著者
韓 尚希
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部インド哲学仏教学研究室
雑誌
インド哲学仏教学研究 (ISSN:09197907)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.27-41, 2013-03-31

In the various teachings found in the Nikāyas, there is no consistent, systematic explanation about the process or method for how Buddhist practitioners achieve the “fruits of the saints” or attain emancipation. Since the descriptions of the same subject in different parts of the Nikāyas do not show clear correlation, and are somewhat fragmented, it would seem that the elements of the system of practice outlined in the Nikāyas are discordant with each other to a certain degree. However, by analyzing the different contexts that a certain subject is taught in, it is possible to understand these various teachings as a unified system. With this framework in mind, this paper explores the concept and attainment of cetovimutti (emancipation of the heart) and paññāvimutti (emancipation by wisdom), both states achieved by arahants, based on their relation to the system of “The Four Noble Truths” and “The Noble Eightfold Path.” Doing so will clarify the following points. It is thought that cetovimutti is derived from the expression of meaning “release in the mind,” or in other words “complete emancipation.” However, it does not appear to carry the same meaning in every case. When cetovimutti and paññāvimutti appear as a pair, cetovimutti is placed at the midway point to emancipation, while complete emancipation is identified as achieving paññāvimutti. In this way, when cetovimutti and paññāvimutti both appear as a pair they both are regarded as the state of complete emancipation of an arahant. In other contexts, cetovimutti means “the release of the heart from lust (rāga) by achieving the eighth item in the Noble Eightfold Path (i.e sammāsamādhi or the four jhānas),” while paññāvimutti means “the release from ignorance (avijjā) by the attainment of wisdom that is the complete realization of the Four Noble Truths, attained by completing the Noble Eightfold Path.” It is thought that by achieving the ninth and the tenth qualities of the ten qualities of arahant (dasa asekhā dhammā), right knowledge (sammāñāṇa) and right emancipation (sammāvimutti), the first eight items of this system are none other than the Noble Eightfold Path. In this case, paññāvimutti comes after cetovimutti, in the same way that wisdom (paññā) comes after meditation (samādhi).
著者
石橋 悠人
出版者
一橋大学
雑誌
一橋社会科学 (ISSN:18814956)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.141-166, 2008-12

一八世紀後半のイギリスによる太平洋探検には、急速に科学的要素が包含されるようになった。国家や海軍がスポンサーとなる探検事業に、先端的な科学技術を駆使して、各種の数学的観察・測定に取り組む「天文学者」たちが参加することが常態化する。本稿は、天文学者の経歴、彼らが派遣された航海の概要、航海中に実践された観測の意味に着目し、この時代の探検に求められた知の収集過程の一端を解明することを目的とする。天文学者たちが派遣された航海は、地理的知識が乏しく、地理学者や哲学者たちの議論の焦点になっていた地域を目指すものであった。その為、彼らが実践した科学知の収集は、啓蒙の世紀における地理的認識と空間的想像力の再編成という文脈と明確に連動していくことになる。また、当時の探検事業の主たる目的は、植民地化や航海上の基地を建設するに適した場所の情報収集にあった。従って天文学者たちは、航海中に地理学と航海技術の向上に資する科学知の収集を精力的に担った。彼らの活動が示しているのは、拡張期のイギリス帝国において、天文学、航海技術、そして地図製作といった科学的活動が極めて重視されていた点である。とりわけ、地図の正確性や航海技術の向上に資する正確な経緯度の測定を実践するために、天文学者の同伴は不可欠であった。彼らの科学的活動の有用性が認知されたからこそ、一九世紀へ続く英国海軍と科学研究の連携という伝統が形成されたのである。
著者
中山 幸代
出版者
田園調布学園大学
雑誌
田園調布学園大学紀要 (ISSN:18828205)
巻号頁・発行日
no.2, pp.97-112, 2007

介護福祉士の養成教育が始まってから19年が経過した。しかし「介護福祉学」の内容はいまだ定まったとはいえない。本研究では,介護福祉学における「関連領域との共通性と介護福祉の固有性」について,文献研究を通してその内容を検討し考察を加えた。関連領域としては,看護・社会福祉・家政学・ターミナルケア・宗教哲学・性との関係を取り上げた。介護福祉の固有性としては,日常生活障害の理解,生活障害への援助について検討した。また介護実践の基盤となる利用者理解と自己覚知,「聴く」ことのできる力についても考察を加えた。
著者
清水 公男 板倉 亨 古宮 照雄
出版者
木更津工業高等専門学校
雑誌
木更津工業高等専門学校紀要 (ISSN:02857901)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.61-80, 2010-02

カリーの本論文は『マクベス』の魔女とは何かを端緒として、エリザベス朝において激烈な論争となっていた神、悪魔、亡霊、魔女などの意味を、キリスト教神学ならびに新プラトン主義を核にして辿ったものである。魔女は民間信仰にとどまらず、古代異教の神の変容であり、新プラトン主義の流出宇宙論に由来するダイモーンに連なる。神学的背景から見た悪の形而上的な世界の意味が、多くの文献に依拠して、詳細に解明されている。
著者
吉川 孝
出版者
高知女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

この研究は、現象学に属するミュンヘン・ゲッティンゲン学派の実践哲学を明らかにし、現代哲学のなかで正当な評価を与えることにある。ミュンヘン・ゲッティンゲン学派の特徴としては、必ずしも理論哲学の問題に限定されず、倫理学や美学にも強い関心を向けたことがあげられる。実践哲学というテーマを軸にしてミュンヘン・ゲッティンゲン学派にアプローチすることは、現象学のなかにおける実践哲学の可能性を探ることになる。この研究においては、「感情」、「行為」、「意志」などのトピックを取り上げて、それらがミュンヘン・ゲッティンゲン学派のなかでどのように扱われていたのかに注目する。そのうえで、フッサールを中心とする現象学をつねに意識しながら、そのなかでの同学派の位置づけを明らかにする。
著者
木村 正人 野矢 茂樹 早川 正祐 竹内 聖一 吉川 孝 古田 徹也 池田 喬 河島 一郎 星川 道人 島村 修平 筒井 晴香 八重樫 徹 萬屋 博喜
出版者
高千穂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

分析哲学者を中心に昨今注目を集めている共同行為論の諸理論について紹介・検討し、さらに現象学、社会学理論等による知見を加えて、共同行為の構成要件、共同行為特有の意図性の諸原理、還元主義アプローチの当否、共同行為論における因果的解釈の射程などについて明らかにした。若手研究者を中心として組織された「行為論研究会」は学問分野を越える各学会等で注目を集め、一般公開の研究大会において報告されたその成果は、雑誌『行為論研究』にまとめられた。
著者
松本 洋之
出版者
東北哲学会
雑誌
東北哲学会年報
巻号頁・発行日
no.5, pp.60-61, 1989-05-31
著者
赤池 一将 福岡 英明
出版者
龍谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(1)2003年中に当該テーマの基礎的文献を検討した後、2004年2月に、フランス司法省行刑局および青少年司法保護局を尋ね、本研究の進行についての協力依頼を行った。その後、同年7月および2005年1月の2度にわたって、フランスの官民共同運営刑事施設2施設、民間委託型の犯罪少年収容施設1施設を参観し、官・民双方の職員に対する調査を行った。その内容は、上記施設における職員組織、職員と被収容者との関係、刑務作業、医療、外部交通、社会復帰プログラムなどについて、官・民の協力形態の実情とその具体的課題に関するものであった。(2)この過程で、フランスの官民共同運営施設は、厳罰政策によって惹起される過剰収容への対策という側面と同時に、民営化論と並行して進行していた1980年代以降の被収容者に対する政府の一貫した社会化推進政策(被収容者に市民として可能なかぎりの公役務を提供しようとする政策)によってその構想が規定されているとの認識を得た。そこで、日本の行刑改革会議(03〜04年)においても議論となったフランスの施設医療を例に、フランスの近年の政策変化とその意義について検討を行った。(3)また、この社会化推進政策が、拘禁施設をめぐるフランス犯罪社会学の理論動向(施設の閉鎖的性格を否定し、被収容者の継続的な生活時間からその役割を捉える)から強い影響を受けている点を確認し、その原点となった哲学者フーコーの監獄観とその行刑実務への影響を理論的に整理した。(4)最後に、利益追求を目的とする民間企業による刑事施設民営化は、NPO団体を中心とする施設外の人的資源による行刑への介入によって条件付けられ、この二種の外部世界との接触によって規定される点を理論的に検討した。そして、民営化による刑罰機能の変化と人的民間資源の活用に関する継続的研究を、新たな共同研究プロジェクトとして策定した。