著者
久保 文明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

近年の共和党は、中道穏健派が著しく退潮し、保守派が圧倒的な主導権を握る保守的な政党に変化した。この要因として南部の変化、レーガン主義の浸透などさまざまな点を指摘できるが、とくに注目すべきは、1970年頃から今日にいたるまでの変化が、いわゆる決定的選挙なしで起きていることである。すなわち、近年の変化は二大政党間の劇的な勢力関係の変化を伴わず、しかもきわめて緩やかな変化となっている。これまでに例のない政党変容を理解するためには、これまでとは異なる概念装置が必要不可欠であろう。本研究では、社会運動・政治運動による政党への浸透、ならびに政党を支援する利益団体連合の形成・変化という二つの視点を重視して研究を行った。これまで公民権運動など社会運動の政党への浸透についてはかなりの研究が蓄積されてきたが、クリンチャン・コアリションに代表されるキリスト教保守派と共和党の関係は、社会運動よりは基盤の狭い政治運動の政党への浸透として理解できることを示した。また、とりわけ重要な点は、1990年代の半ばから、反増税団体、銃所持団体、中小傘業団体、キリスト教保守派団体、反環境保護政策団体、文化的保守派団体などがいわば大同団結し、井和党を、とりわけその保守派を支援し始めた。これは同時に、保守系のシンクタンク、財団などの501(c)(3)団体、Americans for Tax Reformなどさまざまの保守系501(c)(4)団体、そして政治資金団体である保守系政治活動委員会(PAC)が非公式な形ながら機能的に相当程度統合されたことも意味していた。今日では党内穏健派現職議員を落選させようとするPACも登場している。このような党外部の政治団体の浸透・連合が果たす役割を解明できたことが本研究プロジェクトの大きな成果である。
著者
松浦 弘明
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

再生医療等に欠かせない技術である細胞の凍結保存では, 致死的となる細胞内の氷晶生成を防ぐために凍結保護物質が用いられるが, その保護メカニズムについては未解明な点も多く, 凍結保存プロセスは最適化されていない. 本研究では, 細胞内凍結に関係していると考えられる細胞内の水分子ダイナミクスを誘電分光によって測定することで, 細胞凍結保護のメカニズム解明に役立つ知見を獲得し, 安全で環境親和性が高い保護物質を用いたグリーンな凍結保存技術のデザインに寄与することを目指す.
著者
宇賀神 篤
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

1. 高温応答性ケニヨン細胞の応答温度の種間比較本年度は、「高温応答性ケニヨン細胞」がミツバチ科において保存されているか検証するため、ミツバチ科マルハナバチ属でゲノム情報が利用可能なセイヨウオオマルハナバチを用いて、kakuseiホモログを同定し、同様の高温曝露実験を行った。結果、ミツバチと異なり、kakuseiの発現量は38~40℃の間で上昇していた。このことから、キノコ体の高温選択的な応答性は、少なくともミツバチ科内では保存されていることがわかった。一方、セイヨウオオマルハナバチの高温応答性の閾値はミツバチ2種に比べて約6℃低かった。ミツバチとマルハナバチでは通常の生活温度(巣内温度)に約6℃の差がある。応答する閾値との相関を考えると、キノコ体の高温応答性細胞は、本来通常の生活温度から外れた高温時の温度制御に関わる可能性がある。2. 脊推動物と無脊椎動物に共通した初期応答遺伝子の同定kakuseiはミツバチ科昆虫にのみゲノム上に見出されるため、1.で明らかにしたキノコ体の高温応答性の進化的保存性を検証する際の指標としては不適当である。そこで、昆虫種を問わず広く利用可能な初期応答遺伝子の探索を試みた。ミツバチ脳にGABA(γ-アミノ酪酸)受容体の阻害剤Picrotoxinを投与することで神経活動を誘導したところ、脊椎動物で頻用される初期応答遺伝子の1つであるEgr-1のミツバチホモログ(AmEgrと命名)が発現上昇することを見出した。ゲノムデータベースを用いて他種におけるホモログを探索した結果、脊椎動物から線虫にまで広くホモログが見出され、汎用性の初期応答遺伝子として有望であると考えられた。これは脊椎動物と無脊椎動物で同じ遺伝子が神経興奮マーカーとして使用可能であることを示した初の知見であり(Ugajin et al. 2013)、関連学術領域に与えるインパクトは極めて大きいと考えられる。AmEgrの発現を指標にセイヨウミツバチのキノコ体における高温応答性を検証したところ、kakuseiを用いた際と同様に44~46℃の間で発現が上昇した。さらに、46℃曝露時のAmEgr発現細胞の分布パターンもkakusei発現細胞のものと類似しており、キノコ体の高温応答性を強く支持する結果であった。3. 哺乳類培養細胞を用いた高温応答性TRPチャネルの解析哺乳類培養細胞系を用いた解析では、ミツバチTRPチャネルは高温刺激に応答しなかった。近年、昆虫のTRPチャネルは哺乳類培養細胞では正常に機能しないとの報告もあり、ショウジョウバエS2細胞の利用を検討している。
著者
松井 典子 真田 弘美 須釜 淳子 松尾 淳子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

リンパ節郭清術後のがん患者にしばしばみられるリンパ浮腫は,決定的な治療方法がないために,がん術後患者のQOL低下に大きく影響を与える.近年,動物を対象とした実験で,振動刺激がリンパ流の亢進やリンパ管新生に寄与するため,振動刺激がリンパ浮腫の予防や治療に適応できる可能性が示唆されたが,ヒトを対象とした検討は行われていない.そこで,本研究では,(1)リンパ浮腫専門院を受診した患者の診療録および問診表からリンパ浮腫の実態を明らかにした上で,(2)健常人を対象に振動刺激がリンパ流に与える影響の検討を実施した.研究I乳癌術後に発症するリンパ浮腫の実態調査[方法]2003年にリンパ浮腫専門院を受診した乳癌術後患者221名の診療録および問診表から,患者属性・受診前の状況・受診時の浮腫・浮腫の経過について情報を収集した.[結果]対象者を手術時期(1984年以前,1985-1999年,2000年以降)に分けて比較したところ,手術時期が早い患者ほど,重症例が多かった.重症度別に周囲径を評価したところ,一ヵ月後および三ヵ月後の治療効果に有意差はみられなかった,[考察]重症度により治療効果の差はみられるものの,その効果には手術時期による差異はみられなかった.したがって,術後年数が長いリンパ浮腫患者に対しても適切な介入が有効であることが示唆された.研究II振動刺激が健常女性のリンパ流に与える影響[方法]健常女性(38歳)を対象とした振動刺激時のリンパ流をICG皮下注射により評価する[結果]振動刺激前は健常人を対象としたものの,リンパ流の停滞が観察された,また,振動刺激後にリンパ流速が顕著に早まることが観察された.[考察]リンパ流速の評価方法について検討が必要であるものの,健常人を対象とした振動刺激はリンパ流速の改善に一定の効果があることが期待された.
著者
水枝谷 一仁 井上 玲央 長谷川 麻衣子 住谷 昌彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究の概要は、術後せん妄に続く中枢神経ダメージの機序解明、予防開発のため、同一術式の術後患者を術後せん妄の有無により2群に分け、末梢血液で測定可能な血液脳関門(BBB)の接着因子とその透過性の調節因子、微小循環の調節機構に関連する因子、認知機能と強い関連性のあるメタボリック症候群関連サイトカイン等をリン酸化ニューロフィラメント重鎖(pNF-H)とともに測定し、解析を行い、術後せん妄のメカニズムの解明とそれに基づく診断マーカーの開発及びせん妄に続く中枢神経ダメージを予防する治療開発に繋げる。
著者
守山 裕大
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

イカ、タコに代表される軟体動物頭足類は心臓を3つ持つことが知られている。一つは体心臓と呼ばれるもので全身に血液を送り込むものであり、他の二つは鰓心臓と呼ばれ、酸素を取り込む器官である鰓に血液を送ることに特化している。どのようにして頭足類は心臓を3つ持つようになったのか、その発生学的メカニズムを明らかにし、進化過程に迫ることが本研究の目的である。本研究ではヒメイカ(Idiosepius paradoxus)をモデル動物として用いている。前年度まではwhole mount in situ hybridization法によって様々な心臓発生関連因子の時系列的な発現様式を詳細に解析した。それらの結果を踏まえ、本年度では体心臓、鰓心臓において発現が確認された遺伝子の機能解析、また心臓前駆細胞の挙動を追跡すべく、ヒメイカ胚への顕微注入法の確立を目指した。まず、様々なモデル生物においてこれまでに確立されている顕微注入法(マウスMus musculus, ゼブラフィッシュDanio rerio, アフリカツメガエルXenopus laevis など)を試みたが、いずれも卵殻を突き破ることができず、成功には至らなかった。そのため、次に卵殻を薬剤を用いて処理すること、またレーザーを照射することなどにより卵殻の除去を試みたが、これらも成功には至らなかった。本年度の達成度心臓発生関連遺伝子のクローニングとその発現解析、またそれに伴う組織学的解析は詳細に行うことができた。しかし心臓発生関連遺伝子の機能解析、また心臓前駆細胞の挙動の追跡は顕微注入法が確立できなかったために遂行することができなかった。
著者
宮沢 孝幸 見上 彪 堀本 泰介 小野 憲一郎 土井 邦雄 高橋 英司 見上 彪 宮沢 孝幸 遠矢 幸伸 望月 雅美
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

本研究はベトナムに棲息する各種食肉類(ネコ目)から、レトロウイルスを分離・同定し、既知のレトロウイルスとの比較において、レトロウイルスの起源の解析を試み、さらにレトロウイルスの浸潤状況を把握し、我が国に棲息する野生ネコ目も含めたネコ目の保全に寄与することを目的とする。本年度はホーチミン市近郊およびフエ市近郊で2回野外調査を行い、ハノイ農科大学で研究成果発表を行った。さらに、台湾においても家ネコの野外調査ならびに学術講演を行った。まずホーチミン市近郊の家ネコおよびベンガルヤマネコより採血を行い、血漿中のネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ネコ巨細胞形成ウイルス(FSV)に対する抗体およびネコ白血病ウイルス(FeLV)のウイルス抗原を調べた。FeLVは家ネコ、ヤマネコともに陽性例は見られなかった。FIVは家ネコの22%が陽性であったが、ヤマネコには陽性例はなかった。FSVは家ネコの78%、ヤマネコの25%が陽性であった。次いで家ネコの末梢血リンパ球からFIVの分離を試み、6株の分離に成功した。env遺伝子のV3-V5領域の遺伝子解析から、5株がサブタイプCに、1株がサブタイプDに属することが明らかとなった。サブタイプCはカナダと台湾で流行していることが報告されている。今回の結果からホーチミン市近郊のFIVは、カナダや台湾から最近持ち込まれたか、もともと日本を除くアジアでサブタイプCが流行していた可能性が考えられた。アジアでのFIVの起源を明らかにするためには今後、ベトナム、台湾以外のアジア諸国のFIVの浸潤状況調査とザブタイピング解析を進める必要があると思われる。また、今回レトロウイルス以外のウイルス感染疫学調査から、ネコヘルペスウイルス1型、ネコカリキウイルス、ネコパルボウイルスの流行が明らかとなった。特に、ネコパルボウイルスでは今まで報告のない新しいタイプの株(CPV-2cと命名)を分離した。
著者
米村 滋人 水野 紀子 武藤 香織 磯部 哲 徳永 勝士 田代 志門 奥田 純一郎 中山 茂樹 佐藤 雄一郎 猪瀬 貴道
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2018年度分の研究活動(2018年4月~2020年3月)の実績の概要は以下の通り。当年度は、まず、総合調整班において全体的な研究計画と調査項目・検討課題を決定した。具体的には、先行研究課題である科研費・基盤研究(A)(課題番号24243017)の研究成果として、米村編『生命科学と法の近未来』(信山社、2018)が公表されているため、これを素材に国内外の関連研究者・専門家等からの意見と課題提示を受けた上で、総合調整班において検討を行った。その結果、現在の日本では臨床研究法をめぐる法運用が多大な混乱を惹起しており、医学界からは臨床研究全体が抑制されているとの指摘も見られるため、臨床研究法の法規制のあり方を検討することが適切と考えられ、海外法制度調査もその観点を中心に行う方針とした。以上をもとに、一般的実体要件班・一般的手続要件班において、国内の法学・生命倫理学・医学関係者に臨床研究法の問題点や改善の方向性等につき意見聴取を行うほか、海外の文献調査や国外の機関に対する訪問調査を行う方針とした。国内調査に関しては、各研究分担者の調査内容を研究会の場で共有したほか、永井良三・自治医科大学長や藤井眞一郎・理化学研究所生命医科学研究センターチームリーダーなど医学研究者の意見を直接聴取した。また、ドイツの臨床研究規制については、ヨッヘン・タウピッツ教授を始めマンハイム大学医事法研究所のスタッフに調査を依頼しており、その中間報告を数度にわたり聴取したほか、フランスの臨床研究規制についても文献調査の形で調査を進め、2019年3月に研究分担者・磯部哲と研究協力者・河嶋春菜の助力によりフランス渡航調査を実施した。特殊研究規制検討班においては、研究分担者・徳永勝士を中心に、国内研究機関や海外研究機関・研究者に対するヒアリング調査を行う形でゲノム研究や再生医療研究の規制状況の調査を行った。
著者
小林 博樹 瀬崎 薫 西山 勇毅 川瀬 純也
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

本提案は申請者らが実施中の福島原発事故対応で直面している技術的な課題の解決を目指す野生動物装着センサの研究である。移動する動物にセンサを装着し、行動や周辺環境をモニタリングする構想はセンサネットワーク研究の初期から見られる。ここでの課題は電源・情報・道路・衛星インフラが存在しない高線量空間に生息する小型の哺乳類に対応可能な情報基盤技術の実現である。
著者
小林 博樹
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-04-01

NFCタグ装着の動物を誘き出して情報を取得するユビキタス基盤、A1)物理的な刺激を用いて動物を「誘き出す機構」と、A2)誘き出された動物に装着しているNFCタグと「非接触通信する機構」を開発した。そして、連携研究者が飼育する犬を用いて有効性の評価を行った。A1)に関してペットの犬を対象とし、犬小屋の内部形状を改善することで、非接触通信動作に必要な行動制限や行動停止が起こりやすい条件を明らかにした。具体的にはスチレンブロックを使用して、高さ方向や幅方向の内部形状変更による犬の姿勢評価を通じて、小屋への入場を阻害せず、かつある程度の姿勢制御が可能な条件を見つけることが出来、成果をSI2017、SCI’18で発表した。この内部形状条件を利用して、床と両壁部3か所に非接触ステーション、犬体部には両肩、腹の計3か所に非接触コイルを貼りつけて非接触通信評価を行った。結果、肩部でかなり安定した非接触通信状態を作ることに成功し、評価に使用した2匹の犬で犬小屋滞在時間80分、436分のそれぞれ、55%、36%の時間、コイルが通信可能な位置に存在することが確認出来た。A2)に関しては動物装着側と基地局側のプロトタイプを作成した。このプロトタイプデバイスは、動物装着側デバイスで収集した情報をNFC(Felica)タグのタッチ動作をトリガーにして基地局との無線通信(ZigBee)を行い、装着側保持データを基地局に転送するものである。NFCをトリガーのみに使用することにより、転送データ速度に対する柔軟性をもたせるとともに、タッチ動作が発生するまでは通信機器の電源はOFFにしており、タッチ動作をトリガーにして動物装着側、基地局側双方の通信機器の電源をONすることにより省電力性も同時にもたせる仕様にした。
著者
渡辺 努 青木 浩介 梶井 厚志 宇井 貴志 上田 晃三 水野 貴之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

家計の物価予想の形成メカニズムに関する研究の一環として約8000の家計を対象にアンケート調査を2018年5月に実施し、家計が将来の物価や景気についてどのように情報を取得しているのか、家計は中央銀行の存在をどの程度認識しているか、中央銀行の政策にどの程度の関心をもっているか、中央銀行からのメッセージはどのような経路で家計に伝わっているかを調べた。また、中央銀行コミュニケーションに関する理論と実証の最近の研究動向を調べるために、渡辺努がジュネーブの国連統計局主催の会議に2018年5月に出席し最近の研究成果(Storable Goods, Chain Drifts, and the Cost of Living Index)を報告したほか、渡辺努と西村はSEM(Society for Economic Measurement)主催の会議に出席し論文報告を行った(渡辺の報告論文"Product Turnover and the Cost of Living Index: Quality vs. Fashion Effects"、西村の報告論文"Incorporating Market Sentiment in Term Structure Model")。また梶井は、市場と予測に関する理論研究に関して欧州で情報収集と討論を行った。ヨーク大学ではゲーム理論の観点からの討論を行い、その後初期の研究成果をセミナー報告したほか、ウォーリック大学、ベニス大学でも研究報告と意見交換を行った。本科研の研究費は上記の研究活動に加えて、データ収集・加工のための作業謝金、英文校閲謝金等に使用した。なお、本研究課題は基盤研究(S)として採択されたため、基盤研究(A)の研究成果を基盤研究(S)に引き継ぐこととした。
著者
佐野 真由子
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2015

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 三谷 博, 東京大学准教授 小川 浩之, 東京大学准教授 川島 真, 東京大学准教授 渡辺 美季, 東京大学教授 鶴田 啓
著者
徳田 篤志
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

人工呼吸器を装着した患者に気管支拡張薬やステロイド吸入薬等を投与する際、定量噴霧式吸入器(MDI)やネブライザーを用いて薬物をエアゾル化し蛇管の側管から投与を行う。しかし、経験上意図した薬物量が肺内に到達しないため、人工呼吸器を装着した患者に吸入薬を投与する際には、添付文書に記載されている必要量以上の薬物量が投与されているケースがしばしば見受けられる。このように薬剤の投与量を増加することにより、有効性が得られるのは事実であるが、全身への副作用などが問題となってくる。そこで、本研究では、人工肺を用いて人工呼吸器を装着した患者モデルを作成し、回路内に薬物を投与して人工肺部に到達する薬物量を測定した。使用薬物は、臨床現場で使用頻度の高い硫酸サルブタモールを用いた。また、薬物のエアゾル化にはMDIと超音波ネブライザーであるエアロネブとウルトラソニックネブライザーの3種を使用した。この方法でエアゾル化した硫酸サルブタモールをそれぞれテスト肺内に設置したフィルターに吸着させ抽出後、HPLC法により定量を行った。その結果、MDI、エアロネブ、ウルトラソニックネブライザー使用における硫酸サルブタモールの肺への到達率は、それぞれ0.95%、0.88%、2.02%とかなり低い用量であることが確認された。これは、3種の投与法によって放出されるサルブタモールの粒子径がほぼ変わらない事から、蛇管内に小さな水滴を多く含む人工呼吸器下では、薬物が蛇管や回路に吸着し到達量が減少したと考えられた。さらに、呼吸器回路や蛇管の長さや肺への到達までにかかる時間等の問題も原因の一つであると示唆された。人工呼吸器回路内のエアゾル沈着には多くの因子が影響するが、今回の条件下ではどれも数%しか吸入されないことから、人工呼吸器を装着した環境下では、吸入薬の肺への到達性が低下するために、添付文書の用量も考慮した上で薬物量を増加させる必要があると考えられた。
著者
佐藤 雅俊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

廃棄バイオマス資源の一つであるケナフ心材部の有効利用の一つとして、バインダーレスボードの開発について検討し、製造条件、特に圧締温度が高いほど耐水性が向上し、最適条件下では、ユリア・メラミン共縮合樹脂接着剤と同等かそれ以上の性能を有することが認められ、さらに、一年間の暴露試験においても材料の劣化は少なく、バインダーレスボードが耐水性に劣るという概念を覆す結果となった。一方、ケナフコアボードを用いたバインダーレスボードの自己接着機構に関する検討を、化学的手法と物理的手法を用いて実施した。化学的分析結果から、自己接着には、熱によるリグニンの軟化及びリグニンの縮合型構造の形成が確認された。また、カルボン酸類によるエステル結合の生成の可能性も示唆され、このような変化を生ずる要因は、製造時における圧締温度であり、適切な温度条件下において自己接着機構が発現していることが推測された。また、廃木材および竹を爆砕処理したパルプ等の化学分析あるいは走査型電子顕微鏡を用いた分析からは、爆砕によりパルプ表面に析出し遊離したリグニンが自己接着に関与していることが明らかとなり、この結果からも上述したリグニンの関与が明らかとなった。バインダーレスボードの製造条件に関しては、圧締圧力および圧締温度が木質系ボードの製造条件と比較しても差異がないことから既存のボード製造装置を用いたバインダーレスボードの製造が可能であり、今後、各種のバイオマスの有効利用に適用可能と思われる。
著者
谷口 雄太
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、中世後期の武家社会において足利氏(京都将軍家・関東公方家とその御連枝)に次ぐ「権威」を有したにも関わらず、従来ほとんど検討されることのなかった足利氏御一家(吉良氏・石橋氏・渋川氏の三氏。以下、御一家と表記)について、徹底した調査・分析を行なうことにあった。2012年度はその第二年度目であった。そこで得られた成果は以下の通りである。第一に、御一家研究の「各論」にあたるものとして、吉良氏に関する研究を、複数本、論文としてまとめた。そのうち一つは『静岡県地域史研究』2号(2012年9月)に掲載された。第二に、同じく御一家研究の「各論」にあたるものとして、石橋氏に関する研究を、複数本、論文としてまとめた。そのうち一つは『古文書研究』74号(2012年11月)に、もう一つは『中世政治社会論叢』(2013年3月)にそれぞれ掲載された。また、同じく御一家研究の「各論」にあたるものとして、渋川氏に関する研究に、「比較」にあたるものとして、斯波氏に関する研究にそれぞれ着手し、史料や先行研究の収集・分析をほぼ完了させた。第三に、関東足利氏研究会(2012年6月16日)・千葉歴史学会(7月21日)・静岡県地域史研究会(10月27日)においてそれぞれ「『関東足利氏の御一家』ノート」・「『足利一門』再考」・「足利一門再考」として口頭発表した。そこでは(1)「御一家」という史料用語が「足利御三家」・「足利一門」という二つの異なる意味合いを持っていたことを明らかにした上で、(2)足利一門とは誰のことか、(3)足利一門であるとはどういうことか、(4)足利一門になるとはどういうことか、(5)足利的秩序が崩壊したのはなぜか、などについての検証を行った。また、御一家が准ずるところの足利氏御連枝についても、関東公方家の兄弟たちを中心に検討を行い、それについては黒田基樹編『足利基氏とその時代』(戎光祥出版、2013年3月)に「足利基氏の妻と子女」として収められた。
著者
西林 仁昭
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

窒素ガスと水からの触媒的アンモニア生成反応が極めて効率的に進行することを明らかにした。この反応ではSmI2を還元剤として利用する必要があった。電気化学反応を適用し、反応に使用したSmI2の使用量を低減することができれば、実用化が可能になる。SmI3からSmI2への還元反応を検討したところ、イオン性液体を電解質として存在させた電気化学的還元手法を用いることで、SmI2が82%収率および81%ファラデー効率で得られることを明らかにした。本手法でSmI3から得られたSmI2を還元剤として利用した触媒的アンモニア生成反応を検討したところ、触媒当たり最高48当量のアンモニアが生成することが確認できた。