著者
松阪 崇久
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.20, pp.17-31, 2013-08-31

産まれたばかりの新生児は、睡眠中にときおり「自発的微笑」と呼ばれる笑顔に似た表情を見せる。ヒトの胎児や、チンパンジーの新生児にもこの表情が見られることがわかっている。本稿では、この自発的微笑にとくに注目しながら、新生児と乳児の笑いの発達と進化について論じた。前半で、ヒトとチンパンジーの自発的微笑と社会的微笑の発達過程についてまとめた。後半ではいくつかの末解明の問題に焦点を当てて考察し、今後の研究の課題と展望を示した。(1)自発的微笑は快の表出なのかどうか、(2)自発的微笑と社会的微笑は発達上どのような関係にあるのか、(3)自発的微笑はなぜ進化したのか(どのような機能を持つのか)という問題について考察した。さらに、チンパンジーとの比較を元に、見つめ合いのコミュニケーションの発達が、ヒトの笑いの表出と他者の笑いへの反応性に大きな変化をもたらした可能性があるということについて論じた。
著者
大野 裕美
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.91-106, 2008-12-23

本研究では、日本におけるシュタイナー教育の動向を紹介し、普及を推進した力は何かを分析した。教育分野において数多くの理論や思想が生まれては消えていくなか、約90年もの実績があり世界58カ国に広がるシュタイナー教育は国内でも注目されている。シュタイナー学校の授業形態は、ユニークな特徴ある方法のため国の定める学習指導要領にそぐわない。それゆえ、公認は容易でなく先進諸国のなかで公認されないシュタイナー学校は我が国だけであったが、2005年に公的に認可されたシュタイナー学校が誕生した。このことは、世界のシュタイナー教育の動向のみならず、我が国の教育の歴史において公教育のあり方を問う点でも画期的なものである。本論文では、はじめにドイツに端を発したシュタイナー教育の思想を概観し国内への移入および展開を紹介し特徴を明らかにした。次に、近年隆盛になっている国内でのシュタイナー幼児教育の位置づけを行い、シュタイナー学校との接続を考察した。さらに、公認シュタイナー学校の設立経緯として「学校法人シュタイナー学園」の事例を紹介し、今後のシュタイナー教育と公教育との関係やあり方を含めて論じた。
著者
諸井 孝文 武村 雅之
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.21-45, 2004 (Released:2010-08-12)
参考文献数
35
被引用文献数
11 21

関東地震の死者・行方不明者数は資料によって異なり, 総数14 万余名と言われることもあるがその根拠はよくわかっていない。また一般に, 人的被害の大半は東京市や横浜市などの大規模火災によるものとの認識がある。関東地震による住家被害については被害資料の再評価に基づく統一的なデータベースが作成されており, それによれば住家の全潰は歴代の地震災害の中でも最高位の数にのぼる。従って住家倒潰も火災と同様に関東地震における人的被害の大きな要因であったと考えた方が合理的であろう。本稿では住家被害数の再評価と同様に被害資料の相互比較によって死者数を整理した。用いた資料は震災予防調査会報告にある松澤のデータや内務省社会局が刊行した大正震災志に載せられたデータなどである。これらのデータを相互に比較し, 市区町村単位の死者数を評価した。次に住家の全潰率や焼失率と死者発生率の関係を検討し, 死者数を住家全潰, 火災, 流失・埋没などの被害要因別に分離した。その結果, 関東地震による死者・行方不明者は総数105385 名と評価された。そのうち火災による死者は91781 名と巨大であるが, 住家全潰も11086 名の死者を発生させている。また流失・埋没および工場等の被害に伴う死者もそれぞれ1 千名を超える。このように, 関東地震はあらゆる要因による人的被害が, 過去に起きた最大級の地震と同等もしくはそれ以上の規模で発生した地震であることがわかった。
著者
岩佐 壯四郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.47-59, 1996

いわゆる<雅号>は、志賀直哉・谷崎潤一郎など<本名>を署名する文学者の登場した一九一〇年代以降次第に姿を消していった。<雅号>は、いずれは近代における文学という制度の負の領域に追いやられるべき運命にあったといっていいかもしれない。だがそれを、近代文学史の一つのエピソードとして片付けてしまっていいのだろうか。それは逆に、近代文学という制度の性格を照らしだしていはしないだろうか。
著者
Mitsuo Yamamoto Toshiaki Kato Susumu Kanayama Kota Nakase Naoto Tsutsumi
出版者
Japan Society on Water Environment
雑誌
Journal of Water and Environment Technology (ISSN:13482165)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.186-197, 2017 (Released:2017-10-10)
参考文献数
25
被引用文献数
10

Reduction of seaweed beds is a serious problem in coastal areas of Japan and worldwide, and the lack of dissolved iron in seawater may contribute to the destruction of this ecologically important habitat. We have previously developed a method for restoring seaweed beds using a mixture of steelmaking slag and composts containing humic substances. Since October 2004, we have been performing field tests on the Shaguma coast in Mashike-cho, Hokkaido, Japan, to confirm the effectiveness of this method. However, thus far, no studies have been conducted to evaluate the effects of the hydrodynamic conditions by calculating the iron distributions in the area of the field tests. In this study, we evaluated the continuous effects of this iron fertilization method in Mashike by comparing the changes in seaweed bed distributions with the analyzed iron concentrations over a 5-year study period and the simulation results of iron distribution in the study area. Our findings demonstrated that the biomass of seaweeds at the fertilized (experimental) site was larger than that at the reference site. We also found that both the analyzed iron concentration and the calculated iron distribution in the area corresponded to the distribution of seaweed beds.
著者
那須 隆 小池 修治 倉上 和也 青柳 優
出版者
THE JAPAN LARYNGOLOGICAL ASSOCIATION
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.8-12, 2010-06-01 (Released:2010-10-08)
参考文献数
14

The objective of our study was to determine the risk factors of late-onset radiation induced morphologic change and function disorder in larynx. Six cases of late-onset laryngeal necrosis and fibrosis after radiotherapy for head and neck cancers between 1994 and 2008 were evaluated. All of the patients were male with ages ranging from 57 to 74 years. The cases included three with supraglottic laryngeal cancer (T2), two with glottic laryngeal cancer (T1a), and one with an unknown origin metastatic neck tumor. Radiation injury was found from as early as 4 months up to 77 months after radiotherapy. Laryngeal late-onset radiation-induced Morphologic change and functional disorder were observed in patients having had supraglottic laryngeal cancer (T2), concurrent chemoradiotherapy, LASER surgery, or an over exposure dose. Consequently these patients were thought to be at risk for delayed radiation-induced sequelae. While almost all laryngeal necrosis was found within 6 months, supra-laryngeal fibrous stenosis was observed even beyond 24 months. It was difficult to discriminate between i Laryngeal necrosis and recurrent cancer, as well as to determine an early diagnosis of supra-laryngeal fibrous stenosis. It is, Therefore, essential that patients with risk factor of late-onset radiation-induced sequelae be followed up over the long-term.

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著者
瀬沼恪三郎 編
出版者
正教神学校
巻号頁・発行日
1904
著者
加納 靖之 橋本 雄太
雑誌
じんもんこん2018論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, pp.147-152, 2018-11-24

市民参加型の史料翻刻プロジェクト「みんなで翻刻」で生成されたテキストに対して,既存の計量テキスト分析用のツールを利用して,頻出語の計数や共起関係の分析を実施した.また,歴史地名データを利用して,テキスト中の地名の同定についても検討した.「地震」という語には,方角や地名に関する語だけでなく,被害に関する語が伴なうことが多いことがわかった.一定の分析結果が得られたものの,分析に利用する辞書の整備や地名の同定方法を洗錬されたものにすることが今後の課題である.
著者
高 月菲 張 丘平 延原 肇
雑誌
第78回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2016, no.1, pp.617-618, 2016-03-10

電子データの改ざんと偽造しやすい問題点に対して、「信頼できるタイムスタンプ」(Trusted Timestamp)という、電子データの存在性と非改ざん性を証明する技術がある。すなわち、「いつ、誰が、どのようなものを作ったか」を証明することができる。しかし、第三者機関(タイムスタンプ認証局、時刻認証局など)に依存する信頼できるタイムスタンプは、1) 手続きが煩雑、2) 時間が長い、3) 費用が高いの3つ問題点がある。それらに対して、本研究では、ブロックチェーンという技術を利用し、信頼できるタイムスタンプを第三者機関に依存せず、分散的に実現する。さらに、提案手法の安全性と有効性を議論する上、実験で費用と時間を評価する。
著者
八田 真理子 太田 郁子 家坂 清子 蓮尾 豊 北村 邦夫
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.629-636, 2010-01-01
参考文献数
18
被引用文献数
1

低用量経口避妊薬(以下「OC」)がわが国で発売されて10年になるが,いまだその普及率は低率である。一方で,OC服用により性感染症(以下「STI」)の拡大をまねくのではないかと危惧する考え方もある。今回,「OC服用で若者のSTIを拡大させているか」を知ることを目的に臨床現場で調査を行った。全国の避妊教育ネットワークに所属する25の産婦人科施設で受診し,クラミジア抗原検査を受けた29歳以下の女性1,630人に対して,OC服用の有無と性行動について詳細に問診した。その結果,OC服用・非服用間で,初交年齢,パートナー数,コンドーム使用状況などに有意差は認めず,クラミジア抗原陽性率もOC服用者で13.8%,OC非服用者で13.3%と有意差はなく,OC服用者の性行動が活発であるとはいえないことがわかった。OC服用者は,二重防御法の実践や不顕性感染発見のための検査などで定期的に産婦人科を受診していることから,むしろSTI予防や自身の健康管理に対する意識が高いことが示唆された。
著者
林 衛
出版者
オーム社
雑誌
Medical Bio (ISSN:18819354)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.73-78, 2011-03

日本動脈硬化学会による「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007 年版」は,政府による生活習慣病対策の要とされている。「高コレステロール値は避けねばならない」という「常識」とその根拠が集約されているはずのこのガイドラインに対し,2010年9月,日本脂質栄養学会が「ノー」を突きつけた。指摘によれば,「まちがい」は動脈硬化コレステロール原因説「確定」の時期までさかのぼる。
著者
城所 収二
出版者
早稲田大学
巻号頁・発行日
pp.1-181, 2013

早大学位記番号:新6527