著者
圓田 浩二 マルタ コウジ Marta Koji 沖縄大学法経学部法経学科教授
出版者
沖縄大学法経学部
雑誌
沖縄大学法経学部紀要 (ISSN:13463128)
巻号頁・発行日
no.27, pp.33-45, 2017-09

本稿は、世界的に流行し、さまざまな社会問題を引き起こしたゲーム・アプリ「ポケモンGO」を題材に、ジョン・アーリの「移動の社会学」を参照しながら、このゲームにおける「歩く」ことに注目し、社会学的に分析し記述する。ポケモンGOは、ゲーム内で歩くことと現実世界の空間を歩くことが連動し、ゲームを進めるに当たって、現実世界で移動することが必要不可欠になる。現代社会における「歩く」という移動手段の特性とその意義、その戦略と戦術の展開、それによって生じる場所の消費、風景の創出について論じる。最後に、現代社会で「歩く」ことがヘルスケアの面から注目され推奨される中で、ポケモンGOは、「歩く」ことに新たな意味を付与した。前近代社会まで「歩く」ことがほぼ選択可能な唯一の、そして主要な手段であったが、さまざまなテクノロジーが発達した現代社会で「歩く」ことが復権され、その意義が改めて見直されることになった。This paper focuses on "walking" in Pokémon GO and analyzes it sociologically and describes it. This game is a game application that became popular worldwide and caused various social problems. In this paper, I refer to John Urry's "Sociology of Mobility".Pokémon GO works in conjunction with walking in the game and walking in the real world space, and in moving the game, it is essential to move in the real world. Discuss the significance of the racteristics of form of move "walking" in modern society, the development of that strategy and tactics, the consuming places resulting from it, and the creation of landscapes. Finally, in the modern society "walking" is gaining attention from the aspect of health care and recommended, Pokémon GO has given a new meaning of move to "walking". "Walking" to the pre-modern society was the only choice and the primary form to choose. By playing with Pokémon GO, "walking" was restored in modern societywhere various technologies were developed, and its significance was reexamined.
著者
髙橋 永行
出版者
山形県立米沢女子短期大学附属生活文化研究所
雑誌
山形県立米沢女子短期大学附属生活文化研究所報告 (ISSN:0386636X)
巻号頁・発行日
no.45, pp.9-20, 2018-03

宮崎駿監督作品 ' 風の谷のナウシカ ' は登場人物に典型的な役割語を使わせて描かれている。私たちが現実世界で行う言語運用のメカニズム(語用論)と対比しながら作中の台詞と言語行動について考察した。現実世界でみられることばの位相がどのように創作物に投影されているか、二人のヒロイン、ナウシカとクシャナを中心にポライトネス理論のフェイス概念に基づき、談話単位で用例を示し検討する。ナウシカは女性語と男性語を併用する話体である。「風の谷の姫」という立場で積極的フェイスを保持し、やわらかいことば遣いと毅然としたことば遣いを場面ごとに切り替えるが、16 歳という年齢に相応したステレオタイプ的な言語行動がみられる。一方、クシャナは男性語専用の話体である。トルメキア王国の姫であるとともに侵略軍の司令官という立場で消極的フェイスを守ろうとするため、聞き手のフェイスを否定的に評価する方略を多用し、高圧的な印象を見る側に与えるが、随所に周囲への配慮がみられる。登場人物たちは互いの人間関係に向き合って言語行動を選択していると言えよう。
著者
古川 智恵子 中田 明美
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要 (ISSN:02867397)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-10, 1987-03-01

褌はシンプルで機能美を最も追求した衣であり,何千年もの間下着,あるいは仕事着として用いられてきた.この伝統ある形態や機能性は今日,若者のニーズにあう,新しい息吹きを吹きこまれながら,様々な付加価値が加えられて伝承され,現代の若者のショーツにスキャンティとして大きくクローズアップされている.今回の女子大生に対するアンケート結果においても,スキャンティに近いビキニ型の使用率が最も高かった.ショーツの着衣実験の結果,機能性については褌と同形態の殿裂型であるスキャンティが最も優れている事が実証されたが,着心地の官能検査においてはビキニ型が最も優れ,両者に一致がみられなかった.これは殿裂型の着用経験のない者にとっては慣れない為に股間に違和感を感ずる事や,形態が奇抜,高価等の理由からであろうと考えられる.下肢の運動による体表変化は殿溝部の皮膚が縦方向に伸び,大転子を境にしてそれより上部には殆ど変化はみられない.従ってショーツの着心地条件については,殿部カーブのカットが大きく関与し,殿溝部に沿ってカットされたスタンダード型,ビキニ型が共に上位であり,両者共素材が綿メリヤスで伸縮性に富む事も大きな要因である.現代は「差異性」が重視され,下着も自己主張の重要なファクターとしてその地位を確立しつつある.現代を担う若者達はそれを敏感に察知し,精神的なおしゃれを大いに楽しんでいるのである.男らしさを象徴する褌が,今や素材を変え,レース等の装飾が加えられたスキャンティとして女性のセクシーさをアピールしている事はまことに興味深い.
著者
松田 卓也
出版者
素粒子論グループ 素粒子論研究 編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.B10-B17, 1999

学会における口頭発表は、情報交換の手段として今後ますます重要になる。しかし多くの講演者の講演スタイルには、情報伝達の効率という点において非常に大きな問題がある。ここでは、若手研究者がOHPを使って10分程度以下の口頭発表をする場合にターゲットを絞って、その技術を解説する。そのエッセンスを述べれば、トランスペアレンシーは内容を精選して、大きな字で書くこと、聴衆の方を向いて、聴衆とアイコンタクトをしながら話すことである。
著者
渡部 芳栄
出版者
広島大学
雑誌
大学論集 (ISSN:03020142)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.153-168, 2015-03

Public University Corporations (PUCs) are founded by local governments to provide higher education, research, and social services efficiently and effectively. The number of PUCs in Japan has been increased since 2004 when the PUC system was begun, and now there are 65 PUCs in 2014. This article examines a total of ninety eight Mid-Term Plans of PUCs to investigate how local governments calculate Management Expenses Grants (MEG) and how much they intend to actually allocate the grants to PUCs. Comparing ninety eight Mid-Term Plans reveals the difference in the proportion of MEG to revenue by the year when they were incorporated. PUCs incorporated between 2005 and 2006 experience relatively deep cuts of MEG nevertheless the average proportion of MEG in the first Mid-Term Goal period. On the other hand, PUCs incorporated between 2008 and 2010 have a relatively high proportion of MEG in the first Mid-Term Goal period. Whether their founders reduce, maintain or increase MEG in the future should be investigated. Also one finds that one third of corporations adopt a variety of coefficients in the calculation of MEG. The various coefficients have various influences on PUC: coefficient of parts of expense items may have less influence and that of MEG itself probably have more influence. Local governments and PUCs should realize and consider the influence and significance of coefficients.本研究はJSPS科研費 25870082(「教育の質保証時代における公立大学法人運営の研究」(研究代表者 渡部芳栄)), 25285236(「大学経営の基盤となる財務情報の戦略的活用に関する研究」(研究代表者 水田健輔))の助成を受けたものである。
著者
中村 匡
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.2-42, 2002-10-20

本稿は"電磁気学への応用を例とした微分形式の入門"であると同時に"微分形式を使った電磁気学の解説"となるのが目標である。われわれのよく知っているベクトル解析は,3次元空間の微積分をdivやrotなどの座標によらない演算子でシステマティックにあつかえるが,1920年頃に数学者のE.カルタンによって定式化された微分形式は,それをさらにすすめて一般の次元でも,特定の座標にずに見通しよく微積分演算をあつかうことを可能にする。従来,この理論は宇宙論や素粒子論の研究者には知られていたが,近年になってひろく他の物理の分野からも注目されるようになってきた。たとえばコンピューターの発展によって可能になった,複雑な曲線座標のもとでの計算機実験などに微分形式は威力を発揮する。本稿ではこの微分形式によって電磁気学を見直してみる。標準的な教科書にある電磁気学の微分形式による表現の他に,「もし3(空間)+1(時間)次元以外の物理があったら電磁気学はどうなるのか」という話題と,「時間と空間を平等にあつかう正準形式」という話題を紹介し,微分形式と電磁気学の両方に対する解説になることを目指した。
著者
劉 峰
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
vol.264, pp.2-22, 2013-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書第264集『東アジア「近世」比較社会史研究』 山田 賢 編"Comparative Study of Early Modern Societies in East Asia" Report on the Research Projects No.264
著者
田村 淳
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.255-264, 2010-11-30
参考文献数
47
被引用文献数
5

ニホンジカの採食圧を受けてきた時間の長さによる植生保護柵(以下、柵)設置後の多年生草本の回復しやすさを検討するために、同一斜面上の設置年の異なる柵で、12種の出現頻度と個体数、成熟個体数を比較した。柵はニホンジカの強い採食圧を10年程度受けた後に設置された柵3基(1997年柵)と16年程度受けた後に設置された柵4基(2003年柵)である。両方の柵で出現頻度が同程度であった種が6種、1997年柵で高い傾向のある種が6種であった。出現頻度が1997年柵で高い傾向のある6種のうちの3種は、シカの採食圧の低かった時代において調査地にまんべんなく分布していた可能性があった。そのため12種のうち9種は両方の柵で潜在的な分布は同じだったと考えられた。これら9種において個体数を比較したところ、4種は1997年柵で個体数が有意に多かった。これらの種は、シカの採食圧を長く受けた後に柵を設置しても回復しにくいことを示している。一方で、9種のうちの5種は、両方の柵で個体数に有意差はなかった。このことは、これら5種が林床植生退行後の柵の設置までに要した10年ないし16年程度のシカの採食圧では出現に影響しないことを示唆している。ただし、このうちの1種は成熟個体数の比率が2003年柵で低かった。以上のことから、柵の設置が遅れると回復しにくい種があることが明らかになった。したがって、それらの生育地では退行後、遅くとも10年以内に柵を設置することが望ましいと結論した。