著者
永井 聖剛
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.23-38, 2020-05-15 (Released:2021-05-15)

明治二十年代に新しい日本の主導者として注目された「青年」は、明治三十年代後半、青年心理学という科学的言説によって、不安定で危険な世代として意味変容を余儀なくされた。時代は彼らに「修養」すなわち自(みずか)ら己(おのれ)を律し、身を立てることを求めた。修養ブームの到来である。またこれは同時に、すでに青年期を終えた者、すなわち〈中年〉の誕生をも意味していた。本稿は、自然主義文学の担い手を〈中年〉と定位し、彼らの「おのずから・あるがまま=自然」を受け容れる思考が修養的な激励とは対極的な、いわば同時代における対抗言説とでも呼ぶべきものを形成していたことを跡づけたものである。〈中年の恋〉を描いた「蒲団」以降の自然主義文学は、〈中年〉的な思考様式によって織りなされていたのである。
著者
萩谷 昌己
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.472-478, 2016-10-01 (Released:2016-10-01)
参考文献数
8

高等学校情報科の現状を具体例として,日本における情報教育の格差について議論する。政府が導入を計画している小学校におけるプログラミング教育についても,格差が新たに生み出される危惧について触れる。そして,そのような格差をなくすためには,情報教育の重要性を現場の教員や教育委員会が認識することが重要であることを指摘する。情報教育の親学問である情報学を明確に定義することがその認識のための一つの前提であると述べ,日本学術会議により公開された「情報学分野の参照基準」について報告する。最後に,初等中等教育から大学・大学院までの情報教育全体を体系化する「情報教育の参照基準」の必要性について指摘する。
著者
新海 明 新海 栄一
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.149-154, 2002 (Released:2007-03-29)
参考文献数
17
被引用文献数
3 5

ムツトゲイセキグモは日本にいる稀産の2種のナゲナワグモ類のうちのひとつである. 本報告は, 野外におけるムツトゲイセキグモの生活史, 若令幼体がもちいる餌捕獲法, および本種のメス成体や亜成体がもちいる「投げ縄」網の作成行動についてのはじあての観察記録である. ムツトゲイセキグモは年一世代の多回 (3-6回) 産卵のクモであり, ふ化した幼体は卵のう内でそのまま越冬した. 若令幼体とオスは投げ縄を使わず, 葉の縁で狩りをしていると考えられた. 亜成体と成体のメスは蛾を捕獲するために投げ縄を使用した. 投げ縄作成行動は, 投げ縄を第1脚のかわりに第2脚でもつ以外はナゲナワグモ属のものとまったく同一だった. ときどき, 2個の粘球がついた投げ縄を作ることがあった.
著者
高橋 和則
出版者
中央大学
巻号頁・発行日
2017

元資料の権利情報 : この資料の著作権は、資料の著作者または学校法人中央大学に帰属します。著作権法が定める私的利用・引用を超える使用を希望される場合には、公開者へお問い合わせください。
著者
小谷 俊博
出版者
独立行政法人 国立高等専門学校機構 木更津工業高等専門学校
雑誌
木更津工業高等専門学校紀要 (ISSN:21889201)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.28-35, 2017-01-31 (Released:2017-08-02)
参考文献数
7

The number of developmentally disabled students has been increasing, so a lot of institutions of higher education are confronted with problems the students have. The purpose of this study is to show how Kosen should deal with the problems. In the beginning, we will consider what a developmental disability is and who is a developmentally disabled student. And I will show what kinds of efforts to solve the problems have been implemented. Finally, I will present a unique set of challenges for Kosen to improve the situation of the students.
著者
本田 裕子
出版者
一般社団法人 環境情報科学センター
雑誌
環境情報科学論文集 Vol.33(2019年度 環境情報科学研究発表大会)
巻号頁・発行日
pp.247-252, 2019-11-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
8

最初のトキの放鳥から10 年を迎えた現時点での住民のトキに対する認識について,これまでの調査と同様の方法によりアンケート調査を実施し,比較検討を行った。まず,野外でのトキの生息数が増加している中で肯定的な認識が継続されていた。次に,肯定的な認識は,最初の放鳥前後である「2008 年と2009 年」と約6 年および10 年が経過した「2014 年と2019 年」で特徴が分かれていた。この10 年でトキに対して「地域のシンボル」とする認識が確立しつつある中で,農業面での心配は増加していた。現時点では「心配」の段階であるが,「害鳥視」につながらないように,被害の実態等についての調査の蓄積およびその発信が待たれる。
著者
平田 昌弘 板垣 希美 内田 健治 花田 正明 河合 正人
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.175-190, 2013-05-25 (Released:2013-11-25)
参考文献数
28

本研究は,BC1200~BC300年頃に編纂されたVeda文献/Pāli聖典をテキストに用い,古代インドの乳製品を再現・同定し,それらの乳加工技術の起原について推論することを目的とした.再現実験の結果,dadhi/dadhiは酸乳,navanīta/navanīta・nonītaはバター,takra/takkaはバターミルク,ājya/—はバターオイル,āmikṣā/—はカッテージチーズ様の乳製品,vājina/—はホエイと同定された.sarpiṣ/sappihaはバターオイル,sarpirmaṇḍa/sappimaṇḍaはバターオイルからの唯一派生する乳製品として低級脂肪酸と不飽和脂肪酸の含有量が多い液状のバターオイルであると類推された.Veda文献・Pāli聖典は,「kṣīra/khīraからdadhi/dadhiが,dadhi/dadhiからnavanīta/navanītaが,navanīta/navanītaからsarpiṣ/sappiが,sarpiṣ/sappiからsarpirmaṇḍa/sappimaṇḍaが生じる」と説明する.再現実験により示唆されたことは,この一連の加工工程は「生乳を酸乳化し,酸乳をチャーニングしてバターを,バターを加熱することによりバターオイルを加工し,静置することにより低級脂肪酸と不飽和脂肪酸とがより多く含有した液状のバターオイルを分離する」ことである.さらに,ユーラシア大陸の牧畜民の乳加工技術の事例群と比較検討した結果,Veda文献・Pāli聖典に記載された乳加工技術の起原は西アジアであろうことが推論された.

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出版者
さくま書房デザイン資料部
巻号頁・発行日
vol.第〔1〕集, 1957
著者
近藤 達成 浅川 満彦
出版者
北海道獣医師会
雑誌
北海道獣医師会雑誌
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.15-17, 2015-07-10
著者
林崎 浩史
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

アレルギー性気道炎症は炎症細胞が肺組織に集積することで引き起こされる。我々はこれまでに、T細胞の発現するCD69がそのリガンドであるミオシン軽鎖9/12との会合を介し、組織移行を促すことで気道炎症を誘導する事を報告し、この新規気道炎症制御機構をCD69-Myl9システムと命名した。本システムは気道炎症のみならず様々な疾患にも関与することが推測されるが、その詳細は不明であった。本研究により、CD69-Myl9システムの分子機構の一端を、そして病態形成への関与を明らかにすることができた。今後、より詳細に解析を進めることで、CD69-Myl9システムの治療ターゲットとしての可能性を明らかにしたい。
著者
伴 和幸 椎原 春一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.59-64, 2018-09-28 (Released:2018-12-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1 3

ハズバンダリートレーニング(Husbandry Training:HT)は,単に健康管理に役立つだけではなく,研究等を円滑に実施するために利用可能である。HTは行動分析学に基づいており,侵襲性を顕著に低減でき,動物福祉に則していることから,動物園で研究を行っていく上で,その重要性が増している。国内の動物園ではHTが取り入れられてはいるものの,多くの場合一部の担当者,一部の動物種に限定されているのが現状である。大牟田市動物園ではHTを積極的に取り入れており,28種に対して,触診や皮下注射などに対してHTを行っている。そして,これらの技術について,学会発表等を行っている。さらに,HTによって得られた血液と体毛からホルモンを測定し,飼育環境を評価する共同研究を行っている。このようにHTは,動物園らしい,動物園だからこそできる研究を促進する可能性を秘めた技術といえる。一方で,HTに対して,基本的な飼育管理がおざなりになることを危惧する意見もある。HTは手段であって目的ではない。HTによって得られた情報を,研究等に役立てることで,HTが動物園本来の役割を果たすための技術の一つに成り得るだろう。

11 0 0 0 OA 社会科画集

著者
小学新教育研究会 編
出版者
育英出版
巻号頁・発行日
vol.小学初級, 1950
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 渡部 幹 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.2-7, 2016 (Released:2017-09-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1

脳内の主要な免疫細胞であるミクログリアは,さまざまな脳内環境変化に応答して活動性が高まると,炎症性サイトカインやフリーラジカルといった神経傷害因子を産生し,脳内の炎症免疫機構を司っている。ストレスがミクログリアの活動性を変容させるという知見も齧歯類モデルにより明らかになりつつある。近年の死後脳研究や PET を用いた生体脳研究において,さまざまな精神疾患患者の脳内でミクログリアの過剰活性化が報告されている。精神疾患の病態機構にストレスの寄与は大きく,ストレス→ミクログリア活性化→精神病理(こころの病)というパスウェイが想定されるがほとんど解明されていない。 筆者らの研究室では,心理社会的ストレスがミクログリア活動性を介してヒトの心理社会的行動を変容させるという仮説(こころのミクログリア仮説)を提唱し,その解明に向けて,動物とヒトとの知見を繋ぐための双方向性の研究を推進している。健常成人男性においてミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリン内服により,強いストレス下で性格(特に協調性)にもとづく意思決定が変容することを以前報告しており,最近筆者らが行った急性ストレスモデルマウス実験では,海馬ミクログリア由来 TNF-α産生を伴うワーキングメモリー障害が TNF-α阻害薬により軽減させることを見出した。本稿では,こうしたトランスレーショナル研究の一端を紹介する。
著者
河野 秀克
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.447-449, 1982-07-15 (Released:2011-11-04)

日本酒造組合中央会では夏の日本酒キャンベーンに, ザ・タイガースを起用。その狙いはどこにあるのか。また, 後半の冷酒の歴史考証は, セールス担当の方々の常識としても役立つと思う。
著者
堀本 拡伸 高橋 優 久保 俊彦 芦原 俊昭
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.371-376, 2011 (Released:2012-10-03)
参考文献数
2

症例は38歳, 男性. 小学生時から労作時や緊張した時を中心に開始と停止の明瞭な動悸を自覚していたが, 30分程で消失するため放置していた. 2009年4月, 軽労作で呼吸困難感が出現し, 2日後には座位でも自覚するようになったため, 近医を受診. 心電図でwide QRS頻拍を指摘され当科に救急搬送された. 当院到着時の心電図はwide QRSで左脚ブロックパターンを呈しており, 毎分200拍程度の頻拍にもかかわらず症状は軽微で血行動態も保たれていた. アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate; ATP) 急速静注によりR-R間隔が短縮するとともにnarrow QRSに変化し, 続いて一過性完全房室ブロックを経て正常洞調律に回復した. この経過から, 左側副伝導路を有する房室回帰性頻拍が左脚ブロックによりCoumel現象を生じていたと疑われた. 電気生理学的検査により左側壁の副伝導路を認め, カテーテルアブレーションによる離断とともに誘発不能となり根治したことから, 上記診断が裏づけられた. ATP投与によりCoumel現象が確認でき, 頻拍の機序が房室回帰性頻拍であること, かつブロックを生じた脚と同側に副伝導路が存在することを同時に診断でき, その後の検査, 治療に非常に有用であったwide QRS頻拍の1例を経験した.
著者
小山 里奈
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.205-210, 2004-05-31 (Released:2011-10-21)
参考文献数
15

窒素は植物にとっての必須元素の一つであり,大部分の植物は土壌中の無機態窒素を窒素源として利用している。植物が利用している土壌中の無機態窒素には,アンモニア態窒素と硝酸態窒素の二つの形態がある。植物が二つの異なる形態の窒素を吸収した場合,その後の同化過程は大きく異なる。アンモニア態窒素は直接有機態窒素へと同化されるのに対し,硝酸態窒素は酵素の働きによる還元過程を経て有機態窒素へと同化される。硝酸態窒素同化の第一段階は硝酸還元酵素による硝酸態窒素の亜硝酸態窒素への還元であり,この段階が硝酸態窒素同化全体の律速段階となっている。硝酸還元酵素は基質誘導性の酵素であり,この酵素を生成し硝酸態窒素を利用する能力は植物の種によって大きく異なる。硝酸態窒素は土壌粒子に吸着されず,系から流亡しやすいため,植物による硝酸態窒素吸収は系からの窒素流亡を防ぐ役割を果たし,系を構成する種の窒素利用に関する特性は窒素循環においても重要な意味を持つと言える。様々な量の硝酸態窒素を供給する実験:により,1)植物の硝酸還元酵素活性(NRA)は硝酸態窒素の供給量の増加に伴って上昇する,2)植物のNRAはある一定以上の硝酸態窒素の供給を受けると飽和に到達するが,NRAが飽和に至るのに必要な窒素供給量は種によって異なる,3)飽和に到達した時点のNRAの最大値も種によって異なる,ということが明らかにされた。これらの結果は,植物の窒素利用に関する種の特性を表すためには,窒素源としての硝酸態窒素に対する依存性と反応性が重要であることを示している。しかし,実験的に窒素の供給を受けた環境が,自然条件における土壌窒素養分条件と比較してどの程度であるのかを評価した研究は少ない。実験的研究と野外調査との比較を行い,窒素養分条件の変化に対する自然生態系の反応を解明するためにも,実験設定自体の定量的評価が今後の課題の一つであると言える。