著者
林 寿恵 下村 貴文
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>平成28年4月16日に発生した熊本地震において演者の勤務地である阿蘇市は被災し,多くの住民が避難所での生活を余儀なくされた。自主避難所を含めた避難所は29箇所,想定避難者5,500人(H28. 4.22阿蘇市調べ)である。被害の大きさからも住民の避難所生活は長期化が予測され,環境変化に伴う,生活不活発予防,健康管理などの関与が重要であった。地震発災直後は昼夜を問わず避難所は満員であったが,経過とともに避難所スペースは空地,または非常時のみ利用する場所取りが出現した。しかし避難所スペースの変化はあるも,避難生活活動は変わらない住民の姿がみられた。避難所介入のひとつに生活不活発を防ぐ生活環境整備をあげ,避難所の環境コーディネートを行った。避難所の生活環境を住民や関係者と共に考え,住民主体の環境整備活動へと繋がった事例を経験した。避難所の環境コーディネートの重要性について学んだためここに報告する。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>避難所の空きスペースがみられた発災2週間後に避難所地域の区長,避難所に滞在している災害支援ナース,常駐している自治体職員等に避難所生活環境整備の必要性を説明し,協力を得た。環境整備をする目的は,生活しやすい環境づくりtと生活不活発を予防する,とした。整備内容は①移動の動線を明確にする②居住スペースと共有スペースを分ける③共有食事スペースを確保する④ベッド導入や間仕切り(パーソナルスペース)の検討⑤支援物資管理の透明化の以上5点を提案した。それに加え,区長からは要援護者配置場所の考慮,ベッド導入必要者検討,間仕切り非設置の提案,災害支援ナースからは住民主体の健康管理スペースや個別保健スペースの確保が挙がった。検討後,区長が避難者全世帯に環境整備の必要性を説明し,住民の理解と協力を得た</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>環境整備前は,自スペースでの食事摂取,トイレ,入浴や支援者の訪問時等のみ活動や移動がみられた。そのため周囲への注意を払うこともほとんどなく自スペースのみで一日を過ごしていた。しかし,区長の説明後,住民が主体となって避難所清掃,居住スペースと共有スペースを整備した。そのことで,食事は共有スペースでの摂取が習慣化され,他者と交流しながら食事をとることが可能となった。また,要援護者に対しても多くの方々の理解を得ることができ,みんなで見守り,声掛けを行うことができた。間仕切りや,ベッド導入等も演者は提案のみで,実施は住民が主体で実施した。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>避難所という集団生活を強いられる特殊環境において自らの生活を確保するのは難しい。今回,生活環境整備をコーディネートし,区長の理解と協力を得たことで,住民が主体で環境を整備した。そのことが,個人スペースでの引きこもりをなくし,共有スペースでの交流や寝食分離を図ることができた。生活環境を整備したことで活動性があがり,不活発を予防できたと考える。</p>
著者
建内 宏重 白鳥 早樹子 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0568, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】腸脛靭帯炎は,ランナーや変形性膝関節症患者において頻度が高く,大腿骨外側上顆部での腸脛靭帯(ITB)による圧迫や摩擦により生じるため,ITBの硬度が高いことが腸脛靭帯炎の直接的な原因と考えられる。したがって,ITBの硬度に影響を与える要因を明確にすることは,腸脛靭帯炎の評価・治療において重要である。しかし,現在までITBの硬度を測定した報告は存在しないため,ITBの硬度に影響を与える要因も明らかではない。ITBの硬度を変化させる要因としては,主に股内外転角度や股内外転モーメント,股外転筋群の筋活動の変化などが考えられる。本研究では,近年開発された,生体組織の硬度を非侵襲的に測定できるせん断波エラストグラフィーを用いて,股関節の角度およびモーメント,股外転筋群の筋活動の変化がITBの硬度に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常者14名(男性7名,女性7名:平均年齢22.0歳)とした。課題は,骨盤,体幹ともに3平面で中間位の片脚立位(N),下肢挙上側の骨盤を前額面で10°下制させ体幹は中間位にした片脚立位(Pdrop),Pdropの肢位で体幹も下肢挙上側へ傾斜させた片脚立位(PTdrop),下肢挙上側の骨盤を前額面で10°挙上し体幹は中間位にした片脚立位(Prise),Priseの肢位で体幹も支持脚側へ傾斜させた片脚立位(PTrise)の5条件とした。ITB硬度(弾性率)の測定には,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。測定部位は膝蓋骨上縁の高位とし,5秒間姿勢を保持し超音波画像が安定してから記録した。また同時に,3次元動作解析装置(Vicon motion systems社製)と床反力計(Kistler社製)を用いて,各条件の股内外転角度・モーメント(内的)を測定した。加えて,ITBと解剖学的に連続する大殿筋(上部線維),中殿筋,大腿筋膜張筋(TFL),外側広筋の筋活動量を表面筋電計(Noraxon社製)により記録した。筋電図は,各筋の最大等尺性収縮時の値で正規化した。各条件の測定順は無作為とし,各々2回ずつ測定を行った。超音波画像でのITB硬度の測定は,ITB部に関心領域を3か所設定し,それらの部位の弾性率の平均値を求めた。なお,この測定は,実験後に条件が盲検化された状態で一名の検者が行った。ITBの硬度,筋活動量,股角度とモーメント各々について2試行の平均値を解析に用いた。各条件間の比較をWilcoxon符号付順位検定とShaffer法を用いた補正により行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得たのち,対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面で得た。【結果】股外転角度は,N(0.2°;中央値)に対してPdrop,PTdropで有意に内転位(-7.5°,-8.7°),Prise,PTriseで有意に外転位(11.0°,11.4°)であった。PdropとPTdrop間,PriseとPTrise間には有意差はなかった。ITB硬度は,N(10.7 kPa;中央値)に対してPTdrop(13.2 kPa)では有意に増加し,PTrise(8.1 kPa)では有意に減少したが,Nに対してPdrop(11.8 kPa)とPrise(8.7 kPa)では有意差を認めなかった。また,ITB硬度はPdropよりPTdropで有意に増加し,PdropよりもPriseで有意に減少した。股外転モーメントは,NよりもPTdropで増加,PTriseで減少し,Pdrop,Priseでは有意な差を認めなかった。さらに股外転モーメントは,PdropよりもPTdropで有意に増加し,PriseよりもPTriseで有意に減少した。筋活動における有意差として,大殿筋はPriseで他条件よりも増加し,中殿筋とTFLはNよりもPdrop,PTdropで減少,Priseで増加し,外側広筋はNに対してPriseで増加した。【考察】ITB硬度はPTdropで最も増加した。PTdropはNよりも中殿筋やTFLの筋活動量が減少したが股内転角度は増大しており,外転筋群の筋活動量よりも股関節角度の影響を強く受けたと考えられる。しかし,PdropはPTdropと股内転角度は同じでもNと比べてITB硬度の有意な増加は認めなかった。PTdropとPdrop間では,筋活動量に差がないもののPTdropの方が股外転モーメントは増加しており,股関節角度だけでなくモーメント変化もITB硬度に重要な影響を与えることが示された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,ITB硬度が増加しやすい姿勢とともに硬度に影響を与える要因が明らかとなった。本研究は,腸脛靭帯炎の評価・治療に関して意義のある研究であると考える。
著者
濱地 望 矢倉 千昭 緒方 綾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P1041, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】関節過可動性(Hypermobility:HM)は,関節包や靭帯などの結合組織の緩み,筋緊張の低さなどによって,主に伸展可動域の関節可動性が増大しており,男性より女性に多く存在することが知られている.臨床的には,女性の膝関節靭帯損傷や腰椎すべり・分離症などの発症にHMが関与していると考えられているが,その関係は明らかになっていない.しかし,若年集団におけるHMの特性や関連因子について検討することは,スポーツ外傷などの発症を予防するための基礎資料になると考えられる.そこで,本研究では,若年者を対象に,HMの割合や性差,関節およびその周囲の痛み(関節周囲痛)との関係について調査を行った.【方法】対象は, 関節可動性に影響を及ぼす可能性のある整形外科疾患のない若年者151名(男性67名,女性84名),平均年齢19.9±1.5歳であった.対象者には,書面にて本研究の目的と内容を説明し,同意を得てから調査を行った.HMの評価は,Beighton Hypermobility Score(BHS)を用い,両側の手関節,第5指,肘関節,膝関節と体幹の9ヵ所の過可動性を確認し(過可動性があると1点加算),9点中4点以上をHMとした.関節周囲痛の有無は,肩関節,肘関節,手関節,膝関節,足関節,腰背部,仙腸関節など主要な関節およびその周囲における慢性的な痛みの有無を質問紙にて確認した.統計学的分析には,性別によるHMの割合,HMと各々の関節周囲痛との関係はχ2検定を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした.【結果】対象者全体でHMのある者は151名中31名(20.5%),男性67名中4名(5.9%),女性84名中27名(32.1%)で,女性におけるHMの割合が高かった(p<0.01).また,女性ではHMと関節周囲痛との関係はなかったが,男性では仙腸関節痛のみと関係があった(p<0.01).【考察】本研究の結果,若年女性の約3割にHMが存在することが示された.女性は,女性ホルモンなどの影響によって,関節包や靭帯などの結合組織が緩く,筋緊張が低く,男性より関節支持性が低いといわれている.HMは,若年女性において,しばしば観察される身体的な特徴のひとつであると考えられる.しかし,女性ではHMと関節周囲痛との関係はなかった.女性は,男性より関節支持性が低く,外部からの力学的ストレスを受けやすいため,HMと関節周囲痛との関係がみられにくいと考えられる.一方,関節支持性の高い男性では,HMの影響による痛みは,仙腸関節のような結合組織によって強靭に固定されている関節に起こりやすい可能性がある.【まとめ】HMは,若年女性のしばしば観察される身体的な特徴のひとつであるが,関節周囲痛との関係については,さらなる精査が必要である.
著者
岡本 尚之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0645, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】身体のリアライメントおよびリラクゼーション効果のエクササイズに日本コアコンディショニング協会(JCCA)により推奨されているストレッチポールを用いたベーシックセブンエクササイズ(Basic Seven Exercise,BSE)がある。BSEについて先行研究では脊柱起立筋の筋硬度の低下,胸椎可動性,重心動揺に対する効果が報告されている。しかし臨床場面では,認知機能面や身体機能面などの要因で対象者がBSEを完遂することが困難な場合が多い。そこで本研究はBSE実施群とストレッチポール上で基本姿勢を保持する群(Maintain the Basic Position,MBP)を比較することで臨床上BSE完遂が困難な者に対してのストレッチポールエクササイズ適応を判断する材料とすることを目的とした。【方法】対象はストレッチポール使用経験のない健常成人22名とした。対象者を11名ずつ実施順にBSE群とMBP群とに振り分け,各エクササイズ前後でのFFD,体幹回旋可動域(ROM),円背指数,左右体重比を測定しその変化をみた。FFDおよびROMの測定は関節可動域測定法に基づき同一測定者が実施した。ROMについては両側を測定しエクササイズ前で可動域の低かった側をデータとして採用した。円背指数は両上肢下垂の座位で2m先の鏡の自身と視線を合わせた状態を測定肢位とし,自在曲線定規を用いC7~L4棘突起までの背部の彎曲をなぞりその形状を紙上にトレースした。紙上にトレースした彎曲C7とL4を結ぶ直線をL(cm),直線Lから彎曲の頂点までの距離をH(cm)とし,Milneらの式を用いその割合を円背指数(H/L×100)として算出した。左右体重比はwii-fitを使用して測定し,左右比50%:50%からの左右変位数の絶対値をデータとして採用した。各エクササイズ方法についてBSEはJCCA既定の手順で行い10分間を目安に完遂した。MBPはストレッチポール上で10分間の基本姿勢保持とした。分析は統計学的処理としてエクササイズ前後で対応のあるt検定(有意水準5%未満)を実施した。また,効果量をG-POWERを用いて検出した。効果量はCohenの報告「小=0.2,中=0.5,大=0.8」を基準に判定した。【結果】FFDにおける変化量の平均値はBSE群:-1.34cm(p値:0.0456),MBP群:-1.96cm(p値:0.0069)。効果量はBSE群:0.09,MBP群:0.22であった。ROMにおける変化量の平均値はBSE群:9.09度°(p値:0.0004),MBP群:10.9度°(p値:0.00005)。効果量はBSE群:0.9,MBP:1.19であった。円背指数における変化量の平均値はBSE群:-0.81(p値:0.0833),MBP群:0.03(p値:0.9624)。効果量はBSE群:0.46,MBP群:0.01であった。左右体重比における変化量の平均値はBSE群:-0.38(p値:0.3897),MBP群:-0.66(p値:0.2424)。効果量はBSE群:0.25(小),MBP群:0.43であった。【考察】今回,BSEとMBPの即時効果をFFDとROM,円背指数,左右体重比の4項目で比較した。その結果,両群ともFFDとROMにおいて即時効果を認めた。また,FFD,ROM,左右体重比の3項目においてMBP群で効果量が大きかった。平沼らによるとMBPの効果として胸椎伸展と胸郭挙上,前胸部リラクゼーション,仙腸関節リアライメント,股関節後方のリラクゼーションなどが報告されている。本研究の対象者はストレッチポール使用経験がなく不慣れなうえ,さらにBSEではストレッチポール上で四肢,体幹の動きを伴うためより不安定な状態になる。しかしMBPはストレッチポール上での基本姿勢保持であるため脱力が容易でありリラクゼーション効果がより得られたことが考えられる。円背指数の測定は座位で行うため抗重力位で体幹を長軸方向に起こす働き(体幹軸のElongation)が必要である。飯田らや布施らの報告ではストレッチポール上背臥位での上肢運動や体幹回旋負荷により腹横筋厚の優位な増加が確認されている。腹横筋は横隔膜や多裂筋,骨盤底筋群とともに一つのユニットとして腹圧を高める働きがあり,体幹軸のElongationにおいて重要である。今回のBSE,MBPでは腹横筋などのインナーユニットの賦活が不十分であったため優位な変化を認めなかったと考える。【理学療法学研究としての意義】BSEよりも簡便なMBPでリラクゼーション効果が得られた今回の結果より,臨床上BSE完遂が困難な対象者に対してもストレッチポールが有効に利用できることが考えられる。しかしながら本研究における可動域測定はFFDおよび体幹回旋の2項目のみで全身的なリラクゼーション効果は不明であるため今後の研究課題となる。
著者
国中 優治 高濱 照 壇 順司 中島 喜代彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.210, 2003

【目的】膝屈曲時に膝窩痛を訴える患者は腓腹筋内側頭(以下、内側頭)起始部に多くを認める。そこで今回、その部位が発痛部位となる理由について遺体解剖を通して調べたので考察を加えここに報告する。【対象】 熊本大学医学部解剖学第一講座の遺体8体12肢【方法】1)内側頭と腓腹筋外側頭(以下、外側頭)のそれぞれの起始付着部(以下、付着部)について精査と、膝裂隙から付着部までの距離を各々計測した。2)遺体で膝屈曲時に大腿骨顆部後方と脛骨上関節面後縁部で圧迫される組織を調べ、その組織が圧迫され始める時の膝屈曲角度を測定した。【結果】1)内側頭付着部は大腿骨内側上顆後方及び関節包であり、関節包との間には滑液包が認められた。外側頭付着部は関節包及び足底筋外下部であり、大腿骨外側上顆には付着していなかった。大腿骨外側上顆には足底筋が付着していた。また、膝裂隙から付着部までの距離は内側頭で42.6±0.6mm 、外側頭で29.3±0.6mm であった(p<0.01)。2)圧迫された組織は内側頭と足底筋であった。内側頭は鋭角に折り畳まれ圧迫を強いられていた。足底筋は折り畳まれるものの圧迫は軽微であった。その時の膝屈曲角度は内側頭側が103.9±4.9°であり、足底筋側が122.9±9.9°であった(p<0.01)。【考察】遺体での付着部の精査にて、内側頭と足底筋は関節裂隙を跨いで骨に付着するために膝屈曲時に両筋とも折り畳まれること、および膝屈曲時に内側コンパートメントの関節面の接点が外側コンパートメントのそれよりも前方に位置するために大腿骨内側顆部後方に楔状の間隙ができ、屈曲時この間隙に関節包および内側頭が嵌入する可能性があることが判明した。次に、膝屈曲角度において内側頭側と足底筋側の差は、内側頭のボリュームが足底筋のそれに比べ厚いことに起因しており、膝屈曲時には内側頭付着部がより強い圧迫を強いられることが示唆された。このことより内側頭付着部付近は正座やしゃがみ位など膝屈曲にてより損傷されやすい状況であるものと考えられた。しかし、生体の正常な膝関節では他動的屈曲時には関節包内圧の後方での高まり、同じく自動屈曲時には関節包内圧の後方での高まりと収縮している内側頭が付着部の一部である関節包を後方に引くことで関節包および内側頭の嵌入を防いでいると考えられ、内側頭付着部下の滑液包の存在を含めその部位への圧迫を軽減していると考えられる。加えて、変形性膝関節症などに伴う膝窩痛を有する高齢患者を想定した場合、加齢あるいは疾患による筋・関節包の柔軟性低下や短縮や滑液包の柔軟性低下などを背景とした膝屈曲における内側頭付着部付近の圧迫による筋・関節包・滑液包の微細損傷の発生およびその質的変化による筋滑走性の阻害などの可能性が考えられる。以上のことより、膝屈曲時の膝窩痛の発痛部位としては内側頭付着部が想定される。
著者
山本 泰三
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1234, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】体幹スタビリティーの一部は、腹部を筒状に包み込んでいる腹横筋による腹腔内圧の調整によって獲得されている。姿勢変化による腹横筋の針筋電図を用いた評価では、Hodgesが仰臥位より座位にて収縮量が増加していることを、Jukerは座位と立位にて最大収縮の4%収縮していることを報告している。本研究の目的は、姿勢変化による腹部周径の変化と腹壁筋の厚さの変化を比較し、腹壁筋の収縮様態が求心性か遠心性かを推定することである。【方法】対象は、腰部、腹部に病変を持たない健常男性10名で、年齢は29.5±4.7歳であった。腹部の周径は、へその高さに手縫い糸を巻きつけた後に計測した。腹壁筋は、超音波診断装置(東芝社製femirio8)を使用し、表層画像が測定できる14MHzリニアプローブを右前腋窩線で周径を測定したラインにあてて、安静呼気終末に静止画を撮影した。腹壁筋の厚さは、内蔵スケールにて外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋を計測した。測定肢位は、仰臥位、背もたれのない座位、立位に加えて、傾斜台を用いて内蔵が腹壁を圧迫しない45°頭低位の4種類とした。統計的検討は、分散分析(p<0.01)の後、Post-hocテストを行った。【結果】腹部の周径は、仰臥位で80.4±7.2mm、背もたれのない座位で86.6±7.7mm、立位で83.4±7.1mm、45°頭低位で75.5±6.4mmであった。分散分析の結果、姿勢変化の主効果が認められ(p<0.001)、45°頭低位、仰臥位、立位、背もたれのない座位の順に太くなった。腹横筋の厚さは、仰臥位で3.7±0.7mm、背もたれのない座位で3.6±0.7mm、立位で3.9±1.0mm、45°頭低位で3.8±0.4mmであった。内腹斜筋の厚さは、仰臥位で11.6±2.0mm、背もたれのない座位で12.5±2.7mm、立位で12.2±2.5mm、45°頭低位で10.7±1.8mmであった。外腹斜筋の厚さは、仰臥位で8.4±2.5mm、背もたれのない座位で7.7±1.7mm、立位で7.2±2.0mm、45°頭低位で7.6±2.3mmであった。腹壁筋の厚さは、4種類の姿勢変化による主効果は認められなかった。【考察】姿勢変化による腹部周径は、仰臥位、立位、背もたれのない座位の順に太くなっているのに対して、腹壁筋の厚さは、変化していなかった。先行研究のように姿勢変化により腹横筋の活動電位が増加しており、かつ、筋の長さが延長されて、筋の厚さが変化していなかったので、収縮様態は遠心性収縮が推察される。抗重力姿勢になれば、内蔵は腹壁を圧迫する。内蔵による腹壁の圧迫が少ない45°頭低位では、腹部周径が最も細かったにも関わらず、腹壁の厚さは変化していなかった。腹横筋をはじめとする腹壁筋は、筋の弾性による静止張力を加えた遠心性収縮により効率的張力を発生させていると推定される。
著者
澤野 靖之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100060, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】新体操は美を表現するスポーツであり,5種類の手具を操作しながらジャンプ,ピボットターン,バランス,柔軟性を組み合わせて表現する競技である.選手の競技活動では技術練習に多くの時間を要し,個人戦,団体戦があるため,すべての練習を合わせると身体へのストレスは大きい.新体操選手の障害はover useによるものが多く,当院では足関節と足部の割合が38%を占める.今回はover use障害の一つで,難治性である中足骨疲労骨折に着目した.臨床で新体操選手の中足骨疲労骨折症例は外反母趾を呈し,左側の発症が多い印象があるが,今日まで新体操選手の足部に関しての報告は渉猟し得ない.そこで本研究の目的は,新体操選手における中足骨疲労骨折と他の足部傷害との足部の形状的特徴をX線学的に比較検討することである.【方法】対象は,2003年3月~2012年8月までに当院にて担当医がレントゲンまたはMRIにて中足骨疲労骨折と診断した新体操選手13名13足(平均身長159.1±2.9cm,平均体重44.2±2.8kg,平均年齢16.2±0.6歳,平均競技歴9.6±1.1年)をFx群とし,中足骨疲労骨折以外の足部疾患と診断した新体操選手10名12足(平均身長157.2±3.2cm,平均体重44.7±3.4kg,平均年齢16.3±0.6歳,平均競技歴8.6±1.9年)をCo群とした.方法はレントゲン正面像より外反母趾角(hallux valgus angle:HV角)を第1中足骨の長軸と第1基節骨の長軸の交点より計測し,第1・2中足骨間角(First-second intermetatarsal angle:M1/2 角)を第1中足骨の長軸と第2中足骨の長軸の交点より計測した.各角度は3回同一検者にて計測し,その平均値をそれぞれFx群,Co群で比較検討した.統計処理にはSPSSver16.0を使用し,検者内級内相関(ICC)を算出した上で,Fx群,Co群のHV角,M1/2角の比較をMann-WhitneyU検定にて行い,有意水準は5%とした.さらにFx群の左右足の中足骨疲労骨折の割合とFx群,Co群のHV角20°以上の割合を重ねて検討した.【倫理的配慮、説明と同意】レントゲンに関しては,担当医が診療時に必要と判断し,当院放射線技師にて撮影された足部正面像を使用した.またヘルシンキ宣言に基づき対象者へは人権擁護がなされている旨を説明し同意を得て行った.【結果】ICC(1,1)はHV角:0.942,M1/2角:0.954(p<0.001)と再現性の高いものであった.HV角はFx群24.5±3.8°とCo群20.3±3.5°でFx群が有意に高値を示し(p<0.05),M1/2角はFx群11.6±2.6°とCo群9.1±1.9°でFx群が有意に高値を示した(p<0.05).HV角20°以上の割合は,Fx群で11足/13足(85%),Co群で5足/12足(42%)であり,Fx群とCo群を合計すると16足/25足(64%)であった.Fx群の障害発生の割合は10/13名(77%)が左側,3/13名(23%)が右側であり左側に多かった.【考察】日本整形外科学会診療ガイドライン委員会の定める外反母趾の診断にはHV角20°以上を推奨しており,M1/2角に関しては10°以上を第1中足骨内反としている.今回の結果では,HV角よりFx群は85%が外反母趾であり,Co群も42%が外反母趾を呈していた.M1/2角からはFx群が第1中足骨内反が強いといえる.HV角,M1/2角ともにFxが有意に高値を示したことより,HV角とM1/2角の増大は新体操選手の中足骨疲労骨折に関連があると示唆された.また新体操選手の足部疾患の64%に外反母趾症例が存在することから,外反母趾は新体操選手の足部の特徴である可能性も考えられる.スポーツ選手の中足骨疲労骨折について,能らは,サッカー,陸上,バスケットボール,剣道選手の61.3%が左側であったと報告しており,新体操選手の中足骨疲労骨折の左右割合も同様に77%と,バランスやピボットターンの軸足となる左側に多い結果であった.【理学療法学研究としての意義】新体操選手に特化した足部の報告は現在までに渉猟し得ないため,今回の新体操選手の中足骨疲労骨折とHV角,M1/2角の特徴について報告出来たことは今後理学療法を行う上で有用であると考える.佐本らは,30°未満のHV角は運動療法にて減少すると報告しており,新体操選手の中足骨疲労骨折の予防的観点からも外反母趾に対する理学療法と軸脚である左足部への介入が重要と考える.
著者
高見 千由里 加藤 正樹 松田 佳恵 加藤 喜隆 山上 潤一 早川 美和子 才藤 栄一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】当院は急性期医療を担う大学病院であり,重症例やハイリスク症例にも早期からリハビリテーション(以下リハビリ)を介入し,療法士は適切で万全なリスク管理が求められている。当院リハビリ部ではリハビリ時における事故発生状況について定期調査をおこなっており,今回我々は2009年~2013年度の事故発生状況,中でも転倒事故に着目し,当院におけるリスクマネジメントへの取り組みも含めて検討したので報告する。【方法】2009年4月1日から2013年3月31日の5年間に当院療法士が提出した事故報告書を基にリハビリ中に発生した事故314件を比較検討した。年間単位数から1単位あたりの事故発生率を求め標準化した。調査項目は事故報告書から転倒事故について発生時の動作,介助レベル,場所を抽出し年毎に比較検討を行った。また当院リハビリ室には2012年から安全懸架(Safety Suspension,以下SS)と位置づけられた懸垂装置を導入している。SSは患者の体幹に装着したハーネスと天井のレールにつながる懸垂装置である。今回,SSについての意識調査アンケートを部内療法士対象に実施した。【結果】事故件数及び1単位あたりの発生率は2009年度78件(0.038%),2010年度75件(0.034%),2011年度58件(0.025%),2012年度44件(0.018%),2013年度59件(0.020%)であった。事故のうち転倒は2009年度27件(34.6%),2010年度21件(28.0%),2011年度25件(43.1%),2012年度12件(27.3%),2013年度8件(13.6%)と低下を認めた。転倒事故において5年間合計件数の多い順に動作別では1位:歩行(34.1%),2位:立位(14.8%),3位:車椅子座位(12.5%),介助レベル別では1位:近位監視(49.4%),2位:軽介助(21.7%),3位:遠位監視(12.1%),場所別では1位:PT室(32.5%),2位:OT室(21.7%),3位:廊下(15.7%)であった。年度毎の歩行中転倒件数は2009年度9件,2010年度6件,2011年度11件,2012年度1件,2013年度3件であった。近位監視中転倒件数は2009年度10件,2010年度10件,2011年度14件,2012年度5件,2013年度2件であり,それぞれ2012年度から件数の低下を認めた。SSについてのアンケートでは「転倒事故防止を目的に使用している」との答えが61%であり「歩行練習中の事故防止に効果的か?」という質問では「非常に効果的」,「やや効果的」との答えが94%であった。【考察】当院では部内リスクマネージャーと安全管理室が連携し新人研修や部内勉強会においてリスク管理に関する講義を実施している。事故発生時には管理職療法士,リスクマネージャーから担当療法士に対し改善点についての指導,他療法士への周知徹底が行われ再発予防に取り組んでいる。リハビリ部では2012年度PT室にSSを導入しており,必要に応じて転倒防止ベルトの使用も推奨してきた。そのため2012年度から転倒事故件数の減少が認められ立位,歩行練習時にSSを使用することは事故防止に効果的であることが考えられた。アンケート結果でも転倒事故防止を目的にSSを使用しているスタッフが過半数におよんでいた。またSSについて歩行練習中の事故防止に効果的であると答えたスタッフが94%におよび歩行時の転倒事故防止に対するスタッフの意識向上が認められた。しかしSSは使用場所が限られる為,今後病棟や屋外では持ち運び可能な転倒防止ベルトの使用を今まで以上に推奨し,状況に合わせた使い分けをすることで,より安全で適切かつ効果的なリハビリの提供が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】本研究では医療安全に関する要因の検討,スタッフの認識が把握できた。リスク管理の教育におけるシステムの構築に非常に有用と考えられる。また当院と同様の急性期医療施設への情報提供となり,今後の積極的かつ安全なリハビリの普及にも有用と考えられる。
著者
市川 保子 中邑 まりこ 河合 麻美 飯高 加奈子 板垣 美鈴 大林 松乃 大和田 まりや 奥住 彩子 山田 紀子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0544, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】「PTママの会」(以下,本会)が発足し6年目を迎え,妊娠・出産・育児の過程において就労上での悩みが会員より多く寄せられている。マタニティ・ハラスメント(以下マタハラ)とは,働く女性が妊娠・出産を理由として職場で受ける精神・肉体的に不当な扱いをいう。今回,本会会員に就労におけるマタハラの意識・実態調査を行い,検討したのでここに報告する。【方法】本会会員330名を対象とし,全会員へ調査内容について説明,協力の意思を確認できた女性会員に調査を実施した。本会主催の勉強会(2013年4,2014年6月)参加者は即日回収し,その他会員にはE-mailを用いて調査を行い回収した(2014年7月から8月)。質問紙調査は無記名,選択回答および自由回答方式で実施した。調査内容は1)働く女性を保護する妊娠・出産に関する法律・制度について2)妊娠・出産・子育てに関する職場環境と心理3)マタハラの実情について聴取した。【結果】回答は66名より得られ,回収率は21%だった。1)働く女性を保護する妊娠・出産に関する法律・権利:全く知らない12.1%,法律・内容の一部を知っている54.5%,両方知っている33.3%であった。職場の妊娠・出産をする女性社員への支援制度:制度があり十分に活用している23%,制度は特にない25.7%,制度はあるが活用を推励する雰囲気ではなく,十分に活用されていない10.6%,制度はあるがよくわからない10.6%,無回答4.5%であった。2)妊娠・出産・子育てに関する職場環境と心理:在職中の妊娠では71.2%が不安を感じたと答え,仕事と育児の両立では60%が働きながら子育てしたいと答えた。また,他職員と対等に仕事ができない負い目を感じる30.7%,トランスファーや歩行介助等腹部への負担の心配が26%,妊娠を上司・他職員へ報告するタイミングに悩むが12.8%と多かった。3)マタハラの実情:マタハラを受けた経験有り42.4%,無し45.4%,無回答・妊娠未経験12.1%であった。自身の周囲で「職場にマタハラにあった人を見聞きした」の有無:有り48.4%,無し40.9%,無回答は10.6%となった。マタハラの内容:心無い言葉を言われた41.4%,相談できる職場文化がなかった17.0%で多かった。マタハラを受けた際の対応:家族に相談した28.9%,我慢した・相談しなかった23.6%,職場の上司・同僚・専門部署等への相談31.5%であった。マタハラが起こる原因:男性社員の妊娠・出産への理解不足22.9%,会社の支援制度設計や運用の徹底不足18.9%,職場の定常的な業務過多15.5%,女性社員の妊娠・出産への理解不足13.1%となった。【考察】本調査から,働きながら妊娠・子育てする権利が法律で守られていることを内容まで理解しているものは33%に留まった。職場で女性支援の制度を活用できているものは23%で,本会先行研究「理学療法士における妊娠経過の現状2011」では,70%以上の施設で妊娠に関わる業務軽減や配慮はあると回答を得ていることから,当事者が法律,制度を知ることと同時に,職場で制度を活用出来る体制作りがマタハラ回避の一手段になると考える。また,仕事と育児の両立を希望する者が60%を占める一方,マタハラ経験者は40%となり,働きながら妊娠した女性の25%がマタハラ経験者という報告(日本労働組合総連合)を上回る結果となった。マタハラの内容としては言葉によるものが多く,精神的な苦痛は社会的に表面化されにくい部分でもある。さらに,原因では他職員の理解不足,支援体制の活用不足が多かったことから,職場の妊娠・出産に対する理解,リスクマネジメント周知が重要であると考えられる。また,(公社)日本理学療法士協会(以下協会)が行った「女性理学療法士就業環境調査2010」では,妊娠・出産時のトラブルの有無で,切迫流産は25%,切迫早産は18%となっており,一般労働者の切迫流産17%,切迫早産15%(日本女性労働協会)より上回っている。これは,腹部等への負担を心配しながらも他職員と対等に仕事ができない負い目を感じる者が多く,女性理学療法士では無理をしやすい傾向があると推測される。これらの現状を踏まえ,協会においても妊娠経過や業務上リスクについて会員へ向けた啓発活動が重要であると考える。最後に,妊娠の経過は個々で異なるため,当事者と職場の相互理解を深めることが大切で,普段からの密な対話が必要といえる。【理学療法学研究としての意義】協会会員の40%が女性であり,働きながら妊娠・子育てをできる環境作りは必要である。本研究から得られた結果を共有することで,女性の就業継続や就労における質の向上について貢献できると考える。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。
著者
有竹 洋平 林 悠太 吉松 竜貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2090, 2010

【目的】<BR> 意欲低下、自発性低下もリハビリテーションを行う上で、最大の阻害因子の一つであるという報告がある(大友.1986)。また、脳血管障害患者を対象とした在宅での日常生活動作(以下ADL)と生活意欲の関連報告や回復期病棟での1ヶ月間のADL変化と意欲の関連性を検討した先行研究もあり、リハビリテーションにおける意欲の重要性が伺える。そこで本研究では、東武練馬中央病院回復期病棟に入院する高齢患者を対象に、入院時の生活意欲と退院時までのADLの改善度の関連性について比較検討した。<BR>【方法】<BR> 対象はH20年11月からH21年10月までに当院回復期病棟に入院中であった65歳以上の高齢患者62名(男性19例、女性43例、年齢82.0±6.5歳、脳血管障害18例、整形外科疾患32例、脊椎脊髄疾患8例、廃用症候群4例)とした。入院中に急性増悪での転院や死亡退院した者は対象外とした。<BR>評価項目は、入院時と退院時の機能的自立度評価表(以下FIM)と入院時から退院時までのFIMの改善度であるFIM利得、入院時の生活意欲とした。生活意欲に関しては、認知症患者でも回答の有効性が高いとされているVitality Indexを用いた。Vitality Indexは鳥羽らによって開発された指標で、日常生活での行動を起床・意志疎通・食事・排泄・活動の5項目で評価し、高齢者のリハビリテーションや介護場面での意欲を客観的に測定するものである。各項目はそれぞれ0~2点まで配点された3つの選択肢からなり、満点は10点となる。カットオフ値とされる7点をもとに、8点以上を高得点群(以下High群)、7点以下を低得点群(以下Low群)の2群に分けた。<BR> 統計学的処理は、Stat view ver.5.0を使用し、入院時FIMと入院時Vitality Indexに対してはSpearmanの順位相関係数を求めた。また、FIM利得はMann-WhitneyのU検定、年齢・在院日数はt検定、性別はχ<SUP>2</SUP>検定を用いて群間の差を検討した。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 数値の公表に関して、統計量を用いるなど個人の特定がなされないよう配慮することで、対象より了承を得た。<BR>【結果】<BR> High群は39例(男11例、女28例、81.2±6.3歳)、Low群は23例(男8例、女15例、83.5±6.7歳)であり、全体のVitality Indexは8.0±2.5点、High群は9.6±0.7点、Low群は5.2±1.7点であった。入院時FIMと入院時Vitality Indexは0.759と高い相関を認めた。FIM利得、年齢、性別は群間で有意差を認めなかった。在院日数はHigh群ではLow群に比べ有意に高かった(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 本研究では回復期病棟に入院する高齢患者に対し入院時の生活意欲と退院時までのADLの改善度との関連性について検討した。その結果、入院時FIMと入院時Vitality Indexに関しては高い相関が認められた。入院時のVitality Indexが低下している者はADL能力も低下していることが考えられる。また、入院時Vitality IndexとFIM利得との間に関連性は認められなかった。入院時の生活意欲と退院時までのADL改善度に対して関連性が低いと考えられる。以上より、入院時Vitality Indexが低い患者であっても、退院時までにADLが改善する可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回の結果から、回復期病棟へ入院してきた高齢患者は一様に意欲的であるとは言えず、意欲低下が認められる患者もいることは明らかである。意欲低下、自発性低下もリハビリテーションを行う上で、最大の阻害因子の一つであるという報告があるため、入院時に意欲低下が認められている患者はその後のADL改善を阻害する可能性も考えられる。そこで、本研究で回復期病棟に入院する高齢患者の入院時の生活意欲が退院時までのADLの改善度に与える影響について関連性を検討したことは、理学療法研究として意義があると考える。<BR>本研究の結果から、入院時Vitality Indexの得点で退院時までのADL改善度を予測することは困難であり、入院時の生活意欲低下が一様にADL改善度に対して阻害因子とはならないことが示唆された。よって、ADLの改善度に対しては疾病の器質的問題や障害重症度、個人因子など多角的な検討が必要だと考える。
著者
高村 元章
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1446, 2011

【目的】<BR> これまで元気に生活していた高齢者が肺炎や転倒、基礎疾患の悪化をきっかけに入院し、その後不幸にも入院期間中に寝たきり状態になり、そのままの状況で退院せざるを得ないケースに遭遇する。その一方で再び良好な回復を示し、在宅に戻って以前と変わらぬ生活を取り戻した高齢者も存在する。これらの転帰の相違は、確かに疾患や損傷の重症度や適切な治療の介入、家族の支えや介護などの影響が大きいのかも知れない。しかし、それと並行して、本人自身に芽生えた再び生きることへの原動力、すなわち生活意欲をかきたてる「動機」に通じる何からかの要因の存在があったからではないかと考えている。<BR> そこで、本研究では、かつて寝たきりの状態を経験し、現在はそれらの状況から回復の方向へ転じた高齢者を対象として、その背景因子や相互の関連性を模索することを目的に、半構造的インタビューによる聞き取り調査を実施した。そしてそれらのデータをもとに寝たきり状態となった高齢者の生活意欲向上にかかわる要因について検討を行ったので以下に報告する。<BR>【方法】<BR> 対象者の選定は、これまでに寝たきりの状態を6ヶ月以上経過し、現在その状態が改善されたか、または改善過程にあり、本研究の趣旨に同意が得られた2名の高齢者を対象とした。事例1および事例2ともに、70歳代の男性で、在宅での生活を営んでいる。事例1は、アルコール依存による精神障害や重度の肝機能障害、糖尿病など11種類の病名を持ち、病院から特別養護老人ホームを経て、退所後3年6ヶ月が経過していた。旧厚生省官房老人保健福祉部長通知(老健第102-2号)による障害高齢者の日常生活自立度判定基準(以下、寝たきり度)では、ランクB2からJ1へ、要介護度は4から 要支援1へと変化し、現在はシルバー人材センターからの依頼業務等もこなせる状況にまで回復している。事例2は、結核で入院中に脳出血を発症し、回復期の病院を退院後5年5か月が経過していた。寝たきり度はランクC2からB2へ、要介護 5から4へと軽快し、現在週2回のデイサービスを利用して歩行練習に励み、他の利用者とともにカラオケを楽しんでいる。<BR> 聞き取り調査の分析は、まずICレコーダーに録音した音声データより逐語録を作成し、それらのデータをもとにコード化、カテゴリー分類等の質的研究の手順に準じて、その要因を分析した。今回、分析の基本として、グランデッド・セオリー(Grounded Theory Approach)の考え方を受けたロング・インタビュー法(The Long Interview)を採用した。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究に関する調査協力の依頼に当たっては、倫理上の手続きとして個人情報の保護に関する法律(法律第57号)と「疫学研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省)に基づく同意書を作成し、十分な趣旨の理解と同意を得て実施した。また、インタビュー中の会話の録音についても、事前に確認をとり録音の了解を得た上でインタビュー調査を実施した。<BR>【結果】<BR> 一連の分析手順を踏んだ結果、最終的に事例1では7つのカテゴリーと27個の註釈が得られ、事例2では7つのカテゴリーと25個の註釈が得られた。それらのうち2つの事例に共通するカテゴリーとしては、「楽しみ(やりたいこと)」、「人との交流(役割としての意味合いも含む)」、「役割」、「医療や福祉環境への懐疑と不満(主に家族から)」の4つのカテゴリーに集約された。<BR>【考察】<BR> 2つの事例に共通するカテゴリーより寝たきり状態となった高齢者の生活意欲向上にかかわる要因として特に注目すべき項目は、「楽しみをもつこと」、「役割をもつこと」、「人との交流をもつこと」の3項目であると考えた。これらは、我々の日常生活において極普通に散在する要因で、「その人となり(自分らしさ)」を表すものと解釈されるが、寝たきりの状態や虚弱に陥った多くの高齢者はそれらの要因を一瞬のうちに無くし、生きる道筋を失った状態とも捉えられる。このような状態の反映を生活意欲の低下と表現するならば、この生活意欲を向上させるための要因やきっかけにいち早く気づくことこそ、「寝たきり」の状態となった高齢者を本当の意味で「起こす」のためのストラテジー(strategy)へと通じるものではないかと考えた。それはすなわち、「人としての尊厳」の回復を目指すものともいえる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 寝たきり状態となった高齢者を回復の方向へ導く視点には、生活意欲の向上につながる要因の追究ということが重要であった。それは、単に機能や能力の維持・改善ばかりに目を奪われることなく、対象者が何気なく発信している普段の会話の中から「その人となり(自分らしさ)」をいち早くキャッチする着眼点の重要性が示唆された。
著者
山本 光 谷口 圭佑 滝澤 恵美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>要支援・要介護者の健康管理や在宅運動の習慣といった「自助」の促進は重要な課題である。ある行動の獲得や習慣化に際して自己効力感(self-efficacy:SE)が重要視されており,SEに関する報告は散見されるが,集団体操を通じたSEの変化に関する報告は少ない。そこで本研究は,「自助」の促進を目的とした集団体操が,健康管理に対するSE(健康SE)と在宅運動SEへの影響を検討することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>通所リハビリテーション利用者10名(男性5名,女性5名,年齢79.9±7.4歳)を対象とした。主疾患は中枢神経疾患2名,整形外科疾患7名,心疾患1名であった。Mental Status Questionnaire 8点未満の者は調査から除外した。集団体操は,1)遂行行動の達成(目標に対する達成度を対象者自身で記録),2)代理的体験(他者が称賛される様子を対象者同士が観察できるよう配置),3)言語的説得(称賛や励ましの声掛け),4)生理的・情動的状態(体操前後に血圧・脈拍を対象者自身で測定・記録)のSEを高める4つの情報源(石毛,2010)に対応させて実施した。集団体操は1回40分,週1~2回,3か月間実施した。なお,集団体操で実施した内容を自主トレーニングとして行うように指導した。介入前後で対象者の身体機能テスト5項目(握力,膝伸展筋力,5m最大歩行時間,Timed Up and Go test(TUG),Functional Reach(FR)),およびSE2項目(健康管理に対するSE尺度(横川,1999),在宅運動SE尺度(有田,2014))を調査した。統計学的解析はWilcoxonの符号付順位和検定を用い,統計学的な有意水準は5%とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>介入前後の結果を以下に示す(介入前/介入後,p値)。握力(kg)(22.0±5.4/22.1±5.4,p=0.95),膝伸展筋力(kg/体重)(0.37±0.12/0.38±0.11,p=0.41),5m最大歩行時間(秒)(5.2±0.9/5.2±1.1,p=0.51),TUG(秒)(12.1±2.1/11.8±2.4,p=0.38),FR(cm)(22.7±6.6/23.9±6.5,p=0.72)であり身体機能の有意な変化は認められなかった。一方,健康SE(42±4.9/45.5±4.5,p=0.02)では有意に上昇した。なお,在宅運動SE(18.2±4.8/22.3±3.9,p=0.05)は有意な変化を認めなかったが,介入前より介入後に上昇した。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本プログラムによって身体機能に有意な変化は認めなかったが,健康SEの上昇の効果を認めた。セラピストと対象者,また対象者同士の関わりを工夫することで,対象者自身が健康を管理する動機付けを促進させると推察された。これより,集団体操はSEの変化に正の効果をもたらすと考えられた。健康SEを向上させた活動として,自己または他者のトレーニングの成功体験や代理的体験,さらに血圧・脈拍の自己管理の導入が考えられた。在宅運動SEは上昇傾向にあることから,今後,自宅での活動に変化が現れれば身体機能の維持・改善も期待される。今後はSEの上昇に伴う実際の行動変容を確かめる必要がある。</p>
著者
永瀬 外希子 伊橋 光二 井上 京子 神先 秀人 三和 真人 真壁 寿 高橋 俊章 鈴木 克彦 南澤 忠儀 赤塚 清矢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1572, 2009

【はじめに】我々は第43回日本理学療法学術大会において、地域住民による模擬患者(Simulated Patient以下SPと略)を導入した医療面接の演習授業の紹介を行った.今回、授業後に行った記述式アンケートを通して、SP参加型授業による教育効果を検討したので報告する.<BR>【対象】対象は本学理学療法学科3学年21名で、本研究の趣旨と目的を説明し、研究への参加に対する同意を得た.<BR>【方法】医療面接の演習目的はコミュニケーションスキルの習得とした.演習方法は2症例のシナリオを作成し、2名のSPに依頼した.学生には1週間前に面接の目的と進め方、症例の疾患名を提示した.さらに面接30分前に症例の詳しい情報を提示した.グループを4つに分け、面接方略の討論後、各グループの代表者1名がSPと面接を行い、それ以外の学生は観察した.1回の面接時間は10分以内とし、面接後、学生間のグループ討議、SPならびに教員によるフィードバックを行った.演習終了後、授業に参加した学生を対象に、授業を通して学んだことや感じたことについて自由記載による記述式アンケート調査を行った.得られた記述内容を単文化してデータとし、内容分析を行った.得られた127枚のカードから3名の教官が学生の学びに関するカードを抽出し、同じ内容を示すカードを整理しサブカテゴリー化した.その後さらに関連のあるカードを整理してカテゴリー化し、それぞれの関係性について検討した.<BR>【結果と考察】「学び」に関与すると判断されたカードは40枚であった.それらを分析した結果、「SPと自分との乖離」、「自分自身の振り返り」、「基本的態度の獲得」、「対応技術の習得」の4カテゴリーが抽出された.「SPと自分との乖離」は、「表出されない相手の思い」、「思いを知ることの難しさ」のサブカテゴリーで構成されていた.また「自分自身の振り返り」は「基本的なコミュニケーションスキルの知識不足」、「疾患についての知識不足」、「話を発展させる技術不足」、「質問攻めの一方的なコミュニケーション」、「基本的態度の獲得」は「傾聴的な態度」、「共感的態度」、「相手を分かりたいという思い」、「対応技術の習得」は「患者をみる視点・観点」、「目をみて話すことの大切さ」、「相手に合わせた関わり方」のサブカテゴリーから構成された.これらの結果より、SPからのフィードバックを通して、SPと自分の感じ方や捉え方の違いや、言葉では表出されない思いがあることに気付き、それらを理解することの難しさを実感するとともに、学生自身の不足している点を認識したことがわかった.そして、相手と信頼関係を築くためには、相手を思い、傾聴し、共感するなどの基本的態度の大切さに加え、目をみて話すことや相手に合わせた関わり方などの対応技法の習得も必要であることを学んでいた.
著者
岸本 泰樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E2Se2073, 2010

【目的】現在我々理学療法士は、医療報酬・介護報酬の枠組みの中で運営する病院や老健などの施設で働いている場合が多い。平成21年現在、一般の保育園、幼稚園で働く理学療法士は皆無といってよい。しかしながら、昨今全国的に展開される様々な分野の公的機関民営化の流れに伴ない、これまで医療・介護に関わってきた医療法人が保育園を運営する例も珍しくなくなってきている。一般の保育・教育の現場でも、障害を有さない健常な子供たちとの生活の中で、我々理学療法士に対する期待の声も高まっており、こうしたことは多職種協働を目標に掲げる我々が、なすべき役割を発揮するひとつのチャレンジなのかもしれない。今回、岐阜市内における保育園との1年を通じた関わりを経験したのでここに報告する。<BR><BR>【経緯】岐阜市内のA保育園はこれまで岐阜市が運営を担っていたが、市が推進する平成20年度の民営化改革より、これまで同市内において病院や老健を運営してきた当医療法人が管理・運営することとなった。同園は5歳児(年長)・4歳児(年中)・3歳児(年少)それぞれ1クラスと3歳未満児クラスを有する保育園であり、障害児の受け入れも積極的に進めている。また同園ではこれまで、いわゆる「体操教室」のような運動に特化する時間を設けておらず、園児の運動発達や身体能力に注目することが少なかった。そこで今回の民営化を機に園児への健やかな運動発達を誘導する一方法として理学療法士が派遣されることとなった。<BR><BR>【方法】同園内で隔週1回を基本とし身体を動かす楽しさと大切さを伝える「理学療法士による体操教室」を開催した。また通常の教室とは別に正常な運動発達をチェックする観点から、園児たち全員に対する運動機能評価(スポーツテスト)を行ない、子どもたちの運動能力の現状を確認した。得られた結果は保育士と共に分析を行ない、園全体で共有できるよう努めた。また同時に、日常の遊びや生活動作の中での運動発達状況を記録するシステムを構築した。さらに現在運動発達障害を有し病院などで治療を続けている子どもたちにおいては、担当の理学療法士との情報交換をしながら実際に保育園に来ていただき、園での日常生活における保育士の対応について指導もいただいた。<BR><BR>【説明と同意】今回の取り組みに関しては保育園側への十分な説明を行なうとともに、園児と保護者に対する理解と同意を得て計画的に実践にあたった。<BR><BR>【結果】スポーツテストの結果では全体的に当園の子どもたちの運動能力が低下傾向であることが確認された。中でもテニスボール投げや両足連続飛び越えのような全身の協応性を求められる項目でスコアが伸びなかったのは、これまで運動を指導されたことがない園児たちが今持ち合わせている基本的な運動能力を、発展的かつ巧に利用することが不得手であることをうかがわせた。また日々の発達を年間を通じて記録することは、客観的な変化を担当保育士が理解・共有することにつながり保育業務の一助となった。障害児への対応では、保護者との面談や通院先の担当理学療法士への訪問活動、担当理学療法士に日常生活での指導をいただくため園に招く活動などを通じ、これまで希薄であった保護者・保育士・担当理学療法士のつながりを強化する働きかけとなった。<BR><BR>【考察】少子化が進む現在、子どもたちの能力を伸ばすための働きに注力する保育園・幼稚園が増えてきている。医療法人がこうした運営を担うケースは今後増えてくると予想され、我々理学療法士に広がる新しい業界として展開される可能性が十分にある。そこでは、運動発達学的な視点をもとにした適切な運動能力評価、障害児を受け入れている園の担当保育士への指導、また該当児の治療を担当する理学療法士と保育士とを有機的につなげるパイプ役、など様々な役割が求められ、これまで障害に対するアプローチのみが主な生業であった我々が今後構築すべき新たな地平といえるのかもしれない。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】「多職種との協働」や「理学療法士としての職域の広がり」の観点から、今回のような新しい切り口での取り組みは、今後研究されるべき課題の投げかけという意味でも意義深いものであると考える。
著者
米村 武男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E1171, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】訪問理学療法では、在宅生活管理並びに心身の活動量の改善を目的に介入することもある。自主トレーニング(以下自主トレ)の指導はその一手段として用いられるが、定着が困難な場合が多い。今回、糖尿病(以下DM)患者に対し自主トレ指導方法に関する検討を行ったので報告する。【症例紹介】86歳 女性 疾患名:DM・廃用症候群 合併症:網膜症 末梢神経障害 現病歴:10年前にDMと診断。引きこもり傾向・廃用により転倒頻度が増える。【初期評価】▼身体面 TUGT:20秒 筋力:下肢体幹3/5 周計(大腿cm):34/34.2 Borg指数:16/20(20分程度の散歩後)▼DM Hba1c:8.3% BS:210mg/dl BMI:26▼歩行数:平均2000歩/日 LifeSpaceAssessment(以下LSA):74 「生活するのが疲れる」 【経過】第一期(6M):転倒頻度の減少と自主トレ未定着指導内容:下肢ストレッチや筋力トレーニング(主に大腿四頭筋を下腿の自重負荷・等尺性収縮にて20回/2setを訓練実施)の他、訓練内容同様及び30分/日散歩を自主トレ設定とし、口頭・紙面で指導した。結果:姿勢・ROM・TUGT・転倒頻度の改善を認めた。しかし自主トレが定着せず、訪問リハ終了による再度廃用の懸念が残り自主トレ定着が課題となった。またLSA・歩行数・Borg指数・筋力に変化を認めなかった。第二期(6M):行動分析学的指導による自主トレの定着指導内容:訓練頻度・内容は第一期と同様、自主トレ指導として行動分析学的指導を用いた。主な内容は自己効力感を高める為に▼目標行動の設定:TimeStudy法による実施時間の明確化▼セルフマネジメント行動の確立:DM管理や歩行数・自主トレ回数の自己記録評価▼他者強化:訪問時間中の自己記録評価のフィードバック を実施した。また自己効力感の評価としてSF36を指標にした。【結果】▼身体面 TUGT:15秒 筋力:下肢体幹5/5 周計:36.4/36.8 Borg指数11/20▼DM HbaIc6.3% BS130mg/dl▼生活面 歩行数:7000歩 BMI:18 LSA:110 SF36:身体75→100全身的健康40→62活力37.5→68.7社会生活75→100精神75→100「生きるのが楽しい」【考察】今回自主トレが定着できないために廃用予防が達成されなかった症例に対し行動分析学に基づく自主トレ指導を実施した結果、定着が可能になり心身の活動量が改善した。行動分析学は自己効力感を高めることを目的とする。指導実施後、自己効力感が向上したことで定着が可能になったと考える。自主トレ指導は丁寧なフォローが必要であり、定着に向けた指導方法として行動分析学を用いることは有用ではないかと考えた。
著者
櫻田 弘治 浦川 宰 小澤 亜紀子 佐藤 真治 澤 貴広 牧田 茂 間嶋 満 許 俊鋭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.434, 2003

<B>【はじめに】</B>現在、心臓外科術後症例に対する心臓リハビリテーションの有効性は明らかなものである。心臓外科術後早期の短期間での効果も、我々の研究結果において明らかにされている。しかし、この中には改善のみられなかった症例も存在することは事実である。今回、心臓外科術後早期の短期入院での運動療法によって、運動耐容能に改善のみられなかった症例について、その要因を検討した。<B>【対象】</B>2001年9月から2002年9月に当院心臓血管外科にて胸部正中切開による手術後、リハビリテーションを施行した患者のうち、早期離床を目的とした病棟内理学療法施行後、リハビリテーション科での短期入院による運動療法を施行した症例28例(男性:25名・女性:3名、平均年齢63.1±11歳)を対象とした。リハビリテーション科での運動療法は心肺運動負荷試験(CPX)の結果より嫌気性代謝閾値(AT)を決定し、その結果をもとに自転車こぎをおこなった。開始時期は、術後平均病日11.7±4.3、運動療法期間は10.9±4日であった。手術様式別は冠動脈バイパス術14例、弁置換・弁形成術9例、冠動脈バイパス+弁置換術5例であった。尚、術後運動器疾患を合併症した症例は除外した。<B>【方法】</B>運動療法実施後のPeak VOH<SUB>2</SUB>が改善した群(22例)、しなかった群(8例)の2群間において、術前左室駆出率(LVEF)・手術侵襲(手術時間)・術後臥床期間を対応なしのt検定を用いて検討した。<B>【結果】</B>改善した群・しなかった群でのPeak V(dot)O<SUB>2</SUB>は、それぞれ運動療法前:12.3±2.6・12.2/2.2ml/kg/min、運動療法後15.2±3.2・11.5±2.5 ml/kg/minであった。改善した群・しなかった群での、術前左室駆出率(LVEF)は各々、57.4±13.9・63.3±14%、術後臥床期間は2.5±0.7・3.0±0.6日で有意な差はみられなかった。しかし、手術時間は改善した群で263.5±83min、改善しなかった群で344.7±66.9minと有意差が認められた。<B>【考察】</B>心臓血管外科手術は血行動態や心筋虚血の改善、運動能力の向上を目的として行われるが、全症例が同様に改善するわけではない。今回、心臓外科術後約11病日より自転車エルゴメータによる、約10日間の運動療法施行症例中で、運動耐容能が改善しなかった群では、手術時間が長かったことによる、心筋自体の回復、および全身状態安定の遅延が運動耐容能が改善しなかった大きな要因であると考える。<B>【結語】</B>心臓外科術後早期、約11病日より開始した、約10日間の運動療法を施行しても、改善がみられなかった症例の原因としては、手術時間が長いことであった。
著者
近藤 勇太 建内 宏重 水上 優 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0406, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸腰筋は股関節屈曲の主動作筋だが,下肢疾患患者では特異的に筋機能が低下することが多く,選択的トレーニングが求められる。これまで選択的トレーニングに関する研究は運動方向に関しての検討が主だったが,他関節において,負荷量を上げた際に各筋の筋活動は一様に増加しないという報告がある。股関節も同様の傾向があると考えられ,選択的な腸腰筋のトレーニング法を検討するには運動方向だけでなく,股関節屈曲トルク増加に伴う各股関節屈筋の筋活動の変化も検討する必要がある。また近年,表面筋電図で腸腰筋の筋活動が測定可能との報告があり,非侵襲的に筋活動の測定が可能となった。本研究の目的は,股関節屈曲トルク増加に伴い各股関節屈筋の筋活動・筋活動比がどのように変化するか明らかにすることである。【方法】対象は健常成人男性17名とした。課題は等尺性股関節屈曲運動とし,測定肢位は両膝より遠位をベッドから下垂した背臥位とした(股関節内外転・内外旋中間位)。測定筋は利き脚の腸腰筋(IL)・大腿直筋(RF)・大腿筋膜張筋(TFL)・縫工筋(SA)・長内転筋(AL)の5筋とした。ILの電極貼付部位は鼠径靭帯の遠位3cmとし,超音波診断装置(フクダ電子製)で筋腹の位置を確認し電極を貼付した(電極間距離12mm)。筋活動の測定は筋電図計測装置(Noraxon社製)を用いた。各筋の最大筋活動を測定した後,大腿遠位に徒手筋力計(酒井医療製)を設置し,ベルトで大腿を含め固定した。最初に最大股関節屈曲トルクを測定し,その10%,20%,30%,40%,50%MVCを発揮した際の3秒間の各筋の筋活動を記録した。各筋の3試行の平均筋活動を最大筋活動で正規化した値(%筋活動)と,各筋の%筋活動を5筋の%筋活動の総和で除した筋活動比を解析に用いた。統計解析は,一元配置分散分析およびBonferroni法を用いて10%,20%,30%,40%,50%MVCでのトルク発揮時の各筋の筋活動と筋活動比を比較した。【結果】IL・TFLの%筋活動は10%(25.0・9.3:平均値)に対し20%(31.5・12.4),20%に対し30%(37.4・16.1)で有意に増加したが,30%と40%(43.5・19.4),40%と50%(48.9・22.6)は有意差が無かった。一方RFは10%(6.5)に対し20%(10.6),20%に対し30%(17.0),30%に対し40%(22.6)で有意に増加したが,40%と50%(25.4)は有意差が無かった。SA・ALは50%まで有意に%筋活動が増加した。またILの筋活動比は10%(0.37)が20%(0.32)以外と比べ有意に高値となり,20%が30%(0.30)以外と比べ有意に高値となった。RF・TFL・SAの筋活動比には有意差が無く,ALは10%(0.11)がそれ以外と比べ有意に低値となった。【結論】本研究の結果,股関節屈曲トルクが低負荷から中等度の負荷まで増加する場合,SAやALは線形に筋活動が増加するが,ILやTFLは比較的低負荷の範囲しか筋活動が増加せず,またILの筋活動比は低負荷であるほど高い値を示した。本研究結果は,腸腰筋トレーニングを実施する際に有用な知見である。