著者
平田 雅博
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

日本におけるイギリス史の研究史は、国内史それも事実上イングランド中心であり、民族的にはアングロサクソン民族中心、人種的には白人中心にイギリスの歴史が叙述されてきたが、植民地を含んだ帝国史、ケルト地域(ウェールズ、スコットランド、アイルランド)なり、ケルト民族、非白人を含んだ枠組みがなかなか提示されてこなかった。近年、帝国史の枠組みの提示によって、強固だった国内史の狭い枠組みもようやく本格的に再検討されつつあるし、ケルト周辺を含み込んだ枠組みの提示によってイングランド中心の枠組みも克服されつつある。しかし、残された「非白人」を包摂した枠組みの提示はいまだ不十分でしかない。本研究は、研究代表者が従来から取り組んでいる「帝国史」の枠組みを設定した上で、「非白人」の観点を取り入れて、一次史料によって、イギリスにおける黒人史研究に取り組んできたことの成果である。研究全体としては、在英黒人の存在や実態を扱った面と在英黒人をめぐる意識の問題として人種差別主義の歴史を扱った面に分けた。前者では、時期的は一八世紀末を限定しながらも、空間的にはイギリス国内にとどまることなく、アメリカとアフリカを含めた分析をしている。後者では複雑きわまりない人種差別主義の歴史を捉えるの有効な「長期的展望」を取り入れて、黒人に対する意識の歴史的変遷を検討した。17世紀から20世紀まで、人種の悪魔学、プランター利害に立つ人種差別主義、疑似科学的人種差別主義、二〇世紀の「文化のレイシズム」と区分して、順次検討した。
著者
辻村 和佑
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 = Mita journal of economics (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.93-110, 2018-07

一般に, 経済を定量的に把握する経済統計の嚆矢とされるのが, 『ペティの政治算術』である。一方で, 学問分野としての経済統計学の基礎を築いたのが, ケネーの『経済表』である。フランス経済統計学は単なる記述統計ではなく, 経済を複数の部門に区分し, 各部門の受取がどのように処分されるかを記述するのみならず, ある部門の支払が他の部門の受取に一致するという恒等関係を, 複式簿記の体系で表象することに特徴がある。日本で最初の統計書『萬國政表』は, 福澤諭吉と岡本周吉により翻訳出版されており, 経済統計は慶應義塾の原点をなす実学を代表する学問領域である。Economic statistics as a name of a field of study, which is a literal translation of the French word statistiques économiques, may be unfamiliar to English speakers. Econometrics is mainly about economic analysis based on probabilistic inference while economic statistics deals mainly in designing statistics using double entry system and matrix algebra. Actually, Keio University has a significant history in the field of economic statistics since its founding. Economic statistics was first introduced to Japan in 1860 with the book Bankoku Seihyo, which was a translation of a Dutch book. It was Yukichi Fukuzawa, the founder of Keio, who arranged the translation, and the main translator was none other than the first president of Keio, Shukichi Okamoto.会長講演
著者
坂田 修一 清水 智 福田 聖斗 辛 徳
出版者
東京工芸大学工学部
雑誌
東京工芸大学工学部紀要 = The Academic Reports, the Faculty of Engineering, Tokyo Polytechnic University (ISSN:03876055)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.10-14, 2020-06-30

近年,深層学習を活用することでロボットによるピッキング作業の自動化が進んできており作業の効率化が行われている。本研究では深層学習を用いて一般物体認識を行い、物体との距離を深度カメラで測定し、ピッキングを行うシステムを制作することを目的とする。実験では、認識システムのモデル選定実験、深度カメラの性能実験、ピッキング実験を行った。結果、認識システムは YOLOv3·Tinyを採用した。深度カメラは実距離との誤差が平均 0.2cm だった。ヒ゜ッキング実験では物体をピッキングすることに成功した。課題として、座標に問題があるため修正が必要である。
著者
中野 正昭
出版者
日本演劇学会
雑誌
演劇学論集 日本演劇学会紀要 (ISSN:13482815)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.75-98, 2009 (Released:2018-01-12)

Kokumin Engeki which means the National Theater was a popular concept with journalism, the academy, and the goverment, in Japan under WWII. We associate Kokumin Engeki with Japanese wartime nationalism and fascism. The government promoted the Kokumin Engeki contest from 1941 to 1944, but it is the strangest thing that the some plays of national policy were rejected or defeated. As a matter of fact, the state powers and academic authorities didn't have the distinct concept of Kokumin Engeki. This thesis is about the confusion of the Kokumin Engeki contest as seen in the participating plays of FURUKAWA ROPPA's company and his diary.
著者
麻生 要一
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.209-224, 2006-03-25 (Released:2018-03-11)
参考文献数
9

起業家志望の人を集めて運営されていた「ドリームゲート・スクウェア」というSNSが2005年12月に閉鎖された。内部のリンク構造をネットワーク分析すると、比較したmixiよりも濃度が低くなっていたことが分かった。「起業」という強力なキーワードを掲げつつも低濃度となってしまった理由とは一体何なのかを分析・考察する。
著者
Kentaro Hori Koyo Usuba Akihiro Sakuyama Yuichi Adachi Kotaro Hirakawa Atsuko Nakayama Masatoshi Nagayama Tomoki Shimokawa Shuichiro Takanashi Mitsuaki Isobe
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Reports (ISSN:24340790)
巻号頁・発行日
vol.3, no.8, pp.423-430, 2021-08-10 (Released:2021-08-10)
参考文献数
36
被引用文献数
7

Background:Hospitalization-associated disability (HAD) is associated with prolonged functional decline and increased mortality after discharge. Therefore, we examined the incidence and risk factors associated with HAD in elderly patients undergoing cardiac surgery in Japan.Methods and Results:We retrospectively examined 2,262 elderly patients who underwent elective cardiac surgery at Sakakibara Heart Institute. HAD was defined as a functional decline between time of admission and discharge measured by the Barthel Index. We analyzed clinical characteristics using machine learning algorithms to identify the risk factors associated with HAD. After excluding 203 patients, 2,059 patients remained, of whom 108 (5.2%) developed HAD after cardiac surgery. The risk factors identified were age, serum albumin concentration, estimated glomerular filtration rate, Revised Hasegawa’s Dementia Scale, N-terminal pro B-type natriuretic peptide, vital capacity, preoperative Short Physical Performance Battery (SPPB) score, operation times, cardiopulmonary bypass times, ventilator times, length of postoperative intensive care unit stay, and postoperative ambulation start day. The highest incidence of HAD was found in patients with an SPPB score ≤9 and in those who started ambulation >6 days after surgery (76.9%).Conclusions:Several risk factors for HAD are components of frailty, suggesting that preoperative rehabilitation to reduce the risk of HAD is feasible. Furthermore, the association between HAD and a delayed start of ambulation reaffirms the importance of early mobilization and rehabilitation.
著者
重松俊章著
出版者
文正社
巻号頁・発行日
1916

1 0 0 0 新説東洋史

著者
重松俊章著
出版者
教育研究會
巻号頁・発行日
1933
著者
重松俊章著
出版者
教育研究會
巻号頁・発行日
1932
著者
笠井 利則 奈路田 拓史 上間 健造 稲次 圭 長江 浩朗 藤井 義幸
出版者
徳島赤十字病院
雑誌
徳島赤十字病院医学雑誌 = Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal (ISSN:13469878)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.100-104, 2008-03-01

患者は59歳,男性.1992年12月より糖尿病性腎症による慢性腎不全にて血液透析を導入.その後,糖尿病性網膜症(右眼失明)・二次性副甲状腺機能亢進症(PTx)・陰嚢部フルニエ壊疽(植皮)・左下肢潰瘍(左下肢切断)を併発.2006年7月,右第1趾の難治性潰瘍・化膿性骨髄炎に対して,右下肢切断術を行う目的で近医に入院.術前検査で重症冠動脈病変を認め,当院循環器科に紹介され,冠動脈バイパス手術(心拍動下2枝)が施行された.約1カ月後,陰茎包皮の壊死・陰茎根部の疼痛が出現し,陰茎壊死との診断で陰茎全切除術を施行した.術後,疼痛は消失したが創開を生じ,洗浄処置を行った.術後3カ月経過し,陰部~両側大腿内側部の壊死性軟部組織感染症(バクテロイデスによるガス壊疽)を併発し,デブリードマンを施行したが永眠された.
著者
猪瀬 武則
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.99, pp.33-43, 2008-03-25

米国経済教育学会のカリキュラム教材『経済学の倫理的基礎付けの教授』を分析することによって、経済教育が、倫理的な基礎付け無しには成立しないことを明らかにした。経済教育は、功利主義的前提の下に利己的な人格を育成するという論難があるが、むしろ「倫理性」や「公正」「正義」は、「市場」や「経済取引」成立の大前提である。このことを、近年の行動経済学の成果や経済倫理学からの成果をもとに、活動教材という方法原理によって育成することを企図した本教材は、日本の経済教育に大きな示唆を与えることとなろう。
著者
加藤 典洋
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.36-46, 1995

<文学として読む>とはどういうことか。自分の経験に即し、二つのことを述べます。それがどういうことか、またそのことの中に、文学のどういう問題が現れているか。これまでわたしがやってきた仕事を振り返ると、わたしは批評と自分の接点をこの<文学として読む>ところに見出してきたといえそうです。はじめの本『アメリカの影』はいわば国際政治学の問題「無条件降伏の思想」を文学として考える、というものだったし、第四の本『日本風景論』はこの<文学として読む>をさまざまな文化・歴史・社会の現象を「意味抜き」する<風景化>という概念のもとに方法化したうえで、それを実践したものでした。また、最近出した第七の本『日本という身体』は、それをある手がかりをテコに、極端化して試みた日本近代の記述を<文学として読む>企てだったと、いえなくもないからです。ここからもわかるようにわたしにとって文学でないさまざまなものを<文学として読む>とは、まずこれを門外漢、何者でもないものとして、白紙還元して考える、自分にも、あるエポケー(一時的判断停止)を施し、バカになってことに当たる、という方法論を意味しています。これが批評の起点となったのは、『アメリカの影』を書いた時の話になりますが、まず「無条件降伏論争」というものがあった。わたしにはここに問題とされている「無条件降伏」が、中途半端な、文学的な政治解釈の一例を出ていないものと感じられました。先入観を持たない門外漢が第一次資料に当たり、"はじめの疑問"だけを手がかりにことに当たったらどうなるか。いったんこれを国際政治学の問題として徹底して考える、中途半端な「文学」をこうして消毒する。カエサルのものをいったんカエサルに「差し戻す」、その時こちらは門外漢の位置に下落する、それで結構、それがわたしの考えたことでした。またその"はじめの疑問"とは、なぜ急に「無条件降伏」などという不思議な感触を持つ政策思想がアメリカ合衆国から出てきたのか、何か西洋近代とは異質な感触が、この思想にはある、という直観だったとは、本に書いた通りです。次に、こういうことが文学観としてどういう問題をはらんでいるか、ということがあります。ボルヘスが「私は誰か[何者か](somebody else)の文体でではなく、誰でも(anybody else)の文体で書かれた本を書くだろう」と言っていますが、わたしは、文学には二つがあると思う。something elseとしての文学と、ここにいうanything elseとしての文学と。ボードレールが言ったのもsomeではないany-"anywhere out of the world"-ではなかったでしょうか。では、something elseとしての文学とはどういうものか。筒井康隆氏が最近、断筆宣言をしましたが、その時、人間には悪が必要だといって、文学は悪だ、という意味の言い方をしました。それが文学を特権化した言い方ではないか、と批判を呼びましたが、ここに現れているのが「何者か」としての文学、something elseとしての文学です。しかし文学というのは不思議で、荒野でしか育たない、それは温室に入れられ、何かの理由になったり根拠にされるととたんに枯れる。そういう意味でも、それは「悪」の花です。<文学として読む>。その意味は、ある問題をanybody elseとして読む、ということ。その時文学は、何者か、という特権、限定、自己同定からはずれた「誰でも」の存在です。これを単なる技法、狭義の方法などとみなさないことが肝心だろうと思うのです。