著者
小栢 進也 久保田 良 中條 雄太 廣岡 英子 金 光浩 長谷 公隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0051, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】膝を伸展させる代表的な筋は大腿四頭筋であるが,足や股関節の筋は下腿や大腿の動きを介して膝を伸展できる。このため,ヒトの多関節運動においては膝関節以外の筋も膝伸展運動に関与する。変形性膝関節症(膝OA)患者は立脚初期の膝伸展モーメント低下が報告されており,大腿四頭筋の膝伸展作用が低下している。しかし,膝OA患者は大腿四頭筋以外のどの筋で膝伸展作用を代償しているのか明らかではない。筋骨格シミュレーションによる順動力学解析は筋張力と関節角加速度の関係性を計算式により算出することで,膝伸展運動における筋の貢献度を調べることができる。そこで,本研究では膝OA患者の歩行分析から,筋が生み出す膝関節角加速度を調べ,膝伸展に貢献する筋を調べる。【方法】対象は膝OA患者18名(72.2±7.0歳),健常高齢者10名(70.5±6.7歳)とした。被験者の体表に18個のマーカーを貼り,三次元動作分析システム(3DMA-3000)およびフォースプレートを用いて歩行動作を測定した。マーカーの位置情報には6Hzのローパスフィルターを適用した。次に,OpenSimを用いて順動力学筋骨格シミュレーション解析を行った。8セグメント,7関節,92筋のモデルを使用した。解析はモデルを被験者の体に合わせるスケーリング,モデルと運動の力学的一致度を高めるResidual Reduction Algorithm,筋張力によってモデルを動かすComputed Muscle Controlを順に行い,歩行中の筋張力を計算式により求めた。さらに各筋の張力と膝関節角加速度の関係性を調べるためInduced Acceleration Analysisを用いた。データは立脚期を100%SP(Stance Phase)として正規化し,立脚初期(0-15%SP)での各筋が生み出す平均膝伸展角加速度を求めた。統計解析には歩行速度を共変量とした共分散分析を用い,筋張力と筋が生み出す膝伸展加速度を膝OA患者と健常高齢者で比較した。【結果】0-15%SPの張力は大腿広筋,足背屈筋群,ひらめ筋,腓腹筋で膝OA患者が健常高齢者より有意に低く,股内転筋群で有意に高い値を示した。膝伸展角加速度の解析では大腿四頭筋(膝OA患者2656±705°/sec2,健常高齢者3904±652°/sec2),足背屈筋群(膝OA患者-5318±3251°/sec2,健常高齢者-10362±4902°/sec2),ヒラメ筋(膝OA患者1285±1689°/sec2,健常高齢者3863±3414°/sec2),股内転筋群(膝OA患者1680±1214°/sec2,健常高齢者1318±532°/sec2)で有意差を認めた。【結論】膝OA患者と健常高齢者では大腿四頭筋と足背屈筋群に大きな差を認めた。膝OA患者は立脚初期の大腿四頭筋の発揮張力低下により膝伸展作用が低下する一方で,前脛骨筋を含む足背屈筋群の発揮張力を減少させ,その膝屈曲作用を低下させている。足背屈筋群は下腿を前傾することで膝を屈曲させるため,膝OA患者は足背屈筋群の張力発揮を抑えて立脚初期に膝屈曲が生じない代償パターンにて歩行していることが明らかとなった。
著者
伊勢 高也 柳澤 幸夫 福池 映二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1313, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに】近年,在宅医療の推進とともに訪問リハビリテーションの需要も大きく増加してきている。しかし,課題として訪問リハビリテーション(以下:訪問リハ)ではその効果を可視化することや,より有効なアプローチの実施に向けた取り組みが重要となっている。今回,訪問リハビリテーション患者に対し,歩行時に電気刺激(以下:EMS)を併用した歩行トレーニングを試みた。その結果,筋肉量,筋力,生活の広がりに改善を認めた症例を経験したことから,若干の考察を含め報告する。【方法】症例は70歳代,女性,身長153.1cm,体重63.7kg,BMI27.2。現病歴,6年前に胸椎圧迫骨折後に胸腰椎後側方固定術を施行し退院。その後,疼痛の増悪により活動性が制限され,5年前より訪問リハビリテーション開始。現在,要介護度2であり,歩行はT字杖歩行レベル。週3回の訪問リハビリーションを利用し,在宅療養中である。週3回のうち,2回にEMS機器であるひざトレーナー(Panasonic社製)を歩行トレーニング時に併用した。EMSを併用した歩行トレーニングは15分とした。EMS併用は6ヶ月間実施した。測定はEMS介入前,3か月後,6か月後の計3回とした。測定項目はIn BodyS10を用いて筋肉量及び四肢骨格筋指標(以下:ASMI),等尺性筋力計ミュータスを用いて下肢筋力,その他に握力,FRT,生活の広がりの指標(以下:LSA),TUGを測定した。なお,結果は各測定値を前後比較し,検討を行った。【結果】EMS介入前では,全身筋肉量33.7kg,両下肢筋肉量10.9kg,ASMI6.08kg/m2,下肢筋力18.2kgf,握力12.8kg,FRT34.5cm,LSA42,TUG19.6秒であった。3ヶ月後,全身筋肉量33.6kg,両下肢筋肉量10.8kg,ASMI6.07kg/m2,下肢筋力18.4kgf,握力12.5kg,FRT34.5cm,LSA51,TUG18.8秒であった。6ヶ月後では全身筋肉量35.6kg,両下肢筋肉量12.0kg,ASMI6.55kg/m2,下肢筋力19.8kgf,握力14.8kg,FRT34.0cm,LSA51,TUG19.2秒であった。【結論】今回の介入結果から,全身筋肉量,両下肢筋肉量,ASMI,握力,下肢筋力,LSAに改善が認められた。FRTとTUGは著名な変化は認めなかった。これらの改善効果については,歩行トレーニング負荷にEMSの負荷が付加されたことで,通常の歩行トレーニングよりも運動単位の増加,筋出力の増加につながり,生活の広がりにも影響を及ぼしたと考えられた。また,FRTおよびTUGの結果はバランス機能への効果が少なかったことが影響していると考えられた。今回,1症例であるが従来の歩行トレーニングにEMSを併用することにより,下肢筋肉量増加,筋出力増加を得ることができた。今後さらに症例数を増やし,詳細に検討することが必要である。
著者
中西 智也 小倉 隆輔 河西 理恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】問題基盤型学習(Ploblem-based learnig:以下,PBL)の活用は,臨床推論能力の向上や自己主導型学習態度の育成に有効的であるとされている。本邦でも卒前教育での実践例は多く報告されているが,卒後教育における報告は少ない。そこで本調査は,臨床経験の浅い有資格者の卒後教育としてのPBLの有効性を検討し,効果的な卒後教育の在り方を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は経験年数2年目の理学療法士8名とした。方法は河西(2006)が養成過程において実施した内容を参考とし,ファシリテーター役をおき,紙上患者1例に対し2回の討論を行った。計4ヶ月で3症例の検討を行った。PBL終了1ヶ月後にPBL好感度,臨床・学習への影響,運営方法,仲間好感度に関する4項目13設問とPBL実施前・中・後の自主学習時間からなるアンケートを,集合調査法にて実施した。13設問は,設問ごとに100点満点の採点法と自由記載法を併用し,項目ごとの平均点および標準偏差を算出した。【結果と考察】対象となる8名のうち7名から有効回答を得た。PBLへの好感度は81.9±16.8点,仲間好感度は84.3±16.9点,臨床・学習への影響は80.3±14.3点,運営方法は75.2±17.0点であった。また,PBL実施前の学習時間は0.83±0.28時間,実施中は1.50±0.54時間,実施後は0.90±0.36時間となった。自由記載では,他者との討論を通じて自己省察が深まった,仲間意識が向上した,時間配分や手際が悪く疲労感が残った,などの意見が得られた。PBLにより臨床推論力や知識の向上,学習意欲や組織力へ好影響を及ばす可能性が示唆され,卒後研修として有効であると考えられる。一方,導入のためには時間的・身体的負担への配慮や,研修終了後の継続した自己学習時間を確保する工夫が必要になると考えられる。
著者
藤堂 恵美子 樋口 由美 北川 智美 今岡 真和 上田 哲也 安藤 卓 高尾 耕平 村上 達典 脇田 英樹 池内 俊之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の効果はエビデンスが確立されているものの,ADLのみを指標にした研究が多く,活動・参加を含めた生活機能への効果は十分明らかではない。また,先行研究では訪問リハプログラムの違いによる効果は検証されていない。しかしながら,実際は評価に基づき優先順位をつけ複合的に介入している。そこで本研究は,訪問リハプログラムの優先性が生活機能に与える影響を検証することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,平成26年4月~平成28年3月にA訪問看護ステーションの介護保険による訪問リハを開始し,3ヶ月間追跡可能であった30名(平均年齢82.4±7.5歳,女性24名)とした。全介助の者,本研究の主旨を理解できない者は除外した。調査項目は基本属性に加え,生活機能として身体機能(立ち座り動作テスト),精神機能(GDS5,転倒自己効力感,主観的健康感),ADL(FIM),IADL(老研式活動能力指標),生活空間(LSA)を調査した。訪問リハプログラムは身体機能,活動,環境因子の3つに対して最も優先した介入を,担当理学・作業療法士に記入させて追跡後に集計した。</p><p></p><p>統計解析は,ベースラインの群間比較にはχ2検定またはMann-Whitney U検定を用い,p値が0.1未満の項目を説明変数,介入の優先性を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。ベースラインと3ヶ月後の比較にはχ2検定またはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>主疾患名は運動器疾患19名,脳血管疾患6名,その他5名であった。なお,入院歴がある者は15名であった。</p><p></p><p>訪問リハの優先プログラムは,全訪問回数のうち50%以上が活動であった者は19名,環境因子は11名で,身体機能への介入が50%を超えた者はいなかった。そこで,活動優先群と環境優先群の2群で分析した結果,ベースラインでは基本属性や身体機能,活動に差はなく,GDS5得点のみ環境優先群は有意に高かった。探索的に年齢とFIMの移動項目で調整しても,GDS5は環境因子への介入優先に対する独立関連因子であった(調整オッズ比3.34)。ベースラインと3ヶ月後の生活機能の比較では,LSAで両群共に有意な改善がみられ,活動優先群は15.3点から29.3点に,自宅圏外へ外出可能な者が6名から15名に増加,環境優先群は16.5点から28.3点に,自宅圏外へ外出可能な者が5名から9名に増加した。加えて,活動優先群では立ち座り動作で上肢支持が不要な者が有意に増加し,環境優先群では転倒自己効力感が有意に改善した。その他の項目では有意差を認めなかった。</p><p></p><p><b>【結論】</b></p><p></p><p>訪問リハ開始から3ヶ月間では,活動および環境因子への介入の優先性が高かった。介入の優先性によって身体機能や精神機能への効果が異なるが,生活空間は介入の優先性に関わらず拡大することが示唆された。</p>
著者
丸山 倫司 河本 直哉 樋田 竜男 松尾 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

<b>【はじめに】</b>理学療法士・作業療法士に必要な動作分析は,三次元動作解析装置の登場により,定量的な評価が可能になったが,導入コストや計測場所,稼働の手間など,臨床のセラピスト及び症例が容易に使用することが困難なのが現状である。臨床のセラピストが手軽に介入前後の動作分析が行えるシステムに焦点を置き,市販のスマートフォンに実装されている加速度センサーモジュールを使用した解析システムを開発し,既存の動作解析機器と比較し精度検証を行ったのでここに報告する。<b>【方法】</b>1)検証機器計測機器は我々が開発した簡易動作解析システム(市販スマートフォン端末を中心に計測・解析アプリケーション,同期信号ユニット,端末固定ベルトにて構成。現在,特許出願中)を用いた。端末は市販Android OS搭載 スマートフォン端末(SAMSUNG社製SC-06D)を使用し,加速度記録・解析アプリケーションである「トリガー版 シンプル加速度ロガー」を用いた。アプリケーションの機能は加速度の表示・計測,高速フーリエ変換による周波数パワースペクトル解析,同期信号の表示・記録,振動パワーの計測,それらを表計算ソフトにて解析できるよう,CSVファイルにて記録できる。サンプリング周波数は機種に依存するが,最新機種では最大200Hzで動作を確認している。比較検討機器はVICON社製 三次元動作解析装置VICON MX,解析ソフトはVICON NEXUS 1.8.1を用いた。2)対象・方法対象は既往の疾患を認めない成人男性6名(平均年齢27.0歳(±SD5.37)。動作課題は10mの歩行路を設け,直線自由歩行とした。簡易動作解析システムでは,左右(X)・前後(Y)・垂直(Z)の3軸加速度と周波数パワースペクトルを測定した。歩行周期を確実に同定するために,感圧センサーを使用した同期信号ユニットを用い,歩行のタイミングを計測した。センサーは踵接地(以下,IC)場所(踵外側)とつま先離地場所(母趾先端)へ設置した。端末の固定は端末固定ベルトを用い,先行文献より第3腰椎突起部とした。端末は通信出来ないよう,SIMカードは抜去した。三次元動作解析装置は,計測点である赤外線反射マーカーをスマートフォンの加速度センサーモジュールの推定位置の表面に設置し,左右(X)・前後(Y)・垂直(Z)の変位座標を測定し,その後加速度へ変換した。歩行のタイミングはAMTI社製フォースプレートを用いて測定し同定した。サンプリング周波数はそれぞれ100Hzに統一し,機器で得られた歩行同定信号をもとに,右下肢の踵接地より,次右下肢の踵接地までを1周期として加速度数値を切り出し,時間正規化を行った上で加算平均値を算出した。周波数パワースペクトル解析により,動作計測に関連のない振動周波数(12Hz)を判断し,加速度へバタワースフィルタにてフィルタリング処理を行った。3)統計解析統計解析にはFreeJSTATを用い,Spearmanの順位相関検定を行い,有意水準は1%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,筆者所属機関の倫理委員会の承認を得た上で,対象者には研究内容について十分な説明を行い,同意を得て行った。【結果】左右(X軸):r=0.833(P<0.01),前後(Y軸):r=0.969(P<0.01),垂直(Z軸):r=0.936(P<0.01)3軸すべてにおいて強い相関関係を認めた。【考察】結果から,本システムにおける計測データはヒトの歩行動作において,三次元動作解析装置と高い相関を認めた。よって,手のひらサイズのスマートフォンにて,既存の機器の機能の一部を担うことができる可能性が示唆された。このシステムのメリットは,使用場所を選ばない可搬性と設置しやすさ,何より普及したスマートフォンを用い手軽に使用し,動作分析が可能なことである。セラピストは知識とセンスを元に,目視で動作分析を行うのが主であり,具体的な評価が困難である。従って,身体部位の加速度を計測することによって,特に治療介入前後の動作の変化や効果判定をこれまで以上に簡便に正確に行うことが可能と考える。しかしながら,端末の振動などによる計測数値のドリフト対策や,操作性の向上など課題は残されており,今後も継続して開発を進める必要がある。【理学療法研究としての意義】スマートフォン内蔵の加速度センサーモジュールを用いた加速度計測についてはいくつかの先行研究を認めるが,本システムは特許出願中であり,アプリケーションと同期信号ユニット,端末固定ベルト等を開発し,歩行などの動作の基点から加速度数値と動作を同定できることは新規性があると考える。さらなる精度の保証がなされれば,臨床のセラピストが手軽に場所を選ばずに理学療法の効果判定が出来ると考える。また,理学療法士として他職種と協業し,モノづくりが出来たことも意義があると考える。
著者
山下 裕 古後 晴基
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】高齢者の咀嚼能力の低下は,一年間の転倒歴,排泄障害,外出頻度の減少,うつ状態などと共に,要介護リスク因子の一つとして取り上げられている。しかし,咀嚼能力と身体機能の関連については未だに不明な点が多い。一方,片脚立位時間の測定は,簡便な立位バランス能力の評価として広く臨床で使用されている評価法であり,高齢者の転倒を予測する指標としての有用性も報告されている。そこで本研究は,咀嚼能力の評価指標である咬合力に着目し,身体機能との関係を明らかにした上で,咬合力が片脚立位時間に影響を及ぼす因子と成り得るかを検討した。【方法】対象者は,デイケアを利用する高齢者55名(男性18名,女性37名,要支援1・2)とした。年齢82.9±5.6歳,体重54.7±13.5kgであった。対象者の選択は,痛みなく咬合可能な機能歯(残存歯,補綴物,義歯含む)を有することを条件とし,重度の視覚障害・脳血管障害・麻痺が認められないこと,及び重度の認知症が認められないこと(MMSEで20点以上)とした。咬合力の測定は,オクルーザルフォースメーターGM10(長野製作所製)を使用した。身体機能評価として,片脚立位時間,残存歯数,大腿四頭筋力,握力,Timed Up & Go test(TUG),Functional Reach Test(FRT)を実施した。統計処理は,Pearsonの相関係数を用いて測定項目の単相関分析を行い,さらに片脚立位時間に影響を及ぼす因子を検討するために,目的変数を片脚立位時間,説明変数を咬合力,大腿四頭筋力,TUG,FRTとした重回帰分析(ステップワイズ法)を用いて,片脚立位時間と独立して関連する項目を抽出した。なお,統計解析にはSPSS ver.21.0を用い,有意水準を5%とした。【結果】各項目の単相関分析の結果,咬合力と有意な関連が認められたのは残存指数(r=0.705),片脚立位時間(r=0.439),大腿四頭筋力(r=0.351)であった。また,片脚立位時間を目的変数とした重回帰分析の結果,独立して関連する因子として抽出された項目は,TUGと咬合力の2項目であり,標準偏回帰係数はそれぞれ-0.429,0.369(R<sup>2</sup>=0.348,ANOVA p=0.002)であった。【考察】本研究は,高齢者における咬合力と身体機能との関係を明らかにし,片脚立位時間における咬合力の影響を検討することを目的に行った。その結果,咬合力は,残存歯数,片脚立位時間,大腿四頭筋力との関連が認められ,片脚立位時間に影響を及ぼす因子であることが示された。咬合力の主動作筋である咬筋・側頭筋は,筋感覚のセンサーである筋紡錘を豊富に含み,頭部を空間上に保持する抗重力筋としての役割を持つことが報告されている。また,噛み締めにより下肢の抗重力筋であるヒラメ筋・前脛骨筋のH反射が促通されることから,中枢性の姿勢反射を通じて下肢の安定性に寄与していることも報告されている。本研究の結果,咬合力と片脚立位時間に関連が示されたことは,高齢者の立位バランスにおいて咬合力が影響を与える因子であることを示唆しており,これらのことはヒトの頭部動揺が加齢に伴い大きくなること,平衡機能を司る前庭系は発生学的・解剖学的に顎との関係が深いことからも推察される。咬合力を含めた顎口腔系の状態と身体機能との関連について,今後更なる検討が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】臨床において,義歯の不具合や歯列不正・摩耗・ムシ歯・欠損等により咬合力の低下した高齢者は多く見受けられる。本研究により咬合力が片脚立位時間に影響を及ぼすことが示されたことは,高齢者の立位バランスの評価において,咬合力を含めた顎口腔系の評価の重要性が示された。
著者
中西 純菜 木藤 伸宏 仲保 徹 松岡 さおり 冨永 渚 日野 敏明 原口 和史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0147, 2012

【はじめに、目的】 特徴的な不良姿勢と呼吸運動の異常は結びつくことが多い。理学療法の臨床において,呼吸困難を有する患者に対し,姿勢を改善することで呼吸困難が緩和することは報告されている。しかし,実際に不良姿勢が胸郭運動にどのような影響を与えているかは明らかにされてない。そこで本研究では座位姿勢に着目し,骨盤傾斜角度を変化させた時の胸郭運動に及ぼす影響について検討したので報告する。【方法】 被験者は,健常男性7名(平均年齢22.6±4歳)とし,取り込み基準は,脊柱や肋骨に外傷の既往のない者,著明な呼吸器疾患を有さない者,非喫煙者とした。座位条件は,足底非接地状態で骨盤を中間位にした座位,人為的に骨盤を後傾位にした座位の2条件とした。骨盤後傾は傾斜角度計にて同側のASISとPSISの角度を計測し,明らかに中間位と異なることを確認した。計測の各条件組み合わせを,(1)骨盤中間位での座位-骨盤後傾位での座位と,(2)骨盤後傾位での座位-骨盤中間位での座位の2つとし,ランダムに実施した。計測課題は,まず任意座位での最大吸気と最大呼気を計測した後、各条件で通常呼吸と深呼吸を,それぞれ吸気から5回行った。呼吸速度は任意の速度とした。計測はカメラ8台よりなる三次元動作解析システム(Vicon Motion Systems社,Oxford)を用いて,体表に26個のマーカーを貼付して行った。マーカーの位置から全胸郭容積と,さらに胸郭を左右上部胸郭、左右下部胸郭の4つに区分した。各々の6面体の容積は,Fortranで作成した容積計算プログラムにより求めた。算出した胸郭容積から,吸気時の最大容積を最大値,呼気時の最小容積を最小値,その差を変化量とし,各々の条件から求めた。各々の条件での胸郭容積の最大値,最小値,変化量は,最大吸気と最大呼気の各値で正規化した。統計学的解析には対応のあるt-検定を用い,深呼吸,通常呼吸時の容積の最大値,最小値,変化量を骨盤中間位と後傾位で比較した。優位水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき計画し、広島国際大学の倫理委員会にて承認を得た。さらに,本研究はすべての被験者に研究の目的と内容を説明し,文章による研究参加への同意を得た後に実施した。【結果】 骨盤後傾座位時の骨盤後傾角度は,31.09±6.22°であり,骨盤中間位座位時の骨盤後傾角度15.59±5.90°より有意に後傾していた。深呼吸時において,骨盤後傾座位時の全胸郭容積の最大値(94.01±1.51%)と下部胸郭容積の最大値(91.75±4.03%)は,骨盤中間座位時の全胸郭容積の最大値(96.90±2.49%)と下部胸郭容積の最大値(96.77±3.81%)よりも有意に小さかった(p<0.05)。その他のパラメータは,骨盤後傾座位時と骨盤中間座位時において有意差は認められなかった。通常呼吸時において,全てのパラメータは,骨盤後傾座位時と骨盤中間座位時において有意差は認められなかった。【考察】 本研究結果より,通常呼吸では,骨盤後傾位と骨盤中間位での胸郭容積の最大値と最小値全てにおいて有意差は認められなかった。通常呼吸において,吸気は横隔膜が下降することによって行われているため,大きなエネルギーを必要としない。つまり,通常呼吸時の骨盤中間位と骨盤後傾位では,有意差を生じるほどの胸郭運動の変化を引き起こすまでには至らなかったものと推測される。さらに,本研究結果より非足底接地状態での座位姿勢において,骨盤後傾位での深呼吸では骨盤中間位と比較して,吸気時に下部胸郭の運動が拡張せず,呼気時により縮小することを示した。これは通常呼吸とは異なり,骨盤後傾位に伴う胸椎後彎の増加した姿勢では,横隔膜が弛緩し,下降している状態であり,吸気時に横隔膜が機能せず十分な吸気を行うことができない。そのため,腹部を膨張させることにより腹腔を陰圧化して横隔膜の下降を補助していると考えられ,この作用により吸気量を確保していることが推測できる。本研究結果から観察された骨盤後傾位での深呼吸時の胸郭運動様式は,横隔膜の機能低下を招き,呼吸機能障害に寄与する要因の一つとなりえることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より,骨盤後傾座位の結果、脊柱後彎により呼吸様式が非効率的なものになり,呼吸機能に悪影響を与えていることが示唆された。骨盤後傾座位は呼吸に対して胸郭運動の機能低下を引き起こし,機械性受容器への関与や横隔膜の機能低下,mechanical linkageの破綻といった,筋骨格系や神経生理学系へも影響を与えていると推測される。よって,骨盤後傾座位の改善を図ることで,呼吸しやすい環境を作り,より効率的なアプローチが可能になるものと考える。
著者
吉田 剛
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3O1068, 2010 (Released:2010-05-25)

【はじめに】一般的に、加齢により喉頭位置は下降して、嚥下時の喉頭挙上、食道入口部開大を阻害するといわれているが、喉頭が上方に位置して喉頭運動を阻害する病態については知られていない。我々は嚥下運動阻害因子を検討するための指標として相対的喉頭位置を開発し、臨床で用いてきた。本学会で過去に発表した縦断研究では、嚥下障害重症度の悪化時に、頸部・体幹機能の低下と相対的喉頭位置の上昇が生じることを示したが、悪化群は6名と少なかったため、喉頭位置が上昇することにより悪化することの意味は解明できなかった。【目的】脳卒中による嚥下運動障害者について、発症後、片麻痺などの運動障害による姿勢への影響がある程度定着したと考えられる回復期以降のデータを横断的に分析し、嚥下運動障害者の中で、相対的喉頭位置が上方に位置する者がどれくらい存在するのかを明らかにしたい。また、相対的喉頭位置が特に高い群と低い群および中等度群の3群に分けて、その特徴を検討することで、喉頭位置が上方にある群の特徴を明らかにしたい。【方法】対象は、脳血管障害による嚥下運動障害を有し、発症から評価までの期間が90日以上経過したデータを有する127名(男女比69:58、平均年齢75.2±13.2歳)であった。評価項目は、嚥下障害について、才藤の臨床的病態重症度分類、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂版水飲みテスト(MWST) 、食物テスト(FT)の4つ、頸部・体幹機能として、吉尾らの頸・体幹・骨盤帯機能ステージ(NTPステージ)、頸部関節可動域4方向(回旋と側屈は左右で少ない方の値を採用)、運動麻痺の程度は、下肢のブルンストロームステージを4段階にグレード化し、ステージ1と2を重度=3、3と4を中等度=2、5と6を軽度=1、麻痺なし=0とした。また、我々が開発した嚥下運動阻害因子に関する評価項目として、前頸部最大伸張位でのオトガイ~甲状切痕間距離GT、甲状切痕~胸骨上端間距離TS、GT/(GT+TS)で計算する相対的喉頭位置(T位置)、舌骨上筋筋力を4段階で示すGSグレードを採用した。127名の全データから、T位置が、平均値より1標準偏差以上逸脱しているかどうかで、上方群、下方群、平均群の3群に分類した。統計処理は、有意水準を5%未満として、平均群と上方群、平均群と下方群間の比較には、ウェルチのt検定およびマン・ホイットニーのU検定を用い、各評価項目間の相関については、各群でピアソンの相関係数を求めた。【説明と同意】ヘルシンキ条約に基づき、全対象者またはその家族に対して、研究の目的、方法を十分に説明したうえで、同意を得た。【結果】127名のT位置の平均は、0.41±0.07であり、上方群(T位置<0.34)は24名(平均70.0±18.1歳)で、下方群(T位置>0.47)は、14名(81.6±8.6歳)、平均群は89名(平均75.7±11.9歳)であった。上方群はGTが短く、下方群はTSが短い傾向がみられた。平均群に比べて、上方群は、頸部可動域制限が全方向にみられ、GSグレード、反復唾液嚥下回数も低かった。下方群は、平均群に比べて、年齢が高く、頸部伸展・回旋・側屈の可動域制限、GSグレード、NTPステージ、FTの低下がみられた。各群の指標間の相関は、全体および平均群では弱い相関であったが、上方群と下方群では、中等度の相関がみられる項目が多く、上方群では、GTとTSがNTPステージと、また重症度とNTPステージの間に中等度の相関がみられた。上方群の中でも、GSグレードが高く、TSの長さが長い者は軽症である傾向があり、下方群でもGSグレードが高い者は軽症である傾向がみられた。【考察】嚥下運動障害者のT位置は、下降により問題が生じるケースが多いが、上方に位置する場合も平均群より問題が大きいことが明らかになった。T位置上昇は、頸部・体幹機能低下によって生じる頸部筋緊張異常によるものと推察された。しかし、各群の中にも、GTやTSが標準より長いか短いか、喉頭挙上筋である舌骨上筋の活動が強いか、頸部可動域が標準以上であるかどうかで、嚥下障害の重症度は影響を受ける傾向がみられた。従って、これらの嚥下運動に影響を与える複数要素を複合的に評価しながら、嚥下運動の改善を図ることが必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】嚥下時喉頭挙上運動は、喉頭下降によって阻害されているばかりではなく、上昇位でも阻害されることが明らかになった。嚥下運動阻害因子を評価しながら、その病態に合わせて、舌骨上筋群の強化、舌骨上・下筋群の伸張性改善、頸部筋緊張の改善による可動域の向上などを行うことが、理学療法士の役割として重要であることが示唆された。
著者
森木 貴司 小池 有美 上西 啓裕 梅本 安則 田島 文博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.EbPI2428, 2011 (Released:2011-05-26)

【はじめに】純粋無動症はパーキンソン症候群を伴う疾患で、進行性核上性麻痺の一病型と考えられ、すくみを主症状とする。すくみは、日常生活上ですくみ足として現れ、しばしば転倒の原因となっている。したがって、すくみ足を改善することが期待され、しばしば理学療法が処方される。すくみ足に対する理学療法は、眼前の障害物を意識することで改善する特質(矛盾性運動、kinesie paradoxale)を活用した方法が多く報告されている。しかし、純粋無動症に対しての報告は少なく、臨床的にあまり検討されていない。今回、純粋無動症患者に対して、自助具の導入と運動療法を実施し、ADL改善がみられたので報告する。【説明と同意】本調査実施にあたり、文書による十分なインフォームドコンセントを行い、同意を得た。【症例紹介】70代男性、無職、妻と二人暮らし。社会資源に関しては、身体障害者手帳2級、介護保険要介護度5で、入院前はデイサービスと訪問リハビリを週3回ずつ利用されていた。平成15年に純粋無動症、パーキンソン症候群と診断された。平成22年に入り、すくみ足が強く出現し歩行困難となり、同年6月初旬にADL改善目的で入院され、理学・作業・言語療法が処方された。リハビリ開始時現症は、意識清明、見当識良好。仮面様顔貌、小字症がみられた。脳神経には異常所見はなく、筋緊張は亢進し固縮がみられた。協調性は上下肢でやや拙劣さあり、企図振戦もみられた。立位姿勢は、典型的な前傾姿勢を呈し、頸部や体幹、肩関節、股関節でROM制限がみられた。MMTは両上下肢5レベル。ADLについて、セルフケアは食事以外は中等度介助レベル、歩行はすくみ足が強く中等度~軽介助レベルであり、FIMは85点であった。【経過】リハビリ開始当初は集中的に運動療法を行った。具体的なプログラムとしては、ROM訓練、筋力訓練、床上動作、歩行、階段昇降などを実施した。また、運動耐容能や左右肢体の協調性改善目的に自転車エルゴメータおよびハンドエルゴメータ、トレッドミルなどを実施した。リハビリ開始から3日後には独歩が軽介助~監視レベルとなったが、依然としてすくみ足が問題であった。1週間後のカンファレンスでは、入院中の目標を実用的なすくみ足改善手段の決定、退院後の機能維持のため自主トレーニングの習得、他機関医療者への情報提供とした。すくみ足に対する環境設定については、L字型杖が著効した。10m歩行時間においても他手段と比較しL字型杖使用時で最速であった。したがって、すくみ足改善手段をL字型杖の導入に決定した。これにより症例自身もすくみ足改善を実感されていた。入院から3週後の退院時には、セルフケアは軽介助~監視レベル、歩行はL字型杖使用により監視~自立レベルとなり、FIMは107点に増加した。【退院後の状況】退院1カ月後の状況は、訪問リハビリ、通院リハビリ、デイサービスをそれぞれ週2回受けられ、自宅では、入院中の指導も守れており、転倒もなく入院中と同レベルのADLを維持できていた。また、歩行改善に伴いリースしていた車椅子や電動車椅子は返却し、移動手段は歩行のみとなっていた。しかし、退院5カ月後の状況では、歩行は行えていたものの動作指導や自主トレーニングを継続しておらず、主にセルフケアで妻の介助を要し、FIMは95点と入院中に比べ減少していた。【考察】純粋無動症患者に対し自助具の導入と運動療法の併用により、短期入院ではあったが著明にADLが改善した。L字型杖の導入によりすくみ足が改善した理由は、矛盾性運動誘発の障害物として状況に応じて自由に目印にすることができ、場所の限定がされないということが考えられる。また、すくみ足改善以外にセルフケアも全般的に改善したため運動療法も効果的であったと考えられる。本疾患は、進行性ではあるが退院後もできるだけ機能維持していくことが重要であり、退院後は他機関への情報提供と在宅での自主トレーニングを継続していく必要があると考える。退院後の調査では、退院直後は機能維持できていたが、5カ月後では入院中に比べADLが低下していた。この対策としては、定期的な状態の把握と動作指導、訪問・外来リハビリでの運動量の確保、指導の徹底をする必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】純粋無動症についての報告は少なく治療に難渋することが予測される。そこで、本発表を参考にして頂き治療の一助になればと思い報告させて頂く。
著者
三枝 幹生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3P1335, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】「純粋無動症とは歩行に際してすくみ足と加速現象を特徴とするが、振戦や筋固縮を認めず、L-DOPAが無効である神経症候である.…中略…、純粋無動症の経過観察中に進行性核上性麻痺と同一の症候が出現した症例や神経病理学的に進行性核上性麻痺と診断された症例が報告され、純粋無動症は進行性核上性麻痺の非定型例または病初期の症候の可能性がある(南山堂 医学大辞典第19版より抜粋).」この診断名のもとに週1回の通所リハビリテーションを利用される利用者に対して、理学療法士ができたこと、そして考えられた今後の地域課題について報告する.【症例】72歳・男性.退職後は、多趣味であり幅広く活動していたが、平成16年頃から「身体が思うように動かない」ことを自覚.徐々に右足の引きずり、両足のすくみ足が著明となり、平成20年1月に純粋無動症と診断される.同年3月より短時間の通所リハビリテーションを週1回で利用開始となる.現在、週1回は変更なく、通常時間での利用をされている.介護度は要支援1、通院は投薬調整の目的で3週ごとに通われている.【経過】通所開始時、FIM124点.歩行・階段の項目のみ各6点.すくみ足著明だがT字杖で身辺ADL自立.右遊脚時に下垂足みられ足部の引きずりが認められるが、靴着用で減少する.感覚障害は右足外側に軽度の痺れ訴えあり.住環境の整備・筋力および全身持久力の維持・すくみ足の緩和を目標に個別メニューを作成し実施した.現在、自宅内は早期に生活導線へ手すりを設置したこともありADLは自立、FIMは一部修正自立で121点.筋力・全身持久力は良好に維持されているが、すくみ足の増強が認められ歩行速度・TUGなど低下傾向にある.これに伴い自宅での外出は減少傾向となっている.【考察】その都度の運動指導は、本人の理解や認識にも左右されるものの週1回の通所リハビリテーションでも十分行える.筋力そのものの維持は可能であったが、すくみ足の症状について改善は得られなかった.パーキンソン病などと異なり純粋無動症は内服の効果が期待できないとされていることからも今後は易転倒の増加が考えられる.また疾患が特異的であるため情報が少なく、利用者本人と家族、介護現場のスタッフの不安も非常に大きい.「医療から介護へ」・「病院から自宅へ」のシフトが進められている昨今、医療機関主体で連携パスが進められているが、医師不足で常勤医不在も珍しくはない.医療主体で動き出しにくい場面がある.今後の経過をどのように診ていくのか、自治体の枠、医療・介護の枠、それらを超えた取り組みが必要である.【倫理的配慮】本報告は本人が特定されないよう配慮するとともに、本人とご家族への説明・承諾を得て報告した.
著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>理学療法士の声かけは患者の意欲を向上させるといわれているが,その具体的な方法は明らかではない。声かけにはフレーミング効果という概念があり,それは意思決定場面において論理的に同値であっても表現方法(言い回し)の違いにより選好結果が変わるという概念である。我々はこのフレーミング効果に着目し,肯定的言い回しが一部の理学療法想定場面で患者の意欲を向上させることを示唆したが,ランダム化した研究的枠組みではなかった。本研究の目的は,理学療法想定場面でのフレーミング効果を意識した声かけが,患者の意欲に与える影響をランダム化した研究的枠組みで検証することである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象者は,理学療法実施中の入院患者102名(男性31名,女性71名,年齢75±12.3歳)とした。方法は,紙面による回答方式とした。手順は,理学療法を進める上で重要となる1)トイレ練習,2)歩行練習,3)痛みへのリハビリ,4)理学療法全般に対する取り組み,5)退院に向けた取り組みの5つの場面を想定し,各場面における声かけの肯定的,否定的言い回しを作成した。次に,紙面には5つの場面ごとに肯定的,否定的のどちらかの言い回しをランダム化したうえで記載した。患者には紙面を無作為に選択させ,5つの場面にあるどちらかの言い回しを読み,意欲を感じるかどうかを5件法(やる気を失うからやる気が出るまで)によって回答させた。分析は回答を1~5点で点数化し,場面ごとに言い回し別の平均値を算出し,比較検討した。統計処理にはウィルコクソンの符号順位検定を採用し有意水準はp<0.05とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>各場面における肯定的,否定的な言い回しは結果的に51名ずつに分かれた。1)における肯定的言い回しの平均値は4.49±0.83,否定的言い回しの平均値は3.54±1.29であり,肯定的言い回しが有意に高かった。次に,3)では4.63±0.6,4.04±1.28,4)では4.51±0.88,3.75±1.26,5)では4.37±0.94,3.75±1.31の3項目についても肯定的言い回しは有意に高かった。一方,2)では4.55±0.64,4.26±1.15と有意な差は認められなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>結果から,歩行練習を除き,トイレ練習,痛み,理学療法に対する取り組み,退院に対する理学療法想定場面において,肯定的な言い回しが,患者の意欲の向上に有効であることが示唆された。肯定的な言い回しは患者に肯定的な結果を直接想起させるため,患者の意欲が向上したと考えられる。歩行練習で言い回しに違いがみられなかったのは,すでに歩けるようになる等の説明を受けていたことが要因となり,意欲が左右されなかったと考えられる。以上より,いくつかの理学療法想定場面ではフレーミング効果を意識した肯定的な言い回しが,患者の意欲の向上に効果的であることが示唆された。今後はさらに声かけの言い回しやタイミング,患者の心身状態等にも着目し,有効な声かけや関係性作りについて知見を検討していきたい。</p>
著者
庭田 幸治 岩月 宏泰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.G4P2309, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】共感とは単なる他者理解という認知過程ではなく、認知と感情の両方を含む過程とされる。医療における共感は患者と接する過程で第一印象を持ち、その独自性に気づき、共感的に理解し、積極的に関わり、信頼関係を深める、というプロセスを辿るとされ、医療者側の意識化、経験によってこのプロセスは影響されると考えられている。共感の重要性は理学・作業療法養成校の学生が臨床実習を行う場合でも同様であるが、学内教育での共感性習得はカリキュラムに盛り込まれることが少なく、今までその特色について議論されることもほとんどなかった。そこで今回、長期の臨床実習経験と共感性との関連について調べ、共感性習得のための教育のあり方について検討した。【方法】対象:青森県内の4年制の理学療法士及び作業療法士養成校に在籍する学生230名(1~4年生それぞれ54、55、66、55名)を対象とした。収集方法:質問調査票は自記式、無記名で、学生に配布後、留置法にて回収した(回収数184名、回収率80.0%、有効回答数181名、有効回答率78.7%)。調査内容:質問紙は加藤・高木ら(1980年)による情動的共感性尺度EES ; Emotional empathy Scale 25項目と下山によるアイデンティティ尺度(1992年)20項目、職業未決定尺度(1986年)6項目で構成されており、今回基本属性とEESについて解析した。統計学的検討は(1)因子分析(主因子法、バリマックス回転、因子は固有値2.0以上、因子パターンは0.5以上のものを採択)により因子の構造について分析を行い、因子負荷量の大きい質問項目に対しては学年間の差についてKruskal-Wallis検定を行った。(2)EES下位尺度「感情的暖かさ尺度」「感情的冷たさ尺度」「感情的被影響性尺度」ごとに合計点数を算出し、学年間について同様に1元配置分散分析を行った。【説明と同意】調査票には調査の目的、無記名で統計的に処理することを明記し、提出は調査に同意した場合に自由意志で行うこととした。【結果】EESの下位尺度はいずれにおいても学年間で有意な差は見られなかった。因子分析では3因子が抽出され、それぞれ「他者感情の冷静な把握」、「他者感情と自己決定の分離」、「他者への同情」と命名された。3因子の信頼性係数αはそれぞれ0.806、0.528、0.678であり、内的整合性を認めた。各因子との因子負荷量の大きい質問項目から学年間で有意な差が見られたのは、「人が嬉しくて泣いているのを見るとしらけた気持ちになる」、「他人の涙を見ると同情的になるよりも苛立ってくる」であり、4年生は他の学年より「全くそう思わない」との回答が多かった。【考察】他者への共感の獲得には患者の気持ちに気づき、患者と双方向の協力関係があると認識して関わることが重要であるとされる。このような態度は医療者がもともと備えている感性や姿勢に、経験を通して実感したことが加わって患者に対する姿勢に現れるものと考えられる。長期実習では対患者との人間関係を構築する必要性が高まり、この過程で共感性が習得されると思われる。したがって患者が置かれている現状と学生自身の経験との類似性を見出すことができないと共感性を持つことは困難となる。また、1~3学年で学年間の差が見られないことは、学内教育での共感性習得の困難さを示すものと考えられ、今まで理学・作業療法教育において臨床実習で学生自身が自ら共感性を習得するのに任せていた現状もあると思われる。したがって、養成校の教員には専門的知識のみでなく、広い教養を持つことが経験の不足を補い、患者と学生自身の経験の類似性を見出すのに有効であることを学生に理解してもらい、共感性を得るためのスキルトレーニングやロールプレイを行うことが必要であると考える。また、本研究の結果は長期臨床実習時に患者、実習指導者によって提供される患者への気づき、患者との協力関係を体験する道徳的環境が共感性習得に重要な機会であることを示唆するものである。共感性の習得は自己の周囲の状況を認知する能力、その状況の中で自己の果たすべき役割を理解する能力によって促され、共感的な人が周囲にいることは最も効果的であるとされる。したがって臨床実習指導者の共感的な医療提供場面を学生に示すことは共感性の育成に果たす役割が大きいと思われ、教員には学生が共感性を習得しやすい環境を具体的に実習指導者に提示することも必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】臨床実習は学内教育と異なり、学生の心理面への影響が大きい。心理的尺度を用いて共感性習得に対する学内教育ならびに臨床実習の効果を明らかにすることは、学生の心理的成長を目的とした理学療法・作業療法教育のあり方、さらに看護など他の職種における教育との差異を検討する際に有用であると考える。
著者
光武 誠吾 河合 恒 大渕 修一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100956, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】リテラシーとは、もとは読み書き能力のことを示す用語であるが、健康情報に関連した文脈におけるリテラシーは、ヘルスリテラシーと呼ばれ、健康づくりのために必要な情報を得て、適切に活用するための能力とされる。ヘルスリテラシーが高いことは、望ましい健康行動や身体的、精神的な健康状態の良さに影響することが示されており、米国の健康政策指標であるHealthy People 2020でもヘルスリテラシーの向上が重点分野の一つとして定められている。健康分野におけるヘルスリテラシーの影響や介入研究について英語で記載されている文献については文献研究が試みられているが、我が国におけるヘルスリテラシー研究について整理した報告は不十分である。欧米諸国に比べ、我が国は単一民族国家で識字率も高いことから、我が国でのヘルスリテラシー研究を整理することは意義がある。本研究では、我が国におけるヘルスリテラシー研究を概観し、ヘルスリテラシー研究に関する今後の課題を特定する。【方法】英語文献の検索には、米国国立医学図書館が提供する文献データベース MEDLINEを用い、"health literacy"と"Japan"をキーワードとした。また、日本語文献の検索には、医学中央雑誌(医中誌)を用い、「ヘルスリテラシー」をキーワードとして検索した。いずれのデータベースでも2012年11月15日を最終検索日とした。採択基準は、1.英語か日本語で記述、2.ヘルスリテラシーが主要な研究対象、3.我が国での研究、4.査読付き雑誌掲載論文、と設定し、タイトルと抄録、本文から論文の内容を筆者が精査した。MEDLINEでは31件、医中誌では21件の文献が抽出され、2つのデータベースで重複していた3件を調整し、合計で49件が検出された。そのうち、採択基準をすべて満たした26件と文献リストより、採択基準をすべて満たした2件、合計28件を文献研究の対象とした。【結果】ヘルスリテラシーの概念整理や米国における健康教育施策に関する紹介を目的とした文献研究が6件、ヘルスリテラシーの尺度開発や健康項目との関連を検討した横断的質問紙調査研究が16件、半構造面接等の質的分析手法を用いた研究が4件、介入による前後比較研究が2件であった。我が国で用いられているヘルスリテラシーの概念や尺度の多くは、Nutbeamが提案する機能的ヘルスリテラシー、相互作用的ヘルスリテラシー、批判的ヘルスリテラシーの3つから成るモデルに準拠していた。欧米では機能的ヘルスリテラシーに焦点を当てた尺度であるThe Test of Functional Health Literacy in Adults (TOFHLA)やRapid Estimate of Adult Literacy in Medicine (REALM)を用いることが多い一方で、我が国では、相互作用的、批判的ヘルスリテラシーに着目した尺度が開発され、質問紙調査にて用いられていることが多かった。また、Nutbeamのヘルスリテラシーモデルでは、ヘルスリテラシーは臨床場面において、患者の治療への理解や医療従事者と患者間のコミュニケーションに影響する「リスク」と、公衆衛生場面において、健康教育や健康づくりのアウトカムとして個人の健康を決定する「資産」として考えられている。我が国でも、臨床場面では糖尿病を呈した者を対象とし、公衆衛生場面では、会社員や市区町村における一般市民を対象とした研究も散見されるが、米国における研究の蓄積と比較すると不十分である。相互作用的、批判的ヘルスリテラシーの高さは、糖尿病患者における糖尿病の管理状態や自己管理に関する自己効力感の高さに関連があることが示され、一般成人では、健康的な生活習慣や適切なストレス対処行動にヘルスリテラシーの高さが関連することが示されていた。さらに、精神的な疾患のセルフケアに関連するメンタルヘルスリテラシーや健康情報の中でも栄養に関する情報に特定した栄養リテラシー、健康情報源の中でもインターネット上の健康情報を扱う能力であるeヘルスリテラシーといったより限定的な文脈でのヘルスリテラシーに関する概念整理や尺度開発が検討されていた。【考察】欧米と比較すると我が国は単民族国家で識字率も高いため、機能的ヘルスリテラシーよりも、相互作用的、批判的ヘルスリテラシーに着目した研究を今後も蓄積していくことが求められる。具体的には、多様な疾患を呈する者を対象とすること、大規模横断調査や縦断調査を用いて、より精度の高いヘルスリテラシーの役割に関する根拠を示していくこと、が課題として挙げられる。【理学療法学研究としての意義】臨床場面における患者との適切なコミュニケーションの確立や、健康づくりの促進のために、ヘルスリテラシーに合わせた健康情報の提供方法やヘルスリテラシーの教育プログラムを検討することは理学療法学研究においても意義深い。
著者
武藤 智則 谷川 英徳 大熊 一成 金村 尚彦 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】変形性膝関節症により人工膝関節全置換術(TKA)を施行した患者の動的バランスの回復は重要でありその経過についての報告は散見されるが,術後早期における動的バランスの指標である姿勢安定度評価指標(IPS)に関連する因子について検討した報告はない。本研究はTKA後3ヶ月におけるIPSに関連する因子を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は当院にて変形性膝関節症により人工膝関節全置換術を施行した患者(男7名,女26名,33膝,年齢72.0±7.3歳,体重63.4±11.0kg)とし,神経疾患及び脊椎疾患,関節リウマチ患者は除外した。すべてのTKAは使用機種をZimmer NexGen LPS-Flex Mobile(PS type)とし,皮切はMidvastus法とした。評価項目は,動的バランスの指標としてIPS,術側への立位重心移動時の前額面上での姿勢戦略(Postural Strategy on frontal plane=PSFP)(画像解析ソフトToMoCo-Liteにて両肩峰・両大転子・両外果の中央点を結ぶ線分のなす角度を算出),膝関節角度の再現誤差としての膝関節固有感覚(KP),膝関節痛(Visual Analog scale=VAS),TUG,10m歩行速度(10mWS),膝関節伸展角度,膝伸展筋力(KES)および膝屈曲筋力(KFS)(Biodex System3を使用しIsokinetics 60deg/secでの体重比トルク(%BW)の最大値)とした。測定時期は術後3ヶ月とした。IPSの評価はAMTI製FORCE PLATFORMを使用し取込周期は60Hzとした。膝関節固有感覚と膝伸展筋力の測定には等速性運動装置(BIODEX system3)を使用した。統計解析はIPSと各項目との関連をSpearmanの順位相関係数による単変量解析で求め,従属変数をIPS,独立変数を単変量解析で有意であった項目とし,ステップワイズ法による重回帰分析にて分析した。有意水準を5%未満とした。データの集計と解析は,Dr. SPSSIIfor Windowsを使用した。【倫理的配慮】本研究はさいたま市立病院の倫理委員会にて承認を受け,十分な説明のもと同意の得られた患者を対象とした。【結果】IPSと各項目の関係性は,PSFP(r=0.596),TUG(r=-0.643),10mWS(r=-0.497),KFS(r=0.577)の間に有意な相関を認めた(p<0.05)。ステップワイズ法による重回帰分析の結果,TUG(p=0.001),PSFP(p=0.007),重相関係数(R=0.71),自由度調整済み重相関係数の二乗(R<sup>2</sup>=0.47)であった。【考察】TUGは歩行という動作に加え,立ち上がる,方向を変える,腰掛けるといった一連の動作能力や動的バランス能力を評価できる指標であり,加えて下肢・体幹の筋力やその協調的な筋活動,スムーズな方向転換に必要な立ち直り反応や下肢支持力の状態を評価することも可能なテストであるとされている。また膝伸展筋力が高いだけでは相関せず,バランスや調整能力などの要素を含む(山本ら:2010)ことが報告されており,動的バランスの指標であるIPSにTUGが関連しているという本研究の結果を支持しているものと考えた。木藤(2008)は運動器疾患患者の立位前額面上での身体重心を側方に動かす動作戦略について,頭部・体幹・上肢(Head・Arm・Trunk:HAT)を安定させ骨盤(Pelvic)を動かす動作戦略(立位Pelvic戦略)から,腹部からHATを大きく揺さぶることで足圧中心(Center of Pressure:COP)と身体重心(Center of Gravity:COG)を安定させ,同時に,股関節外転位で膝の内反を生じさせ,COGを支持基底面内に収める動作戦略(立位HAT戦略)への動作対応の変化が多く観察されるとしている。本研究ではIPSとPSFPは正の相関を認め,PSFPの数値が高くなる,すなわち立位Pelvic戦略に近づく程IPSとの関連が認められることを示唆している。Horakら(1986)は矢状面上の動作戦略において,よいパフォーマンスは股関節戦略より足関節戦略に関連した予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustment)を使用すると報告している。本研究で測定した前額面上での姿勢戦略は,先行研究で報告された矢状面上の姿勢・動作戦略とは相違するもので,本研究の結果である動的立位バランスと前額面上での姿勢戦略(立位Pelvic戦略)の関連について報告したものはなく,本研究結果は新たな知見といえる。【理学療法学研究としての意義】TKA後早期の動的バランスの指標であるIPSに関連する因子を明らかにした報告は見当たらない。本研究ではIPSとTUG,IPSとPSFPに関連を認めた。TKA後早期において,多関節運動連鎖としての前額面上での姿勢戦略に注目した理学療法プログラムの立案などを考慮していく必要性が示唆された。
著者
中村 孝佳 松井 亮太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,サルコペニアが高齢者医療に携わる医療従事者で注目されている。サルコペニアは進行性および全身性の骨格筋量および筋力低下,身体機能低下を特徴とする症候群で,生命予後の悪化や術後合併症の増加に寄与するほか,転倒や転落の機会が増加し,QOLも損なうと言われている。手術後の入院期間で運動機能が低下した場合,退院後の活動量が減少し,筋肉量の低下,体重の減少が見られ,二次性サルコペニアを生じるのではないか,という仮説を立てた。今回の研究目的は胃癌患者の術前後筋量ならびに周術期前後の運動機能を評価し,その関係性について検討することとした。【方法】2014年9月1日から2015年3月31日までの期間に,当院で胃癌手術が施行され,術前後の筋量と周術期の運動機能評価が行われた18例を対象とした。調査項目は術前BMI,体重(術前および術後6ヶ月),筋肉量(skeletal mass index(以下,SMI):CTでL3レベルの骨格筋断面積を身長の二乗で除したもの)を調査した。周術期の筋力は握力で評価し,身体機能は10m歩行速度を測定した。指輪っか試験で筋量低下のスクリーニングも行った。周術期前後の運動機能が維持した群(以下:維持群)と低下した群(以下:低下群)に分け,体重や筋量の変化と周術期における運動機能評価の関連性を調査した。運動機能低下群に関して,歩行速度が術前と比べ10m歩行で1秒以上低下もしくは握力が5kg以上低下した症例と定義した。統計処理は2群間の比較はWelchのt検定を用い,同群間の比較はWilcoxonの順位和検定を用い,有意水準を5%未満とした。【結果】18例のうち,男性11名,女性7名であった。年齢の中央値は66.0(53-80)であった。術前BMIは維持群で中央値22.5(20.4-27.8),低下群で24.8(17.7-30.2)であった。術前体重は維持群で中央値58.0(44.5-76.5)kg,低下群で59.5(42.5-76.6)kgであった。術後体重は維持群で中央値50.8(37.3-60.0)kg,低下群53.5(43.2-66.0)kg,体重減少率は維持群11.6(0.7-26.7)%,低下群11.7(0.0-14.4)%であった。術前後の体重変化では有意差を認めたが,それ以外では有意差を認めなかった。術前SMIは維持群で中央値35.7(27.4-50.9)cm<sup>2</sup>/m<sup>2</sup>,低下群39.0(26.6-56.8)cm<sup>2</sup>/m<sup>2</sup>であり,術後SMIは維持群で32.6(28.1-49.5)cm<sup>2</sup>/m<sup>2</sup>,低下群37.1(24.7-44.9)cm<sup>2</sup>/m<sup>2</sup>,SMI減少率は維持群5.1(0-13.9)%,低下群8.2(0-22.1)%で,低下群で減少幅が大きい傾向にあったが有意差を認めなかった。【結論】胃癌周術期において運動機能低下群は維持群と比べ,体重減少率には差は認めないが,SMI減少率では運動機能低下群で減少幅が大きい傾向が見られた。術後の身体機能低下が退院後の活動量に影響し,術後6ヶ月のSMI低下に繋がった可能性があると考えられた。周術期で運動機能低下を認めた場合,在宅での活動量を維持するため,筋力強化方法,運動指導など理学療法士が継続しての介入が有用である可能性があると思われる。
著者
寺尾 詩子 萩原 文子 大槻 かおる 大島 奈緒美 清川 恵子 西山 昌秀 杉山 さおり 石田 輝樹 熊切 博美 相川 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】当部では,就業継続の問題について検討を重ねているが,当事者となりうる休職者や退会者へのアプローチが難しい現実に直面している。今後就業継続を推進する上で,職場環境の整備の面にも着目し,「産休・育休取得時の人員確保が難しい」という会員の声を今後の活動に活かす目的で,産休・育休に伴う人員確保の実態を調査した。【方法】本会会員の所属する732施設の理学療法士の代表者を対象に,郵送法でアンケート調査をした。調査期間は2015年7月の1か月間とした。【結果】339施設(回収率46.3%)から回答があり,回答者の性別は男性58.4%,女性42.6%,年齢は40歳代が38.6%,30歳代37.2%,50歳代16.5%,20歳代0.6%であった。産休・育休の過去3年の取得実績は43.3%の施設であり,施設分類では「病院」で63.9%,「介護老人保健施設」45.2%,「クリニック」「通所施設を含む福祉施設」「訪問看護ステーション」では20%台であった。施設の所属理学療法士数別に取得実績のある施設は,「6人以上」は67.3%,「5人」50.0%,「3,4人」25.3%,「1,2人」17.1%であった。短時間勤務などの復職後の制度利用実績のある施設は全体の34.8%で,「福祉施設」「訪問看護ステーション」以外は産休・育休取得より利用実績は少なかった。出産・育児と仕事を両立していくための問題として挙げた内容は,「人員確保」が232施設(68.4%)と最も多かった。現在の欠員状況については,「あり」との回答が全体の31.8%で,欠員理由は「もともと定員に満たない」が55.6%,「産休・育休取得中の欠員」が42.6%であった。人員確保の手段は「業務分担を増やす」217施設,「増員を働きかける」132施設,「求人活動」117施設,「業務調整を行う」94施設,「業務縮小」84施設であった。求人活動は「人材バンクの利用」45施設,「独自のシステムの利用」10施設であった。求人広報手段は「本会ホームページ利用」は62施設で,求人はしないとの回答もあった。【結論】育児と仕事の両立していくための問題として最も多く挙がったのは「人員確保」であった。また,欠員ありと回答した施設の欠員理由は,半数が産休・育休取得によるものであった。人員不足は十分な制度整備のない中,全ての立場で負担となり対応に苦慮している現状がある。求人を出して対応する場合も,求人欄への掲載費負担や求人への反応の乏しさ,上層部の理解のなさから求人活動はしていない施設があることも分かった。本会の求人欄の利用を確認すると利用施設は全体の18%に止まっており,本会として求人欄の見直しは課題と考える。更に,復職支援事業の利用拡大,本会地域組織体制(ブロック化)の見直しやその利用といった現在の活動を生かした活動から問題解決につながるように検討していきたい。
著者
倉坪 亮太 藤井 周 渡邊 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0940, 2012

【はじめに、目的】 成長期は骨の長径発育に対し筋の発育の遅延が生じるため,筋柔軟性が低下しやすいと考えられている.また成長期スポーツ選手の下肢筋柔軟性は,スポーツ障害発生と関連が深いことが鳥居と中沢らにより報告されており,スポーツ障害発症の要因の一つと考えられている. 成長期サッカー選手では,キック動作における動作特性から,軸足の大腿四頭筋,ハムストリングス,下腿三頭筋等の筋柔軟性が低下することが牧野ら,中沢らにより報告されている.また袴田らはキック動作時の身体重心の後方化が,軸足に成長期スポーツ障害を有する選手の特徴の一つと報告している.しかし軸足筋柔軟性とキック動作の持つ動作特性との間の因果関係について客観的に明らかにした報告は少ない. そこで本研究は,軸足筋柔軟性とキック動作を解析し,成長期サッカー選手の筋柔軟性とキック動作の関連を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は,少年サッカーチームに所属する競技経験24ヶ月以上の小学5年生37名(年齢10.2±0.4歳,身長1.39±0.06m,体重33.1±5.5kg,経験歴50.3±18.9ヶ月)とした. 筋柔軟性は,鳥居の方法を一部改変し,軸足の大腿四頭筋,ハムストリングス,腓腹筋,ヒラメ筋を測定した.測定は熟練した理学療法士1名が行った. キック動作の撮影は,ハイスピードカメラEX-F1(CASIO社製)を4台使用して行った.身体重心位置を算出するためのマーカー貼付位置は,横井らに従い被験者の全身21ヶ所に反射マーカーを貼付した.キック動作はゴール内に設置した標的に命中させるように全力でインステップキックを実施した.キック動作の採用条件は,ボールが標的に命中し,かつキック動作後に被験者がキック動作を自己評価し,被験者本人が満足した試行を選択した.撮影は3回撮影が実施できた後に終了した. 解析は,撮影された3試行のうち,インパクトが良好であったものを1試行抽出し,3次元ビデオ動作解析システムFrame-DIAS IV(DKH社製)を用いて身体重心位置を算出した.重心位置の指標として,身体重心位置と軸足外果の距離を「身体重心距離」と定義し,算出された身体重心距離からキック動作中の軸足踵接地時,ボールインパクト時,および最大身体重心距離時の3時点を抽出した. 統計はSPSS11.0J for Windowsを使用し,筋柔軟性と軸足踵接地時,ボールインパクト時,最大身体重心距離時の3時点の身体重心距離の関係をSpearmanの順位相関係数を用い検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者ならびに保護者に書面にて実験協力を依頼し同意を得た.なお本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得ている.【結果】 軸足ハムストリングスの筋柔軟性と身体重心距離は,軸足踵接地時(r<sub>s</sub>=0.42*),ボールインパクト時(r<sub>s</sub>=0.55**),最大身体重心距離時(r<sub>s</sub>=0.39*)の全てにおいて有意な正の相関が認められた(* p <0.05,** p <0.01).軸足ヒラメ筋の筋柔軟性と身体重心距離は,軸足踵接地時(r<sub>s</sub>=-0.39*),最大身体重心距離時(r<sub>s</sub>=-0.39*)において有意な負の相関が認められた(* p <0.05).その他の筋柔軟性と身体重心距離には有意な相関は認められなかった.【考察】 今回の結果から,キック動作時の身体重心距離が長くなるほど,軸足のハムストリングスの筋柔軟性が低下することが考えられた.キック動作時の身体重心距離の延長は身体重心の後方化を示す.身体重心の後方化は,意識的に強いボールを蹴る時に発生しやすく,骨盤の後傾・体幹の伸展が増加した"後傾"と呼ばれる姿勢となる.後傾でのキック動作は,体幹の伸展動作が強調されるため,主として体幹や下肢後面の筋群が過活動となり,このような活動の繰り返しは筋柔軟性の低下が惹起するものと推測される. また身体重心位置が後方化したキック動作は,膝関節伸展モーメントが増加し,大腿四頭筋が過活動となることが報告されている.成長期の大腿四頭筋による脛骨粗面への牽引ストレス増加は,脆弱な成長軟骨に侵害ストレスを与え,オスグッドシュラッダー病の発症を容易にすることが考えられている(鈴木ら).今回の結果から軸足ハムストリングスの筋柔軟性低下とキック動作時身体重心位置の後方化に関連が認められたため,軸足ハムストリングスの筋柔軟性に着眼していくことが,成長期スポーツ障害の予防につながると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 成長期サッカー選手において,軸足ハムストリングスの筋柔軟性低下とキック動作時の身体重心位置の後方化に関連が認められた.本研究で得られた知見は,競技特性が筋柔軟性に与える影響の特徴を反映しており,成長期スポーツ障害発症予防における競技特性の観点による戦略構築を実施するための一助となると考えられる.