年からは多くの著作に携わり、『日本地理風俗大系』、中学校教科書を著し、地理学の成果普及に努めた。<br>【地理学の方法論の導入】石橋が活躍し始めた1910_から_20年代の中学校地理教育の現状は、啓蒙的に知識(地名物産地理)を下達するものが多かった。例えば石橋よりも先に活躍した山崎直方の教科書では、地人相関的な記述はなかなかみられず、地名が羅列的に並べられたものが多かった。そうした教科書ではなく、石橋は地理学の方法論をとりいれた教科書を執筆した。(石橋は教科書を1924_から_1943年にかけて約20冊著している。)<br>石橋の地理学方法論とは法則定立と地人相関論にあった。しかし石橋はこの両者を全て地理教育に取り入れずに、教育に役立つと思われる地人相関論のみを教育へとりいれた。それは、石橋が地理学と地理教育を別のものとして捉えていたからである。<br>【地人相関論導入過渡期としての位置付け】しかし、石橋が著した教科書の初期のものは、地名羅列的な記述のものだった。地人相関的記述をともなった教科書を書き始めたのは1931年以後であった。そうした記述がなされるようになった背景に、1931年の「中学校令施行規則改正」がある。このときに教育制度上ではじめて地人相関論を教えることの法的裏づけがなされたのであるが、石橋は地名の羅列的記述から、地人相関的記述へとうつりかわる動きを積極的に当局に働きかけた節があり、過渡期にあった人物といえる。<br>【教育全般(教育課程)における地理教育のいちづけ】一方で、石橋は教育全般(教育課程)における地理教育のいちづけを明確にしようとした。教育の目的を、「個人が一般的幸福のために自然的社会的環境にいかい適応すべきかを学ぶこと」と考えていたので、地理科は人間が環境にいかに適応すべきかを学ぶものだから、教育全般のなかで役立つものとした。<br>【地理教育の目的】教育全般の中での地理教育の役割を、石橋は著書『地理教育論』の中で体系的に論じた。生活に即した知識(職業に役立つ知識)、教養としての地理知識、祖国意識の強化、人類愛観念養成、国土美鑑賞のための情操の陶冶などを挙げている。要約すれば「情緒的な側面の陶冶」と「実用と教養の知識獲得」が地理教育の目的といえよう。実際に教科書をみても、二つの見解が生かされた記述となっている。<br> 同時代に地理教育を論じたものとして、田中啓爾の『地理教育に関する論文集』、佐藤保太郎(1933)の「小学校及び中等学校の地理教育」(『岩波講座教育科学16』)等があるが、いずれも教育大系全体を踏まえた地理教育を論ずることが少なく、局所的な論述で、体系的に論じるには至っていない。<br>【地理教育史における石橋の重要性】これまでのことから、地理教育史上、2つの点で、石橋は重要な存在と考えられる。第1は、地理の知識を上から下へと教授していた時代で、羅列的記述を避け、地理学の手法をとりいれた。そうしながらも、地理学と地理教育を混同しなかった点である。第2に、教育全般(教育課程)における地理教育の位置付けを論じ、目的を明確に論じたことである。すなわち、地理学と地理教育を分離した上で、次に教育全体の中で地理教育が果たしうることを目的論として体系的に打ち出したのである。石橋は「教育全般?地理教育?地理学」の構造を浮き彫りにした事実から、今後地理教育史においてさらに検討を加えられるべき人物であると考えられる。<br>
著者
滝波 章弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.145-167, 1995-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
48
被引用文献数
4 2

本稿はフランスの代表的旅行案内書であるアシェット社のギド・ブルー・パリに描かれるツーリズム空間のあり方を分析した.まず,今までしばしばモニュメントの歴史的美術的解説を重視する保守性が指摘されてきたギド・ブルーが,最近,界隈や通りなどの都市空間記述を増やし,変化してきたことを明らかにした次に,この都市空間記述に関し,その構造の分析およびアトラクションのランクを示す星の数と記述との関連の分析を行なった。そこでは,星の数で評価されるモニュメント的要素が記述では評価されず,逆に星の数で評価されない雰囲気的要素が記述で評価される対比性が明らかになった。さらにこの対比性の社会文化的な意味を,1950年代のシチュアシオニストの主張の中に探った.その結果ギド・ブルーとシチュアシオニストの記述様式の類似性から,ギド・ブルーにみられる雰囲気とモニュメントの対比は価値観上の対立を意味することがわかった.
著者
河本 大地
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.534-548, 2018
被引用文献数
1

<p>「身近な地域」の調査とウィキペディア編集の組合せの有効性と課題を,大学の初年次教育における実践をもとに整理することが本稿の目的である.対象地域は古都・奈良のならまちで,奈良教育大学の近くに歴史的町並みを有する.学生は,ならまち各町を「マイタウン」として担当し,ウィキペディア記事を作成するとともに,自治会長等への聞取りや施設訪問などをおこない,成果を報告会でのプレゼンテーションや,小学生向け冊子にまとめた.取組みを分析した結果,初年次教育として広範な意義が認められた.また,大学教育におけるローカルなフィールドワークおよびその成果の発信によって得られる知識・技能,思考力・判断力・表現力,主体性・多様性・協働性が明らかになった.大学および学生と地域社会との関係性構築にも寄与しており,初年次教育に対する地理学の貢献可能性を見出せる.</p>
著者
小寺 浩二 齋藤 圭 猪狩 彬寛 小田 理人 黒田 春菜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p><b> Ⅰ はじめに</b> 日本では高度成長期に水質汚濁が問題となるも法整備や環境意識高揚等で急速に改善されてきたが、地方でも都市化が進み水質汚濁が激しい地域が存在する。山村地域の排水処理施設の問題から大河川流域では下流部より上流部に汚染が目立つ。「公共用水域の水環境調査」、「身近な水環境の全国一斉調査」等の記録から日本の河川水質長期変動を検討してきたが、本稿では2020年の法政大学の「一斉調査」の結果を中心に考察を行う。</p><p><b>Ⅱ 研究方法</b> 「公共用水域の水質調査結果」、「身近な水環境の全国一斉調査」結果から長期変化を考察した。1971年以前は研究成果や報告書からデータを整理し、2018年以降は研究室の全国規模の観測記録を用い、2020年に研究室で実施した約2000地点の観測結果を対象とした。</p><p><b>Ⅲ 結果と考察 </b></p><p><b> 1 </b><b>.公共用水域の水質調査結果</b> 1971年の約1,000 点が1986年に5,000点を超え、その後6,000点弱の地点で継続されてきた。BOD値の経年変化では当初3以上が半数だった(1971年)が1976年には2以下が半数となり、最近では2以下が約8 割である(2018年)。4以上の値が減少し1以下が全体の約半数に増えている。</p><p><b> 2 </b><b>.身近な水環境の全国一斉調査</b> 2004年の約2,500地点が2005年に約 5,000 地点、その後6,000地点前後で推移し2018年には約7,000地点でCOD4以下が約半数となった。2020年は新型ウイルスの影響で地点が減り法政大学の結果が含まれず3,802地点となったが、約2,000地点の調査結果を加えて解析した。</p><p><b> 3</b><b> </b><b>.</b><b>1971</b><b>年以前</b> 小林(1961)以外の系統的な水質データは入手しづらく過去の水質復元の困難さが浮き彫りとなった。</p><p><b> 4</b><b> </b><b>.</b><b>最</b><b>近</b><b>の水質</b> 2019年以前の全国2000箇所以上のデータに加え2020年のデータを吟味することで近年の特徴が明確となった。</p><p><b>Ⅳ </b><b>お</b><b>わ</b><b>り</b><b>に</b> 全国規模の長期観測結果に1971以前のデータを加え過去の水質を復元した。最近の水質は独自に全国で約2,000地点の観測を行い現況を明らかにした。今後もデータを継続して収集し精度を上げたい。</p>
著者
飯島 慈裕 堀 正岳 篠田 雅人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

1. はじめに <br>ユーラシア大陸での冬季寒気形成は、モンゴルにおいて家畜が多大な被害を受ける寒害(ゾド:Dzud)を引き起こす主要な自然災害要因である。12~3月にかけての低温偏差の持続が、家畜被害と直結する。寒気形成は、継続した積雪面積の拡大と上空の強い低温偏差の維持が関係し、ユーラシアでの地上の低温偏差の強化は、上空に移流してくる北極由来の強い寒気が近年の要因の一つと考えられている(Hori et al., 2011)。特に、北極海の一部であるバレンツ海の海氷急減と対応して、北極の低気圧経路が変わり、それがシベリア高気圧の北偏を促して大陸上への寒気の移流を強めるパターンが提唱されている(Inoue et al. 2012)。 <br>本研究では、2000年代以降のユーラシアでの寒気流出・形成パターンの特徴をとらえるため、再解析データを用いた寒気流出事例の抽出と、その気候場の特徴を明らかにするとともに、高層気象、地上観測データと衛星による積雪被覆データから、ユーラシア中緯度地域での寒気形成について、近年の大規模なゾド年であった2009/2010年冬季を対象として事例解析を行った。<br><br>2. データならびに方法 <br>本研究では、はじめに長期的な寒気流出状況を明らかにするため、1979~2014年の欧州中期予報センター(ECMWF)の再解析データ(ERA-interim)を用いて、北極由来の寒気流出頻度を算定した。寒気流出は、冬季(12~2月)のバレンツ海領域(30-70˚E, 70-80˚N)とユーラシア中緯度領域(40-80˚E, 30-50˚N)との地上気温の15日移動相関が有意となり、かつバレンツ海領域で気温が正偏差の場合とした。 <br>また、2009/2010年冬季でのモンゴル国ウランバートルでの高層気象データ(NOAA/NCDC Integrated Global Radiosonde Archive)とウランバートル周辺でのJAMSTECによる地上気象観測データから、上空寒気移流と逆転層発達に伴う寒気形成過程を解析した。 &nbsp;<br><br> 3. 結果 <br>1979~2014年冬季の北極由来の寒気流出イベント数の時系列によると、2000年以前は、39事例であり、頻度は最大5回、平均1.8回であった。一方、2001~2014年は46回あり、最大7回(2006年)で、平均して3.3回であった。これは、毎月1度は北極由来の寒気移流が起きる状況が近年継続して現れていることになり、その頻度が増えていることを意味している。この長期変化傾向に対応して、2000年代以降は、バレンツ海領域では冬季の気温上昇、ユーラシア中緯度領域では低下傾向が有意に現れていた。 <br>続いて、2009年12月のウランバートルでの寒気形成事例を解析した。12月10~19日にかけて、地上気温が-30℃以下となる寒気が継続している(①期間)。この事例では、9日以降上空の寒気移流と対応して地上の下向き長波放射が急減している。2009年は11月からモンゴルの積雪が拡大しており、放射冷却が進みやすい条件となった。この間、地表から対流圏下層はシベリア高気圧の発達による弱風条件が継続したこともあり、接地逆転層が安定して維持・発達し、寒気が長期間にわたって形成・維持される環境となった。一方、12月24日以降も同様に上空の強い寒気移流があった(②期間)。しかし、対流圏中層から地上まで風速が10m/s以上に達する撹乱によって逆転層の形成が阻害され、-30℃以下の寒気継続は4日間程度と短かった。 <br>以上の結果から、ユーラシア中緯度上空には、北極気候変化に関連してもたらされる強い寒気移流、下向き長波放射量の減少、広域の積雪被覆状態、高気圧発達よる撹乱の減少、によって地表面放射冷却が強まり、逆転層の形成・維持によって異常低温が継続されたと考えられる。今後は、広域積雪をもたらす大気状態と、その後の寒気形成との関係などについて、さらに解析を進める予定である。