著者
洗 幸夫
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.27-32, 1998
参考文献数
13
被引用文献数
2 7

配偶の有無が3種家屋住居性ゴキブリの産卵に及ぼす影響及び単為生殖の可能性について調べた。ワモンゴキブリとクロゴキブリでは処女雌は配偶している雌より成虫の生存期間が長かったが, チャバネゴキブリでは雌成虫の生存期間には配偶の影響がみられなかった。ワモンゴキブリでは配偶している雌は平均で34卵鞘を産下したが, 処女雌は8.9卵鞘しか産下しなかった。クロゴキブリも同様で, 処女雌の産下した卵鞘数は6.2で, 配偶している雌の24.5%であった。また, 処女雌の産下した卵鞘には卵の入っていない奇形卵鞘が多数含まれ, その比率はワモンゴキブリでは64%, クロゴキブリは61%であった。これに対して, チャバネゴキブリでは処女雌の産卵数は配偶している雌とほぼ同数で, 奇形卵鞘もみられなかった。単為生殖はワモンゴキブリとクロゴキブリに観察された。ワモンゴキブリでは未受精卵鞘の孵化率は18.7%で, クロゴキブリでは16.7%であった。単為生殖で得られた子孫はすべて雌であった。チャバネゴキブリでは単為生殖が認められなかった。
著者
門馬 健次 高橋 多蔵
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.4, pp.324-328, 1954

日華事変ぼつ発3年目頃から大東亜戦争に至る期間に於て上海日本居留民の間にも本国に見習つて隣保制度が組織され, 今にしてみれば実にはかない回想でしかないのであるが, 亢奮したふん囲気のうちに民防空に関する諸施設が町内会単位に着々と強化されてゆき, 防火用水槽設置の如きもその一つの現れであつた.ところがこの防火用水槽の出現は, それに附随して公衆衛生上見逃しがたい諸問題を起した.例えば夜半苦力, 乞食の露天風呂乃至洗濯場として重宝がられる水槽が日晝は児童の水遊び場として喜ばれるが如き, またデング熱, マラリアのような悪疫伝搬に大きな役割を演ずる蚊族の発生基地がこのため著しく増加する虞れのあるが如きその代表的なものである.昭和18年(1943)の春先, 漢口の中心部にデング熱が発生し9月になつて猛威を振い10月中旬までに464名の患者を算しその約8割が邦人であり, 中国人側の罹患は調査不充分のため確実な数字はつかめないが千数百名に達したであろうとのことであつた.けれどもこの年上海では1名のユダヤ人患者発生の公報に接したのみであつた.かかる情勢のもとに著者等は上海の防火用水槽につき, 蚊族幼虫発生状況調査の必要にせまられ, 当地総力報国会厚生部(部長下村泰介氏)の熱心な協力を得て昭和18年6月から約2ケ月に亘り町内会設置のもの1226個, 工場内設置のもの3129個合計4355個の防火用水槽につき, その種類, 構造, 貯水状態を調査し, 実際貯水されている水槽4092個について蚊族幼虫の発生状況を検査した.検出されたCulex属の種類や各種幼虫の水槽内に於ける混棲状態についての詳細な資料の控など今は全部散逸して手許になく, ここにはAnopheles hyrcanus var. sinensisとAedes albopictusの2種についてのみ記述するの己むなきを遺憾とする.また参考に供した文献もその控を失つたためその極く一部しかここに載せることができない.
著者
佐藤(大久保) 梢 高野 愛 高娃 安藤 秀二 川端 寛樹
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.3-14, 2019-03-25 (Released:2019-04-18)
参考文献数
130
被引用文献数
6 7

Tick and mites have many endogenous microorganisms, some of which are pathogen. Recently, emerging and re-emerging infectious diseases have been reported in Japan, and prevention and control of the disease have been taken. In this session, we would like to introduce the outline of tick-borne infectious diseases reported in Japan from the viewpoint of medical entomology.
著者
高橋 守 三角 仁子 増永 元 田原 義太慶 角坂 照貴 鳥羽 通久 三保 尚志 高橋 久恵 高田 伸弘 藤田 博己 岸本 寿男 菊地 博達
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第62回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.45, 2010 (Released:2010-10-12)

ウミヘビツツガムシV. ipoidesはウミヘビの気管や肺に寄生する内部寄生性のツツガムシで、南西諸島で捕獲したエラブウミヘビ亜科の3種(エラブ、ヒロオ、アオマダラ)に寄生していた。未吸着幼虫は鼻腔内や気管入り口で吸着しないで生存しているのが観察された。気管や肺で観察された幼虫の多くは、体長5-8mmにも達する大型の幼虫であった。エラブウミヘビを水を張った飼育容器内で観察したところ、約2ヶ月後に口から吐き出された生きた満腹幼虫30個体と、肺に吸着している満腹幼虫4個体および未吸着幼虫1個体を得た。なお消化管内での寄生は全く認められなかった。以上のことから未吸着幼虫は、陸上の産卵場所などでウミヘビの鼻腔から侵入し、下顎に開く気管から肺に侵入し、体液を吸って満腹し、気管入り口から外に吐き出されるものと考えられた。満腹幼虫を25℃下で飼育すると、体表にある多数のイボ状突起は約1週間で消え、滑らかになり、やがて腹部に脚原基が形成され、背中の外皮が破れて8本足の成虫が出現した。これは、通常の哺乳類に寄生するツツガムシで見られる第二若虫や第三若虫の形態を経ないで成虫になるという、ウミヘビの生活に適応した生活環とみなされた。成虫になった1-2日後、雄は精包を産出し、雌がこれを取り入れて11日後に産卵した。産卵は16日間続き、1日平均16.5卵(3-31/日)、孵化率52.8%であった。他に発育速度およびstylostomeについても述べる。
著者
大利 昌久
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.255-256, 1975-12-15 (Released:2016-09-05)

The spider, Heteropoda venatoria, has been known to be an effective natural enemy of pest insects like cockroaches and flies. The field study on the geographical distribution of this spider was made during the periods from 1963 to 1966 and from 1972 to 1973. It covered 174 points in 42 prefectures. Results were as follows : 1. This spider was recorded at 137 points in 35 prefectures. 2. This spider was found more abundant in the southern parts of Japan, as Kyushu and Chugoku districts and in the Pacific side of Honshu Islands including many southern remote islands. 3. The northern boundary of habitats of this spider was found to lie on the area of six different prefectures, namely Ibaraki, Tochigi, Gumma, Nagano, Toyama and Ishikawa Prefecture. Those prefectures lie at 36°-38°North Latitude and in the zone of the annual mean temperature of 12°-14℃.
著者
上村 清 荒川 良
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.161-162, 1986
被引用文献数
2 5

チョウバエ科昆虫によるハエ症は泌尿生殖器, 消化器, 気道, 眼瞼内より少数報告されている。著者らは今回富山市在住の69歳女子膀胱炎患者の泌尿生殖器系に寄生していたと思われる1虫体を尿中に検出し, オオチョウバエTelmatoscopus albipunctatusの成熟幼虫と同定したので報告する。
著者
佐々木 均 石川 陽司 助廣 那由
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.311-315, 2009-12-15 (Released:2016-08-06)
参考文献数
17
被引用文献数
2

The tabanid fly fauna and their seasonal prevalence were surveyed with a mosquito-net and NZI traps baited with 2kg of dry ice at 2 municipal pastures in Shibetsu and Rumoi, of north-western Hokkaido, Japan from June to September in 2005 and 2006. A total of 467 flies of 10 species in 5 genera were captured at Shibetsu, and 956 flies of 13 species in 6 genera at Rumoi. At Shibetsu, Tabanus nipponicus was the dominant species followed by Hybomitra distinguenda and T. trigeminus. Tabanus nipponicus was also the dominant species at Rumoi, followed by T. rufidens and T. chrysurus. Hirosia sapporoensis was abundantly captured in Rumoi but not collected in Shibetsu. The fly numbers showed a peak in late July at Shibetsu. In Rumoi, 2 peaks were observed in late July and late August probably due to the effects of rain fall during the collection day in early August.
著者
西岡 恵里 船坂 陽子 長濱 通子 鷲尾 文郎 加藤 晋造 松村 武男 市橋 正光
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.97-102, 1996
被引用文献数
3

21歳, 男性。平成6年9月ピラニアの捕獲目的でブラジルのマナオスからネグロ川ぞい約300km上流のジャングルに旅行中, 右上腕を蚊のような虫に刺された。虫刺部に発赤・腫脹を生じるようになり, 中心部には硬結がみられ血漿浸出液を伴う瘻孔を認めるようになった。帰国後近医を受診, 抗生物質を処方され腫脹はやや軽減したが, 右腋窩のリンパ節の腫脹がみられるようになり, その後瘻孔より白色半透明の虫体が出入りするのが目撃された。虫体は捕えようとすると素早く瘻孔にもぐりこんだ。患者自身がでてきた虫体の採取に成功し, 虫体を持参のうえ神戸大学付属病院皮膚科を受診。体長約1.5cm, 白色のとっくり状の虫体で同大医動物学教室にて, ヒトヒフバエのニ齢幼虫と同定された。ヒトヒフバエ(症)は日本土着のものではなく, 中南米からの輸入例が全部を占めている。1974年のKageiらの報告以来本邦12例目となる。最近5∿10年間に報告が集中しており, ヒトヒフバエが生息する中南米の熱帯雨林地域への旅行者の激増に伴う発生増加が要因と考えられる。
著者
赤石 大輔 中村 浩二
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.195-199, 2014
被引用文献数
2

中部日本の環境の異なる3地点からキノコ子実体を採集し,実験室内で子実体内部に成育するハエ類を羽化させた.その結果,モモグロオオイエバエ<i>Muscina angustifrons</i> (Loew)は,新たに19種のキノコを利用していることが判明した.本種は,キノコ子実体のみで羽化すること,また,カメの人工餌でも羽化することが確認された.本種の終齢幼虫は,与えられたミスジショウジョウバエ<i>Drosophila bizonata</i> Kikkawa and Pengの幼虫を捕食した.以上の結果から,野外ではキノコ子実体以外に,おそらく植物組織,糞,動物遺体などを利用する雑食性であるともに,キノコ食双翅目群集内において,ギルド内捕食者でもあると推測された.
著者
川本 文彦 熊田 信夫
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.211-212, 1989
被引用文献数
5

A case report of eye-injury accidentally caused by the cervical gland venom from a snake, Rhabdophis tigrinus was described. The male patient was one of the authors of this report, aged 36 years, who was injured at his right eye during handling snakes captured for his laboratory work. About 5min after the accident, very frequent blinks followed by massive epiphora occurred in the injured eye. He recognized strong conjunctival injection with foreigh-body sensation in the eye. Irrigation with tap water had no effect, but repeated irrigation with a commercial eye-lotion reduced the symptoms. Three hours later, he could open the right eye, although corneal opacity disturbed his vision. Conjunctival injection disappeared within 4hr, but strong foreign-body sensation still remained. He was diagnosed at hospital as descemetitis with corneal opacity by the snake venom entered the eye. He was treated with chloramphenicol- and flavineadenin dinucleotide ointments. Clinical symptoms improved rapidly and disappeared within 3 days.
著者
矢野 俊彦 高田 容司 平野 雅親 中山 勇
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.253-263, 1994
被引用文献数
1

地下街に棲息するゴキブリ類の棲み分けとその薬剤感受性について, 飲食店街24店舗と食料品街12店舗を対象に10年間の推移を調査した。その結果, 優占種はチャバネゴキブリとトビイロゴキブリであり, 若干のクロゴキブリが混在していた。飲食店街における優占2種の平均捕獲率はほぼ拮抗していたが, チャバネゴキブリが洋食店・喫茶店で優占種であったのに対し, トビイロゴキブリは和食店・酒房・寿司屋で優占種となっていた。店舗間に仕切りがなく各店舗内の温度が共通である食料品街においても同様の棲み分けが認められた。この棲み分けは10年間にわたりほとんど変化がなかったが, 両種ともその棲息密度はやや減少の傾向にあった。棲み分けの要因の一つとして, 両種の食物嗜好性の違いが関与していると考えられた。チャバネゴキブリ成虫に対する薬剤感受性は, 供試した3薬剤(フェニトロチオン, ピレトリン, d-transペルメトリン)のいずれに対しても10年の間に徐々にLD_<50>値が上昇する傾向にあったが, その変化幅はさほど大きくなく, 抵抗性比としては低レベルにあった。一方, トビイロゴキブリに対する薬剤感受性は, フェニトロチオンにおいては10年間にわたりほとんど変化なかったが, ピレスロイド系2剤の場合はLD_<50>値の上昇傾向が認められ, とくにd-transペルメトリンでは中程度と目される感受性低下が観察された。この地下街では, 1968年以降有機リン剤(フェニトロチオン等)とピレスロイド剤(ペルメトリン等)の交互施用が行われてきている。この防除プログラムは, チャバネゴキブリに対しては密度抑制と薬剤抵抗性発達の抑制の両面から有効な防除技術の一つと考えられたが, トビイロゴキブリに対しては, さらにモニタリングを続け, 動向を注視していく必要があると考えられた。
著者
青柳 昌宏
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.122-126, 1957

ドクガ幼虫の天敵モモクロサムライコマユバチApanteles conspersae FiskeおよびドクガヤドリバエSturmia picta Baranoffについて記録すべき2, 3の観察を報じる.1.モモクロサムライコマユバチ-1)本種の幼虫は2, 3の例を除いてドクガn-3齢幼虫(n齢=終齢)の体表から脱出し, 幼虫体上に営繭, 蛹化する.2)脱出を受けたドクガ幼虫は尚17〜18日間生きつづける.3)ドクガ幼虫1頭から脱出する幼虫数は1〜11頭である.5)寄生率は15%, 羽化率は94%である.5)前蛹期+蛹期間は7〜12日で, 羽化は5月11日〜6月9日に行われた.2.ドクガヤドリバエ-1)本種の幼虫はドクガn-2齢幼虫の体表から脱出して蛹化する.2)寄生を受けているドクガ幼虫はn-2齢で営繭し, 本種幼虫の脱出によつて死ぬ.3)ドクガ幼虫1頭に対する寄生数は1頭である.4)寄生率は8%, 羽化率は67%である.5)前蛹期+蛹期間は12〜16日で, 羽化は5月30日〜6月2日に行われた.
著者
堀 栄太郎 山口 勝幸
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.399-400, 1984-12-15 (Released:2016-09-02)

Two males of the parasitic calliphorid fly Melinda itoi Kano 1962 were obtained from the slug, Incilaria bilineata (Benson) in April, 1976. The slug was one of those which were collected on March 25,1976 in the cracks of the bark of an old Ume-tree (Prunus mume Sieb. et Zucc.) growing beside the brook of a hilly village (Ohyagi, Moroyama-cho, Saitama) and kept alive in our laboratory at 25℃ from that time on. The movement of the maggots in the slug body was recognized three days after collection. Two days after that, they came out of the slug and pupated on the bottom of the glass container. After 12 days (April 11), the adult flies appeared. So far as we know, this is the first case of the parasitic fly emerged from the slug in Japan.
著者
山岸 宏 中村 譲 和田 芳武 沖野 外輝夫 中本 信忠
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.48-58, 1966-03-31 (Released:2016-09-05)
被引用文献数
3 2

わが国の4つの温泉地(蓮台寺, 浅間, 戸倉・上山田, 内郷)において, 温泉廃水を含む水体中に南米原産の胎生魚, グッピーが野生化し, 自然繁殖を続けていることを確認し, 主に戸倉・上山田および蓮台寺でグッピー個体群とその環境についての調査を行つた.グッピーは冬季には温泉廃水の混入する場所のみに生息する.これらの場所の水温は20℃前後に維持されている.戸倉・上山田温泉のこのような場所の一つで, グッピーは冬の終りには非常な高密度に達していた.しかし夏になるとグッピーは温泉の影響の少い農業用水, 水田, 川の岸辺の浅水部などへ広く分散する.この時期には越冬場所の個体数は著るしく減少した.これらのグッピーは下水の混入する汚濁のかなり強いところにも生息しうる.しかし耐寒性はない.グッピーの生長は非常に早く, 産子間隔も短いので, 急速に個体数が増加する.このような性質と強い雑食性によつて, 水田その他の水たまりの蚊幼虫の駆除にグッピーを利用することができる.調査した2つの温泉地の水田にはシナハマダラカとコガタアカイエカの幼虫が極めて少なかつた.
著者
當間 孝子 宮城 一郎 比嘉 由紀子 岡沢 孝雄 佐々木 均
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.65-71, 2005
参考文献数
22
被引用文献数
2 29

2004年6月12-18日に, 琉球列島の西表島の森林地帯の2ヵ所で, 蛙の声をCDプレイヤーで鳴らし, 直ぐ近くにCDCライトトラップを設置し蚊類を採集した.第一地点で合計777個体, 2地点で257個体のハエ目の昆虫が採集された.それらのうち, 次の4種の吸血性昆虫(雌)が両地点で目立って多く採集された.マックファレンチビカは第一地点で580個体(74.6%), 第二地点で193 (75.1), ヤエヤマカニアナチビカ19(2.4)と27 (10.5), ヤマトケヨソイカ106 (13.6)と20(7.8), また, ルソンコブハシカが第一地点のみで39個体(5.0%)が採集された.これらの蚊にケージ内でヌマガエルを暴露すると, 吸血行動が見られ, 多くの個体が吸血した.このことからこれらの蚊は自然界でカエルの鳴き声に誘引され, 吸血していると思われる.
著者
伊藤 靖忠
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第63回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2011 (Released:2014-12-26)

ワルファリンを代表とする第一世代の抗凝血性殺鼠剤は、単回摂取ではほとんど致死効力を発揮しないが、複数回摂取では顕著な累積効果が認められる。一方、ジフェチアロールを代表とする第二世代の抗凝血性殺鼠剤は、ネズミに対する毒性が極めて高く、単回摂取でも致死効力を発揮するが、これら薬剤の累積効果についての報告はほとんど見られない。マウスに対するジフェチアロールの累積効果については、第59回衛動学会大会時(2007)の殺虫剤研究班集会で報告した。試験は、所定濃度の投与液をマウスの体重10g当たり0.1mlの割合で金属製ゾンデを用いて直接胃内に投与する方法で行った。その結果、従来より認められていた単回摂取での致死効力に加え、単回摂取で十分な効力が得られない低薬量群において、0.5mg/kgの1回投与で死亡率が0%(0/6)、0.1mg/kgの5回投与で死亡率が33.3%(2/6)という累積効果が認められた。その後、ラットおよびクマネズミに対して同様の方法で試験を行った結果、単回摂取での致死効力に加え、単回摂取で十分な効力が得られない低薬量群において、ラットでは0.5mg/kgの1回投与で66.7%(4/6)、0.1mg/kgの5回投与で100%(6/6)、クマネズミでは0.5mg/kgの1回投与で50%(2/4)、0.1mg/kgの5回投与で100%(4/4)という死亡率が得られ、いずれのネズミにおいても、0.1mg/kgの5回投与、合計で0.5mg/kgという低薬量で累積効果が認められた。これらの結果の詳細について報告する。
著者
池庄司 敏明
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.7-15, 1981
被引用文献数
2 16

雄蚊の羽音が雄蚊を誘引するという報告は古く, 羽音と関連した交尾行動を報告した論文は多い。しかし羽音を蚊の駆除に利用した報告は極めて少ない。本実験は, 最初に生態の異なる4種の蚊の羽音の基音周波数の分布を測定した。次に発振器を使用し, 各種, 雌雄の平均周波数の音を発生させ, 雌雄200匹の蚊を入れた30cm立方のケージから雄蚊の抽出を行った。ネッタイシマカ, ヒトスジシマカでは466Hz, 462Hzの雌蚊の周波数音を, 15分ずつ1日48回発生させ, 3&acd;4日間, 雄蚊を抽出したところ, 0%, 1.9%の雄蚊が残り, 15.3%, 11.8%の雌蚊が受精された。ところが, An. stephensi (423Hz)とチカイエカ(370Hz)では, 9.2%, 8.7%の雄蚊が残留し, 65.7%, 93.6%の雌蚊が受精された。一方ヒトスジシマカ, An. stephensiでは28.0%, 15.2%の雌が903Hz, 640Hzの雄の羽音に誘引された。これは野外での雄蚊の群飛の音に雌蚊が誘引されることを示唆している。An. stephensiは, 18 : 00の消灯後わずか15分間ゲイトに触角剛毛(fibrillae)を立て, 雌蚊の羽音に反応するので, 1日1回の発振音で, 1日48回の発振音と同率の雌交尾率と雄捕獲率を示した。ネッタイシマカ, チカイエカは4 : 00(点灯), 18 : 00(消灯)前後に交尾活動ピークがあり, しかも明暗期を通じて, 少率ではあるが交尾活動を行った。いずれの種も雄は, ほぼ24時間で尾節(hypopygium)は, 180°の回軸を完了し, An. stephensiを除いて触角剛毛90°の起立を完了し, 交尾可能となった。一方雌は交尾可能になるまでに1&acd;2.5日間を要した。交尾のための誘引には, 羽音が最も重要で, 揮発性の誘引フェロモンは存在しなかった。
著者
栗原 毅
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.135-154, 2003
被引用文献数
2 10

This is a review of Japanese studies on the vector mosquitoes of dengue fever. The article consists of four parts. The first describes the process of vector incrimination with a focus on Aedes albopictus. The next, vector studies during the epidemic occurred in Japan, 1942-43. The third part summarizes recent advances in biological and epidemiological studies on Aedes albopictus, particularly after the second world war. Finally, I discuss the cause of the sharp increase in dengue fever during 1942 and 1943. A list of papers on dengue vector mosquitoes in Japan is presented.
著者
高島 郁夫
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.61-66, 2013-06-15 (Released:2014-01-08)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

Tick-borne encephalitis (TBE) and Crimean-Congo hemorrhagic fever (CCHF) have been known as tick-borne viral infectious diseases. Recently, severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS) emerged as a new tick-borne viral infectious disease. TBE is prevalent in Russia and many European countries. CCHF is prevalent in Russia, Central Asia, Europe and Africa. SFTS is now prevalent in China and Japan. This article reviews Tick-borne encephalitis and Crimean-Congo hemorrhagic fever in detail and describe present situation of SFTS.