著者
小林 紘一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.907-912, 1984-09-15

Adult Respiratory Distress Syndrome (ARDS)の治療成績を向上させるため,その発症のメカニズムや病態についての多くの研究がなされてきた。そのなかで循環動態の面では,重症のARDS患者における肺高血圧症の存在が注目されている。肺動脈圧の上昇が続けば,右心への負荷となり,右心がこの負荷に耐えられるかどうかは患者の予後を決める因子の1つとなっている。肺血管床にはかなりの予備力があるとされているので,肺高血圧症が認められるような症例では肺血管床の傷害も著しいと考えられる。 本稿では重症のARDS患者に認められる肺高血圧症の原因の解明と,肺高血圧の上昇が右心に与える影響について検討した。
著者
清水 義雄 岸口 武寛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1227-1229, 2008-12-15

はじめに 過敏性腸症候群(IBS)の診断基準は,慢性的に腹痛や腹部不快感があり,下痢あるいは便秘などの便通異常を伴い,症状を説明する器質的疾患や生化学的異常が同定されないものと定義されている3)。IBSでは緊張場面での症状出現や予期不安による行動制限がよくみられ,IBSとパニック障害との関連については詳しく報告されている2,9)が,意外なことに社会不安障害(SAD)との関連についての報告は乏しい。今回我々は,IBSの背景にSADの存在が明らかとなり,その治療について示唆に富む症例を経験したので報告する。
著者
佐藤 敦 古屋 貴之 高木 博 小原 賢司 星野 雄志 富田 一誠
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.211-213, 2020-03-01

は じ め に 変形性膝関節症(膝OA)に対する治療として,初期には食事療法,運動療法,薬物療法などの保存的治療が行われるが,それでもなお人工膝関節全置換術(TKA)に代表される手術的治療が必要となる症例も多く増加傾向である.近年,慢性疼痛に対する新規薬剤が導入され,その一つであるデュロキセチンの効果も報告されている.また,慢性疼痛を有する膝OAに対するデュロキセチンの有用性も確立されてきている.しかし,TKA周術期におけるデュロキセチンの効果に関する報告は少ない.そこでわれわれは,慢性疼痛を有する膝OA 11例に対しTKA周術期にデュロキセチンを使用し,その術後鎮痛効果を検討したので文献的考察を加え報告する.
著者
野地 善恵 小原 伸樹 山本 純偉 橋本 学 萩平 哲
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.245-261, 2020-03-01

患者に対して手術中の無記憶や不動を保証するのは,麻酔科医が日常的に行っていることである。しかし,同じことを手術室外の,普段とは異なる環境で実現しようとすると,さまざまな制約に直面する。 今回の症例カンファレンスでは,これまで全身麻酔を行った実績のないCT室におけるドレナージ手術において,術中覚醒の既往のある患者の無記憶を保証したい,という状況でどのような麻酔方法を選択するかについて検討した。 それぞれの施設における環境やルーチン,麻酔科医の経験などによって戦略も変わるだろう。読者自身の施設であればどうするか,よりよい管理方法について考える機会になれば幸いである。
著者
平山 惠造
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.949, 1997-10-01

昏睡comaは意識障害を代表して広義に用いられる場合と,狭義の重い意識障害を指す場合とがある。ここで問題とするのは後者である。昏睡では意識は消失して,外界からの侵害刺激でも覚醒することなく,覚醒・睡眠の調律はなくなり,従って知的活動や情動は全くみられない。随意運動や感覚認知の機能は消失し,外界から加えられた刺激に対する反射は一切認められない。このように人としての「生活」機能すなわち動物機能を喪失した状態が昏睡である。 これに対し「生命」維持機能すなわち植物機能は保持されており,呼吸,心拍,血圧,体温などの自律神経機能は正常に保たれている。なお排尿(便)機能をこれらと同様に扱うのは妥当でない。意識が消失すれば括約筋の随意運動制御はできなくなり,自律神経機能が正常であっても,失禁するからである。
著者
鈴木 千賀志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1713-1718, 1965-12-20

Ⅰ.肺化膿症 肺膿瘍は,ブドウ球菌,連鎖状球菌,肺炎球菌,フリードレンデル肺炎桿菌などによつておこり,こわれた肺組織,滲出液,多核白血球,リンパ球,大単核細胞およびこれらの残骸から成る単純な膿瘍であり(非腐敗型),肺壊疽は,肺組織がこわれて液状壊死に陥つたもので,主として紡錘桿菌,スピロヘータなど口腔内に常在する腐敗菌の混合感染によつておこり,喀痰は悪臭を放ち,放置すると数層に分離すること(腐敗型)が特長とされた。これらの発生経路は,直達性や血行性感染のものもあるが,口腔または鼻腔内細菌の吸引による気管支の栓塞,閉塞および肺感染による壊死によつておこるものが多く,かつこれら両者の区別が明らかでない場合が多いので,今日では「肺化膿症」の総称名で呼ばれるようになつた.

1 0 0 0 OA 編集後記

著者
鈴木 明子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.553, 1977-07-15

今回は,訪問指導や通園施設での理学療法士と作業療法士の体験を特集にした.病院からの延長線としてアフターケアをしている場合や親しくチームを組んで実際に在宅患者へサービスする場合も,また通園施設で働らくのもみんな「地域での医療サービス」という形に入れられる.数知れぬ受療対象者が,こちらの活動開始を待っている時代ともいえる. 高田氏は,体制づくりの重要さを指摘し,石井氏は,新しい姿をもたなければならない事態に対面し,率直に模索する気持を表わしている.大峯氏・他による家屋改造の写真もよいヒントとなったし,大村氏も新しい形の接し方を記している.宮崎氏・他は,実験的とも呼べる方法で活動する中から,協力体制づくりで幅広く,着実な仕事をし,報告してある.
著者
杉田 大輔 宮崎 剛 彌山 峰史 小久保 安朗 内田 研造 馬場 久敏
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1160-1163, 2011-10-01

過去10年間に観血的治療を施行したピロン骨折17症例(平均年齢49.4歳、男性14例、女性3例)の治療成績を検討した。受傷機転は転落・転倒が9例、交通事故4例、側方からの重量物による圧挫損傷が2例、スポーツ外傷が2例であった。術前の軟部組織の評価では、Tscherne分類のgrade 0~1が9例、grade 2が3例、grade 3が2例であった。手術はプレートあるいはスクリューを単独または併用した観血的骨接合術を施行し、平均経過観察期間は3.8年であった。OvadiaのX線学的評価ではgood11例、fair5例、poor1例、主観的評価ではexcellentもしくはgood11例、fair4例、poor2例、客観的評価ではexcellentもしくはgood10例、fair4例、poor3例であった。合併症は感染2例、骨癒合不全5例であった。

1 0 0 0 ドライアイ

著者
福井 正樹 坪田 一男
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.733-738, 2012-09-20

Ⅰ はじめに 現在,日本には800万人あるいは最近では2,200万人,もしくはそれ以上のドライアイ患者がいるとの報告がある。ドライアイ患者が増えている理由の一つにはドライアイの世間への認知が高まり,受診が増えたり,診断が増えたりしているためと思われる。 また,ドライアイは1995年にドライアイ研究会から定義と診断基準が作成され1),その後2006年に「さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義の改定が行われた2)。ドライアイは症候群であり,その原因疾患が非常に多岐にわたるとともに環境の変化に伴い,ドライアイ人口も変化していると考えられる。 ドライアイの現状を踏まえつつ,現在までに解明されているドライアイの病態,診断のポイント,最新治療について示させていただく。
著者
渡辺 圭介 垂水 千早 小野 雅史 幸田 衞 植木 宏明
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.254-256, 1998-03-01

43歳,女性.13年前に粘血水様便を初発とする大腸クローン病と診断され,サラゾピリンで加療されていた.寛解増悪を繰り返すうち8年後に蝶形紅斑を初発とする全身性エリテマトーデス(以下SLE)を発症した1例を経験した.SLEは典型的で溶血性貧血,腎症および抗リン脂質抗体陽性を伴い重症と考えられた.クローン病とSLEの合併例としての報告は稀であるが,両者ともに多彩な免疫異常を示し,また全身症状を伴うクローン病にSLEの診断基準をいくつか満たしている報告も散見される.両疾患の関連について若干の文献的考察を行った.
著者
水野 直樹 佐々木 康夫 中島 敏光 東倉 萃 岡 義春
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1049-1051, 1996-09-25

抄録:分娩時の生理的恥骨結合離開は10mm以上の離開をきたすことは稀である.われわれは,吸引分娩により40mmの恥骨結合離開をきたし,保存的治療では改善しなかった症例に対して,創外固定を行い良好な結果を得たので報告する.症例は40歳(妊娠5,出産2),37週0日,胎位は第2前方後頭位,吸引分娩にて4574gの女児を出産した.出産後より恥骨付近の疼痛が著明で,腰を動かせず,体交も困難.理学的所見では股関節屈曲困難で,恥骨結合上に圧痛があった.単純X線写真にて40mm恥骨結合離開が認められ,CTでは,恥骨結合左側に小骨片が認められた.同日よりキャンバス牽引を開始し,10日目には離開13mmと改善傾向がみられたが,牽引部分の皮膚に水疱形成が認められたため,11日目に牽引を中止した.16日目には離開が25mmと再度拡大したため,保存的治療ではこれ以上は無理と判断し,受傷から22日目にAce創外固定器にて整復固定術を施行し,離開は6mmと改善した.

1 0 0 0 OA 編集後記

著者
鈴木 明子
出版者
医学書院
雑誌
理学療法と作業療法 (ISSN:03869849)
巻号頁・発行日
vol.10, no.11, pp.892, 1976-11-15

わが国のPT・OTの歴史について特集号を組んだ.これ迄にいろいろな立場の方が,この2職種の誕生について「外来の血が混っている」とか「純枠に日本製である」とか主張されていた.前者の場合には明治20年代の軍医の橋本乗晃によって医療マッサージが,明治34年呉秀三がドイツ留学から帰国して手や足革を取り除いて裁縫などをさせることで移入したのが始まりのようである.そのまま大正を過ぎ第二次大戦終戦後,昭和24年に小池文英先生,また水野祥太郎先生が海外に出られて欧米の身体障害音のリハビリテーションを視察され,より広義の治療理念と技術を日本で発達させる努力をなさった.昭和38年に清瀬の地に養成校を建て厚生省は外人講師で教育を始めた. 後者の場合には11世紀に京都岩倉村の大雲寺へ皇女の奇行を治すために送り,観世音に祈ることで病気を治すことができ,以来時の権力者(皇族,武士,富裕な町人など)の親族が岩倉村にいき,住民の家の離れに分散して住みながら大雲寺で祈ったり,水ごおりをとったという. (鈴木明子)
著者
秋田 怜香 秋山 知子 三村 將
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.629-638, 2017-06-01

ソマトパラフレニア(SP)は典型的には右半球損傷後の左麻痺に合併し,麻痺肢を別の人のものや別の生き物などに失認する病態のことを指す。比較的広範な病変で出現することが多いため責任巣には諸説あり,文献をもとに解説する。そしてSPとその類縁病態の自験例を3例紹介する。典型例,SPが内臓感覚にまで波及した例,SPが併存する精神疾患に取り込まれ複雑怪奇な幻覚妄想に発展した例をとおし,脳損傷後の身体自己所属感変容に対する理解を深める。
著者
野口 緑
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.903-909, 2017-11-10

受療行動促進モデルによる保健指導プログラムの内容と展開におけるポイントを解説する。また,自治体における効果検証として,医療機関への累積受療率を分析するとともに,本モデルの促進条件および阻害条件に関する介入自治体の保健師へのフォーカス・グループ・インタビューの結果を紹介する。
著者
青木 眞
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.1939, 2010-11-10

本書は『感染症外来の帰還』と文学的なタイトルがついているが,優れた内科・小児科領域の感染症に関する外来診療マニュアルである. 自分が80年代前半に渡米し,内科専門のプログラムでインターンとして働き始めたとき,仲間が「メドゥピーズ」(英語でMed-Pedsと書く)という聞き慣れないプログラムの研修医であると聞いた.Med-Pedsとは,内科と小児科の両者の訓練を受け,2つの領域の専門医資格を4年間で取得するというプログラムである.都市部における外来診療の核となるべき2つの専門性を一度に短期間で取得できるということで,特に将来開業をめざす医師たちに人気が高い競争の激しいプログラムであった.内科と小児科,両専門領域の感染症をカバーする本書も外来の実態に即した,現場のニードにマッチした本である.
著者
倉田 義之 髙松 純樹
出版者
医学書院
雑誌
medicina (ISSN:00257699)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.874-877, 2003-05-10

ポイント ・特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と血友病で,止血対応は全く異なる. ・ITPの出血で出血斑が散在する程度では,治療を開始しない.鼻出血や口腔内血腫など粘膜出血出現時には,治療を開始する. ・止血は局所の圧迫が基本.下血など重篤な出血時には,血小板輸血,ガンマグロブリン大量療法も必要. ・血友病での出血時は,欠乏している因子の補充が原則.出血の部位により必要血中レベルは異なる. ・凝固因子に対する抗体が生じているインヒビター症例は,速やかに血友病専門医への紹介が必要.
著者
今井 由美子 久場 敬司
出版者
医学書院
雑誌
呼吸と循環 (ISSN:04523458)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.650-655, 2013-07-15

はじめに 急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)は,敗血症,胃液の誤嚥,多発外傷,ウイルス感染症など多様な要因によって引き起こされるが,その病態は,好中球,マクロファージなどの炎症細胞の浸潤,びまん性肺胞損傷(diffuse alveolar damage;DAD),サイトカインの過剰産生,肺血管透過性の亢進による肺浮腫に特徴づけられる1).ARDSの定義は,従来は1994年の北米・ヨーロッパARDSコンセンサス会議(American-European Consensus Conference on ARDS;AECC)で提唱されたものが使われていたが2),2012年に同AECC定義の見直しが行われ,ベルリン定義(Berlin Definition)として発表された3).ベルリン定義では,重症度に関して,酸素化を指標に,“軽症”(200mmHg<PaO2/FIO2≤300mmHg),“中等症”(100mmHg<PaO2/FIO2≤200mmHg),“重症”(PaO2/FIO2≤100mmHg)に分類している.さらに“重症”ARDSの定義には,胸部X線所見の重症度,呼吸機能(コンプライアンス≤40ml/cmH2O),ならびに呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure ≥10cmH2O)や補正分時呼気量(corrected expired volume per minute(≥10l/min)といった患者の生命維持に必要となる人工呼吸の換気パラメーターの設定が含まれている.meta-analysisではこの重症度分類は生命予後と良く相関することが示されている.これまでARDSの治療薬の開発を目指して精力的な研究がなされてきたにもかかわらず,現在のところ重症ARDSの生命予後の改善に繋がる有効な治療薬はなく,重症ARDSの救命は困難を極めている. 新型肺炎(SARS),H5N1鳥インフルエンザをはじめとした重症新興呼吸器ウイルス感染症は,ヒトに重症ARDSや多臓器不全をはじめとした非常に重篤な疾患を引き起こす.特にH5N1鳥インフルエンザのヒトでの死亡率は60%にも及び,主要な死因はARDSである4).また2003年に発生したSARSでは半年の間に8,000人が感染し,うち800人が死亡したが,死因の大部分はARDSによるものであった5).このようなウイルス感染症はいったん重症化するとワクチンや抗ウイルス薬はもはや無効となり,有効な治療法がない.現在ウイルス感染で引き起こされる重症ARDSの病態の解明,治療法の開発が重要な課題となっている.ウイルスの増殖には宿主因子が不可欠であるが,ウイルスが侵入した宿主細胞では,様々なウイルス・宿主相互作用が引き起こされる.ウイルス感染に対して宿主細胞ではインターフェロンによる抗ウイルス応答をはじめとした自然免疫が誘導されるが,一方で自然免疫の過剰な応答は肺組織の過剰炎症を引き起こし,ARDSの重症化に繋がる.私達はこれまで,マウスARDSモデル用いてウイルス性のARDS,非ウイルス性のARDSに共通して関与している分子病態として,ダメージ関連分子パターン(damage associated molecular patterns;DAMPs),レニン・アンジオテンシン系,ならびにケモカインCXCL10とその受容体CXCR3の役割について報告してきたので,これらの研究成果を中心に最近のARDS研究について述べたい.
著者
尾身 茂
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.338-341, 2008-05-15

平成20年2月29日に開催された「与党(自民党・公明党)鳥由来新型インフルエンザ対策に関するプロジェクトチーム」に招かれて講演をする機会を頂いた.このため,今回は「健康と文明」のテーマを中断し,この内容について述べよう. まず,パンデミックの危険性に対するWHOの状況分析について述べた.
著者
岩田 健太郎
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.74, no.8, pp.652-657, 2010-08-15

2009年からのパンデミックインフルエンザ(H1N1)対策について,他国との関連性,という観点から検証することを編集部から求められたので,そうしてみる.と言っても世界中で流行したインフルエンザのすべての国の対策を網羅し,これを日本のそれと比較するのは筆者の力量では到底不可能だし,またその意義も小さい. そこで,本稿の目的は日本を外からのまなざしで見つめ直すこと,としたい.日本における新型インフルエンザ対策はどこまで妥当だったのか,検証する.その目的に照らし合わせる.内部から内部を検証するのは容易ではない.検証には通常「他者の目」を必要とする.他者の眼差しが,我のあり方に有用な,参考になる見解を与えてくれるのである.透徹した厳しい眼差しを与えてくれる.自己が自己を見る目は「甘ったれた目」なのである.