著者
川又 基人 土井 浩一郎 澤柿 教伸 菅沼 悠介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.1-16, 2021-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
48
被引用文献数
1

日本南極地域観測隊の測地定常観測による有人航空機で撮影されたアーカイブ空中写真に対し,Structure from Motion多視点ステレオ写真測量(Structure from Motion with Multi-View Stereo Photogrammetry: SfM–MVS)処理を行うことで,精密な数値表層モデル(Digital Surface Model: DSM)の作成を試みた.その結果,東南極宗谷海岸のスカルブスネスにおいて,氷食微地形や基盤岩の節理といった微起伏をも判読可能なDSMを作成できた.作成したDSMには,SfM-MVS処理特有の歪みが確認されたが,歪みの3次元曲面トレンドを推定し補正することによって,歪みを軽減することができた.また,今回作成したDSM(画像取得年1993年)と国土地理院作成のDSM(画像取得年2009年)の比較から,露岩上の氷河湖において各DSMの平均二乗誤差を大きく上回る20 m以上の水位変動が起きたことが明らかとなった.本手法で作成したDSMは,地形研究はもちろん氷床質量収支や氷床縁監視などの地球環境変動研究の基礎データとして応用が期待できる.
著者
米家 志乃布
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.95, 2010

本報告では、モスクワ・サンクトペテルブルク・イルクーツクでの史料調査をもとに、シベリア・ロシア極東における植民都市の建設の状況、各都市を対象とした都市地図を概観し、シベリア・ロシア極東における20世紀前半の近代都市地図の特徴について考察することを目的とする。 モスクワのロシア国立図書館(РГБ)の地図室には、ロシア各地の地図が地域別に分類されており、最近のものまで各種揃っている。そこで、1900年代前半を中心に、当該期において東シベリアの中心都市であったイルクーツク、ロシア極東の主要な植民都市であるウラジオストク・ハバロフスク・ブラゴベシチェンスクで出版された地図を、地図室内の目録で検索して閲覧・撮影した。また、サンクトペテルブルクのロシア国民図書館(РНБ)の地図室においても地図を閲覧した。ここではモスクワと同様の地図が複数確認された。しかし、地図の撮影は許されておらず、閲覧のみであった。イルクーツク大学付属学術図書館も地図の撮影は禁止、閲覧のみであった。帝政時代におけるイルクーツクの都市計画図や都市図など多くの地図資料の所蔵が確認できた。 地図の発行主体は、帝政期においては「市参事会」の発行であるケースが多かった。つまり、都市行政を担う役割の組織が、都市地図も発行していた。しかし、実際の測量、土地の区画設定や各土地の価格などの実質の土地管理は軍が行っていたと思われる。都市地図内部に軍事区域が描かれている場合と描かいていない場合があるものの、特に極東の3都市(ウラジオストク、ハバロフスク、ブラゴベシチェンスク)をみる場合、ロシアにとって「東方を征服する」ための軍事拠点であることが地図作製のコンテクストを考えるうえで重要である。軍の外部に公表しても構わない情報のみ、印刷地図として発行され、一般の市民(移民など)に公表されていたと推測できる。1922年の日本軍のシベリア撤退以後は、ソ連政府の管轄のもとで都市の復興を行う必要からも、さまざまな整備が急速に行われたことが予想できる。そのなかで、都市地図が一般向けに作製され、発行されたのであろう。1920年代頃の作製である都市地図は、いずれも地図の周囲に広告が掲載されていることに特徴がある。しかし、帝政末期のように、軍事施設の記載や中心部をとりまく周囲の開発地域の記載はなくなり、その部分を覆い隠すように各種広告が存在することが特徴である。東シベリア総督府があったイルクーツクは、極東の3都市に比べて、20世紀初頭においてはすでに都市内部のさまざまな施設の建設がすすんでいた植民都市であり、同時期の極東の都市地図に比べると、都市地図としても大型であり、中心部の周囲にある建設・開発可能地域の情報が詳細である。しかし、基本的には都市地図の作成状況は極東と同様である。 ロシアで作製された大縮尺の地域図を考えるうえでは常に描かれていない情報、隠されている情報を推測する必要がある。地図史研究でいう「沈黙」の論理を考えていくことが重要であろう。帝政末期~ソ連初期における各地域の軍事施設に関する情報は、軍事史文書館など別機関での史料調査を今後の課題としたい。
著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.364-380, 2021-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
32
被引用文献数
3

本稿の目的は,スポーツの地理学および教育の地理学の観点から,高校運動部と地域社会の機能的結びつきの実態を把握し,過疎地域における高校運動部の位置づけを明らかにすることにある.宮崎県の山間部に立地する高千穂高校の剣道部は,保護者や卒業生,町内関係機関や県教育委員会の支援を得て充実した練習環境を確保して競技力の向上を図り,すぐれた競技成績を残してきた.その活躍は町民の誇りとなり,多くの町民が剣道部を同校を代表する部活動として,そして高千穂町を「剣道の町」と認識するにいたっている.剣道部は同校にとって経営資源の1つとなっており,さらに近年は地域経営においても活用すべき地域資源の1つとみなされている.過疎地域の高校運動部は学校の魅力の向上と地域活性化の有効な手段となりうるといえるが,その推進にあたっては,学力・進路保障を中心とする生徒や保護者からの期待に応える教育の実践を前提とする必要がある.
著者
申 知燕
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.1-23, 2018-01-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究は,ニューヨーク大都市圏におけるコリアタウンを事例に,グローバルシティにおけるトランスナショナルな移住者の移住行動を明らかにしようとした.戦後の資本主義と新自由主義経済,アメリカの移民政策の変化は,ニューヨークにおいてさまざまな韓人移住者集団を発生させた.彼らは,アメリカでの永住を目標に1980年代までに移住した旧期移住者と,1990年代からトランスナショナルな移住を行った高学歴・高所得の新期移住者に分類できる.旧期移住者は集住地を経て郊外へ再移住しており,生活全般においてコリアタウンに依存する.一方で,新期移住者は大都市圏各地に分散して居住しながら,人的ネットワークの交差点,もしくは韓国式のサービスを得る場所としてコリアタウンを利用する.このような動きは,新興国の経済成長段階が移住者集団の性格を変化させ,その多様な移住者集団によって,グローバルシティの都市空間が変化していることを意味する.
著者
久保 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.269-270, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
3
著者
渡邊 三津子 遠藤 仁 古澤 文 藤本 悠子 石山 俊 Melih Anas 縄田 浩志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.265, 2020 (Released:2020-03-30)

1. はじめに 近年,大野盛雄(1925〜2001年),小堀巌(1924〜2010年),片倉もとこ(1937〜2013年)など,日本の戦後から現代にいたる地理学の一時代を担った研究者らが相次いで世を去った。彼らが遺した貴重な学術資料をどのようにして保存・活用するかが課題となっている。本発表では,故片倉もとこが遺したフィールド資料の概要を紹介するとともに,彼女がサウディ・アラビアで撮影した写真の撮影場所を同定する作業を通して,対象地域の景観変化を復元する試みについて紹介する。2. 片倉もとこフィールド資料の概要 片倉が遺した研究資料は,フィールド調査写真,論文・著作物執筆に際してのアイデアや構成などを記したカード類,フィールドで収集した民族衣服,民具類など多岐にわたる。中でも,写真資料に関しては,ネガ/ポジフィルム,ブローニー版,コンタクトプリントなど約61,306シーンが確認できている(2018年12月現在)。本研究では,片倉が住み込みで調査を実施した経緯から,写真資料が最も多く,かつ論文・著作物における詳細な記述が遺されているサウディ・アラビア王国マッカ州のワーディ・ファーティマ(以下,WF)地域を対象とする。3. 片倉フィールド調査写真の撮影地点同定作業 本研究では,以下の手順で撮影地点の同定をすすめた。1) 調査前の準備(写真の整理と撮影地域の絞り込み) まず,写真資料が収められた収納ケース(箱,封筒,ファイルなど)や,マウント,紙焼き写真の裏などに書かれたメモや,著作における記述を参考に,WF地域およびその周辺で撮影されたとみられる写真の絞り込みを行った。次いで,WF地域で撮影されたとみられる写真の中から,地形やモスクなどの特徴的な地物,農夫などが写り込んでいる写真を選定し,現地調査に携行した。2) 現地調査 2018年4〜5月,2018年12月~2019年1月,2019年9月の3回実施した現地調査では,携行した写真を見せながら,現地調査協力者や片倉が調査を行った当時のことを知る住民に,聞き取り調査を行った。 次に,撮影地点ではないかと指摘された場所を訪れ,背景の山地,モスクや学校などの特徴的な地形や地物を観察するとともに,周辺の住民にさらなる聞き取りを行った。 聞き取りや現地観察を通して撮影地点が特定できた場合には,できるだけ片倉フィールド調査写真と同じ方向,同じアングルになるように写真を撮影するとともにGPSを用いて緯度・経度を記録した。なお,新しい建築物ができるなどして同じアングルでの撮影が難しい場合には,可能な限り近い場所で撮影・記録を行った。3) 現地調査後 調査後は,調査で撮影地点が同定された写真を起点として,その前後に撮影されたとみられる写真を中心に,被写体の再精査を行い,現地調査で撮影地点が同定された写真と同じ人物,建物,地形などが写り込んでいる写真を選定し,撮影同定の可能性がある写真の再選定を行った。一連の作業を繰り返すことで,片倉フィールド調査写真の撮影地点の同定をすすめた。4. 写真の撮影地点の同定作業を通した景観復元の試み 撮影地点が同定された片倉のフィールド調査写真と、現在の状況との比較,および1960年代以降に撮影・観測された衛星画像との比較を通して,およそ半世紀の間におこった変化の実情把握を試みた。例えば衛星画像からは、半世紀前にはワーディに農地が広がっていたのに対して,現在では植生が減少していることなどを読み取ることができる。一方で,集落では住宅地が拡大し,道路が整備された。このような変化の中、地上で撮影された写真からは,以下のような変化を読み取ることができる。例えば,1960年代の集落には,日干しレンガの平屋が点々とあるだけであったが,現在は焼成レンガやコンクリートを使った2階建以上の建物が増えた。一方で,集落内のどこからでも見えた山はさえぎられて見えなくなった。また,次第に電線が張り巡らされ,1980年代以降電化が進んだ。また,1960年代当時は生活用水をくむために欠かせなかった井戸は,配水車と水道の普及により次第に使われなくなった。発表では,実際の写真を紹介しながら,フィールド写真を用いた景観変化復元の試みについて紹介する。 本研究はJSPS科研費16H05658「半世紀に及ぶアラビア半島とサハラ沙漠オアシスの社会的紐帯の変化に関する実証的研究」(研究代表者:縄田浩志),国立民族学博物館「地域研究画像デジタルライブラリ事業(DiPLAS)」,大学共同利用機関法人人間文化研究機構「現代中東地域研究」秋田大学拠点の研究成果の一部である。また,アラムコ・アジア・ジャパン株式会社と片倉もとこ記念沙漠文化財団との間で締結された協賛金事業の一環として事業の一環として行われたものである。
著者
後藤 拓也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.37-39, 2021-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
4
著者
岩鼻 通明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.5, pp.397-398, 2020-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
2
著者
沼畑 早苗
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.30-41, 2019 (Released:2019-01-29)
参考文献数
11
被引用文献数
1

高等学校の地理学習におけるフィールドワークが生徒にどのような影響を及ぼしたか,その効果を明らかにするとともに,新学習指導要領の「地理総合」,「地理探究」で求められている課題を追究したり解決したりする活動の実践例として提示することを目的とする.生徒はフィールドに出ることで,実際に現地を見なければわからないことがあると実感し,地域の特徴や実態を正確に踏まえた上で課題をとらえ直し,解決に向けた多面的・多角的な考察を行うようになった.また,一つの大きな課題が解決した地域であっても,全てがうまく行っているわけではなく,地域内において住民間の温度差や時には摩擦があることも見定めている.さらに,地域の人たちとのつながりや生徒間の議論を通して,コミュニケーション能力を向上させ,協働的に学ぶことの価値や社会に貢献する意義を理解し,課題探究・解決への意欲を高める効果があることがわかった.
著者
阿部 諒
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.240, 2020 (Released:2020-03-30)

かつて世界一周は限られた人が行うものであった。2000年代以降,世界一周する日本人旅行者は増加していると考えられる。その背景には治安の改善やSNSの普及,さらには世界一周航空券の販売がある。現代の世界一周旅行は多様性に富み,旅行を通じてさまざまな人びとが世界各地を訪れるようになった。しかし,筆者自身の世界一周旅行の体験からも,現代の世界一周旅行は多様化しつつも,それぞれの旅行者の行動には共通点や類似性があると考えられた。本研究では世界一周を「日本から西もしくは東方向に太平洋と大西洋を一度ずつ横断し,各地を観光・見物して戻ってくること」定義し,日本人世界一周旅行者の行動の空間的特徴を明らかにする。世界一周旅行は旅行者個人にとって,人生における「究極の旅行」であり,通常の旅行とは異なる意義をもつ。必然的に,その行動には世界一周旅行独自の様式や空間的特徴があると考えられる。 世界一周旅行者の情報は書籍,聞き取り調査,アンケート調査およびブログから入手した。聞き取り調査,アンケート調査は2019年3月に南米ボリビアのウユニで実施した。インターネット上で閲覧可能な100以上の世界一周旅行のブログから,既に旅行を終えている42のブログを対象とした。これらの方法で集めた世界一周旅行の情報を「訪問地」「移動」「イベント」の3つの視点から分析する。世界一周旅行者の訪問地を国別に見た場合,最も多いのはアメリカ(34人)であり,次いでペルー,スペイン(各30人),ボリビア,イギリス(各27人)であった。南米やヨーロッパ全体への訪問が目立つ一方で,東アジア各国への訪問者は少ない。具体的な訪問地として最も多かったのはウユニ塩湖(27人)で,他にも主にヨーロッパ,東南アジアの大都市と南米の有名観光地に集中している。世界一周旅行者は有名観光地,定番的観光地を中心に訪問するが,その中には通常の旅行では行きづらい場所も含まれる。一方でビザ取得の手間や治安の面から,秘境と呼ばれる地域を訪問する機会は少ない。世界一周は「無難な旅」である。 「移動」は「大陸間の移動」など,長距離移動に焦点をあてた分析を行った。その結果,アジア〜ヨーロッパ〜北米の北半球が移動の軸であり,そこから南に逸れるような形で南半球を訪れるのが一般的な世界一周ルートであるということが分かった。北半球は交通網が発達しており,移動しやすく,世界一周航空券も使用しやすい。訪問地の分析から,世界一周旅行者の多くは南米を一とする南半球の地域に強い指向性を持つことが明らかとなったが,長距離移動は北半球が中心である。南米から太平洋を横断し,帰国する際も,多くの旅行者は北半球,とくに北米の都市を経由する。世界一周旅行者は,一見行きたい場所に自由に行くように思われるが,現実的には,彼らの行動は既存の航空交通システムに強く制約される。世界一周は「制約のある旅」である。 「イベント」は旅行者が旅行中に遭遇した「想定外の出来事」を意味する。イベントは盗難,病気,交通機関のトラブル,人との出会い,の4つに大きくわけることができ,世界各地で遭遇する。世界一周旅行を通じて旅行者は「弱者」という立場に自分を置くことで自身の成長を期待する。最終的には「人との関わり」によって旅行者が少しずつ成長していき,旅行の意義を感じる。 現代の世界一周旅行は「弱者」が行う「無難ではあるが制約のある旅」である。これに加えて,各地を順番に巡っていく中で,彼らはさまざまなイベントを体験し,ゴール(帰国)する。旅行者は旅行中にイベントを通じて,困難な状況を解決するための力をつけていく。世界一周旅行はいわば「RPG」のようなものである。それが,ありきたりなコースをたどるだけの無難な旅行に,その人にとっては代え難い独自性を持たせ,世界一周旅行を意義づける。
著者
松岡 由佳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.4, pp.249-275, 2020-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
174

英語圏の人文地理学では,1970年代からメンタルヘルスが研究テーマの一つとなってきた.本稿は,そうした研究の展開に注目し,研究の背景や論点,アプローチを整理するものである.戦後の欧米諸国における脱施設化に関心を寄せた地理学者たちは,近隣環境や公共サービス,福祉国家の再編の視点から,メンタルヘルスについての研究をスタートさせた.1990年代には,史資料や当事者の語りに依拠して,狂気の歴史や精神障がい者の「生きられた地理」を明らかにする研究が台頭した.それらの研究における精神障がい者のアイデンティティへの関心は,2000年前後になると,精神障がいというカテゴリーの内にある微細な差異を,感情や癒しの側面から検討する研究へと発展した.研究者の関心のシフトや,学際的な志向の強まりがみられる近年は,ジェンダーやエスニシティをはじめとする多様な差異との関連においてメンタルヘルスをとらえるアプローチが盛んとなりつつある.
著者
張 耀丹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.1-16, 2020-01-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
28
被引用文献数
1

東京大都市圏における中国人ホワイトカラー層の住宅の購入動機や選好パターンを検討した.研究手法として東京大都市圏で自己居住用の住宅を購入した中国人22人にインタビュー調査を実施した.調査対象者の住宅購入動機として,賃貸住宅に比べたコストパフォーマンスの良さなどの経済的動機が重視されていたが,その場合でも,日本に長期間居住したいという意識が前提になっており,心理的な動機も存在していた.また,購入する住宅を決める際にも,自身が居住する際の満足度や長期間居住した場合に得られる資産的価値を重視していた.住宅を購入した地区の地理的な特徴として,就業地や商業施設への利便性が高い地域が好まれ,子どもの出生前に住宅を購入した人が多いこともあり,教育機関へのアクセスを重視する人は少なかった.加えて,購入地域の選定に際して中国人の集住地域にこだわることは少なく,購入地の分布は分散的であった.