著者
山神 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100216, 2017 (Released:2017-05-03)

Ⅰ はじめに本稿の目的は,2010年の近畿地方における通勤流動の基本的な動向を把握することにある。近畿地方中部は京阪神大都市圏で占められ,都市圏多核化の進展を検証するうえで重要な地域である。また,近畿地方の北部や南部における「平成の大合併」以降の通勤流動の検討は,過疎地域における生活環境を考えていくうえで重要性が高いであろう。Ⅱ 近畿地方における通勤流動5%以上の通勤率で就業者が流出する市町村がどれほどあるかを示した図1をみると,5%以上の通勤率を示す市町村がないものとして,京都・大阪・姫路・和歌山の各市に加え,京都府と兵庫県の北部や奈良県南部の市町村などが挙げられる。また,大阪市周辺には通勤流出先の少ないリング状の地域がある(大阪圏内帯)。そして,大阪圏内帯を取り巻いて,通勤流出先の多い地域がこれもリング状に広がる(大阪圏外帯)。ただし,大阪圏外帯では,通勤流出先の少ないものが混在する。こうした二重のリング状の地域以外で通勤流出先の多い地域として,琵琶湖南岸,姫路市周辺,和歌山市南方の広川町周辺が挙げられるが,これらの地域以外では,概して通勤流出先が少ない。次に,どれほどの市町村から5%以上の通勤率で就業者を受け入れているのかを検討する。5%以上の通勤率で通勤流出先となった市町村数を地図化した図2をみると,京都・大阪・神戸の3市に加えて各県の県庁所在都市や姫路市,そしてこれらに隣接する市で多い。さらに,琵琶湖南岸・東岸や大阪府南部,和歌山県の中部・南部では,一部の市町村が多くの市町村からの通勤流出先となっている。一方,近畿地方の北部や兵庫県西部,奈良県南部,和歌山県南端部では,3つ以上の市町村から通勤流出先となっている市町村の存在しない地域が広がる。以上を整理すると,京都・大阪・姫路・和歌山の各市は雇用の中心として,また神戸市や奈良市は大阪市に従属するものの,いずれも多くの市町村から就業者を集めている。次に大阪圏内帯では,大阪市への通勤流出が多いものの,周辺市町村や大阪圏外帯からの通勤流出先となっている。そして大阪圏外帯では,大阪市とともに大阪圏内帯や京都市・神戸市・奈良市などへの通勤流出がみられ,流出先が多様化している。一方,近畿地方の北部や南部では市町村界をまたぐ通勤は少ないものの,雇用の中心となる都市が存在することが多い。 Ⅲ 考察近畿地方中部では市町村界をまたぐ通勤流動が活発である。そのなかで,京都市や大阪市,姫路市,和歌山市は明確な雇用の中心として,神戸市と奈良市は大阪市への通勤流出がみられながらも,多くの市町村からの通勤流入がみられた。また,琵琶湖南岸地域や関西国際空港周辺なども多くの市町村からの通勤流入がみられ,都市圏多核化の進展が垣間見られる。加えて,大阪圏内帯でも多くの市町村からの通勤流入がみられ,大阪市からの雇用の場の溢れ出しが推察される。このように,近畿地方中部では,郊外における雇用の核の存在による集中的多核化ととともに,雇用の場の溢れだしによる中心都市隣接市への通勤がみられる。一方,近畿地方の北部や南部では,市町村をまたぐ通勤は少ない。これらの地域では市町村の面積が大きく,市町村単位での通勤流動の分析に市町村合併の影響が現れている可能性があり,その点を検証するため,市町村合併前後で同様の分析を行う必要がある。ただし,このような地域においても,彦根市や御坊市,田辺市など,周辺市町村からの通勤流出先となっている都市が存在し,これらの都市は,過疎化が進展する地域における雇用の中心として機能している。
著者
日原 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.15, 2005

1.はじめに 学校現場での防災教育の実践例を,筆者の前任校東京都立墨田工業高校(1学年200名・標高1.5m)における1年「地理A」(必修2単位)および3年「選択地理」(選択2単位)の実践記録から紹介する.2.都立墨田工業高校における防災教育の実践例(1)授業開き:地下鉄の駅の差異「菊川駅/恵比寿駅」(1年4月) 授業開きは1年間の生徒の地理授業への「食いつき」を決める決定的な意味を持っていると考えている.ここでは興味を引きつつ,通年にわたって考えてほしいテーマを設定する.実践校では「0m地帯」をテーマとして,「地下鉄の駅から考える」(矢田ほか2002)(配当1時間)という実践を行った.スライドを用いながら,身近な景観の中に防災対策が隠されていることに気づかせ,地形断面図と重ねることにより分布の意味を考察するという地理的見方・考え方の重要性を理解させた.(2)地域調査:「0m地帯を歩く」(1年7月) 7月の補習期間に1年生全員対象の0m地帯の見学(配当4時間)をクラスごとに5日に分けて実施した(日原2004).実際の景観で実感的に0m地帯を理解させることで防災意識を高めることができた.(3)シミュレーション学習:「開発による洪水流出の変化」(1年9月) 日原(1996)が開発したシミュレーション教材「開発による洪水流出の変化」は,タンク・モデルによる洪水流出解析をPC利用によって生徒が作成することを通じて,多摩ニュータウン開発による乞田川の流出の変化を実感的に理解することができる(配当2時間).上流地域が開発により排水性の高い流域へ改変されると,下流地域への洪水集中が起こりやすくなる.洪水は流域の問題であることを理解させた.(4)洪水/水害,地震/震災の差異を理解させる授業(1年9月) 義務教育段階での防災意識は「地震だ⇒火を消せ」に代表される規範的なものであるが,後期中等教育以降では災害の構造を客観的に見る目を育てたい.そのためには自然災害の連鎖構造を理解させることが重要であると考えている(日原1993,1999).自然災害の連鎖構造は「_I_誘因⇒_II_自然素因⇒_III_加害力の作用⇒_IV_社会素因⇒_V_被害の発生⇒_VI_社会素因⇒_VII_災害の波及」という図式で捉えられる(水谷 1985)._V_や_VII_に至らないように,この矢印をどこかで断ち切ることが「防災」であることを理解させるために,9月最初の授業に「防災の日」にちなんだ特設的な「地震を考える」(配当2時間)を設定した.連鎖構造を理解させるためには,地震の場合,地形の階層的理解が不可欠である.「学校周辺の地形は○○である」=暗記の地理に慣れてきた生徒は単一の答えを信じている.しかし,現実には,大地形=変動帯,中地形=関東平野,小地形=沖積面,微地形=埋め立て造成地と,地形環境はMulti-scaleに構成されている._I_誘因は大地形・中地形の問題であり,_II_自然素因には小地形・微地形が効いてくる.この実践からは,まず,科学的に安全な地盤地域への居住(転居)という「防災」が浮上する.しかし,経済的に自立しえない高校生段階では,非現実的であると共に,ややもすると厭世的になりかねない.そこで,社会素因を考えさせる.義務教育時代に断片的な知識として覚えてきた震動時の行動,身の回りの家具の固定,防災グッズの準備等は_IV_にあたる.さらに,重要なのは_VI_であり,ここでは「助け合える,協調的な地域社会の構築」がひとつの鍵になり,その実現は高校生も日常生活を通じて十分担っていける.(5)文化祭でのビデオ「江東区の0m地帯」制作・発表(3年4-10月) 1年必修「地理A」の知識を発展させて,3年選択「地理」では10月の文化祭に参加するビデオ作品「江東区の0m地帯」の制作を行わせた(日原1998).生徒が脚本を作成し,景観を撮影して編集する.脚本確定に至る討論が防災教育として大きな意義を有していた.完成作品は文化祭で上映するとともに,近隣の小学校への配布を行った.3.防災教育の課題 これまでの実践から,学校教育における防災教育の課題として以下の点を指摘する. 1 地理に関する学習指導要領において「防災教育」が正当に位置づけられることが不可欠である. 2 生活地域と学区域がほぼ一致する義務教育段階と異なり,学校周辺と自宅周辺の自然環境が異なる場合が多い高校以上においては,現象の扱いに配慮が必要である. 3 2も含めて,発達段階を考慮した小中高一貫防災教育カリキュラムの構築が重要である.
著者
朴 恵淑
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.164, 2010

1.趣旨<BR>愛知・名古屋で10月11日から29日まで、国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催される。COP10 では、生物多様性の保全、生物資源の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ公平な配分をはかるための、生態系・種・遺伝子の3つのレベルでの多様性保全に関する国際合意が期待されている。<BR>産業革命以降の経済優先の制作によって環境破壊が進み、生態系に深刻な悪影響が生じた。日本の1960-1970 年代の4大公害問題や、近年の地球温暖化問題、生物多様性保全、砂漠化防止に至る地球環境問題が最も懸念されている。地球規模や地域の環境問題を解決するためには、公害や環境問題の本質を究明し、負の遺産を将来への正の資産とかえるべく、人間と自然との関係を探る実践的環境教育の役割が期待されている。<BR>本公開シンポジウムは、大学・学校、行政、NPO によって行われている環境教育の内容を把握することで、成果や課題を考察し、生物多様性の保全と実践的環境地理教育の役割を探ることを目的とする。<BR>2.公開シンポジウムのコンテンツと論点<BR>本公開シンポジウムは4部構成となる。第1部では、生物多様性と環境地理教育に関する基調講演を行う。第2部では、世界各国の環境問題に伴う生物多様性への影響、環境政策について探る。第3部では、実践的環境地理教育における生物多様性保全活動について、研究機関、学校、大学、NPO による活動発表を行う。第4部では、総合討論を行い、各々の発表に対するコメント及び実践的環境地理教育における地理学の役割と課題を探る。<BR>第1部:生物多様性と環境地理教育(基調講演)(40 分)座長;井田仁康(筑波大)<BR>・ 趣旨説明. 朴 恵淑(三重大) 生物多様性と実践的環境地理教育<BR>・ 基調講演1. 市原信男(環境省中部地方環境事務所長) 愛知・名古屋生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の意義と課題<BR>・ 基調講演2. 秋道智彌(総合地球環境学研究所副所長) 生物資源と生物多様性—有用性と有害性の関係価値を超えて<BR>第2部:各国における生物多様性(60 分)座長:梅村松秀(ERIC)<BR>・ 森永由紀(明治大) モンゴルの環境問題<BR>・ 金玹辰(三重大) 韓国における生物多様性国家戦略と生物多様性教育<BR>・ 谷口智雅(立正大・非) アジアの大都市における生物多様性<BR>・ 宮岡邦任(三重大) ブラジル・バンタナールにおける人間活動が水文環境及び生態系に与える影響<BR>第3部:実践的環境地理教育における生物多様性保全活動(65 分)座長:谷口智雅(立正大・非)<BR>・ 梅村松秀(ERIC) ESD と生物多様性との関わり〜地理教育における「生物多様性」を考えるために<BR>・ 新玉拓也(魚と子どものネットワーク) 小学生を対象とした実践的環境教育〜亀山市における実践的環境教育を事例に<BR>・ 泉 貴久(専大松戸高) 中等地理教育における生物多様性の実践〜「熱帯林開発の是非」をテーマとした高校地理A の授業実践プラン<BR>・ 中村佳貴(三重大かめっぷり) 大学環境サークルによる生物多様性の調査〜三重大ウミカメ・スナメリ調査保全サークルかめっぷり活動報告<BR>・ 伊藤朋江(三重大COP10 学生実行委員会) 三重大COP10実行委員会の活動〜生物多様性の保全と人材の育成を目指して<BR>第4部:総合討論(65 分)座長:朴 恵淑(三重大):<BR>・ コメント1. 吉野正敏(筑波大名誉教授)・ コメント2. 犬井 正(獨協大)・ コメント3. 井田仁康(筑波大)<BR>・ 総合討論<BR>3.環境地理教育研究グループの活動内容・課題<BR>
著者
矢野 桂司 磯田 弦 中谷 友樹 河角 龍典 松岡 恵悟 高瀬 裕 河原 大 河原 典史 井上 学 塚本 章宏 桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.12-21, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
30
被引用文献数
10

本研究では,地理情報システム(GIS)とバーチャル・リアリティ(VR)技術を駆使して,仮想的に時・空間上での移動を可能とする,歴史都市京都の4D-GIS「京都バーチャル時・空間」を構築する.この京都バーチャル時・空間は,京都特有の高度で繊細な芸術・文化表現を世界に向けて公開・発信するための基盤として,京都をめぐるデジタル・アーカイブ化された多様なコンテンツを時間・空間的に位置づけるものである.京都の景観要素を構成する様々な事物をデータベース化し,それらの位置を2D-GIS上で精確に特定した上で,3D-GIS/VRによって景観要素の3次元的モデル化および視覚化を行う.複数の時間断面ごとのGISデータベース作成を通して,最終的に4D-GISとしての「京都バーチャル時・空間」が形作られる.さらにその成果は,3Dモデルを扱う新しいWebGISの技術を用いて,インターネットを介し公開される.
著者
木村 義成 山本 啓雅 林田 純人 溝端 康光
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p><b>研究発表の背景</b></p><p> 令和元年度版の消防白書によると,全国における医療機関への平均搬送時間は35.0分(平成20年)から 39.5.分(平成30年)と10年間で4.5分増加しており,救急搬送の長時間化が指摘されている.また,患者の受入先医療機関が速やかに決定しない救急事案(救急搬送困難事案)が全国的に報告されている.</p><p> 傷病者に対する救急搬送の時間フェーズは大きく分類すると,「傷病発生〜消防署による覚知」,「覚知〜救急車の現場到着」,「現場到着〜傷病者の医療機関への収容」の三段階となる.救急救命活動においては,傷病者に対して一定時間内に適切な初期処置を行わなければ救命率が下回ることが報告されており,救急搬送の時間フェーズの中では,特に救急覚知場所への到着,「覚知〜救急車の現場到着」までの時間短縮が重要となる.</p><p> 高齢化社会が進展する中で,今後も救急需要は高まることが予想されており,救急施策において消防組織の改善努力では限界があり,救急車の適正な利用促進や夏季における熱中症の注意喚起など,搬送対象となる地域住民への啓発活動が推進されている.</p><p></p><p><b>研究発表の目的</b></p><p> このような社会的な背景のもと,本研究発表では,現場到着からみた救急活動,不要不急な救急車の利用,熱中症と社会地区属性の3つの課題を例に,地理学がどのように救急医療の諸課題に貢献できるか紹介する.</p><p> 本研究発表では,救急隊の活動において重要視される「出場〜現場到着」時間の観点から考案した「救急隊最近接地域」という空間分析単位と都市内部の居住者特性の空間的分布パターンや居住分化に関する分析から派生したジオデモグラフィックスと呼ばれる小地域における地区類型データを用いた分析を上記の3つの課題に適用する方法について解説する.</p><p></p><p><b>救急隊最近接地域を用いた分析例</b></p><p> 救急活動においては,救急隊配置場所から救急覚知場所(「出場~現場」)の現場到着時間の短縮が重要となる.したがって,発表者らは,各救急隊がそれぞれ最短時間で現場到着できる地域を「救急隊最近接地域」と定義し,カーナビゲーション・システムで利用される道路ネットワーク・データとGIS(地理情報システム)を用いることで,この独自に定義した地域を作成した(木村, 2020).</p><p> 本研究発表では,大阪市を事例にした「救急隊最近接地域」の作成(図1)と,この独自に作成した空間分析単位を用いて,現場到着からみた救急活動,不要不急な救急車の利用に関して,それぞれの地域差について分析した例を示す.</p><p></p><p><b>ジオデモグラフィックスを用いた分析例</b></p><p> 本研究発表では,Experian Japan社のMosaic Japanというジオデモグラフィックス・データと大阪市消防局の救急搬送記録から判明した熱中症発生データから,熱中症が多発する地区類型を見出す分析例を紹介する.</p><p> この分析例から,どのような地区特性の,どのような人を対象に,熱中症の注意喚起を促す広報活動を行うか,救急施策に対する地区類型データの利活用の可能性について本研究発表で触れる。</p><p></p><p><b>参考文献</b></p><p>木村義成 2020. 大阪市における消化出血患者の搬送特性からみた地域グループ.史林 103(1):215-241.</p>
著者
北島 晴美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100158, 2016 (Released:2016-11-09)

1.はじめに発表者は,心疾患,脳血管疾患,肺炎,老衰の死亡数・死亡率の季節変化について報告している(北島・太田,2009a, 2009b,2011, 2012a, 2012bなど)。全死亡数の3割弱を占め,死因第1位の悪性新生物による死亡数は,季節変動しないが,第2位~第5位の死因(心疾患,肺炎,脳血管疾患,老衰)による死亡数は,いずれも冬季に多く夏季に少ない傾向を示す。冬季の気温は上昇し,住居の暖房が完備し,気密性が向上し,居住環境は好転しているが,最近でも死亡数の冬山は消滅しない状況である。死亡数の多くは高齢者であり,高齢者には季節の推移による気温変化が,依然として寿命を左右する要因といえよう。2009年以降の最新のデータにより,主要死因(悪性新生物,心疾患,肺炎,脳血管疾患,老衰)別に,毎年の月別死亡率の季節変化傾向と,死亡率の経年的変動について,分析した。 2.研究方法使用した死亡数データは,人口動態統計(確定数)(厚生労働省)である。死亡数が多い75~84歳85~94歳,95歳以上の3年齢階級を対象とし,季節変化を見るために,死因別,年齢階級別,月別死亡率(全国,総数)を算出した。北島・太田(2011)と同様に,各月死亡率は,1日当り,人口10万人対として算出した。人口は各年10月1日現在推計人口(日本人人口)(総務省統計局)を使用した。 3.主要死因別死亡率の季節変化と推移(1) 悪性新生物(図1)3年齢階級とも,他の死因のような明瞭な季節変化は見られないが,84~95歳の死亡率は,図1のように,わずかに夏低く11・12月に高い傾向がある。75~84歳の死亡率は2009年から2014年にかけて,低下傾向がみられる月が多い。  (2) 心疾患(図2)3年齢階級とも死亡率は冬季に高く,夏季に低い傾向がある。75~84歳,85~94歳の死亡率は,2009年から2014年にかけて,多くの月で低下傾向がみられる。  (3) 肺炎,脳血管疾患肺炎,脳血管疾患の死亡率は心疾患よりも低いが,季節変化,経年変化とも心疾患死亡率と類似傾向である。  (4) 老衰3年齢階級とも死亡率は冬季に高く夏季に低い傾向がある。3年齢階級の死亡率は,2009年から2014年にかけて,全月で上昇傾向がみられ,他の主要死因とは対照的である。 4.各月気温と死亡率の関係2009~2014年の日本の月平均気温偏差(気象庁)が特徴的な年・月(高温,低温)について,全国の死亡率のほか,都道府県別死亡数デーを確認した。

3 0 0 0 OA 幾何学の帝国

著者
杉浦 芳夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.857-878, 1996-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
111
被引用文献数
1

本稿では,石川栄耀の生活圏構成論を手がかりにして,中心地理論の戦時中のわが国への伝播の可能性を検討した.石川は,外国の都市・地域計画論の影響を受けっつも,独自に生活圏構成論を考えっいたが,内務省技師・伊東五郎によってわが国へ紹介されたドイツ版生活圏シェーマは,石川のものと酷似しており,結果的に彼の説を補強することになった.ドイツ東方占領地の集落配置計画に用いられていたドイツ版生活圏シェーマのルーツが, Christallerが1941年に提案した,市場・行政・交通の3原理が同時に作用した場合の中心地立地シェーマにあったと判断されるたあ,中心地理論が示唆する集落配置の考えは,戦時中すでにわが国へ伝わっていたと結論づけられる.
著者
内野 尚美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2007年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.42, 2007 (Released:2007-11-16)

かつて日本各地には,主に農業利用のための半自然草原が多く見られた.これらの多くは,利用価値の低下に伴って,他の土地利用へと変換されたり,放棄されたままの状態になった.箱根山では,外輪山や中央火口丘山頂部にササ原が存在する.当地域は,外輪山を中心に入会地として利用されてきた地域である.本研究は,箱根山周辺におけるササ原が,今後遷移が進み森林へと変化するかどうかを推定することを目的とする. 本研究では,箱根山周辺の植生変化の概要を把握するために,明治期に大日本帝国陸地測量部から発行された地形図と,現在国土地理院から発行されている地形図の地図記号を判読して比較した.さらに,植生の現状を詳細に把握するため,野外においてササ原とこれに隣接する森林内にそれぞれ複数の方形区を設定した.そして,枠内に出現する植生の調査を行った. 箱根山の植生は,大部分が二次的なものである.山麓部ではコナラ,ケヤキ等が成育し,山頂部に近づくにつれてリョウブ,アセビ,アブラチャン,ニシキウツギなどに変化する.神山,金時山,三国山,台ヶ岳にはブナ林が存在する.これらのブナ林は,林床にスズタケを伴う太平洋型ブナ林の特徴を示している.また,外輪山外側を中心にスギ,ヒノキの植林地が大きな面積を占めている.箱根山周辺における主なササ原は,矢倉沢峠から明神ヶ岳を経て明星ヶ岳にかけての範囲,外輪山南向き斜面,湖尻峠付近,駒ケ岳山頂部等に存在する.ササ原を構成する種は,大部分がハコネダケであるが,標高1000 mを超えるとハコネメダケとなる.また,外輪山南向き斜面では,イブキザサ,ミヤマクマザサとなる.森林内では,ハコネダケに変わりスズタケが多く見られるようになる.しかし,基盤岩や礫が露出するような土壌の薄い地域では,ササは存在しない. 明治時代の地形図を見ると,外輪山のほとんどの地域が荒地や竹林の記号となっている.広葉樹林の記号が存在する地域は神山,駒ケ岳などの中央火口丘と,文庫山,三国山及び山麓部である.針葉樹は山麓部を中心に存在する.現在の地形図では,外輪山を中心に広い範囲を針葉樹が占め,明治期に荒地や竹林の記号であったところのほとんどが針葉樹となっている.これらの大部分は植林によるものと考えられる. 野外調査の結果,共に外輪山東向き斜面に位置する湖尻峠と三国山を比較すると,湖尻峠はササ原であり,三国山はブナ林であるという相違が見られた.湖尻峠は現在財産区であり,かつては入会地であった地域である.このことから,湖尻峠も本来は三国山のようなブナ林であったが,草地として利用された後に,ササ原となったと考えられる. 以上の結果から,箱根山周辺におけるササ原は,かつて入会地として利用されていた場所に成立していることは明らかである.入会地の大部分は植林されたが,土地条件が悪いため植林できなかった地域や,入会地での利用が近年まで続いた地域はササ原となったと考えられる.森林化が進まない要因として,ササの被圧が挙げられる.また,ササ原は南東向き斜面に多く存在していることから,南東からの強風により森林化が阻害されていると考えられる.
著者
喜馬 佳也乃 坂本 優紀 川添 航 佐藤 壮太 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

<b>1.はじめに<br> </b>「聖地巡礼」とはアニメや漫画の舞台となった場所をファンが訪問するコンテンツ・ツールズムの一形態である.大石(2011)によると,こうした「聖地巡礼」行動の歴史は2002年に制作された『おねがい☆ティーチャー』に端を発し,この背景には情報を共有するためのインターネット,そして現地の写真とアニメの描写を比較するためデジタルカメラとHDDレコーダーといったデジタル画像処理技術の普及が必要であったとされる.2010年代以降,アニメや漫画といったサブカルチャーコンテンツの一般化が進展する中,SNSとスマートフォンの普及により,ますます情報の共有,発信が盛んとなってきている.これに伴い「聖地巡礼」行動も隆盛を極め,地域活性化の一資源として注目されるに至っている.本研究では,こうした「聖地巡礼」行動の一大訪問先となった茨城県大洗町において,そこを訪れる巡礼をファンの属性や訪問回数,訪問先などを分析し,「聖地巡礼」を行うファンの変化を明らかにする.<br><br><b>2.大洗町とアニメ</b>「ガールズ&パンツァー」<b> </b><br> アニメ「ガールズ&パンツァー」は,架空のスポーツである戦車道に取り組む少女たちを描いた作品である.登場人物のほとんどを美少女キャラクターが占めるいわゆる「萌え」作品であると同時に,戦車といったミリタリー要素,そして「スポ根」と表現されうるストーリー展開を併せた点が特徴とされる.2012年10月から深夜帯で放送され,2015年には劇場版が上映された.2017年12月以降も劇場作品が制作され続けており,続編の多さからも人気作品であることが伺える.<br> 大洗はこの作品の主人公の所属する高校が立地し,作中にもアニメ本編,劇場版ともに戦車による試合の会場として登場する.大洗町のマリンタワーやアウトレットといったランドスケープが登場する以外にも,市街地の商店街内を戦車が駆け巡るなど,広範囲にわたって描写される.作中の背景描写は実際の大洗町を詳細に描いたものであり,ファンを引き付ける要素となっている.<br><br><b>3.大洗町を訪れるファンの分析</b><br> 大洗町を訪れるファンのほとんどは男性であり,年齢は10代から50代まで幅広い.劇場版の放映後に大洗を訪問したというファンが半数以上を占めている.訪問地は訪問回数と一部相関関係が見られ,商店街はほぼ全員が訪れる一方,アウトレットやマリンタワーには来訪頻度が少ないファンが訪れる傾向にある.商店街はアニメに直接描写された場所であるが,来訪頻度が高いファンには行きつけの店や馴染みの店としての意味も付与され,アニメの舞台として特別な場所という意味付けから,日常の一部にシフトしていったものと捉えられる.ファンの男性たちを顧客として受け入れる商店街の態度は,村田(2000)の疎外する場所とは逆の状況が生まれているとも指摘でき,こうした受容の結果,「聖地巡礼」を契機とした移住者の存在も確認される.
著者
荒木 俊之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.56-69, 2016 (Released:2016-06-23)
参考文献数
31
被引用文献数
3

本稿では,小売業の立地規制で代表的な大店法の運用が緩和された1990年代以降の小売店の立地変化と立地規制の影響について,店舗形態,業態,立地環境の視点から明らかにした.成長を示した業態や地域に共通している点は,1990年代以降の立地規制の運用緩和が少なからず影響していることである.たとえば,1990年代以降の市街化調整区域における開発許可の運用緩和,2000年以降の市街地縁辺部における幹線道路のロードサイドでの開発許可条例の運用,そして,1990年代における大店法の運用緩和である.
著者
喜馬 佳也乃 坂本 優紀 川添 航 佐藤 壮太 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000328, 2018 (Released:2018-06-27)

1.はじめに 「聖地巡礼」とはアニメや漫画の舞台となった場所をファンが訪問するコンテンツ・ツールズムの一形態である.大石(2011)によると,こうした「聖地巡礼」行動の歴史は2002年に制作された『おねがい☆ティーチャー』に端を発し,この背景には情報を共有するためのインターネット,そして現地の写真とアニメの描写を比較するためデジタルカメラとHDDレコーダーといったデジタル画像処理技術の普及が必要であったとされる.2010年代以降,アニメや漫画といったサブカルチャーコンテンツの一般化が進展する中,SNSとスマートフォンの普及により,ますます情報の共有,発信が盛んとなってきている.これに伴い「聖地巡礼」行動も隆盛を極め,地域活性化の一資源として注目されるに至っている.本研究では,こうした「聖地巡礼」行動の一大訪問先となった茨城県大洗町において,そこを訪れる巡礼をファンの属性や訪問回数,訪問先などを分析し,「聖地巡礼」を行うファンの変化を明らかにする.2.大洗町とアニメ「ガールズ&パンツァー」 アニメ「ガールズ&パンツァー」は,架空のスポーツである戦車道に取り組む少女たちを描いた作品である.登場人物のほとんどを美少女キャラクターが占めるいわゆる「萌え」作品であると同時に,戦車といったミリタリー要素,そして「スポ根」と表現されうるストーリー展開を併せた点が特徴とされる.2012年10月から深夜帯で放送され,2015年には劇場版が上映された.2017年12月以降も劇場作品が制作され続けており,続編の多さからも人気作品であることが伺える. 大洗はこの作品の主人公の所属する高校が立地し,作中にもアニメ本編,劇場版ともに戦車による試合の会場として登場する.大洗町のマリンタワーやアウトレットといったランドスケープが登場する以外にも,市街地の商店街内を戦車が駆け巡るなど,広範囲にわたって描写される.作中の背景描写は実際の大洗町を詳細に描いたものであり,ファンを引き付ける要素となっている.3.大洗町を訪れるファンの分析 大洗町を訪れるファンのほとんどは男性であり,年齢は10代から50代まで幅広い.劇場版の放映後に大洗を訪問したというファンが半数以上を占めている.訪問地は訪問回数と一部相関関係が見られ,商店街はほぼ全員が訪れる一方,アウトレットやマリンタワーには来訪頻度が少ないファンが訪れる傾向にある.商店街はアニメに直接描写された場所であるが,来訪頻度が高いファンには行きつけの店や馴染みの店としての意味も付与され,アニメの舞台として特別な場所という意味付けから,日常の一部にシフトしていったものと捉えられる.ファンの男性たちを顧客として受け入れる商店街の態度は,村田(2000)の疎外する場所とは逆の状況が生まれているとも指摘でき,こうした受容の結果,「聖地巡礼」を契機とした移住者の存在も確認される.
著者
小池 拓矢 鈴木 祥平 高橋 環太郎 倉田 陽平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>1.</b><b> </b><b>はじめに<br></b> スマートフォンの普及にともない、携帯端末で利用する、実空間と連動したさまざまなサービスが登場している。観光分野においては、位置情報を活用したサービスが観光客の行動に影響を与えるだけでなく、観光振興のツールとしても活用されている。そのなかでも本研究では、世界規模で行われている位置情報を利用したゲーム(以下、位置ゲーム)に着目した。 世界規模で行われている位置ゲームの例として、現実空間で宝探しを行う「ジオキャッシング」がある。ある参加者が設置した宝箱を他の参加者がスマートフォンやGPS受信機を片手に探し回るものであり、2016年7月現在、世界には約290万個の宝箱が存在している。また、Niantic Labsが開発・運営する「Ingress」は全世界規模で行われる陣取りゲームであり、この位置ゲームを介して企業のプロモーションや自治体の観光振興が行われている例もある。そして2016年7月、位置ゲームにAR(Augmented Reality: 拡張現実)と人気キャラクター「ポケモン」の要素を加えたアプリゲームである「Pokemon GO」が全世界で順次配信された。このゲームの最大の特徴はスマートフォンのカメラ越しの風景に、ポケモンがあたかも現実空間に存在するかのように出現することである。配信直後からPokemon GOで遊んでいる写真などがSNSに数多くアップされ、メディアでは社会現象として連日このゲームの話題が取り扱われた。 倉田(2012)はジオキャッシングやスタンプラリーのようなフィールドゲームを観光地が実施する意義について、以下の5点を挙げている。 地域の有する観光資源を認知してもらう機会が増える観光資源に付加価値を与えることができる観光客の再訪が期待できる滞在時間の増加が期待できる旅行者が地元の人と言葉を交わすきっかけを生み出せるかもしれない つまり、本来は目を向けられることもないスポットに人々を誘引する可能性を位置ゲームは含んでいる。本研究の目的は、Twitterの位置情報付きツイートをもとに、Pokemon GOの観光利用の可能性について基礎的な知見を得ることである。 <br><br><b>2.</b><b> </b><b>研究方法</b> <br> Pok&eacute;mon GOの配信がアメリカなどで始まった2016年7月6日以降、Twitterの投稿内容に「Pokemon GO」の文字列が含まれる位置情報付きツイートを、TwitterAPIを用いて収集した。そして、ツイートが行われた位置やその内容について整理し、分析を行った。日本では7月22日に配信が始まっており、「ポケモンGO」の文字列を含むツイートについても分析の対象とした。 <b>&nbsp;<br><br></b><b>3.</b><b> </b><b>研究結果<br></b><b></b> 日本でPokemon GOの配信が開始された7月22日(金)から24日(日)までに日本国内で投稿された位置情報付きツイートのうち、上記の条件を満たすものの分布に関する図を作成した。これによると、Pokemon GOに関するツイートの投稿地点は全国に広がって分布していることがわかった。
著者
宇津川 喬子 白井 正明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.329-346, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
87
被引用文献数
2

粒子形状の研究は理学・工学のさまざまな分野で行われているが,長年にわたる用語の不統一や,近年における画像解析を中心としたデジタルな手法への移行といった傾向があることから,研究の現状を整理する必要がある.本稿では砕屑物の形状,特に昨今注目される「円磨度」に焦点をあて,20世紀以降の研究史を紹介する.円磨度は,半世紀以上前に提案された定義や階級区分が今日でも多用されている.中でも,短時間で半定量的に円磨度を計測できるKrumbeinの円磨度印象図は今後も活用が見込まれることから,より再現性の高い測定を行うための補助フローチャートを提案した.また,2Dおよび3D画像解析では高解像度化に伴う粒子の輪郭の評価が焦点となることから,曖昧であった円磨度と表面構造の境界を再定義した.今後,画像解析は円磨度を含めた形状研究の主軸となる可能性が高く,画像解析に対応した粒子形状の評価方法をさらに議論する必要がある.
著者
矢ケ﨑 典隆
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.83-101, 2015-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
64
被引用文献数
1

地誌学は地域を説明するための考察の枠組を提示し,地域スケールに応じた地域像を描くことを目的とする.今日,地誌学を再評価・再構築することが急務である.そこでアメリカ地誌の新しい方法を提示するために,自然と人間,起源と伝播,地域と景観,時間と変化に着目した.コロンブスの到来以降,アメリカ先住民の世界は大きく改変され,北東部には北西ヨーロッパ系小農経済文化地域,南東部にはプランテーション経済文化地域,南西部にはイベリア系牧畜経済文化地域が形成された.19世紀後半に北西ヨーロッパ系小農経済文化地域が全土に拡大した.そして20世紀に入って1960年代末までにアメリカ的生活・生産様式が確立し,1970年代以降,アメリカ型多民族社会・分断社会が形成された.21世紀のアメリカの地域像を描くためには,「世界の博物館アメリカ」という考察の枠組が有効である.アメリカ地誌には探検と発見の可能性に満ちた魅力的なフロンティアが存在する.
著者
小坂 英輝 楮原 京子 今泉 俊文 三輪 敦志 阿部 恒平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.493-504, 2013-11-01 (Released:2017-12-08)
参考文献数
16

本論では,平野側に大きく湾曲する形状をもつ逆断層のセグメンテーションを検討するために,北上低地西縁断層帯・上平断層群南端部に発見されていた断層露頭を精査した.また,断層露頭周辺の断層変位地形の記載をあわせて行い,断層活動履歴,平均上下変位速度および単位実変位量を求めた.断層露頭の断層は,新第三系の凝灰岩が段丘堆積物に対して48°以上の高角度で衝上する構造をもち,右横ずれ変位を伴う逆断層である.その断層活動は最終氷期後期以降に少なくとも4回,平均上下変位速度は0.3±0.1 m/千年程度,単位実変位量は2.4~3.4 mと推定される.これらの諸元は上平断層群中央部のそれらと同等であり,上平断層群南端は断層セグメントにおいて活動度が低くなるとされる断層末端の特徴を有しない.すなわち,湾曲という断層の平面形態は必ずしも断層セグメントの認定基準にならないことを示唆している.
著者
平田 航 日下 博幸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.338-353, 2013-07-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
17
被引用文献数
2

「二つ玉低気圧型」は日本で有名な気圧配置の一つで,全国各地に大雨や強風をもたらしやすいと言われている.本研究では二つ玉低気圧を並進タイプ,日本海低気圧メインタイプ,南岸低気圧メインタイプの三つに分類し,降水量や降水の強さ,降雪の深さについて気候学的解析を行った.また,比較のために一般的な日本海低気圧と南岸低気圧についても同様の解析を行った.並進タイプは全国に降水をもたらし,日本の南岸で降水量が多い.日本海低気圧メインタイプでは全国的に降水量が少ないが,本州の日本海側で冬季にふぶきとなりやすい特徴があった.南岸低気圧メインタイプは日本の南岸と北陸地方で特に多くの降水をもたらし,冬季には比較的広い範囲に降雪をもたらす.二つ玉低気圧3タイプで降水分布に生じる違いは,前線の有無に依存する.さらに,二つ玉低気圧が強雨をもたらすときは,南側の低気圧が日本列島により近いコースをとることがわかった.
著者
片岡 健
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.158-172, 2013-03-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

本研究では,土佐国の長宗我部氏の市町であった岡豊新町を復原した.従来の研究成果を踏まえ明治期地籍図の地筆を基に,天正期『長宗我部地検帳』と明治期土地台帳の記載面積を使用して比定地の地割を再検討した.さらに,同時代史料により岡豊新町周辺の河道を復原して比定地との整合性を検討した.『長宗我部地検帳』と明治期土地台帳の比較によると,『長宗我部地検帳』の測量精度は高い.そこで,地籍図に示される地割のみでなく,天正期以降に地割が再施工された可能性を考慮して,地筆ごとの面積に基づいて屋敷地レベルで比定した.本稿の手法は,発掘成果のない状況で精緻な景観復原を可能にし,さらに,文献史料を基に地割の存続した時期を検討する一つの可能性を示すものである.検討の結果,岡豊新町西部分は定説より南に存在するという新しい復原案を示すことができた.岡豊新町の東町の地割は16世紀後半の景観を反映しており,それが明治期まで残存していた.
著者
三木 理史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.618-632, 2012-11-01 (Released:2017-11-16)
参考文献数
47

本稿の課題は,「群馬県庁文書」の活用によって,1910年利根川大水害の罹災者の対応を,移住者送出に視点を据えて明らかにし,これまでの移民研究の空隙を埋めることにある.本稿は,群馬県多野郡の朝鮮移住と全県的に推進された北海道移住に重点を置いて考察を行った.群馬県は,商品作物生産が盛んで,かつ農業外労働市場が豊富なため,元来移住者送出数が少なかった.多野郡では,出身者の日向輝武の勧誘活動により,1900年代初めから移住者送出が本格化していたところへ大水害が発生した.しかし,同郡罹災者に東拓の朝鮮移住情報は浸透せず,彼らは新聞広告から情報を得て渡航した.一方,県主導の北海道移住では,義捐金からの補助金拠出に加え,日下部宗三郎ら地元の先駆的移住者の積極的勧誘が促進要因であった.その結果,全般に死者が少なく,耕地や家屋の被害多大な地域で移住者送出依存の高かったことが明らかとなった.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.447-467, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
33
被引用文献数
1 4

社会調査の回収率は,標本から母集団の傾向や地域差を適切に推定するための重要な指標である.本研究では,回収率の地域差とその規定要因を明らかにすることを目的として,全国規模の訪問面接・留置調査を実施しているJGSS(日本版総合的社会調査)の回収状況個票データを分析した.接触成功および協力獲得という二段階のプロセスを区分した分析の結果,接触成功率・協力獲得率には都市化度や地区類型によって大きな地域差がみられた.この地域差は,個人属性や住宅の種類などの交絡因子,さらに調査地点内におけるサンプルの相関を考慮した多変量解析(マルチレベル分析)によっても確認された.したがって,回収状況は個人だけでなく地域特性によっても規定されていることが示された.しかし,接触成功率・協力獲得率には説明されない調査地点間のばらつきが残されており,その理由の一つとして,ローカルな調査環境とでも呼びうる地域固有の文脈的要因の存在も示唆された.
著者
岡部 遊志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.193-213, 2012-05-01 (Released:2017-10-07)
参考文献数
35

本稿ではフランシュ・コンテ地域圏を事例として,多層化した政府間関係に注目しながら,競争力に重点を置いた地域政策の展開を分析する.地域政策の制度的側面に関して,権限は地域圏政府とグラン・ブザンソンに配分されているが,予算的な裏付けは地域圏政府のみにあり,政府間関係は地域圏政府を中心に成り立っている.実際においては,地域圏政府が競争力発揮の可能性が高い地域を支援し,他の地域には,その他の主体が予算負担することで配慮がなされ,結果として,地域圏内全体として競争力の向上が図られるかたちになっている.逆に実際の産業の転換に際しては,地域圏政府以外の主体も大きく関わっている.地域の中心的産業であった時計産業の衰退に対して,フランシュ・コンテ地域圏では多くの行政主体が関わってマイクロテクニクス産業への転換を促している.こうした方向への合意は必ずしも十分ではなかったが,地域圏政府などに刺激され,企業や研究機関,地方行政主体などが産地形成に向かって一体となって動いている.