著者
吉永 安俊 酒井 一人 仲村渠 将 赤嶺 光
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ウッドチップを充填した浸透トレンチによる赤土流出防止対策を開発した.実験期間中の降雨条件下において圃場外への赤土流出量は70%以上削減され,高い対策効果が認められた.試験地の土壌条件下において浸透トレンチの貯水は速やかに地下浸透するため,浸透トレンチの貯水は作物栽培に影響しないと考えられた.浸透トレンチの維持管理や営農作業を考慮すると,圃場の末端部のみに大容量で設置する方がよいと考えられた.
著者
中野 和典 西村 修 野村 宗弘
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

水圏生態系への影響が懸念される道路・市街地・農地等からの表面流出水のパッシブトリートメントに有効なろ材としてハイドロタルサイトを見出した。次いで水環境での残留性が懸念されるペルフルオロオクタンスルホン酸の吸着特性を明らかにした。さら滋賀県草津市のファーストフラッシュ浄化施設の人工湿地ユニットを利用した実証実験により、本研究で提案するパッシブトリートメントの有効性を確認することができた。
著者
原 研二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究においては,19世紀オーストリアの主要な小説の分析を通じて,この時期のオーストリア小説に描かれた個人が,はじめから安定した単位ではなく,むしろつねに不安を抱え込んでいたものであることが明らかにされた。シールズフィールドから,グリルパルツァー,シュティフタ-,アンツェングルーバー,エーブナ-=エッシェンバッハ,そしてさらに世紀転換期の作家の作品に至るまで,繰り返し人間の自我が実体を欠いている様子と,その欠落を暴力的に埋めようとする文学的な試みが行われたことが明らかにされた。これは特殊オーストリア的な問題として理解されるだけではなく,ゲーテ以来の近代ドイツ小説の展開それ自体と密接な関係を持つ問題である。特に,従来正当な評価を受けることのなかったシールズフィールドとエーブナ-=エッシェンバッハについて詳細な検討を試み,彼らの作品を抜きにして,近代オーストリア小説,またドイツ小説の歴史の正当な評価があり得ないことを論証した。成果の一部は,日本独文学会において口頭で発表され,日本語の論文としてまとめられただけではなく,海外の研究者との交流の便を考えドイツ語の二編の論文にまとめられた。世紀転換期にマッハによって端的に指摘されのちの近代オーストリア小説のきわめて重要な課題となる「救いがたい自我」の問題が,19世紀においてすでにきわめて変化に富んだかたちで顕在化したことが,これらの論文で明らかにされている。さらに今後,こうした成果に基づき,今世紀の前半に至る近代ドイツ小説の流れが,新しい視点から書き直されることが期待される。
著者
花村 周寛
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究で実施した海外調査事例を整理し、そこから都市の形成と個人の嗜好性についての関連を整理するとともに、大阪大学コミュニケーションデザイン・センターが、大阪の中心地中之島で実施した中之島コミュニケーションカフェについて、参与観察を行った。同時に調査で訪れた都市を比較考察している。ラスベガスのように、資本主義経済が発展していく段階で形成された都市が未だに都市景観の骨格がマクロな構造に支配されているのに比べて、サンタクルーズなどで見られるように物語復興として個人同士の対話をベースに町づくりが進められた事例や、ミュンスター、カッセル、ヴェネチアなどでもアートを媒介にした町づくりが見られるが、個人的な表現や個人同士の対話が都市を形成している事例が今後大阪で展開される事は追って調査する必要があることが明らかになった。アメリカや日本、欧州で多く見られるように既に都市の成熟期に入っている地域ではそうした個人の表現行為や対話が有効化し得るかもしれないことが明らかになってきたが、一方でアジアを中心にしたまだ開発途上の都市では国家レベルで行われる都市開発が多く見られ、その結果が都市景観の形成についてどのような影響を及ぼすのかということは、グローバルとローカルのスタンダードを探る本研究においては重要な視点であり、アジアの都市開発事例を現地調査し、その結果を研究成果に反映させるべく整理中である。
著者
上原 清子
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

脾洞内皮細胞の血球通過機構を解明する一環として、内皮細胞の微細構造を透過型電子顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、computerを用いて調べ、脾洞内皮の収縮機構を微細構造学的に検討した。脾洞内皮細胞の細胞間結合と透過性について、freeze fracture法、細胞質抽出法、細胞間標識tracer法を用いて透過型電子顕微鏡で調べた。細胞基底側にtight junctionが観察された。それらは不連続でreplica上でtight junctionのstrandsは数も少なく、頂部-基底方向に走り、閉鎖していなかった。トレーサーの硝酸ランタンは電子密度の高い物質として細胞間隙やtight junctionを通過した部位に観察される。脾洞内皮細胞間ではtight junctionのある膜の癒合部以外はどこの細胞間隙にも存在していた。脾洞内皮でのtight junctionのfence機能、gate機能は弱いと考えられた。脾洞内皮細胞内の開放小管系の存在を細胞外標識tracer法用いた微細構造の観察とその結果をcomputerで3次元的に証明した。これまで開放小管系は血小板にしか存在の報告がない。tracerを用いて内皮細胞内に見られる小胞系のあるものは細胞膜から連続した細い開放小管系であることを証明した。また、computerで3次元的解析を行い、開放小管系が細胞内を分岐吻合しながらnetworkを作り、stress fiberやキャベオラに密接して走っていることが解った。内皮細胞には数多くのcaveolaeが存在する。caveolaeを構成するcaveolinにはcaveolin-1,-2,-3があり、このうちcaveolin-3は筋に特異的に発現する事が解っている。脾洞内皮細胞にcaveolin-3が存在することを共焦点レーザー顕微鏡と免疫電子顕微鏡法を用いて明らかにした。caveolin-3は細胞質の頂部、側部、底部いづれにも観察された。細胞質内の小胞様の構造にも反応が見られた。
著者
香川 明男 大貝 猛 水本 将之
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

積層造形法は当初プラスチックなどの成形用金型の模型を作製する迅速模型作製法(Rapid Prototyping)として幅広く研究されてきたが,近年,機械部品などの製品そのもののニアネットシェイプ製造法として脚光を浴びて来ている.RP技術の一つである溶融紡糸堆積(Fused Spinning Deposition)法は,プラスチックを対象とした技術として研究されてきたが,本研究課題は金属製品そのものの製造法としての応用を目指したものである.研究代表者らは1995年に米国,ドイツとほぼ機を同じくして積層造形法による金属製品の製造技術に関する研究をスタートさせ,本研究課題の基礎となる溶融紡糸堆積(FSD)法を用いてアルミニウム合金と銅合金の円筒,角筒,板,棒などの基本形状ならびにそれらの組み合わせ形状について,形状制御パラメータのデータベース化を進めてきた.本究課題では材料と形状の適用範囲の拡大を図るために,以下の3点の改良を加えた装置の試作を行った.1.基板駆動部を回転とX-Y-Zの3軸駆動を一体化したものに改良する.2.合金溶解部に予備溶解用高周波コイルと溶湯搬送システムを組込むことにより連続溶解ができるように改良する.3.溶湯流出部を2ノズルとし,異材複合構造体にも適用範囲を広げる.これらをもとにマルチノズルを用いた場合の金属部品の製造パラメータを整理し,より大型の金属部品製造へのFSD法の応用展開を図ることを目指した.得られた結果から,FSD法による精密かつ大型の金属部品の製作のために必要な試作機の開発および種々の合金系における積層条件に関する基礎的知見を十分に得ることができた.
著者
中村 亮一
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では安全で高度な内視鏡下胎児手術をサポートするシステムとして、低侵襲性の向上と術具機能の確保を両立させるために、腹腔内で先端部が変形することで内視鏡手術用デバイスとしての機能を持つエンドエフェクタ「変形駆動」機能を開発し,挿入時φ8mmから体内でφ14mmに大型化する把持鉗子を開発した.また3次元超音波画像診断装置と手術ナビゲーションを用いて、手術ナビゲーションとしての術野情報・術具位置姿勢提示機能のみならず、子宮内組織と術具との距離(接近度)を術者に提示する「近接覚」提示機能を備えたリアルタイム3D超音波ナビゲーションを開発した.
著者
大町 真一郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

テンプレートマッチング法による幾何学的変形を受けた画像の高速な探索を実現することを目的とし、画像を多項式で近似し、指定された位置とアスペクト比の部分画像のみを対象とすることで高速な探索を実現できる手法を開発した。また、本研究課題の応用として、実時間で画像を取得しながら物体を探索するシステムを構築した。具体的には高度道路交通システムへの応用を想定し、交通信号の自動検出および識別のためのシステムを構築した。
著者
影山 裕二
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ショウジョウバエpolished rice(pri)遺伝子がコードしている、11 および 32 アミノ酸のごく短いペプチド(PRI ペプチド)は、細胞外に分泌されない新しいタイプの活性ペプチドと考えられている。PRI ペプチドの作用機構を明らかにするため、遺伝的相互作用を示す遺伝子を探索したところ、転写因子をコードするshavenbaby(svb)遺伝子が同定された。SVB タンパク質は上皮細胞の形態形成を制御するマスター因子であるが、PRI ペプチド存在下では SVB タンパク質の活性化が起こることが明らかになった。
著者
影山 康徳
出版者
浜松大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

関節リウマチ(RA)の病像の首座は関節滑膜にあることから、RAの治療において滑膜切除術が行われている。今回、人体への侵襲が比較的少ない治療法である光線力学療法(フォトダイナミックセラピー)(PDT)をRA患者の滑膜切除へ応用することを目指して基礎研究を行った。PDTを行う際の光感受性物質としてATX-S10(Na)、フォトフリン、5-aminolevurinic acid(5-ALA)を使用し、RA培養滑膜細胞にPDTを行ったところ、すべての光感受性物質においてPDT効果を認めた。RAの動物モデルであるマウスII型コラーゲン関節炎モデルにおいて、フォトフリン、5-ALAを投与した後、2~3時間で関節に405 nmのレーザー光を照射し、蛍光を測定した結果、関節組織に蛍光は見られたものの、関節炎を発症した部位と発症していない部位における蛍光強度に明らかな差が見られなかった。従って前述の光感受性物質の使用における動物実験では、PDTを滑膜切除に応用するにはまだ解決すべき問題点があると考えられた。
著者
岩間 和人 柏木 純一 VISSER Richard
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

バレイショは他の畑作物に比べて根量が少なく、また根の伸長深さも浅いため、土壌乾燥害に弱い。本研究では根量に関係する量的形質遺伝子座(QTL)をオランダから導入した遺伝子マップ集団(2倍体)で調査し、根量に密接に影響するQTLを染色体5番上部に検出した。根量は早晩性や塊茎の早期肥大性と高い負の表現型相関を示し、両形質のQTLもほぼ同位置に検出された。
著者
山田 豊和
出版者
千葉大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

今日の情報社会を支えているのは、ナノスケールの微小な磁石である。我々の身の回りのパソコンをはじめ、情報の記憶・書き込み・読み込みは、磁石のN極S極の向きを利用している。磁石の向きを読み取るために、磁気ヘッドを使う。磁気ヘッドは、2つの小さな磁石の間に金属などの無機物は挟んだものである。ひとつの磁石の向きは常に固定であり、他方は検出する磁石の向きにより、その方向を変える。この2つの磁石の間に電流を流しておくと、2つの磁石の向きが平行な場合電流は多く流れ、反平行では減少する。この効果は巨大磁気抵抗(GMR)効果と呼ばれる。これまで、磁気ヘッドは無機物で作られてきた。これに代わる新たな物質として有機物がある。我々は、インクなどの色素分子として広く普及・使用されてきているフタロシアニン分子を2つの小さな磁石の間にいれ、さらに単一分子を使用することで1ナノメートル(十億分の1メートル)の大きさのGMRヘッドを作成した。有機分子と磁石との電子スピン相関の解明を、スピン偏極走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて行った。平成22年度は、コバルトナノ磁石の上につけた単一フタロシアニン分子(H2Pc)に、STM磁性探針(Co薄膜をコートしたW探針)を接触させ、この2つのコバルト磁石の向きが平行な場合と、反平行な場合の電子伝導測定を行ったところ、60%のGMR比を得た。有機分子の無い場合に比べて、1ケタ大きい値であった。有機分子を利用することで、無機物には無い新たな特性の発現を確認した。研究と並行して、ドイツ・カールスルー工大学から千葉大学へのSTM装置の移動を完了した。鉄ウィスカ単結晶上のマンガン膜を新たな基板として使用する。これを用いることで、弱い外磁場で容易に磁化方向を反転できる。外磁場印加のためのコイル系の設置、また磁性探針の向きを制御するための回転機構の取り付け・改造を行った。
著者
泉田 洋一 立川 雅司 加古 敏之 新山 陽子 青柳 斉 生源寺 眞一 茂野 隆一 坂下 明彦 川手 督也 荒幡 克己
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、日本の農業・農村経済学の成果を個別関連学会の活動成果総体として分析すると同時に、共通課題を抽出して、その方向性を見極めんとするものである。具体的には14の農業経済関連学会の成果を時系列的に分析し、共通課題の抽出にあたっては、各学会の学会誌掲載論文の形態分析、会員へのアンケート調査に加えて、国際農業経済学会、韓国、台湾、中国の農業経済学会の動向についても詳細な分析を行った。成果は拡大しているものの国際化や情報化への対応等における課題が浮き彫りになっており、関連学会間の相互補完(複合結合)が必要となる。
著者
高橋 英也
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、魚類では不明のミネラルコルチコ千ド系の役割を、遺伝子変異メダカを用いて明らかにすることを目的としている。昨年度は、Targeting Induced Local Lesions In Genomes(TILLING)法によりミネラルコルチコイド受容体(MR)遭伝子を人為的に破壊したメダカの作製を試みた。MR-遺伝子の変異スクリーニング結果では、リガンド結合領域をゴードする第4エクソン上に3種のアミノ酸置換を生じるミスセンス変異(754番目のロイシンがプロリン(P754)、767番目のスレオニンがアラニン(A767)、770番目のアスパラギン酸がグルタミン酸(E770))が同定された。本年度は、同定されたこれら受容体の転写活性をレポーター遺伝子アッセイ法により解析した。コルチゾルや11-デオキシコルチコステロンなどの副腎皮質ホルモンに対して、A767は野生型と同程度の転写活性を有していたが、P754は野生型より強い転写活性を示した。一方、E770はいずれの副腎皮質ホルモンに対しても転写活性を喪失していた。以上より、リガンド結合機能が喪失した変異体の作出に成功した。また、MRはメダカでは中脳視蓋や小脳顆粒層に多く存在していることから、胚期のメダカの行動をモニターする装置を開発した。胚期のメダカが1時間あたり数回動くことを確認している。この装置を用いて、E770の行動を解析する予定である。
著者
石井 直人 佐々木 裕里子
出版者
白百合女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、冨田博之氏(1922-1994)が収集した日本の児童演劇・演劇教育に関する膨大な文書資料(データ件数7,837件)および新聞記事(データ件数12,317件)を整理した。これらの資料は、児童文化史の変遷を調査する一次資料として広く研究に役立てられることが期待される。データベースの作成、資料の再分類により、コレクションの全体像を明らかにし、その歴史的価値を再確認することができた。
著者
中村 正人
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題は、儒教思想に由来する清律の刑罰減免制度を考察対象に取り上げ、主として清代の刑案(判例)史料を用いた実証的研究を通じて、当時の法実務家官僚達が、儒教的な「衿恤の意」を実現しようとする法の理念と、社会の治安維持という現実の要請との間で、如何にして折り合いをつけていたかを解明し、その対応の時代的変遷のパターンを他の王朝のそれと比較検討することによって、清朝法制度の特質の一端を明らかにすることを目的としている。本研究では、主として「誤殺」と「自首」を対象に選び、条例や判例によって制度の変遷過程について考察を行った。その結果、「誤殺」については、特に親族関係の存在を認識できずに犯行に及んだ「犯時不知」の場合において、親族関係の錯誤に関して広く刑の軽減を認めていた清朝初期の状況が、乾隆朝を境として次第に刑の軽減範囲が狭められ、嘉慶24年以降には極めて限定的な場面においてのみしか減刑が認められなくなって行ったことが明らかとなった。また「自首」に関しても、主として強盗犯の自首において、それ以前は強盗犯の自首についても広:く減免が行われていたものが、次第に自首が認められなくなる、あるいは認められたとしても刑の軽減の度合いが低下する等、やはり同様に乾隆朝辺りを境として犯人にとって不利益な方向での変更が行われていたことが明らかとなった。これはかつて「留養」制度に関して筆者が明らかにしたのと同様のパターンであり、この乾隆朝を境とした厳罰化というのが清朝の法制度上の特質として浮かび上がってきた。
著者
大平 祐一
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

従来の研究によれば、近世の糺問主義のもとでの刑事裁判では、奉行所で無罪を宣告するのは奉行の恥辱であるので、そうならぬよう奉行所の裁判にかける前に下吟味においてふるいにかけ、有罪と思料されるものだけを奉行所に送った。そして、一たん奉行所で裁判をすることになると、そこでは「吟味詰の口書」をとること、即ち、有罪宣告のための供述調書をとることが終局目標とされ、そのため自白が執拗に追求された。即ち、有罪確保をめざして徳川幕府の刑事裁判は進行していった、といっても過言ではない。しかし、この見解からは「無罪」の姿が浮かび上がってこない。糺問主義の刑事裁判では裁判役所での事実認定は有罪の事実認定だけが追求されたのであろうか。「無罪」の事実認定はなされなかったのであろうか。本研究では、こうした問題関心のもとに、江戸幕府刑事裁判における「無罪」に焦点をあて、近世(江戸時代)前半期の長崎奉行所の裁判では奉行所での審理(吟味)の結果、「無罪」を申し渡した事例が多かったことを明らかにした。特に注目すべきことは、奉行所での審理の結果、犯罪の事実は認定されなかったという事例が極めて多かったことである。「犯罪事実が存在しなかった」、「罪を犯す意思がなかった」などの理由で「無罪」を申し渡された事例が少なくなかった。その背景には、捜査と公判の手続が未分離であったこと、下吟味でのスクーリングがゆるやかであったことが想定される。近世の糺問主義手続のもとでの刑事裁判において「無罪」判決が多数みられ、しかも、そこには、一たん奉行所で審理を開始したからには何としても有罪にもちこむ、といった有罪確保へのこだわりが見られなかったということは、従来の有罪確保主義的な刑事裁判像に修正を迫ることになろう。また、有罪確保主義を江戸時代からの伝統と見る精密司法論に対しても問題を投げかけることになろう。
著者
渡辺 〓修
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

我が国では、犯罪現象と人権意識の変化にもかかわらず、「自白をとるか、とられないか」という次元での争いが、捜査から公判そして学界における主たる関心になっている。刑事手続における「55年体制」的思考である。本研究は、刑事手続のかかる運用と理論を克服し、新たな犯罪情勢に対応する捜査権限のあり方、起訴の基準、公判手続のありかた、有罪・無罪の認定基準、そして、これらに対応した被疑者・被告人の防御権の充実を模索することを目的として行った。その結果、次の点について研究をまとめることができた。(1)違法収集証拠排除法則の適用のありかた。(2)外国人被告人事件の公判廷の運用開演。(3)聴覚障害者事件と刑事裁率の限界を明確にすること。(4)事実認定の適正化。(5)検察官上訴権の制限による刑事裁判の全体としての適正化。
著者
泉水 文雄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

市場支配的事業者規制、とりわけ私的独占、それに至らない不公正な取引方法、優越的地位の濫用に対する規制について解釈論、課徴金導入に関係する立法論を提言した。また市場支配的事業者を形成、強化等するおそれのある企業結合規制の分析方法、ネットワークに関係する市場における競争上の規制の比較法研究の成果を公表した。さらに、モバイル市場の競争のあり方等の事業法と競争法の交錯について研究成果を公表した。
著者
阿閉 義一 高山 進 河崎 道夫 渡辺 守 新居 淳二 田中 晶善
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

【1】インターネットスクール「三重仮想大学:http://www-press.hep.phen.mie-u.ac.jp/mievu」の開設(1)インターネットスクールで開講している講座・中学生向けの「自然と人間」…………………………………………………同/shizen/index.html・大学生向けの「宇宙・地球の誕生と自然の構造」……………………………同/uchuu/index.html・市民向けの「量子と宇宙」……………………………………同/ryoushiuchuu/index.html・市民向けの「量子と波」…………………………………………同/ryoushinami/index.html・市民向けの「量子・宇宙・ひも」……………………………………………………同/qus/index.html・大学生および院生向けの「あべちゃんの物理学講座」…………同/ryoushiuchuu/index.html・大学院生向けの「Introduction to High Energy Physics」………………同/ryoushiuchuu/index.html・研究者向けの「Topics on High Energy Physics」…………………………同/topics/index.html・研究会報告「非摂動論的弦模型と世代構造」…………………………………………………同/research01/index.html(2)インターネットスクールにおける「動画:同/movie/index.html」の放映・芦原すなお講演「小説とぼく」…………………………………………………1997年の三重大学学術文化祭から・共通教育シンポジウム「新しい教養教育を考える」…………………………1997年の三重大学学術文化祭から・1997年の三重大学生物資源学部公開講座…………………………林拙郎講演「三重の水と森林」他9つの映像・2000年度三重大学総合科目「宇宙・地球の誕生と自然の構造」で実施した6イベント中の3映像【2】高等・中等教育における教育実践研究(1)毎年度(1998〜2000年度)三重大学共通教育総合科目「宇宙・地球の誕生と自然の構造」を開講(2)2001年2月に三重大学教育学部附属中学校1年「総合的な学習」の時間に「自然と人間」を開講(3)1998年8月に3日間の「高校生のインターネット講座」を開講(4)1999年8月および2000年8月にそれぞれ3日間の「中学生のインターネット講座」を開講