著者
中森 弘樹
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 = Kansai sociological review : official journal of the Kansai Sociological Association (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.82-94, 2013

本稿の目的は、失踪者の家族の視点から「失踪」という事態を考察することである。これまで自然災害や海難事故、戦争状況下において生じる行方不明が一般的に注目を集め、捜索の対象となってきたのに対して、それ以外の状況で人が行方不明になるという事態はあまり着目されてこなかった。本稿では後者の事態を「失踪」として定義する。そして、残された家族たちが不確定な失踪者の生死をいかにして判断するのか、またその際にいかなる困難を抱えるのかを死の社会学の視座を用いて明らかにすることで、失踪者の客観的な死の危険性からは説明できない「失踪」の問題性を描き出すことを試みる。上記の目的に基づき、本稿では失踪者の家族にインタビュー調査を実施・分析した結果、以下の諸点が示唆された。まず、残された家族にとって失踪者の生死の線引きを行うことは困難であった。そのような状況では、たとえ失踪者の死の危険性が明らかでなくとも、家族たちは失踪者の生死が不確定であることに対して長期的な心理的負担を抱えることがあった。また、失踪者の生死の線引きには、家族たち自身の生死の判断のみならず、警察等によって客観的に判断される失踪者の生死や、失踪者の法的な生死といった異なる生死の次元が関わっていた。これらの生死の諸次元が食い違うことで、捜索活動の困難や失踪をめぐる社会手続き上の負担、ならびに失踪宣告をめぐる葛藤といった問題が家族たちに生じていた。
著者
金指 達郎 鈴木 基雄
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.6, pp.298-303, 2010 (Released:2011-02-16)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

著者らが開発したスギ花粉飛散予報モデルを応用して, 首都圏への寄与度の高いスギ花粉放出源の推定を試みた。評価の指標として, 花粉飛散期間中の平均花粉濃度と, 花粉濃度と当該地域の人口の積(花粉暴露指標とする) の二つを用いた。花粉放出源を含まない狭いターゲット領域 (東京駅を中心とした半径10kmの円内, 領域内人口500万人強) を対象にした場合にはいずれの指標でも類似した結果であった。一方, 広域首都圏 (東西約90km, 南北約80km, 領域内人口約3,000万人) を対象とした場合には花粉濃度を指標に用いると, その内部にある花粉放出源メッシュの効果が非常に強く推定された。また, 推定対象年によって推定結果が異なった。そのため, 花粉放出源対策地域の優先順位選定にこの手法を適用する際には, 複数年の結果を総合的に判断することが重要であると考えられた。
著者
植田 康孝
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
vol.27, 2017-03-31

「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは,人工知能が人間の能力を超える時点を言う。ヒトは自らの学名を傲慢にもホモ・サピエンス(賢明なヒト)と名付けたが,ホモ・スタルタス(愚かなヒト)になる瞬間である。近年の急激な技術進化により「シンギュラリティ」はもはや夢物語とは言えなくなっている。英オックスフォード大学のニック・ボイスロム教授の調査では,「シンギュラリティ」が到来しないと回答した人工知能分野の研究者は僅か10% に過ぎなかった。厚生労働省発表に拠れば,2016 年に生まれた子供の数(出生数)が98 万1,000 人となり,初めて100 万人を割り込んだ。出産に携わる20 ~ 39 歳の女性は2010 年(1,584 万人)から2014 年(1,423 万人)の4 年間で160万人以上減るなど構造的な問題であり,今後も進展する。団塊世代のピーク1949 年には269 万,第2 次ベビーブームのピーク1973 年には209 万人もいたから,半分以下の激減である。猛スピードで少子高齢化が進展する日本では,特定職種における労働力不足が深刻化している。人手不足を解消する,という社会的要請に応じる形で,人工知能の浸透が進む。人工知能に置き換えられる労働人口の割合はアメリカ(47%)やイギリス(35%)と比べて,日本(49%)が最も高い。これは,労働者が比較的守られて来た日本で,置き換えが遅れていたためである。人工知能の進化によって,産業構造や人の働き方が激変する。伴って,近い将来,私たち生活者の価値観や生き方が大きく変わるようになる。人工知能によって労働や生活における問題の大半が解決された場合,人間はどのような悩みを持つ存在になるのか。人工知能の進化は,人間の拠って立つ軸,例えば,信念や価値観,行動の判断基準を変えることを迫る。日本人は子供の頃から「働かざるもの食うべからず」と教えられ,「勤勉」を尊ぶ価値観が日本人の精神には深く根付いて来た。しかし,2016 年女性人気が爆発した深夜アニメ「おそ松さん」は,6 人の兄弟が揃って定職に就かず,遊んで暮らす「脱労働化生活」を送る。全員同じ顔と性格を持つ6 つ子が登場していた原作に対し,それぞれに細かくキャラクタを設定し声優の割り当てを別としたことにより,キャラクタごとに「推し松」と呼ばれる熱狂的な女性ファンが続出し,社会現象となった。人間は,2030 年に到来すると予想される「シンギュラリティ」以降には,仕事を減らすための人工知能が増え,「おそ松さん」的脱労働化生活を送るようになる。「おそ松さん」的ライフスタイルとは,ある程度,物質的な欲望を満たした場合,「モノ」の充足を超えて,文化や芸術,旅行,あるいは自分自身の想い出など,「コト」についての関心を増やすことである。政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るために必要とされる現金を支給する「ベーシック・インカム」制度の導入により,お金のために労働する,お金を使って消費するという生活から少しでも自由になることを可能にする。社会のために必要な「仕事」を人工知能が肩代わりしてくれるのであれば,賃金が支払われるだけの「労働」を行うことを中心とした生き方よりも,個性を大切にする生き方の方が余程「人間らしい」と言える。過去の常識に振り回されることを防いで,創造的な行動を行うことが,「おそ松さん」的「脱労働化生活」を実現することである。歴史家ホイジンガが説いた「人間はホモ・ルーデンス(遊ぶ存在)」の体現である。
著者
茂木 暁
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
no.50, pp.55-74, 2014-06-30

本稿は,日本女性の結婚への移行について,夫婦がどのようにして出会ったかという「出会い方」の違いに注目しながら分析する。従来の研究では,移行元として未婚という状態から,移行先として既婚という状態への単一の移行を分析対象とする移行像(単一移行)を想定し,移行が起こりやすい年齢と,移行の発生に影響する要因(規定要因)について分析してきた。これに対して本稿では,夫婦の出会い方(以下,「出会い方」)の違いに対応して,移行が起こりやすい年齢と規定要因とが異なる可能性について検証する。具体的には,「仕事・職場」,「友人紹介」,「学校」,「インターネット・携帯」,そして「その他」という5種類の「出会い方」を想定した上で,「出会い方」別の結婚を,競合リスク事象として取り扱い,それぞれの結婚への移行ハザード率を,年齢と,初職属性や学歴などの規定要因によって説明するモデルの推定を行う。『働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査』を利用した分析の結果,上記の可能性を支持する実証結果を得た。第一に,年齢の違いについて,「学校」は,移行が起こりやすい年齢区間が他の「出会い方」と比べて狭くなること,「インターネット・携帯」は,移行が起こりやすい年齢が他の「出会い方」と比べて高くなるという知見を得た。第二に,規定要因の違いについては,初職属性である雇用形態・企業規模・労働時間の3つが「仕事・職場」という「出会い方」での結婚への移行に対してのみ影響するという結果を得た。また,学歴の高さについては,「仕事・職場」や「友人紹介」での結婚を抑制するという結果を得たが,「学校」という「出会い方」についてのみ結婚を促進することが明らかになった。
著者
新井 康通 広瀬 信義 川村 昌嗣 本間 聡起 長谷川 浩 石田 浩之 小薗 康範 清水 健一郎 中村 芳郎 阪本 琢也 多田 紀夫 本間 昭
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.202-208, 1997-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
22
被引用文献数
3 5

東京都在住の百寿者45名 (男15例, 女30例, 平均年齢101.1±1.4歳, mean±SD, 以下同じ) の血清脂質値, アポ蛋白A1 (以下アポA1と略す), アポ蛋白B (以下アポBと略す), リポ蛋白分画, 低比重リポ蛋白 (以下LDLと略す) 分画の被酸化能を測定し, 健常な若年対照群と比較検討した.百寿者では対照群に比べ, 総コレステロール (以下TCと略す), 高比重リポ蛋白コレステロール (以下HDL-Cと略す), アポA1, アポBが有意に低値を示した. アポBが60mg/dl以下の低アポB血症の頻度は対照群の2.3%に対し, 百寿者では23%と有意に高かった. 各リポ蛋白分画中のコレステロール濃度は超低比重リポ蛋白コレステロール (以下VLDL-Cと略す), LDL-C, HDL-C, のいずれにおいても百寿者で有意に低かった. HDLの亜分画を比べると百寿者で低下していたのはHDL3-Cであり, 抗動脈硬化作用を持つHDL2-Cは両群で差がなく, 百寿者の脂質分画中に占めるHDL2-Cの割合は有意に増加していた. LDLの被酸化能の指標である lag time には有意差を認めなかった (百寿者44.7分±31.8対対照群49.9±26.0分). 百寿者を日常生活動度 (以下ADLと略す) の良好な群と低下している群に分け, 脂質パラメータを比較したところ, ADLが良好な群でHDL3-Cが有意に高値を示していた. 認知機能を Clinical Dementia Rating (以下CDRと略す) によって正常から重度痴呆まで5段階に評価し, 各群の脂質パラメータを比較したところ, 中等度以上の痴呆群でHDL-Cが正常群に比べ有意に低下していた.百寿者はアポBが低く, HDL2-Cが比較的高値であり, 遺伝的に動脈硬化を促進しにくい脂質組成を示すことが明らかとなった.
著者
吉田 春夫 アンジェイ マチエフスキー マリア プシビルスカ
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

全エネルギーが負の時のケプラー運動の軌道は,初期値によらず周期軌道(楕円軌道)になる.この軌道が常に周期軌道になるという性質は,考える系が最大数の独立な第一積分を持つこと,つまり系の超可積分性の帰結である.本研究ではポテンシャル場での質点の運動がこのような超可積分性を持つための必要条件を,具体的なアルゴリズムの形で初めて与えた.本結果は科学研究費補助金によって可能となったポーランドの研究協力者との共同研究によって得られた.
著者
財津 亘 渋谷 友祐 長谷川 直宏
出版者
日本法科学技術学会
雑誌
日本法科学技術学会誌 (ISSN:18801323)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.83-92, 2008 (Released:2008-04-19)
参考文献数
28

Offender profiling is one of the tools of decision making for criminal investigation. It is a set of techniques to infer characteristics of an unknown offender, such as sex, age bracket, lifestyle, psychological feature, previous crime, inhabited area, from the information which is left at the crime scene.   In this article, we proposed a tool of decision-making for criminal investigation from the perspective of prediction of an uncertain event by the use of a Bayesian Network (BN). BN is a probability model that describes causal structure of events as chain networks of conditional probability, and is capable to predict the possibility of uncertain events.   To examine the validity of the constructed model, firstly, we divided previous offenders’ information of the indoor-sex-offence cases into a training data (9,859 cases) and validation data (50 cases). Secondly, we constructed a model from the training data by means of K2 and MDL (minimum description length) as search-algorithm and information criteria, respectively. Finally, the validity of the model was examined by the validation data as virtual cases.   According to the model, 21 target variables (16 behavioral variables, 2 vehicle variables and 3 victim variables) linked the explanatory variable (employment) directly, and most of these variables related to the employment. The results of the model validity showed that the accuracy of predicting the employment increased 10% higher when the age bracket could be estimated from the testimony of the victim.   The results indicated that the BN model of the offender profiling would be able to provide valuable information for decision making for crime investigation. To predict characteristics of an unknown offender more accurately, it is crucial to select more appropriate information criteria and develop the search-algorithm, as well as to construct the database from more accurate information.
著者
田中 政司
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.172-180, 2016-06-01 (Released:2016-06-01)
被引用文献数
1

ジャパンナレッジは事典・辞書を中心に日本語コンテンツを検索・閲覧できるデータベースサービスである。サービス開始から15年が経過し,大学や公共図書館を中心に世界約800の機関で利用されるサービスに成長した。本稿では,ビジネス的な側面からみたサービスの取り組みと経緯を紹介しつつ,今後,サービスが目指す方向性について紹介する。
著者
丸山 桂介
出版者
イタリア学会
雑誌
イタリア学会誌 (ISSN:03872947)
巻号頁・発行日
no.51, pp.150-251, 2002-03-30
著者
赤羽 久忠 古野 毅 宮島 宏 後藤 道治 太田 敏孝 山本 茂
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.105, no.2, pp.108-115, 1999-02
参考文献数
14
被引用文献数
4

温泉水の中で, 自然の倒木が珪化していることがあり, これが地質時代に形成された珪化木の一つの形成現場であるという報告がある(Leo and Barghoorn 1976;赤羽・古野, 1993).筆者らはさらにこれを確かめるため, 木片を7年間にわたって温泉水の流れに浸し, 珪化の進行を観察した.珪酸の増加は約1年で重量比~0.72%, 2年で~2.90%, 4年で10.65%, 5年で26.78%, 7年で38.11%に達した.珪化は, 珪酸の球状体が木材組織の細胞内腔を充填することによって行われている.珪酸が木材組織へ浸潤する機構について, 珪酸の球状体が道管~道管壁孔を経由し各細胞まで到達した痕跡を確認した.今回確認した珪化木の形成機構は, 地質時代の珪化木形成を説明するものである.すなわち, 条件が整えば, 地質時代に形成された珪化木も数年~数10年という驚くべき短期間で行われた可能性がある.
著者
法理 樹里 牧野 光琢 堀井 豊充
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1610, (Released:2017-06-07)
参考文献数
37
被引用文献数
3

2011年3月11日に発生した,東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害は水産物にも及んでいる。福島県産農産物に対する消費者意識調査で用いられた手法を援用し,二重過程理論に基づき震災後の福島県産水産物の購買意図へ影響をおよぼす消費者意識を調査した。本研究で用いた,二重過程理論のシステム1には,「放射線・原発不安」意識および「被災地支援」意識,システム2には,「知識による判断」意識および「合理的判断」意識が含まれていた。共分散構造分析の結果,「放射線・原発不安」は購買意図を抑制することが示された。一方,「被災地支援」は,購買意図を促進することが示された。さらに,先行研究とは異なり,福島県産水産物の購買においては,「被災地支援」は「放射線・原発不安」を抑制する効果があることが明らかとなった。消費者は不安を抱えながらも復興支援の意識を持ち,福島県産水産物の「購買意図」を培っていることが示唆された。
著者
志賀 正和
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.61-65, 1988-03-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
19