著者
田村 孝
出版者
千葉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

今年度は、ペルガモン王国の遺した遺物(美術品)について、集中的な研究を行った。第一に、8月にベルリンのペルガモン美術館を再訪し、ここに所蔵されている「ゼウスの大祭壇」に施されている浮彫の実見と写真撮影をおこなった。この王国がいかなる意図をもってこのような巨大な浮彫を造り、公衆の目に触れるところに展示したのかは、王国のおかれた国際的な立場や国王権力の大きさを表象していると考えられるが、そうした意義を深く追求かつ考察するためにも、まず実見が重要なのである。さらに平成19度の訪問した際に見られなかったペルガモン国王「アッタロス一世」の頭像も実見・撮影した。第二に、同じ調査旅行でローマ国立博物館所蔵の「妻を殺して自害するガリア人の首領像」、「アッタロス二世全身像」、またヴァティカン美術館に所蔵されている「ガリア人頭像」、「戦うペルシア人像」、カピトリーニ美術館所蔵の傑作「瀕死のガリア人像」、ナポリ国立考古学博物館に所蔵されている「エウメネス二世青銅頭像」、「フィレタイロス頭像」などペルガモン彫刻の傑作(あるいはその模刻像)を実見し撮影に成功した。第三に、J.J.Politt, Art in the Hellenistic Age, Cambridge, 1986(2008) ; F.Queyrel, L'autel de Pergame, Paris, 2005を始めとするヘレニズム時代の美術史(彫刻史)関係の著作を精読した。これらは古代東地中海世界のヘレニズム諸王国がおのれの政治権力を内外に広く知らしめる表彰として、神話世界における大征服物語に関する浮き彫りを施した巨大記念建築物を造りあげたことを詳述した著作で、ヘレニズム時代における一王国が戦乱の相次いだ時代をどのようにして生き抜いていったのかを考察する上で極めて重要な意義をもつものなのである。
著者
本多 瑞枝
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.187-197, 1985-06-01

Duchenne型進行性筋ジストロフィー症(DMP)の心機能を3年間にわたって観察し,生存例と死亡例を比較検討した。対象はDMP35例(平均年齢16歳,骨格筋運動機能障害stageV〜VIII)で,観察期間中10例(28.6%)が死亡した。その死因は,心不全(6例)と呼吸不全(4例)であった。これらに原則として年1回心機図および心超音波検査を行ない,駆出時間と前駆出期の比(ET/PEP),左室拡張末期径,平均左室後壁収縮速度(mPWV),最大左室後壁拡張速度(maxDPWV)を計測し,心超音波断層像より左室局所壁運動を観察した。死亡前の検査では,死亡例は生存例よりET/PEP,mPWV,maxDPWVの低下と左室拡張末期径の増大を示した。特に心不全死例は心機能障害が著明であった。3年間の心機能の経過をみると,生存群ではET/PEP,mPWV,maxDPWVなどが軽度に低下した。心不全で死亡した症例は,死亡の2〜3年前は生存群と区別が困難であった。しかし,その後心機能障害が急激に進行し,死亡前には著明な心拡大と広範な左室壁運動低下をみとめた。剖検所見は高度の心筋線維化を示した。これに対し,呼吸不全で死亡した症例の経過は心不全死例に比べ緩徐であった。呼吸不全死例はいずれも骨格筋病変が重症で,著明な肺機能障害を特徴とした。このようにDMPでは心筋病変と骨格筋病変の進展は必ずしも並行せず,心機能障害が急速に進行する場合がある。しかも,心不全症状は死亡直前まで明らかでないことが多い。しかし,心超音波法と心機図を併用して,心機能を経年的に観察することにより心不全の早期発見が可能であり,これらはDMPの治療上有用な検査法と考えられた。
著者
忍足 俊幸
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

糖尿病網膜症における神経細胞死にはミトコンドリア・カスペース依存性経路が関与することを網膜器官培養を用いて解析した。また、同時に小胞体ストレス関連細胞死経路も糖尿病誘導神経細胞死に関与していることを網膜培養及び人糖尿病網膜組織切片を用いて解析した。このことからミトコンドリア・カスペース依存性経路と小胞体ストレスの間には分子レベルでのクロストークがあることが示唆された。さらにBDNF,NT-4,citicolineは糖尿病誘導神経細胞死を救済し再生を促進することを確認した。特にNT-4は糖尿病環境における神経保護・再生に最も適した神経栄養因子であることが示唆された。
著者
宮本 寛子
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

2006/2007年のシーズンまでに、IceCube検出器は計22本のストリングが建設され、2007年8月より完成時の約30%の体積でデータを取得し続けている。2007/2008年のシーズンでは、18本のストリングが完成し、昨年度の建設速度を更に凌ぐ勢いで進められた。データを解析する際、頻度の少ない高エネルギー事象を確実に取り出すため、膨大なバックグラウンドの除去が必要であるが、そのために、再構築された事象の始点と角度を用いて、その事象がIceCubeのターゲットボリューム内で起こった事象かどうかを判断するプログラムを開発し、シミュレーションデータと合わせて解析を進めた。昨年に引き続き、AMANDA-II、9ストリングIceCube(IC-9)での解析を進め、共同で論文を発表した。また、詳細に較正した光検出器(GoldenDOM)を南極へ送り出し、同様に氷中に設置されたスタンダードキャンドルである窒素レーザーからの信号のデータを合わせて、氷の特性を含めたデータの解析手法を構築すべく解析が進行中である。また、これまでに詳細な測定を行って来たPMTの較正に関する測定、解析の方法、及びデータ、系統誤差などをまとめた論文を近々発表する予定である。
著者
三浦 佑之 栃木 孝惟 中川 裕 荻原 眞子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

多くの民族や地域において、口承文芸が衰亡に瀕し忘れられようとしている現在、一方では、国家的、民族的なアイデンティティ発揚のために英雄叙事詩が見直されている場合もあり、英雄叙事詩を学際的に考察することは緊要の課題である。しかも、ユーラシア大陸の西の果てから日本列島に至るまでのさまざまな民族に語り継がれてきた英雄叙事詩を考えることは、単に口承文芸研究という狭い領域にとどまらず、それぞれの民族や地域の言語・文化・歴史・生活の総体を見通すことだという点において重要であり、今回の共同研究「叙事詩の学際的研究」によって、我々は多くの知見を得ることができた。4年間にわたる研究期間に、我々は、20回以上の研究発表を行い、さまざまな議論を交わすことができた。そこで取り上げられた地域(あるいは民族)は、カザフ・ロシア・モンゴル・シベリア・中国東北部・アイヌ・日本など、ユーラシア全域を覆っていると言っても過言ではない。そして、その議論の中で、叙事詩や口承文芸の様式や表現について、多くの時間を割いて議論をくり返したのは当然であるが、その他にも、語り方や語り手、伴奏楽器の有無、その継承の仕方、語ることと書くことなどについても意見交換を行うことで、それぞれの地域や民族における差異と共通性について、多くの有益な成果を得ることができたのである。もちろん、今回の共同研究だけで、ユーラシアの叙事詩や口承文芸のすべてを理解したとは言えないが、興味深い研究発表と長時間の質疑を通して、我々が、今後の研究の大きな足掛かりを手に入れたのは間違いないことである。その成果の一端は、報告書『叙事詩の学際的研究』に収めた研究論文5篇と、口承資料の翻刻4篇に示されているが、今後も、その成果を踏まえて叙事詩研究を深めて行きたいと考えている。
著者
Ando Toshio
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.75-91, 2004-03-31
被引用文献数
1

後続の研究者の便宜に供するため,花卉園芸学研究室によって1988年以来行われてきた南米での植物探査の記録を残すこととする.探査はナス科Petunia属に傾注している.但し, Jussieu (1803)の定義した広義のPetuniaであり,狭義のPetunia (sensu Wijsman)属とCalibrachoa属を含んでいる.1995年から2001年までの7年間の全走行距離は69,191km (アルゼンチン=27,123km,ブラジル=31,308km,メキシコ=2,347km,パラグアイ=4,748km,ペルー=840km,ウルグアイ=2,825km)に達し,採集した標本は合計858点(アルゼンチン=210点,ブラジル=595点,メキシコ=1点,パラグアイ=37点,ウルグアイ=15点)に達した.前報[2]に記録した1988年〜1994年に比べて,走行距離は上回るものの,採集標本数は大幅に減少した.分布の周辺部分の探査に入ったからである.最初の2〜3年はブラジルに重点を置き,以降次第にアルゼンチンに重点を移した.ウルグアイの探査は補完的なものに留めた.ブラジルの探査は峠を越え,アルゼンチンの探査は道半ばである.パラグアイは2001年だけの探査だが,概ね満足できる結果を得ている.メキシコの探査は僅か1標本の確保に留まった.ペルーの探査は成果がなかった.ボリビアの探査はまだ行われていない.
著者
関 宏子 熊本 卓哉
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ビスグアニジン型化合物と各種酸性化合物との複合体を用い、単結晶X線解析や溶液・固体NMR を組み合わせた機能性化合物の分子間相互作用を含む構造解析を行った。ビスグアニジン-ヒ酸複合体の固体NMRは想定される本数よりも多いシグナルを示した。これは複合体中のグアニジン部位が非等価であるというX線解析の結果を反映したデータであり、固体NMRが分子間相互作用を持つ複合体の構造解析に有効な手段となる可能性を示した。
著者
日比野 治雄 野口 薫 桐谷 佳恵
出版者
千葉大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

従来の視覚的ストレス研究では,被験者は光過敏性てんかん(photosensitive epilepsy)患者や片頭痛患者が主であった。そこで,本研究計画では,一般の健常者における視覚的ストレス(visual stress:広義の視覚刺激による不快感全般)の問題を取り上げ,一般健常者を被験者として心理物理学的実験を行った。本研究では,各刺激による視覚的ストレスの効果は,マグニチュード推定法(method of magnitude estimation)を用いて測定した。本研究で検討を加えた主な問題は,(1)幾何学的パターンの物理特性(チェック・パターンの縦/横比,ストライプ・パターンの空間周波数,パターンの大きさなど)と視覚的ストレスの効果;(2)ストライプ・パターンの色彩が視覚的ストレスに及ぼす効果;(3)ポケモン事件の視覚的ストレスに関する認知的要因:の三点である。それぞれの結果の概要は,以下の通りである。(1)生理的指標(脳波)による光過敏性てんかん患者での結果とは異なり,健常者では細かいチェック・パターンによる視覚的ストレスの効果が大きかった。(2)ストライプ・パターンのコントラストが一定の場合には,黄色のストライプ・パターンによる視覚的ストレスの効果が最も大きかった。(3)同一の視覚刺激を観察した場合でも,その観察者の心理的・認知的要因によって視覚的ストレスの効果は変化する。
著者
黒澤 香
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.英国および米国を視察し、両国における目撃者による人物同一性確認手続きについて、最新の情報を入手し、帰国後にそれを学会や研究会などで発表した。とくに、英国におけるビデオを用いた確認手続きについて、手続きが行われるところを傍聴し、その利点や問題点などを担当者から聞いた。そして弁護士からも、この手続きに関する意見や感想を聞き取りした。また従来の、実物による同一性確認手続きについても視察した。さらに、米国においては、独自のガイドラインを導入したニュージャージー州の司法省を訪問して担当者と面談し、この改革についての解説と、経過やその後の進展について、聞き取りを実施した。カリフォルニア州における、写真を用いた同一性確認手続きについても、作成の実際を見学し、地方検察庁の担当検事から意見を聴取した。2.ビデオを用いた確認手続きを実施するための、基礎的研究を実施した。具体的には、画像の形態を検討し、映像となる対象者の動きを決定した。また、服装の影響をなくすため、同一の衣装などを検討し、対策を決定した。以上の準備をふまえて、200人弱のビデオ画像を収録した。この作業に際して、どのような形で映像対象者の同意を得るかを検討し、研究者の誓約書と協力対象者の同意書の様式を決定し、十分な同意手続きを実施した。収録された画像については、今後に継続される研究において、ビデオ確認手続きの構築のため、活用される。具体的には、記録保存されている画像をデータベース化して、キーワードを用いて検索するシステムを構築するための研究が継続される。3.以上の研究をもとに、法と心理学会における目撃供述ガイドライン案作成に参画し、とくに人物同一性確認手続きに関する部分の主要部を担当執筆した。
著者
石橋 功 高橋 紀代志
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.105-113, 1967-12-31

WL種8羽,NH種15羽およびそれらの同系の親の交配によつて作出されたWL♂×NH♀種26羽の鶏が,産卵開始後365日間に生んだWL卵1660,NH卵3496,WL♂×NH♀卵6874コについて卵型を測定し,比較した.1.WL,NH,WL♂×NH♀種の初産日令は,それぞれ193.9,212.2,162.2日であり,初年度における産卵数は,211.4,235.9,271.4コであつた.WL♂×NH♀種のすぐれた結果はheterosisに基づくものと考えられる.2.WL,NH,WL♂×NH♀卵の平均卵重は53.84,59.56,57.24gであり,第1月から第12月までの増大量はそれぞれ9.8,8.3,15.9gであつた.3.産卵開始後の日数の経過に伴なつて,WL卵は卵型係数71〜72のほぼ同じ形で卵重が増大し,NH卵は79から73へ,WL♂×NH♀卵は76から73.5へと減少し,短径よりも長径の伸びが大であつた.4.WL,NH,WL♂×NH♀卵の卵重と長径間にはそれぞれ,r=0.758,0.735,0.818,卵重と短径間には,r=0.911,0.792,0.897のいづれも高い相関々係があつた.これらの関係を卵重をx,長径をy,短径をzとして回帰方程式で示すと,長径(y)はWL:0.316x+40.22,NH:0.351x+36.00,WL♂×NH♀:0.379x+35.34で表わされ,短径(z)はWL:0.254x+27.33,NH:0.200x+31.30,WL♂×NH♀:0.234x+29.07で示すことができる.本研究の一部は,徳納敏子君の協力を得て行なつたものであり,統計処理については本学部岩佐助教授の教示を得た.ここに記して厚く感謝の意を表する.なお,要旨は昭和42年度日本家禽学会春季大会において発表した.
著者
安蒜 俊比古 浅野 二郎 藤井 英二郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.85-92, 1988-03-18

築山庭造伝前編と後編に於ける役木を対象として,役木の配植位置と注視部位,庭園構成の格(真・行・草)に於ける役木の取扱いについて検討した.同一の配植位置にあっても,役木に対する注視部位が細部,局部,全形と役木によって異っている.真・行・草の庭園構成に於ける役木の取扱いは,庭園構成の格に関らず取扱われるものと,格によって取扱いが省略される役木がある.配植位置や庭園構成の格によって異なった傾向が見られるのは,とくに近景と中景の役木である.これは庭園構成の主景的な立場としての役木であるか,装景的な立場としての役木であるかによるものと考えられる.
著者
大河内 信夫 名取 一好
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

研究代表者大河内信夫は、2000年度学校要覧に示された農業に関する学科の教育課程表を分析した。その結果、1990年度調査に比較して、以下の点から「多様化」がキーワードになることを明らかにした。(1)学科名称が1990年度調査よりも多様になり、「農業科」の占める割合が低下していた。教育内容ではなく、自営者養成=農業科という観念を名称変更によって払拭しようとしているように見えた。(2)普通科目と専門(職業)科目とのそれぞれの合計単位の比率を比べると、普通科目の単位数が専門(職業)科目の単位数を上回る学校が圧倒的に多くなった。(3)選択科目では普通科目と専門(職業)科目との組み合わせの割合が多くなり、学科内でのコース制をとる傾向にあった。(4)専門(職業)科目間の選択を設けている学校は、1990年度調査結果(調査回答校中46.5%)に比べて大幅に増加し、2000年度調査結果は回答校中65.1%であった。(5)「農業に関するその他の科目」に該当する科目名称は、90科目と非常に多く、そのうち69科目は1校でしか開講されていなかった。最も多く開講されている科目でも7校に過ぎなかった。前年度行った「総合実習」に関する調査について、研究分担者名取一好とともにデータ整理、分析を行った。その結果、総合実習の目的について、上位の3つは「農業の実践的技法(技術)を学ぶ」「農業体験を重ねる」「座学の知識を確かめる」となっていた。「農業を受け継ぐきっかけを用意する」「農業を主体的に継承する意志をつくる」といった項目は下位であった。多くの学校(91.5%)が総合実習に時間外実習を含めていた。総合実習に農家での実習を含めていない学校は36.4%あった。農家での実習を実施している学校においても、生徒全員に課している括弧うは全体の15.0%であった。「講義」科目と総合実習との関係では、「講義」科目の実習は「講義との関係で必要」と回答する学校が最も多く、「総合実習があるので各科目での実習は不要」とする学校は皆無であった。一方、「総合実習は農場維持のために必要」とした学校は11.9%であった。農業教育の目的は、農業政策上の制約に由来して農家子弟の教育となってきたため農業後継者の要請として機能しなかった。総合実習もこの枠組みから抜け出せなかったと推察された。
著者
小沢 弘明 大峰 真理 上村 清雄 橋川 健竜 秋葉 淳 後藤 春美
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、近現代ヨーロッパにおける中心=周縁関係の再編過程を分析することであった。この研究では二つの側面を重視した。第一は、ヨーロッパ内部の地域的な不均等発展を分析することである。この側面では、ルネサンス・イタリアにおける中心=周縁関係をフィレンツェとシエナめ関係に見る研究、ハプスブルク君主国とオスマン帝国内における中心=周縁関係から分析する研究を行った。第二は、ヨーロッパ概念の特質と、近代世界における構造化の中でヨーロッパの位置を探る研究である。本研究では、両大戦間期の国際社会における中心=周縁関係の議論をイギリス帝国を中心に分析する論考、植民地期の北アメリカを帝国史や大西洋史(アトランティック・ヒストリー)などの研究動向から分析する論考、18世紀フランスにおける奴隷貿易を基軸にヨーロッパ=アフリカの通商関係を再考する論考を準備した。本研究ではまた、いくつかの方法論上のアプローチも検討に付した。それは、「域内周縁」理論、 「境界地域」理論、ハプスブルク君主国やオスマン帝国について最近行われているカルチュラル・スタディーズやポストコロニアル・スタディーズからの議論である。EUの東方拡大と新自由主義による世界の構造化が進んでいる現在、とりわけ周縁の位置からヨーロッパの歴史的位置を解釈することは不可欠である。そのような視点を取ることは、帝国論や、新帝国主義論、新自由主義論などに関するわれわれの理解を深化させることになろう。本研究ではさらに、主題に関する今後の研究の基礎を拡大するためにデータベースの作成を行った。これらを利用することによって、近現代ヨーロッパ史を、これまでとは異なった観点で分析していくことが可能となろう。
著者
佐々木 哲丸
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.113-126, 1954-07-28

我国に於て,小児期に恐れられている疾患の中代表的な者として,乳児脚気と赤痢,疫痢がある。乳児脚気は小児衛生の進歩に依り,昭和の初期頃から其重症な者は殆ど見る事が無い様になつた。之は小児に対して非常に幸な事である。所が赤痢,疫痢の流行状況を見ると,今なお多数の患者並びに死亡者を出している現況であり,甚だ遺憾に堪えない。昨年度も10万余の罹患者が有り,死亡者も1万以上を算している。小児は成人に比し赤痢,疫痢に罹患し易く,而も小児では屡々重篤な症状を発し,其予後は著しく不良であり,年々多数の小児が其生命を失い,死亡者の大部分を占めている現況である。伊東教授に依り疫痢が発表されてから今日迄約50年の歳月が流れ,其間多くの研究者に依り検索が行われて来たにも拘らず,其本態は今日尚充分には明らかで無く,諸家各々其所見に基いて異なる意見を発表されている。然し近年に於ては,疫痢は赤痢菌簇の腸管内感染を基調として小児に現われる特殊な症候群であると一般に認められている。此本態論とは別に多くの臨床家に依て治療法が考究され,多数の臨床経験よりして次第に有効な方法が実証されている。〓に余等の教室にて実施しつゝある治療方法及び其根拠とする所の事項を少しく述べ度いと思う。
著者
堀内 隆彦 富永 昌二
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,HDRからLDRへの適切なトーンマッピング手法の開発によって,LDRデバイスでの映像表現の限界の解決を行った.このとき,視覚の明暗順応および色順応特性を考慮する方法を考案した.また,主観評価と測色値との関係を考察し,適切な評価規範を検討した.さらに,ディジタルハーフトーニングの技術をディスプレイデバイスへ展開することによって,低明度部分の階調が粗くなるという問題点の解決に取り組んだ.
著者
冲中 健 増田 悟 菅原 恩
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.91-97, 1984-12-25
被引用文献数
2

風台風8218号の緑化樹におよぼした潮風害について,ケヤキとイチョウを指標樹として調査研究を行った.その結果,台風8218号の中心が関東西部にあるとき降雨が上がり,南寄りの潮風が関東平野に吹き込んだ.潮風害は東京湾岸から100kmの内陸におよんでいる.被害の度合いは湾岸からの距離に逆相関を示すが,関東平野の西部・中部・東部の地域によって被害の様相を少し異にする等がわかった.
著者
三吉 一光
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

市販の4倍体コチョウラン品種3点ならびに2倍体品種5個体を供試して、半数体を誘導する条件の検討を行った。コチョウランでは体細胞多倍数性(polysomaty)が観察されるので、倍数性の検定は根端約1mmの若い組織を用いた。4倍体から偽受精胚珠培養によって得られた幼植物体の半数近くが2倍性半数体であり、染色体の半減が認められた。2倍体を供試した場合、得られた個体の殆んどが2倍体であったが、コチョウランにおいて初めて人為的に誘導した半数体を一個体獲得した。