著者
上島 正光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1513, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】健常者における正常歩行はエネルギー効率がとても良いといわれる。それをもとに考えれば,歩行を的確に評価するためには,エネルギー効率の良い歩行を見分ける能力が必要となる。エネルギー効率の良い歩行では歩行時の酸素摂取量が少なく二酸化炭素排出量が少ないことが報告されている。またその一要因として後足部肢位の変化(回外・回内)は,姿勢や歩行に大きな影響を与えることも報告されている。入谷式足底板では,歩行能力評価の一助として立位体前屈評価を利用することがある。実施が簡便である立位体前屈評価によってエネルギー効率の良い歩行を見分けることが可能であれば,難しいとされる歩行評価のハードルが下がる。しかしながら立位体前屈評価がエネルギー効率の良い歩行を見分ける手段として有用であるかは明らかになっていない。そこで立位体前屈評価がエネルギー効率の良い歩行を見分けることの一助として有用であるか検証することを目的に,本研究を行った。【方法】対象は,整形外科的および内科的疾患の既往がなく,足の実測長が23.0~24.0cmの健常人女性20名(年齢19.3±0.8歳,身長156.8±2.7cm,体重52.1±5.8kg)である。研究に先立ち,対象の後足部足底面にパッドを貼付することで後足部を回外・回内誘導し,どちらの誘導で立位体前屈動作がより向上するかを調査した。立位体前屈は,台の上に自然立位で立ち,膝関節を伸展したままで最大限に前屈動作を行った際の指床間距離(以下FFD)をメジャーにて計測した。足底部に貼布するパッドは50mm×25mm,厚さ3mm(材質:ポロン)の長方形のパッドを使用し,後足部足底面の内側および外側にパッドを貼付することで後足部の回外・回内を誘導した。本研究の測定項目は,トレッドミル歩行時の呼気ガス測定(酸素摂取量VO2/kg,二酸化炭素排出量VCO2/kg)である。測定には呼気ガス分析装置AE-300S(ミナト社製)を使用した。裸足で至適速度での10分間の準備歩行を行った後,歩行時の呼気ガスを1分間測定した。呼気ガス測定は,1)足底部にFFDが向上する後足部誘導パッドを貼付した状態でトレッドミル歩行を行う(以下FFD向上群),2)足底部にFFDが低下する後足部誘導パッドを貼付した状態でトレッドミル歩行を行う(以下FFD低下群)の2条件にて行った。2条件の測定順序は循環法を用い,各測定の間隔は5分間の休憩を挟むこととした。呼気ガス測定は各条件で1回ずつ行い,その測定値を解析データとして用いた。解析項目は,トレッドミル歩行時の呼気ガス分析値(酸素摂取量,二酸化炭素排出量)であり,t検定を用いて2群間で比較検討した。統計解析にはSPSS Ver12.0を使用し,有意水準は5%とした。【説明と同意】全被験者に実験概要,データの取り扱い,データの使用目的を示す書面を提示し,口頭にて説明したのち,同意書に署名いただいた上で本研究を行った。【結果】酸素摂取量は,FFD向上群5.93±2.28 l/min/kg,FFD低下群7.46±1.25 l/min/kgであり,FFD低下群に比べFFD向上群において酸素摂取量は有意に少なかった(p<0.05)。二酸化炭素排出量は,FFD向上群5.12±1.82 l/min/kg,FFD低下群7.73±2.98 l/min/kgであり,FFD低下群に比べFFD向上群において二酸化炭素排出量は有意に少なかった(p<0.05)。【考察】本研究は,FFDが向上する後足部誘導を行った群と,FFDが低下する後足部誘導を行った群の2群間における歩行時の呼気ガス値を比較検討したものである。後足部肢位に回外・回内の変化を加えることは,立位姿勢や歩行に影響を与えることが数多く報告されている。本研究においても,後足部誘導によりFFDに変化がみられた。他研究同様,後足部肢位が変化することで立位アライメントにも変化が加わり,結果的に全身の筋緊張が変化したことが要因と考えられる。呼気ガス分析の結果は,FFD低下群に比べFFD向上群において酸素摂取量および二酸化炭素排出量ともに有意に少なかった。このことはFFD向上群において歩行時の筋活動が少なかったことを示唆し,FFD向上群では歩行のエネルギー効率が良いと言える。2群間の測定条件は後足部肢位に差異があるのみであり,後足部肢位の変化が歩行時の筋活動に影響を与えていたものと推測される。結果的にFFD向上群では姿勢保持に必要な筋活動が少なく,歩行時のエネルギー効率も良くなったと考えられる。歩行時の呼気ガス値は歩行のエネルギー効率を表す一要素でしかないが,立位体前屈評価はエネルギー効率の良い歩行を見分ける一助となる可能性があるのはないだろうか。【理学療法学研究としての意義】歩行評価が苦手な理学療法士は多いが,エネルギー効率の良い歩行を見分けるための補助手段として,立位体前屈評価を利用できるのではないだろうか。
著者
木下 一雄 伊東 知佳 中島 卓三 吉田 啓晃 金子 友里 樋口 謙次 中山 恭秀 大谷 卓也 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1369, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 我々はこれまで後方進入法による人工股関節全置換術(THA)後の長座位および端座位における靴下着脱動作に関する研究を行ってきた。その先行研究においては靴下着脱能力と関係のある股関節屈曲、外転、外旋可動域、踵引き寄せ距離や体幹の前屈可動性の検討を重ねてきた。しかし、靴下着脱動作は四肢、体幹の複合的な関節運動であるため、少なからず罹患側の状態や術歴、加齢による関節可動域の低下などの影響を受けると考えられる。そこで本研究では、退院時の靴下着脱動作に関与する体幹および股関節可動域以外の因子を検討し、術後指導の一助とすることを目的とした。【方法】 対象は2010年の4月から2011年8月に本学附属病院にてTHAを施行した228例234股(男性54例、女性174例 平均年齢64.2±10.9歳)である。疾患の内訳は変形性股関節症192例、大腿骨頭壊死36例である。調査項目は年齢、身長、体重、罹患側(片側か両側)、術歴(初回THAか再置換)、術前の靴下着脱の可否、足関節背屈制限の有無、膝関節屈曲制限の有無をカルテより後方視的に収集した。術前の靴下着脱の可否の条件は長座位または端座位にて背もたれを使用せずに着脱可能な場合を可能とし、不可能をそれ以外の者とした。足関節背屈、膝関節屈曲可動域は標準可動域未満を制限ありとした。統計学的処理はロジスティック回帰分析を用いて目的変数を退院時における長座位または端座位での靴下着脱の可否とし、説明変数を年齢、BMI、罹患側(片側か両側)、術歴(初回THAか再置換)、術前の靴下着脱の可否とした。有意水準はいずれも危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究においてはヘルシンキ宣言に基づき、患者への説明と同意を得た上で測定を行った。測定データをカルテより後方視的に収集し、個人名が特定できないようにデータ処理した。【結果】 まず、長座位では、退院時の靴下着脱可能群は130例、不可能群は114例であった。可能群の平均年齢は62.8±10.6歳、不可能群は65.7±10.9歳であり、可能群の平均BMIは23.4±4.0、不可能群は24.1±3.8であった。可能群の罹患側は、片側70例、両側60例、不可能群は片側例、両側例は各57例であり、術歴は可能群の初回THAは102例、再置換は28例、不可能群の初回THAは101例、再置換は13例であった。術前の靴下着脱の可否は、可能群のうち術前着脱可能な者は74例、術前着脱不可能が56例であり、不可能群のうち術前着脱可能な者は24例、不可能な者は90例であった。また、可能群の足関節背屈制限は4例、不可能群は3例であり、可能群の膝関節屈曲制限は3例、不可能群は15例であった。一方、端座位では、退院時の靴下着脱可能群は110例、不可能群は134例であった。平均年齢は可能群62.2±10.9歳、不可能群65.8±10.7歳、可能群の平均BMIは23.2±4.1、不可能群は24.1±3.6であった。罹患側に関しては、可能群の片側59例、両側51例、不可能群は片側69例、両側65例であった。術歴に関しては可能群の初回THAは84例、再置換は26例、不可能群では初回THAは112例、再置換は22例であった。術前の靴下着脱の可否に関しては、可能群では79例が術前の着脱が可能、31例が着脱不可能であり、不可能群は術前の着脱可能な者は34例、不可能な者は100例であった。可能群の足関節背屈制限は3例、不可能群は4例であり、可能群の膝関節屈曲制限は2例、不可能群は16例であった。統計処理の結果、長座位での靴下着脱因子は術前の靴下着脱の可否が抽出され、端座位での靴下着脱因子には術前の靴下着脱の可否と年齢が抽出された。(p<0.01)。【考察】 本研究においては退院時における靴下着脱動作に関与する体幹および股関節可動域以外の因子を検討した。先行研究では本研究と同様に術前の着脱の可否が術後の可否に関与しているという報告があるが、いずれも症例数が少ない研究であった。本研究の結果より術前の着脱の可否は術後早期における着脱の可否に関与しており、術前患者指導の必要性を示唆するものである。端座位着脱における年齢の影響に関しては、加齢または長期の疾病期間に伴う関節可動域の低下、あるいは着脱時の筋力的な要因が考えられる。今後は症例数を増やして詳細な因子分析を行いながら、縦断的な検討も加えていきたい。【理学療法学研究としての意義】 THAを施行する症例は術前より手を足先に伸ばすような生活動作が制限され、術後もその制限は残存することが多い。本研究により靴下着脱動作に関与する因子を明らかにすることで術前後の患者指導の効率化や質の向上が図られると考える。
著者
槌野 正裕 荒川 広宣 小林 道弘 中島 みどり 高野 正太 山田 一隆 高野 正博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1750, 2015 (Released:2015-04-30)

【背景】我々は,大腸肛門病の専門病院として,第42回当学会より,理学療法士の視点で直腸肛門機能についての研究を継続している。研究結果から得られた知識を基に,治療の質向上を図っている。今年度は,大腸肛門リハビリテーション科による便秘外来の開設に伴い,理学療法士も排便障害を主訴として受診された方に対して,バルーン排出訓練を行っている。特に,ROMEIIIF3領域の症例に対して介入し,排便姿勢や骨盤底筋群の弛緩方法,腹圧の加え方などを指導して,快適な排便を目指して治療を行っている。今回,医師から指示された症例に対して,バルーン排出訓練をポータブルトイレで実施し,訓練の際に直腸内の圧変化と息み時間を評価したので以下に報告する。【対象と方法】バルーン排出訓練を理学療法士も介入して実施した女性6例(平均年齢77.7±9.6歳)を対象とした。バルーン排出訓練では,患者はシムス体位で臥床し,シリコン製のバルーンを肛門から挿入する。肛門管を過ぎて直腸内にバルーンを留置し,airを50ml送気したものを疑似便に見立て,通常の排便のごとく息んで排出する。訓練中には,一連の圧変化をスターメディカル社製直腸肛門機能検査キットGMMS-200で評価する。訓練は下記の方法で行い,1.から5.を比較検討した。患者は,1.airを送気して便意を感じた状態で起き上がり,ポータブルトイレへ移動する。移動が完了したら,2.背筋の伸ばした伸展座位で排出する。3.排出ができなければ前屈座位で排出する。4.伸展座位で排出できた症例も前屈座位での排出を同じように実施する。訓練終了後に,パソコンのモニターを用いて,5.排出までの息み時間を計測した。また,一連の排便動作における圧の変化を説明し,腹圧の加え方や骨盤底筋群の弛緩を促した。【結果】1.臥位からポータブルトイレへ着座した時点で,直腸圧が21.8±6.9cmH2O上昇した。2.伸展座位での排出では,2例が可能(94.9±161cmH2O)であり,4例は不可能(90.5±44.1cmH2O)であった。不可能な4例は,直腸圧が高まっていても排出ができない症例が2例,直腸圧が高まっていない症例が2例であった。3.前屈座位での排出では,4例が可能(120.8±22.5cmH2O)であり,2例が不可能(73.1±28.1cmH2O)であった。伸展座位で直腸圧が高まっても排出できなかった2例は排出可能であった。また,排出不可能であった2例のうち,1例は伸展座位でも排出できない症例であり,1例は普段から伸展座位でしか排出できない症例であった。臥位,伸展座位,前屈座位の全ての姿勢で排出できた症例の息み時間は,臥位10.5秒,伸展座位5秒,前屈座位3秒でバルーンの排出が可能であった。5.伸展座位と前屈座位で,排出までに息んだ時間は,排出が可能な場合は9.0±5.7秒,9.5±4.4秒,不可能な場合は15.1±10.5秒,9.8±3.2秒であった。全体で排出可能な場合は,9.5±4.4秒,不可能な場合は13.3±8.7秒であった。【考察】今回,バルーン排出訓練での直腸圧の変化と息み時間を比較した。まず,着目したことは,臥位と座位では直腸圧が変化している点である。臥位よりも座位では,直腸圧つまり腹圧が21.8±6.9cmH2O上昇した。このことは,オムツを着用したままの臥位での排便ではなく,便意を逃さずトイレへ誘導し,便座へ着座してから排便を促すことが重要であることの根拠になると考える。また,伸展座位では排出可能,不可能にかかわらず同程度の直腸圧であったが,前屈座位では排出が可能な例で直腸圧が高く,不可能な例では低い傾向であった。排出までに息んだ時間は,排出可能な場合は9秒,不可能な場合は伸展座位で15秒,前屈座位では10秒と伸展座位で排出できない場合は長く息んでいた。我々の過去の研究では,肛門内圧は骨盤前傾位で高く,後傾位で低くなること。前屈座位では伸展座位よりも肛門直腸角が鈍角になりやすいことを報告しており,出口である骨盤底筋群は伸展座位で弛緩が困難なため息みが長くなり,前屈座位では弛緩し易いために息みが短かったと考えられる。これらの結果から,前屈座位では腹圧が適度に上昇し,骨盤底は弛緩するため排出が行い易くなったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法士が排泄についての生理を知識として持つことで,在宅生活を送るための支援につながり,生活の質を高めることが出来ると考えている。
著者
岡 徹 古川 泰三 中川 拓也 末吉 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0116, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】腓骨筋腱脱臼は比較的珍しく,また症状が足関節外側側副靭帯と酷似するために見逃されることが多い。そのため症例数が少なく治療方針や手術方法,術後理学療法の評価や治療プログラムの報告が非常に少ない。今回,我々は外傷により生じた腓骨筋腱脱臼の1例を経験したので報告する。【症例紹介】56歳男性,瓦職人。仕事中に屋根から転落し左足から接地して受傷,左足外側に痛みが出現する。他院にて治療するが歩行時の疼痛と脱力感や不安感が改善せず,受傷から2ヶ月後に当院を受診しMRI,CTおよびレントゲン検査にて左腓骨筋腱脱臼(Eckert分類・GradeI:上腓骨筋支帯と骨膜が連続した状態で腓骨より剥離)と診断され手術となる。手術手技はDas De変法で腓骨外果後方部に骨孔を作成し,上腓骨筋支帯断端を付着部に再逢着した。【方法】疼痛(以下:NRS),足外反筋力(MMTにて計測),足背屈ROM,片脚立位保持時間,日本足の外科学会足関節判定基準(以下:JSSFスコア)などの各評価を術前,術後4週,8,12,及び24週で評価した。理学療法は術後2週間はギプス固定,3週よりプラスチック短下肢装具装着し部分荷重と超音波治療を開始,6週でサポーターと足底板を使用し全荷重独歩となる。12週でスポーツ動作練習のランニング開始しとなる。術後より,筋力強化練習(体幹・股・膝・足関節患部外)をおこない,術後6週より患部外反筋強化運動とROM運動を開始した。その後,足底板のチェックを行いながら,バランス練習,スポーツ動作を実施した。【結果】歩行時の脱力感や不安感は全荷重時より改善したが,疼痛は術前NRS4/10が術後12週で3/10と改善したが16週までは残存した。外反筋力は術前,術後8週,12,24でMMT3,3,4,5と改善した。背屈ROMは術前0度が術後12週で10度と健側と同等まで回復した。片脚立位保持時間は術前5秒が術後24週で30秒以上の保持が可能となった。JSSFスコアは術前,術後4週,8,12,24で59,32,65,81,100点と改善した。ADLは術後16週ですべて痛みなく自立し,仕事復帰は術後12週で可能となった。足関節のサポーターは術後24週まで装着した。【考察】新鮮腓骨筋腱脱臼はまれな疾患であり保存療法では再脱臼率が74~85%と高いとされ,新鮮例の場合でも診断が確定すれば手術療法を選択したほうが良いとされる。受傷機転としては,強制背屈や外反により腓骨筋腱を押さえている上腓骨筋支帯が腓骨より剥離あるいは断裂して生じる。本症例も転落時の左足強制背屈回旋により発症したが,術後の足機能は良好な回復となった。これはDas De変法の上腓骨筋支帯断端を付着部に再縫着し長腓骨筋腱の不安定性が改善したためと考える。Das De変法術後の固定期間の報告では,白澤らは2週,新井らは3週,安田らや萩内らは4週間の固定と様々である。今回,我々は術後6週まではギプスとプラスチック短下肢装具で他の報告よりも長めに固定した。また,その後のサポーターも術後24週まで継続して装着した。術部の足外反筋強化運動も術後6週以降に自動介助で痛みに留意して進め,早期より炎症の軽減や癒着防止などを目的に超音波治療も積極的に施行した。Das DeらはDas De変法術後の長期成績として21例中3例に疼痛や瘢痕でのROM制限を認め,白澤らも17例中2例に再脱臼を認めたと報告している。Das De変法を用いた術後理学療法は,上腓骨筋支帯断端部の癒合が未完成な術後12週までは上腓骨筋支帯断端部の再断裂や縫着部位の炎症に注意しながら慎重に理学療法を行うことが重要と考える。また,仕事やスポーツ復帰後も継続的な筋力強化運動が必要である。【理学療法学研究としての意義】本疾患の報告は少なく,理学療法の評価方法や治療プログラム,患者の回復経過などの報告はほとんどない。今後,本疾患の予後や評価,理学療法プログラムの一助になると考える。
著者
小林 茂 金尾 顕郎 吉川 貴仁 藤本 繁夫 平田 一人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DcOF1092, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は中・高齢者に多い慢性の肺症状をはじめ全身炎症性疾患として捉えられる。慢性の換気障害とガス交換障害のために動脈血低酸素血症や高炭酸ガス血症が生じ、高次脳機能への影響が考えられるがその報告は少ない。そこで本研究ではCOPD患者の認知機能を評価し、肺機能、低酸素血症の有無、呼吸困難度さらに日常生活活動(ADL)との関係を検討することを目的として実施した。【方法】 O大学医学部附属病院呼吸器外来に通院する60歳以上のCOPD患者で、内科的標準治療がなされ症状安定期にある39名(男性23名、女性6名)、平均年齢72.2±7.0歳を対象とした。対象者の肺機能はVC 2.94±0.83L、%VC 94.5±21.13%、FEV1.0 1.35±0.62L、%FEV1.0 65.51±27.81%であり、GOLD分類の軽症7名、中等症21名、重症8名、最重症3名であった。なお、既に認知トレーニングを受けている症例、60歳未満の症例は対象より除外した。 評価はスパイロメトリーによる肺機能テストを実施し、パルスオキシメータにより低酸素血症の有無を観察した。認知機能は面接法にてMini-Mental State Examination(MMSE)30点満点、呼吸困難度はMedical Research Council(MRC)スケール、日常の活動性は日常生活活動(ADL)テスト身辺動作15点満点と移動動作15点満点を用いて評価した。 解析は肺機能(GOLD)の分類、低酸素血症の有無、MRCスケール各指標の程度ごとにMMSEの平均値を求め比較した。さらにMMSEと各指標の順位相関を求め検討した。また、MMSEの再現性を検討するために、2ヶ月間の観察期間をあけて症状の変化を認めなかった8名において再評価を実施した。【説明と同意】 本研究はO大学医学部倫理委員会の承認を得て臨床研究として実施した。対象者には事前に口頭と文面にて研究内容と方法を説明し同意書を得た。【結果】 1 MMSEの結果 全対象者の平均は25.3±2.3点であった。 2 MMSEの信頼性 8名において初期評価25.3±1.6点、2ヵ月後の再評価25.5±2.3点であり有意な差はなく、両評価の相関係数は0.80(P<0.01)であった。 3 MMSEと肺機能(GOLD)の分類との関係 GOLD分類の軽症26.0±2.2点、中等症25.7±2.6点、重症24.5±1.9点、最重症24.0±2.0点であり、それぞれ有意な差は認められなかった。また、両指標の間の順位相関はrs=-0.27(P<0.05)と低い関係であった。 4 MMSEと低酸素血症の有無との関係 低酸素血症無し(低酸素無群)26.1±2.4点、運動時低酸素血症有り(低酸素有群)23.9±1.9点、常時血酸素血症有り在宅酸素療法(在宅酸素群)24.1±1.4点であった。低酸素無群と低酸素有群および在宅酸素群との間に有意な差(P<0.05)が認められた。また、両指標の間に有意な順位相関rs=-0.40(P<0.01)が認められた。 5 MMSEとMRCスケールとの関係 Grade1 26.7±2.2点、Grade 2 25.8±2.4点、Grade 3 23.9±1.6点、Grade 4 23.3±1.2点であった。Grade1と3および4、Grade2と3との間に有意な差(P<0.05)が認められた。また、両指標の間に有意な順位相関rs=-0.51(P<0.01)が認められた。 6 MMSEと活動量との関係MMSEとADLテスト(移動動作)平均8.3±3.2点との間に有意な順位相関rs=-0.41(P<0.05)が認められた。しかし、ADLテスト(身辺動作)平均12.8±3.2点との間には有意な関係は認められなかった。【考察】 MMSEの再現性はFolsteinら等の再検査法で報告があり、非常に高い信頼性が示されている。我々の今回の60歳以上のCOPD患者においても相関係数は0.80と高い信頼性が示された。MMSEは30点満点で評価され、認知障害のcut off値は23/24点が推奨されている。COPD患者の認知機能の平均値25.3±2.3点は軽度認知障害の疑いのあるレベルであるが、一般高齢者と同等レベルと考えられた。しかし、MMSEは低酸素血症の有無、MRCスケールの程度で有意な差が認められ、また各指標との相関が認められた。さらに日常の移動動作の程度との間にも相関が認められた。この結果より低酸素血症を示す症例、動作時の呼吸困難が強い症例、日常活動レベルの低い症例ほど認知機能が低いことが考えられた。このことに共通する因子は活動性の低下と低酸素血症の存在であり認知機能に大きく関わっていることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】 今後、同対象者に運動療法を実施し、認知機能に対する運動療法の有効性を検討するための基礎データとして意義は重要である。
著者
荒尾 雅文 石濱 裕規
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E3P3173, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】我々は、脳卒中者への訪問リハビリの効果検証を進めているが、その中で特に効果が得られる項目の一つとして床からの立ち上がりがある.また床からの立ち上がり能力向上により、バランス、筋力、歩行能力の改善といった二次的な効果が得られる場合もある.本研究では訪問リハビリが床からの立ち上がりへ及ぼす効果、また床からの立ち上がりの獲得が歩行能力にどう影響しているかを検討する.【方法】対象は当法人訪問看護ステーションに新規依頼のあった脳血管障害者56名(出血24名,梗塞32名)である.対象者は男性33名、女性23名、平均年齢は69.1±11.9歳であり、発症からの期間は978.3±1301.1日であった.方法はリハビリ担当者がリハビリ開始時、開始後6か月時の2回、床からの立ち上がり、歩行能力等を評価することで行った.評価法は、床からの立ち上がりは、不能・台を使い可能・台無しで可能の3段階(3点満点)で得点化し、歩行能力はFIMを使用した.【結果】訪問リハビリ開始時と6ヵ月後の床からの立ち上がりを比較すると、改善した者は56名中25名(44.6%)であった.またリハビリ開始時の床からの立ち上がりの平均得点は1.1±0.3点、開始後6ヵ月では1.7±0.8点と2群間で統計的有意差がみられ(p>0.01)床からの立ち上がり能力の得点は改善していた.次に歩行能力は床からの立ち上がり改善群(以下改善群)は4.4±1.6点から5.6±0.8点、改善無群は3.1±1.9点から3.8±2.0点と両群で改善が見られた(p>0.01)が、歩行利得は改善群1.2±1.1点、改善無群0.7±1.0点と改善群の方が大きかった(p>0.05).【考察】在宅では床からの立ち上がりが必要となるケースが多い.この原因は大きく3つある.まず一つ目は病院との生活環境の相違によるもの.2つ目は転倒後立ち上がれないため、3つ目は炬燵などを使い床に座って過ごしたいためである.しかし床からの立ち上がりの練習は不十分な場合が多く、発症からの期間が長くても練習するのは初めてという利用者もいる.今回の結果では訪問リハビリのアプローチにより、利用者の44.6%で床からの立ち上がりが改善していた.この成果は利用者のADL、QOLの向上につながり、また転倒後の介助を容易にするため、介助者の介護負担も軽減できると思われる.また床からの立ち上がりの能力が上がることにより歩行能力がより向上していることが示された.床からの立ち上がり動作は、筋力やバランス能力を向上させ歩行能力にも影響を与えた可能性がある.この研究から訪問リハビリで床からの立ち上がりにアプローチすること重要であることが確認できた.
著者
野末 琢馬 高橋 健太 松山 友美 飯嶋 美帆 渡邊 晶規 小島 聖
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0569, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】ストレッチは可動域の拡大や組織の柔軟性向上,疲労回復効果などが報告されており,理学療法の現場においても多用されている。近年,ストレッチが柔軟性に与える影響だけでなく,筋力にも影響を及ぼすとした報告も散見される。Joke(2007)らは10週間週3回のセルフストレッチ(自動ストレッチ)を継続して実施したところ,発揮筋力が増大したと報告している。ストレッチによる筋力の増大が,他動的なストレッチにおいても得られるとすれば,身体を自由に動かすことが困難で,筋力増強運動はもちろん,自動ストレッチができない対象者の筋力の維持・向上に大変有用であると考えられた。そこで本研究では,長期的な自動および他動ストレッチが,筋力にどのような影響を及ぼすか検討することを目的とした。【方法】被験者は健常学生48名(男性24名,女性24名,平均年齢21.3±0.9歳)とし,男女8名ずつ16名をコントロール群,他動ストレッチ群,自動ストレッチ群の3群に振り分けた。他動ストレッチ群は週に3回,一日20分(各筋10分)の他動ストレッチを受け,自動ストレッチ群は同条件で自動運動によるストレッチを実施した。対象筋は両群とも大腿直筋とハムストリングスとし,介入期間は4週間とした。ストレッチ強度は被験者が強い痛みを感じる直前の心地よい痛みが伴う程度とした。測定項目は柔軟性の指標として下肢伸展拳上角度(以下SLR角度)と殿床距離を,筋力の指標として膝関節90°屈曲位の角度で膝伸展・屈曲の最大等尺性筋力を測定した。測定は4週間の介入前後の2回行った。測定結果は,それぞれの項目で変化率(%)を算出した。変化率は(4週間後測定値)/(初回測定値)×100とした。群間の比較には一元配置分散分析を実施し,多重比較検定にはTukey法を用いた。有意水準は5%とし,統計ソフトにはR2.8.1を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本学の医学研究倫理委員会の承認を得て行った。被験者には事前に研究内容について文書および口頭で説明し,同意が得られた場合にのみ実施した。【結果】膝伸展筋力の変化率はコントロール群で95.6±8.7%,他動ストレッチ群で115.2±21.2%,自動ストレッチ群で102.9±10.0%であった。コントロール群と他動ストレッチ群において有意な差を認めた。膝屈曲筋力,SLR角度,殿床距離に関してはいずれも各群間で有意差を認めなかった。【考察】本研究結果から,長期的な他動ストレッチにより膝伸展筋力の筋力増強効果が得られることが示唆された。筋にストレッチなどの力学的な刺激を加えることで筋肥大に関与する筋サテライト細胞や成長因子が増加し活性化され,筋力増強効果が発現するとされている(川田ら;2013)。本研究では,ストレッチによる,SLR角度や殿床距離の変化は見られなかったが,長期的なストレッチによる機械的刺激そのものが,上記に述べた効果に貢献し,筋力増強効果が得られたと推察される。膝屈曲筋力において筋力増強効果を認めなかった点について,両主動作筋の筋線維組成の相違が原因と考えられた。大腿四頭筋はTypeII線維が多いのに対し,ハムストリングスはTypeI線維が多く(Johnsonら;1973),筋肥大にはTypeII線維がより適しているとされている(幸田;1994)ことが影響したと考えられた。自動ストレッチによって筋力増強効果を得られなかったことに関しては,自己の力を用いて行うため,他動ストレッチに比べて筋を十分に伸張することができず,伸張刺激が不足したためと推察された。【理学療法学研究としての意義】他動ストレッチを長期的に行うことで筋力増強効果を得られる可能性を示唆した。他動的なストレッチが筋力にどのような影響を及ぼすのか検討した報告はこれまでになく,新規的な試みだと言える。他動的なストレッチを一定期間継続することで筋力の維持・向上に寄与することが明らかとなれば高負荷のトレーニングが適応とならない患者や,自分で身体を動かすことのできない患者にとって有用である。
著者
橋立 博幸 長田 けさ枝 森本 頼子 澤田 圭祐 柴田 未里 井上 智子 萩原 恵未 笹本 憲男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ea1006, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 超高齢者への運動介入により筋力増強効果が得られることが報告されてきているが,超高齢者における筋力増強効果と歩行機能向上効果との関連については十分に検証されていない.本研究では,要支援認定を受けた85歳以上の超高齢者に対して,12か月間の運動器機能向上プログラムを実施し,筋力増強効果と歩行機能改善効果との関連を検証することを目的とした.【方法】 対象は,介護保険制度下における介護予防通所介護を初めて利用した要支援高齢者17人(要支援1:7人,要支援2:10人,男性:5人,女性:12人,年齢87.2±2.5歳)であった.介護予防通所介護での運動介入は,12か月間,1~2日/週,1時間30分/日,実施し,主な介入内容として,ストレッチ,筋力増強運動,姿勢バランス練習,歩行練習,日常生活動作指導を行った.実際の介入は理学療法士,介護福祉士,看護師,等の職種が協働して行い,疼痛および疲労等の症状に応じて調整した.介護予防通所介護での運動介入実施前の初回評価時および運動介入実施後6か月ごとの生活機能について,身体機能(下肢筋力,姿勢バランス能力,歩行機能),日常生活活動(ADL)を評価した.身体機能は,脚伸展マシントレーニング機器レッグプレス1回最大挙上量(1RM),片脚立位保持時間(OLS),functional reach(FR),timed up & go test(TUG),通常歩行速度(NGS)および最大歩行速度(MGS)をそれぞれ計測した.ADLは老研式活動能力指標(TMIG-IC)を用いて調べた.初回評価時と運動介入12か月後の1RMの結果から,下肢筋力が増加した群(下肢筋力増加群,n=9)と低下した群(下肢筋力低下群,n=8)の2群に群別し,各群において初回評価時および運動介入実施後6か月ごとに評価した下肢筋力,姿勢バランス能力,歩行機能,ADLを示す各指標についてFriedman検定および有意確率をBonferroni補正した多重比較検定を用いて比較した.【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,概要を対象者および家族に対して事前に口頭と書面にて説明し,同意を得た後実施した.【結果】 初回評価時における両群の1RM,OLS,FR,TUG,NGS,MGS,およびTMIG-ICの各評価結果は有意差が認められなかった.介護予防通所介護における運動介入は,12か月間で合計77.9±18.8回/人,1月当たり平均6.5±1.6回/月実施され,12か月間の介入期間中,新たな疾病への罹患,症状の増悪,転倒の発生はなかった.た.初回評価時と各運動介入実施後の追跡評価時における各指標を比較した結果,下肢筋力増加群では,初回評価時に比べて1RMは介入6か月後に37.1%,介入12か月後に40.4%有意な増加を示すとともに,TUGは介入6か月後に22.1%,介入12か月後に22.9%,NGSは介入12か月後に27.3%,MGSは介入12か月後に18.3%,それぞれ有意な向上が認められた.一方,下肢筋力低下群では,1RMが介入12か月後に13.9%の有意な低下を示し,他の歩行の評価指標に有意な変化は認められなかった.また,両群ともにOLS,FR,およびTMIG-ICには有意な変化は認められなかった.【考察】 初回評価時から介入6か月ごとの各追跡評価時の指標を比較した結果,下肢筋力増加群では介入6か月後および12ヵ月後における1RMが増加するとともにTUG,NGSおよびMGSが有意に改善し,下肢筋力低下群では1RMが12か月後に有意に低下し,他の指標に変化がみられなかった.これは本研究における運動介入では,筋力増強効果と歩行練習効果が相乗的にTUGおよび歩行速度の有意な改善に反映されたと考えられた.また,これまでの先行研究では,地域に在住する健康な前期高齢者および後期高齢者においても1年後の歩行機能が低下し得ることが報告されており,超高齢者では筋力および歩行機能の低下が加速すると考えられている.本研究の対象者において,歩行機能の向上およびADLの維持が認められたことから,12か月間継続的に実施した運動器機能向上プログラムによって筋力増強効果を得ることが歩行機能の長期的な改善効果を得るために重要な要素であると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 要支援認定を受けた85歳以上の超高齢者に対する12か月間の運動器機能向上プログラムによる筋力増強効果と歩行機能改善効果との関連を検証し,継続的な運動器機能向上プログラムによる筋力増強は超高齢者の長期的な歩行機能の維持・改善に重要であることを示唆した.
著者
若林 諒三 浅井 友詞 佐藤 大志 森本 浩之 小田 恭史 水谷 武彦 水谷 陽子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101957, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】立位安定性は、外界に対する身体の位置関係を視覚、前庭感覚、足底感覚、固有感覚情報により検出し、それらの求心性情報が中枢神経系で統合され、適切な運動出力が起こることで保たれている。立位安定性を保つ上で特に重要となるのが、自由度の高い頭部の運動を制御することである。頭部の制御は、前庭感覚、頚部からの求心性情報をもとに頚部周囲筋が協調的に活動することで、姿勢変化に応じて頭部の垂直固定、意図した肢位での保持、外乱刺激に対する応答が可能となる。そのため、前庭機能障害や頚部障害の患者では前庭、頚部からの求心性情報の異常により立位安定性が低下することが報告されている。また、健常成人においても静止立位と比較して頭部回旋運動時の立位重心動揺は有意に増加することが報告されている。一方、頚部関節位置覚は前庭感覚とともに頭部の位置・運動情報を中枢神経系に提供していることから、頭部運動時の立位安定性に関与する可能性が考えられるが、その関連性は明らかでない。したがって今回、頭部回旋運動時の立位安定性と頚部関節位置覚の関連性についての検討を目的に研究を行ったので報告する。【方法】健常成人25 人(28.6 ± 6.1 歳)を対象とした。被験者に対して頚部関節位置覚の測定および頭部正中位での重心動揺、頭部回旋運動時の立位重心動揺の測定を行った。頚部関節位置覚の測定は、Revelらが先行研究で用いているRelocation Testを使用した。椅子座位にて被験者の頭部にレーザーポインタを装着させ、200cm前方の壁に投射させた。安静時の投射点に対する、閉眼で頚部最大回旋後に自覚的出発点に戻した時の投射点の距離を測定し、頚部の角度の誤差を算出した。測定時に被験者の後方にビデオカメラを設置し、我々が開発した解析ソフトを使用して解析を行った。頚部関節位置覚の測定は、左右回旋それぞれ10 回行い平均値を代表値として算出した。頭部正中位での重心動揺の測定は、Neurocom社製Balance Master®を使用して、modified Clinical Test of Sensory Interaction on Balanceにて行った(以下Normal mCTSIB)。Normal mCTSIB の条件1 は開眼・固い床面、条件2 は閉眼・固い床面、条件3 は開眼・不安定な床面、条件4 は閉眼・不安定な床面である。頭部回旋運動時の立位重心動揺の測定はNormal mCTSIBと同様の条件下で行い(以下 Shaking mCTSIB)、測定中の頭部回旋運動をメトロノームで0.3Hzに合わせて約60°の範囲で行うよう被験者に指示した。重心動揺の指標には重心動揺速度(deg/sec)を使用した。また、測定中に転倒したものは解析から除外した。統計処理はSPSSを使用し、Relocation TestとNormal mCTSIBおよびShaking mCTSIBの相関関係をピアソンの相関係数を用いて検討し、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】日本福祉大学ヒトを対象とした倫理委員会の承諾を得た後、対象者に本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。【結果】Relocation Testの平均値は5.36 ± 2.06°であった。Normal mCTSIBのすべての条件においてRelocation Testとの相関関係は認められなかった。Shaking mCTSIBの条件1 においてRelocation Testとの間に中等度の相関(r = 0.42)が認められた。【考察】本研究の結果より、健常成人において、Shaking mCTSIBの条件1 とRelocation Testとの間に中等度の相関関係が認められた。Honakerらの先行研究によると頭部回旋運動は立位安定性を低下させることが報告されている。また立位安定性保つ上で頭部の運動を制御することが必要であり、頭部の位置・運動に関する求心性情報を伝える頚部関節位置覚の正確性が重要であると考えられる。したがって、本研究では頚部関節位置覚と頭部回旋運動時の立位安定性との間に中等度の関連性が認められたと考えられる。また今回、Relocation TestとNormal mCTSIBやShaking mCTSIBの条件2、3、4 との間には相関関係が認められなかった。姿勢制御においては頚部関節位置覚以外にも、前庭感覚、視覚、足底感覚などの感覚系を含め様々な因子が関与する。本研究では健常成人を対象としており、閉眼や不安定な床面などで一部の感覚系が抑制された条件下では前庭感覚などの感覚系の個人差が反映されるため、頚部関節位置覚との相関関係が認められなかったと推察される。【理学療法学研究としての意義】日常生活活動において頭部を動かす機会は多く、姿勢安定性を保つために頭部の運動を制御することは重要であると考えられる。本研究において頚部関節位置覚が頭部回旋運動時の姿勢安定性に関連することが示されたことから、高齢者やバランス機能低下を有する患者において頚部関節位置覚の評価を行い、それを考慮した治療プログラムを立案することの必要性が示唆された。
著者
鈴木 静香 田中 暢一 村田 雄二 永井 智貴 高 重治 正木 信也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48102087, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 我々は、第47回日本理学療法学術大会において、結帯動作の制限と考えられる筋に対してストレッチを施行し、結帯動作の即時効果の変化を捉えた。そして、結帯動作の制限因子は、烏口腕筋、棘下筋であることを報告した。その後、「烏口腕筋・棘下筋は介入回数が増えることでより効果が増大し結帯動作は改善するのではないか?」また、「小円筋は介入回数が増えることで効果が出現し結帯動作は改善するのではないか?」という疑問が出てきた。そこで今回は、前回介入した筋に対して、介入する回数を増やし結帯動作の変化を捉えることを目的に研究を行なった。【方法】 対象は左上肢に整形外科疾患の既往のない健常者10名(男性7名、女性3名、年齢22~36歳)とした。結帯動作の制限因子と考えられる烏口腕筋、棘下筋、小円筋を対象とし、これらの筋に対してストレッチを週2回を2週間、計4回実施した。結帯動作の評価方法は、前回同様、立位にて左上肢を体幹背面へと回し、第7頸椎棘突起から中指MP関節間の距離(以下C7-MP)を介入前後で測定し比較を行った。各筋に2分間ストレッチを実施する群(烏口腕筋群、棘下筋群、小円筋群)とストレッチを加えず2分間安静臥位とする群(未実施群)の計4群に分類し、複数回の介入による結帯動作の経時的変化を検討した。よって、1回目介入前の値を基準値とし、C7-MPの変化は、基準値に対し各介入後にどれだけ変化したかを変化率として統計処理を行った。また、それぞれの筋に対する介入効果が影響しないよう対象者には1週間以上の間隔を設けた。統計処理では、各群について、複数回の介入による結帯動作の変化を検討するために対応のある一元配置分散分析を用い、多重比較にはTukey法を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての被験者に対して事前に研究参加への趣旨を十分に説明し、同意を得た。【結果】 棘下筋群の変化率の平均は、1回目10.8%、2回目11.4%、3回目15.7%、4回目19.5%であった。一元配置分散分析の結果、棘下筋群のみに有意差を認めた(p=0.0003)。しかし、多重比較では各回数間の有意差は認めなかった。また、烏口腕筋群や小円筋群や未実施群は、有意差は認めなかった。【考察】 結果では棘下筋群のみに有意差を認め、前回の介入でも棘下筋に効果を認めた。高濱らは、結帯動作の制限因子は棘下筋であると述べている。以上より、棘下筋に介入することで結帯動作を改善することができるとわかった。しかし、多重比較において、有意差を認めなかったため、どの回数間で効果が得られているのかを追究することができず介入回数についての考察に至ることができなかった。その原因としては、症例数が少ないことが考えられる。今後は症例数を増やし、複数回の介入による結帯動作の変化について取り組み、介入回数についても考察したいと考える。烏口腕筋では、前回、介入において即時効果を認めていたが、複数回の介入による結帯動作の変化は認めなかった。烏口腕筋は肩の屈筋であり、上腕骨の内面に付いているために伸展および内旋で緊張するという報告もあり、結帯動作における制限因子の可能性は高いと考えられる。しかし、今回有意差を認めなかった原因は、症例数が少ないことや、他にストレッチの強さや場所など方法になんらかの問題があったとも考えられる。今後、方法を確立した上で、症例数を増やし、複数回の介入による結帯動作の変化について取り組んでいきたいと考える。小円筋では、小円筋は介入回数が増えることで効果は出現し結帯動作は改善するのではないかと考えていた。しかし、即時効果・複数回の介入による効果はともに結帯動作の変化に有意差を認めなかった。高濱らは、結帯動作は肩の外転・伸展・内旋の複合運動であり、小円筋は内転位であるために下垂位では緩んでいると述べている。以上より、即時効果・複数回の介入による効果はともに結帯動作の変化に有意差を認めず、結帯動作における改善には小円筋は関係がないと考える。【理学療法学研究としての意義】 今回の結果より棘下筋に複数回介入することで、結帯動作の変化率はより増大することがわかった。臨床において結帯動作が困難な症例に対しての介入の一つとして有効である可能性がある。具体的な介入回数について追究できなかったため、今後の課題として取り組んでいきたい。
著者
福岡 進 岡田 匡史 亀山 顕太郎 石井 壮郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0926, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】近年,野球選手にフィジカルチェックを行い,早期に予防策を講ずる取り組みが広く行われるようになってきた。しかし,実際に障害予防に対する選手の意識を高めて有病率を低下させるには数多くの課題がある。その中で特に重要だと考える4つの課題を列挙する。1.障害に対する選手の予防意識を十分に高められないため,予防効果があがらない。2.フィジカルチェックにおいて,どの項目を優先的に調べていくべきかという基準が曖昧である。3.フィジカルチェック後,選手へフィードバックするまでに時間がかかる。4.データを取得してもそれを蓄積していないため,良質なエビデンスを構築できない。こうした課題を解決するためには新しいシステムの開発が必要である。そこで本研究の目的は,必要最低限のフィジカルチェックを行うことにより,投球障害肩・肘に関する近未来の発症確率を予測し,リアルタイムに選手にフィードバックを行うことで選手の予防意識を向上させるシステムを開発することとした。【方法】高校野球部員30名に対し無症候期にフィジカルチェックを行い,その後の半年間にどの選手が投球障害肩・肘を発症したかを1週間毎に前向きに調査した。フィジカルチェックデータと発症データをロジスティック回帰分析することで発症に有意に関連する危険因子を同定し,それらから発症確率を予測する回帰式を算出した。算出した回帰式にフィジカルチェックデータを代入することにより,選手一人一人の近未来の発症確率を予測するシステムを構築した。その後次シーズンに本システムを活用して,選手一人一人に発症確率と危険因子を伝え,予防策を指導した後,アンケートにて予防意識に関する調査を行った。【説明と同意】選手にはヘルシンキ宣言に基づき研究の主旨を説明し同意を得た上で研究を行った。また,「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し文書にて配布した。【結果】調査期間中に33%(10/30例)の選手が投球障害肩・肘を発症した。発症に有意に関連性のあった項目は挙上位外旋角度,肩甲帯内転角度,踵殿部距離であり,これらの因子を用いて発症確率を高精度に予測する回帰式を算出した(判別的中率87%)。算出した回帰式をExcelに組み込み,Excelのマクロ機能を活用することにより,上記3つのフィジカルチェックデータをパソコンに入力するだけで,リアルタイムに発症確率を表示するシステムを構築した。また,入力データは自動的にデータベースに組み込まれ,労せずデータを蓄積できるようにした。システム構築後の次シーズンに,本システムを導入したところ,96%の選手の予防意識は向上し,79%の選手に実際に予防に取り組む姿勢がみられた。【考察】本研究で発症に関連のある項目は,挙上位外旋角度,肩甲帯内転角度,踵殿部距離であった。これらの機能低下は発症に対する危険因子であり,優先的にチェックしていくことが重要であると考える。これら3項目は簡便であるため,現場の指導者や選手も行うことができると思われる。本システムではExcelのマクロ機能を活用したため,フィジカルチェックの結果をその場でフィードバックできた。今回,ほとんどの選手の予防意識は向上し積極的に予防に取り組むようになった。その理由として以下の2つのことが考えられた。1発症確率という具体的な数値を用いて選手一人一人の近未来を予測したこと。2フィジカルチェック後すぐにフィードバックしたことで,その結果が選手の印象に残りやすかったこと。我々のデータベースの規模はまだ小さいため,今後もデータの集積が必要である。しかし,本システムのマクロ機能により,入力されたデータは自動的にデータベースに蓄積されるため,今後システムの効果や妥当性の検証にかかる労力はかなり軽減される。したがって,本システムは,現場の選手のために効率的なフィジカルチェックを行うことができ,リアルタイムにフィードバックを行うことで選手の予防意識の向上を図ることができる。また,データも蓄積できることから,多方面からのデータ集積も簡便であると考える。【理学療法学研究としての意義】高校野球選手を対象に,必要最低限のフィジカルチェックを行うことで,投球障害肩・肘に関する近未来の発症確率を予測し,リアルタイムに選手にフィードバックできるシステムを開発した。理学療法士が臨床での経験を生かし,このようなシステムを構築することで,選手を障害から予防できると考える。今後,本システムを活用しデータベースを拡張していくことで,現場に良質なエビデンスを供給できるとともに普遍的な障害予防法の確立に寄与できるものと思われる。
著者
中岡 伶弥 櫃ノ上 綾香 羽崎 完
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI1071, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 筋連結とは,筋と筋のつながりのことを指し,隣接する筋の間は筋膜,筋間中隔などの結合組織や互いの筋線維が交差している。筋が連結している部位では,片方の筋が活動したとき,その筋に連なるもう一方の筋にまで活動は伝達するとされている。このことは,PNFやボイタなどの治療法にも応用されている。しかし,筋が連結しているかどうかについては,解剖学的な考察や経験に基づいており,筋の機能的な連結については明らかではない。そこで本研究では,前鋸筋と外腹斜筋に着眼し,この2筋間に機能的な筋連結が存在するのかを明確にすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男子大学生14名 (平均年齢21.1±0.7歳,身長172.4±5.6cm,体重62.4±8.4kg)とした。測定方法は,ベンチプレス台の上で背臥位になり,肩関節90°屈曲位で肩甲帯を最大前方突出させた。その肢位で,自重(負荷なし),体重の30%負荷・60%負荷をベンチプレスで荷重し,5秒間保持させた。施行順はランダムとした。測定は第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋の3箇所とし,前鋸筋は肋骨上で皮膚表面から視察・触察できる位置に,また,外腹斜筋は腸骨稜と最下位肋骨を結ぶ中点から内側方2cmの位置に筋線維の走行に沿って電極を貼った。筋活動の導出には表面筋電計(キッセイコムテック社製 Vital Recorder2)を用い,電極(S&ME社製)は,電極間距離1.2cmで双極導出した。サンプリング周波数1kHzとした。基準値を設定するために,徒手抵抗による最大等尺性収縮(Maximum Voluntary Contraction,以下MVC)時の表面筋電図を記録した。各筋のMVCの数値を100%とし,各負荷における数値を除した%MVCを算出した。解析方法は,第6肋骨前鋸筋,第8肋骨前鋸筋,外腹斜筋それぞれにおいて,自重,30%負荷,60%負荷の3群をFriedman検定を用いて比較し,多重比較検定としてScheffeの対比較検定を用いた。また,有意水準を5%未満とした。【説明と同意】 すべての被験者に対し,本研究の趣旨を口頭および文書にて説明し,署名にて研究協力の同意を得た。【結果】 第6肋骨前鋸筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で30.8%MVC,30%負荷で40.0%MVC,60%負荷で52.9%MVCであり,Friedman検定の結果,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。第8肋骨前鋸筋の筋活動量においても50パーセンタイル値は,自重で22.5%MVC,30%負荷で22.9%MVC,60%負荷で24.7%MVCであり,自重より60%負荷が有意に高値を示した(P<0.05)。外腹斜筋の筋活動量の50パーセンタイル値は,自重で12.6%MVC,30%負荷で17.1%MVC,60%負荷で26.3%MVCであり,自重より30%負荷・60%負荷の2群で有意に高値を示した(P<0.05)。いずれの筋においても30%負荷,60%負荷の間には有意な差は認められなかった。【考察】 前鋸筋と外腹斜筋の関係については,これまでに荒山らによって検討されている。彼らは,体幹筋強化トレーニングとして用いられるTrunk Curlを使用して,前鋸筋と外腹斜筋の筋連結を検討することを目的にしていた。それは,1)肘伸展0°,肩90°屈曲位で,最大努力で肩甲帯前方突出を行いながら,上体を起こす。 2)肘伸展0°,肩90°屈曲位で肩甲帯前方突出をせずに,上体を起こす。3) 胸部前面で,腕を組み上体を起こす。という3種類の上体起こしにより関係を示している。その結果として,前鋸筋の活動は外腹斜筋の活動を高めることが示唆され,付着部を共有し,筋線維走行の方向が一致する筋の相互作用を期待したエクササイズの有効性が示唆されたとしている。しかし,この方法では,上体を起こすことによって直接的に外腹斜筋を働かせているため,機能的な筋連結を明確にするという点では不十分である。そのため,本研究では外腹斜筋の作用である体幹の反対側への回旋や同側への側屈,前屈が起こらないように,被験者には背臥位でベンチプレスを荷重させた。直接的に外腹斜筋を活動させる条件下でないにも関わらず,前鋸筋の筋活動量が増すにつれ,外腹斜筋の筋活動量も増加した。肩甲帯の前方突出により前鋸筋が収縮すると,肩甲骨は外転し,胸郭は上方に引き上げられる。しかし,前鋸筋が最大筋力を発揮するためには,胸郭の固定が必要である。そのため,胸郭を下方に引き下げる外腹斜筋が固定筋として作用したため,外腹斜筋の活動がみられたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究で得られた結果は,治療にも役立てられるのではないかと考える。例えば,翼状肩甲の治療には前鋸筋のトレーニングが必要だといわれている。しかし,翼状肩甲の治療において筋連結を考慮すると,前鋸筋へのアプローチだけでなく,それに併せて外腹斜筋へのアプローチも行うことで,より肩甲骨の安定性は増すのではないかと思われる。
著者
鮫島総史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第51回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2016-04-27

わが国に理学療法士が誕生して50年が過ぎ,この間,理学療法先進諸国から多くの支援を受けるとともに,国際協力機構(JICA)等を通じて海外の理学療法の普及・啓発に協力してきた。また,海外大学院での学位取得や留学,海外で理学療法士として勤務するなど,わが国の理学療法士の国際活動は着実に裾野を広げている。 今日,日本理学療法士協会は,世界理学療法連盟(WCPT)で最大の会員数と最高の組織率を誇る組織となり,さらなる国際貢献とともに,わが国の理学療法士のキャリアパスとしての海外での活動や理学療法の輸出を含めた国際展開が求められている。そこで,本シンポジウムでは,現地での豊富な臨床教育経験を有する3人の演者に,①それぞれの国の保健制度,②理学療法士(卒前・生涯学習を含む)教育制度,③理学療法士の職域・臨床実践の動向をご報告いただき,日本理学療法士協会が取り組む海外展開を含め,わが国の理学療法士の国際的な職域・キャリアパスと理学療法の輸出・技術移転を含めた可能性について広く意見交換する機会としたい。 (抄録執筆:内山 靖,高橋 哲也)
著者
廣瀬 美幸 森山 紋由美 鈴木 孝夫 李 相潤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0231, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】最近、患者一人ひとりの栄養状態が極めて重要視され、栄養状態の管理・改善を院内栄養サポートチーム(Nutrition Support Team)で取り組んでいる病院もある。そこで、ラットを用いて運動と食餌・カロリー摂取量の違いが骨格筋にどのような影響を及ぼすかを比較・検討した。【方法】実験動物は生後8週齢の雄性Wistar系ラット15匹を用い、普通食自由摂取+運動負荷(CT)群、普通食制限摂取+運動負荷(LT)群、高カロリー食自由摂取+運動負荷(HT)群の3群各5匹に分けた。実験期間を通して、CT群には普通食、LT群にはCT群の餌摂取量の60%、HT群には普通食比カロリー120%、脂肪含有率332.6%の高カロリー食を与えた。その間、1日1回45分同時間帯に、最高速度25m/minのトレッドミル走行を5回/週、2週間実施した。実験終了後、対象筋である左右のヒラメ筋、足底筋、腓腹筋外側頭を摘出し、通常の方法、手順により筋線維横断面積を測定し、統計処理を行った。なお、運動負荷のない通常飼育の対照(C)群は先行研究の同週齢ラットの値を参考とした。【結果】体重:実験開始時には群間有意差は見られなかったが、実験終了時にはLT群はCT群に比較し78.1%の低値と有意差を示した。一方、CT群とHT群間には有意差は認められなかった。平均餌摂取量:HT群はCT群の摂取量の83.5%であった。筋線維横断面積:3種の筋においてCT群はC群と比較し有意の高値を示した。LT群はCT群と比較し有意の低値を示したが、C群と比較すると有意の高値を示した。HT群はヒラメ筋においてCT群と有意差が認められた。【考察】3筋の筋線維横断面積において、LT群はCT群、HT群と比較し有意の低値を示した。従って、栄養不良状態では筋萎縮が進行することが示唆された。これは、1)低栄養状態で筋内蛋白質の合成不良によること、2)筋線維横断面積は収縮の強度に関係するので、LT群は各筋の収縮の強さが飢餓の影響を受け低下したことが考えられる。一方、LT群はC群と比較すると有意の高値を示した。これはLT群は週5回の運動を実施したため、低栄養状態であっても運動負荷により筋萎縮予防、筋肥大が得られたと考えられる。 今回、足底筋と腓腹筋においてはHT群とCT群間に有意差が認められなかった。これは筋肉の主要構成成分は蛋白質であり、運動時には蛋白質の必要量が増加するが、今回与えた高カロリー食は蛋白質含有量が普通食とほぼ同じであったためと考えられる。蛋白質を多く摂取することで、より効果的に筋力増強が得られると考えられる。【まとめ】低栄養状態であっても運動負荷により筋萎縮予防、筋肥大が得られ、また蛋白質を多く摂取することにより、より効果的に筋力増強が得られると考えられる。
著者
田邊 素子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1661, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】理学療法初年次教育における基礎医学は重要である。本学では1年次に近隣の大学の支援を得て,人体構造を実際に見学,観察する機会として解剖見学実習を実施している。学内準備として,解剖学の知識,リハビリテーション専門職への心構えや意欲の向上を促す対応を行っている。実習後の簡易アンケートでは,実習について「大変良い」等高い評価を得ているが,具体的にどのような内容を学生が学べたかについては明らかにできていない。計量テキスト分析はテキスト型データから計量的分析手法を基に,内容分析を行う方法で,文字データがあれば詳細な分析が可能である。そこで今回,参加学生の解剖見学実習後の感想レポートを分析することにより,学生がどのような考えや学びを得たかについて明らかにし,本実習の教育的効果について検討することとした。【方法】本学の理学療法学専攻1年47名(男性30名,女性17名)のレポートを対象とした。解剖見学実習の実施は,実習説明オリエンテーション,実習直前のオリエンテーション(解剖のDVD視聴を含む),実習日,実習後の課題で構成される。実習当日は,学生は4グループにわかれ,部位別ローテーション 最後に自由見学時間をとって終了する。実習後の課題には,観察部位のレポート,見学実習後の感想レポートがあり,本研究では感想レポートを解析した。解析は,フリーソフトウェアのKH Coder(樋口ら)を使用した。解析手順は,レポート本文をテキストファイルに変換し,ソフト上で前処理の後,本文から語句を抽出した。「理学療法」,「解剖見学実習」や大学名などの実習に関わる語句,「前十字靭帯」等の解剖学用語など約100語を複合語として登録し抽出した。47名全員のレポートから最頻150語を抽出し,階層クラスター分析および共起ネットワークにて内容を検討した。【結果】総抽出語は41,607語であった。最頻出の上位10語は「脳」「見る」「思う」「実習」「見学」「実際」「今回」「感じる」「自分」「筋」であった。抽出語の階層クラスター分析では12クラスターが得られた。クラスターの概要は,実習への感謝,理学療法士としての心構え,実習参加への気持ち,内臓等の観察内容,靭帯名称,教科書と観察内容の統合,脳・神経系に関する内容,解剖学と人体構造,リハビリテーションと多岐にわたった。共起ネットワーク分析では,「脳」を中心に内臓,上肢,下肢等の観察部位,「見る・思う」について実際に観察することでの理解,実習への感謝としてご献体への感謝,理学療法士と患者や治療などの関係性が明らかになった。【結論】解剖見学実習は,人体構造の具体的な理解を拡充するとともに,教科書と観察事項の統合,医療専門職としての動機付け,ご献体への感謝,など,理学療法士を目指す上で,認知領域,情意領域の双方の教育的効果が得られたと考える。
著者
米ヶ田 宜久 高濱 照 壇 順司 国中 優治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CbPI2248, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】前腕の回内の可動域測定は、近位橈尺関節と遠位橈尺関節に加え手関節の可動性を含めた角度にて測定している。また、高齢者に多発する橈骨遠位端骨折後に問題となる前腕の可動域制限を考える上で、日常生活上、最もよく使用される回内の可動域を正確に測定することが重要であり、可動域を改善するためには、橈骨と尺骨での純粋な回内運動とその制限因子を把握する必要がある。今回、前腕の軸回旋のみの可動性を”真の回内”と位置づけ、通常の可動域と区別し可動域測定の指標となる角度を算出した。さらに回内の動きを制動する要因について、遺体解剖の所見により検討した。【方法】対象は健常人55名(男性30名、女性25名、年齢21.13±2.84歳)、110肢とした。回内の可動域測定方法は、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会の測定方法に基づき、上肢下垂位から肘関節を90°屈曲し、基本軸を上腕骨、移動軸を手指伸展した手掌面にて測定した。また、可動域の制動となる要因を、熊本大学医学部形態構築学分野の遺体、左右14肢を用い測定・観察を行った。まず健常人での回内可動域を測定し、次に回内を制動する可能性の高い回外筋に着目し、切断前後の可動域の差を測定した。測定方法は健常人と同じ方法を用いた。尚、手関節の可動性はほとんどなかった。また関節包・靭帯のみを残した標本を作成し制動要素を観察した。さらに橈骨粗面が尺骨に衝突し制動要因となるかを観察した。その後、健常人の真の回内を測定した。方法は、上肢下垂位から肘関節を90°屈曲し、基本軸を上腕骨、移動軸を尺骨頭背側面の最も高い部位とリスター結節背側面の最も高い部を結ぶ線にて測定した。検定には全てt検定を用いた。【説明と同意】対象者には本研究の参加に際し、事前に研究の内容を説明し、同意を得た上で実施した。また、生前に白菊会にて同意を得ている遺体を用いた。【結果】回内の可動域は108.72±16.17°、男性106.53±17.44、女性111.36±14.22°であり性別間に有意差はなかった。次に遺体解剖の所見から、回外筋を残した状態での回内角度は45.57±8.84°であり、切断後は56.42±9.35°となり、回外筋切断後の可動域に有意な差を認めた(P<0.01)。また、靭帯・関節包の制動要因については、外側側副靭帯・輪状靭帯の緊張が高くなることが観察された。骨は14肢とも橈骨粗面は尺骨と衝突しなかった。これは解剖用のメスを橈骨粗面と尺骨の間に挟み、最大回内させても容易にメスを抜き出すことができた事から骨の衝突はないといえる。その後、健常人の真の回内を測定した。可動域は86.09±16.52°であり、回内との可動域に有意な差が認められた(P<0.01)。また、性別比較では男性87.33±15.52°、女性84.60±17.69°であり、回内と比較し有意な差が認められた(P<0.01)。性別間に有意な差はなかった。【考察】回内角度は健常人108°、遺体45°であること、遺体による回外筋の切断前後の可動域の差を約11°認めたことから制動の大きさを示している。しかし、健常可動域にはまだ不十分である。そこで、他の要因として、近位橈尺関節周囲の軟部組織と橈骨と尺骨の衝突、手関節の可動性が考えられる。靭帯・関節包の観察により外側側副靭帯、並びに輪状靭帯の緊張により回内制動されることが確認された。また、橈骨と尺骨の衝突は、回内位で生じないことが確認できた。これは橈骨の生理的湾曲と橈骨頭が楕円形であることで衝突を回避し、より大きな可動域を確保しているものと考えられる。しかし、そのまま回内への可動を許すと近位橈尺関節は脱臼するため、これらを制動する要因として橈骨頭の軸回旋を安定化させる、外側側副靭帯と輪状靭帯が緊張することが、回内制動に最も適していると考えることができる。また外側側副靭帯は橈骨頭の上端より上の部分から、内下方に走行していることも制動に適しているのではないかと考えられる。また、健常人の真の回内は約86°であり、回内と比較すると22°の角度を手関節が担っている。遺体で回外筋切断後も約56°であったこと、健常人での回内と真の回内の角度に約22°の差を認めることから手関節部も大きな制動要因になる可能性が高いと考えられる。これらのことから回外筋・外側側副靭帯と輪状靭帯の変性、手関節の柔軟性が真の回内の可動性を制限する要因になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】回内の可動性の測定において、真の回内と回内に分類して考えることで、可動性の異常に対する原因を切り分け、治療対象を明確化でき、回内の測定はこれら2種類の可動域に着目する必要があると言える。また、回外筋・側副靭帯・輪状靭帯・手関節の変性は回内制動の原因となることが示唆された。
著者
野田 優希 古川 裕之 福岡 ゆかり 松本 晋太朗 小松 稔 内田 智也 藤田 健司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101534, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 近年、各種スポーツに関する外傷・障害調査は多数報告されているが、バレーボールに関する報告は比較的少ない。過去の報告では、その多くが全体もしくは男性のみ、女性のみの疾患別の割合を示したものであり、傷害と性別の関係を分析した報告は我々が渉猟し得た限りではみられない。そこで今回、2007年4月から2011年10月までに当院を受診したバレーボール競技者の傷害調査を行い、男女間で傷害発生部位が異なるか否か、また各部位ごとの発生傷害に違いがみられるかについて傷害発生率をもとに検討した。【方法】 2007年4月から2011年10月までに当院を受診したバレーボール競技者718名1524件(男性431件、女性1093件)のうち30代未満の競技者(469名、1046件)を男女に分けた(男性:142名、332件、女性:327名、714件)。傷害部位は、肩関節、腰部、膝関節、下腿、足関節、足部、その他の7部位に分け、各部位ごとの傷害発生率を算出した。また、各部位で傷害を疾患別に分類し疾患別傷害発生率を算出した。分析については、各部位ごとの傷害発生率が男女間で違いがみられるか検討し、さらに各部位内の疾患別傷害発生率が男女間で違いがみられるか検討した。統計学的検定には、カイ二乗独立性の検定を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 当院倫理委員会の承認を得、各被験者には本研究の趣旨と方法について説明し同意のうえ実施した。【結果】 各部位別の傷害発生率は、肩関節は男子で11.8%、女子で7.6%、腰部は同様に11.8%、13.6%、膝関節は27.6%、23.8%、下腿は5.6%、8.3%、足関節は21.7%、14.7%、足部は7.1%、16.0%で部位ごとの傷害発生率に性差はみられなかった。各部位内での疾患別傷害発生率では、肩関節と腰部、足部で男女間に違いがみられた。これら3部位内において男女間で傷害発生率が異なる傾向がみられたのは、肩関節では、インピンジメント症候群と腱板炎・腱板断裂でともに男性の発生率が高い傾向であった。腰部では椎間板性腰痛症でこれも男性の発生率が高い傾向であった。足部では中足骨骨膜炎・疲労骨折、扁平回内足で、これは女性の発生率が高い傾向であった。【考察】 バレーボールの傷害特性として、肩関節、腰部、膝関節、足関節に傷害が多いことは周知のとおりである。また、バレーボールは男女問わず小学生から中高年まで幅広い年齢層に競技者が多いスポーツである。そこで今回傷害発生率に性差がみられるか検討した。選択した7部位の傷害発生率に性差はみられなかったが、これはバレーボールの傷害において男女ともにこれらの部位に傷害発生率が高いことを示しておりこれまでの報告を支持する結果となった。肩関節、腰部、足部において男女間で違いがみられた。肩関節では、男性においてインピンジメント症候群、腱板炎・腱板断裂の発生率が高く、腰部では椎間板性腰痛症の発生率が高い傾向であった。また、足部では女性において扁平回内足、中足骨骨膜炎・疲労骨折の発生率が高い傾向であった。これらのことから、男性ではスパイク時に肩関節へ繰り返しストレスが加わり関節運動の破綻をきたしていること、またスパイク時の体幹の伸展屈曲動作により椎間板へストレスが生じていることが推察された。女性においてはブロック・スパイクジャンプ時・着地時に足部へ繰り返される荷重ストレスが傷害発生の要因であることが考えられた。試合を見ていても、男性では一発の強烈なスパイクで得点が決まり比較的ラリーが短いのに対し、女性では長いラリーの末得点が決まることが多い。このような試合の流れの違いが、今回の疾患別傷害発生率に男女間の違いとなって表れたのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 スポーツ現場、日々の臨床においてバレーボール競技者を治療する際に感じている男女間での傷害の違いを提示することができた。バレーボールにおける傷害と性別の関係を知ることで、より効果的にトレーニング指導、傷害予防を行ことができる可能性が示唆された。