著者
平野 滋 中野 宏 松井 雅裕 新井 啓仁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.9, pp.1140-1146, 2017-09-20 (Released:2017-10-03)
参考文献数
8
被引用文献数
2

この数年来, 甲状腺癌に対する薬物治療が激変している. かつて放射性ヨウ素 (RAI) 不応の再発・転移分化型甲状腺癌に対しては, 1970年代にドキソルビシンが治療選択肢として提唱されたが定着せず, その後長きに渡り RAI 不応甲状腺癌に対する有効な薬物治療法はなかった. 髄様癌や未分化癌について有効な薬物療法がなかったのは言うまでもない. 2014年に multi-target kinase inhibitor (m-TKI) であるソラフェニブ (sorafenib) の有効性が証明され, 日本でも保険適応となり, その後, レンバチニブ (lenvatinib), バンデタニブ (vandetanib) が相次いで登場し日常臨床における治療オプションがさらに充実するようになった. ソラフェニブは第3相ランダム化試験である DECISION 試験で, レンバチニブは同じく SELECT 試験において, RAI 不応分化型甲状腺癌に対しプライマリーエンドポイントである無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善させた. その後, ソラフェニブは髄様癌に対する適応も取ったが, レンバチニブは分化型甲状腺癌,髄様癌, 未分化癌のすべてに適応を追加した. 分化型甲状腺癌における分子標的薬の適応は, 切除不能再発・転移病変で, RAI 不応かつ病勢進行の早いものとされるが, 開始のタイミングを逸すると効果が得られないので症例ごとの検討が必要である. また多彩な副作用が発生し得るが, 適切にコントロールすることで長期的な腫瘍制御は可能と考えられる. 慎重投与として大血管近傍, 気管・食道近傍, 皮膚浸潤などが指摘されており, 腫瘍縮小にともなう動脈出血が報告されている. 多くは未分化癌であるが, 従来治療困難な癌に対し優れた効果を認めており, 合併症対策を検討することが重要である. 分子標的薬使用中の手術についても創傷治癒遅延の懸念が示されているが, 十分な検討はなされていない. 大きな期待を持たれて登場した分子標的薬であるが, まだ十分に使いこなせているとは言えず, 外科医目線の検討が今後必要と考えられる.
著者
吉田 登
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.18(第18回環境研究発表会)
巻号頁・発行日
pp.313-318, 2004 (Released:2007-01-12)

本研究では、最も流通する地域通貨の1つとして知られているアメリカ合衆国のイサカアワーを対象として、流通状況とその地域経済への影響を調査、分析した。まず、現地ヒアリング等によりイサカアワーの流通のしくみを図化し、イサカアワーで提供される財・サービスのメニュー数の推移を把握した。次に、年間の取引内容及び金額について、主要ユーザーヘのアンケート及びインタビューにより調査した。分析の結果、イサカアワーは年間に約1万1千アワー(約1200万円相当)の流通規模を有すること、また産業連関分析を用いて推計した地域通貨による乗数は1.34であり、郡経済の乗数1.2を上回る地産地消の効果を有することを明らかにした。
著者
(明) 龔信 撰
巻号頁・発行日
vol.[6], 1600
著者
中川 良三 加藤 龍夫
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.99-108, 1991-04-15 (Released:2017-08-31)

新潟水俣病事件は,昭和39年8月ごろから新潟県阿賀野川流域住民の問に発生した有機水銀中毒事件である,「農夫症」という説があったように,原因については昭和電工鹿瀬工場の排水説と地震で流失した水銀農薬説が論争された、現在,阿賀野川流域の環境試料の水銀調査を行っても,四半世紀前の事件の痕跡は皆無であった.しかし,当時の資料を化学的に検討した結果,水銀中毒事件の発生原因は,工場排水が直接の基盤をなしたとはいえず,新潟地震とその直後の集中豪雨によって流失した水銀農薬が 関与していたと推察された。 本研究の議論はあくまでも,公表された記録の数値と,永年,水銀の研究をしてきた著者らの経験を基に,推論したものであり,決して工場排水説を否定するものではない.いずれにしても,この事件を契機に,人々が水銀の毒性,環境汚染というものを理解したことは意義のあることであった.
著者
石井 正光 幸野 健 北島 淳一 谷井 司 細井 洋子 庄司 昭伸 依藤 時子 浅井 芳江 濱田 稔夫
出版者
Meeting of Osaka Dermatological Association
雑誌
皮膚 (ISSN:00181390)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.74-81, 1986 (Released:2010-08-25)
参考文献数
5
被引用文献数
1

顔面に湿疹・皮膚炎を有する30症例に対して酪酸クロベタゾン (キンダベート®) 軟膏の外用を行ない, その臨床効果と副作用について検討した。外用期間は平均47.0日, 最長, 175日と比較的長期にわたり, 薬剤の総使用量は1.8gから100gであった。30例中2例はやや改善と評価されたがその他の全例にて改善以上の効果が認められ, 有効率は93%と高い値を示した。副作用は全症例において認められなかった。このため有用度も有用以上94%と高値を示した。以上の結果より, 本剤は, 顔面などのステロイド外用剤により比較的問題を生じやすい部位にも使いやすい薬剤であると考えられる。
著者
原田 大樹
出版者
日本教科教育学会
雑誌
日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.31-40, 2010

本稿は,昭和30年代に行われた共通語指導を明らかにする研究の一環として,鹿児島県で作成・使用された教材『ことばのほん』について,その内容・特徴・及び意義について明らかにすることを目的としている。『ことばのほん』は,鹿児島県国語教育研究会・鹿児島県教育委員会の共編で,それまでの標準語・共通語指導において,確固とした教材がなかったことや,教師の経験不足等による共通語指導の不振に対応するために作成された。そのねらいは,児童が共通語を自由に使用できることにあり,児童の日常生活や経験に基づく指導を行おうとしている。そのため本書の内容は,「ことば」の矯正に加え,アクセント・イントネーション等の音調に関する事項が多く含まれている。さらに,その使用方法については,特設の時間で,実践的活動によって,また,音声機器も併用して指導するように示され,音読,劇化などによって指導している。この結果,本書は,児童が共通語を体系的・経験的に学べるテキストであるという点に特徴と意義が見いだせる。

1 0 0 0 OA 永代橋 12巻

出版者
巻号頁・発行日
vol.[1] 永代橋掛直御修復書留目録 文政,

4 0 0 0 OA 鐘が鳴ります

著者
北原 白秋[作詞]
出版者
コロムビア(戦前)
巻号頁・発行日
1928
著者
井筒 弥那子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度は論文執筆を行った。まず、統計検定法の再検討を行った。異なる光環境で選択を受けた集団に関して、すべての組み合わせ計9組と対照検定として同じ環境で飼育した集団同士の比較計6組の検定を行い、結果を比較したところ、1対1の検定を複数回行う方法は本研究には不適切であると判断されたため、最終的に3つのレプリカ集団のシーケンス結果を合わせたデータを用いてFisher’s exact testを行い、有意差上位5%に着目することにした。他にもAllele Frequency Change(AFC)やOdds ratioなどの異なる指標を用いて適応に関与するゲノム領域の候補を絞り込んだ。これまでの研究結果をまとめ、アメリカの遺伝学会誌G3(GENES,GENOMES,GENETICS)に投稿し受理された。同時に進めていたトランスクリプトーム解析に関して、次世代シーケンサーを用いたRNAseqの結果を確認するために、qPCRでいくつかの遺伝子の発現量を調べて、RNAseqのデータと一致することを確認した。また、前述の選択実験で異なる光環境で選択を受ける遺伝子の候補84個とトランスクリプトーム解析で発現量に変化が見られた遺伝子310個を比較したところ3つの遺伝子が重なることがわかった。3つは、キチン分解酵素や神経系で発現している遺伝子、卵黄膜成分の遺伝子であり、交尾行動から産卵までの適応度に影響する形質への関与が予想された。トランスクリプトーム解析に関しては、現在論文を執筆中である。
著者
山田 恵子 若泉 謙太 深井 恭佑 磯 博康 祖父江 友孝 柴田 政彦 松平 浩
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.125-134, 2017-09-20 (Released:2017-10-05)
参考文献数
29
被引用文献数
4

目的:就労環境における慢性痛の実態,及び慢性痛が仕事に影響する重症例でのリスク因子を明らかにする.対象と方法:大手製造業A社の首都圏にある1事業所,上記とは別の大手製造業B社の関西圏にある1事業所,及び大手小売業C社の関西圏にある16店舗,計3社18施設の被雇用者を対象に,「からだの痛みに関する調査研究アンケート」を施行した.A社B社では参加者の同意を得たうえでアンケートデータと企業健診の問診データを突合し,基本集計を行うと共に,対象者の生活習慣や心理社会的因子と慢性痛有症との関連について,性年齢調整ロジスティック回帰分析を用いて分析した.結果:調査対象2,544名のうち1,914名(男性1,224,女性690名)から有効回答が得られた(有効回答率75.2%).3か月以上持続する慢性痛を有するものは全解析対象者の42.7%であり,仕事に影響する慢性痛を有するものは全解析対象者の11.3%であった.痛みのない群と比較して,仕事に影響する慢性痛群は,肥満,喫煙習慣,不眠症,ワーカホリック度の高さ,上司・同僚からの支援の乏しさ,仕事の満足度の低さ,仕事の要求度の高さ,仕事のコントロール度の低さ,心理的ストレスの高さ,抑うつ状態と有意に関連があった.考察と結論:就労環境における慢性痛とそのリスク因子の実態が一部明らかとなった.産業衛生分野において健康関連リスク因子として重要視されてきた,肥満,喫煙,不眠症,職場環境,心理的ストレス,抑うつは職場の慢性痛対策をおこなう上でも重要であることが示唆された.

1 0 0 0 OA 回赦帳

出版者
巻号頁・発行日
vol.[11] 有徳院様七回御忌(宝暦七年),

1 0 0 0 OA 巻頭言

著者
吉山 博吉
出版者
環太平洋産業連関分析学会
雑誌
産業連関 (ISSN:13419803)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.5, 1989 (Released:2015-08-29)
著者
有井 敬治 三ツ井 貴夫 川村 和之 橋 逸郎 梶 龍兒
出版者
独立行政法人国立病院機構徳島病院(臨床研究部)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

最近、太極拳がパーキンソン病の症状を改善させることが報告されている。我々はパーキンソン病をはじめとした神経難病に対する独自のリハビリテーションを開始した。その中で、パーキンソン病のための独自の太極拳メニューを考案し、入院患者のリハビリテーションに取り入れている。本研究は、入院患者のみならず外来患者も自宅で容易にトレーニングできるようにするための太極拳DVDを作成することを計画した。その結果、前回作成した初級編DVDと平行してして、比較的軽症で自立度の高い患者を対象にした上級編パーキンソン病太極拳DVDを製作した。これにより個々の障害程度に合わせた太極拳運動のセルフトレーニングが可能になった。
著者
右田 真里衣 山崎 哲司 佐藤 史子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.285, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】進行性核上性麻痺(以下PSP)によりすくみ足が著明で認知機能低下のある方に、在宅でレーザー杖を工夫し単独移動時のすくみ足が軽減したため報告する。尚、報告にあたり書面で本人、ご家族に説明し同意を得た。【方法】症例は84歳女性。平成19年PSP診断。認知機能(注意・記憶)低下有り。ADL自立。移動は主に4点杖歩行や伝い歩きで、すくみ足が著明。その為トイレに間に合わず洗面器に排尿有り。トイレまでの平均移動時間は2分43秒であった。日中は単身状態で移動の介助は得られず、歩行の改善を目指した。すくみ足改善に向け開始前動作や視覚刺激を検討した。開始前動作(足を高く上げる等)は効果はあるが、介助者の促しが必要であった。視覚刺激(床にテープ等)は、直後の効果はあるが数日後には無効であった。次に既製レーザー杖を試行した。これはスイッチを押すとレーザーが床面に出るT字杖で、すくみ足の方に効果がありパーキンソン病友の会で販売されている。しかし、介助者の促しが無いとレーザー杖を使用する事やスイッチを押す事が行えなかった。また、本人にとってやや前方にレーザーが出る為、その距離が却ってすくみ足を助長する事等があり、既製レーザー杖をそのまま適用出来なかった。その為、臨床工学技師の協力で、以前から使い慣れている4点杖にレーザーを取り付け、グリップを握ると本人に合った位置にレーザーが出るよう調整し導入に至った。【結果】本人用のレーザー杖を使用した時の平均移動時間は35秒となり、すくみ足が軽減してトイレに間に合うようになった。また、9週間後にも効果が持続していた。【考察】PSPにより認知機能低下のある方がすくみ足を改善する為には、身体機能だけではなく生活環境の確認も重要であり、今回の症例は自宅内を単独移動する事から、介助者の促しが無い状況で行える事が必要であった。しかし、常に生活環境上にある視覚刺激では効果は持続しなかった。これに関する研究論文等での報告は確認出来なかったが、慣れると注意が向けられず効果が持続しなかったと考える。効果を持続させる為には必要時のみ視覚刺激となるレーザー杖の適応があると考えたが、既製レーザー杖では身体機能的にも生活環境的にも本人が使いこなす事は困難であった。その為、既製レーザー杖を参考にしながら、本人に合わせて操作手順を減らす等の工夫をした事が、レーザー杖の有効性を高めすくみ足の軽減に繋がったと考える。【まとめ】PSP者にレーザー杖を工夫した症例を経験し、身体機能だけではなく生活環境をみる事や、その方に合った用具に工夫する事の大切さを学んだ。