著者
大曽根 眞也 森口 直彦 今井 剛 篠田 邦大 伊藤 剛 岡田 恵子 三木 瑞香 田内 久道 佐藤 篤 堀 浩樹 小田 慈
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.127-132, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1

L-アスパラギナーゼ(ASP)による血栓症は重大な治療関連合併症だが,本邦における発症実態は不明であり有効な発症予防法は未確立である.そこでASP血栓症の発症頻度と発症例の詳細,ASPを投与中に行われる凝固検査や血栓予防法の現状を知るために,JACLSに加盟している96施設を対象にアンケート調査で後方視的に検討した.47施設(49%)から回答を得た.2002年~2011年の10年間にASPを使用した1,586例中,8例(0.50%)で血栓症を認め,うち7例は寛解導入療法中に生じ,このうち6例では中枢神経系に生じていた.血栓症を発症した時,全例でステロイドを併用しており4例は発熱していた.血栓症発症時のアンチトロンビン(AT)活性は中央値71%,フィブリノゲン同93 mg/dL,D-ダイマー同2.2 μg/mLであった.血栓症を発症する前に4例でAT製剤を,1例で新鮮凍結血漿(FFP)を使用していた.血栓症で1例が死亡し1例で後遺症が残った.有効回答のあった45施設中,寛解導入療法でASPを投与する時に40施設がAT活性を週2~3回測定し,43施設がATを補充し,21施設がFFPを補充すると回答した.本邦でのASP血栓症の発症頻度は国外より低かったが,現在の凝固検査でASP血栓症の発症を正確に予測することは難しい.ASP血栓症を予測する新たな指標や適切な血栓予防法の確立が望まれる.
著者
矢本 香織 北河 徳彦 細川 崇 臼井 秀仁 望月 響子 武 浩志 新開 真人 浜之上 聡 後藤 裕明 吉田 美沙 田中 水緒 田中 祐吉
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.477-480, 2016 (Released:2017-03-18)
参考文献数
13

小児がんの治療成績向上に伴い,晩期合併症として二次がんの発生が問題となっている.今回小児固形腫瘍治療後に発生した二次性甲状腺癌の4例を経験したので報告する.一次がんはanaplastic sarcoma of the kidney・atypical teratoid/rhabdoid tumor・胸膜肺芽腫・卵黄嚢腫瘍であり,全例に手術・術後化学療法が施行された.2例に術後放射線照射が施行され,うち1例は頸部も照射野に含まれていた.二次性甲状腺癌の発生までの期間は中央値7年6ヵ月(4年4ヵ月~8年9ヵ月),組織型は乳頭癌が1例,濾胞癌が3例であった.二次性甲状腺癌の発生の原因として,放射線照射・化学療法・遺伝性素因等が挙げられる.高リスク群に対しては長期にわたって触診や超音波検査による甲状腺の観察が必要である.
著者
志村 浩己
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.340-345, 2021 (Released:2022-02-08)
参考文献数
22

東日本大震災に引き続いて発生した福島第一原子力発電所事故により,特にチェルノブイリ原子力発電所事故後に発生した小児甲状腺癌が心配されたため,福島県民健康調査「甲状腺検査」が震災の約半年後に開始された.本検査は,甲状腺超音波検査による一次検査と,5.1 mm以上の充実性結節等を指摘された受診者に対する二次検査から構成されている.一巡目検査にあたる「先行検査」は,過去の知見から放射線被ばくによる甲状腺癌発症の潜伏期間と考えられている期間に実施され,また,2014年度からは2年毎に実施される「本格検査」が開始されている.二巡目の検査までの評価では,放射線の影響は考えにくいとされている.現在,2020年度から開始した5巡目の検査を実施している.甲状腺癌にはリスクが極めて低いものが多く含まれていることが知られており,小児~若年者の甲状腺癌も一般的に予後良好とされているが,成人と比較して癌の自然歴に関する知見に乏しく,より慎重な対応が求められている.本検査では,関係学会のガイドラインに従い,甲状腺癌のリスクに応じた検査を行い,2020年度末時点において260例が細胞診診断にて悪性ないし悪性疑いと診断されている.本稿においては,これまでの甲状腺検査の経過と現在の課題を報告するとともに,これまで得られた小児・若年者の甲状腺癌に関するエビデンスについて概説する.
著者
西田 野百合 草野 佑介 山脇 理恵 梅田 雄嗣 荒川 芳輝 田畑 阿美 小川 裕也 宮城 崇史 池口 良輔 松田 秀一 上田 敬太
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.24-29, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
14

協調運動障害は小児髄芽腫治療後の主要な晩期合併症の一つであるが,学校生活への適応や社会参加の制約につながる可能性があるにも関わらず,標準化された検査法で評価し,適応行動やHealth-Related Quality of Life(健康関連QOL:HRQOL)への影響を詳細に検討した報告はない.本研究では手術,放射線治療,化学療法による治療終了後2年以上経過した髄芽腫男児患者2例を対象に,協調運動障害はThe Bruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency, Second Edition (BOT-2),適応行動やHRQOLについては半構造化面接や質問紙を用いて評価し,その影響について検討した.2症例ともに,四肢の協調性やバランス能力,巧緻運動速度が低下していた.適応行動は外出,友人との交流,粗大運動に関わる項目が低下し,HRQOLは運動やバランスに関する項目が低下していた.好発部位が小脳である髄芽腫生存者においては,協調運動障害が出現する可能性は高いと考えられる.髄芽腫患者の適応行動やHRQOLの改善および社会参加の拡大のためには,協調運動障害に対する標準化された検査法による評価と継続的なリハビリテーション介入,ライフステージに合わせた合理的配慮が重要である可能性が示唆された.
著者
本田 護 福岡 講平 津村 悠介 森 麻希子 入倉 朋也 渡壁 麻衣 平木 崇正 井上 恭兵 三谷 友一 大嶋 宏一 荒川 ゆうき 福地 麻貴子 本田 聡子 坂中 須美子 田波 穣 中澤 温子 栗原 淳 康 勝好
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.455-458, 2021 (Released:2022-02-08)
参考文献数
20

MEK阻害剤であるtrametinibは,BRAF遺伝子異常を有する視神経膠腫に対する有効性が期待されているが,本邦において小児の視神経膠腫に対する本薬剤の使用経験は極めて乏しい.今回我々はがん遺伝子パネル検査によってKIAA1549-BRAF融合遺伝子が検出された治療抵抗性の視神経膠腫に対してtrametinibを使用した症例を経験したため報告する.症例は8歳女児で生後7か月に視神経膠腫と診断された.診断後から合計5種類の化学療法と生検を含めて4回の手術療法を受けたが腫瘍は増大傾向であった.水頭症による意識障害が進行したが,髄液蛋白濃度が高く脳室腹腔シャントは施行できなかった.がん遺伝子パネル検査でKIAA1549-BRAF融合遺伝子が検出され,trametinibを2か月間投与した.投与期間中は画像上腫瘍増大の抑制効果を認め,髄液蛋白濃度も低下した.NCI-CTCAE version 5においてGrade 3以上の有害事象を認めなかった.本邦におけるtrametinibの有効性と安全性について,今後の症例の蓄積が重要と考えられる.
著者
谷口 博昭
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.187-193, 2017 (Released:2017-12-08)
参考文献数
15

核酸創薬は標的分子に対する柔軟性や製剤化に係る経費が比較的廉価であり,さらに低毒性といった優位性がある.一方で,核酸医薬品として臨床現場で使用される製剤は現状では乏しい.原因として,核酸創薬の抱える問題点が存在する.具体的な問題点として,核酸配列設計の不備,標的分子の選択の誤り,病変局所に核酸を送達するドラックデリバリーシステムの欠如等が挙げられる.我々は,核酸医薬品単独,もしくは抗がん剤等の他剤併用による相乗効果や副作用の軽減を目指して,核酸創薬のハードルを克服するために工学系・理学系の研究室の共同研究者と共に学際的な研究を展開している.核酸医薬品はその特性から,小児腫瘍において認められる融合遺伝子,遺伝子変異や遺伝子増幅を標的とする上で適した剤型であり,腫瘍治療に新たな選択肢を与えるとともに,殺細胞性では無いことから抗がん剤による晩期障害の克服に繋がると考える.今回,核酸医薬品の概論,及び我々が成人の乳がん,膵臓がんを対象に展開している核酸創薬の実例を紹介し,小児固形腫瘍を対象とした核酸医薬品開発への展望としたい.
著者
日野 もえ子 石和田 稔彦 青木 孝浩 岡田 玲緒奈 奥主 朋子 大楠 美佐子 渡邉 哲 亀井 克彦 下条 直樹
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.171-176, 2018

<p>小児がん患者では,真菌感染症が疑われる場合でも,真菌の分離同定はしばしば困難であり臨床経過により診断治療が行われることが多い.2004年1月から2014年12月までに当科で治療を受けた小児血液がん患者6人より分離同定された糸状菌2株,酵母5株に関し,薬剤感受性試験を行い,分離同定することの意義について後方視的に検討した.糸状菌はいずれも耳漏より検出された.1例では好中球抑制期間に外耳炎を繰り返し,<i>Aspergillus terreus</i>が同定された.薬剤感受性試験の結果よりミカファンギン(MCFG),ボリコナゾール(VRCZ)を併用し造血幹細胞移植を行った.酵母はすべてカンジダで,血液より分離同定された.<i>Candida tropicalis</i>分離例は治療開始後にβ-Dグルカンの上昇,脾膿瘍の悪化を認めたが感受性試験にてMCFG感受性良好であることを確認し治療遂行できた.<i>C. parapsilosis</i>,<i>C. glabrata</i>分離例はいずれもMCFG投与下のブレイクスルー感染であった.MCFG感受性良好として知られている<i>C. glabrata</i>に関しては薬剤感受性試験の結果,キャンディン系薬剤に対するMICの上昇が確認された.近年米国でもキャンディン系耐性カンジダが問題となっており,今後小児がん患者においても,治療効果が思わしくない際には薬剤感受試験を行うことが必要だろう.</p>
著者
東矢 俊一郎 右田 昌宏 興梠 健作 舩越 康智 末延 聡一 齋藤 祐介 新小田 雄一 比嘉 猛 百名 伸之 唐川 修平 武本 淳吉 古賀 友紀 大賀 正一 岡本 康裕 野村 優子 中山 秀樹 大園 秀一 本田 裕子 興梠 雅彦 西 眞範
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.132-137, 2021

<p>【背景】2020年に始まったCOVID19のパンデミックは長期化の様相を呈し,人々の生活様式を一変させた.小児がん患者家族および医療者も同様であり,感染による重症化を回避するため,十分な対策のもとに原疾患治療を進めている.【方法】九州・沖縄ブロック小児がん拠点病院連携病院に,(COVID19,第1波後)2020年6月および(第2波後)9月の2回にわたり,①COVID19の経験,②診療への影響,③患者および医療従事者への社会的・精神的影響につき調査を行い,毎月施行されている拠点病院連携病院TV会議において議論した.【結果】2020年6月は16施設,9月は17施設から回答を得た.COVID19感染例はなかった.原疾患治療の変更を余儀なくされた例では転帰への影響はなかった.全施設で面会・外泊制限が行われ,親の会,ボランティア活動,保育士・CLS,プレイルーム・院内学級運営にも影響が生じた.多くの患者家族に精神的問題を認め,外来患者数は減少,通学に関する不安も寄せられた.6施設で遠隔診療が行われた.第1波から第2波にかけて制限は一部緩和され,外来受診者数も元に戻りつつある.【まとめ】COVID19パンデミックにより,小児がん患者にはこれまで以上の精神的負担がかかっている.小児における重症化は稀だが,治療変更,中断による原疾患への影響が懸念される.十分な感染対策を行いながら,少しでも生活の質を担保できるよう,意義のある制限(および緩和),メンタルケアおよび情報発信が求められる.</p>
著者
森田 優子
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.336-339, 2017

<p>日本の医療は,治療の質は世界でもトップクラスだと言われて久しい.しかし,入院中の患者・家族のケアは欧米に比べ不十分だと言われている.小児がんや難病の子ども達と家族の精神的ケアを目的に,認定特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズでは,ハンドラーと呼ばれる臨床経験のある看護師と,ファシリティドッグのチームを病院に派遣している.</p><p>ファシリティドッグとは,特定の施設に常勤し,職員として勤務する犬のことである.癒しを目的とする触れ合い活動に留まらず,より治療に関わる仕事をしている.ファシリティドッグが介在することにより,採血の時に泣き叫ぶ子どもが落ち着いて実施することができたり,手術室まで同行すると落ち着いて入室することができる.</p><p>闘病中だからと我慢するのではなく,闘病中であっても,楽しいこと・笑顔になれることは重要である.</p><p>小児医療では,患者家族のケアも必要であるが,ファシリティドッグの存在により,不安やストレスを軽減することができると言う家族も多く,また,同じハンドラーとファシリティドッグが頻回に訪問してくるため信頼関係が築かれ,医療スタッフには言えない本音を出せる家族もいる.</p><p>多忙な業務の中で,ファシリティドッグに会うと気持ちが和らぐと言う医療スタッフも多く,ファシリティドッグは,子ども達と家族を笑顔にするだけでなく,医療スタッフを含め病院全体を笑顔にしている.</p>
著者
牧野 理沙 松林 正 大箸 拓 澁谷 温
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.229-233, 2019

<p>本邦では非常に稀な異常ヘモグロビン症(Hb Sabine, Hb Evans, Hb Hazebrouck)を報告する.Hb Sabine,Hb Hazebrouckは本邦初報告である.症例1は幼児期から重症の溶血性貧血を呈し,無形成発作を繰り返したため,脾臓摘出術を施行した.遺伝子検査でHb Sabine [β91(F7)Leu→Pro, CTG→CCG(β)]と診断した.症例2は新生児期に溶血性黄疸を呈し,その後も軽度の溶血性貧血を認めていた.遺伝子検査でHb Evans [α62(E11)Val→Met, GTG→ATG(α2)]と診断した.その母も溶血性貧血(脾臓摘出術後)の既往あり,子の診断を契機にHb Evansと診断した.症例3は呼吸障害がないにもかかわらず経皮的動脈血酸素飽和度(SpO<sub>2</sub>)低値を呈し,動脈血酸素分圧(PaO<sub>2</sub>)との解離を認めたことから異常ヘモグロビン症を疑った.遺伝子検査でHb Hazebrouck [β38(C4)Thr→Pro, ACC→CCC(β)]と診断した.その父もSpO<sub>2</sub>低値を認め精査したところ,Hb Hazebrouckと診断した.全症例共通して程度はさまざまだが貧血を呈し,SpO<sub>2</sub>低値を認めた.「症例1」と「症例2の母」ではEMA染色と赤血球膜band3抗体で封入体は斑状陽性となり,これらの結合物が膜障害をきたし脾臓摘出後も溶血をきたしているものと考えられた.</p>
著者
大住 力
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.136-140, 2018 (Released:2018-07-31)

私は東京ディズニーランド等を管理・運営するオリエンタルランドに入社し,約20年間,人材育成,運営,マネジメントに携わってきましたが,2010年に退職し,公益社団法人「難病の子どもとその家族へ夢を」を設立しました.立ち上げ当時は,子どもたちをミッキーに会わせてあげることしか頭にありませんでしたが,実は誰かに迎えられたり,名前を呼ばれてみんなでお喋りしたり,一緒にご飯を食べる等,社会の一員として当たり前の生活こそが大切だと知りました.現在,当法人は家族と社会とを繋ぎ交流することで,彼らに「社会的健康」を体認してもらい,笑顔と安心感を提供する活動を心がけています.また,一方的な支援ではなく,家族との交流を通じて得た“家族・いのち・しあわせ”という生の本質について本気で向き合っている考え方や生きざまといった“家族のチカラ”を社会に還元しています.皆さんが自分事として捉え,自らを成長させていく機会として,活動を社会の中で循環させていく.「難病を患う子どもとその家族全員」と「社会」双方向の“架け橋”こそ,当法人が目指すところです.こうした想いは,まさにディズニーの教えに通じ,中でもこの言葉は私たちの活動の根幹にあります.“He lives in You.(答えは,あなたの中にある)”~Walt Disney(ウォルト・ディズニー)~〈あなた〉が自分自身をみつめ,考え,〈いま〉を生きるために,きっと力をくれるでしょう.
著者
真部 淳
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.153-158, 2019

<p>古来,医学に関するさまざまな書物が著されてきたが,論文の評価あるいは科学誌における査読,すなわちpeer reviewのシステムが確立されたのは16世紀の英国であり,さほど長い歴史を有するものではない.さて,医学・医療における新知見をどのように発表するか.日本語論文と英語論文の違いは前者に比べて後者が格段に多くの読者を得られることにある.本稿では英語論文を書くにあたってのコツを論じる.また,最近のトピックスとして不正行為(misconduct)がある.不正行為が明らかになると,論文の撤回(retraction)に至る.剽窃・盗用(plagiarism:他論文からの無断引用)は不正行為とみなされ,論文はrejectされる.捏造(fabrication)・改ざん(falsification)はすぐには発覚しなくとも,論文が受理されて世の中に出た後に,他の研究者が同じ結果を再現できないことにより問題になる.一度不正行為を行うと,科学の世界から永久に追放されると考えるべきである.とはいっても,本当に誤りを発表してしまうこともあるかもしれない.その場合には誠実な誤り(honest error)として自ら論文を撤回することが可能である.最後に,査読を引き受ける際の注意点を論じる.</p>
著者
阿部 仁美 百名 伸之 中西 浩一 浜田 聡 屋冝 孟 屋良 朝太郎 上原 朋子 屋良 朝雄 玉城 昭彦 佐辺 直也 新垣 京子
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.168-172, 2020

<p>症例は生来健康な1歳男児.主訴は咳嗽,発熱,多呼吸.レントゲン所見から横隔膜ヘルニアが疑われ紹介となり,血液検査および画像検査にて感染を合併したCPAMと診断された.抗菌薬投与により症状は改善したが,その後症状が再燃したため肺部分切除術を施行した.病理検査で胸膜肺芽腫の診断に至り,切除断端は陰性であった.腫瘍細胞の遺伝子解析でDICER1遺伝子にホモ変異が検出されたが,生殖細胞変異は認めなかった.術後化学療法(IVADo療法)を施行し,終了後9か月時点で寛解生存中である.胸膜肺芽腫は稀な予後不良の悪性腫瘍であり,一部では様々な悪性疾患に関連するDICER1遺伝子変異を有する.本症例より嚢胞性肺病変の鑑別診断として,胸膜肺芽腫を念頭に置くべきである.また今後再発や遠隔転移の可能性も含め,長期的なフォローを要する.</p>
著者
山崎 文之 高安 武志 栗栖 薫
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.373-383, 2017 (Released:2018-04-14)
参考文献数
48

小児に発生するびまん性グリオーマは脳幹部の橋や視床に好発し,橋発生はdiffuse intrinsic pontine glioma(DIPG)と呼ばれてきた.近年,遺伝子研究の進歩により橋・視床に発生した小児のびまん性グリオーマにおけるヒストンH3-K27M遺伝子変異が発見された.そして,WHOの2016年updateにおいてdiffuse midline glioma,H3 K27M-mutant(grade 4)として新しく定義された.Diffuse midline gliomaではヒストンのH3バリアントのH3.3をコードする遺伝子H3F3A K27M変異が最も多く,H3バリアントのH3.1をコードする遺伝子HIST1H3B K27Mが2番目に多い.これらの遺伝子変異を持つ腫瘍はIDHの遺伝子変異,EGFRの遺伝子増幅やPTEN変異などを基本的には認めない.その他,小児の大脳半球の高悪性度グリオーマではH3.3 G34R,G34V変異が多いと報告された.ヒストンの遺伝子変化によるtumorigenesisは,成人のびまん性グリオーマ,膠芽腫とは異なるため,同じような考えで治療することはできず,重要な課題である.しかし,現実的には現段階での治療手段は限られている.本教育講演ではWHOの2016年updateで遺伝子異常に基づいて再構成された成人のびまん性グリオーマの定義について概説した.続いて小児の高悪性度グリオーマについて,特に脳幹部グリオーマを中心としたdiffuse midline glioma,H3 K27M-mutant,epithelioid glioblastoma,diffuse leptomeningeal glioneuronal tumorの臨床所見と画像診断,化学療法,放射線治療,分子標的療法,手術の考え方,支持療法などについて概説した.
著者
内海 潤 神谷 直慈
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.254-260, 2018 (Released:2018-10-27)
参考文献数
11

我が国では現在,「産」(企業)と「学」(アカデミア)が連携して国産の医薬品や医療機器の研究開発を進める活動が,かつてないほどに盛んになってきている.「官」(国)がファンディングし,産学官連携という形になることも多い.医療製品が実用化される際に必須の2つの行政的な手続きがある.それは薬事承認の取得と知的財産権の確保である.すなわち,医療製品を製造販売しようとする者は,製品を知的財産権(主に特許権)で競合他者から守り,国の薬事審査の承認を得て,事業化ができるのである.医薬品や医療機器などの医療製品は,製造販売を行うのは企業で,ユーザーは医療従事者と患者であるが,その研究開発・性能験評価の過程からアカデミア及び医療機関の関与が必須である.それゆえ,円滑な研究開発を進めるうえでは,医療製品の研究開発に係る産学関係者が,知的財産に係る仕組みと特徴を知ることが極めて重要である.ただし,医薬品と医療機器では,特許の価値と取扱いも異なっており,留意が必要である.本稿では,医薬品と医療機器の研究開発における産学連携の意義と仕組みと知的財産の係わりについてまとめた.さらに,従来は産学連携の取組みが少なかった小児科領域における国の施策についても言及した.
著者
足立 壮一
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.224-230, 2015 (Released:2015-10-21)
参考文献数
22

日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)は,2003年に4つのグループ(TCCSG,CCLSG,KYCCSG,JACLS)の共同研究組織として,全国統一の臨床研究を推進することを目的として発足した.2002年に厚生労働科学研究費として採択された「小児造血器腫瘍の標準的治療法の確立に関する研究」班(主任研究者;堀部敬三)のもとに,データセンターが整備され,日本小児血液・がん学会疾患登録事業の登録システムと連動し,web登録システムを導入して,質の高い臨床試験登録を遂行中である.また,中央診断システム(病理,免疫,分子診断等)を確立し,余剰検体の細胞保存も行っている.急性白血病では,2004年から,乳児急性リンパ性白血病(ALL),フィラデルフィア染色体(Ph1)陽性ALL,急性骨髄性白血病(AML)(急性前骨髄性白血病(APL),ダウン症候群に合併した急性骨髄性白血病(ML-DS),ML-DS以外の初発のde novo AML)で全国統一臨床試験を施行し,それぞれ後継の臨床試験を遂行中である.T細胞性ALL(T-ALL)は,2011年から成人の日本白血病研究グループ(JALSG)と共同研究でALL-T11を開始し,2012年から小児がんの中で最も患者数の多いB前駆細胞性ALLに対する全国統一臨床試験(ALL-B12)の臨床試験を遂行中である.再発白血病(ALL, AML),に対する臨床試験も遂行中で,2015年5月31日現在で,2209例の臨床試験登録が行われた.
著者
山下 公輔
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.214-218, 2017

<p>公益財団法人がんの子どもを守る会は,1968年に小児がんで子どもを亡くした親によって設立された小児がん親の会であり, 本部及び21の支部を通じ小児がん克服のための幅広い活動をしている.2月15日の国際小児がんデー (International Childhood Cancer Day: ICCD)は,国際的に展開されている小児がん啓発の日である.当会では,2012年よりこの日を活用した啓発活動を展開しており,現在は同日を中心とした前後約1か月間,全国の支部でイベントや街頭募金を実施している.グッズとしてカード,ティッシュ,Tシャツ等を準備し,小児がんに対する関心を募るツールとし,新聞やテレビ等のメディアにニュースを配信するなど,広く社会に発信をしている.参加者は,親や経験者に加え,県庁,図書館,保健所等の公的機関,病院等医療機関,そして企業や学生ボランティア等の個人と,年々幅が広がってきている.初期の2012年~2013年は啓発カード配布が中心であったが,2014年以降はオリジナルTシャツを募金額に応じ頒布,また,小児がんの子どもが描いた絵のパネルの展示などツールの拡大を図り,全国各所での募金活動,イベント活動を展開している.2016年にはゴールドリボン・ツリーへのリボン付けの呼びかけ,小児がんのシンボルマークであるゴールドリボンの普及にも力を入れた.今後も引き続き,日本における小児がんへの理解向上と,併せてシンボルマークのゴールドリボン普及に向けて,積極的な活動を展開してゆきたい.</p>
著者
浜田 亮 吉藤 和久 堤 裕幸 堀 司 吉川 靖 山本 晃代 寺田 光次郎 山本 大 足立 憲昭 浅沼 秀臣 小田 孝憲
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.153-156, 2017

<p>血友病は先天性血液凝固障害のなかでは最も頻度の高い疾患であるが,母体が血友病保因者の場合の分娩方法について明確な指針は定められていない.今回我々は経膣分娩時のストレスに起因すると考えられた頭蓋内出血をきたした症例を経験したので報告する.母親の実弟が重症型血友病Aであり,遺伝子診断でイントロン22の逆位を認めていた.祖母および母親は確定保因者であった.本児は胎児エコーで男児と判明しており器械分娩禁止の方針とした.正期産で経膣分娩で仮死なく出生し,出生直後は皮膚に出血症状はなく頭部エコーでも異常所見は認められなかった.生後19時間のエコー再検査で両側脳室の拡大認め,CTでは右小脳半球を中心に40×30 mmの血腫を認めた.第VIII因子製剤の投与により保存的治療を行い,血腫は拡大せずにその後自然消失した.現在2歳,神経学的異常を認めない.</p>
著者
吉田 衣里 森川 優子 仲野 道代
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.235-238, 2018 (Released:2018-10-27)
参考文献数
18

小児の悪性腫瘍の代表的な疾患である白血病あるいは固形腫瘍である横紋筋肉腫や髄芽種のうち,重度でステージが高く重症な症例においては放射線治療や大量化学療法に続き,その後に生じる造血機能不全を補うために造血幹細胞移植を行うケースが多い.造血幹細胞移植の際には,化学療法,免疫抑制剤,放射線治療を行うために,好中球がほとんど存在しない状態となり,口腔内には口腔粘膜障害が発症するリスクが最も高い.口腔粘膜障害の症状としては,発赤,出血,口内炎,潰瘍,および口角炎などがみられ,重度なものでは開口障害を生じる.口腔粘膜障害の治療としては対症療法が主となるが,周術期において早期に歯科的介入を行うことにより,症状を軽減させることが可能である.そのため,患者および保護者に口腔ケアの重要性を理解してもらうことが重要である.口腔ケアとしては,ブラッシング,含嗽,および保湿が挙げられる.さらに口腔粘膜障害は一旦消失しても慢性的に口腔内粘膜に拘縮が生じ,刷掃困難や唾液の減少による口腔内乾燥等が生じることが多くみられ,重度齲蝕や歯周病の発症がみられることもある.そのため小児においては,周術期の口腔ケアのみならず,長期にわたるフォローアップが重要である.
著者
青木 孝浩 康 勝好 川口 裕之 久保田 泰央 大山 亮 森 麻希子 荒川 ゆうき 磯部 清孝 野々山 恵章 花田 良二
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.440-443, 2015

ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ<sup>®</sup>,以下GO)は,本邦において2005年にCD33陽性の再発・難治性急性骨髄性白血病(以下AML)に対して保険承認された.しかし,成人AMLに対しては用法・用量が定まっている一方で,小児AMLに対する用法・用量は定まっていない.我々はこれまでに寛解導入療法後に非寛解であった小児難治性AML4症例に対し,分割GO単剤療法(9 mg/m<sup>2</sup> 3分割投与)を行い,4例中2例でGO投与後に完全寛解となった.分割GO単剤療法中にGrade 2のinfusion reactionを2例で認め,肝中心静脈閉塞症(以下VOD)は認めなかった.Grade 3の感染症を全例で認めたが,他に重篤な非血液毒性は認めなかった.分割GO単剤療法後は全例で同種造血幹細胞移植(以下HSCT)を行い,3例が再発した.治療関連死亡はなかったが,HSCT後に2例でVODを発症した.有害事象を軽減しうる分割GO単剤療法であっても感染症やその後のHSCT時におけるVODには十分な注意が必要である.