著者
栃木 衛
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

自閉症遺伝研究において父親の生殖細胞(精子)を用いてエピジェネティックな解析を行うことの意義について理論的検討を行うと共に、マイクロアレイを用いたDNAメチル化のゲノムワイドな定量方法の確立を目指し、血液由来DNAを対象としてマイクロアレイによるメチル化解析の予備的検討を行った。定量方法の検討の結果では、同一サンプルであっても必ずしも十分な再現性が得られない場合があり、評価方法にさらなる検討を要することが判明した。
著者
湧川 基史
出版者
帝京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近年,いくつかのケモカインレセプターがTh1,Th2の指標になることが明らかとなり,アトピー性皮膚炎(AD)の病態にも密接に関わっていると考えられるが,ADにおいての発現と病態との関係については不明であった.筆者らは,AD末梢血CD4T細胞上におけるこれらのケモカインレセプターの発現がTh1,Th2を反映するのか,さらにADの病態,重症度や検査値異常を反映しうるか,また,ADの活性化の指標とされるCD25や皮膚へのhoming moleculeであるcutaneous lymphocyte associated antigen(CLA)などを発現しうるか否かを検討した.さらに,病変部浸潤細胞におけるこれらレセプターの発現についても検討した.結果1.CCR4陽性細胞は,ほとんどがIL-4のみ産生するいわゆるTh2細胞と,IL-4,IFN-γの両者を産生するTh0細胞である一方,IFN-γのみ産生するTh1細胞は1%以下であり,Th2優位のサイトカイン産生パターンを示した.CXCR3産生細胞は,Th1細胞が約7割を占め,逆にTh2細胞は1%以下であった.つまり,CCR4の発現はTh2細胞の数を反映し,CXCR3の発現はTh1細胞の数をほぼ反映していた.2.CD4T細胞中のCCR4の発現率はAD群は20%を超え,健常人群の約4倍と高値を示した.CXCR3の発現率は健常人群とAD群で差はなかった.3.CCR4発現率は重症群で特に高く,重症群と中等症群において,健常人群よりも有意に高い発現率を示した.CXCR3陽性率は各群とも健常人群との相関が得られなかった.CCR4陽性率は末梢好酸球数と相関する傾向を示した.血清IgE値はCXCR3陽性率と有意な逆相関を認めたが,CCR4陽性率とは相関しなかった.4.CCR4陽性率は治療により低下する傾向を認め,CXCR3陽性率は逆にやや上昇を示した.5.CCR4陽性CD4細胞は,CCR4陰性細胞に比べ,有意にCD25,CLAの発現率が高かった.6.急性病変部の真皮血管周囲のCD4T細胞の多くがCCR4を同時に発現していた.AD患者末梢血中ではCCR4陽性細胞が増加し,ADの病態に関与していることが示された.CD4T細胞におけるCCR4,CXCR3発現はTh1,Th2バランスの指標になり,ADの重症度の指標にもなりうることが示唆された.
著者
山内 和也 山藤 正敏 吉田 豊 城倉 正祥 櫛原 功一 久米 正吾 中村 俊夫 増渕 麻里耶
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、シルクロードの交易拠点都市の成立と展開の実態を明らかにすることである。そのために、中央アジアのキルギス共和国北部に位置するアク・ベシム(スイヤブ)遺跡において発掘調査を実施し、考古学的な研究を行った。発掘調査によって都市のプランや構造を明らかにするとともに、周辺地域の調査によって、都市の成立と繁栄に不可欠な水利システムの存在を解明することができた。こうした成果によって、シルクロード沿いの拠点となる交易都市の成立と展開、そして同都市が位置する地域の発展過程について考察することができた。
著者
千森 幹子 Scott Clive Harvey John
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、エコクリティシズムから、1850~1930年代に至る日英文学図像におけるanthropomorphic表象、特に植物や物など人間以外の存在である自然に、人間的な感覚や感情・意味を読み取り、擬人化あるいは生命を付与する表象、を文学・美術・社会・子ども観等から考察する学際研究であり、カルチュラルスタディーズである。本研究では、植物や物が、日英の子どもの挿絵と邦訳で、どのように擬人化され、変遷したのか、そこに埋め込まれたエコロジーに対する文化的意味を、創作の過程、日英の擬人化の歴史、技法から探り、西洋的価値体系における自然観と日本の自然観の位相、人間と自然の対立融合共生の位相を、検証した。
著者
坂本 英俊 藤本 萌 福田 悟
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015

本研究は敗血症性脳症において、睡眠・覚醒をつかさどる神経核の機能異常の解明と共に睡眠・覚醒サイクルを制御すると考えられる視交叉上核への影響を明らかにすることである。最初の課題は、視交叉上核により制御されている松果体からのメラトニン放出が安定して測定できるマイクロダイアリシス法を確立することであった。従来の方法は、上矢上静脈洞からの出血や松果体までの距離が長く手技的に問題であった。我々の新手法は、マイクロダイアリシスガイドカニューラを松果体右上方から角度17°にてアプローチするもので、特殊な回路を必要とせず出血の危険性もない。この方法でラットにおける暗期(20時~8時)のメラトニン分泌量を測定したところ、1日目0.30±0.38、2日目0.21±0.20、3日目0.15±0.16、4日目0.15±0.15(pmol、平均±標準偏差)の放出がみられた。一方、明期(8時~20時)ではメラトニン分泌量は1日目0.07±0.10、2日目0.02±0.02、3日目0.01±0.01、4日目0.01±0.01(pmol)とごく微量であった。我々の開発した新メラトニン測定法は、従来の方法による結果とほぼ同じであり、今後の睡眠・覚醒研究に有効と考えられた。次に、この手法を用いて敗血症性脳症時の暗期メラトニン放出を検討した。敗血症性脳症モデルとしては、脳内での炎症を媒介する蛋白であるHigh mobility group box 1蛋白(HMGB1)脳室内投与モデルを用いた。HMGB1を1μg/5μl脳室内投与すると、1日目および2日目のHMGB1投与群の暗期メラトニン放出量は生理食塩水投与群に比較しどちらも有意に抑制された(P<0.01二元配置分散分析)が、3、4日目の放出量は影響されなかった。以上の結果より、敗血症性脳症時にはメラトニン放出が抑制され睡眠・覚醒に影響を及ぼすことが示唆された。
著者
高橋 正明
出版者
帝京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

本研究は、主にアメリカ及びカナダの議論を手掛かりとして、社会構造上の差別の是正のあり方に焦点を当てつつ、憲法上の平等原則の解釈論の再構成を試みるものであった。具体的には、まず、社会構造上の差別の是正を憲法上の責務として捉える学説の意義と課題を解明した上で、我が国の憲法理論への受容可能性を意識した理論枠組を提示した。さらに、社会構造上の差別の一類型である「私人による差別行為」の規制のあり方について考える上では、「市場独占の排除」や「社会空間の公共性の維持」という観点から、私法秩序における憲法上の平等原則の作用を把握することが有用ではないかとの知見を得ることができた。
著者
杉本 真樹
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

膵胆道内に二酸化炭素CO_2投与下に陰性造影剤として利用したMulti detector-row CT(MDCT)による膵胆道造影CO_2 MDCT cholangio-pancreatography (CO_2MDCT-CP)を確立した.さらに仮想内視鏡および動静脈再構築をfusion(重ね合わせ)させ,術中診断,術式,病理診断と併せて検討し,画像診断と臨床病態の相関性を解析した。また消化器肝胆膵領域のビジュアリゼーションや手術シミュレーションを客観的に捉える撮影技術と解析ツールによるシステムを構築した.これにより消化器外科、特に肝胆膵領域の手術において,実質臓器と消化管、膵胆道と血管解剖を統合的に把握することができ,的確な診断治療とその教育に有用なソフトウェアを開発できる環境を整備した.これまで蓄積してきた症例のMDCTデータベースを元に,術前診断と行われた術式、実際の病理所見と術後経過、予後について解析し、CO_2MDCT-CPの3次元モニター診断解析能を向上させ,外科手術支援としての有効性を証明した.本年度はさらに術野重畳表示法を開発し,二酸化炭素造影MDCTによる手術支援の精度を向上させた.これらの成果は,国内外で多数の学会,講演にて発表した.また15th International Congress of the European Association for Endoscopic Surgery(第15回欧州内視鏡外科学会国際大会)EAES VIDEO AWARD(2007.7),The 8th World Congress of the International Hepato-Pancreato-Biliary Association(第8回国際肝胆膵学会国際大会)President plenary paper(2008.2),平成19年度帝京大学藤井儔子学術奨励賞(2008.3)を受賞した
著者
上岡 真紀子
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、教授・学習支援を担当する専門的図書館員のモデルを示し、その養成プログラムのあり方を検討することである。昨年度までに、文献調査に基づいて、全学的な教授・学習の質的改善の取り組みを実施して成果をあげ、かつ、その取り組みに図書館員が深く関与している事例を抽出し、事例としてトリニティ大学、パデュー大学等への訪問調査を実施し、データを収集している。 今年度はこれらケーススタディのデータを検討し、1) 全学的教授・学習の改善プログラムにおいて、 図書館員は、学習環境デザイン、および情報リテラシーの専門家としてプログラムの計画と実施に関与している、2) プログラムの実施の局面では、授業やカリキュラムの到達目標、アクティビティ、課題、評価の中に、情報リテラシー獲得のための要素をどのように組み込むかについて、教員に対する支援を提供し、授業改善やカリキュラム改革に貢献している、という結果を得た。また今年度は、上記プログラムに参加する図書館員への聞き取り、および文献調査に基づいて、教授・学習支援を担当する図書館員を養成するプログラムの事例調査を開始した。事例として、米国図書館協会によって提供されている、情報リテラシーの専門家養成プログラムについて情報を収集するとともに、開発に関わってきた図書館員数名を訪問し、背景などの聞き取り調査を実施した。今後、プログラムの詳細な内容を検討する予定である。
著者
杉浦 隆之 山下 純
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は研究代表者らが1995年に発見した新しい脂質メディエーターである。今回の研究により以下の点を明らかにした。1.2-AGの生成メカニズムの解明。TPAで惹起した急性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎の局所では、ホスファチジルイノシトールからだけではなく、ホスファチジルコリンなどからも2-AGが産生されることを明らかにした。2.白血球系の細胞の機能に及ぼす2-AGの影響。マクロファージなどの白血球系の細胞の接着が、2-AGにより増強されることを初めて明らかにした。2-AGは白血球の接着(組織や血管壁への接着)を亢進させることにより、炎症を増大させている可能性がある。3.炎症・免疫系における2-AGの生理的意義の解明。2-AGが急性炎症や慢性のアレルギー性炎症(気管支喘息モデル、アレルギー性皮膚炎モデル)に関与しているかどうかを詳しく調べた。その結果、これらの炎症局所では2-AGの著しい蓄積がみられること、カンナビノイドCB2受容体のアンタゴニストを塗布することにより、炎症反応(腫脹および白血球浸潤)が強く抑えられることなどを明らかにした。これらの結果は、カンナビノイドCB2受容体とその内在性リガンドである2-AGが、急性炎症やアレルギー性炎症の進展に深く関与していることを強く示唆するものである。このほか、2-AGを塗布することによって、炎症反応が惹起されること、2-AGが好酸球を効率よく遊走させることなども明らかにした。4.血管系に及ぼす2-AG作用。2-AGがCB2受容体を発現している細胞に作用するとNOの産生が増大すること、生成したNOによって血管の拡張や透過性の亢進が起きることを明らかにした。マウスの耳などに2-AGを塗布したときに観察される発赤や浮腫は主にNOによるものである可能性がある。
著者
柿沼 陽平
出版者
帝京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

申請者はこれまで、中国古代において貨幣(経済的流通手段)とそれを中心とする貨幣経済が具体的にいつどのように展開し、それが当時の社会にいかなる影響を与えたのか、また当時の人びとがそれにどう対処したのかについて検討してきた。本課題はその一環をなすもので、とくに前漢武帝~王莽期の貨幣経済史について検討した。検討の結果、前漢後半期~王莽期の貨幣経済の動態は、従来一般に想定されているほどに激変を伴ったものではなく、むしろ継続的側面が濃厚であると考えるに至った。またその反面、前漢貨幣経済は武帝期に大きく変化したようである。
著者
千森 幹子 BEER Dame Gillian SCOTT Clive
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、ポストコロニアル的観点から、1860年代から1920年代にいたる英版文学図像におけるオリエント表象を、政治社会文化美術的背景から、西洋と日本(東洋)の交差として、考察する学際研究であり、カルチュラルスタディズである。本研究では、ケーススタディとして取り上げた文学作品図像に見るオリエント表象を、中東・中国・日本イメージの混在・分化・変容の過程から考察し、この時期、英国がなぜオリエントに魅惑され、何を受容表象しようとしたのか、その現実との乖離を、政治(植民地政策等)文化美術社会ジェンダーなど多領域から検証し、西洋的価値体系におけるオリエント表象の位相を解明することを、目的とする。
著者
内貴 滋
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、我が国が道州制を将来の目標として、国と地方の構造改革を進めているこの時期に、地方自治の母国といわれる英国において地方構造の一層制への改革、スコットランド独立に象徴される分権政府への権限委譲問題、地域の決定を尊重する地域主義法の成立など大きな構造改革が進展している状況を明らかにし、その課題を分析することにより、日英双方の国と地方の構造改革への新たな提言を行う。
著者
サルカルアラニ モハメドレザ 石田 隆城 柴田 好章 中島 繁雄 深谷 孟延 石川 芳孝 坂野 久美 水野 正朗
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、授業に深く関わる文化的スクリプトを解明することであった。異なる文化的背景を有する者の“レンズ”を通すことで、文化的コード(例:誤り、雰囲気など)の抽出が可能となり、考察(討論)を通して文化的スクリプト(例:主体的・個別的・構成主義的スクリプトなど)を明らかにすることができた。比較授業分析の結果、複数の文化的スクリプトが併存しており、時にそれらが協調したり競合したりしながら、授業が成立していることが明らかにされた。また、同一文化内では気付きにくい文化的特徴が相対化されるという比較授業分析の可能性が示された。
著者
三上 岳彦 高橋 日出男 森島 済 日下 博幸
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

東京首都圏 200 カ所の高密度気温観測データと気象庁 AMeDASの風観測データを用いて、夏季気温分布の時空間変動および要因解明を試みた。夏季の海風卓越日と強い単風日について気温偏差分布の日変化のデータ解析および夏季典型日(夏型)を対象とした気温と風の再現実験(WRF モデル)から、関東平野内陸部での高温域に及ぼす風の効果が明らか担った。また、WRF モデルによる都市型集中豪雨の数値シミュレーションを行った結果、都市の存在が首都圏に降雨をもたらす可能性が示唆された。
著者
西沢 保 後藤 玲子 渡辺 良夫 小峯 敦 伊藤 邦武 藤井 賢治 池田 幸弘 本郷 亮 山崎 聡
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

19世紀末以降のケンブリッジ、オクスフォード、LSEの経済思想の展開を、現代福祉国家の変容・危機を視野に入れて、共同研究を進め成果を得た。具体的には、1. 「創設期の厚生経済学と福祉国家」から厚生経済学史の再検討へ、2. リベラリズムの変容と福祉国家-ニュー・リベラリズムからネオ・リベラリズムへ、3. マーシャル、ケインズと同時代の経済思想、4. ケインズと現在の世界経済危機-戦間期との比較考証、の4点を中心に国際共同研究を進め成果を得た。
著者
三上 岳彦 森島 済 日下 博幸 高橋 日出男 赤坂 郁美 平野 淳平 佐藤 英人 酒井 慎一 大和 広明
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

東京首都圏に設置した独自の気温・湿度観測網と気圧観測網のデータ等を用いて、夏季日中のヒートアイランドの時空間変動を明らかにするとともに、熱的低気圧の動態と局地的短時間強雨発生との関連およびその要因の解明を試みた。夏季の気温と気圧データに主成分分析を適用した結果、上位主成分に、海陸風循環、ヒートアイランド、北東気流に関連した空間分布が認められた。局地的短時間強雨の事例解析を行い、豪雨発生の前後で気圧の低下と上昇が起こり、海風起源の水蒸気量の増加が確認できた。領域気象モデル(WRF)による都市域での短時間強雨発生に関する数値実験を行い、都市域で夜間の降水が増えていることが明らかになった。
著者
出沢 明 三木 浩
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

接触型拡大視内視鏡は25-150倍拡大視が可能で顕微鏡と同じ拡大になり明るい解像力が獲得される。手術の際に神経性間欠性跛行の神経根上の血行動態を評価することが有用な手技であったので報告する。その記録はDVDに記録し後にIPlaboのソフトを関発し解析をした。間歇性跛行は神経根上の血流障害が注目されており今回の研究でプロスタグランヂンの末梢血管からの注入や末梢神経の電気刺激でも血流量(流速、血管径)の増化がみられた。以上接触型拡大視内視鏡は神経根上の血行動態を容易に生理的に測定が可能で他の関節の滑膜病変を観察することに応用されると思われる。29例の間欠性跛行を伴った腰部脊柱管狭窄症の馬尾神経根の微小循環動態を接触型拡大視内視鏡を用いて生理的に近い状態で観察し、腰椎椎体間固定術する際の神経根上の微小循環の血管径や赤血球の流速の変化と定性的変化について評価する。その目的は腰部脊柱管狭窄症患者の神経根の微小循環を観察し、後方腰椎椎体間固定術(posterior lumbar interbody fusion ; PLIF)の際に神経根を内側に展関する前後の神経根上の微小循環の変化を検討することである。対象は腰部脊柱管狭窄症患者でPLIFの手術的治療となった29例(男性15女性14;平均年齢56才)を対象とした。検索した傷害神経根はL5が26例、S1が3例である。傷害神経根上の微小循環を測定し次に神経根をretractしてlumbar interbody fusion施行後に再度同じ部位で測定する。接触型内視鏡を用いた解析はビデオフレームメモリから血球を自動的に認識して流速と血管径を自動的に測定するシステムを作成した。血管内径が100μm以下の細動静脈と100μm以上の15ヶ所で血管径と赤血球の流速度の解析を行った。また定性的変化について評価した。神経根の臨床上の変化はMacnab's criteriaに従って評価した。150倍のcontact endoscopesは29例全例が約20μまでの血管内の血球の動態観察が可能であった。血球と血漿が分離して流れる血漿分離流(plasma skimming)は展開前29例中3例に観察され展開後に8例〔27.6%〕に増えた〔全例血管径100μ以下〕。赤血球の荷電状態の変化により赤血球が一塊となって血漿中を流れる現象のIEA(intravascular erythrocyte agglutination)は展関後100μ以上の血管で3例に認められた。神経根展開前後で血管径100μ以上の血管で赤血球の流速が平均26%〔p<0.005〕減少し、血管径は5%の上昇がみられたが統計学的に有意差は見られない。血管径が100μ以下では血流速度は5%遅れ、血管径は2%の拡大がみられたが統計的有意差は無かった。接触型拡大視内視鏡(contact endoscope)を用いて観察しえた展開前後の神経根の微小循環動態では血管径の大きさに関らず赤血球の流速の低下が認められた。