著者
花岡 一雄 井手 康雄 角田 俊信 田上 惠 北村 亨之 関山 裕詩
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1.カルシウムチャネル拮抗集ジルチアセムやα2アドレナリン作動薬クロニジンがネコの脊髄後角Rexed第V層型単一細胞に対する作用を研究した。約3kgの成ネコを用いて、両側中脳網様体の除脳を行い、脊髄を露出し、L1-L2で脊髄を横断した。Rexed第V層単一細胞活動を細胞外微少電極誘導法にて記録した。実験は自発発射及ピンチ法による誘発発射の発射数の対照値を測定した後、微少電極刺入付近の脊髄表面にジルチアゼム10mg/ml(D10mg群)20mg/ml(D20mg群)を1ml投与し、自発発射及誘発発射を測定した。クロニジンについても同様の実験を行った。5マイクロg(1ml)(C5群)50マイクロg(1ml)(C50群)を投与した。その結果、いずれの群も単一細胞の自発発射及ぴ携先見射が減少した。ジルチアゼム実験では用量依存的な反応が見られたが、クロニジン実験では見られなかった。この結果、カルシウムイオンチャネルとα2アドレナリン受容体が疼痛制御機構に関与しており、慢性難治性疼痛患者への疼痛治療に応用され得る可飽性を示した。2.クロニジン軟膏を帯状痘疹後神経痛の患者に適応して、痛みの程度への影響を検討した。クロニジン軟膏(60mlcrogrom,150microgram,300microgram/軟膏1gramの3種類)を作成し、疼痛部位に塗布を行い、検索した。その結果、有効率は90%であった。濃度的には、150microgramが最も多く使われた。いずれも副作用は、認められなかった。クロニジンの作用は脊髄レベルのみならず、神経終末レベルにおいても疼痛効果が期待された。これらの一連の研究からも血管作動薬が疼痛制御に大きく関わっていることが明確となった。またこれらの一連の薬物の臨床への応用が期待された。
著者
風間 北斗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

シナプスの形成には、神経細胞(プレ)とその標的細胞(ポスト)間の綿密な相互作用が重要であると示唆されているが、その内、ポストがプレに働きかける機構に関しては未知な部分が多い。私は、ショウジョウバエ幼虫の神経-筋結合系を用いて、ポスト内の酵素CaMKIIがプレの機能と形態を逆行的に調節することを報告してきた。本年度は、シナプス形成期における標的細胞の挙動を調べるもう一つのアプローチとして、筋肉細胞内で自発的に発生する自家蛍光のイメージングを行った。青色励起光照射の下で筋肉細胞を観察すると、一過的に緑色蛍光が上昇する現象が検出された。一部の蛍光信号は鋭いピークとして出現したが、残りの信号は、立ち上がると数十秒の間安定した水準を保ち続け、その後鋭く減衰するという、細胞に起因するシグナルとしては類のないキネティクスを示した。自家蛍光シグナルは、細胞外のカルシウムイオン依存的に発生した。薬理学的実験により、自家蛍光はミトコンドリア内に存在するフラビンタンパク質に起因することが分かった。また、蛍光シグナルは自発的に出現するものの、その発生頻度が神経の投射に大きく依存した。蛍光強度が、筋肉細胞の中でも特にシナプス部で大きく上昇する事実と合わせて、自家蛍光変動がシナプス形成過程に関わる生理的現象を反映している可能性が提起された。本研究は、シナプス形成期に、標的細胞内で自発的に発生する自家蛍光シグナルを、生体において報告した最初の例である。自家蛍光イメージングは、シナプス形成の理解に大いに貢献する可能性がある。また、もし、先行研究から予想されるように自家蛍光強度とカルシウムイオン濃度との間に相関があることが判明すれば、自家蛍光イメージングは、ミトコンドリアの活性化状態を調べる手法としてだけでなく、新しい非侵襲的なカルシウムイメージング法としても適用できる可能性がある。
著者
古澤 明 青木 隆朗
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、高レベルスクイーズド光の生成とそれによる高レベル量子エンタングルメントの生成、測定およびフィードフォワードを用いたユニバーサルスクイーザー、量子非破壊測定(量子非破壊相互作用)の実現を目的としている。具体的な研究成果は以下のようなものである。(1)周期分極反転KTiOPO_4(PPKTP)疑似位相整合結晶を非線形媒体とした光パラメトリック発振器(OPO)を作製し、高レベルスクイーズド光の生成に成功した。まず、波長946nmにてその可能性を明らかにした。その結果に基づき、高いポンプパワーを期待できる波長860nmで実験を行い、14年ぶりに世界記録を塗り替え7dBのスクイーズを達成した。さらに、測定系の位相揺らぎを抑えることにより、9dBのスクイーズを達成した。これらの成果により、生成できる量子エンタングルメントのレベルは格段に高まった。(2)測定およびフィードフォワードの手法の代表例は、量子テレポーテーションと呼ばれる波動関数の伝送であり、そのフィデリティはこの手法の成功の度合いを示す(フィデリティ1=100%成功)。したがって、本研究で生成に成功した高レベルスクイーズド光を用い、量子テレポーテーションのフィデリティを測定してみた。その結果0.83という高い値が得られ、この高レベルスクイーズド光を用いれば、測定およびフィードフォワードの手法を高い確率で成功させられることが明らかとなった。(3)高レベルスクイーズド光を用いて生成した高レベル量子エンタングルメントと併せて、測定およびフィードフォワードの手法を用いることにより、ユニバーサルスクイーザーを作製することに成功した。(4)ユニバーサルスクイーザー2台を作製し、これらをさらに可変ビームスプリッターを用いて結合することにより、量子非破壊相互作用装置を作製した。これを用いて、2つの共役な変数(直交位相振幅成分)に於いて量子非破壊測定を行った。これらは、いずれの場合に於いても成功した。また、この結果から、この量子非破壊相互作用装置の2つの出力はエンタングルしていることが明らかになり、量子ビットの制御NOTゲートと同様に、エンタングリングゲートとしての働きがあることがわかった。
著者
河野 孝太郎 川邊 良平 松原 英雄 南谷 哲宏 羽部 朝男 半田 利弘 川良 公明 田村 陽一 江澤 元 大島 泰 児玉 忠恭 伊王野 大介
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2008

サブミリ波望遠鏡ASTEに連続波カメラを搭載し、ダストに隠された大質量の爆発的星形成銀河(サブミリ波銀河)を1400個以上新たに発見した。これらの距離や性質を調べるため、多色超伝導カメラ、および超広帯域分光観測システムを開発した。赤方偏移3.1という初期宇宙の大規模構造に付随したサブミリ波銀河の集団の発見、重力レンズによる増光を受けた極めて明るいサブミリ波銀河の発見、非常に赤方偏移の高いサブミリ波銀河候補の発見、など、大質量銀河の形成・進化について重要な知見を得ることができた。
著者
戸倉 英美 LI pengfei LI Pengfei
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究は、中国の古典小説が日本文学にどのように受容されたかを、変身の物語という視点から考察するものである。その特色は、唐代.明代、及び清代の『聊斎志異』という、三つの時代の変身譚と、それぞれを受容して作られた日本の作品とを比較することで、両国文学の比較研究を、より高い精度で、総合的包括的に行う点にある。本年度は、昨年度の成果である、六朝・隋唐の小説と、『今昔物語』を中心とする平安時代の文学との関係について、さらに内容を拡充し、「魏晋六朝隋唐小説在日本的伝播和演変論考」として、中国杭州市で開催された中国古代小説第四届国際研討会において、LI,Pengfeiが発表した。本論は高い評価を受け、中国の学術雑誌に掲載を要請されている。また『雨月物語』の「夢応の鯉魚」「蛇性の淫」、中島敦の「山月記」、太宰治の「清貧譚」「竹青」のそれぞれと、原作となった中国の作品を比較し、「試論日本文学中"変身"題材類作品的因襲与創造」にまとめ、戸倉が主宰し、学外の専門家も多数参加する中国古典小説勉強会で発表した。この発表において、LI,Pengfeiは、中島敦、太宰治のような近代作家が、変身のモチーフを題材に、近代的な主題を持った小説を執筆することは中国では殆ど例がないと述べ、参会者の注目を集めた。今回の研究を総合すれば、次のように言うことができる。中国では唐代以降人間中心的な思想が次第に強固なものとなり、異類は人間より劣ったものとされ、人間が魚や虎に変身することは罪障と捉えられるようになった。唯一の例外は、清代の『聊斎志異』である。一方日本では、異類を蔑視する観念は発達せず、むしろ「夢応の鯉魚」が、魚への変身を人間では得られない大きな自由の獲得と描いているように、異類への変身、及び人間に変身して現れる異類との交流は、人間が自分自身と向かい合う場としての機能を保ちつつ、近代を迎えたということができる。LI,Pengfeiは2009年11月、2年間の研究期間を終え帰国したが、戸倉はその後もLIと連絡を取り、研究成果のまとめを進めている。
著者
中村 義一 坂本 博 塩見 春彦 饗庭 弘二 横山 茂之 松藤 千弥 渡辺 公綱 野本 明男 谷口 維紹 堀田 凱 京極 好正 志村 令郎
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本特定領域研究では、「原子→分子→細胞→個体」と階層的に研究を推進し、それらの連携によって「RNAネットワーク」の全体的かつ有機的な理解を深めることを目的にした。これらの研究成果は、RNA研究にとどまらず、広く生命科学に対する貢献として3つに集約することができる。・第一の貢献は、構造生物学と機能生物学を連携駆使した研究によって、RNAタンパク質複合体やRNA制御シグナルの動的な作動原理に対する学術的な理解を深めたことである。・第二の貢献は、micro RNAを始めとするタンパク質をコードしない「小さなRNA」に関して先導的な研究を推進できたことである。ノンコ-ディングRNA(ncRNA)は本特定領域の開始時には全く想定されていなかった問題だが、ヒトゲノム・プロジェクトの完了によって、ヒトのRNAの98%をも占める機能未知な「RNA新大陸」として浮上した。今後の生命科学の最優先課題といっても過言ではないこの新たな問題に対して、本特定領域はその基盤研究として重要な貢献をすることができた。・第三の貢献は、本特定領域の研究が、意図するとしないとに係らず、RNAの医工学的な基盤の確立に寄与したことである。本特定領域研究では、実質的研究が開始された平成14年度から年1回の公開シンポジウムを開催し、平成15年と平成18年には各々30名程度の海外講演者を含めた国際シンポジウム(The New Frontier of RNA Science[RNA2003 Kyoto]; Functional RNAs and Regulatory Machinery[RNA2008 Izu])を開催した。これらのシンポジウムは、学術的、教育的、国際交流的に実り豊かな第一級の国際会議となった。又、特定領域研究者のみならず社会とのコミュニケーションを目的として、RNA Network Newsletterの年2回発行を継続し、各方面からの高い評価と愛読を頂戴して全10冊の発行を完了した。なお、事後評価においては「A+」と評価され、本プログラムはその目的を十分に達成することができた。
著者
中村 義一 横山 茂之 渡辺 公綱 志村 令郎 饗場 弘二 多比良 和誠
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

近年のRNA研究の大きな発展を支えた背景には、国内のRNAの基礎研究に関して10年余の間継続して実施されてきたRNAに関係する重点・特定領域研究が果たした役割が大きい。このようなRNA研究に対する熱意は、特に若い研究者の間に大きなうねりとなって現れ、平成11年に日本RNA学会が組織された(初代会長:志村令郎・生物分子工学研究所長)。本基盤研究(C)においては、「RNA研究の21世紀への展開」のために推進すべき課題についての調査と討論を重ね、平成13年度発足特定領域研究(A)「RNA情報発現系の時空間ネットワーク」を申請するに至った。その過程で、本基盤研究(C)に参加し、同時に新特定領域研究の総括班に予定するメンバーは、平成12年に開催されたRNA関連の国際研究集会「tRNA Workshop」(4月、ケンブリッジ)、「RNA Society年会」(5月、マジソン)、FASEBシンポジウム「Posttranscriptional Control of Gene Expression:The Role of RNA」(7月、コロラド)、「Ribosome Biogenesis」(8月、タホ)、「Structural Aspects of Protein Synthesis」(9月、アルバニ)に参加し、最新情報の調査・討論を行った。これらの調査討論に基づき新特定領域研究の申請を準備するとともに、平成13年2月には、国外から12名の研究者を招聘して国際シンポジウム「Post-Genome World of RNA」(開催責任者:東京大学医科学研究所教授中村義一)を東京で開催し、本研究領域に関する最新の発表・討論を実施した。
著者
中村 義一 石浜 明 口野 嘉幸 饗場 弘二 横山 茂之 野本 明男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本基盤研究は、mRNAの誕生から終焉に至る動態と多元的な制御プログラムについて、国際的な調査及び研究討論を実施し、総合的な討論に基づいて重点領域研究の設定を検討する目的で企画採択されたものである。その研究実績を要約する。1.研究領域の調査結果:転写後の動的な制御プログラムは、広範囲の生物系で重要不可欠な役割を担うことが明らかになりつつあり、mRNAを骨格とする基本的な諸問題を体系的に正攻法で研究すべき時期にある。本研究の成果は、発生・分化・応答等の高次な細胞機能の解明や、RNAダイナミズムの創成、あるいは蛋白質工学やmRNA臨床工学等の次世代バイオテクノロジーの基盤となりうる。mRNA研究に関連する重点領域の推進が必要かつ急務である。2.国際研究集会における学術調査と討議:平成8年11月10〜14日、本基盤研究代表者が中心となってmRNA研究に関する国際研究集会「RNA構造の遺伝子調節機能(“Regulatory Role of RNA Structure in Gene Expression")」を開催した(日本学術振興会王子セミナー/於箱根)。本研究集会には、申請領域の第一戦で活躍する欧米の研究者約40人が参加し最新の研究成果の発表、討論、交流を行った。その機会を利用して、国際的な視点からmRNA研究の展望と研究振興の方策を議論した。3.出版企画:上記国際研究集会に関連した学術刊行物を、学術誌Biochimieの特集号としてElsevier社(仏パリ)から出版することとなり、本基盤研究代表者が監修し平成9年3月に出版の予定である。4.重点領域の設定:本基盤研究の目的をふまえて、重点領域研究「RNA動的機能の分子基盤」(領域代表・渡辺公綱、平成9〜12年)の実施が決定された。
著者
中村 義一 志村 令郎 横山 茂之 箱嶋 敏雄 嶋本 伸雄 饗場 弘二
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1991

本総合研究(B)は、「RNAの動的機能発現」に関する重点領域研究の設定をその主要な目的として企画されたものである。しかしながら、平成4年度から新重点領域研究「RNA機能発現の新視点」が発足することに決定し、その研究内容がほとんど重複するため、当初の趣旨での本総合研究(B)班からの重点領域申請はやむなくとりやめた。その上で、本研究班の活用を計るため他の関連研究組織との連携を検討することとし、平成4年1月17ー18日に研究集会「RNA合成における分子間コミュニケ-ション」を東京において開催した。本総合研究(B)班からの5名を含めた12名が参加し、多角的に当該分野の研究を協議した結果、石浜明国立遺伝学研究所教授を代表者として、「転写装置における分子間コミュニケ-ション」を重点領域研究として申請することで合意し、申請を行なった。本総合研究課題に関する国内研究の活性化を計るために、平成3年12月に行なわれた日本分子生物学会において、シンポジウム「RNAシグナルによる翻訳制御」を開催した。国内から4人の演者に加えて、ミュンヘン大学からセレノシステイン研究で有名なA.Bo^^¨ck教授を招聘して活発なシンポジウムを行なうことができた。
著者
中村 義一 饗場 弘二 HERSHEY John BOCK August COURT Donald ISAKSSON Lei SPRINGER Mat
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

遺伝子発現の転写後調節をつかさどるRNAシグナルの構造・機能・制御タンパク質との相互作用を明かにする目的で行なった研究成果を以下に整理する。1.ペプチド鎖解離因子の研究:大腸菌では、終止コドンUGAにおける翻訳終結はペプチド鎖解離因子RF2を必要とする。我々はin vivoでRF2と相互作用している因子に関する知見を得ることを目的として高温感受性RF2変異株から6種類の復帰変異株を分離した。その内、4株が遺伝子外サプレッサー変異であった。それらは、90分(srbB)と99分(srbA)の2つのグループに分けられた。この解析に並行して、新たにトランスポゾン挿入(遺伝子破壊)によりUGAサプレッサーとなるような突然変異を分離し、tosと命名した。遺伝学的分析とDNAクローニング解析の結果、tos変異はsrbA変異と同一の遺伝子上に起きた突然変異であることが明かとなった。この結果から、tos(srbA)遺伝子は、その存在が1969年に予言されていながら何の確証も得られず放置されていたRF3蛋白質の構造遺伝子である可能性が示唆された。そこでTos蛋白質を過剰生産、精製し、in vitroペプチド鎖解離反応系で活性測定を行なった結果、RF3蛋白質の活性を完全に保持することが明かとなった。この解析により、四半世紀の謎に包まれていたRF3因子の存在、機能、構造を遺伝学的、生化学的に実証することが出来た。この成果は今後、終止コドン認識の解明にとって飛躍的な原動力となるものと自負する。2.リジルtRNA合成酵素遺伝子の研究:大腸菌は例外的に、2種類のリジルtRNA合成酵素を持ち、構成型(lysS)と誘導型(lysU)の遺伝子から合成される。その生理的な意味は依然不明であるが、我々は本研究によってlysU遺伝子の発現誘導に関してその分子機構を明かにすることができた。その結果、lysU遺伝子の発現はLrp蛋白質(Leucine-Responsive Regulatory Protein)によって転写レベルで抑制されており、ロイシンを含めた各種の誘導物質によるLrp蛋白質の不活化を介して転写誘導されることを明かにした(Mol.Microbiol.6巻[1992]表紙に採用)。さらに、lacZとの遺伝子融合法により翻訳レベルの発現制御を解析した結果、翻訳開始コドン直下に“downstream
著者
渡辺 公綱 横川 隆志 河合 剛太 上田 卓也 西川 一八 SPREMULLI Li SPREMULLI Linda lucy LINDA Lucy S SPREMULL Lin
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本国際学術共同研究は、動物ミトコンドリアにおける暗号変化(UGA;普遍暗号では終止暗号がトリプトファンに、AUA;イソロイシンがメチオニンの暗号に、AGA/AGG;アルギニンが殆どの無脊椎動物ではセリン、原索動物ではグリシン、脊椎動物では終止暗号に変化、など)の分子機構をin vitro翻訳系を構築して、解明する目的で始められた。このような研究は、ミトコンドリア(mt)からその細胞内量から見ても、生化学的な研究に十分な試料を調製することが大変困難なこと、翻訳に関わるタンパク性諸因子がかなり不安定で単離が困難なことなどが主な障害となって世界的にも殆ど手がつけられていなかった。我々は特異構造を持つmt・tRNA(殆どのmt・tRNAではL型立体構造形成に関わっているDループとTループ間の塩基対を欠いていたり、DループやTループが欠落したものも見つかっている)と変則暗号解読の因果関係を探る目的で、mt・tRNAの大量調製法を確立し、その構造と性質を調べていたが、翻訳系の構築に必要な活性のある因子の調製ができなかった。国外共同研究者であるSpremulliのグループは、活性あるmtリボソームと翻訳系諸因子の調製に成功していたが、mt・tRNAの単離ができなかった。このような状況においてお互いのグループで開発したシステムと技術を合体させることにより、mtのinvitro翻訳系を構築し、暗号変化の分子機構を解明するという目的で平成3年度から本研究がスタートした。研究はかなり順調に進んできたが、本格的な展開はこれからであり、やっとその基礎が固まったという現状である。以下に年度を追ってその成果を述べる。[平成3年度]1)tRNAの特定配列に相補的な合成DNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法を開発し、mt・tRNAの0.2-0.5mgオーダーの調製が可能になった。2)UCN(N=A,U,G,C)のコドンに対応するウシmt・セリンtRNAを単離、精製し、それが従来の遺伝子から推定されていた配列から、実際の構造がずれていること、アンチコドン・ステムは一塩基対長く、アミノ酸ステムとDステムの間が一塩基しかない、異常な2次構造をとること、この構造は哺乳動物mtに共通であることを明らかにした。3)ウシ肝臓から活性のあるリボソーム、開始因子(IF-2)、伸長因子(EF-Tu/Ts、EF-G)、アミノアシル-tRNA合成酵素(ARS)の調製方法を確立し、それらの性質を検討した。[平成4年度]1)AGY(Y=U,C)のコドンに対応する、Dアームを欠くセリンtRNAのセリルtRNA合成酵素(SerRS)による認識部位を決定する目的で、このtRNA遺伝子からT7RNAポリメラーゼによる転写物を調製し、種々の塩基置換を導入したtRNA変異体のSerRSによるセリン受容能を測定した結果、アンチコドンは認識に無関係だが、Tループが重要であり、中でもよく保存されたループ中央のA44の置換が決定的であることが分かった。2)ウシ・mtでポリ(U)依存ポリ(フェニルアラニン)合成系を初めて構築し、大腸菌の系との構成成分の互換性を検討したところ、mtのPhe-tRNA^<Phe>は大腸菌のEF-TuとGTPとで3者複合体を形成するが、そこからリボソームA部位への転移過程が働かないことを明らかにした。3)ウシ・mtのメチオニンtRNAの塩基配列を再検討し、アンチコドンの一字目に、5-ホルミルシチジンという新規修飾塩基が存在することを明らかにした。4)ウシ・mtフェニルアラニンtRNAの修飾塩基を含む塩基配列を決定し、RNaseや化学試薬への感受性からその立体構造を推定したところ、Dループ、Tループ相互作用はないが、Dアームとバリアブルループ間の3次元的な塩基対形成によってL型に近い構造をとっていることを見出した。[平成5年度]1)ポリ(U)依存ポリ(Phe)合成系の効率化の条件を検討し、1mMスペルミン存在下で大腸菌の系の約1/2のレベルまで合成効率を上昇させることに成功した。2)AUAがメチオニンの暗号であることを証明するために、AUAを含む人工mRNAを用いて、AUAに依存したメチオニル-tRNAのリボソームへの結合、ポリペプチドへのメチオニンの取り込みを調べたが、現在までのところまだ肯定的な結果は得られていない。3)ウシmtからホルミルトランスフェラーゼを精製し、fMet-tRNAを作成し、EF-TuとIF-2の結合をMet-tRNAと比較したところ、fMet-tRNAはIF-2と、Met-tRNAはEF-Tuとそれぞれより高い親和性を示した。これは単一tRNAがホルミル化によって開始と伸長の両反応に使い分けられる可能性を支持するものである。
著者
横山 茂之 河合 剛太 岡田 典弘 武藤 あきら 渡辺 公綱 志村 令郎 大澤 省三
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本年度は,これまでの4年間の研究成果をとりまとめ,9月24日の第6回公開シンポジウムにおいて広く公表した.また,4年間の班員の成果をまとめた最終報告書を作成した.また,本重点領域研究と関係の深いシンポジウムが8月27日の日本分子生物学会大会中に行われ,これにおいても研究成果が公表された.第6回公開シンポジウムでは,第1項目「RNA機能の発現機構」の研究成果として,オルタナティブ・スプライシングの制御に関与するRNA結合タンパク質,精密なtRNA分子識別を行うクラスIアミノアシルtRNA合成酵素,および特異な二次構造を持つ動物ミトコンドリアtRNAについての立体構造解析の結果が示された.また,グループIイントロンRNAの活性化,リボソームRNAの機能あるいはタンパク質によるtRNAの分子擬態についての研究成果も報告された.第2項目「RNA新機能の検索」については,新規に発見された低分子量RNAによるTrans-translationの機構,リボソームRNAにおける2つのドメイン間のcommunication機構,あるいはミトコンドリアtRNAによるショウジョウバエの生殖細胞形成機構についての研究成果が発表された.また,第3項目「RNAの起源と進化」については,アミノアシルtRNA合成酵素の起源と進化のメカニズム,およびウイルス由来のリボザイムやミトコンドリアtRNA遺伝子変異によるミトコンドリア病についての研究成果が発表された.
著者
堤 英敬 上神 貴佳
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.33-48, 2007-03

本論文は,2003年総選挙の公約データを用いて,「政党・政策中心の選挙」の現状と政党内における政策的な分散を説明する「選挙制度不均一モデル」を検証する.前者については,自民党と民主党,二大政党間の政策的な違いは大きいといえず,両党内の政策的な凝集性も低いことを示した.また,「選挙制度不均一モデル」が予測する衆議院と都道府県議会において異なる選挙制度の効果については,系列関係の程度や地方議会選挙における競合のあり方に応じて,国政レベルの政策対立が末端まで浸透しないことを部分的に確認した.
著者
中野 明彦 植村 知博 佐藤 健 安部 弘 平田 龍吾 齊藤 知恵子 黒川 量雄 富永 基樹 上田 貴志
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2008

細胞内膜交通の問題に生化学、遺伝学と最新のライブイメージング技術を駆使して取り組み、小胞に濃縮した積荷タンパク質を安全かつ確実に受け取る仕組みなど、選別輸送の新たな機構を解明することができた。また酵母から高等植物への展開から、進化の過程で植物が獲得した新たな膜交通機構を明らかにし、従来の動物細胞の研究だけからでは十分に理解できなかったゴルジ体層板形成、ポストゴルジ交通などの複雑な事象を整理する手がかりを得た。
著者
中園 幹生 堤 伸浩
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

湛水条件下でイネ種子を播種すると、胚乳内のデンプンが糖に変換される。さらに解糖系・エタノール発酵系を活性化させてATPなどのエネルギーを得ることにより、イネは発芽することができる。しかし、芽生えの形態は好気条件下でのものとは異なり、子葉鞘と呼ばれる器官だけが伸長する。湛水条件下での子葉鞘の伸長に、解糖系・エタノール発酵系が必要であることが知られている。本研究ではさらに、エタノール発酵の中間産物であるアセトアルデヒドを酢酸に変換するアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)と、酢酸をアセチルCoAに変換するアセチルCoA合成酵素(ACS)の経路も重要であることを明らかにした。これらの経路はイネ発芽時の脂肪酸合成・アミノ酸合成に寄与していることが示唆された。ALDH2とACSをコードする遺伝子は、イネゲノム中にそれぞれ2コピーずつ存在しており、そのうちの1つの遺伝子(ALDH2a, ACS1)の発現は、湛水条件下で発芽させたイネ芽生えの子葉鞘で増大していた。湛水条件下におけるイネの発芽・出芽性と,ALDH/ACSの経路の関係について理解を深めるために、DEX誘導性プロモーターの下流にALDH2a, ACS1 cDNAをアンチセンスの向きにつないだプラスミドを導入した形質転換イネを作出した。現在、T2固定系統を作製中である。本研究期間内に形質転換植物の形質を評価できなかったが、今後、湛水条件下におけるイネの発芽・出芽性を詳細に調査する。本研究により、湛水条件下のイネの発芽・出芽性にエタノール発酵から分岐する新しい代謝経路が車要である可能性を示すことができた。
著者
関谷 洋之 岩田 圭弘
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

キセノン(Xe)は、暗黒物質探索、二重ベータ崩壊探索等の稀事象探索に広く用いられる重要な元素であり、バックグラウンドとなる不純物をを如何に抑えられるかがキーポイントになる。キセノン中に含まれる放射性希ガス不純物の中で、アルゴン(39Ar)及びクリプトン(85Kr)は蒸留により容易に除去できる。しかし、ラドン(222Rn)は検出器の構成物質からキセノン中へ定常的に放出されるため、長時間にわたり連続的にラドンを除去する手法を開発する必要があった。そこで、本研究ではレーザーを用いた共鳴イオン化技術に着目し、ラドンのみを選択的にイオン化して除去する斬新な手法を導入し、原理検証に成功した。
著者
畑中 耕治
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

今年度は、首都大学東京、益田秀樹教授の研究グループよりご提供頂いた金ナノ構造基板を対象試料とし、照射するレーザーのパルス幅ならびに周波数変化(チャープ)を液晶空間光変調器を用いて精密に制御した上でパルスX線発生実験を行った。X線強度測定にはガイガーカウンターを、X線発光スペクトル測定には半導体検出器を用い、実験は室温大気圧下で行った。その結果、ピーク強度が最高であるチャープフリーの最短パルスを照射した時よりも、時間経過とともに周波数(波長)が低く(長く)なるダウンチャープの時でX線強度がより高くなるという結果を得た。またX線発光スペクトルをボルツマン分布を仮定した式でフィッティングして得られた電子温度もダウンチャープのレーザーパルスを照射した時により高くなる傾向が観測された。これらの結果は、金ナノ構造基板におけるX線発生において、プラズモン共鳴やプラズマ閉じ込め効果が有利に働き、さらに時々刻々誘起される初期イオン化、電子加速や電子密度の増加に対して、ダウンチャープがより有効であることを示している。
著者
鈴木 博之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ジョサイア・コンドルは明治期最大の貢献をした御雇外国人建築家である。彼の活動は明治洋風建築の確立に極めて大きな役割を果たした。コンドルの作品は明治洋風建築史上、重要なものばかりである。この研究ではじめて明らかにされた彼の書簡群は、コンドルの多面的な活動を明らかにするものであった。書簡は三菱系のひとびととのあいだに交わされたもので、静嘉堂文庫の原徳三氏の収集によるものである。この書簡群は大きく3つの発動分野にまたがっている。ひとつは岩崎家との関係で繰り広げられる建築家としての活動である。岩崎彌之助と岩崎久彌の邸宅関係の書簡が多く発見された。彼の実務的側面が明らかになったことは大きな成果であった。建築設計のあり方を示す指示や相談が数多く示されている。つぎに明らかにされたのは、建築設計にともなう絵画の収集や配置に関する活動と助言である。後に首相になる加藤高明が、岩崎家の女婿としてロンドンで絵画の買い付けを行なっている様子は、極めて興味深い。同時にこれは、当時の建築家が建築のみならず、建築の使い方、生活様式まで準備する存在であったことを教えてくれる。さらに第三点は、コンドルの趣味である演劇活動の側面である。当時の外国人社会の有り様もまたここに窺われる。明治期の建築・社会・文化の状況を明らかにすることができた研究であった。この成果は2006年にジョサイア・コンドルの本格的評伝としてまとめる予定である。
著者
藤田 誠 MAURIZOT Victor
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

複数の小分子が自己組織化し、巨大な構造体を構築する仕組みは、自然界においてしばしば観測される。本研究では、この仕組みを有機分子に応用し、有機分子の自己組織化を遷移金属イオンによりコントロールすることで、新規な構造を高効率・高選択的に構築することを目的とした。ここでは、有機分子の自由なコンフォメーシヨンを厳密に規制することが重要な鍵となる。そこで本研究では、その有機分子として、(1)複数の金属配位部位(ピリジル基)をアミド結合で連結した紐状の配位子(ピリジンカルボキシアミドオリゴマー)を設計した。また、(2)2つの金属配位部位(ピリジル基)をアミド結合で連結した「く」の字型の配位子(ビピリジンカルボキシアミド)を設計した。これらの分子の特徴は、分子内に、多点水素結合可能な部位(アミド結合)が存在し、それにより配位子のコンフォメーションが厳密に規制される。すなわち、配位結合と水素結合を共同的に利用した、新規な構造が構築できる。実際、ピリジンカルボキシアミドオリゴマー配位子の合成に成功した。市販のジケトン誘導体を出発原料として、キー中間体である3-アミノ-4-ヒドロキシ-5-ピリジンカルボン酸を5ステップで合成した。この中間体の保護基をはずした後、カップリング反応を繰り返すことで、目的とする4量体のピリジンカルボキシアミド配位子を合成することに成功した。また、1ステップでビピリジンカルボキシアミド配位子の合成にも成功した。この新規配位子と遷移金属イオン(パラジウムイオン)との自己組織化により、球状の構造体が組み上がることを、NMRおよび質量分析により明らかにした。