著者
神長 英輔
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-14, 2012-04

1950年代,全国各地で若者の合唱サークルが組織された.1940年代末に起こったこの運動はうたごえ運動と呼ばれた.うたごえ運動は文化運動,労働運動,反核平和運動と連携し,1950年代半ばに最盛期を迎えた.しかし,早くも1960年代前半には人気を失った.この運動はどのようにして同時代の若者の心をとらえたのか.またなぜ若者の心はうたごえ運動から離れていったのか.この論文は進化論の観点から文化を理解するミーム学の知見を用いてこの疑問に答える. ミームとは模倣であり,遺伝子に似た「文化の自己複製子」として理解される.うたごえ運動とは「正しく,美しく歌え」などの指示のミーム,「歌の力によって大衆を組織し,世を動かす」という物語のミーム,ミームとしての歌からなるミーム複合体である.うたごえ運動が拡大し,一転して衰えた過程はこれらのミームが複製された(されなくなった)過程として説明できる.
著者
石川 ひろの
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.338-342, 2014-10-25 (Released:2016-05-16)
参考文献数
3
被引用文献数
3

先行研究を読むことは,研究の着想から論文執筆に至るまで研究のあらゆる過程で重要であるが,その目的や活用の仕方は,研究のどの段階にあるかによっても変わってくる.研究開始前に先行研究に当たる主な目的の一つは,先行研究で明らかにされていることとまだ明らかにされていないことを明確にすることであるだろうし,論文執筆時には先行研究と自分の研究結果を比較して考察を深めるために先行研究を読むことになる.先行研究を読むことの意味やその使い方を知り,何のために読むのか意識して先行研究に向き合うことが,より効率よく先行研究を活用して,研究の質を高めることにつながると考える.
著者
保井 久子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.191, 2009-03-15 (Released:2009-04-30)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

ヒトや動物には,外敵から身体を守るために免疫系が備わっている.多くのウイルスや病原菌の侵入口である粘膜面には効果的な「粘膜免疫」が存在し,抗原特異的分泌型IgA応答や細胞障害性T細胞(CTL)を誘導する.各粘膜は共通粘膜免疫機構(common mucosal immune system(CMIS))により関連をもち,ある粘膜組織で誘導されたIgA産生細胞やCTLは他の粘膜組織にも帰巣(ホーミング)する.とくに,分泌型IgA産生細胞は,腸管関連リンパ組織(GALT),鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)および気管支関連リンパ組織(BALT)などの誘導組織(inductive site)で誘導され,実効組織(effector site)である腸管粘膜固有層,呼吸器粘膜固有層,乳腺,涙腺,唾液腺,泌尿生殖器にホーミングする.抗原により直接暴露された粘膜組織において最も強いホーミングがおこり,強い免疫応答がみられ,それに準じた免疫応答が隣接する粘膜組織でみられる.例外として抗原の経鼻投与では,呼吸器粘膜だけでなく,生殖器粘膜にも抗原特異的免疫応答が誘導される.腸管や鼻咽頭からの抗原は,それぞれパイエル板やNALT/BALTのM細胞に取り込まれ,マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞に送られ,その後,B細胞およびT細胞に提示される.感作されたB細胞およびT細胞はホーミングを開始し,体内循環をし,各実効組織に到達する.B細胞が産生するIgAは,上皮細胞で産生される分泌片と結合して分泌型IgAとして各粘膜面に分泌される.そして,侵入したウイルス,細菌,細菌毒素,アレルゲンなどと免疫結合体を作り,これらを排除する1).多くの粘膜経由の感染症に対する最適な防御は粘膜面と全身系で免疫を誘導することである.抗原投与法と免疫応答との関係を図1に示した.従来の注射によるワクチンでは血中IgG抗体価で代表される全身系での免疫は誘導できるものの,分泌型IgAに代表される粘膜面での免疫は効果的に誘導できない.これに対して,腸管や鼻咽頭などの粘膜面をターゲットとして経口あるいは経鼻的な経粘膜に投与されたワクチン,いわゆる「粘膜ワクチン」では粘膜面での感染侵入防止と全身系免疫での防御の両方が誘導できる.現在,多くの粘膜ワクチンの開発が進められている.経口投与では,近隣の唾液,消化管,乳汁のIgAの上昇が大きい.経鼻投与では近隣の鼻,唾液,肺のIgA抗体の上昇が大きく,遠隔に存在する女性生殖器での抗原特異的分泌型IgAおよびCTLの誘導も報告されている.このことから,HIV(human immunodeficiency virus)の粘膜ワクチン開発には経鼻投与経路も考えられている.現在,国際的に認可されている粘膜ワクチンを表1に示した2).コレラやロタウイルスなどの胃腸感染症では投与方法として経口投与が選択される.一方,呼吸器感染症であるインフルエンザでは経鼻投与が選択されていることがわかる.しかし,現在日本で承認されているのは経口ポリオワクチンのみである.種々の感染症に合わせたワクチンの投与経路の選択は重要である.経口ワクチンは従来の注射によるワクチンや他の経粘膜投与法に比較して,投与の際に特別な医療器具を必要としないため,最も簡便かつ安全な投与方法といえる.しかし,経口的に投与された抗原は,大半が胃,腸などで消化作用を受けた後,パイエル板などの粘膜免疫誘導組織に到達するため,効果的な抗原特異的免疫応答を誘導するためには多量の抗原を必要とする.このため,ワクチンの抗原の安定性と粘膜免疫誘導組織へのワクチン抗原の効率の良い送達を得ることが経口ワクチンの開発において重要な鍵となる.一方,経鼻ワクチンは,NALTにより効率の良い抗原処理が行われ,酵素による分解が少ないため,少量の抗原で効果が得られるなどの利点を有している.今後,経鼻ワクチンについての研究を重ね安全性などを確認する必要があろう.
著者
澤井 秀次郎 坂井 真一郎 坂東 信尚 丸 祐介 永田 晴紀 後藤 健 小林 弘明 吉光 徹雄
出版者
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-05-31

空気吸込式エンジンを用いるスペースプレーンの実現に向けて,飛行実証を通して基盤となる技術を獲得するために,気球による高高度からの落下と小型ロケットブースターによる加速を組み合わせた高速飛行実証システムの構築を目指した.飛行軌道検討を主としたシステム概念検討を行った.その結果を踏まえ,飛行実験機の試作研究を行った.試作研究を通して,システム統合および飛行制御系技術の実践研究を行った.さらに,スペースプレーンに必要な技術として,空力設計技術の研究を行った.実験オペレーションまで想定した実験計画を検討し,本システムのメリットに加え,課題も整理した.

8 0 0 0 OA 新刊書紹介

出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.438-439, 2021-07-15 (Released:2021-07-29)
著者
Päivi VANTTOLA Mikko HÄRMÄ Christer HUBLIN Katriina VIITASALO Mikael SALLINEN Jussi VIRKKALA Sampsa PUTTONEN
出版者
National Institute of Occupational Safety and Health
雑誌
Industrial Health (ISSN:00198366)
巻号頁・発行日
pp.2020-0215, (Released:2022-02-15)

In shift work disorder (SWD), disturbed sleep acutely impairs employees’ recovery, but little attention has been paid to sleep during longer recovery periods. We examined how holidays affect self-estimated sleep length, sleep debt, and recovery in cases of SWD. Twenty-one shift workers with questionnaire-based SWD and nine reference cases without SWD symptoms completed a questionnaire on recovery and sleep need. They also reported sleep length on two separate occasions: during a work period and after ≥ 2 weeks of holidays. Sleep debt was calculated by subtracting sleep length from sleep need. We used parametric tests to compare the groups and the periods. The groups reported shorter sleep on workdays than during holidays (median difference: SWD group 1.7 h, p<0.001; reference group 1.5 h; p<0.05). The SWD group’s self-estimated sleep during holidays increased less above the sleep need (median 0.0 h) than the reference group’s sleep (1.0 h, p<0.05). In addition, the SWD group reported good recovery from irregular working hours less often (14%) than the reference group (100%, p<0.001). Although holidays were generally associated with longer sleep estimates than workdays, employees with SWD experienced consistently less efficient recovery than those without SWD.
著者
津田 悦子 Tsuda Etsuko ツダ エツコ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.5, pp.29-44, 2000-03

西洋の近代的子ども観の基本枠組みを明るみに出したアリエス著『〈子供〉の誕生』の「子ども」はいかなる年齢集団を対象としているのか。これについてのこれまでの見解は一致せず矛盾の様相さえ見せている。「子ども」年齢の追究は、発達段階理論の発展に伴って未成年者全体と単純に想定するだけでは不都合な場合もあり、今後その必要性は増していくように思われる。そこで、アリエス論における「子ども」年齢を探る手段として、「新生児期」という最初で最短の時期を取り上げ、「新生児」への言及を拾い出し、考察を加えながらその位置づけを模索する。その一連の作業から見出されたのは、「子ども期」の歴史が「新生児」に関わる事象とそうでない事象に二分されていることであった。つまり、近代以前の「子ども」が軽率に扱われた証拠となる事象は「新生児期」と関わりを持ち、反対に、近代以降の「子ども」の記述内容においてはなぜか人生初期の「子ども」への焦点がぼやけるのである。一括りにして述べられる「子ども観」の中で、最も「大人」にとって異質な「子ども」である「新生児」は、過去の親子関係の劣悪さを強調する役割を担わされたのだろうか。これから必要とされる「子ども観」にとって、重要な基礎となる歴史把握に疑問を提起する。
著者
井戸 美里
出版者
美学会
雑誌
美學 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.73-84, 2015-12-31

The late sixteenth to early seventeenth century produced many narrative paintings which based on classical literature such as the Tale of Genji and the Tale of Heike. It should be noted however that the number of folding screens which visualized the Tales of the Soga increased, especially in the early seventeenth century. In this paper, I would like to analyze the motifs of the Soga screens that were said to be taken from the Kowaka version of the Tale of the Soga. The motifs which were selected from the text of Kowaka were elaborately juxtaposed on the screen, representing the originality and authority of the warrior families. I will also consider the space of kaisho where warriors gathered for some rituals with a banquet and newly emerging performing arts such as Noh theatre and Kowaka were often performed, since the emergence of the gathering space of kaisho seemed to cause an increase of the production of these narrative folding screens. Kowaka-mai performances, which often narrated stories from war chronicles, functioned not only as a pacificatory requiem for those who had died in past wars but also as an expression of desire for a more peaceful future.

8 0 0 0 OA 備後叢書

著者
得能正通 編
出版者
備後郷土史会
巻号頁・発行日
vol.第2巻, 1935
著者
臼井 直人 山代 幸哉 小島 将 佐藤 大輔
出版者
一般社団法人日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.361-370, 2020-10-01 (Released:2020-09-16)
参考文献数
96

Soccer is the most popular sport worldwide, with over 265 million participants. Soccer is unique in that the ball can be directed deliberately and purposefully with the head, an act referred to as ‘heading’. In recent years, there has been concern about the association between repetitive subconcussive head impacts associated with heading and chronic traumatic encephalopathy. Heading causes immediate changes in biochemical and electrophysiological markers of traumatic brain injury, and some studies have reported brain structural changes and dysfunction in former soccer players. In 2019, it was reported that the mortality associated with neurodegenerative diseases was about 3.5 times higher among former professional soccer players. Following that, in early 2020, the guidance have been published to limit heading by age in some regions including England and Scotland. In this review, we will expound the immediate and long-term effects of heading associated with chronic traumatic encephalopathy and the measures that should be taken into consideration in the practice of soccer instruction, based on the latest findings.