著者
津曲 俊英
出版者
長崎大学
雑誌
經營と經濟 : 長崎工業經營専門學校大東亞經濟研究所年報 (ISSN:02869101)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.129-160, 2001-12

The theme of this paper is how to deal with the provision of international public goods (IPG), while IPG as well as public goods has been defined by its nature in consumption. By considering the theory that could explain the process and apparatus to provide public goods in the state under the control of the government, we may approach the IPG which is provided in the international society without government. Along the logic, the discussion will introduce the examples, taxonomy, the mode of provision, provider (individual state or international organization) and problems such as free rider and prisoner's dilemma concerning IPG. As a natural consequence I arrive at concluding to attach importance to the international organization and institutions.
著者
田代 隆良 永田 奏 出田 順子 安藤 悦子
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.43-48, 2006

長崎大学医学部保健学科の看護学生270人(1年生68人,2年生68人,3年生68人,4年生66人)を対象に死生観に関する自記式アンケート調査を行った.学生は,死を「永遠の眠り」「肉体と精神の眠り」「神秘・不可解なもの」と捉え,学年間に違いは認められなかった.自分の死に関してもっとも嫌なこととして,「物事を体験できなくなる」「予定していた計画や仕事ができなくなる」は1年生に,「痛み・苦しみ」は4年生に多く,有意差が認められた.死生観に影響を与えた因子は「身近な人の死」「テレビ・映画」「葬儀への参列」「読書」の順であり,学年間に違いは認められなかったが,「講義」「実習」は4年生が有意に多かった.しかし,講義や実習の影響は学生の期待よりも小さく,日々の授業において死の準備教育を行う必要があることが示唆された.
著者
篠原 一之 西谷 正太 土居 裕和 尾仲 達史
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

父親、母親に見られる脳とホルモンの特徴を調べ、父性、母性をもたらす生物学的基盤を明らかにするべく、乳児表情に対する脳活動は、親と非親間で異なるか、ホルモン受容体遺伝子多型により親集団で異なるかを調べた。結果、父親特徴的な脳活動を明らかにした。また、妊娠~産後2年の母親を調べ、産後のホルモンや経験が母親脳の変化に貢献することを示唆した。一方、母性へのオキシトシン受容体遺伝子多型の影響を明らかにした。
著者
ログノビッチ タチアナ 中島 正洋 サエンコ ウラジミール 柴田 義貞
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

我々は、チェルノブイリ原発汚染地域であるベラルーシやウクライナの非常に悪性の高い小児甲状腺癌患者(若年齢で被ばくし、1990年から1998年10月の間に手術施行した症例)からパラフィン包埋組織、(入手可能な場合)凍結組織、血液サンプルを収集し、分子疫学研究を展開してきた。RNA-次世代シークエンス技術を用いて、これらのサンプルにおける遺伝子異常の有無を検索したところ、ベラルーシからの一症例で新しいタイプのRET遺伝子再配列異常(TBL1XR1/RETと命名)を見出した。さらに、我々のヒト培養甲状腺細胞を用いた実験においても、放射線照射によって同じRET遺伝子再配列異常が誘導された。
著者
赤間 史隆 石川 啓 岩崎 啓介
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.28-31, 2009-06-25
被引用文献数
1

症例は53歳女性。平成16年7月12日、子宮体癌IIIa期の診断で準広汎子宮全摘術を施行後、TJ療法が2コース行われていた。平成17年7月7日、左下腹部膨隆を訴えて婦人科受診、子宮体癌再発の診断でTJ療法を2コース追加。その後、タール便が出現。胃内視鏡検査にて、巨大な潰瘍性病変を認め、外科紹介となった。手術では胃の腫瘍は横行結腸間膜を巻き込んでおり、横行結腸合併切除を行った。腫瘍は深い潰瘍を形成し、壁外性に増生しており、中心部に広範な壊死を伴っていた。病理所見では腫瘍は粘膜部から筋層、漿膜下に浸潤しており、cytoker-atin(AW1/3)及びCD34陽性で、ER、PgRは陰性を示し、epitheloid typeのsarcomaが疑われたが、子宮腫瘍でもstromal sarcomaの存在が疑われる部分を認め、子宮体癌からの転移と診断した。子宮体癌からの転移性胃腫瘍は、我々が検索した限りでは報告が無く、非常に稀と考えられるため、報告する。
著者
山下 樹三裕 谷山 紘太郎 山下 康子
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ダイオキシン(2、3、7、8-テトラク口口ジベンゾ-p-ジオキシン;TCDD)の摂食、飲水、運動活性に及ぼす影響を、ラットを用いて20週間にわたり検討した。7週齢のWistar系雄性ラットにTCDD1μg/kg/weekを経口投与し、摂食・飲水・運動活性測定装置に入れ、経時的に各パラメーターを測定した。その結果、TCDD投与群の体重増加は対照群に比較して、投与4週後より有意に抑制され、9週以降その差はより顕著であった。また、TCDD投与群は対照群に比べ、概して運動量の増加が認められ、特に16週目以降有意な増加が認められた。しかし、運動量の日内リズムに変化ま認められなかった。なお、摂食および飲水量についてはTCDD投与の影響は認められなかった。これらの結果より、TCDD摂取による体重増加抑制は摂食・飲水行動の抑制によるものではないこと、および成熟ラットにおいてもTCDD摂取により活動性が高まることが示唆された。次に、コミュニケーションボックスを用いて、ラットに精神的ストレスまたは身体的ストレスを負荷し、血液-脳関門の透過性に変動をきたすかどうかを検討した。透過性は静脈内にエバンスブルー色素を投与し、その脳実質内への移行の度合いを脳各部位について測定し、インタクト群と比較した。その結果、大脳皮質においてストレス負荷群で明らかな血液-脳関門の透過性の亢進が認められ、その程度は精神的ストレス負荷群の方がより高かった。また、海馬においてもストレス負荷により透過性亢進の傾向を示した。したがって、ストレス負荷により血液-脳関門の透過性が亢進し、普段では透過しえない物質でも脳内に移行しやすくなることが示唆される。このことより、TCDD投与群に精神的または身体的ストレスを負荷した場合、TCDDの運動活性に及ぼす影響がさらに大きくなる可能性が示唆された。
著者
岩永 正子 朝長 万左男 早田 みどり
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【背景】骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes, MDS)は高齢者に多く高率に白血病に移行する造血幹細胞異常で近年注目されている。これまで放射線曝露とMDS発生の関連について調査した疫学研究は少なく、原爆被爆者においても明確な結論が得られていない。【目的】原爆被爆者におけるMDSの発生状況を調査し、放射線被爆との関連を明らかにする。【方法】血液内科医が常勤する長崎市内5病院間でMDS疫学調査研究プロジェクトを構築後、2004年までに発症した症例を後方的に集積し、被爆者データベースと照合して被爆者MDSを特定後、2つの疫学解析を行った。【結果】これまでに集積したMDSは647例である。コホート解析:被爆者データベース上1980年1月1日時点で生存していた被爆者87496人を母集団とし、1980年以前のMDS既知診断例を除き、1980-2004年に診断された被爆者MDS162例を特定した(粗発生率:10万人年あたり10.7人)。単変量解析による発生率の相対リスクは、男性が女性の1.7倍、1.5km以内の近距離被爆者が3km以遠被爆者より4.3倍と高く、高率に白血病に移行する病型(RAEB, RAEBt)ほど近距離被爆での発生率が顕著であった。年齢調整集団解析:診断時住所が長崎市であったMDS325例のうち被爆者MDSは165例であった。被爆者母集団数は長崎県公表の地域別被爆者健康手帳所持者数をもとに1980年より5年毎の人数求め、非被爆者母集団総数は長崎県より5年ごとに公表される年齢別人口を被爆者と年齢をマッチさせ、その後被爆者数を減じて求めた。10万人年あたりの粗発生率は被爆者で10.0人、非被爆者で6.49人と計算され、被爆者集団における発生率は非被爆者集団より1.5倍高いという結果が得られた。【考察】今後は被曝線量との関連を明らかにする必要がある。
著者
花田 裕子 永江 誠治 山崎 真紀子 大石 和代
出版者
長崎大学
雑誌
保健学研究 (ISSN:18814441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.1-6, 2007

本稿は,児童虐待の歴史的な変遷および児童虐待の定義について概観する.児童虐待は,わが国においても1990年代以降は特殊な家族環境で発生する問題ではないことが広く認識されるようになった.児童虐待問題は,歴史的な変遷を経て関連法が大きな変革期を迎えている.児童虐待は諸外国ではChild AbuseとChild Maltreatmentの両者の用語が用いられているが,Child Maltreatmentは80年代に生態学的な観点から児童虐待を捉えることが提唱された用語でChild Abuseより広く使われている.子どもの心理社会的な発達は,親だけではなく子どもの取り巻く環境からの影響は大きく,今後はChild Maltreatmentの概念の導入や生態学的な研究が児童虐待問題に必要となってくると考えられる.
著者
濱野 香苗
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

介護保険の導入が高齢者の生活上でのサポートシステムに与える影響を評価することを目的に、佐賀県の離島在住の第1号被保険者及び第2号被保険者の身体的、精神的、社会的、霊的面への介護保険の影響を明らかにした。第1号被保険者には平成17年6月〜11月、半構成的質問紙を用いて面接調査を行った。性別は男性50名、女性70名、年齢は65〜97歳、平均76.3歳であった。家族構成は配偶者と2人暮らし31.7%、配偶者と子供家族と同居26.7%、子供家族と同居23.3%、独居18.3%であった。介護保険導入により高齢者センターが建築され、入浴を含むデイサービスが開始された。それに伴い、老人会はデイサービスを手伝うボランティア活動を始めた。デイサービスや送迎バスの利用は、坂道が多く活動範囲が制限されていた第1号被保険者にとって、身体的に安楽になったばかりでなく、楽しみが増え、精神的にも良い影響があった。社会的、霊的面への影響はなかった。地域を基盤とした精神的サポート、手段的サポート、日常生活での支え合い等のサポートシステムは高い割合で維持されており、介護保険の影響は見られなかった。生活への影響は、少ない年金から介護保険料を引かれることによる経済的影響、デイサービスやボランティアに行くようになったことであった。第2号被保険者には平成18年6月〜12月、半構成的質問紙を用いて面接調査を行った。性別は男性51名、女性53名、年齢は40〜64歳、平均53.1歳であった。家族構成は親と同居51.9%、配偶者と2人暮らしおよび配偶者と子供と同居20.2%、子供と同居および独居3.8%であった。第2号被保険者においては、身体的、精神的、社会的、霊的面への介護保険の影響は見られなかった。また、地域を基盤としたサポートシステムへの影響も見られなかった。生活への影響は介護保険料に対する負担感であった。
著者
中坂 信子 貞森 直樹
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.213-221, 2006-09

昭和20年8月,広島・長崎に原爆が投下されて60年余が経過した。被爆者の高齢化が進み,長崎原爆被爆者の平均年齢は74歳に達している。想像を絶する悲惨な被爆体験は,その後,精神的不安(トラウマ)となって,現在においても精神的な悪影響として残っている可能性がある。かかる状況の中で,純心聖母会恵の丘長崎原爆ホームや原爆被爆者特別養護ホームかめだけ等に入所中の128名の協力を得て,原爆による心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)の評価をするために改訂出来事インパクト尺度(Impact of Evant Scale-Revised; IES-R)を用いて,平成16年に直接面接法によるアンケート調査を実施した。その結果,IES-R得点と被爆距離との間(P<0.05)や,IES-R得点と被爆による急性症状の有無との間(P<0.01)に統計的に有意な関連を認めた。一方,IES-R得点と男女差,被爆時年齢,調査時年齢,三親等以内の親族の有無,入所期間,面接回数との間には関連は認められなかった。このことは,爆心地からの被爆距離が近い被爆者や,また被爆による急性症状を認めた人達は,59年を経た時点でもなお被爆によるPTSDを受けていることを示している。
著者
勝俣 隆
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究では、内外の中世小説の伝本を閲覧し、書誌学的調査を行い、資料を多数入手した。また、中世小説の挿絵と本文の関係について考察した。入手した伝本の中で優れたものは、ライデン民族学博物館所蔵『貴船の本地』の翻刻と解題のような形で公にした。説話では、七夕・羽衣等と中世小説の関係を考察した。特に、日本文学で、人間と動物の結婚についての法則を論じたものは意義がある。さらに、黒田日出男氏のコード論を利用して、渋川版における「遠山」のコードを分析した。最後に、まとめとして、中世小説の伝本が、海外に所蔵される経緯について論じた。
著者
山下 俊一 FOFANOVA O ASTAKHOVA LN DIMETCHIK EP 柴田 義貞 星 正治 難波 裕幸 伊東 正博 KOTOVA AL ASHATAKNOVA エルエヌ DEMETCHIK EP ASHTAKNOVA L DEMETCHIK E.
出版者
長崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

旧ソ連邦の崩壊後、1994年から3年間ベラル-シを中心に学術共同研究「小児甲状腺がん特別調査」を行ってきた。すでに関係機関や保健省、ミンスク医科大学、ゴメリ医科大学、ゴメリ診断センターとは良好な協力関係を構築し、放射能高汚染地区の小児検診活動が軌道に乗っている。昨年出版したNagasaki Symposium; Radiation and Human Health(Elsevier,1996)ではベラル-シ以外ウクライナ、ロシア、カザフ等の旧ソ連邦の放射線被曝者の実態を明らかにしてきた。1994年〜1995年の一期目はベラル-シ、ゴメリ州を中心に小児甲状腺検診プログラムの疫学調査の基盤整備を行い、共通の診断基準、統一されたプロトコールを作成し甲状腺疾患の確定診断を行った。特にエコー下吸引針生検(FNAB)を現地に導入し、細胞診を確立することで最終診断の上手術の適応を判定可能となった。更にゴメリ州で発見された小児甲状腺がん患者がミンスク甲状腺がんセンターで手術されることから、連携をとり、組織診断の確認や患者の追跡調査を行った(Thyroid 5; 153-154,1995,Thyroid 5; 365-368,1995,Int.J.Cancer 65; 29-33,1996)。チェルノブイリ周辺では慢性ヨード不足のため地方性甲状腺腫の診断の為、尿中ヨードの測定装置を開発し、現地での測定に役立て一定の成果を得た。すなわちヨード不足と甲状腺腫大の関係を明らかにした(Clin Chem 414; 581-585,1995)。一方、ヒト甲状腺発癌の分子機構や病態生理の解明のためには種々の基礎実験を行い、甲状腺癌組織におけるPTHrPの異常発現と悪性憎悪の関連性を明らかにした(J Pathol 175; 227-236,1995)。特に放射線誘発甲状腺癌の研究では細胞内情報伝達系の特徴から、細胞周期停止とアポトーシスの解離現象を解析した(Cancer Res 55; 2075-2080,1995)。その他TSH受容体の遺伝子異常(J Endocrinol Invest 18; 283-296,1995)、RET遺伝子異常(Endocrine J 42; 245-250,1995)などについても解析を行った。1995年〜1996年の二期目はベラル-シの小児甲状腺癌の激増がチェルノブイリの原発事故によるとする各国際機関発表を基本に被曝線量の再評価を試みた。しかし、ベラル-シの多くのデータは当時のソ連邦特にモスクワ放射線生物研究所を中心に測定、管理されており、窓口交渉やデータの共有化等で未解決の問題を残している。更にチェルノブイリ原発事故の対応はセミパラチンスクにおける467回の核実験の対策マニュアルに基づいて行われたことが明らかとなり、カザフを訪問し健康被害の実態調査(1958-1990年)について検討を加えた。一方、甲状腺癌の基礎研究においてはいくつかの新知見が得られている。1996年-1997年の三年目は、チェルノブイリ原発事故後激増する小児甲状腺がんの細胞診活動を継続し、30,000人の小児検診のうち60名近いがんを発見した。同時にほかの甲状腺疾患の診断が可能であった(Acta Cytol in press 1997)。チェルノブイリ以外に旧ソ連邦では467回の核実験を行ったセミパラチンスクが注目されるが、更に全土で100回以上の平和利用目的の原爆資料が判明した。甲状腺癌細胞を用いた基礎実験ではp53遺伝子の機能解析を温度感受性変異p53ベクター導入株を用いて行った。その結果、放射線照射における細胞周期停止とアポトーシスの解離現象にp53以外の因子が関与することが判明した。更にDNA二重鎖切断の再修復にp53が重要な役割を担っていることが明らかにされret再配列との関連性等が示唆された(Oncogene in press 1997)。TSH受容体遺伝子や脱感作の研究も進展している。しかしながら、放射線誘発甲状腺含発症の分子機構は未だ十分解明されておらず更なる研究が必要である。貴重なチェルノブイリ原発事故周辺の小児甲状腺がん組織の散逸やデータの損失を未然に防ぐためにも国際協調の下、Chernobyl Thyroid Tissue BankやPatient Network Systemなどの体制づくりも必要である。
著者
熊谷 敦史 メイルマノフ セリック 大津留 晶 高村 昇 柴田 義貞 山下 俊一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

現地で得られたセミパラチンスク周辺地域での検診結果情報をもとに、検診結果と精密検査・治療の現状把握を行った。平成22年には、甲状腺結節が認められた場合に治療にあたるセメイ州立がんセンターから病理医を招へいし、同時に同センターで切除された甲状腺腫瘍標本を用いて、病理組織解析、53BP1蛋白の発現解析を行った。平成23年には、セメイ州立がんセンターから病理医、診断センターからデータベース担当者を招へいし、標本追加して病理解析による放射線発がん影響の解析を進め、甲状腺精密検査結果データと、疫学センターからのカザフスタン全土の癌疫学データを合わせ旧セミパラチンスク核実験場周辺地域の発がん傾向分析をまとめる予定であった。しかしながら、平成23年3月11日に発生した東日本大震災に引き続く東京電力福島第1原子力発電所事故のため、研究代表者ならびにメイルマノフ・セリックをのぞく研究分担者は全て被ばく医療専門家として福島県に繰り返し派遣され支援にあたってきたため、研究期間内に予定された研究完遂が困難となった。
著者
平良 文亨
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

放射性核種の物質輸送は大気環境に依存し、地球規模で拡散すると考えられている。原子力ルネサンスが叫ばれる昨今、日本の西端に位置し原爆被ばく経験を有する長崎、1986年4月に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故の影響があった周辺地域及び1949年~1989年の間に450回以上の核実験が実施されたセミパラチンスクにおける現在の放射線被ばくリスクについて評価した。まず、長崎県内における環境放射能調査から、放射性核種が気流の影響を受け大気環境に依存した挙動を示すことが確認された。次に、チェルノブイリ原子力発電所の事故により放射能汚染のあった地域(ゴメリ、ミンスク、コロステン、ブリヤンスク等)で消費される食用キノコ類を採取後、ガンマ線の核種分析を実施し放射能レベルの解析及び実効線量を算出した結果、チェルノブイリ原子力発電所に近接する地域(ゴメリ、コロステン)では長崎の約1,400倍高いセシウム-137濃度を示し、公衆被ばくの年間線量限度の約6分の1であった。また、土壌の核種分析結果から、チェルノブイリ原子力発電所事故の影響が大きいとされるブリヤンスク及びゴメリ州(ゼレズニキ)における外部被ばくの実効線量が比較的高い傾向であった。一方、セミパラチンスク市内に流通する食用キノコ類及び土壌の人工放射性核種レベルは長崎と同程度のバックグラウンドレベルであったが、核実験場施設内では閉鎖後20年経過しているものの複数の人工放射性核種が検出された。以上から、チェルノブイリ原子力発電所近傍及びセミパラチンスク核実験場内では、人工放射性核種が大量に放出された当時に比べ低レベルであるものの、現在も人工放射性核種が環境中に存在.し放射線被ばくリスクが賦存していることが示唆される。今後も低レベル放射線による健康影響評価についてフォローする必要がある。