著者
飯野 雄一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、線虫C.elegansを用い、性行動に関する突然変異体を分離することを目的とした。性行動は霊長類以外の多くの生物においては生後の学習を必要とせず、完全に遺伝的にプログラムされたものである。ところが、各種生物における性行動の記述は比較的よくなされているものの、その行動がいかにプログラムされているかという遺伝子レベルでの研究は非常に少ない。そこで、性行動の分子遺伝学的研究の第一歩として、線虫においてオスの性行動に異常のある突然変異体の分離を行った。オスが高頻度で出現するhim-5変異と、精子の注入に伴い雌雄同体の陰門に盛り上がり(プラグ)を生じるplg-1変異を持つ二重変異体に変異原処理を施し、プラグの形成を指標としてスクリーニングを行った。この結果、精子の注入に至らない突然変異体を39株分離した。線虫のオスの性行動は大まかにresponse to contact,turning,vulva location,spicule insertionの4つのステップから成るが、得られた変異体の中にはresponse to contactに異常があるものが14株、turningの異常が23株、vulva locationの異常が5株含まれていた。ただし、複数のステップに異常がある変異体も含まれている。また、これらの性行動不能変異体のうちの20株は、性行動に特に重要である尾部の形態に異常が見られた。オスの尾部にはSensory rayと呼ばれる感覚器官が左右9対存在するが、見られた異常の多くはSensory rayの融合、欠失などであった。また、精子の注入に重要な交尾針(spicule)の伸縮に欠陥があると思われる変異体も6株見出された。また、明らかな形態上の異常が見られない変異体の中の11株は蛍光色素DiOによる染色の結果、感覚神経の異常が明らかとなった。これらの突然変異体はオス特異的な構造、特に感器官の発生、分化に関わる遺伝子に変異を持つものと考えられる。本研究により、このような性分化に関わる遺伝子カスケードを明らかにするための端緒が得られた。
著者
野原 精一 広木 幹也
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

水循環機能と微生物の分解機能からモニタリングを行い、自然の干潟・湿地である盤洲干潟・小櫃川河口湿地の比較し、事業規模でより現実的な自然再生の事業評価手法を開発することを目的とした。本研究では、小櫃川河口干潟における現存の相勘植生図を過去の資料及び航空写真から判読した地形変化と比較しながら、植生変化及びその要因について検討した.1974年、1984年、2001年の相勘植生図を比較した結果、後背湿地全体の面積は1974年で24.89ha、1984年で29.18ha、2001年で29.29haと拡大した.1974年、1984年、2001年の各植生タイプの面積を比較した結果、塩湿地植物群落ではシオクグ群落、ハママツナ群落、ヨシ群落などの満潮時冠水型は縮小し、アイアシ群落の満潮時非冠水型は拡大した.コウボウシバ群落、ハマヒルガオ群落などの砂丘地植物群落、チガヤ群落、オギ群落などの草原性植物群落、テリハノイバラ群落、アズマネザサ群落などの木本類群落は縮小した.(景観生態学9(2):27-32,2005)沿岸帯の2つの典型的な沿岸帯である砂質浜および塩生湿地において二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素の放出速度を2003年夏に測定した。地球温暖化ガスの純放出量の定量的把握と2地点でのガス放出量の変動に関与する重要因子を明らかにする目的で実施した。二酸化炭素とメタンの放出量の大きさや変動は2地点でことなっており、塩生湿地より砂質浜で低かった。亜酸化窒素の放出の大きさと変動は2地点で類似していた。砂質浜での温暖化ガス放出の時空間的な変動は潮の干満による水位変動により強く支配されていた。塩生湿地では3種類のガスの空間的変動は地上部現存量と関係しており、二酸化炭素とメタン放出量の時間的な変動は土壌温度に相関が高かった。観測した温暖化ガス放出量から推定した塩性湿地における地球温暖化ポテンシャルの合計は砂質浜に比べて約174倍高かった。(Chemosphere68:597-603,2007)
著者
篠原 温
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.セルリ-、ス-プセルリ-を用い、土耕区、水耕区を比較した。水耕区は園試処方培養液標準濃度の0.2,1.0,2.0倍の濃度区を設定した。生育量と植物体の緑化程度と香気成分の含有量には相関がみられ、葉色が濃くなるにつれて、また生育が抑制されるにつれて、香気成分含有量は増加する傾向が明らかであった。2.ディル・スイ-トバジル・チャイブス・ペパ-ミントを供試し、培養液中のリン濃度の影響を調べた。リン濃度が高くなるにつれて生育は促進されたが、高濃度では頭打ちとなった。精油含量については、処理濃度の影響が小さかったため、培養液中のリンの適濃度は4〜8me/lであると考えられた。3.スイ-トバジルを供試し、培養液濃度(1/2,1,2,4単位)・光条件(0,45,70%遮光)の影響、カリウムとマグネシウムの濃度・比率などが生育および香気成分含量に及ぼす影響を調べた。生育は、遮光70%で顕著に劣り、培養液濃度1単位で優れた。また、カリウム・マグネシウム濃度については、対照区であるK:4.8,Mg:2.4me/lおよびK:9.6,Mg:2.4me/l、すなわちK:Mgが2:1および3:1の時に生育、精油成分濃度ともに優れた。この結果をもとに、スイ-トバジルに好適な培養液組成を決定した。4.遺伝的にばらつきの大きいスイ-トバジルの繁殖方法を検討し、光の強さと培養液濃度の影響を調べた。生育は培養液濃度1単位が優れ、光条件も高光度で促進された。また、挿し木による栄養繁殖では、挿し穂に8枚の葉をつけ、照射10時間は以下とするのが適することを明らかにした。5.スイ-トバジルの栽培における一斉収穫と随時摘みとり収穫する管理方法を比較したところ、終了は随時収穫で優れ、精油成分濃度は若令で比較的小さな葉中に高かった。収量および品質からみて、随時収穫による栽培が優れていた。
著者
能登路 雅子 油井 大三郎 瀧田 佳子 藤田 文子 遠藤 泰生 ホーンズ シーラ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本科研最終年度にあたる平成18年度においては、4年間の研究成集のまとめとして、9月に専門家会議を開催し、7月に科研メンバーを集め、専門家会議の準備とともに成果報告書作成のための、最終的なミーティングを行なった。その上で、9月30日(土)に、東京大学駒場キャンパスにおいて、"US Cultural Diplomacy in Asia : Strategy and Practice"(「アジアにおけるアメリカの文化外交:その戦略と実践」)と題した専門家会議を開催した。同会議には、本科研の海外協力者であるSusan Smulyan(Brown Univ. )とThomas Zeiler(Univ. of Colorado, Boulder)を招き、研究分担者である藤田文子(津田塾大学)を加えて、映画、芸術、科学、教育、スポーツ交流など、多様な切り口からの報告を行なった。科研メンバーのほかに、関連分野の研究者、外交機関を含む実務者らが参加し、活発で刺激的な議論が行なわれた。同会議のコメンテーターは研究代表者である能登路雅子が、司会は分担者である遠藤泰生がそれぞれ務めた。この専門家会議のために提出された論文と研究代表者・分担者・協力者の論文をまとめて、平成19年3月に成果報告書として刊行した。
著者
小口 一郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、近年の文化研究における「身体性」の再発見に基づき、ロマン主義文化の物質・肉体面を超領域的に考究し、ロマン主義の身体意識を宗教、文学、政治、哲学に通底し、ヨーロッパ全土に渡る超域的文化運動として再定義することを目的としている。文化史および文化理論の分野に棹さすものであるため、方法論的な原理を考察した後に、研究対象の時代順に研究に着手した。平成16年度は、ロマン主義以前の科学、政治思想、そして擬似科学の調査を実施した後、最初期ロマン主義の身体性の研究への見通しをつけた。まず、ヤコブ・ベーメ、カドワースを始めとする17世紀までの神秘主義者やプラトン主義思想家の宇宙観と、神の恩寵たる「流出」の概念、そしてそれを受けたニュートンの物理学と、宇宙に遍在する「能動的原理」の思想、そしてプリーストリーら18世紀の非国教会派の科学的世界観を、ロマン主義の身体性に繋がる思想の流れとして捉え直した。こうした思想が、政治思想における共和主義、民主主義政治運動そして革命的急進主義の流れとへ結びつくことを、資料のレベルで確認した。この成果を基に、ロマン主義最初期の身体意識を概観した。1780年代から90年代にかけての英国および大陸ヨーロッパの急進主義と自然哲学、そして非国教会系の神学運動を調査し、ロマン主義文化のインフラストラクチャーとして位置付けた。この結果、ゴドウィン、エラズマス・ダーウィン、ウィリアム・ペイリーなどの政治思想が、神学および自然哲学の観点から再解釈され、ロマン主義的身体性の枠組みを構成することが明らかになった。同時に、18世紀の神経生理学が、神学と政治学を思想的に結び付け、ロマン主義初期の唯物論的な身体意識を産む思想的枠組みとなっていたことを突き止め、この観点から本研究の本年度における暫定的な結論付けを行った。
著者
小口 一郎
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度は、自然科学の思想性の観点から、イギリス・ロマン主義文学を読解する作業を行った。研究の主たる対象はウィリアム・ワーズワスとS.T.コールリッジに絞り、他の思想家や文学者は彼等との関連において取り上げた。まず、ワーズワスが1790年代の政治的急進主義思想に強く影響を受けていたことを前提に、彼の文学における自然科学思想の役割を検証した。その結果、彼の文学作品に現れた進歩的共和主義思想と、「『叙情民謡集』序文」などの革新的な文学論が、十八世紀の連想主義心理学と、それに付随した黙示録思想および政治的革命思想と深く結び付いたものであることが判明した。またここでハートリー、プリーストリー、ゴドウィン、E ダーウィンを経由してロマン主義へと至る、進歩主義と黙示録思想を包摂した生理・心理学思想の系譜が明らかにされた。次にロマン主義の想像力論と自然科学思想との関連を、ニュートンのエーテルの概念に着目して研究した。特にコールリッジは十八世紀には理神論的に解釈されていたエーテルを、本来の新プラトン主義的な解釈に戻し、物理現象における神の直接的介在を主張した。これによって機械論的な宇宙像を否定しワーズワスと共に汎神論的な宇宙観を打ち立てた。また、コールリッジは生物学と化学の立場から、神の創造行為と人間の想像力、そして自然界の生命現象を相照応し合う生命体的創造過程と考え、生命体論に基づく新たな想像力論と宇宙観を創出した。後期ロマン主義の宇宙観も、基本的にこの思想を無神論の立場から解釈し直したものであり、その終端には『フランケンシュタイン』が位置する。このように科学が未だに持ち続けていた形而上学的性格に基づいてロマン主義は発展し、1820年代を過ぎると急速に終焉を向かえる。それは同時に自然科学が新しい物質観の下で、実証主義の立場へと本格的に変貌したことも意味していた。
著者
高橋 輝暁
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.ヨーロッパにおける「精神」(Geist)概念の系譜について,初期古代ギリシアの哲学者アナクシメネスにいう「プネウマ」(pneuma)までさかのぼって吟味するにあたり,古代ギリシア語ならびにラテン語のうち18世紀ドイツで「精神」(Geist)およびその派生語を用いてドイツ語訳された単語や概念を探るという方法で,たとえば,キケロにおける「狂気」に相当するラテン語(furor)は,デモクリトスにおけるギリシア語「プネウマ」に対応する意味をもつ概念として,18世紀ドイツのゴットシェートにより「精神を吹き込まれた状態」を意味するドイツ語(Begeisterung)をもって翻訳されていることが確認された。2.ヘルダーリンの作品やヘーゲルの『美学講義』において,「精神」概念を「プネウマ」の訳語としてとらえ,その汎神論的原義にさかのぼって解釈することにより,難解とされる各箇所を明解に解釈できることが確認された。3.「プネウマ」の類義語ともいうべき「エーテル」(aither/aether)を概念史的に追跡したところ,近代では,少なくとも初期ライプニッツにおいて,「エーテル」概念は「プネウマ」のラテン語訳とされる「スピーリトゥス」(spiritus)とも密接に関連し,物質性とともに観念性をもあわせもつ「プネウマ」に特徴的な二重性のうち,「自然」としての前者には「エーテル」概念が,「精神」としての後者には「スピーリトゥス」概念が用いられ,それぞれ概念的に使い分けられているとの感触をえた。この点の立ち入った検証とともに,このライプニッツの思想が18世紀ドイツにおける「精神」概念に与えた影響の追跡は,今後の課題である。4.東洋思想における「気」の概念と「プネウマ」概念とは,ともに「大気」という物質性と「精神」という観念性をあわせもつという並行的対応関係の比較対照的分析の糸口をつかむことができた。
著者
小口 一郎
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究計画の二年目にあたる本年は、一年目の研究で明らかとなった「宇宙有機体説」または「万象生命体論」の思想が、イギリス・ロマン主義の想像力論の形成に果たした役割を、三つの段階に区分して解明し、合わせて研究成果の総括を行なった。1)まず、フランス革命に代表される急進主義思想と有機体論哲学、そしてロマン主義との関連を初期のロマン主義思想と当時の科学者や政治思想家の中に探った。その結果、政治的急進主義思想を媒介として、キリスト教の千年王国主義と有機体論が結びつき、全宇宙が生命体として進歩するという、生物進化論を産み出したこと、およびこの思想がエラズマス・ダーウィンなどを経由してロマン主義に重要な思想的枠組みを与えたことが明かとなった。2)次にロマン派の第一世代を代表するワーズワスを取り上げ、彼の世界像が有機体的な世界観に書き換えられ、「生命霊気」の概念に基づく新しい文学理論と想像力説を生み出す過程を検証した。この新しい文学観は、精神内面の神格化と、生成発展する自律的自我という、ロマン主義に特有の二つの概念を両立させる思想的装置であることが判明した。これは後にコールリッジにおいて、ドイツロマン派の哲学を取り入れた想像力論として結実した。3)最後に、有機体論の観点から、第二世代のロマン主義者が抱いた想像力論を検証した。その結果、1810年代以降も科学思想は政治的急進主義に影響を受け、パーシー・シェリーの神なき宇宙の動因としての生命霊気、ジョン・キーツの進化論的宇宙論を産み出したことが明かとなり、最終的にメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』において生命霊気が人工的操作の対象として神性を失ったことが判明した。この第二世代のロマン派こそが、現代科学が急速に成立する直前の時代にあって、生命体論や有機体論を文学的思想として昇華し得た最後の世代であった。
著者
西田 律夫
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1993

昆虫には,配偶行動における雌・雌のコミュニケーションの手段として化学物質を利用しているものが多い.その大部分は雌が分泌し遠くの雄を誘引する物質であり,逆に雄が分泌し雌に作用する性フェロモンについての研究例は少ない.雌がフェロモンを放出する場合でも雄がフェロモン源に到達した後に何らかの相互認知段階を経て交尾に至り,そこに雄フェロモンの介在している場合が多い.以下の数目の昆虫類について雄フェロモンの機能および化学性質の解明を目的に研究を進めた.1)鱗翅目昆虫の雄フェロモンマダラチョウ類の雄はヘアペンシルをひろげ雌にプロポーズする.オオゴマダラ雄のヘアペンル成分(ダナイドン,ネシン酸β-ラクトン,モノテルペンチオエーテルなど)の雌に対する性フェロモン活性を実証した.一方,ハマキガ類の雄もヘアペンシルを有し,配偶行動の場でフェロモンとして利用している.ナシヒメシンクイ雄のヘアペンシルに含まれる性フェロモン成分の生成過程について追跡した結果,ジャスモン酸メチル,桂皮酸エチルは幼虫および成虫時代の食物に由来することが示唆され,フェロモンの蓄積過程がマダラチョウの場合に類似することが明らかになった.2)双翅目昆虫の雄フェロモンミカンコミバエの雄の直腸腺から分泌される揮発性成分の性フェロモン作用について追跡した結果,雄ミバエ誘引植物より摂取したフェニルプロパノイド関連物質が,雌に強い誘引作用を示すことを実験的に証明することができた.クウィーンズランドミバエ雄の蓄積するフェロモン腺成分についても明らかにした.3)直翅目昆虫の雄フェロモンチャバネゴキブリおよびアオマツムシ雄の背面より分泌物される化学物質の雌に対する性フェロモン効果を追跡した.いずれの場合もメタノールに可溶の画分より得られた活性因子は複数成分から構成されていることが判明した.
著者
神谷 健一
出版者
大阪工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題ではデータベースソフトを用いて主に高校・大学の英語授業に生かすことができるプリント教材および E-learning 教材の作成を任意の素材から簡便に行うことができるツールを開発した。Phrase Reading Worksheet 作成ツールは主に精読を中心とする授業の補助に、Cloze Test 作成ツールは総合能力の測定に加え、特定の文法項目や語彙レベルの指導補助に、それぞれ利用することができる。
著者
加藤 洋介 高木 元
出版者
愛知県立女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、平成4年度文部省科学研究費補助金 奨励研究(A)「河内本源氏物語の校合と校異語彙索引の作成」での研究成果をもとに計画したものである。上記研究において、池田亀鑑編著『源氏物語大成 校異篇』(以下『大成』と略称)で割愛された河内本校異を、原本調査に基づいてすべて採録し、その過程で発見された『大成』校異の誤りを正した。その成果はすでに『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(-)』(1993)としてまとめたところであるが、対象としたのは洞壺巻から葵巻までであり、本研究はその後を受け、平成6年度から作業を開始し、『稿(二)』(賢木巻〜朝顔巻、1994)『稿(三)』(少女巻〜若菜下巻、1995)『稿(四)』(柏木巻〜早蕨巻、1996)、『稿(五)』(宿木巻〜夢浮橋巻、1997)として成果をまとめ、これで『源氏物語』全巻の調査を終えたことになる。上記『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(一)〜(五)』にて調査した校異は、すべて機械可読データとしても保存している。そこでは校異に採用したミセケチ・書入傍記などの情報を、機械データとして検索可能なものとすることによって、原本調査のデータシートにそのまま流用でき、さらにはそのデータに一定の符号等を付し、日本語組版ソフトLAT^EXを使用することで、校異データに『大成』と同様の符号を付した印刷用版下を作ることも可能になった。諸本調査および校異作成からその印圧刊行までの過程で発生する人為的誤りを、機械を使用することで可能な限り減らすための方法を、ほぼ確立できたように思われる。
著者
加藤 洋介
出版者
愛知県立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究の目的は、河内本源氏物語に関する全校異の集成と、それによって河内本源氏物語の成立過程解明の目途を探ることにある。これまで平成4年度科研費 奨励研究(A)「河内本源氏物語の校合と校異語彙索引の作成」、および平成6〜8年度科研費 一般研究(C)「河内本源氏物語の諸本調査と校異作成およびそのデータベース化についての研究」において、『源氏物語大成』に採用された伝本の再調査を行なってきた。本研究ではこの成果に加え、『源氏物語大成』に未収録の岩国吉川家本・書陵部本・吉田本などの校異を加え、また調査に時間がかかるため先回は見送らざるをえなかった鳳来寺本(東海大学蔵現写本による)の調査を計画し、この2年間の研究期間においてこれらの伝本についてはすべて調査を終了した。その成果は『河内本源氏物語校異集成』(風間書房、来年度刊行予定)として一書にまとめ、研究者に広く公開できるよう準備を進めている。その調査の過程で、岩国吉川家本についての従来の見解を改めるべき必要が認められたため、その旨を論文化し、合わせて河内本源氏物語の成立に関わる問題の所在についても言及した。また河内本源氏物語の本文が別本に近いことは、以前より指摘されていたが、それがいかなる成立事情によるものかについて明らかにされていなかった。本研究においては、蜻蛉・手習という二巻についてだけであるが、河内本源氏物語は青表紙本を底本とし、それを若干の別本によって校訂することで出来上がった本文であることが明らかになり、その旨を論文化した。
著者
加藤 洋介
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究には大きく二つの目的があった。一つには、これまでに受けた科学研究費補助金によって、源氏物語全巻について『源氏物語大成 校異篇』(以下『大成』と略称)の河内本校異の補訂作業を行なってきたところであり、その成果として『源氏物語大成 校異篇 河内本校異補遺 稿(一)〜(五)』をまとめてきた。しかしながらこれは「補遺」であり、常に『大成』と見合わせる必要があった。また『大成』刊行後に紹介された伝本の校異をどうするかという問題も残っていた。そこで『大成』に未採用の諸本の校異を加えた上で、河内本の校異を一覧できる一書としてまとめることを企画した。これについては、本研究期間中に『河内本源氏物語校異集成』として刊行したところである。もう一つの目的は、別本についても『大成』の校異を補訂することであった。河内本源氏物語の成立を考えるためには、ぜひとも『大成』の青表紙本校異や『河内本源氏物語校異集成』と同基準での校異データが必要である。また自分自身の目で別本の本文に触れて、その感触を確かめてみたいという興味もあった。そうしたことから、河内本について行なった作業と同様のことを、別本についても試みたのであるが、その成果が研究成果報告書であり、「付 源氏物語大成 校異篇 別本校異補遺稿(上)(桐壺〜幻)」とした所以である。本研究は当初平成15年度までの4年間の研究期間を予定していたが、幸いにも科学研究費補助金の前年度申請が採択され、同じ研究課題名で平成15〜18年度までの継続研究が認められた。現在までに源氏物語全体の約2/3の調査を終えており、この研究期間内に源氏物語全巻の調査を終え、今回と同様の研究報告書を作成する予定である。
著者
加藤 洋介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の主たる目的は、『源氏物語大成 校異篇』(以下、『大成』と略称)の別本校異について、刊行の際に割愛された音便や表記の異同などに関する校異を増補し、合わせて『大成』校異の誤脱を修正することにある。これにより『大成』青表紙本校異と『河内本源氏物語校異集成』(加藤洋介編、風間書房、平成13年2月。)を合わせ、ほぼ同一の採用基準によったデータに基づいて比較研究を行なうことができる環境を整えることになる。本研究は同研究課題名での前年度申請によって採択されたものであるが、すでに先の研究期間における研究成果報告書では、桐壺巻から幻巻を対象として、約16,000項目の校異を増補し、3,600箇所ほどの『大成』校異の補訂を行なった(加藤洋介『河内本源氏物語の本文成立史に関する基礎的研究』(平成12〜14年度科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)研究成果報告書)、平成16年6月。)。この研究期間においては、残りの匂宮巻から夢浮橋巻までを対象とした調査とその結果のとりまとめを目指した。『大成』所収の別本伝本に関する調査を行い、データの集約と整理を実施した。約8,300項目の校異増補と『大成』の誤脱2,000箇所程度の補訂作業を終え、その結果を研究成果報告書としてまとめたところである(研究成果報告書は『大成』の判型に合わせるためB5判とした)。これにより『大成』の別本校異すべてにわたる増補補訂作業を終了したことになる。今後は『大成』未収伝本へと調査対象を拡大し、『別本源氏物語校異集成』(仮称)として書籍刊行できるよう、研究の継続を計画している。また今回の調査研究の過程において、『大成』の青表紙本校異についても同様の調査が必要であることが判明しつつあり、こちらについても近々研究を開始したいと考えている。
著者
南 俊朗 廣川 佐千男 伊東 栄典 池田 大輔
出版者
九州情報大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ICT技術の進展を受け図書館は様々な取り組みを行ってきた.Webサイトを開設し外部に向けた情報発信を積極的に行い,Web経由での蔵書検索を可能とし,貴重図書のディジタルデータの公開,電子ジャーナルの充実などを行ってきた.本研究は,図書館における次なる段階として評価情報などを利用した図書推薦システムに着目し,そのシステム要件や運用に関する基礎的な検討を行い今後の実用化への道しるべを与えることを目的に実施された.このような図書推薦システムの実現には,(1)評価情報などの収集,(2)情報の解析,(3)結果の提示,などが必要となる.これらに関する次のような研究を行い,また,その成果を国際会議などで発表した.(1)収集:評価情報への基礎データには,図書館外部情報,図書館サイトで収集された情報,図書館内収集の資料利用データなどがある.この認識の下,特定トピックに関するWebページを収集するトピッククローラーを開発しWebページからの情報抽出技術を研究した.また,RFID技術を利用したインテリジェント書架による館内での図書利用データの収集技術を研究し予備的実験を実施した.(2)解析:図書の評価情報を含む幅広いメタデータを対象とした解析技術を研究した.書評リストや音楽のプレイリストも対象とした.評価データ抽出へ適用するために,大量の項目リストから類似項目を発見する技術も研究した.またインテリジェント書架で収集された利用データを解析し,図書館や図書館利用者にとって有益な知見を得る手法を研究した.(3)提示:図書推薦サービスはそれだけで独立したものではなく,図書館ポータルサイトにおける利用者インタフェース全体の問題との認識の下,検索結果を鳥瞰して提示する技術を研究しWeb情報の統合化に関する研究成果を学内ポータル構築に適用した.これらの研究成果は,今後図書館で普及すると考えられる利用者への個別(Personalized)サービスなどに有効であるものと期待される.
著者
鈴木 広光 矢田 勉
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、印刷術の導入と出版メディアの発達によって、平仮名の字体・書体がどのように変容したのかを明らかにすることである。古活字版と江戸時代の整版本の印刷書体の特徴を明らかにするため、文献資料を高精度のデジタル画像におさめ、印字の画像にアノテーションを付けるという新しい分析方法を採用した。研究の成果は以下の通りである。(1)嵯峨本『伊勢物語』慶長13年再刊本における全ての印字の調査を行い、活字の種類とその使用状況を明らかにした。また同書の印字標本集を編纂した。この調査によって、再刊本に使用された活字のうち、この刊本で使用するために新彫された活字はわずかに三割であり、残りの七割は初刊本の活字を再利用したものであることが判明した。従来、再刊本は主として新彫された活字で印刷されたといわれてきたが、この調査結果はその説を訂正するものである。(2)嵯峨本とその他の平仮名交り文の古活字版における活字の書体を比較し、その特徴を分析した。その結果、ほとんどの古活字版において、規格化された活字サイズによる仮名文字の均一化が確認された。その一方で、嵯峨本では仮名文字の伸びやかさを再現するために、さまざまな工夫がなされていることが明らかになった。(3)江戸時代の整版本については、平仮名書体の通時的な推移の様相を明らかにするために、前期の資料と後期の資料の比較を試みた。調査の結果、前期の版本と比較して、後期の版本には、連綿の減少、文字の大きさの均一化、書体の定型化といった特徴が見られることがあきらかになった。
著者
斉藤 洋三 笹月 健彦
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1984

我々はこれまでに、スギ花粉症に対する抵抗性、およびスギ花粉抗原(CPAg)に対するIgE低応答性はHLAと連鎖した遺伝子によりCPAg特異的サプレッサーT細胞を介して発現される単純優性遺伝形質であり、HLA-DRは免疫応答遺伝子産物として、またHLA-DQは免疫抑制遺伝子産物として機能していることを明らかにしてきた。今年度は、HLA-DQが関与する免疫抑制のメカニズムをより詳細に解析するために、第3回国際白血球分化抗原ワークショップで得られた約50種の活性化T細胞に関わる単クローン抗体が免疫抑制におよぼす影響について検討した。非応答者の末梢リンパ球をB+M0,【CD4^+】T細胞,【CD8^+】T細胞に分画し、その組みあわせをCPAg,PWMおよび各種単クローン抗体と共培養した。その結果、免疫応答を直接刺激することなく、免疫抑制を阻止することで、非応答者のIgE免疫応答を回復させる単クローン抗体4B4を見い出した。この4B4分子はヘルパーT細胞上に表現されているが、サプレッサーT細胞上には表現されていなかった。また、培養開始時に細胞を抗4B4で処理しても免疫抑制は阻止されないことから、培養期間中のある特定の時期にこの抗体が存在することが、免疫抑制の阻止に必須であるものと考えられた。さらに免疫化学的な解析から、この分子は、125Kdと145Kdのポリペプチドからなるヘテロダイマーであり、HLAやT細胞レセプターとは物理的近距離には存在しないことが明らかとなった。さらに、CPAg特異的ヘルパーT細胞株から免疫沈降してくる4B4分子は、静止期T細胞のそれに比べて、新たに3種のポリペプチドを有していた。これらの結果から、活性化T細胞上の4B4分子が、サプレッサーT細胞やサプレッサー因子の標的分子として機能していることが推測された。特異性を担うHLA分子のみならず4B4のような分子も非特異的に免疫抑制に関与していることが明らかとなった。
著者
村上 雄一 丹羽 幹 服部 忠
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

長寿妙高選択性ゼオライト触媒を調製するための第一段階である脱アルミニウム法について研究した. ここでは, 主に塩酸の濃度を変えることによって種々の脱アルミモルデナイトを調製し, キャラクタリーゼションによって得られる構造的特徴とMTG反応における触媒寿命とを対比することによって, 長寿妙なゼオライトの持つ特徴を把握するための研究を行った.キャラクタリーゼションとMTG反応のの結果以下の事実を得た.(1) 塩酸濃度を上げるほど脱アルミニウムの程度が進むが, 結晶性や結晶粒子径にはおおきな変化はみられない. B酸, L酸の割合にも大きな変化はみられない. 酸量はアルミニウム濃度の減少に比例して低下するが, 酸強度とアルミニウム濃度には一義的な相関性はみられない.(2) アルミニウムのゼオライト結晶内部布は脱アルミニウムによって大きく変化する. 結晶内部から脱アルミニウムが進むと酸強度が効果的に弱められ逆に外部からの脱アルミニウム程度が高い場合には酸強度を弱めることなくしかも, 細孔入口径を狭めるために, 大きな分子の拡散が著しく不利になることが分かった.(3) MTG反応における寿命はゼオライト内部のアルミニウムが効果的に除去され, 酸強度が弱められ, 細孔構造が維持されている場合に非常に長くなることが分かった.以上の結果長寿命なモデルナイトを脱アルミニウムによって得るためにはゼオライトの内部から効果的に脱アルミニウムすることが重要である. これはゼオライトを均一に脱アルミニウムすることに対応する. したがって, さらに均一に脱アルミニウムするための条件を検討したところ, 脱アルミニウムの温度が極めて重要なパラメーターであることが分かった.
著者
和田 俊和 中村 恭之 加藤 丈和
出版者
和歌山大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究では,単一静止画像からの高解像度画像生成法Hallucinationを高精度化する方法について検討を行なった.昨年度はHallucinationによって生じるブロックノイズの除去方式および最近傍探索アルゴリズムの高速化について検討したが,今年度は最近傍探索アルゴリズムの高速化と全く別方式のHallucinationアルゴリズムの開発を行った.前者に関しては,昨年度提案したPrincipal Component Hashing(PCH)を改良し,Adaptive PCH(APCH)を提案した.これは,PCHでは画像データの分布が正規分布に従うものと仮定していたが,一般の分布では,必ずしも効率の良い探索が行えなかった.これを一般分布に対しても効率が良くなるように,累積ヒストグラムとそれを参照した2分探索木を用いたHash関数を導入した.これにより,任意のデータ分布に対してLSHや従来のPCHよりも効率の良い最近傍探索が行えることを示した.後者については,大量の画像集合から構成した部分空聞を利用して,入力画像の一部から残りの部分を推定する写像計算法について検討を行い,通常の部分空間を用いた写像では入力画像の面積が小さくなると多重共線形性の問題が発生することを明らかにした.さらに,その問題を回避するためにマハラノビス距離を最小化する出力を推定するMaximum Mahalanobis-distance Mapping(M3)を提案し,多重共線形性の問題を回避することができることを示した.さらに,これを画素間引きした画像に適用し,低解像度顔画像から高解像度顔画像が生成できることを示した.
著者
真鍋 陸太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では「行政調査型」調査の現状を把握・整理し「参加調査型」での情報収集・蓄積・開示方法、その際に集まる情報の量・質などを分析し、双方を適切に総合化することによる都市計画・まちづくり分野全体を通じての「都市の情報」の収集・蓄積・開示の方法の総合化に関しての考察を行う。双方の情報は対象とするものが異なっていることや、後者は調査プロセス自体が住民の都市に関する関心を喚起させ参加型まちづくりの一翼を担うことが確認できた。両者を総合化した収集・蓄積・開示のシステムを築くことが必要不可欠であることが分かった。