著者
長門 五城 藤田 聡香 渡部 一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0648, 2012

【はじめに、目的】 病院や老健施設等で、移動・座位保持を目的として車いすが使用されるが、シーティングアプローチが不十分で、姿勢が崩れた状態で車椅子を使用している場合が数多く見受けられ、仙骨座りやずり落ち等の問題が発生している。また、不良姿勢の持続は呼吸状態や循環動態、摂食・嚥下、消化機能にも影響し、脊柱の後弯・側弯、頸部後傾、関節拘縮などの障害をもたらすことが報告されている。シーティングアプローチにおける体幹支持の方法には、腰椎支持、骨盤支持、胸郭下支持(第10~12肋骨付近における支持)などがある。特に胸郭下支持については、継続的姿勢保持機能が高いと言われているが、その身体への効果・影響については明らかになっていない。本研究では、車いす座位における胸郭下支持の有無が経時的な姿勢変化や呼吸機能に与える影響について比較検討した。また、介入前後に車いす座位保持における疲労感を評価し、比較検討を行った。【方法】 対象者は実験の同意が得られた健常者20名(男性10名:平均年齢20.7±0.9歳、女性10名:20.8±0.8歳)。実験は実験室入室後、室内馴化のため30分安静背臥位となったあと40分間車椅子に乗車してもらい胸郭下支持なし、ありの2日間に分け実施した。実験室環境は平均室温27.7±1.9℃、平均湿度51.3±6.0%であった。実験前後において体圧分布測定システム(Tekscan社製)を用いた座圧、レーザー距離計(Leica社製)による下位頚椎から上位胸椎の形状の測定、呼吸機能検査装置(NIHON KOHDEN社製)を用いた呼吸機能検査、疲労に関するアンケート、フリッカー測定器(オージー技研株式会社製)を用いた疲労測定を実施した。データは男性群、女性群に分けて処理を行った。統計ソフトはIBM SPSS Statistics 19を使用してt検定を行い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 実験は青森県立保健大学倫理委員会の倫理審査を受けた上で実施し、対象者にはあらかじめ実験内容、手順を説明し書面にて同意を得た。【結果】 姿勢変化について座圧分布では仙骨部での荷重パターンを行っていた5名が胸郭下支持を入れることで坐骨部での荷重パターンへと変化する傾向がみられた。また有意差はみられなかったが支持なしの場合、最大荷重点の仙骨部への偏移がみられた。下位頚椎から上位胸椎にかけての形状は始点(Th3)を揃え、終点(C4)における分散をみた結果、男性では有意差は認められなかったが、女性では支持ありの場合、実験後のC4における位置の偏移が有意に大きいという結果となり、形状に多様性がみられていた。呼吸機能は支持なしの場合、男性ではTVは有意に増加、VCは有意に減少していた。女性では有意差はみられなかった。支持ありの場合では、男女ともに実験前後のTV、VCに有意差はみられなかった。疲労度については男女ともにアンケートによる評価では疲労度、フリッカー値が支持なし、ありとも有意に増加した。アンケートでの疲労増加率は支持なしの方が高かった。【考察】 胸郭下支持ありの場合、支持部より上部体幹を抗重力支持することで腰椎への重力負担を軽減したのではないかと考える。そのため、最大荷重点の仙骨部への偏移が減少する傾向を示したと推察する。また支持ありの場合、胸郭と支持部より上部の背もたれ面に空間的余裕ができ胸郭運動が行いやすくなり、動きの自由度を引き出せたのではないかと考える。また上部体幹動作に余裕が生まれたことから第4頸椎の位置に多様性がみられたと考える。呼吸機能では男性において支持なしの場合、有意に一回換気量の増加、肺活量の低下がみられていたが、支持ありの場合には有意差はみられなかった。これは支持により胸郭を含む上部体幹を胸郭直下付近において抗重力支持することで体幹部の筋活動を拘束しなくなり、呼吸筋の疲労も減少したためと考える。疲労度に関しては支持ありの場合、仙骨部での荷重偏移が減少したことや、下位頸椎から上位胸椎にかけての形状に多様性がみられたことから個々に安楽な姿勢をとりやすくなったと考えられ、さらに呼吸機能についても呼吸筋群の動作自由度に与える影響が少ないことから疲労増加度が低くなったと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の実験で、健常者において胸郭下支持を入れることは仙骨座り、呼吸機能、疲労増加度に対し良い影響を与えることがわかった。胸郭下支持を明確にしたシーティングアプローチを行うことは、不良姿勢や呼吸機能の改善、さらに継続的姿勢保持機能を向上させるだけでなく上肢機能をより引き出したり、ADL拡大の効果等も期待できると考える。
著者
江玉 睦明 影山 幾男 熊木 克治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2033, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】大腿直筋の肉離れはハムストリングスに続いて多く,発生部位は近位部に集中している.今回,大腿直筋について肉眼解剖学的に筋構造を明らかにし,肉離れ発生部位との関連を検討した.【方法】日本歯科大学新潟生命歯学部に献体された成人3遺体5側を用いた.検索方法は主に肉眼解剖学的手法を用いた.【説明と同意】本研究は死体保護法で同意を得て行った.【結果】大腿直筋は下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こり,遠位1/4から内側広筋,外側広筋,中間広筋とで共同腱を形成し膝蓋骨上縁に停止した.表面の近位1/3まで幅広い起始腱膜があり,そこから遠位1/3まで筋内腱が存在した.裏面では停止腱膜が近位1/4まで幅広く存在した.下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こる起始腱は混同して起始腱膜となり,近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成した.筋内腱は起始腱膜の延長であり,薄い膜状構造を呈した.近位部の特徴として,起始腱膜から筋内腱の筋線維は両側へ走行し羽状構造を呈して停止腱膜に停止していた.起始腱(下前腸骨棘)からの筋線維は,半羽状構造を呈し,起始腱(臼蓋上縁)からの筋線維は長軸方向に平行に停止腱膜に付着しており,表層と深層では異なる筋線維走行を呈した.また起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成していることで近位部表面の筋線維走行は部位により異なる走行を呈した.【考察】肉離れの発生メカニズムとして羽状構造,筋腱移行部,遠心性収縮がポイントとして挙げられる.大体直筋は羽状筋であり,サッカーのシュート動作時などに受傷することが多く,近位部の筋内腱部,筋束の筋膜が好発部位とされている.今回の結果から近位部は,表層と深層では異なる筋線維走行をしており,また,起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部から徐々にねじれて筋内腱を形成しているため,近位部前面は部位により異なる筋線維走行を呈していた.このため,近位部は収縮時に部位により異なる収縮動態を呈する可能性があり,このことが肉離れの発生に関与しているのではないかと考えられた.今後は,超音波を使用しての筋収縮の動的評価を行い近位部の収縮動態を明らかにしていきたい. 【理学療法学研究としての意義】本研究は,肉眼解剖学的観点から大腿直筋の肉離れの発生原因を考察しており今後更に発展させていくことにより肉離れの治療や予防の一助となるものと考える.
著者
松原 慶昌 田坂 清志朗 福本 貴彦 西口 周 福谷 直人 田代 雄斗 城岡 秀彦 野崎 佑馬 平田 日向子 山口 萌 青山 朋樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0062, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年子どもの外反母趾が増加し,問題となってきている。外反母趾の原因は様々な要素が指摘されており,足部アーチの低下が外反母趾と関連しているという報告がある。子どもの足は足部アーチの形成の重要な時期にある。さらに,足部アーチの形成には足趾把持力が関連していると報告されているため,足趾把持力が外反母趾に関連している可能性がある。また,特に子どもにおいては足部の筋力,形状共にも発達段階にあるため,足部の筋力が足部形状に与える影響が大きい可能性がある。子どもにおいて外反母趾と足趾把持力の関連についてはまだ調べられていない。そこで,本研究では子どもにおける外反母趾と足趾把持力の関連について調べることを目的とした。【方法】対象は奈良県田原本町にある小学校5校の小学4~6年生671名の計1342足(平均年齢10.3歳±0.7歳,男子317名,女子354名)とした。外反母趾角は,母趾基節骨と第一中足骨のなす角とし,静止立位にて,ゴニオメーターを用いて測定した。足趾把持力は足趾筋力測定器(竹井機器工業,T.K.K.3364)を用いて股関節,膝関節ともに90°屈曲座位にて,左右両足を各足二回測定した。各足の最大値を足趾把持力として用いた。統計解析は,従属変数に外反母趾角,独立変数に足趾把持力,調整変数に性別,年齢,身長,体重を投入した重回帰分析を行った。なお,同一の対象者から二足を用いているため,両足の類似性を補正するために,一般化推定方程式を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】全対象者の外反母趾角の平均は7.91±5.0°,足趾把持力の平均は13.3±4.0kgであった。重回帰分析の結果,偏回帰係数は-0.098(95%信頼区間:-0.187~-0.010)で有意差(p=0.029)を認め,外反母趾角と足趾把持力は負の関係にあった。【結論】本研究では,子どもにおける外反母趾角と足趾把持力の関連性を検討した。その結果,小学子どもにおいて外反母趾角と足趾把持力が負の関係にあることが明らかになった。しかし,先行研究においては,健常成人では外反母趾角と足趾把持力の関係性は認められなかった。この理由は,子どもの足部は発達段階にあり,筋力が足部形成に与える影響が大きい可能性が考えられる。低足趾把持力により十分な足部アーチ形成が行われず,足部アーチの未発達が外反母趾角の増大につながったと考えられる。本研究は横断研究であるため,因果関係について断言できないが,足部アーチが発達段階にある子どものころに,足趾把持力を鍛えることで外反母趾の予防につながる可能性がある。
著者
松崎 稔晃 益川 眞一 河津 隆三 原 賢治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C3P2384, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】 骨粗鬆症による脊柱変形や加齢に伴う椎間板の変性など原因は多様であるが、よく観察される高齢者の異常姿勢のひとつに円背がある.この円背は呼吸機能低下や嚥下の際の過剰努力など多種多様な影響を全身に及ぼすが、その中で今回は脊柱のアライメントと下肢の運動連鎖に着目し、円背と下肢の筋力バランスの関連性を検証することにした.これにより日々行っている理学療法プログラムやホームエクササイズ指導を再考し、今後起こりうる変形性膝関節症などの二次的な疾患の予防等にも役立つのではないかと考えた.【対象・方法】 既往に中枢疾患がなく下肢関節に不定愁訴のない円背を呈している患者20名(平均年齢82.2±7.5歳、以下 円背有り群)、円背を呈していない患者20名(平均年齢76.3±6.2歳、以下 円背無し群)を対象とした.ここで、円背については明確な定義がないので、今回は体幹伸展可動域0度以下の患者を対象とした.測定方法はOG技研製徒手筋力センサーGT-310を用い膝関節屈曲・伸展筋力、足関節底屈・背屈筋力を両側下肢について測定した.測定値については3回測定し、その最大値を測定データとした.膝関節伸展筋力最大値/膝関節屈曲筋力最大値(以下 膝関節筋力比)、足関節背屈最大値/足関節底屈最大値(以下 足関節筋力比)のデータに関してMann-Whitney U検定にて円背有り群、円背無し群間での有意性を比較検討した.【結果】 統計処理の結果、両側下肢の膝関節筋力比において円背有り群、円背無し群間で有意差を認めた(P<0.01).すなわち両側下肢ともに円背有り群は円背無し群と比較して膝関節筋力比が高値を示した.一方、両側下肢の足関節筋力比において円背有り群、円背無し群間で優位な差は認めなかった.【考察】 後藤によると、電気生理学的研究において円背症例では股関節・膝関節の屈筋群と伸筋群はともに正常姿勢例と比較するとより過剰な筋活動を要求されるが、その中でも大腿前面筋により大きな筋活動を要求されたと報告している.また、運動学的観点から考えてみると、円背に伴う脊柱後彎・骨盤後傾により、股関節は屈曲、膝関節は屈曲・内反・内旋位を呈する.これにより股関節の伸展モーメントを生み出すことができず、膝関節では伸展のモーメントの必要性を余儀なくされ、過剰な負担を担う.これらの電気生理学的・運動学的側面から考え、円背症例では、ハムストリングスよりも大腿四頭筋により大きな筋活動が要求され、このことが膝関節筋力比が高値を示したという結果になったのではないかと推測した.【まとめ】 現在の円背症例に対する運動療法は、体幹の可動域訓練、腹筋群・背筋群の筋力増強訓練とともに大腿四頭筋の筋力増強訓練を推奨している教科書や文献が多い.しかし今回の結果からこれまで行われてきた運動療法の中に膝関節屈筋群の筋力増強訓練の必要性も示唆された.
著者
前野 里恵 石田 由佳 金子 俊之 森川 由季 井出 篤嗣 高橋 素彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】疥癬に罹患している患者が入院治療と理学療法介入に伴い,医療従事者へ感染伝播した事例を通して,感染管理室とリハビリテーション部の感染対策について報告する。【方法】高齢女性 平成26年1月上旬 自宅で転倒受傷して入院 診断;恥骨骨折 既往歴;疥癬の診断なし 入院時,全身に掻痒性皮疹 他院で処方されたリンデロンを外用したが,皮疹が拡大した。ADL;食事以外全介助 入院前生活:自宅内杖歩行自立 屋外車いす利用 要介護2 入院5日目 リハビリテーション科併診 理学療法開始 入院4週1日目 皮膚科併診 腋窩の小膿疱より疥癬虫ヒゼンダニ1匹を検出し,通常疥癬と診断 オイラックス外用薬とストロメクトール内服治療開始 主治医,看護師長と感染管理室へ連絡 接触した医療従事者の感染対策開始 入院2.5ヶ月目 患者転院 病棟の最終発症者治癒 担当理学療法士の両上肢と腹部に発疹と掻痒感出現 入院3ヶ月目 近医皮膚科受診し,外用薬処方で経過観察 入院4ヶ月目 理学療法士の皮膚症状増強し,当院皮膚科受診 疥癬虫未検出 入院5ヶ月目 疥癬虫検出診断 治療開始 入院6ヶ月目 治癒 治療終了【結果】1.感染管理室の指導・対応 ①患者基本情報の収集:入院前後の皮膚の状況,生活状況 ②接触者調査:関係部署に情報提供し,患者の同室者,接触した職員に自己申告依頼 接触者は,同室の患者5名と担当理学療法士1名を含めた医療従事者56名で,同室者の発症はなかった。患者の診断日から17日間に手部~腋窩に発疹や掻痒などの皮膚症状があった発症者は看護師9名。③初期対応の指導:患者個室隔離,標準予防策の徹底,手袋と1患者1手洗い,肘以遠の手洗いとエプロンかガウン着用を強化,同室者患者と接触職員の症状の観察強化,症状発生時の速やかな感染管理室報告と皮膚科受診 ④職業感染;受診費用病院負担 労働災害申請 ⑤有症状者の発生対応;発症者の把握 就業制限の対象者と期間決定 予防投与検討 勤務は,確定診断までと内服翌日から勤務許可とし,確定診断後の投与後24時間までは休職。予防投与は担当理学療法士1名を含めた47名。2.担当理学療法士とリハビリテーション部の対応 ①発症原因の確定;疥癬を伝播するリスクと症状発生時期の一致 ②接触者の調査;理学療法士と接触した入院と退院患者を対象に,時系列に接触頻度や期間,皮膚症状について調査選定 ③接触者へ説明:入院患者は直接,本人や家族に説明,退院患者は説明書を郵送 担当した患者は117名で,発症の疑いのある患者は観察やカルテ所見調査から43名に絞られた。その内,問い合わせと受診対応があったのは,入院患者2/13名中,退院後患者1/30名中であり,最終的に疥癬は否定。④症状発生者の受診や投薬の費用に関する調整:連絡対応は感染管理室,受診対応は皮膚科 受診費用病院負担 ⑤リハビリ部の対応:疥癬の知識習得と場所を病棟に替え,標準予防策 手袋と長袖の勤務服着用,治療の過程での直接接触を避けた治療方法の立案,順番は最後。移乗介助などに必要な濃厚接触をする場合は標準予防策とガウン着用。職場の混乱を避け,過剰な感染対策の防止 心理的支援など。他の患者のリハビリ治療は,直接皮膚接触禁止,濃厚接触を必要とする患者,易感染者や小児の担当を中止。理学療法士自身も常に身体の位置や症状を意識しながら行ない,疑わしい場合は速やかに感染管理室へ報告する体制にした。【考察】感染管理マニュアルでは,入院時から感染疾患の疑わしい患者は,感染症と診断がつく前から拡大する可能性があるので,入院時から感染予防対策が必要である。その対策は臨床症状で,疑いの時点から「伝播を防止する」ことを目的として,1例の発生で感染管理室への報告を義務付けている。しかし,その疑いの目は正しい知識の下で成り立つものであり,疥癬の特徴,感染伝播のリスクについての職員教育は重要である。今回,入院時から皮膚症状が確認されていたにも関わらず,感染管理室へ報告及び皮膚科の受診に1ヶ月も時間がかかり集団発生へ発展した。また,一般的に直接接触以外は,標準予防策で対応可能とあるが,担当理学療法士は標準予防策を講じ,さらに予防投与後も発症したことから,予防着も必要である。原因として手袋と勤務服との境目の皮膚露出,介助時の密着や衣服へのダニの付着などが推察された。しかし,最善は治療開始時から皮膚の状態の観察,報告,対策をして自分自身も注意を払うことが確実である。【理学療法学研究としての意義】理学療法分野における感染症関連の報告は乏しく,この報告が感染対策の一助に成り得る。
著者
遠藤 佳章 木村 和樹 三浦 寛貴 久保 晃
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0264, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】腰部多裂筋は5つの筋束から構成され,それぞれの筋束が別々の神経支配を受けることから,腰椎の微細なコントロールを可能にし,姿勢保持に関わるという報告がある。しかしながら,腰部多裂筋を研究した報告は第4~5腰椎棘突起周囲の多裂筋の筋活動を見たものが多く,その他の腰椎レベルの腰部多裂筋の筋活動を比較・検討したものは少ない。また,体幹深層筋である腰部多裂筋は脊柱起立筋と共に胸腰筋膜で1つのコンパートメントを形成している。これは腰部多裂筋と脊柱起立筋が共同して働いていることを示唆している。このことから,腰部多裂筋と脊柱起立筋の関係性をはかる必要があるといえる。よって,本研究では異なる姿勢における,第2・第5腰椎レベルの腰部多裂筋(以下,LM(L2),LM(L5)),脊柱起立筋(以下,ES)の筋厚について超音波画像診断装置を用いて検証することを目的とした。【方法】対象は,若年健常男性25名とした。年齢:22.1±1.6歳,身長:170.4±5.8cm,体重:60.4±8.8kg,BMI:20.8±2.6kg/m2(平均±標準偏差)であった。各筋厚の測定は超音波診断装置(sonosite180plus:sonosite社製)を用いた。測定部位は,右側のLM(L2),LM(L5),ESとした。測定肢位は,腹臥位・座位・立位で腰椎前後弯中間位にて測定した。測定は安静呼気時を2回測定した。得られた画像を画像解析ソフトImage Jを用いて各筋厚を算出した。2回測定した各筋厚の平均を代表値とした。各筋厚の1回目と2回目で算出された値で級内相関係数(以下,ICC)を求め,再現性について検討した。各筋厚の各肢位での変化をみるために,反復測定一元配置分散分析を行い,その後Bonfferoniの多重比較検定を行った。統計解析にはSPSS statistic 19.0を使用し,有意水準は5%とした。【結果】ICCは,すべての項目において,0.95以上の数値を示した。LM(L2)の筋厚は腹臥位で27.3±4.6mm,座位で30.4±4.0mm,立位で33.3±4.6mmとなった。同様の順でLM(L5)では30.8±4.0mm,30.1±4.5mm,34.2±4.3mm,ESでは35.8±6.1mm,40.4±6.9mm,42.1±6.6mmとなった。LM(L2),LM(L5),ESの各筋厚は,各姿勢間で主効果が認められた。LM(L2)は腹臥位,座位,立位の順で有意に筋厚が増大した。LM(L5)は,腹臥位より立位で,座位より立位で有意に筋厚が増大した。腹臥位と座位の間では有意差が認められなかった。ESは,腹臥位より座位で,腹臥位より立位で有意に筋厚が増大した。座位と立位の間では有意差が認められなかった。【結論】LM(L2)とLM(L5)とESは姿勢保持の際に作用が異なることが示唆された。LM(L2)は腹臥位,座位,立位の順で筋厚が増大することが示唆された。LM(L5)は腹臥位と座位に比べ,立位で筋厚が増大するが,腹臥位と座位の間では筋厚の変化がないことが示唆された。ESは腹臥位と比べ,座位と立位で筋厚を増大するが,座位と立位では変化がないことが示唆された。
著者
久保下 亮 赤坂 美奈
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101358, 2013

【はじめに】障害者スポーツにおいて,スポーツ医学的技術論に関する情報より選手の健康管理の側面からの議論が多くなされている。近年,障害者スポーツではパラリンピックを代表として競技スポーツとしての位置付けが大きくなってきている。すなわち競技力を高める指導や練習方法が必要となっている。今回は,数多くある障害者スポーツの中からスプリント系の車椅子走行速度に着目した。以前より,車椅子走行速度に大きく関わる筋として上腕三頭筋や三角筋が挙げられている。また,バスケ用車椅子でのスタートダッシュ時,リアキャスターが床に接触することでタイムロスを起こしているとの発表もある。この大きな原因の一つに,スタート時の体幹コントロールの不良が挙げられている。そこで体幹のコントロールだけでなく,体幹筋力も車椅子走行速度に影響を与えているのではないかと思い検討した。【方法】対象は,研究内容を説明し同意を得た健常男子大学生15名,平均年齢21.4±0.3歳,平均身長174.6±5.3cm,平均体重69.0±8.4kgである。まず,対象者にバスケ用車椅子(松永製作所 B-MAX TK)に慣れてもらうため室内にて30分程度の自由乗車時間を設定した。その後,休息を挟み10m,20mの直線直進の全力走行とスタート地点から10m離れたところに目印としてコーンを置き,この目印をターンしてスタート地点まで戻ってくる10mターン走行をしてもらった。次に,1週間の間を取り体幹の屈曲・伸展筋ピークトルクの測定とその他身体測定(身長,体重,上肢長,握力)を行った。体幹の屈曲・伸展筋ピークトルクの測定にはBIODEX SYSTEM3を用いて行った。角速度は30°/secで反復回数を5回とした。 統計学的分析は10m走,20m走,10mターン走,体幹の屈曲・伸展筋力ピークトルクのそれぞれの関連性についてSpearman順位相関係数を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】 被験者にはヘルシンキ宣言に則り,研究の目的や手順を口頭と紙面にて説明し署名による同意を得た。なお,本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】身体測定の平均は,伸長174.6±5.3cm,体重69.0±8.4kg,右上肢長58.1±2.4cm,左上肢長58.0±2.1cm,右握力47.5±7.1kg,左握力44.7±6.3kgであった。走行速度の平均は,10m走が4.7±0.4秒,20m走が7.8±0.8秒,10mターン走10.8±1.0秒であった。体幹の屈曲・伸展筋力ピークトルクは体幹屈曲309.0±71.1Nm/kg,体幹伸展419.5±103.0Nm/kgであった。体幹筋力と車椅子走行速度との相関関係は,体幹屈曲力に対しての10m走(ρ=0.65),20m走(ρ=0.45),10mターン走(ρ=0.33)は共に正の相関を認めた。体幹伸展力に対しての10m走(ρ=0.62),20m走(ρ=0.58),10mターン走(ρ=0.43)は共に正の相関を認めた。【考察】車椅子走行時のスタートダッシュには体幹筋力が必要不可欠と考えていた。理由として,車椅子駆動開始時には体幹を大きく屈曲させ,この時に生み出される前方への回転モーメントを車椅子の推進力の一つに利用している。よって,より大きな推進力を得るためには体幹の強い屈曲力が必要であると思われる。今回の研究結果からは,走行速度と体幹筋力との相関関係が認められた。このことは,車椅子走行時のスタートダッシュには体幹筋力が少なからず必要であることを意味している。先行研究では,走行速度を上げるためには実質駆動時間を長くすることと,駆動角速度を速くする必要があると示している。また,車椅子バスケや車椅子テニス,車椅子の短距離走のように初動の影響を大きく受けてしまうようなスプリント系の障害者スポーツでは,スタートダッシュ時に体幹筋力だけでなく体幹のコントロール性も要求される。更に10mターンにおいては,ターン時に急激なブレーキと旋回能力,そして瞬発的な加速力といった複合的なチェアワークが必要である。よって,今後,障害者スポーツでのパフォーマンス向上のためには,筋力や体幹のコントロール性,チェアワークといった複合的な要素についても調べて行く必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後,車椅子を使用した障害者スポーツにおいて車椅子の操作性を高めるためのトレーニングに一考として活用できるものと考える。
著者
蒲原 元 中井 一人 伊藤 藍 三浦 由美 大原 弘樹 安藤 祐一 丹羽 貴之 新村 友夏 江﨑 雅彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】我々は平成17年より通院患者を対象に腰痛教室を定期的に開催し,平成24年度からは地域の方々を対象に豊橋市生涯学習講座の一環として当法人近隣の地区市民館で教室を開催してきた。第29回東海北陸理学療法学術大会において,我々の教室が参加者に分かり易い内容で腰痛予防の情報を提供できているか,アンケート調査の結果報告を行った。その際の結果は,教室内容に対して分かり易いが97.4%であった。そこで26年度は教室内容に対して参加者がどれくらい理解出来ているかを把握する為,教室直後に復習テストを行い調査する事とした。【方法】教室の基本方針は"生活の中で楽に腰椎の生理的前弯位を保持する"とし,内容は基礎知識,日常生活指導,運動指導の3パートで構成している。復習テストは教室で講義した内容を問う全5問とし,腰の負担が少ない姿勢について文章から正しいものを選択する問題,写真から選択する問題を各1題,日常生活での注意点についての記述問題,日常生活上で骨盤中間位を保つ為の工夫についての記述問題,どのような症状の際は病院を受診すべきかを選択する問題をそれぞれ1題とした。【結果と考察】5つの地区市民館で教室を開催し,合計参加者数301名,回収率94.0%,全体正解率89.1%。各設問の正解率は,腰の負担が少ない姿勢の文章問題94.7%,写真問題97.9%,日常生活の注意点について85.5%,日常生活の工夫について84.1%,受診すべき症状について83.4%であった。全体正解率は89.1%であり,参加者が教室内容を概ね理解していると考えられた。参加者に対し分かり易く,内容を理解してもらえる教室が行えていると思われる為,今後は教室を行う事で得られる効果を客観的に評価していきたい。そして,復習テストの点数と客観的評価の結果から,正解率の適正水準や,どの項目が効果と関係するか等を検証していき,より効果的な教室作りにつなげていければと考えている。
著者
紙谷 司 上村 一貴 山田 実 青山 朋樹 岡田 剛
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI2415, 2011

【目的】<BR> 高齢者の活動範囲を拡大し、活動量を増やすことは運動機能、認知機能の維持・向上に寄与する。このため、自宅退院後の疾患患者や地域在住高齢者の活動範囲を可能な限り確保することは重要な課題と言える。活動範囲の拡大には、屋内に比べ圧倒的に外的要因の増える屋外環境を転倒や事故を起こさないよう安全に移動する自立歩行能力が必要不可欠となる。そのような活動内容の一つとして道路横断行為が挙げられる。この活動を安全に行うためには道路を転倒することなく安定して歩行できる能力を備えているだけでは十分とは言えない。自己で車の往来を視覚的に確認し、安全に横断可能なタイミングを瞬時に判断する能力が必要となる。本研究では、地域在住の高齢者を対象に歩行シミュレーターによる道路横断疑似体験を実施し、高齢者の道路横断行為について分析を行った。本研究の目的は道路横断中の安全確認行為という要素に着目し、非事故回避者の特徴を明らかにすることで、屋外自立歩行者に要求される能力的要素を検証することである。<BR>【方法】<BR> 対象は京都府警察が実施した交通安全教室にて歩行シミュレーターを体験した地域在住高齢者525名(平均年齢74.3±6.0歳)とした。使用したのはAPI株式会社製のシミュレーターで、三面鏡様に組み立てたスクリーン上に片側一車線の道路及び通行車両が映し出される。体験者はスクリーン前のトレッドミル上を歩行することで歩道から奥車線を通過するまでの道路横断を疑似体験することができる。体験者の頭頂部には6自由度電磁センサーLiverty (Polhemus社製)を装着し、水平面上の頭部の運動学的データから左右の安全確認回数、時間を測定した。なお、安全確認とは30°以上の頭部回旋を1回の確認と定義し、この動作を行った延べ時間を安全確認時間とした。解析対象は奥車線到達までの歩道及び手前車線での右・左各方向への安全確認行為をとした。対象者は事故回避の可否と事故遭遇地点から事故回避群、手前(車線)事故群(右側から向かってくる車と接触)、奥(車線)事故群(左側から向かってくる車と接触)に分類した。統計処理にはMann-WhitneyのU検定を用い、事故回避群と手前事故群、奥事故群の各安全確認回数、時間の比較を行った(有意水準5%)。<BR>【説明と同意】<BR> 参加者には紙面および口頭にて研究の目的および方法などに関して十分な説明を行い同意を得た。<BR>【結果】<BR> はじめに確認行為が0回にも関わらず事故を回避している偶発的な事故回避の疑いがある者を除外した496名のデータを統計解析に採用した。496名のうち事故回避群は461名(平均年齢74.5±6.0歳)、手前事故群は20名(平均年齢73.6±6.7歳)、奥事故群は15名(平均年齢71.6±4.7歳)であった。各群の年齢に有意差は認めなかった。事故回避群の歩道での右確認回数、時間はそれぞれ9.1±5.4回、44.2±21.4secであり、手前事故群の6.3±6.8回、29.1±18.5secに対し有意に高値を示した(p<0.01)。また、事故回避群の左確認回数は歩道7.9±5.6回、手前道路2.4±2.3回、確認時間は27.9±20.0secであり、奥事故群の確認回数(歩道8.9±6.3回、手前道路2.7±2.2回)、確認時間29.6±21.6secと有意差を認めなかった(確認回数 歩道p=0.53、手前道路p=0.46、時間p=0.95)。<BR>【考察】<BR> 手前車線での事故に関しては、手前事故群は事故回避群に比べ歩道での右確認行為が回数、時間ともに有意に少なかった。したがって右方向を十分に見たという行為が事故回避に繋がったと考えられる。しかし、奥車線での事故に関しては手前車線まででの左確認回数、時間ともに事故回避結果に影響を及ぼさなかった。つまり左方向を十分に見ていたにも関わらず事故を回避できなかったことになる。これは奥車線の安全確認は手前車線を歩行しながら行わなければならないという運動条件の付加による影響が考えられる。つまり、奥事故群においては、歩行という運動課題に注意配分が奪われることで、視覚での確認行為、または情報処理の過程に影響が及び、誤った状況判断に繋がった可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回は道路横断という屋外活動での一場面について検証したに過ぎないが、運動課題中の視覚認知、状況判断能力が屋外を安全に移動するために重要な要素である可能性が示唆された。したがって、通常の歩行訓練にこのような要素を付加することがより実践的であると考えられる。高齢者の活動範囲の拡大に向けて、理学療法学領域において運動時の視覚について更なる検討を行う意義は大きい。
著者
田邉 紗織 渕 雅子 山本 澄子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0271, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】脳卒中片麻痺患者の歩行において、麻痺側立脚期の短縮は揃型歩容を呈する原因の一つとなる。今回、脳卒中片麻痺患者1症例について、約1ヶ月間の経過の中で揃型から前型に至るまでの歩容を経時的に計測し、力学的側面から考察を加えたので報告する。【方法】対象は脳梗塞(右被殻)により左片麻痺を呈した69歳女性。発症後116日目以降2週毎に計3回、独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13 カメラ14台)、床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測し、1歩行周期の重心、前後方向床反力(以下Fy)、下肢の各関節角度とモーメント(以下M)、パワー、及び歩行速度、cadence、step lengthを算出した。同時に初期時と4週目にFugel-Meyer-Assesment(以下FMA)を用いて身体機能を評価した。【結果】FMAは初期時162点、4週目は164点であった。歩容は2週目まで揃型を呈していたが、4週目以降前型へと変化し、歩行能力も杖歩行軽介助から杖歩行見守りへと漸次改善した。歩行速度とcadenceは初回0.46m/秒、111.43歩/分、4週目0.45m/秒、96.4歩/分であり、麻痺側下肢のstep lengthも経時的に増加を認めた。歩行時の身体重心は初期時に上下へ大きくばらついた動揺を認め、非麻痺側へ変位していたが、振幅は経時的に収束し、非麻痺側への過剰偏倚も消失した。麻痺側立脚期のFyは終始後方成分を呈していたが、4週目にはその最大値が減少しており、同時期の非麻痺側下肢において前方成分の減少も認められた。麻痺側足関節は初期接地(以下IC)で底屈位を呈し、荷重応答期(以下LR)にかけて底屈Mで遠心性の筋活動が認められたが,4週目にはICの底屈角度が減少していた。麻痺側膝関節ではICで屈曲位を呈し,屈曲Mで求心性の筋活動が認められたが,経時的に屈曲Mは減少していった。麻痺側股関節では、ICで屈曲位を呈し、LRにかけて屈曲Mで遠心性の筋活動が認められたが、4週目には屈曲Mが減少していた。麻痺側骨盤帯はLRにかけて後方回旋と前遊脚期から遊脚初期の挙上が減少した。【考察】本症例の初期時の歩行は、麻痺側ICの過剰な足関節底屈と股関節屈曲による前足部接地により、LRの股関節、膝関節屈曲Mの増大が生じ、代償的な骨盤帯の後方回旋によって身体重心の前方推進が阻害され、結果的に揃型歩容を呈していたものと考えられた。そのため、遊脚期において代償的な骨盤挙上による下肢の振り出しが要求され、非麻痺側下肢の過剰なFy前方成分と身体重心の上下動揺を生じていたと思われた。4週目においては、麻痺側ICにおける足関節底屈及び股関節屈曲角度の減少が認められたことにより、LRにおける股関節、膝関節、及び骨盤帯の過剰な後方回旋に改善が得られ、円滑な前方への推進が可能となったと考えられた。
著者
鈴木 里砂 宮下 正好 内田 成男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】理学療法教育において,臨床実習成績評定は施設間格差や妥当性について問題となることがある。また,実習中は学内と環境が変化し,学内の様子だけでは予想がつかなかった困難にあたることもある。我々は,学生の実習不安についての研究を実施してきたが,実習中の学生が持つ不安の原因に個々の学生のパーソナリティや自己教育能力に関連がある可能性を指摘してきた。今回,実習成績と,指導者による印象評定,学内成績,学生の自己教育能力との関連について検討し,臨床実習成績と学内成績との関連性を明らかにし,臨床実習での成績不良の危険因子を探ることで,学内において早期に学生の学外教育時の問題を明確化し対策を行うため,調査を実施したので報告する。【方法】対象は3年制理学療法学科2学年の学生54名であり,臨床評価実習(4週間実施)終了後,初登校時にアンケート調査を実施した。アンケート調査は,自己教育能力尺度として自己教育力調査票(Questionnaire Concerning Self-educational Ability)を利用し,成長・発達への志向,自己の対象化と統制,学習の技能と基盤,自信プライド安定性の4つのカテゴリー得点を算出した。学内成績に関しては,2学年の総合成績としてGPA(Grade Point Average)4.00を満点とした場合の割合で80%以上のものをA,70%以上のものをB,60%以上のものをC,それ以下をFとして分類し数量化した。また,当該校では臨床実習成績として情意面10項目,基本技能5項目,検査測定技能9項目,思考過程4項目,認知領域4項目,記録4項目の36項目についてそれぞれ4段階(A,B,C,F)で評定されたものを4,3,2,0点で数値化した合計点とし,最終的に80%の得点率のものをA,70%以上のものをB,60%以上のものをC,それ以下をFと規定しており,これを臨床実習評定として利用した。また,臨床実習指導者の主観により学生の全般的な印象を適正や将来性も含めをA,B,C,Fの4段階で評定しており,これを印象評定として数値化し利用した。分析は,統計ソフトMulcelを使用し,外的基準は対象者の臨床実習4週終了後の実習成績,印象評定とした。群判別するために多変量解析の数量化II類を用いて臨床実習成績に影響を与える因子の重さを求めた。【結果】数量化II類にて 外的基準を臨床実習成績とした結果は,相関比は0.9621(第1軸),レンジが広い順に,学内成績(偏相関係数,レンジ:0.9752,6.851),自信プライド・安定性(偏相関係数,レンジ:0.9181,4.027),成長・発達への志向(0.9451,3.325),自己の対象化と統制(0.9419,2.90),学習の技能と基盤(0.9124,1.831)の順であった。また,外的基準を印象評定とした場合は,相関比は0.7702(第1軸),レンジが広いアイテム順に,自信プライド・安定性(偏相関係数,レンジ:0.8237,5.009),成長・発達への志向(0.7434,4.770),自己の対象化と統制(0.7932,2.4859),学習の技能と基盤(0.7238,1.822),学内成績(偏相関係数,レンジ:0.4659,1.652)の順であった。【考察】当該校では,指導の種類・頻度によって基準を明確化し32項目での評定を行うように依頼している。この成績評定方法は学内成績との関連が高いことが明らかとなった。学内成績と臨床実習成績の乖離を防止するためには,臨床実習指導者会議にて細項目の成績判定基準を明確化し,各施設での評定の均一化を実施していくことが有効であると示唆された。また,指導者の印象評定との関連は,学内成績よりも,自信プライド・安定性,成長・発達への志向の方が強いと考えられた。自信プライド・安定性は,理学療法士として職務に取り組むための適正を示す指標と考えられる。また,単独で臨床実習施設で取り組むことが多い臨床実習の形態では,やる気を示すことが重要で指導者はこれらを主に評定基準として重要視している可能性が認められた。学内教育においては,成績評価を筆記試験のみでなく,実習授業での行動観察を加味し,学生の志向を適正に反映することで,早期に臨床上での学生の問題点を明るみにすることが可能であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】臨床実習の成績評定は,基準を明確化することで学内教育との解離を防ぐことができることが示唆された。また,臨床での適正を教育するには学外教育に移行するまでに早期に学生の成長志向を育むことが重要であることが示唆された。
著者
大杉 紘徳 横山 茂樹 甲斐 義浩 窓場 勝之 村田 伸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】現在,わが国のみならず世界中で実習施設の確保が教育運営上の課題となっており,新たな臨床実習形態の検討がなされている。その一つとして,一施設に対して二人の学生を配置する実習形態(複数型)がある。従来では,一施設に対して一名の臨床実習学生を配置し,一名の臨床実習指導者の指導を受ける(単独型)が,複数型では,一施設に対して二名の臨床実習学生を配置し,一施設内で二名がそれぞれに臨床実習指導者の指導を受ける。我々は先行研究において,単独型と複数型で,実習前後の気分・感情尺度の変化を比較した。その結果,単独型と比べて,複数型では実習中の精神的ストレスが高いことが明らかとなったが,その要因の検討までには至らなかった。そこで本研究では,単独型と複数型の臨床実習形態の違いが,臨床実習前後の学生の気分・感情状態に影響を与えた要因について,実習後に行った学生へのアンケート結果から検討した。【方法】対象は,検査・測定実習(3月上旬実施,実習期間10日間)を実施した理学療法学科2年次生45名(平均年齢19.3±0.5歳,男性23名,女性22名)とした。実習施設配置は,臨床実習施設として登録されている施設に対して複数型臨床実習の実施を依頼し,承諾の得られた11施設(22名)を複数型実施施設とし,その他23施設(23名)を単独型実施施設とした。測定項目は,気分・感情状態の評価指標であるProfile of Mood States短縮版(POMS-SF)と,筆者らが作成した臨床実習についてのアンケートとした。POMS-SFの回答から緊張,抑うつ,怒り,活気,疲労,混乱の下位尺度得点を算出し,さらに下位尺度得点を用いて全体的気分を算出した。POMS-SFの測定は,臨床実習開始1週間前(pre)と,終了翌週の初登校日(post)に,「過去1週間の気分」について回答させた。臨床実習についてのアンケートは,先行研究を参考に作成し,15の質問項目に対して,5件法にて回答させた。アンケート得点は負の感情ほど低得点となるように設定した。アンケートはPOMS-SFのpost測定と同日に行った。統計学的解析は全て有意水準を5%とした。POMS-SFの下位尺度得点ごとに,preとpostおよび単独型と複数型について,二元配置分散分析とLSD法による事後検定で比較した。また,アンケートの各質問項目およびアンケート合計点について,単独型と複数型でMann-WhitneyのU検定を行った。【結果】二元配置分散分析の結果,緊張(F(1,42)=31.0,<i>p</i><0.01),疲労(F(1,42)=4.4,<i>p</i><0.05),混乱(F(1,42)=6.9,<i>p</i><0.05),全体的気分(F(1,42)=6.2,<i>p</i><0.05)に交互作用を認め,事後検定の結果,全てにおいて,複数型のpostの値が単独型のpostの値よりも有意に高値を示した(全て<i>p</i><0.05)。アンケート結果の比較では,「施設スタッフとの関係」およびアンケートの合計点で,複数群が単独群よりも有意に低値を示した(ともに<i>p</i><0.05)。【考察】一施設に一名を配置する単独型と,一施設に二名を配置する複数型で,実習前と実習中の気分・感情状態の変化を比較するとともに,実習に関するアンケートの差異について検討した。結果,複数型の方が単独型よりも実習によって緊張,疲労,混乱の気分・感情が高まるとともに,施設スタッフとの関係が良くなかったと回答する学生が多かった。我々は,臨床実習を複数型で行う利点として同級生とともに実習を行うことによる安心感や精神的ストレスの軽減を見込んでいたが,本研究の結果はこの仮説を支持しなかった。単独型の実習では,同級生がいないため,情報収集や相談の相手が必然的に実習施設のスタッフとなる。一方,複数型の実習では,同級生とともに過ごす時間が長くなることにより,実習施設のスタッフとのコミュニケーションの時間が減ったと推察される。そのため,単独型と複数型では実習施設のスタッフとのコミュニケーションに差があったことにより,信頼関係の構築に差が示されたと考えられる。臨床実習におけるストレスの原因として対人関係の問題が最も影響を与えると報告されていることから,施設スタッフと良好な関係を築けなかった複数型の実習では,実習中の学生の緊張や疲労といった負の感情が高まったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】臨床実習は理学療法士養成課程における重要なカリキュラムである。臨床実習中に受ける学生のストレスは非常に強く,その対応についてはこれまでに数多く検討されてきた。本研究結果は,今後の理学療法養成課程における臨床実習形態について検証した有意義なものと考える。
著者
藤田 誠記 大浪 徳明 宮本 弘太郎 鬼塚 由大 池田 さやか
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに】質の高い保健医療福祉サービスを確保し,将来に渡って安定した介護保険制度を確立することを目的として,2014年4月の診療報酬改訂と同時に地域包括ケアシステムが施行された。地域包括病棟または病床では,入院期間を60日とし,リハビリテーション(以下,リハ)を,1人一日平均2単位以上提供すること,在宅復帰率70%以上が必須とされている。当院でも,平成28年10月地域包括病床を開設した。運営の中で,問題点も浮き彫りになってきた。開設準備から現在を振り返り課題も見えてきたのでここに報告する。</p><p></p><p>【当院の現状】当院では,循環器医師を兼任のリハ科Drとし,理学療法士3名・作業療法士2名・言語聴覚士1名で地域包括病床を含め199床の入院患者のリハを実施している。平成28年7月から地域包括病床の施行期間に入り,同年10月男女4人部屋を一部屋ずつの計8床で開設した。リハ科では,専従理学療法士を1名配置した。</p><p></p><p>【施行期間から現在を振り返って】看護部 医事科 リハ科スタッフの代表者が集まり,運営会議を開催した。対象患者の選定,院内の医局や他部門への周知,地域包括病床へ転棟してくる場合や転棟するタイミング,対象となる患者への説明の仕方,準備書類など9月から週1回のペースで話し合ってきた。医局からの出席はなく地域包括病床対象患者の選定が上手く進まなかった。</p><p></p><p>【リハ科の算定実績とその周辺】地域包括病床への入院患者については,7月6名,総単位数161単位・入院日数61日,院内全体の看護必要度28.9%。8月7名,総単位数260単位・入院日数90日,院内全体の看護必要度24.1%。9月8名,総単位数279単位・入院日数138日。地域包括病床からの転帰については,7月から9月末日までで,自宅退院者36例,自宅扱い病院・施設3例と,在宅復帰率100%であった。</p><p></p><p>【今後の課題】施設基準を満たし,10月から開設となったが,地域包括病床の対象となる患者を運営会議で選定する際,看護必要度を維持するための患者選定になっている。そのため,リハの必要性は問わず,看護必要度の低い患者が優先されている状況である。また,地域包括病床の患者は,状態が急変したり,リハ拒否が続いたりしても地域包括病床から退室しない限りは,1人一日平均2単位の影響を受け,地域包括病床のリハ対象者の単位数を常に気にかけていなければならないし,他の病棟の患者へのリハ提供の不均衡が生じている。他部門への上記の理解が急務だと考える。</p>
著者
齊田 高介 大塚 直輝 小山 優美子 西村 里穂 長谷川 聡 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101218, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 膝前十字靭帯(以下ACL)損傷は着地やカッティング動作時のknee-in(膝外反)で発生することが多く,この受傷起点には股関節外転筋力の低下が関係していると言われている。またACL損傷は試合の終盤に発生することが多く,疲労がACL損傷の一要因であると考えられている。これらのことから疲労による外転筋の筋力低下がACL損傷に繋がる可能性があると考え,我々は股関節外転の主動作筋である中殿筋に注目した。しかし,これまでの所,中殿筋単独の疲労が動作に及ぼす影響を調査した研究はなく,中殿筋の疲労とACL損傷リスクとの関連は不明である。そこで本研究では,骨格筋電気刺激(以下EMS)装置を用いて中殿筋を選択的に疲労させ,その前後での片脚着地動作の変化を調査した。本研究の目的は,中殿筋の選択的な疲労が片脚着地動作に及ぼす影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性8名(年齢20.9±1.9歳)とし,利き脚(ボールを蹴る脚と定義)側を測定肢とした。まず疲労課題としてEMS装置(ホーマーイオン社製,AUTO TENS PRO)を用い,最初の10分間は痛みを感じない強度で,その後の20分間は耐えられうる最大強度で中殿筋に対して電気刺激を実施した。中殿筋の選択的な筋力低下を確認するために,最大等尺性随意収縮(以下MVC)時の股関節外転・屈曲・伸展筋力をEMS前後で測定した。筋力測定には徒手筋力計(酒井医療製,mobie)を用いた。動作課題として30cm台からの利き脚片脚による着地動作を行った。疲労課題の前後で動作課題を3試行ずつ計測し,三次元動作解析装置(VICON社製)と床反力計(KISTLER社製),表面筋電図(Noraxon社製,TeleMyo2400)を用い,運動学的・運動力学的データと筋電図学的データを収集した。筋電図は外側・内側広筋,大腿直筋,外側・内側ハムストリングス,大腿筋膜張筋,大殿筋,中殿筋に貼付した。解析では,着地動作中の利き脚の矢状面,前額面における股・膝・足関節角度および外的関節モーメント,動作中の床反力の鉛直成分を算出した。筋電図は50msec毎の二乗平均平方根を算出し,MVC時の値で正規化した。筋電図の解析区間は着地の前後50msec,50~100msecの4区間とし各区間の平均値を求めた。各関節角度,外的関節モーメントの解析には着地時点,床反力最大時点,最大膝関節屈曲時点での値を用いた。床反力鉛直成分と股関節外転筋力の解析には最大値を用いた。各パラメータは3回の試行における平均値を算出した。統計学的処理では,疲労前後での運動学的・運動力学的データ,筋力データを対応のあるt検定,筋電図データをWilcoxonの順位和検定で比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,実験の目的および内容を口頭,書面にて説明し,研究参加への同意を得た。【結果】 EMS後に股関節外転筋力は有意に減少(p<0.05)したが,股関節屈曲・伸展筋力に有意な変化は認められなかった。着地時点では股関節屈曲角度(p<0.05)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。床反力最大時に股関節屈曲モーメント(p<0.05),股関節内転角度(p<0.05)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。最大膝関節屈曲時点では股関節屈曲角度(p<0.01)および膝関節屈曲角度(p<0.01)が有意に増加した。床反力鉛直方向の最大値は有意に増加(p<0.05)した。他の関節モーメントおよび関節角度,筋電図データに有意な変化は認められなかった。 また,有意な差は認められなかったが着地時点の股関節内転角度(効果量r=0.65),床反力最大時点の股関節屈曲角度(効果量r=0.61)および膝関節外反角度(効果量r=0.64)で効果量大が示された。【考察】 疲労課題前後における筋電図データに有意な差はみられなかったが,筋力が有意に低下していることから,股関節外転筋をEMSにより選択的に疲労させられたと考える。疲労課題後の床反力最大時点での股関節内転角度の増加は,中殿筋の筋疲労のため床反力最大時に反対側の骨盤が下降したと考えられる。また有意な差はなかったものの,床反力最大時点の膝関節外反角度の増加は効果量大であり,中殿筋の筋疲労によって股関節が内転し,膝関節が外反方向に誘導されたと考える。 本研究の結果より中殿筋の筋疲労は片脚着地動作時のknee-inを誘導し,ACL損傷のリスクを高める可能性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より,中殿筋の選択的な疲労によって着地時のACL損傷リスクが高まる可能性があることが示唆された。これはACL損傷の発生機序を解明する一助となると考えられる。
著者
糸数 健 柴 喜崇 大渕 修一 上出 直人 酒井 美園
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.7, 2003

【はじめに】 固有受容器強調トレーニング(Enhanced Proprioception Training: EPT)は動作時のバランス機能向上を目的としているにもかかわらず静的バランスについてのみが報告されてきた。そこで我々は歩行時のバランス機能を測定する装置を用いて、EPTが動的バランス機能に及ぼす効果を明らかにすることを目的とした。【対象】 下肢に整形外科的疾患の既往がなく、日常的に運動習慣のない健常大学生20名(平均年齢19.1±0.55歳,男性10名,女性10名)として事前に実験協力に同意を得た。【トレーニング内容】 5段階の異なる難易度の不安定板を用意した。被験者が遂行可能なレベルに応じて不安定板を選択し難易度レベルを上げた。板上で1分間5セット、片脚立位制動を左側のみをトレーニングさせた。【方法】 対象者を無作為にEPT群と対照群に分け、EPT群(n=10)にのみEPTによる介入を週3回の頻度で1ヶ月間の計12回実施した。対照群には研究期間中運動習慣を変えないように指示した。EPT群、対照群ともに介入前,介入後,介入終了3ヵ月後の計3回評価を行った。評価項目は足関節背屈最大等尺性筋力、歩行時の外乱刺激から前脛骨筋(Tibial Anterior; TA)が反応するまでの時間をTA反応潜時とした。外乱刺激は、左右の歩行ベルトが分離したトレッドミルを用いて2km/hで歩行中に片側ベルトのみを急激に停止させ、500msec後に2km/hに戻すことで発生させた。左ベルト停止時の左TA反応潜時と右ベルト停止時の右TA反応潜時をそれぞれ測定した。統計処理は、EPT群、対照群の介入前における潜時、足関節背屈筋力の検定には対応のないt検定を用い、EPT群、対照群それぞれに対して被験者と評価時期の2要因による分散分析を用いた。【結果】 EPT群は非トレーニング側TA反応潜時、足関節背屈筋力における介入前、介入後、3ヶ月後の間に有意な差はみられなかったが(n.s.)、その一方でトレーニング側TA反応潜時においては介入前と比して介入後に反応時間短縮され(P<.01)、3ヶ月後でもその効果が有意に持続していた。対照群においては左右ともにTA反応潜時、足関節背屈筋力における介入前、介入後、3ヶ月後の間に有意な差はなかった(n.s.)。尚、EPT群、対照群の介入前のTA反応潜時、足関節背屈筋力には差がなかった(n.s.)。【考察】 トレーニング側の足関節背屈筋力に有意な差はなかったが、トレーニング側のTA反応潜時には即時効果が認められた。さらに即時効果だけでなく3ヵ月後も効果が持続することが明らかになった。 我々は外乱刺激側にみられるTA反応潜時は、動的バランス機能である立ち直り反応と相応することを報告している。EPTは立位、歩行における立ち直り反応に関与する神経回路に特異的に作用し、即時的かつ長期的な効果を及ぼすトレーニングであることが明らかになった。
著者
及川 龍彦 長野 由紀江 松村 一 佐藤 益文 内記 明信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P3221, 2010

【目的】<BR> 本学は創立後30年を経過する3年制養成校であるが、これまで、初年度における臨床教育は医療機関を中心とした理学療法業務の見学が主体であった。近年、本学では入学者の気質変化から臨床見学実習(以下、実習)が主体的内容から受身型へ変容し、実習後の学内教育へ反映する事が困難となってきた。このことから本学では従来型実習からの脱却を目的に学生の課題に重点をおく課題指向型実習を本年度より実施している。本報告の目的は課題指向型に移行した実習効果を明らかにし、本学の取り組みを紹介することにある。<BR>【方法】<BR> 対象は本年度実習を経験した1学年42名(男性17名、女性25名、平均年齢19.0±1.2歳)である。実習前後に介護保険その他に関する知識、実習の内容、理学療法士(以下、PT)の印象などに関するアンケートを実施、結果並びに実習成績について検討を行った。課題指向型実習は時期を8月中旬、介護保険施設並びに通所リハビリテーション開設医療機関(以下、介護保険施設等)に特化して実施した。従来の業務見学に併せ、対象者の生活把握を目的とした「ケース報告書」の作成を課した。「ケース報告書」は対象者生活の聞き取り調査から、その問題点を導き出すことを目的としている。その他、日々の不明点を学習する「自己学習ノート」や実習日誌である「デイリーノート」作成を併せて課題とした。また、入学後、実習までの期間が短い事からカリキュラム外での学生介入を行い、学習面、生活面のフォローを行った。事前介入では前社会人としての姿勢育成を目的に一般常識や一般教養の習得を行うモーニングセミナー、「ケース報告書」作成能力習得を目的としたpaper patient、simulation patientを行う「生活評価実習」を実施した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には本報告に関する十分な説明を行い、個人が特定できない範囲での情報使用について承諾を得た。<BR>【結果】<BR> 実習終了後の総合評価A判定は学生自己評価(以下、自己評価)1名に対し、臨床実習指導者(以下、SV)評価が13名、B判定自己評価34名に対し、SV評価25名、C判定自己評価7名に対しSV評価4名と学生自己評価に比較してSV評価が高い傾向が認められた。また、事前アンケートでは85.7%が医療機関外でのPT業務を見学していなかった。これに伴い、実習前の介護保険施設等への理解は乏しかったものの、終了後では概ね理解が深まった傾向が認められた。また、実習前では当初57.1%の学生がコミュニケーション能力習得を実習の主眼としたが、終了後ではこの他に対象者の生活が理解できたという回答が増加した。PTに対する印象では前後共通して多くの学生が知識・技術、対象者改善への努力と答えたが、開始前に5名が回答した「かっこいい」は1名へ減少した。<BR>【考察】<BR> 本学の実習制度変更は理学療法への効果的動機付け、社会性向上並びに実習後学内教育との効果的連携を目的としている。実習終了時評価が自己評価に比較して高かったことにより、理学療法を学ぶことへの動機付けにつながったものと考えられる。また、アンケート結果から、入学年度の課題指向型実習実施はコミュニケーションの重要性や対象者生活に関する理解が高まり、実習後学内教育への効果的連携に効果を示すものと考えられた。また、実際の理学療法業務に接することが業務の現実性を認識させ、学習の重要性を感じ取る事によって意欲向上の一旦を担うことが考えられた。しかしながら一方では、社会における未熟さや論理に行動が伴わない面の残存も認められ、実習体験による学習効果が完全に内面化されていない事が考えられ、見かけ上の行動変容に止まっている可能性が示唆された。このことは実習後の行動変容評価の必要性が考えられ、これを用いることにより、次学年以降の学内・臨床教育の効果をさらに高めるものと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本報告は臨床教育と学内教育の効果的相互作用、連携を考察する上で一助となることが考えられる。
著者
柳澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭広 齋藤 康人 礒部 美与 高橋 光美 洲川 明久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.G0439, 2007

【目的】当センターは、高度専門医療を中心に対応しており318病床を有する。2004年に感染症対策委員会の下に実行的な組織として、Infection Control Teamが医師・看護師・各部門のコメディカル・事務職員により編成された。職業感染・針刺し事故・教育および研修・抗生剤の適正使用・院内感染の監視等に関する活動を行っている。重要な活動の一つに多職種を対象とした感染管理教育があげられる。教育活動として全職員を対象とした院内研修会の他、各部門においても研修を行い啓蒙に努めている。今回リハビリ部門において標準予防策に基づき衛生的手洗い方法の研修を行った。その後、手洗いの教育効果の実態把握と意識調査について評価を行った。【方法】対象はリハビリ部門の職員7名(リハ医・PT)。事前に衛生的手洗い方法について6ヶ月前にビデオ資料を用いて指導を行っていた。実技の評価として、手洗いミスは蛍光塗料とブラックライトを組み合わせた機械(Glitter Bug)を用いて3段階の評価を行った。行動・意識の評価として、手洗い方法の基本動作・手順については16項目(波多江ら2000)、日常業務において手洗いが必要と思われる場面の施行は15項目(掛谷ら2004から抜粋)について、それぞれ最近1ヶ月の実施率についてアンケートを行った。【結果】1.手洗いミスの評価は、A判定(爪の付け根等を残してほとんど落ちている)0名・B判定(手首、指の間等一部に残っている)4名・C判定(全体に残っている)3名であった。2.手洗い方法の基本動作・手順については、ほぼ実施していると答えた割合が80%以上の項目は、ゴミ箱にふれずにペーパータオルを捨てる・半袖の着用・爪のカット・水はねに注意する・洗面台に手を触れないの5項目のみであった。また0%だったのは、水道水は2~3秒流してから手を洗う項目であり、他にも実施していないと答えたものが8項目あった。3.日常業務において手洗いが必要と思われる場面での手洗いは、ほぼ実施していると答えた割合が80%以上の項目は排泄介助後・トイレをすませた後の2項目のみであった。また実施していないと答えたものが12項目あった。【考察】院内感染対策において、手洗いは最も基本的であり重要である。今回の結果より、衛生的手洗い方法について指導を行っているにも関わらず6ヶ月後には正しく行えていなかった。指導方法が知識の伝達だけで実技を取り入れていなかったため、習得できていなかった可能性もあるが、教育効果の継続は難しいことが明らかだった。医療従事者の手指からの交差感染のリスクを減少させるためには、他に速乾性擦式手指消毒薬併用を積極的にすすめる必要がある。手洗いに対する基本動作や意識についても認識が低く、必要性についての理解や意識の改善を促す必要があった。手洗い行動を習慣化させ、知識や技術を習得できるよう繰り返しの再教育の実施は必要と思われた。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>
著者
両角 淳平 青木 啓成 村上 成道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】Jones骨折は難治性の骨折であり,TorgやKavanaughは保存療法において22-67%が遷延治癒もしくは偽関節になると報告していた。現在の治療方針は,競技への早期復帰のために髄内固定による手術が中心となっており,手術治療の実績に関する報告が多い。その一方で,術後の再発例における報告も散見され,三河らは遷延治癒や術後の再骨折を来した症例に対して,スクリューの適合性を高めるために再手術を優先すると報告している。当センターでは,遷延治癒の傾向にあるJones骨折に対し,セーフス(SAFHS4000J,TEIJIN)による超音波治療と継続的な理学療法の介入を行っている。本研究は,Jones骨折を発症した選手の身体特性を詳細に検討する事,また改善させる事を目的とした理学療法が,競技復帰と再発予防へ与える影響について検証した。【方法】当院を受診した高校サッカー選手4例を対象とした。3例は,保存療法を行っていたが4週経過し仮骨が出現しない症例であり,1例は,他院での内固定術後に2回の再骨折を繰り返し,約1年間の遷延治癒を来していた。セーフスによる治療と理学療法を,競技復帰1ヶ月後まで継続した。理学療法では,第5中足骨近位骨幹部へストレスを与える要因として,足部・足関節及び股関節機能における身体機能因子と,姿勢や動作パターンの運動因子を挙げ,特有の障害パターンを検討し,その改善に努めた。介入頻度は,仮骨が出現するまでは週に1回,骨癒合が得られた以降は2週に1回とした。介入時は医師と協議し,運動負荷量を確認した。セーフス開始にあたり,骨折部へ的確に照射するよう透視下のマーキングを行った。4例の治療経過として,再発の有無と免荷期間,ランニング開始,競技全復帰,仮骨形成,骨癒合までの日数を集計した。【結果】4例全てにおいて,再骨折や遷延治癒を認めず競技復帰が可能であった。免荷期間は発症から平均24.3日(3-4週),ランニング開始は82.5日(10-14週),競技全復帰は126日(13-23週)であった。また仮骨形成を認めたのは64日(7-11週),完全骨癒合は113.8日(11-21週)であった。特有の障害パターンにおいて,身体機能因子のうち足部・足関節では,内反足(内側縦アーチの増強と前足部内転,後足部回外位)と,第5趾の可動性低下(足根中足関節や第4,5趾の中足間関節の拘縮)を認め,股関節では屈曲及び内旋制限が生じていた。運動因子は,片脚立位とスクワット,ランジ動作で評価し,いずれも股関節の外旋位をとり,小趾側が支点となり,重心は外側かつ後方への崩れが生じていた。筋力は,腸腰筋と内転筋,腓骨筋で低下を認めた。足部への具体的なアプローチは,第5中足骨へ付着し,かつ距骨下関節の可動性低下にも影響する長・短腓骨筋の短縮や,内反接地の反応により過活動が生じる前脛骨筋腱鞘や長母趾屈筋の軟部組織の柔軟性低下を徒手的に改善させた。足関節,股関節の可動域の改善後,姿勢・動作で重心の補正を行った。低下していた筋力に対して,単独での筋力強化は行わず,姿勢・動作練習を通して意識的に筋力の発揮を促した。【考察】治療過程において,運動強度の拡大については,X線による骨の状態を確認しながら検討し,仮骨形成後にランニングを開始し,骨癒合後に競技全復帰を許可した。しかし,X線上の問題がなく,圧痛や荷重時痛が一時的に減少しても,骨折部周囲の違和感や痛みの訴えは変動するため,継続的に運動強度の調整を行った。運動負荷の段階的な拡大に伴い,特有の障害パターンが再燃するため,骨癒合が得られるまでの期間は,早期に発見し修正するための頻回な介入が必要であると考えられた。術後の復帰過程において,横江らは,術後1週で部分荷重,3週で全荷重,2ヵ月でジョギング,3ヵ月で専門種目復帰としている。今回の4例の平均値と比較すると,ジョギング開始と競技全復帰までの期間は,約1ヶ月程度の遅れに留まった。理学療法により骨折部へのストレスを軽減させ,症状の変動に応じて運動負荷の調整を継続的に行う事は,骨癒合を阻害せず,保存療法であっても競技復帰に繋げられると考えられる。【理学療法学研究としての意義】手術及び保存のどちらを選択しても,骨折部の治療だけでは再発予防としては不十分である。身体特性から発生要因を検討し,その改善に向けたアプローチを充実させる事は,スポーツ障害における理学療法の捉え方として重要であると考えられる。