著者
宮島 利宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

生物地球化学的物質循環上重要な各種の有機・無機化合物の炭素・窒素・酸素安定同位体比を手掛かりとして、河口域における物質の起源と変換プロセスを明らかにする研究手法を開発検証した。またこうした手法により得られるデータを効果的に利用して陸域から海域への物質輸送の在り方を評価するためのモデルによる解析手法を開発・提案した。
著者
佐久間 一郎 児玉 逸雄 本荘 晴朗
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,計測は1台の高速度カメラで行い,撮影フレームごとにVm用/Ca2+用2種の光学フィルタを高速で切り替えて2つの信号を同時に取得するシステムを開発した.標本からの計測光は複数枚のレンズを組み合わせた光学レンズ系によってフィルタ位置で絞られ,撮影素子に復元する.本システムによりウサギ摘出心を用いて同時計測を行い,ペーシング時の活動電位波形,Ca2+動態を観察に成功した.また当初の基礎的検討では1台カメラ・フィルタ回転同期システムの光学機構設計に難航したため,平行して2台カメラとダイクロイックミラーを組み合わせた従来手法を改良し,Mutual Informationを用いて膜電位変化とCa動態を精緻に画像位置補正する装置も開発した.
著者
ゴチェフスキ ヘルマン
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究のもっとも重要な目的は、音楽学に日本と韓国の研究交流を妨げるさまざまな理由を発見し、将来の交流の可能性と方法を具体的に示すことであった。この研究のために4ヶ月半韓国に滞在し現地調査を行う機会が与えられたので、今年度はこの現地調査に集中した。そこではまず多くの学会や音楽フェスティヴァルに参加し、大学の研究施設を訪問し、学術団体の活躍について調査し、多くの学者とのインターヴューを行った。そして自分でも数多くの学会発表や公開講演を行い、韓国の学界のありかたを広く知ることができた。その中では9月11日の音楽関連諸学会共同主催 韓独音楽学会創立20周年記念学術大会『音楽研究をどうするか-韓国での音楽学の過去・現在・未来』における発表「西洋音楽研究における(東)アジアの観点」(それを韓国語で行った)と11月13日の〓園大学校アジア文化研究所第三階国際学術大会『アジア・ナショナリズムの境界・主体・文化』における発表「「地域」・「国家」・「地方」または「人種」・「国民」・「集団」-音楽の分類に含まれている政治的な意味と音楽におけるアイデンティティーの形成」がもっとも重要だった。また英語の発表で参加したショパンの誕生200年記念を祝う国際大会『ショパンの神話と実際』(ソウル、10月)では、韓国の音楽界における学術研究と音楽実技の関わりを深く観察する事ができた。「音楽学の将来の日韓交流」に関しての実績としては、2011年秋に東京大学で行われる大学院生の日韓交流セミナーの企画、研究代表者の発起によって2011年に創立される国際音楽学会(IMS)のRegional Association of East Asiaと2012年に国際音楽学会のローマ大会で開かれる日本と韓国の音楽学者を含むラウンドテーブルの企画等があげられる。
著者
木本 哲也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

海馬で低用量ビスフェノールA(BPA)の作用を検討した。(1)成熟ラット海馬スライスに10nMBPAを2時間作用させると樹状突起スパイン(特にmiddle-head:頭部直径0.4-0.5μm)が増加した。BPA作用は膜受容体ERRγが媒介していた。MAPキナーゼ・NMDA受容体阻害もBPA作用を抑制した。(2)周産期に母体経由で低用量BPA(30μg/kgBW/day)に曝露されたラットのスパインは成長後のオスで減少した。メスでは性周期依存性変動が消失しオスに近づいた。(3)質量分析法でオスラット海馬に約64nMのBPA蓄積が判明した。
著者
村上 興匡
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

明治30年代以降、告別式や神前結婚式に代表される宗教式結婚式など、近代的な人生儀礼の様式が次々考案された。これらは日本を文明するという機運、簡素化・合理化の主張としての風俗改良運動、社会教育における宗教の役割といった時代の問題と関係していた。その一方で日本の伝統的宗教習俗の多くは、文明に反する迷信として排除の対象となったが、「家」に関連する部分(たとえば「祖先教」など)は天皇制との関係で残された。近代的な人生儀礼は、都市的な生活様式に適合するものであるとともに、「家」的なイデオロギーと密接に結びついていたといえる。当初一部インテリ階級のみによって実行されてきた告別式や神前結婚式は、昭和になってから都市市民、特に戦後の高度経済成長期以後には、地方全国に広がった。1970年には、それまで大会社しかおこなっていなかった「社葬」を、創業者の葬儀のために中小企業においてもおこなうようになり、「村」-「家」に擬制したような企業間の贈答関係が成立し、葬儀は華美なものとなった。その一方で少子高齢化、核家族化によって「家」制度は徐々に壊れ、1990年代には継承者いらない墓地、散骨(自然葬)等々の運動が起こった。これらの運動の主題は「どう葬るか」ではなく「どう葬られるか」にあり、従来の葬儀慣習が強制力をなくし、葬儀のあり方が多様化していることを示している。それによって人々の葬儀や死に対する考え方は個人化し、葬儀の社会儀礼としての意味づけが弱められてきている。
著者
西成 活裕 岡田 雅之 Bandini S. Schadschneider A.
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、車、および人の流れ等に発生する渋滞の緩和方法について、理論とシミュレーション、および実測データを用いて考察した。高速道路における車の渋滞緩和のため、渋滞吸収走行を提案し、渋滞が緩和される条件を数学的に示した。そして理論をもとに実際の高速道路での実験を行い、その効果を確認することができた。そして人の流れの研究では、実際の駅の狭い通路での対向流を分析し、デッドロックが起こる条件を明らかにした。さらに現実への応用として空港における入国審査場における待ち時間短縮システムを構築し、社会実験によりその有用性が確かめられた。
著者
三浦 篤
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

マネの主要作品について19世紀当時の批評を調査し、その受容の様相を分析した。取り上げたのは《草上の昼食》、《オランピア》、《エミール・ゾラの肖像》《フォリー・ベルジェールのバー》、《鉄道》の5点で、その批判的な反応から、マネの作品が主題の扱い方、様式・技法のレベルにおいて、いかに当時の美的な基準を逸脱していたかが明らかになった。本質的には、マネの絵の曖昧さや多義性が観者の読解を混乱させたのである。
著者
江頭 祐亮
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

最終年度である平成24年度は,前年度で高精度化した陽子線線量分布計算アルゴリズムの実験的な検証を行なった。元来電子線治療に対する線量分布計算法であるPBRA (Pencil Beam Redefinition Algorithm)法を陽子線治療に応用することによって高精度線量分布計算アルゴリズムの実装を行ない、実験的に検証を行なった。PBRA計算法の最大の特徴は,側方向の位相空間の変化に加えて,エネルギーの位相空間の変化を考慮した六次元の位相変化を評価することによって輸送計算毎にPBを再定義することが可能である点である.このPBRA計算法における物理的特性によって,再定義によって再発生したPBは,従来のPBの軌跡が考慮することのできないビームの軌跡を描くことが可能であることを示している。また,PBRA計算法のアルゴリズムとしての妥当性を確認した上で,PBを分割することによる不均質媒体に対する線量分布への影響の評価を行った。この評価では,人体の不均質を模擬した異なる2つのファントムを作成し,PBの深さ毎の分割数が増加するにつれ計算値と測定値の相違が小さくなることを確認し,更に不均質媒体の直上でPBを分けることによって精度が向上することを示した。続いて,PBRA計算法による計算結果とファントム測定の結果の比較による精度向上に対する評価を行った.この評価では,上記の不均質スラブファントムに加えて,より人体の構造に近い模擬人体ファントムを用いており,PBRA計算法がPBA法に対して,より人体に近い体系に対して計算精度が向上することを示した。更に,アルゴリズムの高速化と,高速PBRA計算法を搭載した陽子線治療計画システムの開発を行った。
著者
横田 裕輔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では、地殻内地震の本震から余震活動や余効変動へと移行する時間発展の様子をハイレートGPSを用いた震源インバージョンによって解析し、余効変動への進展の様子を明らかにする。さらに、2011年東北地方太平洋沖地震に関して、その本震の震源過程とバックスリップ・余効すべりの詳細な解析を実施する。これらの解析から、東北沖のプレート境界に関する固着とすべりの時空間発展の描像を得る。さらに一連の時空間発展を再現可能な物理モデル、シミュレーションについて議論を行う。このような解析と議論によって、地震の始まりと進展だけではなく、地震の終焉とその後の中・長期的な時空間発展の概観を知ることを目的とする。本年度は、2011年東北地方太平洋沖地震(Mw:9.0)について強震波形データを用いたインバージョンを行い震源過程を推定した。さらにハイレートGPSデータを使用した解析によりこの地震直後の余効すべり過程を推定し、巨大地震の終焉過程についての考察を実施した。また、過去のGPSの1日サンプルデータについて過去の研究より詳細に時系列解析を行い、北海道から房総沖にかけての太平洋プレートの沈む込み帯におけるバックスリップ過程の詳細な時空間発展を調べた。海底地殻変動データも含めた解析も実施し、同じデータセットを使った本震の解析結果と非常に似た領域が固着を蓄積し続けてきたことも明らかにした。さらに、詳細な本震の震源領域・地震前のバックスリップ領域・地震後の余効すべり領域を比較し、一連の時空間発展を再現可能な物理モデルについて議論を行った。これらの研究の結果、2011年東北地方太平洋沖地震の前後約15年間にわたる詳細な物理過程の全容を推定し、その物理モデルに関する示唆を得た。
著者
大坪 英臣 北村 欧 鈴木 克幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1989年のアラスカ沖のエクソンバルデス号の座礁事故後、相次ぎ発生するタンカーからの油流出事故は、海洋環境に甚大な影響を与えるとともにその対策の必要性を強く認識させた。タンカーの構造に対しても、国際海事機関(IMO)において二重殻またはそれと同等な効果を持つことが義務づけられた。しかし、その後もタンカーからの油流出事故は引き続き起こっている。96年2月にはシーエンプレス号がイギリスで座礁事故を起こし、6万5千トンの原油の流出事故を起こし大規模な環境汚染を引き起こした。日本でも、97年1月に発生したナホトカ号の事故は、日本近海で発生した油流出事故としては最大の被害を与え、97年7月には東京湾でダイアモンドグレース号が座礁事故を起こし、国民に油流出事故の脅威及びその対策の必要性を強く認識させた。本研究では、この事故時の油流出を低減する技術等の研究を行い、将来の基準化、MARPOL条約の改正に向けてその妥当性を検討した。緩衝型船首構造の有効性を検討した。詳細FEM解析、模型試験により衝突の簡易評価式を作成し、試設計した緩衝型船首構造に対してシリーズ計算を行った。最後に、緩衝型船首構造を設計する際の指針を示した。今後、緩衝型船首構造が真に有効性を発揮するためには基準化が必要となる。その際には、船首構造を具体的に規定するのではなく、船首構造が持つべき単位面積あたりの圧潰強度の上限、下限(船首構造が柔らかすぎる場合は逆に吸収エネルギーが小さくなり、危険側になる)を規定する必要がある。本研究では基準案における具体的な強度の策定まで行うことはできなかったが、試設計した緩衝型船首構造の有効性をシリーズ計算により確認し、基準となるべき具体的な設計指針を示した。
著者
高橋 保 内田 安三 内田 安三 佐分利 正彦 高橋 保
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1988

ルテニウムの配位不飽和な活性種である5配位錯体[RuH(P-P)_2]PF_6を種々の2座配位子を用いて合成し挙動を調べたところ次のようなことがわかった。この5配位錯体は溶液中では完全にフリ-な5配位では存在せず、何らかの配位を伴っている。ホスフィンのキレ-ト環が大きくなるにつれて、錯体構造はアゴスティック相互作用を有する安定なシス体へ移行していくと考えられる。またホスフィンとしてdppbを用いたとき、アルゴン下、窒素下、水素下のNMRの比較より、この錯体のホスフィンに結合しているフェニル基のオルト位の水素がルテニウムに配位するアゴスティック相互作用は、窒素や溶媒の配位よりは強く、水素の配位よりは弱いことが明かとなった。さらにdppfを配位子とする場合、この配位子のかさ高さのためにシス体の構造をとっている。これはX線構造解析により明らかとした。この錯体に配位する水素分子はハイドライドHと等価となりトリハイドライド錯体になっていると考えられる。一方ジルコニウムについては活性種をジルコノセンジアルキルから系中で定量的に発生させたところジルコニウムII価のオレフィン錯体であることがわかった。このオレフィンをスチルベンに替えX線構造解析により構造を決定した。さらにこのオレフィン錯体と他のオレフィンとをジルコニウム上で反応させたところ位置選択率99%以上、立体選択率99%以上という高選択性の炭素炭素結合生成反応の開発に成功した。さらにこの反応構の詳細な検討からジルコナあるいはハフナシクロペンタン化合物のβ、γ-炭素炭素結合が活性されること、さらにα位にメチル基のようなアルキル基をもつ場合、この置換基を選択的にβ位に移動させるこれまでにない新しい反応の開発に成功した。
著者
村田 一郎 加藤 照之 柳沢 道夫 長沢 工 土屋 淳 石井 紘
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1986

1.受信機の改良国産のGPS相対測位用受信機の開発が本研究の目的の一点であった。L1単波受信機としては、すでに昨年度完成していたが、測定精度向上のため、L1、L2の2波受信が可能となるよう改良を施した。L2波搬送波再生方式として、Pコード解読形を採用したので、好S/N比が得られた。この受信方式を採用した機種は米国に1機種あるだけで、特色ある国産受信機が製作されたことになる。ただし、受信チャンネルが8本と限定されたため、同時受信可能衛星数は4個ということになった。完成は今年度秋期であったが、データ解析処理ソフトウェアが未だ途中段階であること、さらに、GPS事情の激変のため、労力を外国製受信機の対応に取られ、現在までのところ、本確的な運用までには至らず、文京区地震研究所と三鷹国立天文台との間で試験観測を続けている。2.試作受信機による観測三浦・房総両半島を結ぶ基線網において、1987年06月と88年02月の2回試験観測を実行した。6月の観測については、昨年度報告済みであるが、2月の観測については、データ処理に時間的な余裕がなく、報告できなかったので、ここに結果の一部を記しておく。下表は基線長を前回の結果と比較したもので、10kmの距離を1cmの精度で計測するという研究当初の目的の一つを達成したものと判断できる。基 線 基線長(m) 前回との差(cm)間口ー野比 7813 2.9 1.0野比ー鋸山 12154 -1.2鋸山ー間口 13730 1.2また、対国立天文台基線(20km)を使い、外国製GPS受信機と並行観測を継続中で、この結果も含めた総合研究報告を現在作成中である。
著者
光延 真哉
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度は次の1~3の論文を発表し、4の口頭発表を行った。なお、1と2は昨年度(平成20年度)内に投稿、受理されたものであり、その概要については昨年度の報告書に記載したためここでは省略する。1.「『春世界艶麗曽我』二番目後日考」(『国語と国文学』86巻6号、2009年6月)2.「歌舞伎役者の墳墓資料」(『演劇研究会会報』35号、2009年6月)3.「スペンサーコレクション所蔵『風流ぶたい顔』について」(『国文学研究資料館平成21年度研究成果報告<見立て・やつし>の総合研究プロジェクト報告書』5号、2010年2月)4.「東京都立中央図書館加賀文庫所蔵『役者とんだ茶釜」について」(歌舞伎学会秋季大会、2009年12月12日、於鶴見大学)3はニューヨーク公共図書館(The New York Public Library)のスペンサーコレクション(The Spencer Collection)所蔵の黒本『風流ぶたい顔』(延享2年刊ヵ)、4は東京都立中央図書館加賀文庫所蔵の名物評判記『役者とんだ茶釜』(明和7年成立、何笠著)を新たに紹介したものである。前者は「三段謎」の形式で江戸の歌舞伎役者40人を採り上げた作品、後者は鐘元撞後掾という架空の一座で上演された『菅原伝授手習鑑』の評判を記した作品であり、いずれも本研究が対象とする近世中期の江戸における、歌舞伎の享受の在り方を示す好資料である。また、今年度は、昨年度、東京大学大学院に提出した博士論文をもとにし、笠間書院から刊行予定の単著『江戸歌舞伎作者の研究-金井三笑から鶴屋南北へ-(仮題)』の原稿執筆を行った。いずれの論考にも大幅な加筆訂正を施しているが、特に研究課題の一つとなっている初代金井由輔について、その事績を新たにまとめて増補したほか、従来活字化されていなかった金井三笑作『卯しく存曽我』の台帳の翻刻を掲載する予定である。
著者
風間 洋一 PINANSKY S. B. PINANSKY Samuel Bernard PINANSKY Samuel Barnard
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

Pinanskyは、2年前にBerensteinと共に提唱した、素粒子の標準模型と非常に良く似た性質を示すMinimal Quiver Standard Modelの性質の研究を継続して行った。具体的には、このモデルのパラメーターに対する従来よりはるかに正確なバウンドの計算、および加速器実験における崩壊確率と計測確率の計算を遂行した。この計算により、近い将来にLHC実験から得られるデータとの比較の準備が整ったと言える。この研究成果は、Physical Review Dに掲載されることが確定している。この種のモデルにおける困難な点は、その背景にある超弦理論との関係が完全には明確になっていないことである。その鍵となるゲージ/弦対応については膨大な「証拠」が得られており、ある種の曲がった時空の境界にクイヴァーゲージ理論が現れることが知られているが、そのメカニズムをより明確にするために、トーリック幾何と呼ばれる代数幾何のクラスに関する研究も継続して行った。一方風間は、前年度に引き続き、ゲージ/弦対応の理解に不可欠であるにも拘わらず発展が遅れているラモン・ラモン場を含む曲がった時空中の超弦理論の研究を行った。この種の問題のプロトタイプである平面波背景場中の超弦理論をグリーン・シュワルツ形式で共形不変性を保ったまま量子化する方法を開発し、量子化されたヴィラソロ代数を構成することに成功した。さらに、系の持つ対称性代数の生成子の量子的な構成、および物理的状態に対応する頂点関数の構成の研究を進めたが、実はこうした研究は、平坦な時空の場合でさえ行われていないことが判明したため、まず平坦な時空の場合の構成を進めることとし、ほぼそれが完成しつつある状況である。
著者
立川 裕二
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年度も、昨年に引き続き超対称ゲージ理論の研究を超弦理論の観点を援用しつつ行った。特に、その中でも、超対称性に加えてスケール変換のもとでの不変性をもつ、超共形ゲージ理論について研究を行った。これらは、強結合であるため安直な摂動的な解析が適用できないが、ここに超弦理論の効能があらわれる。すなわち、超弦理論によれば、通常の4次元の超共形場理論は、1次元高い5次元の超重力理論をアンチドジッター空間上で考えたものと等価であることがわかる。この際、片側が強結合であればもう片側が弱結合になるため、解析が可能になるのである。具体的には、10次元のIIB型超弦理論を、5次元のアンチドジッター空間と5次元の佐々木アインシュタイン空間の積の上で考えたものを解析すれば良い。さて、そのような立場からの研究として、最大の超対称性をもつ理論に関してはこの10年に非常に沢山の研究があるが、最小の超対称性をもつものに関してはここ数年研究が深化した興味深い分野であり、今年度の私の力点はそこにあった。最小の超対称性をもつ超共形場理論の解析のために基本的なデータは、その理論の大域対称性三つの間の三角量子異常である。以上の議論から、その三角量子異常は、重力理論側のデータであらわせるはずである。超共形場理論の種別に対応するのは5次元の佐々木アインシュタイン空間の種別であるから、それら空間の幾何学であらわせるはずである。以上のような考察のもとから、S. BenvenutiとL. A. Pando Zayasの協力のもと、佐々木アインシュタイン空間の幾何学と超共形場理論の三角量子異常の関連について精密に明らかにしたものが今年度の発表論文である。これは超共形場理論の解析において今後基本的な方法となると思われる。
著者
齋藤 真木子 久保田 雅也 岩森 正男 榊原 洋一 市堰 浩 柳澤 正義
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

Zellweger症候群(ZS)をはじめとするペルオキシゾーム病ではペルオキシゾームが形成されないために様々な生化学的異常を呈するが、病態との関連は未だ解明されていない。病因遺伝子としてペルオキシゾーム形成に関わるPex遣伝子群が少なくとも13種同定されており、同じ遺伝子群の変異でも重症度の異なる病型-Infantile Refsum Disease(IRD), neonatal adrenoleukodystrophy(NALD)-が混在する。今回Pex2群に変異を有するZS, IRD患者由来線維芽細胞について脂質を抽出し正常対照線維芽細胞と組成を比較検討した。患者由来線維芽細胞ではa系列のガングリオシドの増加が著明であり、ガングリオシドGM3の増加や正常細胞に含まれないGM1やGDlaが免疫染色TLCによって検出された。また、モノクローナル抗体によるGM3組織免疫染色では患者由来細胞で細胞膜や細胞内に顆粒状にガングリオシドGM3が発現していた。これらの結果とこれまでPex2欠損CHO変異株Z65で解析した結果から、ペルオキシゾーム欠損が糖脂質代謝に影響を及ぼすことが明らかとなった。近年、糖脂質は細胞間情報伝達や細胞の増殖・分化誘導に関与することが知られており、ペルオキシゾーム欠損による糖脂質代謝変化と各臓器の形成障害との関連を明らかにすることが今後の課題である。
著者
浦 雅春 石光 泰夫 小林 康夫 杉橋 陽一 河合 祥一郎 高橋 宗五
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究は既存の国や文化の枠を超えてますますクロスオーバー化する現代の演劇の諸相を歴史的淵源にさかのぼって分析するとともに、近年著しい成果をあげているインターディシプリナリーな分析装置を手がかりに多角的に演劇の表象システムを再検討することを目指したものである。年度ごとの研究成果を記せば、以下の通りである。平成9年度においては、まず研究の端緒として広くヨーロッパ近代演劇の成立にかかわる各国の演劇理論を再検討し、個々の演劇理論が具体的にどのような舞台表象とつながりの中で発展してきたかを解明した。平成10年度には、「身体論」と「空間論」の観点から演劇の表象システムを考究した。おのおの文化に固有な身体観や空間意識がいかなる形式を演劇に与えるか、また逆に演劇という表象システムが演劇固有の身体や空間を形作ってきたか、その相互のダイナミズムを理論化した。平成11年度には、精神分析の立場から演劇に分析を加えた。たんに戯曲というテクストを精神分析的に解剖するのではなく、演劇と精神分析がきわめて類似した表象システムであることを分析し、演劇の中でヒステリー的身体がいかに抑圧され、また解放されてきたを歴史的に解明した。最終年の平成12年度には、これまでの研究成果の取りまとめの段階として、演劇という表象システムの歴史的変遷を総括した上で、演劇と他のメディアの相互作用、個別身体論や空間論との交叉から演劇のインター・カルチャー的本質を抽出し、演劇理論の新しいパラダイムを構築した。
著者
宇野 瑞木
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度(4月から10月末まで)は、主として、次の二つの研究活動を行った。1)本研究の中心課題である<二十四孝>説話をめぐる孝の表象に関して、とくに前近代までの中国と日本における展開をまとめた博士学位論文(東京大学大学院総合文化研究科にて受理)を出版物として公開するための準備を行ってきた。本書は、既に今年度の出版助成金(学術図書)を受けることが決定しており、今年度末までに『孝の風景――説話表象文化論序説』(仮タイトル)として、勉誠出版株式会社から刊行される予定である。本論の構成は以下の通り。第一部 図像の力(第一章 後漢墓の孝の表象――山東省嘉祥県武氏祠堂画像石を中心に/第二章 六朝時代以降の孝子図――墓における複数の世界観と孝との融合/第三章孝子図から二十四孝図へ――遼・宋代以降を中心に)第二部 語りが生起する場(第一章 郭巨説話の母子像――唐代仏教寺院における唱導を中心に/第二章 郭巨説話の「母の悲しみ」――日本中世前期の安居院流唱導を中心に/第三章 日本中世の祖先供養の場と孝子説話――『金玉要集』の孟宗説話を中心に)第三部 出版メディアの空間(第一章 和製二十四孝図の誕生――日中韓の図像比較から/第二章 蓑笠姿の孟宗――日本における二十四孝の絵画化と五山僧/第三章 江戸期における二十四孝イメージの氾濫/反乱――不孝、遊戯を契機として)さらに「基礎資料編」として、孝子説話関係の画像資料を、1渋川版と嵯峨本の図像、2渡来テキストの図像、3漢~金元墓の図像、4大画面制作、御伽草子の四項目に分類し掲載する。本書の大きな特徴として、孝を表象から捉えるという目的のもと、さまざまなメディア・地域・時代にわたる孝子説話関連の図像を蒐集・整理し、一挙に掲載している点が挙げられる。本書が刊行されれば、文学、美術史、さらには思想史やジェンダー研究など多方面の関連分野へと寄与できるものと考えている。2)研究対象とする地域の拡大という目標にむけて、前年度から引き続き朝鮮やベトナムといった中国周辺諸国の漢文テクストを読解してきた。4月25日には、立教大学で開催された朝鮮漢文研究会において、『海東高僧伝』から恵輪という求法僧の伝について発表した。
著者
石黒 馨
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.29-51, 2004-03-19

本稿は,国内紛争への国際社会の介入について簡単な戦略モデルを構成し,国内紛争を回避する条件,特に国際社会の介入のコミットメントやクレディビリティについて検討する。本稿の主要な結論は,国際社会が国内紛争への介入に関して必ずしもコミットできない場合でも,国際介入のクレディビリティを十分に確立することができれば,国内紛争を回避することができるというものである.国際社会には国家主権と内政不干渉の原則があり,国際介入は人道的理由であっても確立された国際的な原則や規範ではない.したがって,国際社会は国内紛争に対して必ずしも介入するとは限らない.しかし,国際社会が介入に関してコミットできない場合でも,その介入に十分なクレディビリティがあれば,国内紛争を回避できる場合がある.