著者
和田 崇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.286-302, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
51
被引用文献数
1

本稿では,広島アジア競技大会の開催を契機として,広島市にいかにしてボランティア文化が定着し,その担い手や地域社会にいかなる便益をもたらしたかを解明した.広島市では,広島アジア競技大会を通じたボランティアへの関心の高まり,全国的な「ささえるスポーツ」政策の推進,大規模スポーツイベントやクラブチームなどボランティア活動機会の確保を背景に,2001年に広島市スポーツイベントボランティアが創設された.この事業は担い手にも地域社会にもさまざまな効果をもたらし,有意義な取組みであったと評価できる.ただし,それは長い時間をかけて同事業を行政主導・非日常のものから市民主体・日常のものへと変化させ,スポーツ経験者以外の多様な市民が自発的に参加できるようになったからこその評価といえる.
著者
谷本 涼 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.249-264, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
34

個人の全体的な生活の質を考察するには,生活におけるさまざまな目的地の利便性を総体的にとらえられる認知的アクセシビリティの指標を用いた議論が必要である.都市政策における自動車依存からの脱却の方向性も踏まえ,本稿の目的は,もし自動車が使えなくても,日常生活で必要あるいは望む活動が十分にできるか否かというアクセシビリティの総体的感覚(Sense of Accessibility: SA)の指標と,客観的なウォーカビリティ指標(WI),および近隣環境・個人の属性との関係を考察することとした.順序ロジスティック回帰分析の結果,WIはほぼ一貫してSAと有意な正の相関を示した.WIの構成要素の中では,人口密度がSAと強い相関を示した.回答者の性別,年齢,世帯類型は,自動車利用頻度の高低でSAとの相関の正負や強さが大きく異なっていた.この結果は,昨今の都市政策の方向性をある程度支持する一方,自動車に依存しない生活への支援を要する個人の存在も示唆している.
著者
松本 誠子 久保 純子 貞方 昇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.128, 2021 (Released:2021-03-29)

1.研究目的 本発表は、典型的なデルタとして取り上げられてきた太田川デルタの形成・成立には、上流域における往時の砂鉄採取による廃土が大きく関与した、とみなす調査結果の第一報である。近年における発表者らによる太田川上流の調査(貞方ほか2020、印刷中)を通して、これまで看過されてきた太田川の上流域でも、中世に遡る広範かつ大規模な「たたら製鉄」に伴う砂鉄採取跡地が確認された。発表者らは、さらに、そこから排出された大量の廃土が同川の下流平野・デルタ形成に何らかの影響を与えたものとみて、とりわけ同地における完新世堆積物中の「最上部陸成層」に着目し、その堆積物の諸特性や平野微地形の特徴を調査した。その結果、以下に記すような上流域の砂鉄採取と整合する幾つかの明瞭な証拠を得た。 平地に乏しい我が国にあって、デルタは主要な生活の舞台である一方、洪水や高潮などの災害も多く発生するため、防災の観点を含めてこれまで数多くの研究業績が蓄積されてきた。従来「最上部陸成層」は、後氷期海面高頂期以降の海面微変動や堆積物供給の多寡に呼応して形成されてきたとされるが、最新期における人間活動の影響も少なからず関与したものと思われる。本発表は、デルタ形成・成立における人為関与地形形成の役割を評価することに的を絞り、その調査成果の一部を紹介するものである。2.研究方法・データ 本研究では、米軍大縮尺空中写真判読を中心とした一連の微地形調査や、既存ボーリング資料の検討、表層堆積物の各種分析に加え、歴史時代を含めた短い時間スケールの地形形成の経緯をより明らかにするため、洪水史等の歴史資料の検討も行った。分析対象とした試料は、広島城西の広島市中央公園(「デルタ」:人為関与前)、広島大学霞キャンパス(干拓地)の試掘露頭ほか、「デルタ」内の数地点(深度0.5m、1m)で採取した表層堆積物および現河床の堆積物から得た。堆積物は粒度分析、砕屑粒子組成分析とともに鉄滓粒の存否を確認し、12点の炭化物についてAMS14C年代測定を行った。3.結果と考察 太田川下流域は、広島市安佐南区八木の高瀬堰以南にまとまった沖積平野を形成し、大きくは広島市西区の大芝水門付近までの幅2km前後の「下流平野」とそれ以南に広がる「デルタ」(いわゆる広島デルタ)に二分される。微地形判読によれば、太田川は「下流平野」で扇状地をほとんどつくらず、氾濫原上の旧蛇行河道に沿ういわゆる「自然堤防」の発達は弱い。また、「デルタ」のうち自然堆積域として分類できるのは大芝から白神社付近までの狭い範囲(径4km)に限られ、他の多くは近世以降の干拓地および埋立地である。さらに、干拓地内に延びる河道沿いには連続的に微高地が形成されている等の特徴をもつ。既存ボーリング資料および掘削現場の露頭観察によって「最上部陸成層」とみなされた各採取堆積物試料中における花崗岩類起源の砂粒の割合は80%以上と非常に高く、それより下位の試料(上部砂層以下)の組成では、平野の直上流側に分布する付加体起源の砂粒の割合が高いことが示された。現段階の採取試料で見る限り、「最上部陸成層」中の炭化物の年代は13世紀から18世紀という極めて新しい年代値(中世から近世)を示した。また、「下流平野」に属する安佐南区緑井の自然堤防状微高地からは、砂鉄製錬滓由来の鉄滓粒が見出され、「デルタ」の各試料からは鉄錆片(鍛造鉄器片)を含む幾つかの鍛冶関連物質粒が認められた。 これらの年代や人工物質の存在は、太田川上流部でのたたら製鉄やそれに伴う砂鉄採取が行われていた時期とも重なることから、花崗岩類起源の割合が高い堆積物は、当時の砂鉄採取によって廃出された土砂の影響をかなり受けたものと見ることができよう。歴史資料によれば、広島藩により1628年に太田川流域の砂鉄採取は禁止されたが、同川下流では引き続き過大な土砂流出・堆積が継続するとともに洪水被害が頻発し、「デルタ」では河道の固定(堤防強化)や「川浚え」と呼ばれた河道からの砂排除が行われるようになったという。こうした人為的営為も「デルタ」の微地形特徴に寄与したとみられる。4.まとめ 太田川下流の「デルタ」(広島デルタ)は教科書などで典型的なデルタとして扱われてきたが、自然堆積範囲は狭く、干拓地を含めて「最上部陸成層」の形成には、たたら製鉄に伴う砂鉄採取による廃土が大きく関与したものとみられる。また「デルタ」上の各河道に沿う微高地は、主に近世に二次的な地形改変を受けつつ形成されたものである。 本発表では微高地そのものと対応する堆積物の分析は行えなかったことや、「デルタ」の堆積物からは直接に砂鉄製錬に由来する鉄滓粒の確認はできなかったが、今後分析試料数を増やして「最上部陸成層」の意義づけや人為関与地形形成の実態把握を進めたい。
著者
植村 善博 大邑 潤三 土田 洋一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.76, 2010 (Released:2010-11-22)

研究目的 1927年の北丹後地震は郷村・山田両地表地震断層が共役的に出現し,変位地形や活動性から活断層の用語が日本で最初に使用され,地震断層沿いの集落で激甚な被害が発生したこと,などで注目される。地震学や活断層学的研究は進められてきたが,現状では被害分析,救援・救護、復興に関する研究は十分ではない(藤巻2000、追谷他2002など)。ここでは北丹後地震による竹野郡網野町網野区での被害発生の特徴と発生要因,および復興過程について調査し,新たにえられた結果を述べる。 調査結果 1)福田川低地の西縁に郷村断層下岡セグメントが出現した。この地表地震断層は沖積低地内をN20W走向で断続的に現れ,記載された変位量は左ずれ55cm(1カ所),東側隆起60~90cm(3カ所)である。市街地はこの地表地震断層から直線距離で東へ650~950m隔たっている。 2)網野区は海岸に砂丘列が発達する福田川の沖積平野下流に位置する。市街地は三方を古砂丘や旧砂丘列に囲まれ,西側は低湿地に接しており,市街地は逆三角形状の概形をなす。地下地質は沖積基底砂礫層の上に約30mの完新層が堆積しており,中部泥層(N値=1~3)の層厚は20~25mに達する。市街地の大部分は上部砂層(中粒砂、N=5~10)と上部泥層(シルト、N=1以下~3)の上に位置している。 3)網野区の被害状況は,人口2409人中死者199名,負傷者263名であり,全514戸中全壊477戸,全焼290戸であった(永濱1929)。約19カ所から出火し,市街地東半部を焼き尽くした。死亡率8.3%,全壊率92.8%,焼失率60.8%の値を示す。峰山町での死亡率(26%)全壊率(99%)と比較して前者が著しく低い原因は焼失が約6割にとどまり,住民が外へ逃げ出す余裕があったためと推定される。 4)網野区では区長森元吉らのリーダーシップを中心に独自の復旧・復興活動を進めることになる。翌8日に区の全7組長を招集し,被害を免れた森宅を区事務所として使用。10日に組長会を開き,区画整理と沈下地の埋め立を確認,11日までに組長が区画整理計画案もって住民間をまわり,ほぼ全員の承認をえた。5月24日には網野町第1耕地整理組合・震災復旧組合を設立。この間,地主や債権者の金融機関などの強い反対を粘り強い説得と毅然たる決意により乗り越えた。11月5日に網野区東部耕地整理組合(面積23町5反,組合員386名)が府の認可を受けた。1928年1月10日に着工,1929年10月30日工事完了した。整理後約4,100坪の減少となり,減歩率は8.1%である。工事経費の48,100円は,区補助12,000円,町助成金8,083円,その他組合員からの徴収分24,714円をあてた。 4)震災前の網野区は基準道路などは存在せず,無秩序・無計画な開発により発達してきた。耕地整理事業による都市プランは全38の方形ブロックを設定した。ただし、地形の制約から外周部は三角形など不整形なものが多い。典型的なブロックは100m×48~50mおよび80m×48~50mの区画をなし、これに24戸および20戸を割当て,全ての間口が通り面するように設定されている。本計画においては公園や緑地,シビックセンターなどは設置されなかった。
著者
山本 涼子 埴淵 知哉 山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.197-209, 2022 (Released:2022-07-09)
参考文献数
27
被引用文献数
2

本研究では,近年の国勢調査の回答状況における地域差とその推移を俯瞰する.具体的には,各種の回答率と都市化度との関連を都道府県単位で分析した.その結果,(1)聞き取り率は2005年以降上昇しつつ地域差も拡大してきた一方,2020年調査(推計値)では都市–農村間の地域差は維持ないしは縮小する可能性があること,(2)コロナ禍によって減少した調査員回収はインターネット回答よりも郵送回答によって代替されており,農村部でその影響が相対的に大きかったこと,(3)外国人の不詳率は概して日本人よりも高い水準にあり,地域差も大きく拡大傾向にあることが示された.ここから,回答状況とその地域差の水準は指標や調査年,国籍(日本人/外国人)によって異なる一方,都市–農村間の地域差そのものは一貫してみられることも示された.これらがもたらす疑似的な地域差の影響に留意しつつ,国勢調査のデータを実証研究に活用していくことが期待される.
著者
新井 智一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.78, 2020 (Released:2020-03-30)

本研究は,2011年度限りで廃止された八王子食肉処理場について,同処理場の廃止をめぐる議論に触れつつ,ここを中心とした家畜と食肉の流通をめぐる機能地域を明らかにすることを目的とする.
著者
住吉 康大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.122, 2021 (Released:2021-03-29)

現在,日本では「多拠点居住」や「アドレスホッパー」などのように,自ら定住的な生活を離脱し,複数の地域で観光よりも深い関わりを持つ一方,移住ほど強く根付くことはなく,移動を続けることで得られるメリットを享受しようとする生活様式が注目されている.しかし,現時点では新奇な事象であり,十分な研究蓄積がないため,既存の概念との関係を踏まえ,どのように定位するか検討する必要がある.既に,同様の生活に対して「複数地域居住」や「多拠点生活」など,様々な呼称が林立している状態であり,研究を進める際の大きな障壁となっている.報告者は,この状況を踏まえて,「個人が,主体的に,特定の地域・拠点を基盤とした定住的な生活を離脱して,恒常的な移動を中心に据えた生活を志向する変化」に注目することが重要であると考え,「脱定住化」として提起した.本発表では,生活の質を重視した主体的な移動行動である点が類似している「ライフスタイル移住」の概念と,恒常的な移動を前提とした生活であるという点が類似している「ノマド」の概念とに関する先行研究を検討し,新たに「脱定住化」を導入する意義について考察する.
著者
久保田 尚之 Allan Rob Wilkinson Clive Brohan Philip Wood Kevin Mollan Mark
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000324, 2018 (Released:2018-06-27)

1.はじめに日本の過去の気候を明らかにするには、長期の気象観測データが欠かせない。現在、世界中で過去の気象データを復元する「データレスキュー」が取り組まれている。日本での気象観測は1872年に函館ではじまった。それ以前も気象測器を用いた観測はあるが、個人が短期間実施してきたものが多い(Zaiki et al. 2006)。このため、江戸時代の気候は主に古文書の記録に頼った調査がほとんどであった(山川1993)。一方で欧米に目を向けると、17世紀に気圧計が発明され、気象観測が行われていた。江戸時代日本は鎖国をしていたが、欧米各国は大航海時代であり、多くの艦船がアジアに進出していた。19世紀になると気象測器を積んだ艦船が日本近海にも数多く航行するようになった。航海日誌は各国の図書館に保管されており、航海日誌から気象データを復元する試みが行われている(Brohan et al. 2009)。本研究は欧米の艦船が航海日誌に記録した気象観測データに着目し、江戸時代に欧米の艦船が日本周辺で観測した気象データを用いて日本周辺の気候を明らかにすることにある。2. データと解析手法18世紀末から19世紀にかけて東アジアを航行した外国船は10か国以上知られている。例えばイギリスだけでも、この期間9000以上の航海日誌が図書館などに保管されている。まずはイギリス海軍とアメリカ海軍の艦船に絞り、18世紀末から日本近海を航行した航海及び、日本に来航した航海の航海日誌を調査対象とした。3. 結果日本で最も知られた外国船はアメリカのペリー艦隊であろう。東京湾に現れた1853年7月8日の航海日誌を図1に示す。1時間ごとに気象観測を行なわれたことがわかる。ペリー艦隊10隻のアメリカ東海岸からの航海日誌が残されている。アメリカ船はこの他に1837年に来航したMorrison号、1846年のVincennes号の気象データがデジタル化されている。日本に来航した最も古い記録は1796年に室蘭に来航したイギリス海軍のProvidence号がある。サンドウィッチ島(現在のハワイ)から航路を図2に示す。1796年7-11月の気圧データを図3に示す。室蘭に来航した1796年9月は欠測となっている。今後は航海日誌の気象資料をデジタル化し、江戸時代の台風の襲来を中心に調べる予定である。
著者
薄井 晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.218, 2020 (Released:2020-03-30)

1.既往研究の課題と研究目的 出生率は地方部で高く都市部で低いという傾向が,欧米諸国や日本で共通して確認されている.しかし,そのような分布パターンが生じる要因が解明される段階には至っていない(Kulu 2013). このように出生率の空間的分布パターンが立ち遅れている原因としては,市区町村別統計表を分析する際の作業量が膨大である点と出生率の地域差が生じる要因が多岐にわたる点が想定される.しかし,インターネット上での統計表公開が進み,とくに前者の障壁は克服可能なものになりつつある. 以上を踏まえ本研究では,全国的かつ通時的な統計分析を実施し,合計特殊出生率の地域差が生じる要因として有力な仮説を提示することを目的とする.2.研究方法 本研究ではまず,Kulu(2013)の枠組みに基づき,出生率の規定要因として想定される候補を提示する.そのうち,国勢調査を用いた指標化が可能であるものを取り上げ,合計特殊出生率との単相関分析を行う.分析対象地域は日本全国,分析対象年次は2000年以降とし,分析指標の数は最大157となった. なお,本研究では可変単位地区問題によって分析結果の解釈に混乱が生じることを避けるため,以下の手順を踏まえる.(1)都市雇用圏を用いて市区町村を「中心都市・郊外・都市雇用圏外」等に区分する.そして,その区分別に合計特殊出生率の構成比を検討することで,出生率分布により厳密な説明を加える.(2)相関係数を計算する際には,都道府県と市区町村の両方を分析単位として設定し,両者の結果を比較しながら分析する.3.都市雇用圏と合計特殊出生率の関係性(1)「大都市雇用圏に含まれる自治体」「小都市雇用圏に含まれる自治体」「都市雇用圏外」の順に,合計特殊出生率の高い自治体の割合が増していく傾向が確認された.(2)「中心都市」「郊外」「都市雇用圏外」の順に,合計特殊出生率の高い自治体の割合が増していく傾向が確認された.ただし,2005年になるとこの傾向は小都市雇用圏を中心に変化する.(3)都市雇用圏を総人口で区分した結果,都市雇用圏内の総人口が増加するにつれて,合計特殊出生率の高い自治体の割合が減少していく傾向が確認された. 以上の結果より,出生率の地域差を分析する際に,都市圏構造を無視することはできない点が指摘される.4.合計特殊出生率と規定要因の候補との単相関分析結果 正の強い相関関係が確認された指標は,高齢人口割合の高さ,1世帯あたり人員の多さ,通勤時間や通勤距離の短さ,住宅の広さ,居住地移動の少なさに関するものであった.負の強い相関関係が確認された指標も,上の結果と概ね対応するものであった. 以上の結果より,独立転居によって親族から子育て世代への支援が減少している点,人口過密問題によって長い通勤時間や狭小な住宅が強いられている点が,とくに都市圏の中心都市・郊外における合計特殊出生率の低下に寄与していることが推測される.参考文献Kulu, H. 2013. Why Do Fertility Levels Vary between Urban and Rural Areas?. Regional Studies 47: 895-912.
著者
原 雄一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100053, 2017 (Released:2017-05-03)

アメリカには3,000kmから4,000kmに及ぶトレイル、アパラチアントレイルやパシフィッククレストトレイルと呼ばれるロングトレイルがある。ロングトレイルの文化が日本に紹介され、各地でコースが設定されてきている。日本は国土がアメリカと比べて狭いことから数10kmから200km程度のロングトレイルが主流となっているのが現状である。3,000kmのロングトレイルは、日本では到底不可能と考えていたが、南北に長い日本列島の地形特性と歴史の深さを活かし、日本を縦断する2つの歴史街道のルートを設定することができた。ルートをクラウドGISに格納し、誰もが使えるスマートフォンで見て歩くことができる仕組みを構築した。
著者
黒田 春菜 小寺 浩二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.101, 2022 (Released:2022-03-28)

Ⅰ はじめに 本研究では、最新の現地調査(2021 年 11月)と過去のデータ及び既往研究との比較を行うことで、猪苗代湖の中性化の現状をより明らかにすることを目的としている。また、2021年11月に底泥採取および珪藻分析を行ったため、その報告も兼ねる。 Ⅱ 地域概要 猪苗代湖は、汽水湖であるサロマ湖を除けば、国内における湖面積第3位を誇る。流入河川としては主に北岸へ流入する長瀬川があり、総流入量の半分以上を占める。ついで南岸へ流入する舟津川がある。流出河川は日橋川と安積疎水がある。日橋川は天然の流出河川であり、安積疎水は人的に管理されている。 Ⅲ 研究方法 現地では気温、水温、pH、RpH、電気伝導度(EC)の測定をおこなった。試料は実験室で処理し、TOC やイオンクロマトグラフを用いて主要溶存成分(N+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl−、NO3−、 SO42−)の分析をしている。その他湖心の調査なども行った。また、採取した底泥は筒状に採泥し、上部5mm。下部5mmずつ削って珪藻プレパラートを作成した。 Ⅳ 結果と考察 猪苗代湖および浜では、とりわけ湖西部で生活排水や湖岸植生「ヨシ」の枯死によって人的もしくは自然的な影響によるpHの上昇が見られた。沼ノ倉2号橋では、放水が起こるとEC値が通常時の50µS/cm前後から150µS/cm以上にまで大きく上昇することがわかった。しかしこの放水が湖水にもたらす影響は微々たるものであるため、猪苗代湖の中性化は長瀬川の水質に大きく左右されることがわかった。長瀬川に合流する旧湯川(湯川橋)の水質は、強酸性である硫黄川とアルカリ性である高森川の2河川の水質に大きく左右されることもわかった。上下で2枚作製した珪藻プレパラートは、上下で出現珪藻に違いが見られた。上部における最多出現属はフラギィラリア(Fragilaria)属、下部ではナビィクラ(Navicula)属が最多であった。 Ⅴ おわりに 化学的分析および生物学的分析により猪苗代湖の中性化についての議論が深まったが、これらをより確固なものとするためにも今後も定期的な調査が必要である。特に珪藻分析の質を高め、流量の測定に一段と気を配りつつ、猪苗代湖および集水域の調査を継続していきたい。 参 考 文 献 小寺浩二・森本洋一・斎藤圭(2013):猪苗代湖および集水域の水環境に関する地理学的研究(4) -2009年 4 月~ 2012年 11月の継続観測結果から-, 2013年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集.

1 0 0 0 OA AIと地理学

出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.64-67, 2022 (Released:2022-04-21)
著者
佐賀 達矢 野中 健一 VAN ITTERBEECK Joost
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.62, 2022 (Released:2022-03-28)

1. はじめに 国連食糧農業機関(FAO)が、昆虫類を食品や飼料としての利活用に関する論文(van Huis et al. 2013) を出版して以来、世界各地で昆虫の利用が広がっている。日本では、これまで食文化になかった種類の昆虫食が広っており、大手生活雑貨店でコオロギせんべいが、自動販売機では乾燥させた様々な昆虫が販売されたりしている。これに対して、岐阜県東濃地方の蜂の子やイナゴを食べる伝統的な昆虫食は長年の人間と環境の相互作用によって作り上げられてきた文化である(野中2005)。これらは、高校生の地域文化資源・環境の継承の題材にもなっている(Nonaka & Yanagihara 2020)。筆者らは、伝統的な昆虫食文化を理解することは食料問題や環境問題の本質的な理解につながると考え、高校生を対象に昆虫食の試食を伴う講演会を行った。本研究は高校生の昆虫食の経験や捉え方、昆虫食文化の講演会の効果を明らかにすることを目的とした。 2. 研究手法 本研究では、2018と2019年に昆虫食文化が現在も残る岐阜県東濃地域にある多治見高校で、2021年には地域内に昆虫食文化がほとんどない岐阜高校で試食を伴った希望者向けの講演会を行なった。参加者数は多治見高校で2018年に69名、2019年に15名、岐阜高校では42名だった。私たちは、高校生の昆虫食の経験や捉え方、講演会の効果について、講演会前後にアンケートと感想文を書かせ、それらをもとに分析・考察した。 3. 結果と考察 現在も昆虫食文化が残る東濃地域にある多治見高校の方が、そうでない岐阜地域の岐阜高校よりも昆虫食の経験がある生徒が多いことが予想されたが、岐阜高校の方が多治見高校よりも昆虫食の経験がある生徒の割合が多かった。また、虫を食べることに対する講演会前の考えを尋ねた結果、多治見高校の方が岐阜高校よりも抵抗感があると答えた生徒が有意に多かった。これらの結果から、昆虫食文化は多治見市周辺の高校生には浸透していないことが考えられ、また、昆虫食に拒否感をもっている生徒が多いことは特筆すべきことである。 多治見高校でも岐阜高校でも、講演会前には抵抗感を示した多くの生徒を含めて、ほとんどの生徒が実際に虫を食べた後では虫を食べることを好意的に捉えた。また、アンケートの回答や感想文には、実際に虫を食べることで昆虫は美味しいから食べられてきたことが実感できた、食材として認識した、など肯定的な記述が多く見られた。これは単純に昆虫を食べるだけでなく、食材を捕りに行くこと、調理すること、食べることが楽しいから、美味しいから虫を食べるということを、捕獲から食用までのプロセスとそれを成り立たせる社会文化として映像とともに言語化して伝えることで、虫を食べることは食文化の一つであることを生徒が理解できた結果だと考えられる。試食を伴う伝統的な昆虫食に関する講演会は、昆虫食を文化と捉え、好意的な見方にする効果があることがわかった。 高校の地理総合の“気候と生活文化”や、生物の“生態学”の単元では、授業を行う地域を含めた各地の伝統的な昆虫食文化を取り上げることで、高校生が自らの生活の延長線上での豊かな食や暮らしを考えることや、自然と関わって生きる視点を身につける授業展開が可能であろう。この考え方や視点は近年様々な場面で目にするSDGsや持続可能な発展を捉え直したり、批判的に考えたりする基盤となる力になると考えられる。
著者
保屋野 誠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.137, 2004

1.はじめに<br>都市開発には制度が大きく影響していることは言うまでもない.そこで東京における制度,ここでは特に「地区計画」を中心にその指定状況,運用等について検討していきたい.<br><br>2.都市計画における「地区計画」制度の位置<br>都市計画,都市開発,地区整備に関わる制度にはさまざまなタイプがあるが,大きくスポット型(ポイント;総合設計制度など),ストリート型(ライン;沿道地区計画など),ブロック型(ポリゴン;地区計画,土地区画整理事業,市街地再開発事業など)の3つに分けられる(参考:東京都『副都心整備計画』p.320).<br>地区計画は1981年4月に設けられた制度で,以降何度か変更が加えられている.一定規模以上の区域を対象とし,建築物の建築形態,公共施設等の配置などからみて,一体として地区の特性にふさわしい良好な市街地環境の整備・保全を誘導するため,道路・公園の配置や建築物に関する制限等を定める制度であり(東京都『都市計画のあらまし』),規制によって土地利用や街並み形成を誘導していこうとする,規制色の強い制度である.決定は地域の実情を知る区市町村が決定し,内容の一部について知事が同意することになっているため,自治体の方針が強く反映されると考えてよいだろう.<br><br>3.区による地区計画の運用の相違<br>東京都決定となる「再開発地区計画」以外の地区計画は,東京都区部で1981年から2000年までの間に158件指定されていた.うち,世田谷区が43件,次いで中央区が15件,練馬区が14件となっている.逆に少ない区は,文京区と荒川区は0件(再開発地区計画はそれぞれ1件),豊島区が1件(目白駅周辺地区,1998年),渋谷区と台東区が2件である.主な区についてみると以下のようになっている.<br>1) 千代田区<br>1988年に初めて指定があったが,その後も含めてオフィスビル建設を目的として設定された地区計画はない.特に1990年代以降は定住人口確保,住宅系の中高層化推進に重点がおかれている.<br>2)中央区<br>2時期に分けてまとめて指定されている.第一は1993年の隅田川西岸5地区であり,特にバブル期に地上げ,無秩序な開発の波に襲われた地区において,伝統的な産業の保護,近代化とともに,急務となった定住人口の維持・回復を図ろうとするものである.第二は1997年で佃・月島・勝どき地区であり,特に中高層住宅の確保が強調されている.<br>3)世田谷区<br>1983年から2000年の間に23区で最も多い43件が指定されており,1989年には8件,1993年には19件がまとめて指定されている.1993年に指定されたものは,区の特色ともいえる緑地や農地を適度に残しながら住宅との調和を図ることを目的にしているが,そこには都心区の地区計画で強調されて前面に出されているような定住人口確保は打ち出されていない.<br>4)江戸川区<br>1983年から2000年の間に15件が設定されているが,中央区や世田谷区と異なりまとめて指定されてはおらず,1983年から1994年まではほぼ毎年少しずつ設定されている.1980年代には都営新宿線各駅を中心とする地区計画は設定されたが,1990年代になると1980年代に設定された地区に隣接した地区も計画決定されるようになり,既に決定されていた地区と一体として都市計画を進めていこうとするものである.また,住宅地とともに農地も残されている江戸川区では街区形成が不整形となっている地区が多く,そのため土地区画整理事業が数件行われたが,これを機に,土地の細分化と乱開発を防止し,合理的な土地利用の推進を図ろうと地区計画が設定されたのであった.<br><br>4.まとめ<br>以上のように,同じ「地区計画」という制度でも区による違いが非常に大きく,積極的に活用されている区がある一方でほとんど使われていない区もある.また,区によっても指定のされ方が大きく異なっている.<br>
著者
勝又 悠太朗 堀本 一樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.206, 2022 (Released:2022-03-28)

1.はじめに 発表者は,インドにおける新型コロナウイルス(COVID-19)感染の地域的特徴をGISによる地図化を通じて検討し,その結果を発表してきた(勝又・月森,2020;勝又ほか,2021;Katsumata et al.,2021など)。そこでは,主に州別・月別にみた感染者数のデータを使用し,感染動向の地域的特徴を明らかにしてきた。本発表も,その続報に位置づけられるが,今回は具体的なデータ分析の結果を提示するのではなく,研究の過程で浮き彫りとなったデータ分析に関わる課題を報告する。ここでは,①感染者データの入手に関する課題,②県別のデータ分析に関する課題,③他のデータとの併用に関する課題の3点を主に取り上げることにする。 2.感染者データの入手に関する課題 これまで分析には,covid19india.orgが収集し,ウェブサイトで公開しているデータを使用してきた。同組織は有志による活動のため,公的な組織ではないが,国や州などが発表する情報を中心に収集を行ってきた。公開されるデータには,インド全体の感染者のデータに加え,州(State)別,県(District)別に集計された地理情報を含んだデータもあり,時系列にデータを入手することができる。そして,これらのデータの学術研究への利用も進んでいる。しかし,同組織によるデータの収集と公開の活動が,2021年10月31日をもって終了したため,11月1日以降のデータを入手することが出来なくなり,以降のデータ分析を行うための大きな課題となっている。3.県別のデータ分析に関する課題 これまで発表者は,主として州別の感染者データを使用した分析を行ってきた。一方,州よりも小さな行政単位である県別の感染者データも公開されている。県別のデータ分析をすることで,感染の地域的特徴をより詳細に明らかにすることができると考える。しかし,県別のデータを使用した分析を実施するにあたっては,いくつかの課題も存在する。まず,covid19india.orgが収集したデータの中には,県別のデータが存在しない州もあることである。また,県の境界が変更されることがあるため,感染者のデータと結合する際にGISで使用する県の境界データの入手も課題となる。 4.他のデータとの併用に関する課題 最後の点は,上記の県別のデータ分析に関する課題とも関わるが,感染者のデータと他の統計データをGISで併用する際に生じる課題があげられる。例えば,人口あたりの感染者数を地図化する際には,州別や県別の人口数のデータを入手する必要がある。こうした人口データは,インドのセンサス(国勢調査)に含まれるが,2022年1月の時点で使用できる最新のものは2011年のセンサスに基づくデータとなる。2011年以降,州と県の中には境界の再編が生じたものもあり,現在の州・県の境界に合わせデータを再集計する必要がある。ただし,県の中には,境界が複雑に再編されたものもあり,データの再集計が困難な場合もある。センサスには社会・経済的な様々なデータが含まれるが,感染者のデータと併用する際には課題も多い。
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.25, 2022 (Released:2022-03-28)

スポーツの国際大会において,出場選手は地理的環境の異なる場での競技パフォーマンスを高めるために事前合宿を行う。東京2020五輪大会では,政府が事前合宿の場を全国から募り,ホストタウン政策を実施した。共生社会ホストタウンはパラリンピック選手の事前合宿を受け入れるもので,競技施設や宿泊施設,また交流事業を行う公共施設などのバリアフリー化が事業計画に含まれる。 日本の障害者政策には2006年のバリアフリー新法があるが,東京2020大会は施設整備を推し進める契機として期待された。共生社会ホストタウンの事業計画には,地方自治体にとって福祉のまちづくりの推進への期待が読み取れる。全105の登録自治体の事業計画を整理すると,直接パラリンピックに言及するものよりも当該自治体の福祉政策を反映しているものが多い。スポーツ施設だけでなく,教育施設や交通インフラ,観光施設,防災関係の計画も少なくない。ソフト面ではバリアフリーマップや啓発用パンフレットの作成,障害者関連条例に関する記述などもある。自治体のウェブサイトでは事前合宿の様子が報告されているが,具体的な施設整備の状況は確認できない。そこで,自治体の予算書から五輪関連予算の内訳を確認した。4市の事例から,施設整備とその財源,地方都市におけるスポーツ・イベントの存在,ツーリズムとの関連と新型コロナウイルス感染症対策,オリンピックを契機としたまちづくり計画の加速化が明らかにされた。諸施設のバリアフリー化の詳細や,政府の財政支援の詳細については明らかにできなかった。ホストタウン政策を通じて全国に分配しようとした五輪大会の効果は限定的なものとなったが,各自治体の取り組みは福祉のまちづくりをある程度推進したといえよう。
著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.280-293, 2017
被引用文献数
1

<p>大学非常勤講師の処遇に関する議論は1990年代以降なされており,2007年前後に盛り上がりをみせていたが,大きな改善がみられないまま現在に至っている.2013年には労働契約法が改正され,非正規の有期労働契約を無期契約へと転換する道が開かれたが,逆にそのことが「雇い止め」という事態を拡大させる契機となっている.本稿で筆者は,そうした議論を整理し,大学で地理学関連科目を担当する本学会員の大学非常勤講師にアンケート調査を行った.回答者15人の属性として,講師歴15年以上および年齢46歳以上が回答者の半数以上を占めた.かれらの収入は週1コマ当たり月額で30,000円以下がほとんどで,かれらは4校程度を掛け持ちしている.大学の非常勤講師で生計を立てている専業非常勤講師は,平均週8コマを担当しているという状況が確認された.</p>
著者
荒木 一視
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.23-45, 2022 (Released:2022-03-24)
参考文献数
53
被引用文献数
8

大規模災害が発生してからの救援活動と避難生活を向上させる必要があるという問題意識のもと,避難生活を支える効果的な救援活動拠点の配置に関する研究を提起する.救援活動拠点とは届いた物資や人員を被災世帯や避難所へと中継する拠点である.まず,災害研究のステージと地理学,特に救援活動期における被災地と発出拠点の関係を整理した.次に,南海トラフ地震が発生した際には大きな被害が想定され,過疎化や高齢化の進行している和歌山県日高郡を事例として,現状の救援システムを地図上に描き出すとともに課題の把握を行った.さらに,その課題を埋める救援活動拠点の候補として,旧役場所在地や学校,寺院に着目し,効果的な救援システムのあり方を検討した.また,こうした大規模災害時の救援システムを論じる上で従来の地理学の研究蓄積が貢献できる余地があることを指摘した.
著者
大島 英幹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.194, 2011

<B>I はじめに</B><BR> 商業中心地の階層構造の変化については、根田(1985)が小地域の事業所統計を、橋本(1992)が職業別電話帳を用いて分析しているが、データ作成・解析の作業量が膨大になる。本研究では、商業統計立地環境特性別統計編の商業集積地区別集計を用いた簡便な方法により、広範囲にわたり、多時点の変化を商業集積地区(大規模小売店舗を含む商店街)単位で把握した。<BR><B>II 研究方法</B><BR> 東京南西郊外の私鉄5路線のターミナル駅を除いた108駅について、駅周辺の商業集積地区の商品販売額が両隣の駅周辺よりも多い場合、「上位の中心地」とした(図1)。1979~2007年の間の6時点について、上位の中心地が隣の駅と入れ替わるかどうかを見た。<BR><B>III 中心地の階層構造の変化</B><BR> 2007年時点の上位の中心地41駅のうち6駅は、1979年時点では隣の駅の方が上位の中心地であった。中央林間駅の場合、商品販売額の増加が隣の南林間駅の増加を追い抜いている(図2)。湘南台駅と長後駅、新百合ヶ丘駅と百合ヶ丘駅も同様である。日吉駅の場合は、商品販売額が増加するのと同時に、隣の綱島駅の商品販売額が減少して入れ替わった。海老名駅と本厚木駅も同様である。菊名駅の場合、隣の大倉山駅と抜きつ抜かれつを繰り返している。<BR> これに対し、あざみ野駅の場合、商品販売額が増加を始めるものの、隣のたまプラーザ駅には追い付けなかった。相模大野駅と町田駅も同様である。<BR><B>IV 階層構造変化の要因</B><BR>階層構造変化の要因として、駅間距離、乗り入れ路線の増加、大型小売店の出店、都市計画の誘導、人口の密度および世代構成などが考えられる。<BR><B>参考文献</B><BR>根田克彦 1985.仙台市における小売商業地の分布とその変容-1972年と1981年との比較-.地理学評論58(Ser. A)-11 715~733.<BR>橋本雄一 1992.三浦半島における中心地システムの変容.地理学評論65A-9 665-688.<BR>